一般部門 - Japanese Nursing Association...22 21 り...

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Page 1: 一般部門 - Japanese Nursing Association...22 21 り 妊娠6カ月のときのことだ。つわ緒不安定による入院――。はつわりの点滴入院。2度目は、情給した。入院は2回した。1度目水も受けつけず、点滴で水分を補は吐きを繰り返し、血も吐いた。わりがとても重かったのだ。

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私は小さい時、注射が大嫌いで

した。小さいころは必ず打ちに行

くインフルエンザの予防接種が一番

嫌いで一番怖かったのを覚えていま

す。

 

一般的に注射が苦手な子は多い

と思いますが、大きな声で泣く程

度で終わります。しかし、私は注

射しようとしている看護師さんを

これ以上ない力で蹴りまくり、そ

の病院の看護師さん全員とお母さ

んで私の身体を押さえて注射され

るくらい、大変な子でした。

 

注射が終わった時、ある1人の看

護師さんが私のもとへきて「すごい

パワーだったね。みなちゃんよく頑

張ってたからこれあげるよ」と言っ

てみかんを一つくれました。私はそ

の時「ありがとう」と言ったけれど、

注射針を刺され、押さえつけてき

た看護師さんに対する怒りと悔し

さで、こんなみかん一つで誰が喜ぶ

んだよと、ひねくれたことを心の中

で思いました。

 

そしてまた1年がたち、予防接

種の時期がやってきました。くっ

そー、また注射かよと思いながら

もいつもと同じ病院に連れていかれ

ました。病院に行く前、お母さん

から「今日は絶対に看護師さんのこ

と蹴ったらダメよ」と言われていた

けれど、蹴る気満々でした。

 

受付を済ませ、待合室のところ

で、自分の名前がずっと呼ばれるな

と願っていましたが「柚木さん、中

にお入りください」という恐れてい

た言葉が聞こえました。私は嫌々

中に入りました。すると、みかん

をくれた看護師さんがいました。

その看護師さんは私のところへきて

「嫌だと思うけど今日も頑張ろう

か! 

あっ、今日は後じゃなくて、

先にこれあげる」と言って去年と同

じように一つのみかんをくれまし

た。この人、毎日みかん持ってるの

かな、まあ頑張るしかないな〜、

怖いな〜と思いながら、みかんを片

手に持ち、じっと堪えました。する

と、痛いけどすぐ終わることに気

付き世界一嫌いなものじゃなくな

りました。それから予防接種を打

ちに行くたびにみかんをもらうの

が恒例行事になっています。

 

私は2年前、熊本地震で被災し

ました。地震により心的外傷スト

レス障害を受けている方、高齢者や

褥婦、さまざまな方が避難所に避

難しており、私もその1人でした。

 

私は地震で小さなけがをしてし

まい救護室に向かいました。その時

の看護師は、傷の手当てに加え「大

丈夫? 

地震つらかったね、もう大

丈夫だよ、ここにはいろんな大人の

人がいるし、みんなで助け合ってい

こうね」と、優しい声掛けを行って

くださり、私の心のケアがされまし

た。

 

また、災害支援のために現場に

来ている看護師は、自分自身の家

庭もあるにも関わらず、自分の職

業に責任をもって現場での看護活

動を行っていました。私はその姿を

見て、このような看護師になりたい

と思うようになりました。

 

その時対応してくださった看護

師は、テントの見回りの際にも私の

顔を見ると「大丈夫?」と声掛け

をしてくださいました。何気ない言

葉の一つですが、その言葉がうれ

しかったのを今でも覚えています。

 

ほかにも「エコノミークラス症候

群にお気を付けください」と声掛

けを行い、避難所を定期的に巡回

されていました。看護師のネーム

カードを見ると安心しました。私

だけでなく褥婦や高齢者など、避

難所で過ごされている方とコミュニ

ケーションを行い、避難所での生活

環境について情報収集したりして、

避難所の環境整備をされていまし

た。

 

看護師の存在やちょっとした声掛

け一つが小さな看護であり、被災

し傷ついた心もケアされました。あ

の時の看護師の声掛けが、私が看

護師になりたいと思えたきっかけ

の一つです。私も看護師となり、

看護師という職業に責任と誇りを

持ち、患者の心に寄り添った看護

を行いたいです。

【広島県】柚木

未奈 19歳

【奈良県】下竹

柊里 20歳

一つのみかん

看護師の声掛け 

しも

たけ 

しゅ

ゆの

き 

入 選入 選

一般部門一般部門

入 選入 選

一般部門一般部門

じょくふ

Page 2: 一般部門 - Japanese Nursing Association...22 21 り 妊娠6カ月のときのことだ。つわ緒不安定による入院――。はつわりの点滴入院。2度目は、情給した。入院は2回した。1度目水も受けつけず、点滴で水分を補は吐きを繰り返し、血も吐いた。わりがとても重かったのだ。

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妊娠生活というのは、幸せなも

のだと思っていた。個人差もあるの

だろうか。私にとっての妊娠生活は、

決して楽しいものではなかった。つ

わりがとても重かったのだ。食べて

は吐きを繰り返し、血も吐いた。

水も受けつけず、点滴で水分を補

給した。入院は2回した。1度目

はつわりの点滴入院。2度目は、情

緒不安定による入院――。

 

妊娠6カ月のときのことだ。つわ

りは一向に治まらず、私はうつ状

態になった。夜もほとんど眠れず、

布団の中で泣いていた。そんな私を

見て、夫が私の母に電話をした。

「もう実家に返しますよ」と。

 

次の日、私は手首を切った。

 

ナースステーションの前の個室に、

私は入院した。病室の窓は、開か

ないようにされた。涙が止まらな

かった。毎朝、看護師さんが来て、

おなかの赤ちゃんの心音を聞かせて

くれる。私の子として生まれて、こ

の子は幸せになれるのだろうか。そ

う思うと、また涙が出た。

 

病院食も、あまり食べられなかっ

た。開かない窓から陽が差す中、の

ろのろと箸を動かし、口に運んだ。

膳を下げてもらったあと、吐き気

がこみ上げた。トイレは病室の外に

ある。間に合わず、床に吐いてし

まった。ナースコールで看護師さん

を呼び、泣いて謝った。

 

看護師さんはニコリと笑い、「大

丈夫。びっくりしちゃったね」

 

そして、素早く床の物を片付け

てくれた。

 

床をきれいにすると、看護師さ

んがアロマの精油を持ってきてくれ

た。コットンに精油を湿らせ、机の

上に置いた。

 

看護師さんが去ったあと、枕に

頭を預け、ぼんやりとその香りを

吸った。目尻を伝う涙が次第に乾

いていく。その上をまた新しい涙が

伝っていくのが、不思議と心地よ

かった。

 

あのときの赤ちゃんは、無事生

まれた。弱い私から、色んな人がこ

の子を守ってくれた。私を守ってく

れた。あのときはごめんね、と娘の

頭をなでた。

 2歳を迎えたばかりの娘が夜中

に高熱を出した。1年前に肺炎で

入院した経過があるので朝を待た

ず夜間当番医を探した。見付けた

のは5年前に父を看取った総合病

院だった。父の入院期間は7カ月ほ

どだったが、当時のことを思い出し

少し重い気持ちになった。しかし、

真っ赤な顔で苦しそうに息をする

娘を見ると迷う余地はなく、電話

で予約し妻と急いで身支度を整え

ると病院へと車を走らせた。

 

夜間通用口から入ると、そこに

懐かしい顔が待っていた。父の入院

当時に大変お世話になった看護師

さんの1人だった。

 「受付から名前を聞いて、もしや

と思って待っていました。やっぱりあ

の時の息子さんですね」

 「はい。あの節は大変お世話にな

りました。今日は娘が……」

 

お辞儀をしてあらためて顔をう

かがうとその目に涙が浮かんでいた

ので驚いた。今は師長をされている

その方は、別の看護師さんに妻と

娘を診察室に案内するよう指示す

ると私を廊下に引き留めた。

 「お父さんはね、あなたの結婚を

ずいぶん心配されてたんですよ。娘

さんには申し訳ないけれどこうして

会えてよかった。お父さんとの約束

を果たせたようで安心しました」

 

そして当時、病室を訪れるたび

に父が話していたという心配ごとの

数々を話してくれた。まだ現役だっ

た職場のこと、早くに妻が他界し

たため男手で育てた私や姉のこと

など、家族にだからこそ言えなかっ

た父の悩みを聞いていたとのこと

だった。

 

父が他界し病院を出る時、ほか

の看護師さんたちがうつむく中、

彼女だけ表情を変えず黙って見送

る姿が印象的だったので、まさかそ

んなやり取りがあったとは思わな

かった。父の思いまで看ていただいて

いたことに5年たって気付かされた。

 

診察を終え安堵して戻った妻と

娘を穏やかな笑顔で迎える姿にあ

らためて感謝し、この上ない安心感

を持って病院を後にした。

【千葉県】小口

佳月 31歳

【東京都】伏見

浩之 56歳

柑橘系のアロマ

「思い」を看ていただいた

かん

きつ

けい

ふし

み 

ひろ

ゆき

ぐち 

づき

入 選入 選

一般部門一般部門

入 選入 選

一般部門一般部門

あん

だま

Page 3: 一般部門 - Japanese Nursing Association...22 21 り 妊娠6カ月のときのことだ。つわ緒不安定による入院――。はつわりの点滴入院。2度目は、情給した。入院は2回した。1度目水も受けつけず、点滴で水分を補は吐きを繰り返し、血も吐いた。わりがとても重かったのだ。

【主催】 厚生労働省/日本看護協会【後援】 文部科学省/日本医師会/日本歯科医師会/日本薬剤師会/全国社会福祉協議会【協賛】 日本病院会/全日本病院協会/日本医療法人協会/日本精神科病院協会/全国自治体病院協議会/ 日本助産師会/日本精神科看護協会/日本訪問看護財団/全国訪問看護事業協会/ テルモ(株)/東洋羽毛工業(株)/ナガイレーベン(株)/パラマウントベッドホールディングス(株)/ パルシステム生活協同組合連合会

www.nurse.or.jp

第9回

2019年「看護の日・看護週間」

「忘れられない  看護エピソード」集