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Societe Japono-Francaise de Sociologie NII-Electronic Library Service SocleteJapono-Fiancaise deSociologie 21 if=-Jv 7'Jvf".-ONXP. ftISJ11asnv L'Etat dans latheorie bourdieusienne Hideki Hasegawa Pierre Bourdieu prend 1'Etat non comme <<appareib, mais comme <<champ", qui est composant de 1' Kespace socialeD, danslequel la position d'un champ est dispos6e par des rapports des autres champs. L'Etat est le champ bureaucratique dans le celui du pouvoir de 1'es- pace sociale. Bourdieu donneun regard sur le proces de genese historique du champ bureaucratique. Il dit que c'est lanoblesse de robe, ancetre structurel des hautsfonctionnaires d'aojourd'hui et magistrats du ancien Parlement h qui le roi donnaitun titre de noblesse, qui a construit I'Etat moderne et monopolise le pouvoir. La noblesse de robe a invente lanotion du Kservice public>> contre 1'int6ret person- nel ou familial du roi, combin6 cette notion b 1'idee de la Kraison d'Etat", s'est identifiee au Etat et au public, et enfin 16gitimee sa conquete du pouvoir etatique. Bourdieu analyse la <<violence symboliqueD de 1'Etat-chatnp bureaucratique. Cette violence 16gitime tous les classements et tou- tes les classification. Mais 1'effet de cette violence depend du capi- talsymbolique>>. Il dit que 1'Etat est detenteur.monopole de la vio- lence symbolique ou banque centrale du capitai symbolique. Car

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ftISJ11asnv

L'Etat dans la theorie bourdieusienne

Hideki Hasegawa

Pierre Bourdieu prend 1'Etat non comme <<appareib, mais comme

<<champ", qui est composant de 1' Kespace socialeD, dans lequel la

position d'un champ est dispos6e par des rapports des autres champs.

L'Etat est le champ bureaucratique dans le celui du pouvoir de 1'es-

pace sociale.

Bourdieu donne un regard sur le proces de genese historique du

champ bureaucratique. Il dit que c'est la noblesse de robe, ancetre

structurel des hauts fonctionnaires d'aojourd'hui et magistrats du

ancien Parlement h qui le roi donnait un titre de noblesse, qui a

construit I'Etat moderne et monopolise le pouvoir. La noblesse de

robe a invente la notion du Kservice public>> contre 1'int6ret person-

nel ou familial du roi, combin6 cette notion b 1'idee de la Kraison

d'Etat", s'est identifiee au Etat et au public, et enfin 16gitimee sa

conquete du pouvoir etatique.

Bourdieu analyse la <<violence symboliqueD de 1'Etat-chatnp

bureaucratique. Cette violence 16gitime tous les classements et tou-

tes les classification. Mais 1'effet de cette violence depend du capi-

tal symbolique>>. Il dit que 1'Etat est detenteur.monopole de la vio-

lence symbolique ou banque centrale du capitai symbolique. Car

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1’Etat−−champ  bureaucratique se monopolise  la 16gitimit6 de nomi −

nation  officielle  et la rite d ’institution. La violence  symbolique  de

nomination  officielle d’

Etat−bureaucratique permet tous les certifi−−

cats, permis,

 brevet et signatures  d ’etre valable, et le rite d’institu−

tion fait reconna ↑tre toute les classifications  bureaucratiques comme

natUrelleS  OU  O ヒ}jeCtiVeS.

  Bourdieu conclut  que la nomination  officielle  et la classification

bureaucratique est la 16gitimit6 essentielle  de domination de 1’Etat.

は じめに

 ピエー

ル ・ブル デ ュー の こ れ まで の 業績の なか で

, 国家は 重要 な位置 を

占め て い る に もか か わ らず , 今 まで 国家 論 と して は 扱 われ て こ な か っ た 。

国家 を主題 とした ブル デ ュー

の著作 ・論文が 『国家貴族 』な どに 限 られ,

また, 従来 の 政 治学 的な 国家論 か ら見 れ ば ブ ル デ ュ

ーの 国家論は む しろ

官僚制理論 に位置 づ け られ るか らで あ ろ う。

  しか し,

ブ ル デ ュー は 国家 に つ い て 論 じる視 点そ れ 自体 に非常に 鋭い

分析 を加 えて い る 。 今 日 , 国家の 相対化や 多元 国家 論 な ど,

ど ち らか とい

えば冷や や か に 国家 をと らえる傾 向が 主 流 で あ る 。 ブ ル デ ュー は

, 「画家

を真に理解する」に は, あるい は 「国家 を真 に相対化す る」に は

, 従来の

社会科学や 諸科学 の 発展 に 大 きく貢献 した 学校教 育制度 を も再考 せ ね ば

ならない と言 う% 政治学や経済学な どの 社会科学それ 自体 に対する反省

が な けれ ば, 真 に 国家 を理解す る こ とはで きない

。 社会科学 は 国家 に その

存在 を負 うて い るから で ある 。

1)P.Bourdieu,くくEsprit d’Etat:Gen6se et structure du champ  bureaucratique>>, A .R.S, S,,No .

  96−97,1993a

, pp.49−51, P. Bourdieu, Raisons pratiques sκr ta the

’o厂ie de l’

action , Seuil,

  1994,P.

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 今 日に 至 る まで の ブ ル デ ュー

の 研究 にお い て, 国家は主題 には な らな

か っ た が, 常 に 暗黙 の 批判対象で あ っ た 。 60年代 の ア ル ジ ェ リア ・カ ビ リ

ア研究で はフ ラ ン ス 国家の 植民主義が , そ して , 70年代の 学校教育研究 で

は,

フ ラ ン ス 国家の イ デ オ ロ ギ ー と分 か ちが た く結び つ い て い る メ リ ッ

トク ラ シ ー神話 とエ リ

ーテ ィ ズ ム が

,さ ら に

,80年代の 言語 お よび デ ィ ス

ク ー ル研 究 に お い て は,

フ ラ ン ス 国家が よ り直接的に 取 り上 げ られ る よ

うにな る。

  こ う した一

連 の研究 にお い て,

ブ ル デ ュー

は 国家 の い か なる点 を批 判

して い る の で あろ うか 。 また ,こ れ まで の 社会科学 に お け る 国家論 と分 析

視 角が ど の よ うに違 っ て い る の か 。 あ る い は,ブル デ ュ

ーは 国家 を ど うあ

るべ きだ と見て い る の か 。こ の よ うな問題意識 は

, 今後 の ブ ル デ ュー

究 , 特 に フ ラ ン ス 社 会学にお け る ブル デ ュー の 思想的位置 を探求す る う

えで も非常 に意義が ある だ ろ う。 本稿は,

これ らの 問題意識か ら ,こ れ ま

で の 研究を もとに して , ブル デ ュー国家論 を素描 する もの で ある 。

1. 「官僚 の場 」 と しての 国家

官僚集団 に よ る国家形成 と 「公共」概念 の 創出

 ブ ル デ ューは 国家 を

, 学校 や教会 , 政 党 と同様 に 「装 置 (appareil )」で

はな く, 「場 (champ )」 と して と らえる 2)。 「場」 とは 「社会空 間 (espace

sociale )」を構成す る要素で, 無数の 「場」が 相互 関連す る こ とで

, 個 々 の

「場」の 「位置 (position)」が定め られ るの で あ るが ,国家 とは, 「社会空

間」を構成する 「場」の一

つ で ある とブ ル デ ュー は と らえて い る 。

 そ して,

ブ ル デ ュー は国家 を数あ る 「場」の 中か ら , 「官僚 の 場 (champ

bureaucratique)」 と して とらえて い る。

2)P.Bourdieu, guestions de sociolo8ie, Minuit

, 1980a (田原音和監訳 『社会学の 社会

  学』藤原書店 1991年 172頁)

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国家が及 ぼ す結果の 象徴的な次元 ,中で も 「普遍 の 効果」と呼ばれ る もの に つ

い て理解 する に は, 官僚 と い う小宇宙の 特別 な機能を理解 し, 国家の 代行者た

ちで 構成 され る こ の 空 間 の 生 成 と構 造 を分析 する必 要が ある だろ う。

3)

 なぜ,

ブ ル デ ュー は 国家 を官僚集団 として とらえるの か 。

 それ は, 現代 の フ ラ ンス 国家 の 運営 , 国家 に よる決定にお い て

, 立法権

よ り執行 権の ほ うが優位 とい う政 治的状況が 考察 され る 。 また , 執行権 に

優秀 な官僚 を送 り込む た め の 養成機関 ENA の 存在 や, 国家官僚 の 経済界

や 政 界へ の 「天 下 り (pantoufi age )」, 国家官僚 と代議 士 との 兼職制度 など

は, 議 会の 自立 性が 低 い こ とや 官僚 の 権限 が 大 きい こ とを示 す もの だ か

らで ある 。

  こ うい っ た現状 も さる こ とな が ら ,ブ ル デ ュ

ー は 近代国家の 形成 に 現

代の テ クノ ク ラー トの 父祖 で あ る 「法服貴族 (noblesse  de robe )」4)が 大 き

く関わ っ て い た とい う歴 史的状 況 を よ り重視 して い る 。 「法服貴族」は ,従

来の 「帯剣貴族 (noblesse  d’ep6e)」 とは違い ,生 まれ や 家系に よっ て 貴族

の 称号 を有 して い る の で は な く, 国王の 承認 に よ っ て 一代 限 りで 貴族の

称号 を認め られ た高等法院 (Parlement)の 司法官 (magistrat )であ る 5)。

ル デ ュー は

,ア ン シ ャ ン ・レ ジ

ーム 後期 の 法服貴族が い か に して 近代 国家

の権力 を独占で きる ように な っ た かを明 らか に する。

 ブル デ ュー

は , 法服 貴族が 創出 した 「公共奉仕 (service  publique)」の イ

デ オ ロ ギー

に注 目す る 。 法服貴族 は王権 と対峙 し , 君主 に よ る 国家権力の

独 占を否定す るた め に , 「公共 (public)」,あ るい は 「公 事 (chose  public)」

の 概念 を創 出 し,

さ らに こ れ を法服貴族 た ちの の ア イ デ ン テ ィ テ ィ に す

る と同時 に 「国家理 由」と も結 び付 けて, 彼 らは国家へ 一体化す る と同時

3)P.Bourdieu,1993a, p,61,P. Bourdieu,1994, p  l 30

4) P.Bourdieu, La nobtesse  d ’Etat, Minuit,1989, p.543

5)法服貴族に つ い て の 具体的な状況 に つ い て は宮崎揚弘 『フ ラ ン ス の 法服貴族』

  同文舘 1994年 を参照 。

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に 国家権力の 独 占を正統化 した こ とをブ ル デ ュー は明 らか に す る %

法服貴族は 国家を構築 しなが ら 自らを構築 し , 自ら を構築す る ため に は国家を

構築 しなけれ ばな らなか っ た 集団で,

……国家ある い は 「公 共」へ の 奉仕,2ま り普遍 的 目的 に指針 された 「無視無欲 な (d6sinteress6e)」活動 と い う 「公共

奉仕1.一 か つ て の 貴族の よ うな君主の み へ の 奉仕で は な く  の 政 治哲学 を

構築 しなけれ ば な らなか っ た。7)

 そ して,

ブル デ ュー

は 「公共奉仕」概念 の 創出に大 き く貢献 した法服 貴

族 ,ア ン リ = フ ラ ン ソ ワ ・ダ ゲ ッ ソ ー の 「官吏の 公 民 的 な ユ マ ニ ス ム

(humanisme civique  des fonctionnaires)」 とい う政治哲学を引用 しs}

, 君主

の 私 的利益 に奉仕す る封 建 的官僚層 か ら , 「公 共」 に奉仕す る 近代 的官僚

層 へ の 変容の 際に , 官僚層 は君主 か ら自立 して, 権力の 独 占を万 人 に承認

せ しめ る ため に, 近代国家 を自ら構築す る と同時 に

, 「国家理 由」 と 「公

共」の 概念 を結 合 させ, 官僚 集団の 「表象 (repr6sentation )」と して の 国家

を万 人 に承認させ た こ とを明 ら か に す る 。

  ブ ル デ ューの こ の 分析に よ っ て

, 国家 一公 共 とい う概念 は, 官僚 自 らつ

くりあげた図式で あ っ て , 国家が 生来 , 「公 共 」 とい う性 質を有 して い た

の で は な く , 国家 とは そ の 形 成過程 か ら官僚 集 団の 利益の た め に あ り,

「公 共」概念 は, 官僚集団の 利益 = 国家 とい う関係 を隠蔽す る ため に創出

され た イデ オ ロ ギ ーで ある こ とが 明 らか に な る 。

「官僚の 場」の 構造

 ブ ル デ ュー

に よ っ て , 国家 とは 官僚集 団 の 利益 の 表象で あ る こ と,そ し

6)P. Bourdieu,1994, pp.42−44.加藤晴久編訳 r超領域の 人間学』藤原書 店1990年89−

  92頁 (なお , 邦書は原書 を訳 した もの で は ない )

7)P,Bourdieu,1989, pp.543−544

8) o ρ.cit.,pp.545−547

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て, その 官僚の 私 的利益が 「公 共」概念 の 創出に よ っ て 隠蔽 され て い る こ

とが 明 らか に な っ たが,

なぜ,

こ の よ うな隠蔽が な され, 官僚集団の 利益

と して の 国家が 「否認 (m6 ¢ onnaftre )」され る の か 。 ブ ル デ ュー は 国家 , あ

る い は官僚支配 の 本 質は こ の よ うな隠蔽や 否認  ブ ル デ ュー は こ れ ら

を 「正 統化 (16gitimation)」 と総称 して い る  の 過程 に ある と言 う。

  ブ ル デ ュー は

, 国家 に 「公 共 」概 念 を付与 した こ とが ,官僚集 団の 独 占

を 「正 統化」した と論 じて い る こ とは 既 に述 べ たが ,さ らに こ の 「正統化」

は ,法服貴族が創 出 した 「普遍 (universel )」や 「中立 (neutre )」 とい う反

王権 , 反教権 反 ブ ル ジ ョ ア的 姿勢か ら導 き出 され た理 念 に よ っ て 強化 さ

れ た と加 える 。

 だ が , 「官僚 の 場」の 構造そ れ 自体 に も, 官僚 集 団の 国家 権力独 占

そ して 国家の 支配そ れ 自体 を 「正 統化」す る もの は ない だろ うか 。 こ こで

は, その 「官僚 の 場」の 構造 を明 ら か に す る

 「場」とは, 「単 に一 定の 人 間が形 作る 社 会的集合 とい うだ けで な く,構

成員 に よ っ て 多か れ少なかれ 共有 され て い る もろ もろ の 生産物 , 価値観 ,

思想 , 制度 , 組織 , 規則な ど も含ん だ, 多層的 ・複合的構造体」

9} で ある 。

さ らに , 「場」は 「装置」とは異 な り,「支配者が支配 され る 側 の抵抗や 反

抗 を押 しつ ぶ す手段」の 存在 を前提 に して い ない 概 念 なの で, 「支配 され

て い る側 の 抵抗 をも考慮に入 れ」 た 「自分の 利益 に そ っ て 場 を動か す手

段」 の存在が 前提 に なる 【°}。 これ を

, 「官僚 の 場」 に 応用 する な ら , 個 々

の 官僚 , 集団 として の 官僚 , 官僚組織や 機関 , 官僚内部で の 慣習や 規律 ,

官僚 を表象す る よ うな紋章・印璽 ・バ ッ ジ

, 官僚的言説 , 官僚個人 の 趣味

や嗜好 な どに よ っ て 「場」が構成 され る こ と に な る。 そ して 「支配 され て

い る側 の 抵抗を も考慮に入 れ た」「場 を動か す手段」は, 具体 的に は先述

の 「公事」や 「公 共奉仕」, 「国家理 由」, 「普遍性」,「中立」な どの 思想 や

9)石井洋二 郎 『差異 と欲望 :ブ ル デ ュー 『デ ィ ス タ ン ク シ オ ン 』 を読む』藤原書

  店 1993年99頁 。

10)田原監訳 ,前掲書,同

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イデ オロ ギー な どで あ る 。

 次に, 「官僚 の 場」の 特性 に つ い て

, 社 会空 間 に位置づ ける 形で 指摘 し

よ う。 ブ ル デ ュー は社会空間 と 「官僚 の 場」の 関係 につ い て 以 下 の ように

述べ て い る。

様々 な 「場」が幾 つ かの 種類の 資本 (capital ),特に経済資本 と文化資本の 客観

的 ヒエ ラル キ ーに従 っ て, 「経済の 場」か ら 「芸術の場」に 至 る 「権力の場 (champ

du pouvoir)」内部 に配置 され て い る 。 その 中で ,「官僚の 場」と 「大学の 場」は

中間的 (interm6diaire)位置を占めて い る 。

]1)

「高級官僚 の 場 (champ  de la haute fonction publique)」の 特徴 は ほ とん ど,

こ の

場が 中間的位置 を占め て い るこ と,

……特に天 下 りなど支配的ヒ エ ラ ル キ ーに

従 っ た移動 を明 らか に行 うこ とに よ り生 じて い る 。 「官僚の 場」か ら「経済の 場」

へ の 移動は ,高級官僚や 軍部 エ リー トで は よ くある の に ,逆の 移動 は例外的で

あ る 。

12 )

 「官僚 の 場」 は社 会空 間全体 で 支配的位置 を占め る 「権力の 場」の 中間

的位置 を占め て い て,

この 位置が官僚 の 支配を特徴づ けて い る 。 こ の よ う

に ブル デ ュー は分析す る 。 中間的位置 とは経済資本 と文化資本の 比率 に

よる 。つ まり, 経済資本が優位 な 「経済の 場」は 「権力の 場」の 右側 を ,

文化資本が圧 倒 的 な 「芸術 の 場」は左側 を占め, 「官僚 の 場 」は両 者 の 中

問 に位置 して い る 。   「社会空 間」上 の 距 離は, 実際の 階層 間関係 を反 映

して い るの で, 「官僚の 場」は どの 支配 階層か らもそ れ ほ ど離れ て い ない 。

  「大学 の 場」と と もに中間的位置 を占めて い る こ とは, 官僚支配 と学校

教育 (メ リッ トク ラ シ ー)の 近接性を示 して い る。こ れ らが 「官僚の 場」

11)P、Bourdieu, 1989, pp.381−382.括弧 は筆者に よる 。 なお , 引用 文中の 「官僚の

  場」は, 原文で はchamp  administratif で あるが , 原文巻末索引の 分類 (p,561>

  よ りchamp  bureaucratiqueと同 じ訳 を充て た 。

12)oρ.cit.,pp.382−383,括弧は筆者に よる 。

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の 構造 的特徴で あ る が,   は 「天 下 り」に必要 な官僚 と他 の 支配 階 層 との

近接性 を ,   は 官僚 の 中立性 と支配 の 正統性 を意味 して い る。

2 .支配 の 正 統性 と象徴的暴 力

ブル デ ューの 象徴的暴 力概念 に つ い て

 ブ ル デ ュー にお ける 国家 =官僚 の 「支配 の正統性 (16gitimit6   de  la

domination)」は, ヴ ェ

ーバ ーの 「合法的支配」の 概念 とは 異 な り, ヴ ェ

バ ー に対す る鋭 い 批判 か ら成 り立 つ もの で もあ る 。 ブ ル デ ュー

は正 統性

の 問題 を 「ヴ ェー バ ー 的分析 が傾 きが ちで あ る よ うな正 統性 の 表象の 心

理 的な生 成 とい う問題設定の なか に入 りこ むわ けで は ない 」13} と論 じる

ブル デ ュー

は ヴ ェー

バー

,カー

ル ・マ ル ク ス ,エ ミー

ル t デ ュ ル ケ ム と対

比 させ, そ の うちヴ ェ

ーバ ーの み が 「権力 の 行使 とそ の 永続化 に た い す る

正 統性 表象の 特有 の 寄与 を正 面 か ら対 象に据 えて い る」14)こ とを評 価 は し

て い る が,ヴ ェ

ーバ ー は 権力 の 行使 を 「正 統性表象 の 心理社会学 的見方 に

とどま っ て い て ,マ ル ク ス の よ うに , 社会諸関係が力関係で あ る とい う客

観的真理 を認識 しな い こ とが, 当の 社会 的関係 に お い て ど うい う機 能 を

果 たすか を問 うこ とが で きなか っ た」15) こ とに批判 的で ある 。

 両者 の 比較 に つ い て は既 に 幾つ か の研 究が あ る の で,

こ れ 以上 は繰 り

13)P.Bourdieu et alia, la reproduction , Minuit, 1970, p.28 (宮島喬訳 「再 生産』藤 原

  書店 1991年29頁)

14)op.cit., p.19 (前掲書 17頁)

15)ibid., 「つ ま り,ある制度 な り指導者な り,あ る い はそ の 指導の 様式な りがtl

  正 統1「

とみ な され る の は,

それ らが, 究極的に は力関係 に よ っ て担 保 され た社

  会関係上 の 優位性 に 基 づ い て い る か らで あ っ て , しか しまた , 制度 の 自律化

  や , 指導者の カ リス マ 化に よっ て , その 基底の 関係 を覆 い 隠 し,

正統”

の 表象

  を成 りた たせ,

は じめ て 制度な り指導者な りあ持続的存立が可 能に なるか らで

  ある 。 そ れ ゆ え , 絶えざる カ リス マ 化の 企 て はあ っ て も,純然 たる カ リス マ 的

  正統性 は, 虚構 または誤認の結果で しか ない こ とに な る。 それが ウ ェ

ーバ ー理

  論 を’心理社会学的

”と評 させ る 当の もの で ある」  (宮島喬 「文化的再生産 の 社

  会学  ブル デ ュー

理 論か らの 展 開亅藤原書店 1994年 101頁)。

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返 さ ない【6)

。こ こで 問題 に した い の は

, 官僚集 団の 「私 的」利益 が なぜ,

「国益」, 「公 益」 と 「誤認」され る の か, その メ カ ニ ズ ム は何か とい うこ

とで ある 。 そ して,

ブル デ ューの 言う 「正統性」は

, 明 らか に こ の 「誤認」

の 過程 に結 びつ い て い て,

こ の 意味で ヴ ェーバ ー の 「合理 的支配」とは大

き く異 な っ て い る 。

 ブ ル デ ュー

の 「正統性」を考察す る うえで, 「象徴 的暴力 (violence

symbolique )」は キー

概念で ある17)

。 そ して, 国家 = 官僚の 支配 を考察す る

うえで も非常 に 重要 で ある 。 ブ ル デ ュー は こ の 暴力に つ い て次の ように

定義 して い る 。

お よそ象徴 的暴力 を行使する力 , すなわ ち さまざまな意味 を押 しつ け , しか も

自らの 力の 根底 にある力関係 をおお い 隠す こ とで, それ らの 意味 を正統で ある

と して 押 しつ ける に い た る力は, そ うした力関係の うえに

,それ固有の 力 ,

な わち固有に 象徴的な力 を付 け くわ える 。

18}

 象徴的暴力 に は 二 つ の 作 用 が あ る 。

一つ は 意 味 を形 成 す る こ と

(signification ) を正 統で ある とする 作用で 、 支配側が 教 えこ もうとす る 内

容 を 「客観 的な真理」と して と らえさせ る力で ある 。 もう一

つ は支配一被

支配 とい う関係それ 自体を隠蔽す る こ とで, 「教 えこ む」 とい う行為その

もの を正統 な もの, す な わ ち教 え る行為 を 「暴力」とは思 わせ ない 力で あ

る 。 象徴的暴 力は こ の 二 つ の 力か ら成立 し, 同時 に教 え こ まれ た 内容 を客

観 的 に真理 だ と誤認 させ, 支配 一被支配 関係 を見落 とす とい う二 つ の 誤

認 (否認)をもた らす 。 そ して,

これ らの 作用が , 「正統化」 で あ る。

16 ) 「支配」ある い は 「権力」 をめ ぐる 両者の 理論の 違 い に つ い て は,水島和則

  「文化的再生産 と社会変動一

構造一

行為関係か らの 再構成」宮島喬編 『文化の

  社会学一 実践 と再生 産の メ カ ニ ズム 』有信堂 1995年 195−199頁 を参照 。

17)宮島 前掲書 1994年 100頁 。

18>P.Bourdieu・et・aL ,1970, p.18 (宮島訳 1991年 16頁)

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象徴的暴力の 前提 と して の 象徴的資本

  ブ ル デ ュー は 国 家 の 象徴 的暴力の 独 占は 絶対 的 で あ る と は見 て い な

い 。 他の 「場」に つ い て も,

ブ ル デ ュー は 象徴 的暴力 を見出 して い る か ら

だ 19)。 だが , 「国家」= 「官僚 の 場」の 象徴的暴力は 「一 種独特 (sui generis)」

で あ り,こ の 独 特な作用 に よ っ て 官益 = 国益 = 公 益 とい う図式が 正 統化

され て い る と言 え る 。

 こ こ で,重 要な概念 と して 象徴 的暴 力が 「現実 的に」作用 し うる 条件 と

して ブ ル デ ュー が 提示す る 2°) 「象徴 的資本 (capital symbolique )」につ い て

考えて み た い。

 象徴的資本は マ ル セ ル ・モ ース の 「ポ トラ ッ チ 」や 「ク ラ」の 概念 や ブ

ル デ ュー

自身の カ ビ リ ア 人研究 か ら導 き出 され た概念 で 21),「威光,評判 ,

名声な ど と共通 して よ ば れ る」22) もの で あ り, 厂ひ とつ の 信用 (credit )」23 ),

そ して貴族 や 高い 身分 を有する 人 た ちの 「名誉 の 感覚」24) な ど,

一言 で 言

えば 「権威」に 相当す る 資本 で ある 25)。

 こ れ らの 要素は, 「経済至 上 主義に は名前 を もたぬ 利益」26}

,つ ま り, 経

済学的 に は 「資本」とは 見 なされ ない もの で あ る Z7 〕。 象徴的資本 は経済的

19)例 えば,  「ジ ャ

ーナ リズ ム の 場 」が市場 経 済 に したが っ て 「文 化 的生 産 の 場

  (文学 ・芸術など)」か ら自律 し ,こ れ らを 「裁定」する立場 に移行す る過 程

  で ,ブル デ ュー

は 「ジ ャー

ナ リズ ム の 場」の 象徴 的暴力を見出 して い る 。

20)P.Bourdieu, Choses dites, Minuit,1987, p.163.(石崎晴 巳訳 『構造 と実践』新評

  論 1988年 216頁)

21)P.Bourdieu, Le senspratique , Minuit,1980b, p,194−199.(今村仁司訳 『実践感覚』

  1 み すず書房 1988年 188−194頁)

22)P .Bourdieロ,<<Espace sociale  et genさse des <<classes >>>〉, A.R.S.S.,No .53,1984 , p.5

23)P.Bourdieu, 1980b,p.203.(今村訳 1988年 198頁)

24)P.Bourdieu.1993a, pp.56−58, P. Bourdieu,1994, p.116

25) P.Bourdieu, 1984, P.7

26)P.Bgurdieu,1980b

,p.200 (今村訳 1988年 195頁) P. Beurdieu,1987, p. 161 (石 崎

  訳 1988年 213頁)

27 )ポ トラ ッ チ とは 北米 イ ン デ ィ ア ン 諸部族 にお ける婚姻や 誕 生 の 時に行われ る

  儀礼で ,ク ラはパ プア ・ニ ューギ ニ ア の 同様 の儀礼 で ある 。 その主催者 は招待

  者 に莫大な財の 贈与 を行 う。

一方,財を受 けた側 は,今度は然る べ き期間内 に

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31

な もの の 視点か らは 「否定され た 資本」で ある 2  だ が

, 象徴的資本 は, あ

る カ テ ゴ リーお よ びその 「価値 (valeur )」を社会的行為者に知覚 ・承認 さ

せ る 前提 に なる もの で あ り2Y ), あ る 資本が 別の 資本 に 変換 す る メ カ ニ ズ ム

の ひ とつ なの で 3・ °),象徴 的資本が な けれ ば経済的資本 は 「金銭 的価値 を有

す る」資本 とは見 なされ ない。 だ か ら, 象徴的資本は あ らゆる資本 の 作用

の 前提 にな る重要 な資本で ある 。

象徴的資本の 中央集権化過程 と しての 国家形成

 ブ ル デ ュー は ヴ ェ

ーバ ーの 言説 , 「国家 とは あ る一

定の 領域 で の 正統な

物理 的暴力行使の 独占を実効的 に 要求す る 人間共 同体で あ る」31 )

を批 判す

る形で, 「国家 とは ある

一定の 領域 とそれに相 当する住民 の 全体 に 正統 な

物理 的 , そ して”

象徴 的’t

暴力行使 の 独 占 を実効的 に要求す る」32) もの だ

と論 じて い る 。

 そ して,

こ の 独 占 は 「官僚 の 場 」 へ の 「象徴 的資本 の 中央 集権化

(concentration  du capital symbolique )」に よ り進 め られ る とブル デ ュー は と

らえ,こ の 過程 を国 家形 成 と して 分析す る 。 で は

,どの よ うに して官僚集

団 は象徴的資本 を中央集権化 した の だろ うか 。ブ ル デ ュ

ーの 理 論 をも と

に 考えて い きた い。

  受 けた 以上 の 贈与 を主催者に 返 す義務が 生 じる 。 こ の こ と をモー

ス は贈与交換

  な い しは 贈与経済 と して論 じて い る が,

ブ ル デ ュー

は ア ル ジ ェ リア の カ ビ リア

  人社会の 研究調査 にお い て, 同様 の贈与交換が 見 られ る と し, 主催者は莫大な

  財 ,つ ま り経済資本 を浪 費する こ とで

, 相手か ら多大な信用 , ある い は威信 と

  い う象徴 的資本 を獲得する と分析 する 。 当然 , 近代経済学は象徴的資本 を 「資

  本」 と して は見な して はお らず,ブル デ ューは絶えず こ の点 を批判 して い る 。

28)ibid.

29)P.Bourdieu,1993a, pp.56−58, P. Bourdieu,1994, p. l l 6

30)P.Bourdieu,1980b, pp.202−204 (今村訳201 −204頁)

31 )括弧内の 部分 は論文 「国家の 精神」 にお ける ブル デ ュー

に よる引用 を筆者が

  訳 した もの で あ る 。 た だ し,訳 にお い て は マ ッ ク ス ・ヴ ェーバ ー

著,脇圭 平訳

  『職業 と して の 政治』9頁 (岩波書店 1980年)を参考に した 。

32)P.Bourdieu,1993a, p.51 ,

P, Bourdieu,1994

, p.107

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32

 ブ ル デ ュー は フ ラ ン ス に お け る 法的資本 (capital judiciaire)33) の 官僚集

団へ の 集権 ・独 占過程 に 注 目す る 。 法的資本 は,象徴 的資本の 中で は, 最

も 「客観化, コー

ド化 され た形 態」34) で あるが ,軍事的資本や 財政 的資本

の 中央集権化 とは異なる独 自の ロ ジ ッ ク を有 して い る とい う35 )

 12〜 13世紀 に は,

ヨー

ロ ッ パ に は さ まざ まな法体系が 混在 して お り, 宗

教的世界 (教皇 ・教会),貴族的世界 (君主 ・領主 ),世俗 的 ・商業的世 界

(都市 ・コ ミ ュー

ン ・組合 ・ギ ル ド)な どが そ れ ぞれ独 自の 司法権 や裁判

権 を有 して い た・36 〕。 そ して

, 訴訟や 裁判 を行 う専 門家 も当時 は ま だ存在 し

て なか っ た37)

。 法 と道 徳 ・慣習 との 区分 も まだ明確で は なか っ た し , 君 主

は直轄領 内で しか 裁判権 を行使 し得 ず , 直接 の 家 臣 と彼 らの 領土 に 居住

す る民衆 との 訴 訟 しか担 当 しなか っ た 38}。

  しか し,

しだ い に 君主 の 司法権が他 の 司法権 に影響力 を及 ぼ す よ うに

なる 。 そ れ は, 君主 権 内に 法律や そ れ に 関す る諸事務 を担 当す る 専門家集

団 (法学者や 司法官)が形成 され た こ とか ら始 まる 。 ll 〜 12世紀 には,

レ ヴ ォ (pr6v6t)39)

や セ ネシ ャ ル (s6n6chal )4°〕とい っ た官職が お か れ る と

33) ブル デ ュー

の い う法的資本は狭義の 法律 (法曹界や 法学者が 関わ る) とい う

  範囲に と どまらず,慣習,道徳,規範 とい っ た 日常生 活 レ ベ ル で 我 々 に あ る規

  制を働 きか ける もの や , 世界観 価値観 な ど見方 を押 し付け る もの を広義 な意

  味で の法 ・しきた り ・掟な どもとらえて い る。 詳細は P.Bourdieu, ,,La for.ce du

  droit:E16ments pour une  sociologie  du champ  juridique,〉,AR , S.S., No.64,1986, pp.3−

  19を参照 。

34>P,Bourdieu,1993a, p.55, P. Bourdieu,1994, p. l l 7

35)ibid.

36)ibid.

37)歴 史的な詳細 に つ い て は Marc Bloch, Lo 50c ‘6!4声04 α〜8 , Albin Michel,1939, pp.

  495 −516 (新 村猛他訳 『封 建社 会』 第 2巻 み すず書房 1977年 76−90頁 〉を参

  照。

38)P.Bourdieu,1993a, p.55 ,P. Bourdieu

,1994

, p.117

39)プ レ ヴ ォ は一般 に ある領土 の長で 裁判権 を有 して い る もの を指 して い たが 、 ll

  世紀 になる と, 国王に よ っ て封土 化 され て い な い 副伯区に 設置 され る 。 こ れ は

  局地的に国王 に関する諸事務 を執行する とと もに,

そ の 裁判管区内の 国王収入

  を徴収し , さら に軍事的任務の ほか,若干の 裁判権 も有 して い た 。

40)セ ネシ ャ ル は 国王直轄の宮廷の 最高官職で , 国王証書 の 第一

位副置 人 , 軍事

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33

同時に, 高等法院 を始め

, 専門化 した法律 家 か ら構成 され る 会計 , 租税 な

ど を専門 に担当す る機 関 も設置 され4 【〕

, 同 時に事務 を担 当す る官職層が 形

成 され たの で ある 。

  もう一

つ は, 法学者 た ち に よ っ て 「上訴理 論」が 確立 され た こ とで ある 。

従来は領主や教会の 司法権 内に属 して い た犯罪 (刑事)訴訟 は ,こ の 理論

が確立 され た た め に, すべ て の 訴訟の 最終審判は君主権 に従属す る よ う

に な っ た。 今まで 最高位 で あ っ た領主 権 の 裁判 で も君主 の 慣習 と矛 盾す

れ ば,

この 裁判 は君主権 に付託 され る よ うにな っ た か らで ある 42)。

 こ の 理論に よ り君主権は主権 とな り,こ れ は君 主の 個人的, あるい は王

家の 利益 か ら領内の 共通利益 を代表 し, あ らゆ る保証 と正 義を負 うとい

う理念 を生 んだ 43)。 そ して , 司法官や行政 官の 専 門集団 は君 主の 名の 下 で

機能す る集団か ら, 次 第 に こ の 共通利益の た め に機能する集団 と 自認す

る ように な っ て くる 。 そ して, 革命時に君 主権 と対立 した こ れ ら法律家集

団 = 法服貴族 は, 自集団 を共通利益 = 「公 共」に ア イデ ン テ ィ テ ィ 化す る

こ とで, 国家 を独 占す る こ と を正統化 したの で ある 。

3. 国家 = 「官僚 の 場」に よ る支配の 本質

 一

命名行為の正 統性の独占

命名行為 と象徴資本一 君主か ら国 家へ

 象徴 的権力 を独 占 した法律家集団 = 「法服 貴族」が , 国 家 を独 占す る こ

とを 「正統化」で きた の は, 次の 三 つ の 理 由か ら考察 され るだ ろ う。 第

に , 彼 らが独占 して きたこ の 資本は経済的資本の 「否認」で あ る とい う性

質を有 する 。 こ の こ とは, 経済的資本 の 独 占者 (中産階級や商人)な どが

  指揮官,裁判官 も兼任 して い た。

41)P.Bourdieu,1993a, p。56, P. Bourdieu,1994, p.119

42) op ,eit .,ibid., op . cit.,P.118

43) ibid.,op .cit,,P,119

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国家権力 を独 占す る こ と を 「恣意 的」に 見せ て しまうか らだ 。 第二 に , 法

服 貴族が創 出 した 「公 共」概念 を国家理 由 = 普遍 的な もの の 防衛に結 合 し

た こ とで, 教 会権 力の 排除 を正 統化 しえた 。 第三 に ,法服貴族 と教育 との

親和 性 とメ リ ッ トク ラ シー神話の 構築で あ る。 法服貴族 は大学法学部の

肩書 きを有 し, 教 育制度が 彼 らの 昇進 を保 障 して きた こ とか ら, 彼 ら は 教

育制度 を国家と, さらに 世襲や経済力, 教権 に代わ る知識 に よる業績主義

を近代主 義,普遍主義 , 平等主義な どの イデ オ ロ ギ ー に結合 させ た 。こ の

こ とは,

ブ ル ジ ョ ア ジー

や 教 権 , 世襲貴族の 国家権力の 独 占を 「恣意的」

な もの に させ る決定 的な手段 に な っ た 。 こ の こ とか ら , 学校 と官僚制 , そ

して 国家は 密接 に つ なが り,

と もに 「社会空間」の 「権力の 場」で 中間 的

位置 を占め て い る と言 え る だろ う。 「中 間的位置」 = 中立性 もまた,

法 服

貴族が 国家権力 を独 占す る こ とを正 統化 した とい える だろ う。

 そ して,

これ らの 正 統化  象徴 的権力 の 作用  の 前提 と して 象徴

的資本を取 り上 げ , そ の 事例 と して ,先 に法的資本 を と りあげた 。 だが,

ブル デ ュー

にお い て 「法的資本の 中央集権化は , 様々 な形態 を もつ 象徴的

資本 の 中央集権化の よ り幅広 い プ ロ セ ス の一

側面」ag)

に過 ぎない。

 象徴 的資本 の 本質は , ブ ル デ ューが 「名誉 (honneur)」と呼ぶ もの で

, 国

家の 命名行為 (acte  de nomination )に 関 わ る もの で ある 。 「名誉」は 「国家

権力 を代行す る者の 特 別な権威」で ある が , 「極 め て ミス テ リア ス な」 も

の だ と彼 は言 う 45 )。

 ブ ル デ ュー

は国家の 「名誉」に つ い て,

モー

ス の 「呪術 (magie )」論 46)

とブ ロ ッ クの 「騎士 叙勲式 (adoubement )」の 儀礼47 }か ら着想 を得て い る

44)ibid.,ibid.

45) ibld., ibid.

46)M .Mauss,<〈Esquisse d’une  th60rie g6n6rale de la magie 》 ,1’Anne

’e sociotogique ,7,1904,

  PP・1−146, Socioto8ie et anthropologie , Presses universitaires  de France,1997[1950],

  pp .1−141 (有地 亨他訳 「呪術の一

般理論の 素描」 「社会学と人類学』弘文堂

  1976>

47)M .別 och ,1939, pp.435−441 (新村他訳 33−37頁)

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35

こ れ らは, デ ュ ル ケム の 「消極的儀礼 (rite n6gatif )」49) の 概念 を受容 して

発展 させ た概念で , ブ ル デ ュー は

,モ ー ス の 「呪術」の 現実 を創 出す る 「成

形の 技 (art de faire)」49} と して の 社会的行為 とい う側面 を ,ブ ロ ッ ク の 新

しい 騎士 の 誕 生 に は教 会権力が媒 介す る一 こ の 媒介 に よ り騎士層の 聖

性 が 強化 され る と同 時に ,ノ ブ レス

・オブ リジ ュ が課 され る  とい う指

摘 を , 国家形成 に おける 「名誉」 の 中央集権化過程で 捉え直 して い る 。

 特 に,

ブル デ ュー は

, 「名誉」の 中央集権化 を, 君主 に よる 様 々 な 「通

達 (circulation )」の 独 占過程 に見 出 して い る 5°)。 具体的 に は , 騎士 の 位 階

を決 定 した り, 軍事命 令 を発 した り判 決結 果 を公表 した りす る行為で あ

る 。

 だが ,これ らの 中で

, 爵位 を与える行為が もっ と も重要 な もの で あるsP。

なぜ な ら, それ 以 前の 貴族はすべ て 出 自に よう て 地位が与え られ て い た

「生 まれ つ きの 貴族」で, 君主 に は貴族 で ない 人 を 「貴族 にす る (anoblir )」

力 を持 っ て なか っ た か らで あ る。 君主 は,上 記の 命名行為 を時代 に 自らに

一元化する こ とで

, 法服貴族 の 爵位 を授 け る権威 が形成 され た か らで あ

る 。こ うして 君 主 は

, 「中心」的位置 に 座 し, 「君主 の 名 に お い て 」あ らゆ

る他人 に情報 を伝達する よ うに な り, 他者は君主 を通 じて しか コ ミ ュ ニ

ケ ー シ ョ ン で きな くな っ た 52)。

こ うして, 拡散的だ っ た 「名誉」と して の

象徴的資本は, 君主 に集権 され

, さ らに こ れ は, 君主の 名 の も とで 命名行

為 を代行 して い た 官僚 集団 = 法服貴族 に託 され る。こ の 象徴的資本の 移

譲は, 君主の 爵位授 与行為 に よ っ て は じめ て 可 能 で あ るが

, 次第に ,君主

とそ の 家族 の 私的利益 と法服貴族 た ちが奉 ず る共通利益 との 矛盾が 拡大

48)Emile Durkheim , besノ’

ormes  e’te’mentaires  de la vie  religieuse , P.U .E ,1990 〔1960], PP.

  432−439 (古野 清人訳 『宗教 生活の 原初形 態 (下)」岩波書店 1975[1942]年122−

  128頁)

49)M .Mauss,1990

, p.134

50)P.Bourdieu,1993a, ibid.,P. Bourdieu,1994 , p.120

51) op .cit.,PP.56−57,0p .cit., ib id.

52)P.Bourdieu,1995

, p.58

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い 31, 近 代革命期 に法服貴族が 国家権力 の 独 占を正 統化す る 過程 で ,こ の

資本は君 主か ら国 家 に移譲 され , さ らに客観化 ,コ ー

ド化 され る に至 るの

で あ る。

象徴的資本の 中央銀行  国家

 こ う して, 国家 はブ ル デ ュ

ーが しば し ば用い る言説 を借 りれ ば, 「象徴

的 資本 の 中央銀行」S4}    象徴的 資本の 独 占者    に な る 。 そ して ,こ の

状況 に よ り, 国家 = 官僚集 団が 「現代の 呪術」 を可能 に して い る 。 ブル

デ ュー

は ,こ の 国家 = 官僚集団の 「呪術 」が , 国家の 支配

,そ して支配の

正統性 の 本質で あ る と指摘 する 。

 具体的な国家の 「呪術」= 命名行為に つ い て ,ブ ル デ ュー は 各所 で論 じ

て い る。 以 下 の よ うな諸行為 に大別 され る だ ろ う。

 一

つ は, 任命 , 認可 , 許可 , 承認 , 免状 , 証 書 な どの 「制定 (institution)」

行為で ある 。 我々 の 日常生活には 「制定」行為が あふ れ て お り,こ れ な し

に は生 きて い け ない。

こ れ は単 に官 庁や 公 共行政 機 関が 下す行為 や書類

に 限定 され ない。 医師の 診断書や , 学校 で 発行 され る 各種の 証明書 , 自動

車や不動産 の 売買 契約書 ,ペ ッ トの 血統書 や宝飾品の 鑑 定書 ,

こ うした 行

政機 関が 直接 関 わ らない 行為 も国家 の 「呪術」 で ある とブ ル デ ュー

は言

う。

(疾病や障害の )診断書に署 名する 医師は, 承認 と い う関係 の ネ ッ トワ

ーク全体

で , そ して こ の ネ ッ トワー クに よ り蓄積 され た象徴 的資本 を動員 して い るの

だ 。 そ して,

こ の 関係は 官僚の 領域 をなす もの で ある 。い っ た い 誰が この 診断

書 を有効 に して い る の か 。 診断する こ とを認め る肩書 き に署名 した人物 で あ

る 。 で は,

い っ た い 誰が この 人物を認め て い る の か 。 これ で は ,「や め ろ」と言

53)ibid.

54)P. Bourdieu, Homo ・actzdemicus , Minuit

,1984 (石崎晴巳 ・東松秀雄訳 『ホ モ ・ア

  カデ ミクス 亅藤原 書店 1997年96頁) 。 P . Bourdieu,1987

,p.162 (石崎訳 215

  頁)。 P. Bourdieu,1989

, P.539 ,

 P.・Bourdieu,1993a, P.57, P.・Bourdieu,1994, P. 122

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われ るまで 果て しな く承認の 軌跡 をさか の ぼる羽 目に なる。 そ して, 長い 鎖状

に な っ て い る聖別 (consecration )の 公 式行為の 末端 (ある い は先端)で 国家の

名を見出すこ とに なろ う 。

s5 )

国家理由の 最 も典型 的な効果 とは ,コー

ド化の効果で あ っ て ,それ は, 証書 の

授与 とい う極めて 単純 な操作 の 中に発揮 される 。 医師 , 法律家な どの 専 門家 は,

病気な どの 診断書 , 適性や 不適性の 証明書 とい う形で, その 証 明書の 保持者に

対 して 普遍的に承認 され た権利を付与す る……委任 を受けた人間で あ る 。

 なぜ な ら, 医師 , 教 師 , 自動車整備士や 不動産取扱 人な どは , 国家 に承

認 され な けれ ば,

こ れ らの 職業人 とは承認 され ない し, 医師や 鑑定人 と し

て 活動する こ ともで きない。 病院

,学 校 ,

不動産業 もまた そ れ と して 承認

され ,活動す る に は国家 の 認可 が必要で ある 。こ れ らの 承認を得ない で 活

動す る と 「犯 罪」 と見 な され る 。

 もう一つ は

, 社会的現実や 分類 を構 築 し,こ れ を「客観化 (objectivation )」

す る行為 で あ る。 医師が下 す疾病 の 診断 , 健常者/障害者の 区別 , 学校の

合格/不合格 の 判定 , 様 々 な学科 の 区分 や教 え られ る 様々 な事象 , そ し

て, 男/女の 区別や ホ モ セ ク シ ュ ア ル 。 こ うした現代社会 にお け るあ らゆ

る分類 や事実は 国家 = 官僚集団の 「恣意 的 (arbitraire)」な分類で あ る と言

う57)。 そ して

, 象徴 的暴力の 効 果 に よ り 「正 統化」 され, 「恣意的」 な も

55)P.Bourdieu, 1993, ibid.

,P. Bourdieu,1994, ibid.

56)P. Bourdieu,1987

,p.162 (石崎訳215頁)た だ し,文体 を少 し修正 して い る 。

57) もちろ ん,

ブ ル デ ューは 国家 を分類の 絶対 的決定者 とは見 て ない 。  「権力の

  場 」を構成する他の 場 との 絶 えざる 「分類闘争」の 結果 で あ る とブ ル デ ューは

  と らえ ,と りわけ ,

ジ ャー

ナ リズ ム が 官僚の 場の 強 力な対抗者と見 な して い

  る 。 だが, 同時 に

,ジ ャ

ーナ リ ズム の 場 は 国家 の 分 類行 為 に協 力 し た り,

  ジ ャーナ リズ ム の 地位保 全の ため に , 官僚の 分類 を無批判的 に取 り入れ た りす

  る 。

  「権力 に対す る悪 しき思 想家 と思考の 悪 しき権力者 (雑誌,コ ロ ッ ク

, 記者 ク

  ラ ブ)との 交換 を よ り進め る ため に, 特別 に設定 された新聞や週刊誌で 飽 きも

  せ ず繰 り返 され る’哄 有の 場 と い う集団全体

1は,ENA 出 身で シア ン ス ポの 教育

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の と して は 否認 され た もの に 過 ぎな い の で ある 。

 「家族」 も国家 に よ る 「制定」 と 「分類」の 産物 だ とブ ル デ ュー は言 う。

特に 「戸 籍」と い う家族 の 書類 を記 入する とい う操作で, 国家は 家族ア イデ ン

テ ィ テ ィ を, 社会界の 最 も強力な 認知原理 と して ,そ して ,最 も現 実 的 な社 会

単位 として 構築す る構成行為 を何 度 も繰 り返す 。

……こ うして ,家族 とは まさ

に フ ィ ク シ ョ ン で あ り社会的 人為物 で あ り幻 想で あ る が , 「根 拠 に 十 分基づ い

た幻 想」なの で あ る 。 なぜ な ら, 国家の 保障に よ り生 産さ れ

, 再生産 され た家

族 は, 常 に 国家か ら生存 しうる糧 を受 けて い るか らだ 。

58 )

 かつ て は教 会な ど宗教権力 の 手 に あ っ た 出生 , 結婚 , 扶養 , 死 亡 な どの

届 けや 登録制度は近代以 降 , 国家の 独 占的権 限 に な っ た 。 そ して, 統計 や

様 々 な手当,福祉 な どの 経済的 ・社 会 的援助 手段 もまた 国 家 =官僚 集団 が

担 っ て い る の だが,

ブ ル デ ュー は

, 届 け出 , 登録 , 手段 , 援助 な ど は すべ

て 国家 に よ る 「コ ー ド化」の 作業で あ っ て,

こ の 作業 を通 じて 理 想 とす る

家族形態 を構築す る 「論理 的順 応主 義 (conformisme  logique)」と 「道徳的

順応主義 (confo   isme moraD 」 の 過程 だ と言 うs9)

  さ らに,

こ れ らの分類一 成形の 効果 は, 単 に 正統 な もの と して 承認 され

る とい うの で な く, 普遍的 , 中立 的 , 客観的 な意味 ,コ モ ン ・セ ン ス を与

える効果一 一 「公式命名」の 効果  も加 わ る 6°)

。 国家 = 「官僚 の 場」の

恣意 的分類が なぜ こ の よ うな性 質を帯び る の か に つ い て は,

ブ ル デ ュー

が 論 じて きた 国 家 = 「官僚 の 場 」の 生 成過程 を想起 すれ ば分 か る だ ろ

う 。

  で 育成 され た 国家の 大貴族の 見方 と利益 を極め て 直接 的に表現する (P.B ・ur −

  dieu et al., Misbre du .monde , Seuil, 1993b,

 p221 )。 」ブ ル デ ュー

の ジ ャー

ナ リズ

  ム 批判 に つ い て は ,P. Bourdieu,<<L ’Emprise du’journalisme>,

, A.RS ,S.

,No ,101−102,

  1gg4, pp.3−g, p. Bourdieu, Sur la tele’vision , Liber−Raison d’agir , 1gg6を参照 。

58)P.Bourdicu,1994, p.145

59) op .cit., P.144

60>ibid., P. Bourdieu ,1987 (石崎訳 215頁)

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  また,

ブル デ ュー は官僚集 団の 「制定の 儀礼 (rite d ’institution)」

61) が こ

の よ うな 「公 的範疇」 を構 築 しうるの だ と言 う。 「官僚 の 場」 で の 「制定

の 儀礼」 とは, 具体的に は , 「公式の 場」で官僚に ふ さわ しい 話 し方 , 振

る舞い 方 , 服装 な どの 「身体化 され た表徴」を意味す る 。こ れ らが 民衆か

ら著 し く異 な り, 高度 に洗練化 , 複雑化 され れ ば され る ほ ど , 「官僚 の 場」

は他の 場 か ら よ り自立 す る よ うに な り, 「暗黙 の 服従 (fides implicita)」を

引 き出 しうる 62}。

 こ うした国家 = 官僚集団が なす 「呪術」の 最終的効果 は, 国家 = 官僚 集

団 それ 自体の 客観化 , 自立化 をもた らす こ とで ある 。 ブ ル デ ュー は , フ ラ

ン ス で は, 労働者階 級 は 国家 を独立 の もの ,調停機 関 と見 な して い て

, 国

家が 秩序 を救 うため に 活動す る場 合 , 国家 は労働者 に は調停機 関 と して

の 外観 を保つ こ とが で きた こ とを指摘 する 63}。

4 . ブル デ ュー と フ ラ ン ス 国家

一ネオ ・リベ ラ リス ム の 台頭 に 直面 して

  ブ ル デ ュー は

, 国 家の 何 を問題 に して い る の か 。 何 を批 判 の 対象 に して

い る の か 。 こ れ が , 冒頭 で の 問題 提起で あ っ た 。こ こ で ,

こ の 問題提起 に

対す る 回答 を与 えて み たい。

61) 「制定の 儀礼」 に つ い て は,

P. Bourdieu, Ce que pa rler  veut  di re

, Fayard

,1982 (稲

  賀繁美訳 『話す とい うこ と』藤原書店 1993 年 139 −156頁)を参照 。 ブ ル デ ュー

  はデ ュ ル ケム の 消極的儀礼論 を応用 し, 「制定の 儀礼」の 概念 を導 く。  「制 定

  の 儀礼」の 効果 は, 恣意的に引か れたあ る境界線の 正 統化 ,

つ まりある もの を

  「聖 なる もの 」 と 「俗 なる もの 」 に恣 意的 に 分類 す るが ,こ の 分類 を恣意 的に

  は見えない よ うに正統化する効果 を見 い だす 。 こ れ は同時に 「聖 な る もの 」の

  卓越 化 ,  「俗 な る もの 」の 格下 げを正 統化 し, 「聖 なる もの 」へ の 破格の 社会

  的待遇や 「聖 な る もの 」に よ る 「俗なる もの 」へ の 支配 を正統化す る こ とも意

  味す る 。

62)P.Bourdieu,1980a, pp.236−250 (田原他訳 303−321頁>

63)op .cit.,1980a, p.255 (田原他訳 327−328頁)

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  まず ,ブル デ ュ

ー国家論 は

, 国家 = 「官僚 の 場」の 歴 史的生 成過程 に そ

の 重心 が 置か れ て い る とい う点 に 注 目 したい。 国家の 歴 史的生成過程を

追及 する手法そ れ 自体 は ,ブ ル デ ュ

ーに独 自の もの で は な く, 例 え ば

,ピ

エ ール ・ビ ル ン ボ ー ム とベ ル トラ ン ・バ デ ィの 「国家の 社会学 (sociologie

de・1’Etat)」64 ) をあげ る こ とが で きる 。 「国家の 社会学」 は,

フ ラ ン ス 型 中

央集権国家 (「強 い 国 家」)の 特性 を明 らか に して,

こ う した 国家が封建時

代 か ら近代 にか けて 教 会権力 や地 方勢力 , ブ ル ジ ョ ア ジー との コ ン フ リ

ク トの 中 で どの よ うに諸 権 力 を独 占 して い っ た の か を追 及す る もの で あ

る 。 「国家 の 社会学」は , チ ャー ル ズ ・テ ィ リーや シ ー ダ ・ス コ ッ チ ポ ル

な ど革命期の 階級 間闘争 の 分析 に重点 を置 い た ア メ リカ の 歴 史学 ,ノ ル

ベ ル ト ・エ リア ス の 「図柄 (figuration)」理論 ,デ ュ ル ケ ム 学派 とマ ル ク

ブ ロ ッ クを中心 とす る ア ナー

ル 学派の 影響 を受け て い る。

  ブ ル デ ュー

の 国家生 成論 もまた,

こ れ らの 学派や 理論 の 影響 を受けて

い る の で , 「国家の 社 会学」 と類似す る部分 も多い。 だが ,

ブ ル デ ュー

理論 は,

よ り国家の 象徴性 二 呪術性 に迫 る もの で あ っ て ,こ の 点で フ ラ ン

ス 型国家に限 定 した分析で あ る 「国家の 社会学」と異 な る 。 ブル デ ュー に

お い て は, 国家 の象徴性の 最 も典型的な顕 現で ある 命名行為が , 国家の 正

統性 = 官僚支配の 本質なの で ある 65)。

  ブ ル デ ュー の 国家批判は

,こ うした歴史的生 成過程 と象徴的暴力の 追

及 か ら導 き出 され た官益 と公益 ,公 益 と国益 の 結合の 恣意性 に ,そ して ,

こ うした恣意性 か ら構築 され た 国益 とい う概念 に 向け られて い る 。 国益

とは, 結局 , 官益 に過 ぎない もの で ある 。 特 に

, 国家官僚 の 私企業 へ の 「天

下 り」 を , 「公益」 の 名の もとに 私企 業 を管理 しよ うと して い る が, 実際

に は官僚 の 私 的利益 と公益 の 混 同 に過 ぎない もの で あ る と批判 して い

る66 )

64)Bertrand Badie et Pierre Birnbaum , Socioto8ie de l’Etat、 Grasset et Fasquelle, 1979

  (小 山勉訳 『国家の 歴 史社会学』日本経済評論杜 1990年)

65)P.Bourdieu,1987, p.161 (石崎訳 213頁)

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 もう一つ は, あ らゆ る分類 を創出 し, かつ この 分類 を自然化 , 客観化す

る象徴 的暴力 の 理論 を駆使 し, 国家 = 官僚 集団が 有す る 象徴的な 中央集

権性 に 対 して も批判が 向け られ て い る 。 文化的再生 産論や 『デ ィ ス タ ン ク

シ オ ン 』に見 られ る階級 論 , そ して, 言語論 に 見 られ る 地方や 民族 の 問題

は , 国家 に一 つ の 中心が 置か れ , そ の 中心 に よ っ て 分類が な され

,正 統化

され る とい うシ ス テ ム に対 す る批 判が 背景 にある 。 ブ ル デ ュー

は フ ラ ン

ス 国家 を 「普遍主義的帝 国主義か つ 国際主義的ナ シ ョ ナ リズ ム 」と形容す

る 。 普遍主義や 国際主義は , 実は形 を変えた帝国主義や ナ シ ョ ナ リズ ム で

あ っ て, 官益 か ら生 じ, 国家の 集権性に結合 され た もの に 過 ぎない とい う

批 判が伺 える 。 ブ ル デ ューの カ ビ リア研究 は

,こ うした普遍主 義の 名の も

とで 行 われ た ア ル ジ ェ リ ア の 植民化が ,い か に矛盾に 満ち た もの か を明

らか にする もの で もある 。

 最後 に ,ブル デ ューは 一 体 , 国家 = 官僚集団 を どうある べ きと見 て い る

の だろ うか 。 具体 的な表現 は見 られ ない が 67},

こ れ に つ い て は, 近年 よ く

批判 の 対象 に な っ て い る ネオ ・リベ ラ リズ ム との 関連で 考察す る こ とが

で きる もの と思 われ る 。 ネ オ ・リベ ラ リズ ム は欧州統合を背景に フ ラ ン ス

国家の 「小 さな政府」を 目指 そ うとする もの で,

ブ ル デ ュー

の 言説 を借 り

れ ば, 「経済的 自由主義が 政治的 自由 を もた らす必 要十分条件で ある とみ

な し , 国家介入 を全体主義 と同一視 し, 社会主義 を ソ ビエ ト的な もの と決

66>P.Bourdieu et at.,1993b, pp,221−222

67) こ れ に 対 し , ア ラ ン ・ト ゥ レ ーヌ の 国家の 将 来像 は極め て 明確で ある 。 それ

  は,グ ロ ーバ ル 化する経済と, 細分化する文化 を接合する社会 と して とらえ ら

  れ て い る 。 ブル デ ュー

の 見解が こ れ と同 じか どうか は, 今の段 階で は未知で あ

  るが, ネオ ・リベ ラ リズム に対す る抵抗とい う意識 は 共有する もの と思 わ れ

  る 。 トゥ レ ーヌ の 国家像 に つ い て は,次の 著書 ・論文 を参照 。 Alain Touraine ,

  gu’est −ce  que la【彭ηzocrα魔ε7,

 Fayard,1994, A. Touraine, LettreδLionel, Michel・Jac−

  gues, Martine, Bernard, Dominiq κe...et vous , Fayard,1995, A .Touraine,<<Le nationa −

  lisme contre  la nation ,〉, L’Anne’e sociologigue , Vo1.46−1,

1996, pp.15−41,A .Touraine,

  《Faux  et vrais  prob16mes >>, dir. Michel Wieviorka ,σπ60cj6 ∫4加 gη2eη∫4θ 〜 : Le

  mutticulturalisme  en  d4bat, La D6couverte,1996, pp.291−316

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め つ け, 不平等 を不可 避 とと ら え

,これ に立 ち向か う闘争 を無意味 なもの

と考 え,

こ の 闘争 を自由の 抑圧 者 とす る」68) もの で, 「効率 こそ が近 代化

と し , 公共奉仕をア ル カ イ ッ ク で 不効率 で あ る と判 断 し,

… … 公 共サ ー

ヴ ィ ス の 私企業へ の 移譲を近代化の 過程 とと らえる 」69}思考である 。

  ブル デ ュー

は ,こ う した思想家 を 「国 家の 衰退論者」と して, 経済危機

と失 業 , そ して 都市郊外に お ける 貧 困 と犯罪の 深刻化 を もた ら した 元凶

だ と批判す る7°)。 地域

, 学校 , 家庭 な ど現代 フ ラ ン ス 社会の 荒廃 は 日常的

に な り, 目を覆 うば か りで ある 。

  こ うした状況で ブ ル デ ュー

が注目する の が 「下 級公務員 」, 「下級 官僚」

た ちで ある 。 具体 的に は警察官や事務行政 官 , 社会保障担当者 , 教員 た ち

で あ る が , 彼 らは, 「国家に よ っ て ます ます見捨て られ て い る都市 や その

郊外 にお ける最 貧困層 の 教育 , 厚生 に 関わ る 公共サー

ヴ ィ ス の 最 も基本

的 な防衛者」7且) で, 「市場 の 論理 か ら見れ ば 最 も不合理 な結果や 責任 回避

を補填す る任 務 」72 } を負 っ て い る 。 「下 級公 務員」 は

, 真の 公 共 奉 仕者 で

あ る とブ ル デ ュー は言 う。 だ が , 国家官僚が 「天 下 り」 して い る

一方で

「下級公務員」は, ネオ ・リベ ラ リズ ム に よる公共サ ー ヴ ィ ス の 廃止 に よ っ

て 71), 国家の 政策矛盾 に生 き, 「物的 ・道徳 的な荒廃に立 ち向か っ て い る

努力 を認め られ ず に, 見捨 て られ て い る とい う感情を抱い て い る」74〕

  こ う した 層 を と りあげ る こ とで , ブ ル デ ュー は こ れ まで の 福祉 国家 か

68)P.Bourdieu et at.,1993b, p.220

69)ibid.

70)ibid.

71) op.cit.,P.223

72) op .cit., P.222

73 ) 1995 年後半か ら フ ラ ン ス で 断続的に生 じて い る公務 員ス ト, 失業者の デ モ ,

  サ ン ・パ ピ エ (不法 に フ ラ ン ス に滞在 して い る 旧仏領ア フ リカ出 身者 )の 強制

  送還に反対する デ モ は,

い ずれ も 「国際規模で の ネオ ・リベ ラリズ ム に対 する

  抵抗」だ とブル デ ューは とらえて

,こ れ らの 運動を支持 し, 連帯を追及して い

  る (L’Hionanite

’, le 8 avril 1998, La libe’ration

, le 26 f6vrier 1996) Q

74)P,Bourdieu et al.,1993b

, p.222

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らネオ ・リベ ラ ル な国家へ の 変容 を , 国家官僚 に よる 責任性 の 欠如 と公共

奉仕の 放棄だ として 批判する 。こ の こ とか ら , ネオ ・リベ ラ リズ ム へ の 抵

抗 , 責任性 の 明確化 ,公 共概念 の 再定義が

,ブ ル デ ュ

ーの 国家の 将来 を考

察す る手が か りで は ない だろ うか 。

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