球面の幾何学 - 青山学院大学nakayama/print/Kika2.pdf2 例題1 ABCと...

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1 テキスト  プリント  http://www.gem.aoyama.ac.jp/nakayama/print/ Def (Definition ) ··· けるこ Thm (Theorem ) ··· Prop (Proposition ) ··· ちょっ Lem (Lemma ) ··· くため Cor (Corollary ) ··· から かれる §1. 球面の幾何学 180 だろうか? (1) A, B か? を大円 いう. 大円 1つ ある. 大円 る. ,こ 大円 を, えていく. (2) ABC (以 r 1 する) A B る大円, B C る大円, C A る大円により, 8つ かれる.それぞれ を, ように,(1),(2),··· , (8) する. に対して, A, B, C をそれぞれ A * ,B * ,C * き,対 いう.

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3 テキスト 曲線と曲面の微分幾何 小林昭七著 裳華房3 プリント  http://www.gem.aoyama.ac.jp/~nakayama/print/

3 Def (Definition の略) 定義 · · · 名前を付けることThm (Theorem の略) 定理 · · · 重要な性質Prop (Proposition の略) 命題 · · · ちょっと重要な性質Lem (Lemma の略) 補題 · · · 定理を導くための道具となる性質Cor (Corollary の略) 系 · · · 定理から簡単に導かれる性質

§1. 球面の幾何学

3 三角形の内角の和は180度だろうか?

(1) 球面上の “線分”

3 球面上の2点A, Bを結ぶ最短曲線は何か?中心を通る平面と球面との切り口を大円という.例えば,赤道は大円の1つである.

3 球面上の2点を結ぶ最短曲線は大円の一部になる.以下,この大円の一部を,球面上の “線分”と考えていく.

(2) 球面三角形△ABCの面積(以下,球の半径 rは 1とする)

3 点AとBを通る大円,点BとCを通る大円,点CとAを通る大円により,球面は8つの部分に分かれる.それぞれの部分の面積を,図のように,(1),(2),· · · , (8)とする.

3 球の中心に対して,点A, B, Cの真反対の点をそれぞれA∗,B∗,C∗と書き,対心点という.

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例題 1 △ABCと△A∗BCを合わせた部分の面積 (1)+(3)は,角Aの大きさを∠Aとするとき,2∠Aになることを示せ.

問題 1 △ABC と△AB∗C を合わせた部分の面積 (1)+(4)を,角 Bの大きさ ∠Bを用いて表せ.また,△ABC と△ABC∗を合わせた部分の面積 (1)+(2)を,角 C の大きさ∠Cを用いて表せ.

例題 2 (1) = (8)を示せ.

問題 2 同様にして,(2), (3), (4)と同じ面積のものをあげよ.3 球面の面積は

(1) + (2) + (3) + (4) + (5) + (6) + (7) + (8) = 4π

より,上の考察から,球面三角形△ABCの面積 (1)が

∠A+ ∠B + ∠C − π

になることがわかる.一般には次が成り立つ.定理 1 (ガウス・ボンネの定理)

半径 rの球において,球面三角形ABCの面積は

r2(∠A+ ∠B + ∠C − π)

になる.

 系 2 三角形の内角の和は 180◦より常に大きく,いろいろな値を取ることができる.

§2. 平面曲線

定義 1 (曲線の表示)平面内の曲線上の点を,パラメータ tを使い,p(t) = (x(t), y(t))と表す.x = dx

dt, y = dy

dt

p = (x(t), y(t)); 速度ベクトル∥p∥ =

√(x(t))2 + (y(t))2; 速さ

s(t) =

∫ t

0

∥p(t)∥dt; 曲線の長さ

3 曲線のパラメータとしては曲線の長さを取ることが重要である.このとき,弧長パラメータという.

命題 3 曲線は曲線の長さ sでパラメータ表示すると速さが 1になる.逆に,速さが 1のパラメータ表示が弧長パラメータ表示になる.

命題 4 曲線の長さはパラメータの取り方によらない.

定義 2 p(s); 曲線の弧長パラメータ表示

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e1(s)を,p(s)における単位接ベクトルとする.特に,

e1(s) =dp

ds(= p′(s))

e2(s)を,e1(s)を反時計回りに 90◦度回転したベクトルとする.3 まとめ (e1, e2をフレネ標構という)

e1 = p′(s)

e1 · e1 = 1

e2 · e2 = 1

e1 · e2 = 0

命題 5 (内積の微分の公式) ddt(a · b) = a′ · b+ a · b′

命題 6 実数 κ(s)が存在して, {e′1 = κe2

e′2 = −κe1

が成り立つ.定義 3 κ(s)を曲線 p(s)の曲率 (curvature)という.

例題 3 p(t) =

(t

2t

)について,その曲率を計算せよ.

問題 3 半径 rの円{x(t) = r cos t

y(t) = r sin t

について,その曲率が常に 1rになることを示せ.

定義 4 e2(s)の始点を原点に集めて描くとき,ガウスの表示という.

定理 7

曲率が恒等的に 0になることと,曲線が直線になることは同値である.(必要十分条件)

定理 8

2つの平面曲線 p(s), p(s)の曲率をそれぞれ κ(s), κ(s)とする.曲線 p(s)を回転したり平行移動して曲線 p(s)にできることと,どのような sについても κ(s) = κ(s)が成り立つことは同値である.

例題 4 (楕円)

{x = a cos t

y = b sin t(a > b > 0)の曲率は

κ =ab

(a2 sin2 t+ b2 cos2 t)32

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になる.問題 4 (アステロイド曲線) (x(t), y(t)) = (cos3 t, sin3 t) (0 ≦ t ≦ π

2)の曲率を求めよ.

注意. (クロソイド曲線) (x(t), y(t)) =

(∫ t

0

cosau2

2du,

∫ t

0

sinau2

2du

)の曲率は時間に

比例する.このため,インターチェンジやジェットコースター等で利用されている.注意. 上の例題の解き方は一般的に成り立ち,曲率だけを求めるのならば,次の便利な公式がある.

xy − xy

(x2 + y2)32

ここで,x = dxdt, x = d2x

dt2.

定義 5

∫ b

a

|κ(s)|dsを全曲率という.

定義 6 p+ 1κe2のことを曲率の中心といい,曲率の中心の軌跡を縮閉線という.

曲線 cの縮閉線が ℓのとき,cを ℓの伸開線という.

§3. 空間曲線

p(s) =

x(s)y(s)

z(s)

(a ≦ s ≦ b); 空間曲線

ただし,sは弧長パラメータとする(すなわち,|p′(s)| = |dpds(s)| = 1)

p′(s)

=dp

ds=

x′(s)y′(s)

z′(s)

を e1(s)とする.

定義 7 |e′1(s)|を κ(s)と書き,曲線 p(s)の曲率という.

補題 9 e′1 ⊥ e1

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3 以下,κ(s) = 0と仮定する.

定義 8

{e2 =

1κe′1

e3 = e1 × e2

で e2, e3を定めるとき,補題より e1, e2, e3は正規直交基底になる.e1, e2, e3を,Frenet 標構 (Frenet frame)という.

定義 9 e2をのばした直線を主法線という.e3をのばした直線を従法線という.

補題 10 e′2 + κe1と e3は平行になる.

定義 10 e′2 + κe1 = τe3により τ を定める.τ を

れいりつ

捩率(torsion)という.

問題 5 e1 · e3, e2 · e3, e3 · e3を微分し,e′3 · e1,e′

3 · e2,e′3 · e3を求めよ.

補題 11 e′3 = −τe2

3 まとめ p′ = e1

e′1 = κe2

e′2 = −κe1 + τe3

e′3 = −τe2

(Frenet-Serretの公式という).e′1

e′2

e′3

=

0 κ 0

−κ 0 τ

0 −τ 0

e1

e2

e3

とも書く.

例題 5 曲線

x = a cos t

y = a sin t

z = b t

について,曲率 κ,捩率 (torsion),Frenetの標構を求

めよ.

答 p(t) =

a cos ta sin t

bt

, ddtp(t) =

−a sin ta cos t

b

s =

∫ t

0

∣∣∣∣ ddtp(t)∣∣∣∣ dt = ∫ t

0

√a2 + b2 dt =

√a2 + b2 t

dsdt

=√a2 + b2

e1 =dp

ds=dt

ds

dp

dt=

1√a2 + b2

(−a sin t, a cos t, b)

e′1 =

de1

ds=dt

ds

de1

dt=

1

a2 + b2(−a cos t,−a sin t, 0)

曲率 κ = |e′1| =

a

a2 + b2

e2 =1

κe′1 = (− cos t,− sin t, 0)

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e3 = e1 × e2 =

(b√

a2 + b2sin t,− b√

a2 + b2cos t,

a√a2 + b2

)e′2 =

de2

ds=dt

ds

de2

dt=

(1√

a2 + b2sin t,− 1√

a2 + b2cos t, 0

)e′2 + κe1 =

(b2

(√a2 + b2)3

sin t,− b2

(√a2 + b2)3

cos t,ab

(√a2 + b2)3

)捩率 τ = |e′

2 + κe1| =b

a2 + b2注意. tを sの関数で表さなくても曲率と捩率を求めることができる.

問題 6 定数 a (a > 0)について,曲線

x = a2t

y = at2

2

z = t3

6

について,曲率 κを求めよ.

注意. ちなみに,捩率は4a

(2a2 + t2)2になる.

定理 12

曲率 κが常に正であるとする.このとき,捩率 τ がいたるところ 0になることの必要十分条件は,p(s)が一つの平面に含まれることである.

定理 13

空間内の2曲線 p(s)と p(s) の曲率と捩率をそれぞれ κ(s), τ(s) , κ(s), τ(s)とするとき,回転と平行移動で曲線 p(s)と p(s)が重ねられるための必要十分条件は,

κ(s) = κ(s),かつ,τ(s) = τ(s)

である.

公式 1 曲線 pが弧長パラメーター以外で表されていてもよい.

p =dp

dt, p =

d2p

dt2,...p =

d3p

dt3とおくとき,

κ =|p× p||p|3

τ =det(p, p,

...p)

|p× p|2

問題 7 定数 a > 0について,空間内の曲線 x2 + z2 = a2, y = 0の曲率と捩率を求めよ.

定義 11 曲線 p(s) (a ≦ s ≦ b)について,∫ b

a

κ(s) dsを全曲率という.

§4. 空間内の曲面

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定義 12 (曲面のパラメータ表示)

曲面上の点を変数 u, vを用いて,(x(u, v), y(u, v), z(u, v))と表す.このとき,行列(∂x∂u

∂y∂u

∂z∂u

∂x∂v

∂y∂v

∂z∂v

)をヤコビ行列という.ヤコビ行列の階数が 2になるような点からなる集合を曲面片といい,曲面片の集まりを,本来,曲面という(専門的には,2次元多様体という).

(1) 曲面 z = f(x, y) は x = u

y = v

z = f(u, v)

と表せる.例題 6 (u, v, f(u, v))で表される曲面が,曲面片になることを示せ.3 F (x, y, z) = 0で表される曲面は z = f(x, y)と表されるとは限らない.

(2) 球面 x2 + y2 + z2 = a2 (a > 0)の場合(a) z = f(x, y)によるパラメータ表示

問題 8 z > 0のとき,

x = u

y = v

z =√a2 − u2 − v2

について,ヤコビ行列を求め,曲

面片であることを示せ.

3 z < 0のときは

x = u

y = v

z = −√a2 − u2 − v2

が曲面片になる.

しかし,これだけでは z = 0となる部分が覆いつくせていない.

x > 0のとき

x =

√a2 − u2 − v2

y = u

z = v

, x < 0のとき

x = −

√a2 − u2 − v2

y = u

z = v

,

y > 0のとき

x = u

y =√a2 − u2 − v2

z = v

, y < 0のとき

x = u

y = −√a2 − u2 − v2

z = v

の6枚が必要になる.(このように,図形を部分部分に切って調べる考え方を多様体論という.多様体論では,ヤコビ行列の階数を計算し,切り口の図形の性質を調べたりする(参考文献:多様体の基礎,松本幸夫著,東大出版会)).

(b) 極座標によるパラメータ表示x = a cosu cos v

y = a cosu sin v

z = a sinu

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(曲率を計算するのにはこちらが便利)

(3) 回転面の表示(x, z)平面上に,z軸と交わらない曲線

x = f(u), z = g(u)

をとる.これを z軸のまわりに回転すると.xyz

=

cos v − sin v 0

sin v cos v 0

0 0 1

f(u)0

g(u)

となる.従って,回転面は

x = f(u) cos v

y = f(u) sin v

z = g(u)

と表せる.例えば,

(a) 球面 x2 + y2 + z2 = a2 (a > 0)のとき,f(u) = a cosu, g(u) = a sinu

(b) 輪環面 (torus) のときは,r < Rとし,f(u) = R + r cosu, g(u) = r sinu

とすればよい.

(4) 回転面の類似として, x = f(u) cos v

y = g(u) sin v

z = h(u)

で表される曲面がある.

(a) 楕円面 x2

a2+ y2

b2+ z2

c2= 1のときは,

f(u) = a cosu, g(u) = b cosu, h(u) = c sinu

(b) 一葉双曲面 x2

a2+ y2

b2− z2

c2= 1のときは,

f(u) = a coshu, g(u) = b coshu, h(u) = c sinhu

(coshx = ex+e−x

2, sinhx = ex−e−x

2, cosh2 x− sinh2 x = 1)

(c) 二葉双曲面 x2

a2+ y2

b2− z2

c2= −1のときは,

f(u) = a sinhu, g(u) = b sinhu, h(u) = c coshu

とすればよい.

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§5. 曲面の曲率

曲面 p = (x(u, v), y(u, v), z(u, v))について,pu =

(∂x∂u, ∂y∂u, ∂z∂u

), pv =

(∂x∂v, ∂y∂v, ∂z∂v

)を考える.

このとき,ベクトル pu, pvは曲面に接している.注意. x, y, zは十分に微分可能性が高いものとする.定義 13 変数E,F,Gを次により定義する.

E = pu · pu(内積)

F = pu · pv

G = pv · pv

便宜上,行列を使い, (E F

F G

)と書くことが多い.

定義 14 (第一基本形式)曲面 p(u, v)の第一基本形式とは,

I = Edudu+ 2Fdudv +Gdvdv

のこととする(数学的な意味は後述.ここでは積分記号と同じような記号と思ってほしい).

覚え方dp

dt=∂p

∂u

du

dt+∂p

∂v

dv

dt= pu

du

dt+ pv

dv

dtこの分母の dtを払うと,dp = pudu+ pvdv.

一方,I = dp · dp = (pudu+ pvdv) · (pudu+ pvdv)

= pu · pu dudu+ pu · pv dudv + pv · pu dvdu+ pv · pv dvdv

= pu · pu dudu+ 2pu · pv dudv + pv · pv dvdv

定義 15 ベクトル

e =pu × pv

|pu × pv|(×は外積)

は,曲面に垂直なベクトルで長さは 1になる.

3 puu =∂2p

∂u2, pvv =

∂2p

∂v2, puv =

∂u

∂p

∂vとする.

注意. |pu × pv|2 = |pu|2|pv|2 − (pu · pv)

2, puv = pvu

定義 16 (第二基本形式)L,M,N を

L = puu · e

M = puv · e

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N = pvv · e

により定義するとき,曲面の第二基本形式とは,

II = Ldudu+ 2Mdudv +Ndvdv

のこととする.補題 14 このとき,次が成り立つ.

L = −pu · eu

M = −pu · ev = −pv · eu

N = −pv · ev

Proof. 法線ベクトル eは puと pvに直交しているので,pu · e = 0と pv · e = 0が成り立つ.両辺を偏微分すると,

puu · e+ pu · eu = 0

puv · e+ pu · ev = 0

pvu · e+ pv · eu = 0

pvv · e+ pv · ev = 0

が導ける.従って,L = −pu · eu, M = −pu · ev = −pv · eu, N = −pv · ev が成り立つ.

覚え方 II = −dp ·de = −(pudu+pvdv) · (eudu+evdv) = Ldudu+2Mdudv+Ndvdv

定理 15

λに関する方程式 ∣∣∣∣∣L− λE M − λF

M − λF N − λG

∣∣∣∣∣ = 0

は実根を持つ.但し,重解になるときもある.

定義 17 この解をそれぞれ κ1, κ2とするとき,

K = κ1κ2をGauss 曲率,

H =1

2(κ1 + κ2)を平均曲率

という.ここで,重解を持つときはK = κ21, H = κ1とする.

注意.

∣∣∣∣∣L− λE M − λF

M − λF N − λG

∣∣∣∣∣ = 0より,

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(EG− F 2)λ2 − (EN +GL− 2FM)λ+ LN −M2 = 0が成り立つ.解と係数の関係より,λ2 − 2Hλ+K = 0から,

定理 16

K = κ1κ2 =LN −M2

EG− F 2

H =1

2(κ1 + κ2) =

EN +GL− 2FM

2(EG− F 2)

例題 7 (楕円面:x2

a2+ y2

b2+ z2

c2= 1の曲率)

p(u, v) = (a cosu cos v, b cosu sin v, c sinu)

で表される楕円面について,Gauss 曲率Kと平均曲率Hを求めよう.

pu = (−a sinu cos v,−b sinu sin v, c cosu)pv = (−a cosu sin v, b cosu cos v, 0)puu = (−a cosu cos v,−b cosu sin v,−c sinu)

puv = pvu = (a sinu sin v,−b sinu cos v, 0)pvv = (−a cosu cos v,−b cosu sin v, 0)E = pu · pu = a2 sin2 u cos2 v + b2 sin2 u sin2 v + c2 cos2 u

F = pu · pv = (a2 − b2) sin u sin v cosu cos v

G = pv · pv = a2 cos2 u sin2 v + b2 cos2 u cos2 v

pu × pv = (−bc cos2 u cos v,−ac cos2 u sin v,−ab sinu cosu)

∆ =√b2c2 cos2 u cos2 v + a2c2 cos2 u sin2 v + a2b2 sin2 uとするとき,

e =1

∆(−bc cosu cos v,−ca cosu sin v,−ab sinu)

L =abc

∆M = 0

N =abc

∆cos2 u

K =LN −M2

EG− F 2=a2b2c2

∆4

H =EN +GL− 2FM

2(EG− F 2)

=abc{(a2 + b2 + c2)− (a2 cos2 u cos2 v + b2 cos2 u sin2 v + c2 sin2 u)}

2∆3

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ちなみに,K, Hは x, y, zで表すことができて,

K =1

a2b2c2(x2

a4+ y2

b4+ z2

c4)2

H =(a2 + b2 + c2)− (x2 + y2 + z2)

2a2b2c2(x2

a4+ y2

b4+ z2

c4)32

となる.特に,半径 aの球面の場合は,

K =1

a2, H =

1

a

問題 9 円筒 x = cos u

y = sinu

z = v

について,Gauss 曲率K, 平均曲率Hを計算せよ.定義 18 K > 0となる点を楕円点 (elliptic point),K < 0となる点を双曲点 (hyper-

bolic point), K = 0となる点を放物点 (parabolic point)という.

定理 17

曲面は楕円点では凸(見方によっては凹)に,双曲点では鞍状になる.

 例  z = f(x, y)とする. x = u

y = v

z = f(u, v)

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とおくとき,KとHを計算せよ.

p = (u, v, f)

pu = (1, 0, fu), pv = (0, 1, fv)

puu = (0, 0, fuu), puv = (0, 0, fuv), pvv = (0, 0, fvv)

pu × pv = (−fu,−fv, 1)

e =(−fu,−fv, 1)√1 + f 2

u + f 2v

E = pu · pu = 1 + f 2u

F = pu · pv = fufv

G = pv · pv = 1 + f 2v

EG− F 2 = 1 + f 2u + f 2

v

L = puu · e =fuu√

1 + f 2u + f 2

v

M = puv · e =fuv√

1 + f 2u + f 2

v

N = pvv · e =fvv√

1 + f 2u + f 2

v

LN −M2 =fuufvv − f 2

uv

1 + f 2u + f 2

v

EN +GL− 2FM =fvv(1 + f 2

u) + fuu(1 + f 2v )− 2fufvfuv√

1 + f 2u + f 2

v

K =fuufvv − f 2

uv

(1 + f 2u + f 2

v )2

H =fuu(1 + f 2

v )− 2fufvfuv + fvv(1 + f 2u)

2(1 + f 2u + f 2

v )32

fuufvv − f 2uv > 0のとき,K > 0になり楕円点になる.

fuufvv − f 2uv < 0のとき,K < 0になり双曲点になる.

3 (解析 Iの復習)z = f(x, y)について,

fx(0, 0) = 0, fy(0, 0) = 0

が成り立つとき,

(1) fxxfyy − f 2xy > 0のとき,極値を持ち,上に凸か凹になる.

(2) fxxfyy − f 2xy < 0のとき,極値を持たず,鞍状になる.

問題 10 f(x, y) = x3 − 3xy + y3の極値を求めよ.

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3 上の例は,z = f(x, y)が極値を取る場合について,その近くでの曲面の形を表している.更に,曲率が回転や平行移動により変わらないことを用いると,定理 17を証明することができる.

§6. 主方向

定義 19 Gauss曲率や平均曲率を求めたときの κ1, κ2を主曲率という.κ1, κ2は λに関する方程式 ∣∣∣∣∣L− λE M − λF

M − λF N − λG

∣∣∣∣∣ = 0 (1)

の解であった.この解 λに対して,(L− λE M − λF

M − λF N − λG

)(ξ

η

)= 0

を満たすベクトル

η

)= 0が存在する.いま w = ξpu + ηpvとするとき,w方向

の単位ベクトル,すなわち± w

|w|,を主方向 (principal direction)という.

(L M

M N

)(ξ

η

)= λ

(E F

F G

)(ξ

η

)

場合1 方程式 (1) が重解を持たない場合(κ1 = κ2のとき)それぞれの κiについて (i = 1, 2),(

L− κiE M − κiF

M − κiF N − κiG

)(ξiηi

)= 0

を満たす

(ξiηi

)が存在する.wi = ξipu + ηipvについて,± wi

|wi| を主方向とした.

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定理 18

κ1 = κ2のとき,w1,w2が直交する.

例題 8 曲面 z = f(x, y), f(x, y) = x3 − 3xy + y3について,(1, 1,−1)の主方向を求めよ.

場合2 方程式 (1) が重解を持つ場合(κ1 = κ2のとき)

定理 19

すべての方向が主方向になる.

このとき,せい

臍てん

点(umbilic point)という.問題 11 楕円面 x2

a2+ y2

a2+ x2

c2= 1について,点 (0, 0, c)が臍点かを調べよ.

§7. 正規直交標構

曲面 p(u, v)の各点に,直交する単位接ベクトル e1, e2が与えられているとする.(正確には,e1(u, v), e2(u, v)と書くべきだが,u, vを省略する.)

e1 · e1 = e2 · e2 = 1, e1 · e2 = 0

3 (作り方の例)ただし,計算が楽とは限らない.

e1 =pu

|pu|, e2 =

pv − (pv · e1)e1

|pv − (pv · e1)e1|

定義 20 e3 = e1 × e2

定義 21 行列A =

(a1

1 a21

a12 a2

2

)を,

{pu = a1

1e1 + a12e2

pv = a21e1 + a2

2e2

で定義する.注意. ここで,detA > 0と仮定する.もし,detA < 0のときは e1と e2を入れ替えればよい.

補題 20 pu × pv = (detA) e3

問題 12 上の補題を証明せよ.

定義 22 θ1, θ2を次式により定義する.θ1 = a1

1du+ a21dv

θ2 = a12du+ a2

2dv. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . (*)

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3 (覚え方) dp := pudu+ pvdv = (a11e1 + a1

2e2)du+ (a21e1 + a2

2e2)dv

= (a11du+ a2

1dv)e1 + (a12du+ a2

2dv)e2 = θ1e1 + θ2e2.

3 e1, e2, e3は1次独立より,

∂e1

∂u= k1e1 + k2e2 + k3e3

を満たす実数 k1, k2, k3が存在する.同様に,∂e1

∂v= h1e1 + h2e2 + h3e3を満たす実数 h1, h2, h3が存在する.

便宜上,de1 :=∂e1

∂udu+ ∂e1

∂vdvとすると,

de1 = (k1e1 + k2e2 + k3e3)du+ (h1e1 + h2e2 + h3e3)dv

= (k1du+ h1dv)e1 + (k2du+ h2dv)e2 + (k3du+ h3dv)e3

が成り立つ.

そこで,ω11 = k1du + h1dv, ω1

2 = k2du + h2dv, ω13 = k3du + h3dv とすると,

de1 = ω11e1 + ω1

2e2 + ω13e3が成り立つ.

言い換えると,de1 = ω1

1e1 + ω12e2 + ω1

3e3

を満たす duと dvの1次結合 ω11, ω1

2, ω13が取れる.

同様に,e2, e3についても行うと,duと dvの1次結合ω11, ω1

2, · · · , ω33が存在して,

次が成り立つ. de1 = ω1

1e1 + ω12e2 + ω1

3e3

de2 = ω21e1 + ω2

2e2 + ω23e3

de3 = ω31e1 + ω3

2e2 + ω33e3

が取れる.

命題 21 d(a · b) = da · b+ a · db

命題 22 ωij = −ωj

i (特に,ω11 = ω2

2 = ω33 = 0)

(*)より, {du = 1

a11a22−a12a21(a2

2θ1 − a21θ2)

dv = 1a11a22−a12a21

(−a12θ1 + a11θ2)

が成り立つ,いま,ω13と ω2

3は du, dvの1次結合より,{ω1

3 = b11θ1 + b12θ

2

ω23 = b21θ

1 + b22θ2

となる関数 b11, b12, b21, b22が存在する.

B =

(b11 b12b21 b22

)とするとき,

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補題 23 Bは対称行列になる.

L = −pu · eu, M = −pu · ev, N = −pv · evについて,S =

(L M

M N

)とすると,

S = tABAが成り立つ.これを使い,上の補題が証明される.問題 13 円筒 x = cos u, y = sinu, z = vについて,e1 = (− sinu, cosu, 0),

e2 = (0, 0, 1), e3 = (cosu, sinu, 0)とするとき,行列Bを求めよ.定義 23 第1基本形式

I = dp · dp = (θ1e1 + θ2e2) · (θ1e1 + θ2e2) = (θ1)2 + (θ2)2

第2基本形式II = −dp · de3 = θ1ω3

1 + θ2ω32

定理 24

Bの固有値は,それぞれ,主曲率 κ1, κ2になる.特に,Gauss曲率は detB = κ1κ2, 平均曲率は 1

2traceB = 1

2(κ1 + κ2)になる,

対称行列の固有値は実数より,主曲率は複素数にならない.

問題 14 円筒 x = cos u, y = sinu, z = vについて,Gauss曲率,平均曲率を求めよ.

§8. 平坦な曲面と極小曲面

定義 24 すべての点でGauss曲率Kが 0のとき,その曲面を平坦 (flat)という.3 すべての点について,曲面に含まれる直線が取れるとき,線織面という.たとえば,円筒は線織面である.

3 Gauss曲率が 0の線織面は,紙を折り曲げて作れることが知られている.定義 25 すべての点で平均曲率Hが 0のとき,その曲面を極小曲面という.

 例  (常ら

螺せん

旋面 (right helicoid))

曲面 x = u cos v

y = u sin v

z = av + b (a, bは定数)

を常螺旋面という.常螺旋面は極小曲面になる.

 例  針金で枠を作り,石鹸水につけて,引きあげると膜ができる.この膜がなす曲面は,その曲面積を最小にするような曲面になることが物理で知られている.定理 25

枠を固定した状態で曲面積が最小となるような曲面は極小曲面になる.

「曲線と曲面の微分幾何」小林昭七著,裳華房,2章問 2.4参照

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§9. (平面の)微分形式

(1) 微分形式

R2を平面とする.定義 26 R2上の 1次元微分形式 (1−form) とは,R2の点 pを始点とするベクトルXに,実数を対応させる写像 ω : R2 → Rであって,どんなベクトルX, Y,実数 k, lについても

ω(kX + lY ) = k ω(X) + l ω(Y )

が成り立つものをいう.

定義 27 すべての点 pについて,ベクトルX =

(a

b

)に対し,aを対応させる

関数を dxと書く.このとき, dxは微分形式になる.

dx(

(a

b

)) = a, dy(

(a

b

)) = b

定義 28 R2の関数 f, gについて,f dx+ g dyとは,

(fdx+ gdy)

(a

b

)= f

(dx

(a

b

))+ g

(dy

(a

b

))= f a+ g b

とする.

問題 15 1次微分形式 ω = x2dx+ xy dyについて,点

(1

−1

)におけるベクトル

v =

(2

1

)について,ω(v)の値を求めよ.

定義 29 R2上の 2次元微分形式 (2−form)とは,R2の点 pを始点とするベクトルX,Y に対し,実数を対応させる写像

ω : R2 × R2 → R

であって,次の式を満たすものとする.

ω(aX + bY,X2) = a ω(X,X2) + b ω(Y,X2)

ω(X1, cX + dY ) = c ω(X1, X) + d ω(X1, Y )

ω(X1, X2) = −ω(X2, X1)

定義 30 R2の 0−formとは,R2上の関数とする.

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(2) 外積

定義 31 2つの 1−form ω1, ω2について,2−form ω1 ∧ ω2を

ω1 ∧ ω2(X1, X2) = ω1(X1)ω2(X2)− ω1(X2)ω2(X1)

で定義する.命題 26 ω1 ∧ ω2 = − ω2 ∧ ω1

特に,ω ∧ ω = 0, dx ∧ dx = 0, dy ∧ dy = 0, dx ∧ dy = −dy ∧ dx

(3) 外微分定義 32 0−form f の外微分 df とは

df =∂f

∂xdx+

∂f

∂ydy

1−form ω = f dx+ g dyの外微分とは,

dω = df ∧ dx+ dg ∧ dy =

(∂g

∂x− ∂f

∂y

)dx ∧ dy

とする.2−form ω = f dx ∧ dyの外微分は 0とする(dω = 0).

問題 16 0-form f, gについて,d(fg) = df · g + f · dgが成り立つことを示せ.

定理 27

任意の関数 f について,d d f = 0

が成り立つ.

定理 28 (ポアンカレの補題)

1−form φ = f(u, v)du + g(u, v)dvが領域 a ≦ u ≦ b, c ≦ v ≦ dで連続微分可能で dφ = 0ならば,a ≦ u ≦ b, c ≦ v ≦ dで定義された関数 hで,φ = dhとなるものが存在する.

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(4) formの積分

定義 33 Rの上の区間 I = [a, b]について,1−form ω = f(x)dxの積分∫I

ωとは,

∫I

ω =

∫ b

a

f(x)dx

のこととする.3 x = g(t)により変数変換すると,dx = dg = dg

dtdtより,∫

I

ω =

∫ g−1(b)

g−1(a)

f(g(t))dg

dtdt

となる(変数変換の公式).定義 34 a ≦ x ≦ b, c ≦ y ≦ dで,2−form f(x, y)dxdyの積分を∫∫

f(x, y) dx ∧ dy

で定義する.このとき, {x = φ(s, t)

y = ψ(s, t)

により変数変換すると,∫∫f(φ(s, t), ψ(s, t))

(∂x

∂s

∂y

∂t− ∂x

∂t

∂y

∂s

)ds ∧ dt

が得られる(重積分の変数変換の公式)

3 外微分を使って,曲率をもう一通り定義できるが割愛する.定理 29 (ガウス・ボンネの定理)

曲面内の3角形 Sについて,∫S

κ θ1 ∧ θ2 = ∠A+ ∠B + ∠C − π

が成り立つ.Sが半径 rの球面のときは,κ = 1r2,

∫S

θ1 ∧ θ2 = (Sの面積)より,

1

r2(Sの面積) = ∠A+ ∠B + ∠C − π

が成り立つ.