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17 2 Daimler ダイムラー 訪問先 Daimler 住所:Epplestraße 225, 70567 Stuttgart, Germany 訪問日時 2010 1 13 日(水)13301630 対応者 Hiroshi Matsumoto(松本 博司) Manager, Strategic Energy Projects & Market Development Fuel Cell / EV GR/AFP Ronald Grasman, Diplom-Ingenieur (T.H.) Manager, Strategic Energy Projects & Market Development Fuel Cell / EV Arwed Niestroj Senior Manager, Fleet Operation, Fuel Cell & Battery Drive Development (1) サステイナブルモビリティの背景 人類は、 ①人口増加、 ②資源制約、 ③モビリティ需要の増加、 CO 2 排出量削減の必要性、 のために「サステイナブル なモビリティ」を必要とし ている(図 2-1)。 2-1.サステイナブルなモビリティが必要な理由 ドイツは 2020 年までに発電における原子力比率を 16%削減し(21%から 5%)、 代わりに石炭火力(褐炭)を 4%、天然ガス火力を 8%、風力を 4%増加させ る予定である(図 2-2)。ただし政権交代で政策が見直される可能性もある。 2-2.ドイツの電源構成の現状(2010 年)と将来(2020 年)目標 人口増加 資源制約 ③モビリティ需要の増加(全世界) ④CO 2 排出量削減の必要性

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2 Daimler ダイムラー

訪問先 Daimler 住所:Epplestraße 225, 70567 Stuttgart, Germany

訪問日時 2010 年 1 月 13 日(水)13:30~16:30 対応者 Hiroshi Matsumoto(松本 博司)

Manager, Strategic Energy Projects & Market Development Fuel Cell / EV GR/AFP

Ronald Grasman, Diplom-Ingenieur (T.H.) Manager, Strategic Energy Projects & Market Development Fuel Cell / EV

Arwed Niestroj Senior Manager, Fleet Operation, Fuel Cell & Battery Drive Development

(1) サステイナブルモビリティの背景

• 人類は、 ①人口増加、 ②資源制約、 ③モビリティ需要の増加、 ④CO2排出量削減の必要性、 のために「サステイナブル なモビリティ」を必要とし ている(図 2-1)。

図 2-1.サステイナブルなモビリティが必要な理由

• ドイツは 2020年までに発電における原子力比率を 16%削減し(21%から 5%)、

代わりに石炭火力(褐炭)を 4%、天然ガス火力を 8%、風力を 4%増加させ

る予定である(図 2-2)。ただし政権交代で政策が見直される可能性もある。

図 2-2.ドイツの電源構成の現状(2010 年)と将来(2020 年)目標

①人口増加 ②資源制約

③モビリティ需要の増加(全世界) ④CO2 排出量削減の必要性

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(2) Daimler のサステイナブルモビリティ開発

• Daimler のサステイナブルモビリティ開発の技術ポートフォリオを図 2-3 に

示す。

- ICE の 適化は、小さな改善でも大きな効果が期待できる。

- ハイブリッド化は、効率の向上に寄与する。

- 電動化(FCV、BEV)によるセロエミッション化が 終ゴールである。

図 2-3.サステイナブルモビリティ開発の技術ポートフォリオ

• CO2削減のためには、車両の電動化が必要である(図 2-4)。

- PHEV は運用の仕方の違いでさまざまなタイプがありうる(パラレル型、

シリーズ型、レンジエクステンダー型)。

図 2-4.車両の電動化

将来モビリティのためのエンジンの燃料

高性能内燃エンジン技術による車両の 適化

ハイブリッド化による去らなる効率の向上

FCV/EV によるエミッションフリー走行の実現

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• 水素は製造で多くのパスがあることがメリット(図 2-5)。

- 今日は、天然ガス改質と副生水素が主流だが、供給量は大きいため FCV 普

及の初期フェイズには適している。ただし副生水素は、品質上の問題がある。

図 2-5.水素製造のパス

• 第二世代バイオとして SunDiesel に期待している(図 2-6)。

- SunDieselは、同じ採取面積ならば食物由来バイオマスに比べて3倍の量(1

ha あたり量)を得ることができる。

- ドイツは平地が多いので、バイオマス収集コストも日本より小さい。

図 2-6.第二世代バイオの展開

天然ガス 改質

副生水素

石炭ガス化

再生可能エネルギー由来電力

原子力由来 電力

バイオマス ガス化

・短期的には石油産業における既存生産設備を利用可能 ・CO2 削減量は大きくはない ・CO2 ニュートラル ・持続可能性高い、エネルギー依存度低減 ・合成燃料や発電などと利用面で競合 ・多くの大規模洋上ウインドパークが建設予定 ・余剰電力の貯蔵に水素が利用可能 ・エネルギーミックス改善と CO2 バランスの同時達成 ・CO2 バランス良い ・原子力発電の拡大が見込まれる ・全体のエネルギーチェインの点で不安要因あり、資源制約あり ・化石エネルギーでは資源量 大 ・CCS が技術的・経済的に成立することが条件

・副生水素としての製造(アルカリ水電解など) ・短期的には既存生産設備を利用可能 ・低エネルギー投入量、低コスト、CO2 削減量は大きくはない、容量の制約あり

FCV 導入段階では、副生水素と天然ガス由来水素で大部分の水素需要を賄える → 徐々に再生可能エネルギー由来水素に移行する必要あり

ガソリン エンジン

ディーゼル エンジン

エタノール エコエタノール

バイオエステル BTL

・バイオマスからの合成 ・EUのディーゼル需要の20%まで供給可能性 ・CO2 排出量を 大で 90%削減 ・PM 排出量を 50%削減 ・CO、HC 排出量を 90%削減

食物由来 (第 1 世代)

第 2 世代バイオマス

バイオ燃料

CNG(天然ガス)

・タンク容積が大きい・航続距離が短い

・ガソリン・ディーゼルに比較して低排出量 ・低 PM 排出量 ・ガソリンエンジン比で CO2 を 大 20%削減 ・ターボエンジンに向いている

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(3) Daimler の FCV に関する取り組み

• Daimler は 1994 年以降、FCV の開発を進めてきた(図 2-7)。

図 2-7.Daimler による FCV 開発(1994~2010)

• Daimler の燃料電池自動車開発ロードマップを図 2-8 に示す。

- 現在、第一世代(A-Class)から第二世代(B-Class)に移行しつつあるとの

事である。今後、2015 年の商用化に向かって、顧客受容性向上、コスト削

減をさらに進めなければならない。

- バスも第二世代(ハイブリッド化)を来年に開発する。30 台を製造予定。

そのうち 10 台はハンブルグに導入されることが決まっている。すでに「プ

ロダクト」と呼べるレベルにある。

図 2-8.Daimler の燃料電池自動車開発ロードマップ

乗用車 (リードアプリケーション)

Generation 1 技術デモンストレーション

F-Cell

Generation 2 顧客の受容性 B-Class F-Cell

Generation 3 コスト削減 I

Generation 4

市場導入 コスト削減 II

Generation 5 量産

Generation 1 技術デモンストレーション

Generation 2 顧客の受容性

バス

Generation 1 技術デモンストレーション

Generation 2 顧客の受容性

Sprinter

将来世代 将来世代

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• FCV の開発(B-Class)(図 2-9):

- B-Class はアセンブリが開始された段階である(2009 年 12 月にモナコでプ

レス発表)。現在 50~60 台を製造予定(合計で 200 台程度を製造予定)。

図 2-9.B-Class の開発

• FC バスの開発(図 2-10):

- HyFeet:CUTE は 2009 年に終了し、2009 年 10 月に 終カンファレンスを

開催した(ただしハンブルグでは運用が続いている)。

- 新型の Citaro Fuel Cell-Hybrid バスは出力 220kW。リチウムイオン電池

18 kWh を搭載(効率は車両効率)。

図 2-10.FC バスの開発

車体 B-Class FC システム PEFC 80 kW 出力 70 kW(連続)

100 kW(ピーク) 大トルク 320 Nm

燃料 水素(70 MPa) 航続距離 400 km

高速度 170 km/h 電池 Li-Ion 6.8 Ah、1.4kWh

24 kW(連続) 30 kW(ピーク)

車体 A-Class FC システム PEFC 72 kW 出力 45kW(連続)

65 kW(ピーク) 大トルク 210 Nm

燃料 水素(35 MPa) 航続距離 170 km

高速度 140 km/h 電池 NiMH 6 Ah、1.2kWh

15 kW(連続) 20 kW(ピーク)

重量 空車重要 13,200 kg 総重量18,000 kg(目標)

出力 220 kW < 15~20 秒 タンク 水素 35 kg

(35 MPa) 航続距離 >250km電池 Li-ion 18 kWh 水素消費量 10~14 kg / 100 km

大効率 58 %

重量 空車重量 14,200 kg総重量18,000 kg

出力 205 kW < 15~20 秒タンク 水素 40~42 kg

(35 MPa) 航続距離 180~220km電池 なし 水素消費量 20~24 kg / 100 km

大効率 48 %

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• 世界で FCV・FC バスフリートを実施している(図 2-11)。

- B-Class は欧州と米国に導入予定(日本にも導入したい)。FC バスはハン

ブルグに導入予定。

図 2-11.Daimler の FCV・FC バスフリート(終了プロジェクト含む)

• FCV のコストダウンの可能性(図 2-12):

- 競争、技術革新、量産によって 2 桁のコストダウンを達成する。

- 技術革新・進展には、従来技術の改良だけでなく、ブレークスルー的な革新

技術(例.新規の電極触媒)も含んでいる。

図 2-12.FCV のコストダウンの可能性

コスト

現在 商業化可能な 市場導入モデル

将来の ICE パワートレイン

サプライヤ間の競争によるコストダウン

技術革新・進展によるコストダウン

量産によるコストダウン

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• Daimler の BlueZERO コンセプト(図 2-13):

- E-CELL(航続距離 200 km)、F-CELL(400 km)、E-CELL Plus(レン

ジエクステンダーとして 600 km。EV モードでは 100 km)

- BlueZEROコンセプトでは、異なる技術に同じプラットフォームを用いる。

ドライブトレインは、すべてベースメントに設置する。

- 同一プラットフォームとするのは、車両開発における企業の哲学であり、ま

た開発コストの低減のためでもある。

- BlueZERO コンセプトとしては、セダンもありうる。

- E-CELL (BEV)は冬場の暖房のために、走行距離の短縮は避けられない。

図 2-13.BlueZERO コンセプト

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• BEV と FCV の比較を図 2-14 に示す。FCV の課題は、コスト、耐久性、再生

可能エネルギー由来水素の利用、水素インフラ整備、基準標準である。

図 2-14.まとめ:BEV と FCV の課題

(4) インフラ整備

① ステーション整備

• Daimler では、初期の段階は主要都市でクラスターを形成し、その後に都市間

を接続するコリドーを形成、 後に全国をカバーするネットワーク(1000 ス

テーション程度)を形成するというシナリオを描いている(図 2-15)。

- 商用ステーションのコストは、今後関係者と慎重な協議を進めてゆくことに

なる。規模やスペックにもよるが、200 万ユーロ前後と見積もっている。

- 米国では、商用ステーションのコストを 400~600 万ドルと見積もっている

が、あまりに高すぎ、誤ったメッセージを伝えることになる。

図 2-15.ステーションの展開のイメージ

組み合わせによる強み

・ゼロエミッションによる CO2 の

削減 ・エネルギーの効率的利用 ・石油からの独立性向上 ・電気駆動による快適な走行 ・低ノイズ

ユーザープロファイル 低運用コストと適度な走行性

能によるシティビークル利用

ユーザープロファイル 大積載量、長航続距離、高走

行性能のサステイナブル車両

強み

課題

・短充填時間、長航続距離 ・大型車・商用車にも適用可能 ・部品が高コスト ・FC の耐久性 ・再生可能エネルギー由来水素の必要性 ・水素インフラの不在 ・基準・標準

・エネルギー効率と低エミッションの 点で優れている ・充電時間の長さと航続距離の短さ ・バッテリが高コスト ・バッテリの耐久性と容量が課題 ・充電インフラの不在

BEV と FCV はユーザープロファイルを補完し、あらゆる走行ニーズに応えることが可能

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• 2015 年以降のFCV実用化、一般普及開始のため、水素ステーションインフ

ラ整備のためにコンソーシアム設立を協議・検討している。

- 今後数年の間に、どのようなビジネスモデルが成り立つのかといった経済合

理性や、具体的なステーションの設置数、時期、方法、事業性などを関係者

と議論を行ってゆく予定である。

- また、政府からの財政面での何らかの支援も必要であると考えている。

② 充填に関する考え

• Daimler は、充填プロトコル SAE J2601 を支持している。

- 3 分充填を達成する充填速度、プレクール、コミュニケーションは必須と考

えている。

• Daimler は 70MPa 充填を支持している(図 2-16)。

- 天然ガス(1.74 MJ)から高圧水素(1 MJ)を製造する場合(天然ガスの製

造段階から充填まで)、70MPa レベルへの加圧に要するエネルギーは、

35MPa レベルに加圧する時のエネルギーより 0.06MJ(元のエネルギー比

でわずか 3.6%)だけ高いにすぎない。

図 2-16.700 bar(70MPa)に加圧に要するエネルギー

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(5) ディスカッション

① FCV 開発

• AFCC との関係:

- Daimler は、AFCCを 50.1%所有している(Ford が 30%、Ballard が 19.9%)。

CEO(Dr. Andreas Truckenbrodt)は Daimler 出身である。

- FCエンジンシステムを開発する NuCellSys は Daimler と Ford で所有して

いたが、2009 年に Daimler の所有となった。

- Ballard 社との関係においては、Daimler としてより FC 技術の自動車技術

への応用により集中・特化し、Daimler がその分野において、よりリードで

きる体制を確立させるため、現在のような形態(AFCC が Ballard 社から分

離独立)となった。

• 2015 年までの移行期である現在こそ重要である。短期(移行期)と長期の両

方の視野が重要である。

- 2015 年に向かっての問題はコスト低減と耐久性。DOE の目標を達成するの

は容易ではない。

- FCV の価格は、ハイブリッドか、それよりやや高い程度を目指す。ラグジ

ュアリーカーの多い Daimler だから高価格でもよい、とうことはない。

② DOE のラーニング・デモンストレーションへの参画:

• Daimlerは 2004年に、BPと組んでDOEのデモンストレーションに参加した。

• 2009 年に契約が終了するときに、BP は参加を取りやめ、Daimler のみ 2010年まで延長した。

• 現在 DOE に対して、現在の自動車メーカー=石油会社のパートナー制は適当

ではなく、JHFC のように全メーカーでインフラを共有するのが良い、と伝え

ている。

③ インフラ整備

• 水素ステーション展開シナリオ:

- H2 Mobility の取り組みに対して、中立の立場となりうる第三者機関(研究

機関、コンサルなど)が、各社からの同意と機密保持を前提に個別に協議の

場を設け、総合シナリオ案の作成、合意を提案している。これは DOE のデ

モンストレーションにおける NREL の役割と同じである。

- H2 Mobility は、ドイツに限定する必要はない。

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- GermanHy や HyWays はシミュレーションであるが(例. GermanHy は

3 つのケースをシナリオに想定している)、今回のステーションシナリオは、

より現実的な展開シナリオを基にしている点で異なる(リアル・シナリオ)。

• ドイツでは、天然ガスステーションが 850 か所ある(ガソリンスタンドは

14,500 か所)。決して多くはないが、利用者からは不満は出ていない。

• インフラ企業の動向:

- 米国系のオイルメジャーに比べ、Shell を筆頭に欧州のオイルメジャー、エ

ネルギー企業は水素インフラへの投資を続けているが、それも自動車メーカ

ーの投資額に比べれば少ない(Shell の投資額は 100 万ユーロレベルである

のに対し、Daimler はこれまでに 10 億ユーロ以上を投資している)。

- 自動車メーカーは現状でリターンがないにも関わらず、FCV 開発の投資を

しなければならない。

• Daimler は 70 MPa 充填にコミットしている。顧客は日常使用に不自由のない

航続距離が必要である。シュツットガルド空港 OMV ステーションのように、

70MPa 充填、コミュニケーションがめざす方向である。

• ステーション整備には長期的プランが必要。ステーションは、実際の走行して

いる車両のためと、市場の安心のために必要である。

④ 国の政策

• 米国新政府はプラグインハイブリッドを 100 万台規模で普及させようとして

いるが、決して簡単な数字ではないと考えている。CO2の削減効果も利用方法

にもよるが、FCV に比べると効果は小さい。今こそ FCV への投資を始めるべ

き。

• 日本における車載容器の認証において米国・欧州間の認証と同等の認可制度を

進めていただきたいと考えている。燃料電池自動車など先端技術・製品の国際

的な導入障壁をなるだけ低くしないと、世界的な普及が遅れることになりかね

ない(日本でも現在、B-Class 導入を関係機関と協議中であるが、まだ、導入

の目処は立っていない)。是非、日本の関係者に現状を理解いただけるように

伝えていただきたい。現在は、まだこういった先端技術には一層の協力や支援

が必要な時期である。

• CCS の導入については良く分からない。市民は CCS に対して否定的。日本と

同様に、CO2を貯留する場所がなく、NIMBY の問題がある。現在は、政府の

シナリオにも CCS はない。

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• ドイツ政府のエネルギー政策:

- 原子力発電量削減のために石炭火力を増加させることに関して、新政府は見

直しを考えている。

- ドイツは、天然ガスの大部分はロシア・ウクライナから輸入している。

⑤ その他

• 社会へのメッセージ:

- FCV に対するコミットメントに関しての、強いシグナルが必要。だからこ

そ、日本の自動車メーカーを含む LoU が重要な意味を持つ。

- 欧州のエネルギー企業は FCV が市場にある規模の台数が出てくるならば、

水素ステーションに投資すると言っている。よって、自動車メーカーの強い

コミットメントが必要。

- ドイツ連邦政府は自動車会社に対してコミットメントを求めている。これに

対して、たとえばハンブルグなど自治体はエネルギー企業にも同等の力強い

コミットメントを要望している。

• カリフォルニア:

- CaFCP では、2009 年 2 月に水素ステーション展開の「Action Plan」を公

表したが、これは自動車メーカーの FCV コミット台数に基づいている。

- UC Davis の Joan Ogden 教授によれば、LA 地域では 20 か所の水素ステー

ションで利用者のベネフィットは十分に大きい。また、それ以上にステーシ

ョンを増やしても、社会的なベネフィットの増加量(限界便益)は低下する

とのことである。よって初期には、ステーションは 5~10 か所/都市で十分

であろう。

- 現在、米国(カリフォルニア州)のステーションの充填仕様や運用者、パブ

リックアクセスの可否、さらには公的財政支援の可能性などの協議、検討を

行っている。

- カリフォルニアは 70~80 年代に自動車由来の大気汚染に悩み、ZEV 法を実

施した。FCV 導入や水素ステーションの整備も ZEV 法が主たる理由。また

カリフォルニア州の FCV 志向は、個人(シュワルツネッガー知事)の強い

リーダーシップによる功績が大きい。

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3 ドイツ水素・燃料電池機構(NOW)

訪問先 ドイツ水素・燃料電池機構(NOW) 住所:(TOTAL 水素ステーションで実施)

訪問日時 2010 年 1 月 14 日(木)10:00~12:30 対応者 Dr. Klaus Bonhoff

Managing Director (Chair) Steffi Rode

NOW / IPHE Secretariat

(1) Electric Mobility 政策と NOW

① NIP と BMVBS- Elektromobilität プログラム

• ドイツの将来自動車の燃料のロードマップを図 3-1 に示す。

- 終目標は化石燃料の削減(石油依存度の低減)と交通部門からの CO2 排

出量の大幅削減である。

- ドイツは、長期的には BEV と FCV の両方を目指すという政策的なコミッ

トメントを示している8。

図 3-1.ドイツの将来自動車の燃料ロードマップ

8 2008 年度の訪問時にはドイツ連邦交通建設住宅省(BMVBS)の Nilgün Parker が、「 終目標はバ

ッテリ EV、FCV・水素 ICE である。ドイツ連邦交通建設住宅省の見るところでは、バッテリ EVと FCV・水素 ICE の間に特に競合は無く、異なる利用者・異なる利用法で住み分けられると思わ

れる」と述べている。

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• 自動車に関しては、ハイブリッド車、PHEV/BEV、FCV がすべて「車両電動

化(Electric Mobility)」のもとに並行して進められている(図 3-2)。

- NIP(水素・燃料電池技術革新プログラム:2007~2016 年) NIP は水素燃料電池におけるライトハウスプロジェクト。合計 14 億ユーロ

を水素・燃料電池の技術開発と展開に当てる。交通建設住宅省はデモンスト

レーションを、教育省は R&D をファンドする。

- BMVBS-Elektromobilität(電気交通のモデル地区展開:2010~2011 年) BMVBS-Elektromobilität9は、BEV・ハイブリッドに関するモデル地域展

開プロジェクト。経済刺激策の一環として、今後 2 年間に 5 億ユーロを投入

する。教育省はリチウムイオン電池の研究開発を、経済技術省は製造技術・

グリッドとの接続を、環境省は再生可能エネルギーの増加を、交通建設住宅

省は電動車両のモデル地域の策定と運用に興味がある。

図 3-2.BMVBS- Elektromobilität と NIP とプログラム

② NIP(水素・燃料電池の技術開発とデモンストレーション)

• 水素・燃料電池技術革新プログラムは、官民が協力・リスク負担を行い、10年間(2007 年~2016 年)で合計 14 億ユーロを水素・燃料電池技術開発、展

開に当てるものである。

- NIP の予算(14 億ユーロ)は官民で 50:50 ずつ負担する(表 3-1)。官

の 7 億ユーロに関しては、通建設住宅省が 5 億ユーロを主にデモンストレー

ション関係に、教育省が 2 億ユーロを主に研究開発に負担する。

9 BMVBS は「ドイツ連邦交通建設住宅省」をさす。

ハイブリッド 車両

(道路 / 列車)

プラグイン EV (PHEV)

とバッテリ EV (BEV)

水素・燃料電池 自動車 (FCV)

・効率の向上・CO2 フリーモビリティの可能性

パワートレインの電動化:

エレクトリック・モビリティ

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表 3-1.水素・燃料電池技術革新プログラムの予算(2007 年~2016 年) 政府資金 教育省(BMBF):R&D 分野 2 億ユーロ

交通建設住宅省(BMVBS):デモンストレーション分野 5 億ユーロ

民間資金 7 億ユーロ

合計 14 億ユーロ

• NIP の目的は以下のとおり:

- FCV 車両のフリートと水素インフラ整備の拡大

- 企業の技術的コンピタンスの向上と、競争力のあるサプライ産業(部品など

の周辺技術)の育成と巻き込み

- 社会受容度の向上(公共ステーションに対する社会需要度の検討のため

「HyTRUST」を実施)

• NIP は、ドイツでも珍しい省庁間協力の実例であり、4 省が協力している(交

通建設住宅省、経済技術省、環境省、教育省)。

• 経済危機にも関わらず、現在までに 7 億 9000 万ユーロ分のプロジェクトが決

まっている。これは企業の、水素・燃料電池分野への多大なるコミットメント

を示している(図 3-3)。

図 3-3.NIP の進捗

交通部門(54%) ・ 水素製造、水素インフラを含む ・ 車両フリートの拡大、水素インフラ整備

(ベルリン、ハンブルグから拡大)

定置部門(36%) ・ 家庭用 FC ・ 産業用 FC(CHP)

特殊部門(10%) ・ 非常用電源、通信産業向け電源 ・ フォークリフト、レジャー、旅行市場

118800 ププロロジジェェククトト ((提提案案・・承承認認))

現現在在ののププロロジジェェククトト総総額額 779900 mmiill..€€

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③ BMVBS-Elektromobilität(BEV、ハイブリッドのモデル地区展開)

• BMVBS-Elektromobilität プロジェクトは、景気刺激策(Konjunkturpaket II)の一環として進められており、複数の地域をモデル地域として指定し、公共交

通を含めた電気化・モーダルシフトの実証を行う(2010~2011 年)。新しい

ビジネスモデルを作成するのが目的である(図 3-4)。

- 景気刺激策において、車両電動化(エレクトリックモビリティ)に対する政

府予算総額は 5 億ユーロだが、そのうちの 1 億 1500 万ユーロが BMVBS- Elektromobilität に使用される。

- 2020 年までに 100 万台の電動車両を導入する。そのために、バッテリテス

トセンター(交通建設住宅省が主導)やトレーニングセンター(教育省が主

導)を建設する。

- ドイツでは、CO2 削減のために、BEV 普及には再生可能エネルギー由来電

力を使う必要があるとのコンセンサスがある。

図 3-4.BMVBS-Elektromobilität のコンセプト

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(2) ドイツ水素・燃料電池機構(NOW)

• ドイツ水素・燃料電池機構(NOW)10は、水素・燃料電池の技術開発とデモンス

トレーションの管理とコーディネーションのために設置された(図 3-5)。

- NOW は、企業と政府のインターフェイス機関。NOW のアドバイザリボー

ドには、石油会社、電力会社などが参加しており、プログラムにおける戦略

的方向性を議論している(図 3-6)。

• 現在 NOW は、NIP(水素・燃料電池技術革新プログラム:2016 年まで)と

BMVBS- Elektromobilität プログラム(2011 年まで)の両方を担当している。

- このことは、水素燃料電池(FCV)と EV が競合しないことを示している(図 3-7、図 3-8、図 3-9)。

- BMVBS-Elektromobilität を担当することになり、NOW の名称(Nationale Organisation Wasserstoff- und Brennstoffzellentechnolog)も変更すると

いう議論もあったが、当面は変更しないことになった。ただし将来のことは

分からない。

図 3-5.NOW:NIP と BMVBS- Elektromobilität

図 3-6.NOW が実施している NIP と BMVBS- Elektromobilität

10 Nationale Organisation Wasserstoff- und Brennstoffzellentechnologie:NOW)

市場導入に必要な仕組み

の構築

・ エレクトロモビリティより、「モデル地域」に 115 mil €

・ 統合的デモンストレーションプロジェクトの実施

水素・燃料電池技術革新プログラム ・ 総額 1.4 bil. € ・ 市場導入 ・ デモンストレーション、R&D 2016

 

実施、コーディ

ネーション

2007

2011

2009

N O W国際協力 / コミュニケーション

NIP 水素・燃料電池の市場形成

BMVBS-Elektromobilität エレクトリック・モビリティ(電池技術)

ライトハウスプロジェクト モデル地域

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図 3-7.水素(70MPa)とリチウムイオン電池のエネルギー密度比較 出所:GM

図 3-8.BEV と FCV の住み分け 出所:GM

図 3-9.各種車両の WtW エネルギー消費量と CO2 排出量

Batteriefahrzeug(Betrieb mit Strom aus 100%

EU-Mix)

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Energieverbrauch Well-to-Wheel [MJ/100km]

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25

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75

100

125

150

Verbrennungsmotoren

Benzin

Hybrid(Benzin)

Diesel

Hybrid (Diesel)

BZ-Fahrzeug (Betrieb zu 100% aus

erneuerbar gewonnenem H2)

Batteriefahrzeug(Betrieb mit Strom aus 100% erneuerbaren Energiequellen)

Plug-In Hybrid mit BZ(Betrieb mit Strom aus 100% erneuerbaren Energiequellen)

BZ-Fahrzeug (Betrieb zu 100% mit

H2 aus fossilen Quellen)

*GHG: Green House Gas

Batteriefahrzeuge haben eine geringe Reichweite und lange Ladezeit

175

200

EV(再生可能エネルギ

ー由来電力 100%)

PHEV(再生可能エネル

ギー由来電力 100%) EV(EU 電源構 成 100%)

FCV(化石エネルギ

ー由来水素)

FCV(再生可能エネ

ルギー由来水素)

WtW エネルギー消費量[MJ/10km]

CO

2排

出量

[g-C

O2e

q/km

]

FCV: 航続距離>400km、充填時間 3 分EV: 小型・都市内利用(航続距離 100~150km)、夜間充電

ガソリン

HEV

ディーゼ

ルHEV ディーゼ

ルICE

ガソリン

ICE

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(3) クリーン・エネルギー・パートナーシップ(Clean Energy Partnership:CEP)プロジェクト

• CEP プロジェクトは、2008 年よりフェイズ II に入った(表 3-2)。展開地も

ベルリンだけからハンブルグに拡大した。

• 水素インフラネットワーク(図 3-10):

- 2010 年 6 月にベルリンに新ステーションが開設される(Shell)。さらに 2カ所のステーションを開設予定。

- ハンブルグにも 4 か所のステーションが開設される予定で、ノルトライン・

ヴェストファーレン州(NRW 州)11にもステーションが設置される。

- 今後 2~3 年間に 10~15 か所のステーションが設置される予定で、CEP が

その取りまとめのプラットフォームになる。CEP ステーションはすべて

70MPa 充填対応とする。

表 3-2.CEP のフェイズ フェイズ I (2003~2007 年)

・液体水素充填の実証(BMW、水素内燃バス) ・オンサイトでの LPG 水蒸気改質の実施

フェイズ II (2008 年~2010 年)

・パートナーの拡大(Shell Hydrogen、ハンブルグ交通局)

・70MPa 充填の実施(水素 4kg を 3 分以内で充填可能)

・車両の拡大(30~40 台) ・水素ステーションの新設(総数 3~5 箇所)

フェイズ III (2011~2006 年)

・NRW 州への展開 ・FCV 数百台、FC バス 30 台を導入 ・スカンジナビア諸国の水素ハイウエイとの連携

図 3-10.ベルリン市内の CEP ステーション(既存、新設)

11 デュッセルドルフを中心とする地域。水素・燃料電池の展開に熱心な州としても知られる。

TOTAL(移動式)

TOTAL(新設)

Shell(新設)

TOTAL(既存)

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• CEP に導入されている車両:

- 現在までに FCV 35 台12、水素内燃バス(MAN 製)14 台13、FC バス(Daimler製)9 台が導入されている(図 3-11)。

- 欧州の FC バスデモンストレーションである「HyFleet:CUTE」は 2009 年

10 月に終了した( 終報告は 2010 年 2 月)が、ベルリンにおける MAN 製

水素内燃バスの運用は CEP の枠で継続される14。

- ハンブルグに導入される 9 台の FC バス(Daimler 製 EVO バス)は、NIPの枠組みでファンドされる。EVO バスは 2009 年 11 月に発表されたもので、

ハイブリッド化されており、HyFleet:CUTE で運用された CITARO バス

に比べて燃費などが大幅に改善されている15。

- BMW は新規の車両の開発予定はないが、水素研究を継続している。CEPのオリジナルメンバーでもある。

図 3-11.CEP 導入車両 (上:FCV、下左:水素内燃バス、下右:水素 FC バス)

12 2010 年 3 月に、トヨタ自動車が CEP への参加を表明した。 13 ベルリン交通局に導入されている MAN 製水素内燃バスはシステムトラブルが多いので、今後の新

規導入は予定されていないとのこと。 14 MAN 製水素内燃バスも HyFleet:CUTE プロジェクトの対象であった。P.76 参照。 15 EVO バスについては、Daimler の項参照(P.28)。

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(4) NOW が関係している水素・燃料電池関連活動

① LoU(Letter of Understanding:基本合意書)

• 自動車会社との基本合意(LoU)は、市場・市民に対してシグナル(企業が投

資にコミットしていること)を示すために締結された。

- LoU は自動車メーカーのコミットメントを、H2 Mobility はインフラメーカ

ーのコミットメントを示すものである。特に自動車メーカー(FCV)のコミ

ットメントが重要である。

- LoU は、フランクフルトオートショーの直前というタイミングで発表され

た。

② H2 Mobility

• H2 Mobility は水素ステーションのビジネスプラン策定とエリア分析を行う。

- 将来的には、ドイツ国内で 100~1000 カ所のステーションを作りたい。

- H2 Mobility はオープンな組織であり、他の自動車メーカーの参加も歓迎す

る。

- H2 Mobility において、NOW はモデレータである。また税金を使用するの

で、パブリックサポートが必要であり、そのためのコミュニケーションも重

視している。

- 今後の評価項目はビジネスモデル、コスト、サプライチェイン、市民支援な

ど。

- 2011 年までにステーションのビジネスモデルに合意し、その後に投資を始

めるようにしたい。また、役割分担などは 2010 年中に合意したい。

• CEP はプラットフォームであり、ベルリンやハンブルグに限定されない。

- H2 Mobility は実用化を目指すイニシアチブであり、インフラ整備の計画を

行う。よって、将来的に H2 Mobility で設置された水素ステーション(州の

支援や NIP の支援で建設)が CEP で運用される可能性はある。

- H2 Mobility には、3 つの石油会社(TOTAL、Shell、Vattenfall)が参画し

ているが、他の石油会社の参加を呼び掛けてほしいとの要望がある(水素が

正しい方向であることの確証がほしい)。よって、今後さらに石油会社(例.

イタリア ENI)が参画する可能性がある(BP や Exxon の参画は難しい)。

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③ GermanHy

• GermanHy は、将来シナリオに基づいた水素供給可能性の評価検討プロジェ

クト16。水素製造に関するロードマップを作成した(図 3-12)。

- 将来的には、水素はバイオ、風力、副生水素などから製造される。

- CCS との組み合せは現在検討中。現在ドイツでは、CCS 研究のために 10億ユーロを使用している。石油会社(TOTAL)はその研究費の一部を CCS併用水素製造に使いたいと考えている。

- CCS は長期的技術であるが、石油会社には石油増進回収(EOR)の実績が

ある。また多くの天然ガスの廃田がある。

- CCS に対する市民の意見は不明だが、電力部門での CO2 削減のためには

CCS は不可欠である(ドイツは、2020 年までに CO2を 30%削減しなけれ

ばならない。欧州内の他国の状況次第では、40%までの削減が必要)。

- 石油会社は、液体燃料から気体燃料への移行を進めており、将来のエネルギ

ービジネスモデルとして市場の大幅な変革が必要である。

図 3-12.GermanHy の結果の例

16 GermanHy は NIP を支援する目的で実施された。将来シナリオは、「穏やかな発展シナリオ

(Moderate Development)」、「気候変動対策シナリオ(Climate Protection)」、「資源制約シナリオ

(Shortage of Resources)」の 3 つ。2050 年の交通部門における 終エネルギーシェアでは、気候

変動シナリオでは代替燃料(水素、バイオ燃料、電気)がほぼ半分を占め、資源制約シナリオでは、

代替燃料(水素、バイオ燃料、電気)のみとなる。なお GermanHy は、(i)経済技術省「エネルギー

市場トレンド 2030」と(ii)環境省「再生可能エネルギー利用増進戦略リードスタディ 2007」を基本

としている。GermanHy:< www.germanhy.de/ >参照。 (i)< http://www.bmwi.de/English/Navigation/Service/publications,did=65456.html >参照。 (ii)< http://www.bmu.de/english/renewable_energy/downloads/doc/39499.php >参照。

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(5) その他の NIP 傘下のプログラム

① Callux

• 定置用 FC プロジェクト。低温 PEFC(通常の PEFC)、高温 PEFC(100 度

以上)、SOFC のデモンストレーション的展開を行う(図 3-13)。

- 2012年に800台の普及を目

指す。

- 2009年の導入目標は100台

であったが、現状では 60~80 台程度。

図 3-13.Callux における定置用 FC 導入目標

② NEES

• 産業用大型コージェネレーションユニット(100~500 kW、MCFC など)の

開発。すでに 5 台を設置したが、今後さらに 10 台を設置する。またバイオガ

スでの運用も実証する。

③ マリーンアプリケーション:e4ships

• e4ships は 2009 年 7 月に始まったプロジェクト。湾岸係留時のエミッション

低減のために、FC を活用。さまざまなタイプの船舶で実証する。燃料はディ

ーゼル、メタノール、LP など。

④ 初期市場

• 初期市場として、レジャー用電源、バックアップ電源などを展開(バイエルン

州、バーデンウュルテンベルク州などで展開)。現在、5 つのアプリケーショ

ン分野(コンソーシアム)がある。

• バックアップ電源は有望。とくにテレコミュニケーション産業は、より長時間

のバックアップが必要になってきている(ベルリン地域、ブランデンブルク地

域、サクソニー地域)。

• そのほかにフォークリフトなどの小型車両なども対象としている。

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(6) ディスカッション

① インフラの検討

• 液体水素での輸送・貯蔵:

- 欧州では、Linde に加えて、Air Liquide や Air Products も液体水素輸送と

クライオポンプの開発を進めている。両社とも、ドイツでの活動が活発にな

っている。

- H2 Mobility では、効率のよい水素輸送方法を検討中。

- 以前にCEPステーションとして稼働していたARALステーションは液体水

素貯蔵を試たが、BOG ロスが多いのが問題であった。TOTAL の水素ステ

ーションは、BOG を定置用 FC や内燃式コージェネレーションに活用して

いる。液体水素活用の一つの方法である。

- 液体水素の加圧は、気体水素の加圧よりもエネルギーが少ない。現在、NOWでは液体水素システムの効率、コスト等を評価中である。

- Linde は、ミュンヘン、ベルリンにクライオポンプを設置して実証中。

- 水素コスト低減のために、輸送の形態の評価が重要。

• ステーションコスト:

- ステーションは現状では 500 万ユーロであるが、将来は 100 万ユーロ以下

(70~80 万ユーロ)を目指したい。決して無理な目標ではない。

- ドイツでは Linde、Air Lquide に加えて、OMV や Shell、Vattenfal が水素

ステーションビジネスに興味を示している。競争によってステーションコス

トが 100 万ユーロ以下に低減することを期待したい。

- 数十万台の FCV を支えるには、ステーションコストは 100 万ドル以下でな

ければならない。ステーションコストが 400~600 万ユーロでは展開は不可

能である非常に難しい。

• 水素輸送:

- 輸送の点では、需要が大量ならばパイプラインが 適。特に北部ドイツでは

風力が多く、過剰発電分をパイプラインで輸送する方法が有望である。

- ドイツの地元ガス会社も、使用していないガス配管を水素輸送に利用したい

と考えている。

- 輸送では、標準的な高圧水素トレーラー(輸送量 200~300 kg)、液体水素

ローリーは 3 トン程度を輸送可能。中間の 700kg~1 トンの加圧水素を輸送

できるトレーラーがあれば、非常に魅力的である。

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• TOTAL はオンサイト改質の実績があるが(CEP ステーションで LPG 改質の

実証)、稼働率と効率が悪い。現状ではオンサイトステーションは考えていな

い。将来のステーションは、水素貯蔵タンク、圧縮機、ディスペンサという簡

略なステーションを想定している。

② FCV・BEV 開発

• 将来車両の住み分け:

- ドイツでは、PHEV に関してはあまりディスカッションがない。

- 一般市民に、将来車両技術の違いと住み分けを伝えるのは非常に難しい。市

民は BEV が短距離利用・都市内利用として使われるべきということを理解

していない(BEV ですべての走行需要を賄えると思っている)。

- 特にドイツでは、自動車は理性的に購入・利用するものではなく、むしろエ

モーショナルな存在として理解されている。

- BEV がどの程度現実的な解法であるかどうかは、今後 2~3 年間で分かるこ

とになる。

- ドイツの電力 大手 RWE は、FIAT の EV(チンクエチェント)のリース

を始めた。ただしリース価格は 1300 ユーロ/月(通常車両のリース料金は

100 ユーロ/月)。今後 2~3 年で、EV が依然として高コストであることに

市民が気付くであろう。

- 車両の電動化とバッテリの利用は、将来の車両の共通の方向である(車両の

大きさや、ハイブリッド化のタイプによらず、バッテリ技術は重要)。しか

し、政治家などは、バッテリが FCV よりも優れていると単純に考えていま

う。非常に危険である。

• バイオ燃料:

- 米国は、バイオ燃料を短期技術と位置付けてしまったが、技術的には短期で

完成する技術ではない。

- Linde は、第二世代バイオディーゼルを南ベルリンで実証している(ガス化

し、FT 合成でディーゼル燃料化)が、決して短期技術ではない。

- パームオイルの利用は政治的なイシュー。

- 欧州では、20~30%のバイオマスを製油所の段階で加えることを検討して

いる。既存の施設が使えるので、非常に面白い考えである。

• 大型車両:

- 欧州には効率のよいディーゼル技術があり、また走行距離の要求(3000 km以上)を実現するためには水素は不十分であろう。

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③ その他

• ドイツでは、水素はクリーン技術として考えられている。

• Callux:

- 現状で 60 台程度を設置。5 年以内に 800 台を目指す。

- 日本のように市場化のための助成ではなく、まだ R&D としての助成の段階

である。

• 市民の反応に対して:

- ドイツでは、水素はクリーン技術として考えられている(ただし市民は FCVと水素 ICE を十分には区別していない)。

- 異なる技術を同時に導入するのは容易ではない。FCV は市場化のための技

術(コストや耐久性)が確実に進歩しているが、その成果が市民には伝わっ

ていない(外目には変化がないため)。よって市民とのコミュニケーション

が重要である。

- 技術の成熟度(生産技術、安全性)は、リチウムイオン電池よりも FC のほ

うが上である。

• コミュニケーションの点では、自動車メーカーの Letter of Understanding が

重要なメッセージを市民に伝えている。LoU はフランクフルトモーターショー

の直前に行われたが、ドイツの新聞で「FC のリバイバル」という記事があっ

た。しかし FC は「死んだ」ことはないので、これはおかしな表現であるが、

一般の反応はこのようなものである。

• ドイツでもスマートグリッドは事情にホットであり、過剰な期待がある。

- 各家庭の EV を、電力(再生可能エネルギー)の貯蔵と共有電源にしたいと

いう考えがあるが無理であろう。第一車両がないし、また顧客がバッテリ寿

命を犠牲してまで、貯蔵の役割を提供するとは思えない。

• ドイツのある風力発電事業によると、風力発電の問題として、景観に適さない

カラーと、飛行機用ライトの「光害」を指摘している17。光害対策として、レ

ーダーを併設し、飛行機や鳥が近づいてきたときのみ点灯することが試みられ

ている。

• 2011 年には、H2 Mobility のステーション関連のワーキンググループの成果が

ててくるので、2011 年 3 月の JHFC 終セミナーで知見を共有したい(水素

ステーションの展開計画策定に必要なデータは、2010 年末までには固まる予

定)。

17 日本とは異なり、低周波の問題は起きていないとのことである。