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VALKYRIE PROFILE ZERO

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VALKYRIE PROFILE ZERO

鶴の翁

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【注意事項】

 このPDFファイルは「ハーメルン」で掲載中の作品を自動的にPDF化したもので

す。

 小説の作者、「ハーメルン」の運営者に無断でPDFファイル及び作品を引用の範囲を

超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁じます。

  【あらすじ】

 かつてこの世界では神々の黄昏(ラグナロク)と呼ばれる大戦があった。

 敵対する2つの神族による最終戦争は、混乱に乗じた一人の邪神によって世界そのも

のを崩壊へと導く大災害にまで発展してしまった。

 しかし、その邪神の野望は一人の戦乙女の活躍によって阻止され、その大戦も幕を下

ろすこととなった。

 時は流れ、新たな創造神となり崩壊した世界を再生させた彼女は、その後忽然とこの

世界から姿を消した。

 運命の三女神でもある彼女と一人の少女を中心に、新たな物語が動き始めようとして

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いた。

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 ※閲覧注意事項※

 注意事項を良く読み、ご理解された上でお進み願います。

 ① この作品は作者の趣味で書かれた二次創作物です。

 ② 小説より『ゼロの使い魔』、ゲームより『VALKYRIE PROFILE』の

ネタバレを少なからず含みます。

 ③ 『タグ』にも書いてあるように、様々な『改変』を含みます。本来の性格、言葉遣

い、ストーリーなど、色々変わっている所があります。

 ④ 互いの作品を繋げられるよう作者自身が勝手に作ったり妄想したりと様々な為

『独自設定』『独自解釈』『オリジナル展開』を含みます。

 ⑤ 注意事項をよくご理解された上で、批評、批判をお願いします。

 ⑥ 注意事項がその都度増えます。

 上記の注意事項が許せる方は本編へお進みください。

 これに嫌悪感や不快感を感じる方はそっと閉じるか、ブラウザバックをお願いしま

す。

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 ※追記※

 9/14  かなり遅くなりました、すみません。また宜しくお願いします。

      アンチ・ヘイトは念の為で付けときます。

 12/8 閲覧注意事項を追加しました。

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  目   次  

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第1話 

1

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第2話 

13

────────────

第3話 

24

────────────

第4話 

37

────────────

第5話 

48

────────────

第6話 

60

────────────

第7話 

77

────────────

第8話 

91

────────────

第9話 

101

────────────

第10話 

114

────────────

第11話 

127

────────────

第12話 

147

────────────

第13話 

164

────────────

第14話 

184

────────────

閑話1 

201

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第1話

  それは日の暖かさを感じるものの吹く風に冷ややかさを感じる春先のことであった。

 人間界ミッドガルド、その大陸の北部に位置し、多年草である鈴蘭が群生する渓谷に

一人の女性が立っていた。

 彼女の名前はレナス・ヴァルキュリア。日に当たり宝石のような輝きを持つ白金の長

髪を後ろで一つに纏め、金の装飾を施した純白のドレスに蒼穹の鎧と羽飾りがついた銀

の兜を身につけており、腰には優美な剣を携えている。その姿は人にはないような神秘

的は雰囲気を醸し出していた。

「……何故だろうか、ここに来ると落ち着くな」

 見る者を魅了する程のその整った顔立ちをした女性が呟く。

 それに反応し歓迎するかのようにこの渓谷に風が吹き込み、鈴蘭の花弁を巻き上げな

がら彼女の頬や髪を撫でるように吹き抜けていった。

「ここに来るのも久しぶりね」

 彼女はラグナロクの前、英雄達の魂(エインフェリア)達を選定している際に一度こ

こを訪れ、封印されていた己の記憶を呼び覚ました場所でもあり、生前のプラチナとし

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ての少女が息絶えた場所でもある。

 彼女にとって良き思い出とは言えない場所であるにも関わらず、彼女はこの場所に確

かな安らぎを感じていた。

 ラグナロクが終わり、神界アスガルドではアース神族の再建と敵対していたヴァン神

族を含む各神族との会合を経て和平への道を歩んでいた。そして方今一息付ける時間

を見つけた彼女は単身アスガルドを離れ、この場所へと降りて来ていたのだった。

 何故彼女が共に戦ったエインフェリア達を連れていないかと言うと、共に戦ったから

こその信頼から彼らを直属の臣下にしたのだが、そんな彼らの親切心からか、『たまには

息抜きに行ってきたらどうか』と提案されたからである。無論、主神としてそう簡単に

アスガルドを離れるわけにはいかなかったのだが、その際に想い人である彼からも『主

神と云えど偶には休まないと』と言う後押しもあり、そんな彼等の好意を素直に受けた

レナスは休暇として一人で人間界ミッドガルドを訪れていた。

 余談だが、後押ししてくれた彼が少々残念そうな顔をしているのを私は見過ごさな

かった。恐らく、最初は付いて来るつもりだったのだろうが、他の仲間に丸め込まれた

のだろう。

 神界での問題は滞り無く進んではいるものの、レナス自身の問題は片付いていないも

のが幾つもあった。

2 第1話

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 三女であるシルメリアの奪還、それに伴うであろう不死者王ブラムスとの決着。そし

て姿を晦ましたあの屍霊術師の事などと細かなことも数えると問題は山積みである。

 が、今はそのようなことを考えるのは止めておこう、せっかく一息付ける時間を設け

たのだ。

 今暫らくはこれらの問題から思考を外し、彼女はその白い絨毯の様な鈴蘭の草原の中

で腰を降ろし目を閉じた。

 先程からこの渓谷を吹き抜けている風を全身で感じ心を落ち着かせる。

 風は柔らかな布のように彼女を包み込んではその都度吹き抜けていった。

 神の身である私ですらこの場所で感じる風は微睡みを感じてしまうほど優しいもの

だった。

「──名は────────────五つ──────いし────せよ」

 その微睡みの中

 声が……聞こえた……。

「っ!」

 レナスはその声に反応し微睡みを感じていた体を一気に覚醒させると立ち上がりな

がら腰に吊り下げている剣を抜刀した。

「誰かいるのか!」

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 声を張り上げ周囲へと呼びかけるが反応はない。張り上げた声が渓谷を吹き抜ける

風と共に流れ、虚しく木霊するだけであった。

「気のせいか?」

 無意識のうちに精神集中を行なってしまったかと少々自身を疑う。

 念の為に目を閉じ精神を集中させ、周囲の気配を探るが人は疎か声を発することの出

来る生物の気配など微塵も感じられなかった。

 しかし、生物の気配ではない別の気配をレナスはある場所から感じ取ることが出来

た。

 その場所は、あの墓石のある辺りからであった。

 ゆっくりと瞼を上げ視線をその場所へと向ける。

 するとそこには光り輝く楕円状の姿鏡を模したものが宙に浮かんでいた。

「これは……」

 レナスはその鏡のようなものに近づきこそするものの触れようとはしなかった。

 セラフィックゲートと言う夢の中で体験したような記憶でこれに似たようなものを

見ているからである。

 しかし、そこで見たものは完全な球体型で磁場を帯びており、これのように綺麗な形

をしてはいなかったと記憶している。

4 第1話

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 だが、これもあの球体と同じで、触れるか飛び込むかで接触すれば、違う場所へと転

移することが出来るゲートのようなものだろうとレナスは考えたからだ。

 ならば、接触を避けるのが一番なのだろうが、どうもそういう訳にはいかないようだ。

「この気配は、不死者か?」

 不鮮明ではあるがそのような気配をこのゲートから感じた。

 確実に不死者であるとは断定できないものの、そのような気配を発しているこのゲー

トを見過ごすわけにはいかなかった。

 すぐにでもエインフェリア達を呼んできて、調査したいところなのだがその時間すら

無いことにレナスは気がついた。

「消えかかってきている」

 先ほどまで鮮明にその姿を現していたゲートが、霞がかかったかのように薄れてお

り、下方部からゆっくりと消えていっていた。

 このままでは彼等を呼びに行っている間にこのゲートは完全に消滅してしまうだろ

う。もしこのゲートが何者かの密謀であるのならば、早急に阻止しておかねばならな

い。例えこれが私を陥れるための罠だとしても今の私にはそのような状況でもそれを

打破出来る力がある。

 ならば……。

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 レナスは覚悟を決め、消え行くそのゲートにその身を通していった。

 彼女がゲートに入りその身を消すと、それに呼応するかのようにゲートもまたその姿

を消してしまった。

 後に残ったのは、まるで最初からここには誰もいなかったとでも言うような静けさ

と、絶えずこの渓谷に吹き込む風を受けてその身を揺らしている鈴蘭達だけであった。

 この日、世界を救い崩壊した世界を再度創り上げた創造神が消息を絶った。

 ──ハルケギニア大陸──

 彼女が姿を消す少し前の時間のことであった。 

 大陸北部に位置する小国、トリステイン王国。現在、国の名を冠する魔法学院では、あ

る催事が執り行われていた。

 学生達による二年進級の為の召喚の儀である。

 もうすでにほぼ全ての生徒が自分の使い魔を召喚し終えているのだが、まだ約一名の

少女が召喚を終えていなかった。

 綺麗な桃色のブロンドの髪にシルクのように滑らかな白い肌、他の女の子と比べれば

少々小柄かもしれない体躯を持ち合わせた彼女こそがこの召喚の儀の最後の一人で

あった。

 彼女の名前は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと、な

6 第1話

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んとも噛んでしまいそうなほど長い名を持ち、トリステイン屈指と呼ばれる名門貴族で

あるヴァリエール公爵家の三女である。

 緊張からなのか、汗ばむ手に持つ杖を強く握ると天を指すように上に上げて、ぽつり

ぽつりと彼女の口からその呪文を紡ぐ声が聞こえる。

 呪文を唱え終わると上げていた杖を力強く振り下ろす。本来ならここで光る鏡のよ

うなものが現れ、その中から自身の使い魔が姿を現すのだが、彼女の結果は、大きな爆

発とそれによって巻き上げられた土埃だけであった。

 もう何度見たか分からないこの結果に彼女は血が出そうなほど下唇を強く噛み締め

た。

 周りから野次が聞こえてくるが、彼女の耳には届いていない。それほどまでに彼女の

精神は自身への焦燥と疑問の思考で追い込まれていた。

『なんで! なんでなのよ!?』

 声には出さないものの心の中でそう怒鳴り目を伏せて、溢れ出そうになる涙を必死で

堪える。

 そして、次こそは! と構える杖を後ろから来た人物に左手で方を叩かれ、右手で杖

を降ろされてしまった。

 振り返るとそこには中年の男性が立っていた。

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 長身ではあるものの歳によるものなのか頭部は禿げ上がっており、眼鏡をかけたその

顔は申し訳なさそうな表情をしていた。この男性はジャン・コルベールといい、学園の

教師であり、今回の召喚の儀の監修を任されている人である。

「ミスタ・コルベール! 何を──」

 するのですか!? と言う次の句を言う前にその男性が言葉を発した。

「ミス・ヴァリエール、気持ちは分かるのですが、もうこれ以上は……」

 そう言うと彼は残念そうに目をつぶり頭を横に振った。

 この男性、ミスタ・コルベールの言う通りかもしれない。

 もうすでに次の授業の時間を削っているかもしれないほど時間も立っており、私自身

ももうこれ以上はの結果は見込めないかもしれないと考えてきてしまっている。

 だけど、それでもまだ踏ん切りが付かないし、何よりも自分が納得出来ていない! 

諦めきれない!

「ミスタ・コルベール! もう一度だけ! もう一度だけやらせてください!」

 監修であるコルベール先生に頭を下げお願いする。この行為も召喚と同じ数ほど

やった。

「しかしだね、ミス・ヴァリエール……」

「お願いします!!」

8 第1話

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 このお願いに困り渋い顔をされたが、それでも執拗にもう一度とお願いすると、コル

ベール先生は苦笑いにも似た笑みを浮かべて言った。

「分かりました、そこまで言うのでしたらもう一度だけ許しましょう。ですが、いいです

か? 次で絶対に最後ですからね……」

 そうコルベール先生が言い残すと生徒たちの居る後方へと下がっていった。

 やっぱりあの先生はとても優しい人だ。授業では少々変なところもあるが生徒達の

気持ちを汲み取り理解してくれる。

 もし、あの先生以外の教師が今回の監修をしていたら、私の召喚の儀式はとっくに打

ち切られていただろう。

 後方へと下がっていく先生に聞こえないにしろ、ありがとうございますと小さく零す

と、先生に背を向け手にした杖をしっかりと握りこみ深呼吸をする。

『これが本当に最後なのだ……』

 今度こそと、成功を信じ、失敗を恐れずに杖を天に掲げ召喚の呪文を紡ぎ始める。

「我が名は『ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』。 五つの

力を司るペンタゴン。 我が運命に従いし〞使い魔〞を召喚せよ!」

 呪文を唱え終えると同時に杖を振り下ろす。

『今度こそ! お願い!』

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 強い願いと共に振り下ろされた杖の先で起こったものは、先程とは比べ物にならない

ほどの大きな爆発であった。辺り一面がその爆発によって巻き上げられた土煙で覆い

尽くされ、周りが見えなくなってしまった。

『あぁ、やっぱり駄目なのかな……』

 目の前で起こった爆発を見て諦めからか、立っていることも億劫になったルイズは膝

から崩れ落ちるかのようにその場に座り込んだ。そして今まで押し殺してきた感情か

らか、彼女の目から一筋の涙がこぼれ落ちた。

 ゴホゴホと周りから咳き込み声に加え、もういい加減聞き飽きた罵詈雑言が彼女に向

けられる。

 いっそこのまま涙を流し続けたらどんなに楽だろうかと思ったその時、罵詈雑言に紛

れ聞き流せない言葉が耳に入ってきた。

「おい、何かいるみたいだぞ!」

「まじかよ! まさか成功したのか!?」

「あの『ゼロのルイズ』が!?」

 その言葉にはっとなり、顔を上げて目を凝らしてよく見てみる。

 まだ土煙ではっきりとは見えないが、確かにその土煙の中にぼんやりと影が見えたの

だ。

10 第1話

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『成功した……!?』

 そう思うといてもたってもいられなくなりすぐさま立ち上がると、涙を流していたこ

とを悟られぬよう袖で顔を拭うと影が見える方へ走りだした。

『成功したんだ! 私の使い魔がすぐそこに!』

 大きな期待を胸に一体何が召喚されたのだろうとワクワクしながら近づくも、土煙が

晴れその姿を目にした時、彼女の大きな期待は落胆へと変わった。

『人間……? それも平民?』

 彼女が目にしたのは平民の町娘が着けるような白や青、茶色を模した服を着た女性が

いた。

 この辺りでは見ないような服装なのだが、それよりも目を引くのは輝かんばかりに美

しい白金ブロンドの髪であった。

 駆けていた足を遅めゆっくりと彼女に近づく、彼女もルイズを認識したようで、ルイ

ズに視線を向ける。

 髪もそうだけど顔も一般の貴族よりも整っているのではと軽く感じたルイズは、手を

伸ばせば触れられるほどまでに近づき、息を整えてから彼女に問いかけた。

「あんた誰?」

 この日、これより未来に虚無の再来と歌われる少女と、別世界の創造神である女性が

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初めて顔を合わせた瞬間であった。

12 第1話

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第2話

  「ん?」

 ゲートを潜り終わる瞬間、レナスの背に何かと接触するような軽い衝撃があった。

 後方を確認するが通って来たはずのゲートは既に消滅しており、自身の体を確認して

もこれといった外傷も魔術的な攻撃を受けた形跡すらなかった。

 先程の衝撃に何の害も無いことを確認したレナスは次に周囲への警戒を始めるが、辺

りはレナスの視界を遮るかのように土煙で覆われていた。

 よほど大きな爆発でも起こったのか、全くと言っていいほど周りを肉眼では確認する

ことが出来ないくらいに土煙が立ち込めていた。

 しかし、少し離れた位置ではあるが周りから聞こえてくる咳き込む声と誰かに向かっ

てかの罵詈雑言が聞こえてくる。

 辺りに人が居るのは間違いないようだ、魔力を感じるところから魔術師が大勢いるよ

うだが、こちらに敵意を向けてくる様子など微塵も感じられなかった。人ではない生き

物の気配も感じるが彼らからも敵意は感じられない。

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 だが突如その大勢の中でも距離的に私に一番近い一つの気配が動いた、それは真っ直

ぐにわたしへと向かってきているようだ。

「このままの姿ではまずいか」

 どのような目的でこちらへ近づいて来ているにしろ、神の身の姿であるこの姿ではい

ないほうが良いと考えたレナスは自身の体を転換し、町娘の姿へとその身を変えた。

 姿を変え終わると、辺りを覆っていた土煙も晴れてきており近づいて来ていた気配を

肉眼で捉えることが出来た。

 小柄で桃色のブロンド、痛みなど知らぬような傷一つ無い柔肌の少女であった。

 その彼女と目が合った。走ってきたのだろうか、少々息を切らしていたが軽く息を整

えると私に面と向かって彼女は口を開いた。

「あんた誰?」

 誰、か。人にものを尋ねるにしてはいささか失礼ではあるが、それは彼女が世間知ら

ずなだけか、位が高い身分の者だろうと当たりを付ける。

「どこの平民?」

 黙っていると次に問われた質問は身分を問うものだった。

 平民……か、人間が他者に対し勝手に決めた階級制度による差別した言い方だ。だと

するとやはり彼女は階級の高い位に位置する身分なのだろう。

14 第2話

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「……ちょっと、あんた、わたしの話聞いてるの?」

 彼女の問いには答えずさらに黙ったままで居ると、さすがに苛ついたのか彼女が詰め

寄って来た、が、それと同時に周りが大きな声で騒ぎ出した。

「おいルイズ! いくらなんでも『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出してどうすん

だよ!」

「さすがはゼロのルイズ! 召喚もまともに出来ないなんてな!」

「いや、そこの平民、よく見ればとても整った顔立ちをしているではないか、そこの麗し

きレディ、もしよろしければ後で僕とお茶でもいかがですか?」

 などと言った野次が飛んできた。

「ちょっと間違っただけよ!」

 野次に反応して彼女が澄んだようなよく通る声で周りに怒鳴りつける。

 呼吸を整えたのもつかの間、怒りからか彼女の顔が赤く染まりまた息を荒げ始めた。

 せっかく良い声を持っているのにそれを怒号の声に使うのはなんとも勿体無いと感

じてしまう。

 周りの野次から幾つか解ったことがある。

 どうやら、あの私の前に現れたゲートは彼女の『サモン・サーヴァント』と言う呪文

によって出現したものであり、私はそのゲートを潜ってしまったことによって彼女に

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『召喚』されたようだ。

 そして、私を召喚してしまったこの桃色髮の彼女の名前は『ルイズ』と言うらしい。

 そんなルイズは囃し立てる野次の中に向かって叫んだ。

「ミスタ・コルベール!」

 ルイズの言葉に反応しこちらへ向かってきたのは、この中では一番の年長者であろ

う、四十代前後の男性であった。

「どうしたのですか? ミス・ヴァリエール」

「この召喚は間違いです! もう一度お願いします!」

 ルイズが頭を下げたが、コルベールと呼ばれた男性は軽く溜息を付きながら首を横に

振った。

「残念だが、それは出来ません。ミス・ヴァリエール」

「何故ですか!?」

 コルベールの答えに顔を上げたルイズが食って掛かる。

「決まりだからだよ、二年生に進級する為のこの春の使い魔召喚の儀式はとても神聖な

ものだ。個々人の好き好みで選ぶ訳にはいかないのだよ」

「しかし、彼女は平民で──」

「それに……」

16 第2話

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 ルイズの言葉に被せるようにコルベールが言う。

「それに、なんですか?」

 言葉を遮られ自身のお願いを聞き入れてもらえない為かむくれた表情のルイズが聞

き返す。

「それに、約束だからね。ミス・ヴァリエール。先程君は私にもう一度だけとお願いし、

私は次で最後だからねと言ったはずです」

 彼の言葉に、ハッとなった彼女だったが、それでも、と食い下がった。

「で、ですが、彼女は……」

 だが次の反論の句を見つけられずにルイズがしどろもどろしていると、それに追い討

ちをかけるようにコルベールはつなげた。

「ミス・ヴァリエール、確かに彼女は平民……かもしれませんし、私もこれまで一度も人

を使い魔にしたなんて聞いたことがありませんが、この儀式の伝統とルールに従い彼女

を使い魔にするしか無いのです」

「そ、そんな……」

 ルイズの肩ががくりと落ち落胆の色が見て取れた。

「さ、彼女と契約をしなさい」

 コルベールに押されるルイズは彼と私を交互に見ていたが、諦めたのか軽くため息を

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つくと私の方へと戻ってきた。そして私の目の前に立つと杖を構え、呪文を唱えだす。

「我が名は『ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』。五つの力

を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔となせ」

 ルイズはそう唱えると私の額に軽く杖を当て、足りない分の身長を補うようにつま先

で立つと、私と唇を重ねようとしてきた。

 この突発的なまでの行動に少々驚いたが、先程彼女が唱えた呪文の発動条件が口付け

を交わすことなのだろう。この呪文がどのようなものにしろ、黙って受けるわけにはい

かない。

 レナスはルイズの口の前に手をかざし彼女からの口付けを妨害した。

「……ちょっと、何するのよ」

 自身の呪文を妨害されたルイズから苛立ちが見て取れた。

「その呪文がどのようなものであれ、軽々しく受けるつもりはない」

 ルイズの肩に手をかけ伸びの状態から姿勢を戻してやると、近くにいる先程の男性に

も聞こえるように言葉をつなげる。

「私が現状どのような状況下にあるのかもわからないうえに、本人の承諾もなく呪文を

行使しようとする程ここにいる人間は無礼なのか?」

 私がそう言うと、ルイズの顔が怒りからかまた紅潮し、肩に乗せていた私の手を払い

18 第2話

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のけて食って掛かって来た。

「へ、平民が貴族に向かって無礼!? ななななななんてこと言うの!」

 ルイズは手にしていた杖を私に向けて呪文を唱えようとするが、それを今度はコル

ベールが彼女の方に手を置き呪文を中断させた。

「ミス・ヴァリエール、止めなさい!」

「ミスタ・コルベール!? ですが彼女が!」

「いいから止めなさい!」

「……はい」

 きつめにではあるが、コルベールがルイズを静止させ、彼の後ろへと彼女を移動させ

ると、彼は私へと視線を変えた。

「先程の無礼、誠に申し訳ございません。私あそこに見える学園で教師をしているジャ

ン・コルベールと申します。ミス、宜しければお名前を伺ってもよろしいですか?」

 教師を名乗るコルベールと言う男性がルイズに変わって私の対応をしてくれるよう

だ。

 つい選定者としての癖からか、彼を観察してしまう。

 歳こそ若くは無いが恐らくかなりの場数を踏んでいるようだ。何気なくルイズを自

身の背後へと移動させていたが、もし私が危険な者と分かった時に彼女を守る事が出来

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るよう後ろへ隠したのだろう。それに彼女を移動させる際、自然に見えるよう彼自身も

太陽がなるべく背後に来る位置へと移動している。

 魔力も強い、身のこなしから魔術だけに長けているわけでは無いようだ。武器を使用

しないにしろ剣士と対等に立ち会えるだろう。

 エインフェリアとしては欲しい人材である。

 ……こう考えてしまうのは一種の職業病だろうか、そう思うと自嘲からか思わず苦笑

いが顔に出てしまっていた。

「あの? ミス、どうかなされましたか?」

「ん? あぁ、すまない。名前、か……」

 私の苦笑いを見てからか、心配そうに問いかけてきた彼の言葉で我に返った。

 しかし、名前か。さすがにレナス・ヴァルキュリアの名を使うのは止めておいたほう

が良いだろう。色々と騒ぎになりかねない。

 だが、名前が無い、や、言えない、では更に怪しまれるかもしれないな……、少々抵

抗があるが生前の名前を使うとしよう。

「……私の名前はプラチナだ」

「そうですか、ではミス・プラチナ。どこからご説明すればよいでしょうか?」

「そうだな……、まず、ここが『どこなのか』から教えてもらえるか?」

20 第2話

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 実はある程度レナスは当たりは付けていた、恐らくフレンスブルグに属する魔法学院

の一つなのだろうと、しかし、あの国にこれほど大きな草原とその中にあるあれほど大

きな建物があっただろうかと疑問に思いながらも、彼の言葉を待っていた。

 が、その考えはかすりもしなかった。

「ここは、トリステイン王国にある、トリステイン魔法学院です。先程も申しましたがあ

そこに見えるのが本校ですよ」

 トリステイン王国? 馬鹿な……、ミッドガルドにはそのような名前の国は存在しな

いはずだ。

「トリステイン王国? すまないがそう言う都市の名前か? ここはフレンスブルグで

は無いのか?」

 復唱するかように彼に問いかけた。

「フレンスブルグ? 聞いたことありませんな、この国は今も昔もずっとトリステイン

王国ですよ?」

 だが、帰ってきたのは同じ答えであった。

 フレンスブルグではない? また時間を超えてしまったのか? いや、先程彼は『今

も昔も』と言っていた、この可能性は無いはずだ。

「どういうことだ……」

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 彼が嘘を付いているようにも見えないし、独自の国家を主張しているわけでもないだ

ろう。

 コルベールの言葉を信用していないわけではないのだが、飛んで世界を見れば此処が

何処だが分かるだろうと、レナスは何気なく空を見上げた。

 だが、レナスは自身が見たものに驚愕し、目を見開いた。

 彼女がその目に捉えたものは空に浮かぶ大きな二つの月であった。

「あの? ミス・プラチナ?」

 空を見上げたまま固まってしまったレナスに近づきながらコルベールが話しかける。

「月が……二つ……」

 レナスの言葉が聞こえたのか、コルベールも空を見上げる。

「一体どうしたのですか? ミス・プラチナ。月が二つあるのは当たり前でしょう?」

 彼の言葉にも驚いたが、ここで怪しまれても何の得にもならない、そうだったな、と

相槌を打ち話を元に戻す。

 恐らく『この世界』ではそれが常識なのだろう。

「ミス、もしかして体調が優れないのですか?」

 様子がおかしいと言ってこないのは彼なりの優しさか、それともまだ警戒しているか

らだろうか、どちらにせよ今の私を怪しんでいるのには間違いないだろう。

22 第2話

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 このまま怪しまれるより彼の言葉に乗ってしまったほうが良い気がする。

「すまない、様々なことを経験してきたが、このような経験は初めてだ。混乱からか少々

頭が追いついていないようだ」

 もっともらしい言葉を口にして、額に手を軽く置き疲れているような仕草を取る。

「やはりそうでしたか、まぁ無理もありません。宜しければ、お話も長くなりそうなので

ここで立ち話をするより、学院の方で、そちらのミス・ヴァリエールと学院に居られる

学院長を加えてお話をお伺いしても宜しいでしょうか? 生徒達もいつまでも此処に

拘束しているわけにもいきませんから帰しておきたいのです」

 もちろんお茶はお出ししますので、と付け加えたコルベールは生徒達の方を向くと彼

らに近寄りながら手をたたき生徒達に学院に戻るよう伝えた。すると彼らはふわりと

体を浮き上がらせるとそのままあの建物の方まで飛んでいった。

 私の知っている魔法とは異なる魔法を彼らは使っていた、やはりここは……。

「では、私達も参りましょう」

 生徒達を見送ったコルベールが戻って来ると、私とルイズは彼の後に続くようにして

歩いて学院まで行くこととなった。

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第3話

  城のような大きな建物についた私達はそのまま学院長が居る最上階のとある一室の

前まで案内されていた。

「ここです」

 コルベールが扉の前に立つと四回ノックをして声をかける。

「失礼します、オールド・オスマン。コルベールです」

 その言葉に、入りなさいと言う年季の入った声が返ってきた。

 扉を開けて入っていくコルベールに続くようにして私もルイズも中に入っていった。

 中にいたのは真っ白な頭髪と口髭を蓄えた老齢な男性と、秘書であろう知性的で凛と

した顔付きの女性が立っていた。

「どうかしたのかね?」

 老齢な男性が口髭を撫でながら問いかけてくる。

「はい、実は今回の使い魔召喚の儀式で不測の事態が起こったので報告と相談に参りま

した」

「ほう……、してその出来事とは?」

24 第3話

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「はい、二人共こちらへ」

 コルベールに呼ばれ私とルイズは彼の隣に並ぶように前に出てきた。

 前に出てきた私達を学院長の男が見渡す。

「彼女達は?」

「ええ、そこも含めて説明いたします。まず彼女から、本学院に在学する、ミス・ヴァリ

エール。そしてその隣が今回の召喚の儀で彼女に召喚されたミス・プラチナです」

「ほう……」

 私達を見渡していた学院長の目が細くなる。

「少しばかり長くなりそうな話のようじゃな。とりあえずこっちに掛けなさい」

 学院長の男に促された私達は、テーブルを挟んで私と学院長、ルイズとコルベールが

向かい合うようにして会談用の席へと腰を下ろした。

 秘書の女性によって4人分の飲み物が用意され各々の目の前に並べられる。

「さて、まずは自己紹介をしようかね。わしはこのトリステイン魔法学院で学院長を任

されておるオスマンじゃ。人からはオールド・オスマンなどと呼ばれておるよ」

「先程も言いましたが、私も改めて紹介をしましょう。この学院で教師をしております。

ジャン・コルベールと申します」

「プラチナと申します」

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「……ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールです」

 間があったものの、それぞれが順序良く互いに簡単に挨拶を交わしていった。

「では、コルベール君、詳しく話をしてくれるかね?」

「はい、オールド・オスマン。では──」

 これまでの出来事をコルベールが簡潔にまとめ皆の前で確認するかのように話して

いく。

 コルベールの説明が終わるとオスマンは理解できたのか、何度も頷きながら、なるほ

どのうと呟いた。

 「確かに、今まで極稀に獣人や翼人が召喚されたというのは聞いたことがあるが、人間

が召喚されたのは今回が初めてじゃな」

 先程から撫で続けている口髭をいじりながらオスマンは、ほっほと笑った。

「まずは彼女の疑問を解決してから話を進めるのが良いじゃろうな」

 口髭を撫でるのを止め、背もたれに深く座り直したオスマンは両の手をお腹の前で組

むと此方に視線を向けてきた。

 質問に答えるから質問してこいと言う意味だろう。

 人間とはいえ、仮にもこの学院を治める者と話すのだ。オスマンは温厚そうな人間で

はあるが先程のようなルイズやコルベールと話した時のような物言いではこちらが無

26 第3話

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礼になるだろう。些か抵抗があるが差し障りのない言葉遣いで話すとしよう。

「では失礼して。先程彼にも聞きましたが『ここがどこか』を教えてもらえないでしょう

か?」

 言葉を直し、なるべく丁寧な言葉で話しかける。その際ルイズの目がピクリと睨むよ

うに動いたが、気にせずに続ける。

 コルベールに聞いたことを確認するかのように同じ問い掛けをオスマンに投げかけ

る。

「ここはハルケギニア大陸に属する国家の一つトリステイン王国じゃ。そして、この学

院はその国家の中にあるメイジ養成の学院、トリステイン魔法学院じゃ」

 そして返ってきた答えはコルベールが返した答えと全く同じであった。

 やはり知らない大陸と国家である。

 つい手を口元に持って行き考えこんでしまう。

「どうかしたかね? ミス・プラチナ」

「いえ、申し訳ありません。どちらも私が聞いたことのない言葉だったもので……」

 嘘はつかず、自分の答えをそのまま伝えるとオスマンはまた目を細めた。

「ふむ、聞いたことがないと? ではミス・プラチナがいた国の名前を教えてくれるかね

?」

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 言ったところで結果は見えているようだが、何も言わないよりかはマシかとミッドガ

ルドの都市をひとつ答えた。

「ヴィルノアと呼ばれる軍事国家にいました。正確にはヴィルノアの更に北部にあるコ

リアンドルと呼ばれる小さな山村にいました」

 生前、プラチナとして暮らしていたことがある村の名前を告げる。

 しかし、反応は皆同じもので誰もがそれらの名前を知らぬと言うように首をかしげ

る。

「ふむ、わしらの知らぬ国家や村か……」

「オールド・オスマン、もしかしたら彼女は東の世界──『ロバ・アル・カリイエ』から

来たのではないでしょうか?」

「なるほど、東方からか、確かにそれならばわしらが知らぬとて話が通じる」

『ロバ・アル・カリイエ』などと言うのも聞いたことがないが、ここで違うと言ってしまっ

ては話がまたこじれるだろうから、黙って頷きそういう事にしておいた。

「しかし東方の者か、困ったのう」

 オスマンは軽く唸りながら目を閉じてしまった。

 困った? 東方の人間であるということに何か問題があるのだろうか?

「すまぬ、ミス・プラチナ、おぬしが東方の者だとするとおぬしがいた場所に帰すのはと

28 第3話

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ても難しいと言えるのじゃ」

「それはどういった理由でですか?」

「それについては私からお教えしましょう」

 オスマンに代わりコルベールが質問に答える

「現在我々には東の世界に行く方法がないのです、いえ、『彼等』が通してはくれないの

です」

「『彼等』とは?」

「エルフですよ、東の世界では彼らと関わりがないのですか?」

 エルフ、か。一応神族である彼らとは馴染みがあるが、それは私の知るミッドガルド

での話だ、彼らの言うエルフと話が出来るかは今のところ解らない以上なんとも言えな

いところである。

「ええ、エルフとは関わらないように生活してましたので」

「やはりそうでしたか、東の世界でもエルフとは関わらないように生きているのですね

……」

 少々期待していたように見えたが、私の答えにコルベールは俯いてしまった。

「じゃが、これではっきりしたのう。ミス・プラチナ、申し訳ないがおぬしを送り返すこ

とが出来ぬ、すまぬのう」

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 オスマンが頭を深々と下げてきた。

「が、学院長! ただの平民に頭をあげる必要ありません!」

 今まで黙っていたルイズが声を上げる。

「ミス・ヴァリエール、彼女が平民であろうと貴族であろうと謝らねばならぬ」

「何故です!」

「わしらが事故とはいえやってしまったものは、拉致や誘拐と同じじゃ、彼女にも家族や

友人がおるじゃろうて、それをわしらは引き離してしまった、おぬしはそれでも彼女に

謝罪の言葉は不要と言うのかね?」

「っ!!」

 オスマンの言葉にルイズがまた黙って俯いてしまった。

「でじゃ、ものは相談なんじゃが、ミス・プラチナ。すまぬが彼女の使い魔にはなってく

れぬか?」

「学院長! それは!」

 ルイズの言葉をオスマンは彼女に手をかざし黙らせる。

「現状ミス・プラチナを帰す手段もない、ミス・ヴァリエールの使い魔の儀式もミス・プ

ラチナを呼んでしまった以上、再召喚も出来ぬ、ならばわしらが彼女を送り返す手段を

探す間だけでも彼女と契約をして使い魔をやって欲しいのじゃ、無論帰す手段が見つか

30 第3話

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り次第彼女を帰すことにしよう、契約を解く方法も同時に探しておく。勝手なことを

言っているとは思うがこの申し出受けてはくれぬか? ミス・プラチナ」

「その申し出、拒否をすれば?」

「君は見ず知らずの土地で露頭に迷うじゃろうし、ミス・ヴァリエールは儀式の失敗とし

て留年ということになる、どちらも得がないと言えるのう」

 確かに今人間として振舞っている以上はこの世界の情報もなく動くのは得策では無

いかもしれない。

 それに私がここを離れたとして彼女が困るのであれば、少々心が痛む。

 更に言えば、ここの魔法は私が見てきたものと違うものに見える、それについて詳し

い彼らが方法を探してくれると言うのだ、自分から動く必要もないだろう。

 が……。

 それは人間として私が振る舞い続ける場合によるものだ。

「分かりました、その申し出──」

「おお、受けてくれるかね? ミス・プラチナ」

 私の答えを待たずに承諾と得たオスマンは微笑んだ。

「──お断りさせていただきます」

 しかし、私が出した決断は、拒否。

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 その答えにその場に居る全ての人間の動きが止まった。

「ふむ、ミス……断る理由を聞いても良いかね?」

 オスマンの微笑んでいた顔が少々険しい顔つきへと変わった。

「はい、まず私へのメリットが少なすぎます。言っておりませんでしたが私はこれでも

冒険者です。見ず知らずの土地での動き方も知っております。それにあなた方が言っ

ている東方から私が来たと分かればここに留まる必要もありません。そちらを目指し

て旅をするだけです」

「しかし、通るにはエルフと対峙することに!」

 コルベールが息を荒らげてテーブルに手をついた、立ち上がりそうになるほどの衝動

をなんとか抑えたのだろう。

「ええ、エルフと会うことになるでしょうが、私は彼らと戦うために向かうのではありま

せん、ただ帰るために通してくれとお願いするだけです。彼らにも言葉は通じるでしょ

うし、何も一個師団通してくれなんて言うわけではありません。私一人が向こうに渡れ

ればそれで良いですし、信用ならないとでも言われれば、その間監視でも何でも付けて

くれれば良いと言うつもりです。それにこちらの人間の勝手な魔法による拉致で此方

に来てしまったとでも付け加えれば、彼らも少しくらいは話を聞いてくれるでしょう」

 彼らには刺のあるような言い方だが私は東方を渡れるであろう方法を彼らに伝えた。

32 第3話

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 むろんこれは人間としての行動である、私であれば空を飛んでこの世界を見て回れる

うえに、この世界のエルフ達に会う必要もない。だが、エルフ達も神族の一員だ、世界

は違えど、何かしら知っていることはあるであろうから、会ってみるのも得策だろう。

「ふむ、しかし断るとなれば今から君は学園とは無関係者じゃ、わしらから君に貸し与え

るものは何一つなくなるのう、無論馬もじゃ。と、ここからは独り言じゃが、この学院

から一番近くの街まで歩き通しでも丸一日くらいはかかるのう、それに道中はあまり治

安がよろしくないと聞くのう」

 独り言となど言っているが恐らく今の言葉で考えなおせとでも言いたいようだ、目を

閉じて考えこむように口髭を撫でてはいるが、時折片目だけちらりと薄目を開けて此方

を確認している。

「ご心配は無用です、先程も言いましたが私はこれでも冒険者です。歩き通すことも野

宿も慣れております。悪漢への対処の仕方も心得ているつもりです。」

 考えを変えるつもりはないと最後に付け加えると、オスマンは降参したかのように溜

息を付いた。

「……さようか、まぁ、仕方あるまいて、残念じゃが、ミス・ヴァリエールは留年となる

のう」

「そうですか、可愛そうですね。しかし『私には関係ありませんので』」

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 その言葉に今までの我慢が限界に達したのか、最初の挨拶以降一言も話さなかったル

イズが弾けるように立ち上がると私に杖を向けてきた。

「ミス・ヴァリエール!!」

 コルベールも立ち上がりルイズを止めようとするが、ルイズの口からは怒気を含んだ

言葉がぽつりぽつりと放たれた。

「なんでよ! なんでこんな平民にまで馬鹿にされなきゃいけないのよ! あんたは私

が召喚したのよ! あんたは黙って私の使い魔になればいいじゃない! 平民が貴族

に逆らえばどうなるか教えてあげるわ!」

 なんの呪文かは分からないがルイズは呪文を唱え始めた。

 そしてここで私は彼女に感じていた違和感にやっと気づいたのだった。

 彼女が今杖に込めている魔力、いやこれは──! それにこの大きさは──!

 普通ならここで回避行動でも取るのだが私はそのまま動かず彼女を観察した。

 いや、動く必要がなかったので観察に集中していた。

「うわあああぁぁぁああぁああぁぁぁ!」

 ルイズが勢い良く杖を振りかぶる、その瞬間、彼女の顔の周りに霧に似た煙が彼女を

覆った。

 すると、今まで怒りに燃えていた瞳から光が消えていき、糸の切れたマリオネットの

34 第3話

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ようにその場に崩れ落ちた。

 その後彼女からスゥスゥと言う規則的な寝息が聞こえてきた。

「すまなかったのう、ミス」

 杖を懐にしまいながらオスマンが謝ってきた。

 彼がルイズに魔法を眠らせる魔法をかけたのだろう。

 立ち上がった割に何も出来ずにいたコルベールも座り直し謝罪してきた。

「さて、ミス、さっきは意地悪言ってすまなかったのう。君の旅に必要な物は揃えさせる

ので彼女が起きる前に学院を出たほうが良いじゃろ。もちろん馬も渡そう」

 オスマンは秘書であろう女性を呼ぶと私の準備をしてくれるよう伝えていた。

 先程までの私なら不必要ではあるのだがそのままその準備をしてもらってさっさと

出て行くところだろうが、今の私の考えは違っていた。

「オスマン殿」

「ん? なにかね、ミス・プラチナ」

 秘書との会話を止め、こちらへとオスマンは向き直す。

「……少々、お話があります」

「旅の準備に関してかな? 心配はいらんよ、彼女は優秀じゃから旅に必要な物は全て

集めてくれるじゃろうて、女性特有の物もじゃ」

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「いえ、そのお話ではありません。もしかするとその準備は不要な物となるやもしれま

せん」

 その言葉に反応したオスマンは再度秘書を下がらせ、真剣な目で私と向き合った。

「話を聞こうかね」

「ええ、では──」

 その会話はそこまでの時間を必要とはせず、すんなりと終わることとなった。

36 第3話

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第4話

  日は傾き、夜型の生き物たちが活動をし始める夕暮れ時、今日召喚されたかは分から

ないが、誰かの使い魔であろうフクロウ達がホウホウと鳴き始める。

 そんな中、今日行われた使い魔召喚の儀で一騒動起こし、眠らされていた少女がゆっ

くりとその意識を覚醒させた。

「あれ? ここは……」

 見覚えのある天蓋付きのベット、自分が日頃使っている机や椅子、雑多な物は少ない

自分自身の部屋。唯一あまり見覚えのないものといえば、昨日用意しておいた、使い魔

のための藁束くらいだ。

 まだ重たく感じる体を起こしながらどうしてここにいるのかを思い出す。

「えっと、私、使い魔を召喚して、それが平民で、学院長室まで行って、それから──」

 使い魔になるはずだった平民に何か言われて、それで怒って、魔法を使おうとして、け

どそこからが思い出せない、恐らくコルベール先生か、学院長に魔法で眠らされたんで

しょうね……。

 『残念じゃが、ミス・ヴァリエールは留年となるのう』

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 『そうですか、可愛そうですね。しかし『私には関係ありませんので』』

 寝ぼけていた脳が少しずつはっきりとしてくる、そして思い出したのは、そこで聞い

た聞きたくもない言葉。

「そうだ、私、留年したんだ……」

 バフンと音を立てて、倒れこむように起こしていた体を再びベットに沈める。

 『サモン・サーヴァント』は成功したのに、その呼び出した使い魔に否定されて『コン

トラクト・サーヴァント』は出来なかった。そのせいでの使い魔召喚失敗による、留年

……。

「母様達が聞いたらなんて言うだろうか」

 まず間違いなく怒る、いや、もうすでに昔から魔法が使えない子だと諦められている

から呆れられるだけかも。けど、こんな出来損ないがヴァリエール家の子供だと思われ

たくないだろうから、すぐにでも家から使者が来て実家に連れ戻されて家に軟禁、あと

は政略結婚の材料になるだけかしら……。

「でも、私には婚約者のあのお方が」

 酒の席での約束事とはいえ私にはちゃんとした婚約者がいるから、政略結婚は最悪の

場合以外は回避できるはず。

 しかし、それでも留年してしまっては実家に連れ戻されるのは確実、結婚などはまだ

38 第4話

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早いにしろ、それも時間の問題。わたしはもうこの学院には居られないでしょうね。

「どうしてなのかしらね……」

 私も他の生徒のように普通に魔法を使って普通に学んで普通に皆と遊んで、なんて普

通な学院生活を送りたかっただけなのに、皆と同じように魔法を扱うことが出来ないっ

てだけで全てが駄目だった。

 他の生徒は私を笑い、除け者にした。平民の中にも私を笑うものがいるみたいだし

……。

 実技ではいつも最低点、どんな魔法を唱えようとも『失敗』してしまうから当たり前

かな。それでも負けたくなかったから座学だけは皆に負けないよう努力したわ。でも

魔法が使えなければそんなものないのも同じことよね。

 そしてそんな私だからか、友達を呼べる者はほとんど居ない。楽しいことなんて一つ

もなかったわ。

 けど、こんな学院生活でも、未練はある。もしかしたら更に先を学ぶうちに魔法が使

えるようになるかもしれないし、身内の病気を治す方法だって見つかるかもしれない。

 考えれば考える程いろんな感情が湧き出てくる、そしてその感情はルイズの中で大き

な津波となり今まで抑えこんでいた心の壁を決壊させた。

「うふっ、うふふふふふふふ、あっは、あははははははははは!」

39

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 意味もなく笑いがこみ上げてくる、止まらない。悲しいはずなのに、悔しいはずなの

に、涙を流したいはずなのに涙が出ない、声を上げて泣きたいのに鳴き声が出ない。た

だただ出てくるのは狂ったような笑い声だけだった。

「あはっ! あはははははは! あっーはっは! あはははははははっはっはは!」

 夜であるにも関わらず関係ないとでも言うかのように、はしたなくルイズは大声を上

げて笑った。

「あはははははははは! はっーははははっ! はっー……」

 一通り笑って感情が戻ってきたのか、ルイズは笑うのを止めた。が、感情が落ち着き

を取り戻したからか、本来出るはずだった感情がすぐに顔を出し始めた。

「っう、うっく、うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

 先程の笑い声に引けを取らぬほどの号泣、抑えるようなこともせず、隠すような素振

りも見せずに大粒の涙を流しながらルイズは泣いた。

「あああぁぁぁぁぁあん! あぁぁぁぁあああ!」

 サイレントの魔法なんて使えない、誰かにこの鳴き声を聞かれてるかもしれない、け

どそれでも構わない、どうせこの学院から居なくなるわけだし、さっきの笑い声もすで

に誰かに聞かれてるかもしれない。だから、今だけは……。

 それから少しの間、ルイズは今まで溜め込んできたものを全て出し切るかのように泣

40 第4話

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き続けるのだった。

  「うっく、うっー、あっー……」

 散々泣き続けてやっと落ち着きを取り戻したのか、はたまたただ単に泣き疲れたのか

ルイズは泣き止んでいた

 泣き止んだとは言っても未だに嗚咽は出ているし、目には涙が溜まっており時折のそ

の目からは小さく涙をこぼしていた。

 「こんなに泣いたのは何時以来かしらね……」

 お屋敷に居た時にお母様に怒られて逃げ込んだあの秘密の場所、悲しい事があるとあ

そこでひっそりと泣いていたっけ、けどこんなに大泣きしたことなんてあったかしらね

と、ルイズはふふっと自傷気味に軽く笑ってしまう。

 その時、カチャリと言う音とと共にこの部屋の扉の開く音が聞こえた。

 ルイズは慌てて頭から毛布を被った、入ってきたのが誰であれ今の私の顔を見られた

くなかったのだ。

 コツコツと足音がベットの方に近づいてくる、大方先程の大声を咎めに来た誰かだろ

うが、私の部屋にそんな理由で無遠慮に入り込んでくる人物を私は一人しか知らない。

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ルイズは部屋に入ってきた侵入者に毛布を被ったままの状態で話しかけた。

「……何か用かしら、ツェルプストー? さっきのわめき声でも注意しに来たのかしら

? それについては謝るから、早く出て行ってくれない? 今私は誰とも会いたくない

のよ」

 足早にそう告げると、被っている毛布を更に深く被り、まるでネコのように丸くなる

が、ツェルプストーであろう、語りかけた相手は、これ以上近づくこともなにか言葉を

発することもなく、ただそこに立っているだけのようであった。

 痺れを切らしたルイズは先程より大きく強めの口調で叫ぶ。

「なによ! 用がないなら早く出てってよ! それとも何! こんな私を笑いに来たの

!? ほんとゲルマニアの人間は礼儀ってものを知らないのかしら!」

 その言葉にやっと反応したのか、侵入者は言葉を発する。しかしそれは聞き慣れた隣

人の声ではなく、知らないでも無い、ただつい最近聞き知った声であった。

「……そのツェルプストーと言う人間ではないが、お前に用事があってこの場所を尋ね

たのは事実だ、ルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」

 その声にルイズは思わず毛布を払い除けた。その声の主をルイズは思い出したのだ。

そう、私を留年へと追い込んだ忌まわしき平民である事に。

 その考えは当たっていた、ルイズがその目で捉えたのは、白金ブロンド髪をした、あ

42 第4話

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のプラチナとか言う平民であった。ただ昼に見た時よりも、月明かりに照らされ輝くそ

の美しい髪に神秘的なものを感じ見とれてしまい、すぐに言葉を発することがルイズは

出来なかった。

 それでも、怒りの方が勝ったのか噛みつかんばかりにルイズは吠えた。

「ああああああ、あんたねぇ! よくもノコノコと私の前に姿を見せれたわね! あん

たのせいで私は留年! もうこの学院にも居られないのよ!」

 言葉だけじゃ収まらないとばかりに杖を取り出そうとするが、何処を探しても杖が見

つからなかった。

「あれ? 私の杖は!?」

 慌てて、立ち上がると叩くように自身の服を探し出す。だが何処を探しても杖が見つ

かることはなかった。

「落ち着けルイズ、杖ならここだ」

 そう言うとプラチナは自身の服からルイズの杖を取り出した。それを見てルイズは

あっ、と声を漏らす。

「ちょっ、ちょっと! なんであんたが私の杖を持ってるのよ! 早く返しなさい!」

 すぐに取り返そうと、近づこうとするがプラチナがそれを静止させる。

「落ち着け、用が済んだらすぐに返す。とりあえず私の話を聞け」

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「……本当でしょうね?」

 杖がない以上、魔法は使えない。それにプラチナは旅をしていたと言っていたし、私

が食って掛かっても適当にあしらわれそうね。ここは大人しく話を聞いておいて、杖を

取り返したら……今に見てなさい──。

 心の中で仕返しをする算段を考えながら、ルイズはとりあえず、そのままベットに腰

を降ろした。

「で? 話って何よ? 何? あんたもあんたのせいで留年してしまった私を笑いに来

たのかしら?」

 最大限の皮肉をとばかりに言葉に刺を付けてルイズは聞いた。しかしプラチナはど

こ吹く風とばかりに顔色一つ変えずに淡々と答える。

「そうだな、まずオスマン殿から預かったものがある」

「学院長から?」

 プラチナは懐から手紙を取り出すとそのままルイズへと手渡した。

 受け取ったルイズはこれが何なのかと疑問に思ってしまったが、すぐにどういう要件

か思い当たった。大方留年の件が確定したとかの通達でしょうね、とルイズは考えて手

紙を開けたが、その手紙に書かれていたものは予想とは逆のものであった。

『進級おめでとう、ミス・ヴァリエール。ちぃとばかり特殊な事例じゃが、君の進級を許

44 第4話

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可しよう。わしが言えることはここまでじゃ。後はこの手紙を渡すであろう君のパー

トナーから色々聞いておきなさい。では頑張りなさいよ。ほっほっほっ』

 手紙とは思えない話し言葉のような文章にルイズは混乱してしまった。

 えっ、進級? 留年じゃなくて? それにパートナー? いったいどういうことなの

? 「──イズ。ルイズ、どうした?」

 プラチナの言葉にハッと我に返ったルイズは、まだ整理しきれてない頭でなんとか答

える。

「ええ、大丈夫よ。ちょっと混乱しただけよ……」

「そうか、ならば私に聞きたいことがあるのではないか?」

 逆に聞きたいことが多すぎて何から聞けばいいのかルイズは更に混乱してしまった。

「ええっと、じゃあ『なんであんたがここに居るのか』聞いていいかしら?」

 とりあえず、頭に浮かんだ疑問から出していこうとルイズは深く考えないようにし

た。

「それは私がお前のパートナーとしてここに残ることにしたからだ」

 あまりにも簡潔で説明が説明になっていない言葉でプラチナは返した。

「ええっと、どうして?」

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「お前に呼び出されたからだ」

「ちょっと待ってよ! あんた私が呼び出した時も学院長室で交渉した時も、これでも

かってくらいに拒否したじゃない! あんた自分が居た場所に帰りたがってたじゃな

い! それが何! どういう心境の変化よ!」

 また大声で叫んだせいでゼィゼィと肩で息をするルイズ。それに対し小さく、あぁ、

と理解したかのようにプラチナが答えた。

「お前に興味が出たからだ、とでも言っておこうか」

「何よそれ、どういう──」

「ルイズ、お前は他の奴等のように魔法が使えないんじゃないか?」

 その言葉にルイズは固まってしまった。

 まだ一度たりともプラチナの前で魔法を使っていないはず……。いや、使おうとして

止められたのもあったがただそれだけでプラチナはそれを言い当てたのだ。

「なんで、あんたに、そんなのが、分かるのよ……」

 継ぎ接ぎながらも必死に問いかける、それに対しても淡々とした物言いでプラチナは

返す。

「旅をしてきた、とは言ったな。そのおかげで感覚が鋭くなった。だからある程度の魔

力の違いなどはわかる」

46 第4話

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 もっともらしい言葉だが、それでも疑問に思う所は幾つも出てくる、しかし今はそれ

を言い当てられてしまった以上、言い返す言葉が出なかった。

「話を戻そう、ルイズ、その魔力は特殊な者だけが持つものだ。故にその魔力を持つお前

に興味が出たのだ」

 だから、お前の側に居ることにした。そう最後に付け加えるとプラチナは小さく微笑

んだようにルイズには見えた。

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第5話

 「どうしたルイズ? まだ泣きたりないのか?」

 私への返答とばかりにまたルイズの頬を涙が伝いだした。

「えっ!? 違うわよ! 泣いてなんかない!」

 ルイズはそう言うと服の袖で乱暴に目頭を拭い取り、まだ尚赤い目を私に向け直し

た。

「で、あんた! 私のこの魔法についてなにか知ってるの!? どうして爆発するか分か

るの!?」

 相当この問題に悩んでいたのだろう、自分の知りたい答えが目の前にあるかも知れな

いと言う期待から身を乗り出すように私へと問いただしてくる。

「何度も言うが落ち着け、ルイズ。確かに私はその魔力について知ってはいるが、教える

ことは出来ない」

「はぁ!? どうして!?」

 期待していたものとは違い、明確な答えが帰ってこなかったことにルイズは苛立ちを

隠せずにいた。

48 第5話

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「ルイズ、私は職で言うなら剣士だ、魔法使いではない。旅をしてきてお前の様な魔力を

持つものを見てきた。だが、だからといってそれについて答えを出してやることは出来

ない」

「なによ……それ……」

 がっくりと肩を落としたルイズはそのままベットの上で膝を抱えて塞ぎこんでし

まった。

 まったく……浮き沈みの激しい、しょうがない娘だ……。

「だがな、ルイズ。私はお前に完全な答えは出してはやれないが、アドバイスを出すこと

は出来る」

「どういう意味よ……」

 のっそりと顔だけを上げ、未だ腫れが引かぬ赤い目で私を睨みつける。

「その魔力を持つ彼等とは共に戦う仲間だった。共に戦場を駆ける中で彼等の魔法を見

てきた。彼らがどのような魔法を使い、どう駆使してきたのかを。彼等から教え学んだ

ことをお前に教えてやることは出来る」

 実際は彼等ではなく、我々の、なのだが、そこは黙っておこう。

「……あんたのそのアドバイスとやらを聞けば、私も魔法を使えるようになるの?」

 希望が見えたのか暗かった表情が少々明るくなり、ルイズの瞳に光が戻ってきてい

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た。

「さぁ、どうだろうな……。そこはお前の努力次第だ」

 その言葉を聞いたルイズは勢い良くベットの上で立ち上がると、高らかに宣言した。

「いいわ! やってやろうじゃない! 今まで何を試しても駄目だった私の魔法に少し

でも活路が見出だせるなら、プラチナ、あんたのそのアドバイスとやらを私に教えて頂

戴!」

 さっきまでふさぎ込んでいた娘とは思えないほど、活気に満ちた声を上げながら小さ

くガッツポーズまでとっていた。

「はしたないぞ、ルイズ」

「そ、そうね、座るわ」

 一応の落ち着きはあるのか私の指摘に素直に答え座り直したが、まだ興奮を抑えられ

ないのか若干だが体を揺らしている。

「ねぇ! プラチナ! まずは何をすればいいの!?」

 もうすでに魔法の特訓を行うつもりでいるのか、目を輝かせながら私へと詰め寄る。

「ルイズ……、今この時間にここでやるつもりか?」

「え? あっ……」

 もうすでに外には月明かり以外はなく、ここが自室であることにルイズは今気づいた

50 第5話

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かのような声を出した。

「そ、そうね、別に今日じゃなくても良いわね、明日にしましょう」

 ルイズは再度ベットへと腰を降ろし、私と向き合う。

「えっ〜と、魔法の事は明日考えるとして、まだ何かあるの?」

 ルイズの問いかけに私は首を縦に振った。

「ああ、オスマン殿と話を付けた。その報告、といったところか」

「そう、でどんな風にまとまったの?」

「そうだな、まずはこれを見て欲しい」

 左手の甲がルイズに見えるように手を出す。そこには文字を書かれたような印が付

いていた。

「えっ!? これってよく見る使い魔のルーンだけど……、あれ、私、あんたと『コントラ

クト・サーヴァント』したの?」

 私の手をとりながらまじまじと見つめるルイズの問に対し私は首を横に振る。

「いや、これはオスマン殿に付けてもらった、ダミーだ。その『コントラクト・サーヴァ

ント』による印は消すことが出来ないと聞いたからな、代わりのものを付けて貰ったの

だ。これなら何時でも消すことができる」

「何のために?」

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 まるで意味がわからないとばかりにキョトンとするルイズに少々呆れて小さく溜め

息を吐いた。

「……ルイズ、ここは学院なのだろう? ならば関係者でなくては此処には留まること

は出来ない。別に使用人や衛兵としてでも良いのだが、私はもうすでにお前に召喚され

た使い魔として周りに認知されている、だからこの印が必要なのだ」

 ルイズは、あ〜っと納得したかのような声を出した。

「だから『特殊』なんて言い回しを学院長は使ったのね、『コントラクト・サーヴァント』

は受けられないけど、使い魔として仕えることは別に構わないってこと?」

「使い魔として、というよりもお前に仕える一人の人間としてだがな。もちろんそれは

私が元いた場所に帰る方法が見つかるまでの間だけだ」

 私の神としての力を使えば、少々遠回りになるかもしれないが帰ることは出来るだろ

う。だが、ルイズの持つこの力を放っては置けない。この力は戦争の引き金になりかね

ない。

 実は微かにではあるが、この先の運命が『視えた』のだ。まだ霧がかかったかのよう

にうっすらとではあるが、確実にルイズは戦火に巻き込まれるだろう。

 先の未来を回避できないのなら、せめて彼女には自身の力を自覚させ、その力を正し

く使えるようになってもらい、自分自身を守れるくらいにはなってもらわねばならな

52 第5話

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い。

 そして、それらよりも気掛かりなのは、この世界に来る前にあのゲートから感じた『不

死者』の気配である。

 この世界にきてから、まだはっきりとした場所まではつかめないが確実にこの世界に

点々と感じられる。

 それらを根絶しておかねばなにが起こるかわからない。不安要素は取り除いておか

ねばならぬ。

 それらの問題が片付き次第、帰るとしよう。

「ふ〜ん、まぁいいわ。とりあえずはあんたは私に仕えるって事で良いのね?」

「砕いて言えばそうなる」

「そっ! わかったわ。他には何かある?」

 先程から寝癖が気になるのか、髪をいじりながら適当に返事をしている。あまり理解

してなさそうな言い方だ……。

「あぁ、私の衣食住に対してだが、学院が出してくれるそうだ。ある程度優遇された衛兵

くらいの扱いで取り計らって貰っている。そのくらいは賄えるとオスマン殿も言って

いた」

 実際には衣食住などなくても何ら問題は無いのだが、衣食住を必要としない人間など

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いないのだから、要らない等と言って変に怪しまれるくらいなら条件として言ってし

まったほうがいいと私は考えた。

「そうなの? てっきりあんたの衣食住は全部私持ちだと思ったけど……、まぁお金が

かからないっていうんだったらそれでもいいかな」

「それとルイズ。ここからが重要なのだが、お前がこの学院で講義を受けてる間に私を

必要とする講義が無い場合、私は二、三日程学院を離れる場合がある」

「はぁ!? なんでよ!?」

 いじっていた髪から目を離し、私へと喰ってかかるが片手でそれを静する。

「オスマン殿が調べてくれるとはいえ、帰る方法を指を加えて待ってる訳のは少々申し

訳ない、私自身も調べるために動こうと思っている」

「それじゃあ、使い魔の役目を果たして無いじゃない! 使い魔は常に主人のそばに居

て主人を守るものでしょう!」

「ルイズ、さっきも言ったが使い魔としてではなく、一人の人間としてだ、そこは間違え

るな。それとそれについての旅費などは学院の負担だ、お前には迷惑はかからん」

 私の答えにぐうの音も出ないのかルイズは考えこむように腕組みをして押し黙って

しまった。

「……いいわ、それについては許可してあげる、別にあんたがいてもいなくても変わらな

54 第5話

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いし」

 精一杯の虚勢にしか聞こえないが、そこは流してやるとしよう。

「感謝する、ルイズ」

「……ふんっ」

 感謝の言葉に対して照れ隠しのようにルイズはそっぽを向いた。

「で、まだ何かあるの?」

 一応聞いてやろう、といった様な態度で話を再開させる。

「今日言っておかねばならないことは全て言ったはずだ、後は普通に使い魔……、いや、

仕える一人の人間として扱ってくれ」

「そう、わかったわ。じゃあ今日はもう休みましょう、さっきまで魔法で寝てたとは言っ

ても、これだけ騒げば疲れるものね」

 軽く欠伸をすると、来ている制服などを籠に放り込み、寝間着へと着替える。そのま

ま体を捻りベットへとルイズは潜り込んだ。

「そうだ、最後にいい忘れていたが……」

 すでに寝る体制に入っていたルイズは顔だけを毛布から出して聞き返す。

「なによ?」

「いや、今日いきなり私の部屋を準備することが出来なかったから、お前の部屋に泊めて

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もらえとオスマン殿に言われている。すまんが、今日一日だけ寝床を貸してくれ。明日

からは使用人達と同じ宿舎に寝泊まりするつもりだ」

 別に睡眠もそれほど必要ではないのだが、私が人間らしく振舞っている以上、睡眠も

必要がないとは言えないのだ。

「そっ、まぁ一日くらいだったらいいわよ、あんたも入れば?」

 もぞりとベットの中央から端へ動きもう一人分のスペースをルイズは確保してくれ

た。

「すまない」

 ルイズに礼を言い、開けられたスペースに潜り込む。

「あんた、そのまま寝るの?」

 顔を此方に向けてルイズは不思議そうな顔をした。

「変えの服がないからな、明日にでも何か代わりのものを用意してもらう」

「ふーん・・・・・・、ところで今更何だけど、あんた学院長室と今とじゃ、全然話し方

が違うわね。貴族様に対して無礼よ、それ」

 多少不機嫌な顔をしながらも怒るとまでは行かない口調でルイズが言う。

「ああ、流石に(見た目的に)目上の人物と話す場合などは口調を変える」

「じゃあなんで私にはそんな口調なのよ……」

56 第5話

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「貴族などあまり居ない土地で育ったのでな、貴族様との話し方など心得てなどいない。

それも貴族であるとはいえ年下の子供達に使う敬語なんて知らないのだ。なにぶん旅

暮らしが長かったのでな、そこは許してくれ」

「そう」

 適当な理由を作り、もっともらしく説明したが、それを信じたのか、ルイズも簡単に

返事を返してそれ以上の追求をしなかった。

「なぁ、ルイズ」

「なによ?」

 気まぐれに此方から話しかけてみることにしてみる。

「もし、召喚させたのが、私のような平民の女性ではなく、男性だったら、お前はどうし

ていた?」

「えっ? う〜〜〜ん」

 困惑しながらも、少し考えてからルイズは答えを出した。

「そうね、まず主導権は全て私が握るわ、勝手なことはさせない、私に絶対服従、眠るの

もそこの藁束ね」

 何かしら面白いことでも考えたのかクスクスと笑いながらそう答えた。

 その答えに背筋に冷ややかなものを感じた気がしたが気のせいだろうか・・・・・・

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 しかし、良かったな。もし此処に男性の平民が召喚されなくて、されていたら不憫な

扱いを受けていたことだろうと心の底からそう感じた。

「けど、なんでそんなこと聞いたの?」

「別に意味は無い、ただなんとなく聞いてみたくなっただけだ」

「へー、あんたでもそんなこと考えるのね」

 ルイズは目を丸くして驚いたようなことを出した。

「……ルイズ、一応聞くが、お前は私をどう見ている?」

「血も涙もない鉄面皮」

 間髪入れずに即答された答えがこれとはな……。

「心外だな」

 なおもクスクスと笑いながらルイズは続けた。

「だってそうじゃない、学院長室ではどこ吹く風みたいに私の事どうでもいいなんて

言っておいて、普通そう言われたら誰だってそう感じるものよ」

「だが、戻ってきただろう?」

「ええ、そうね。それでこれまでの無礼はチャラにしてあげる……、寛大な私の心に感謝

しなさい……」

 もうすでに眠気がピークに来ているのか、ゆっくりと瞼を閉じながらもルイズは答え

58 第5話

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る。

「そうだ、プラチナ。明日の朝起こして頂戴……、あと洗濯籠をメイドにでも渡しといて

……、お願いねプラチナ。おや……す……み……」

 最後にお願いと称した命令を言い残すと、そのまままた規則的な寝息を立ててルイズ

は眠ってしまった。

 やれやれと思いながらもルイズが寝入るのを見届けると、レナスは彼女を起こさぬよ

うにベットから起き上がりその部屋を後にした。

 そのまま学院を抜け、近くの森に入る。周りに人がいないのを確認してから体を神化

させ、空へと浮かび上がる。

「東だったな、明け方までに戻れれば良いが……」

 方角を確かめると『ロバ・アル・カリイエ』と呼ばれる東の地へと飛び立った。

59

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第6話

  柔らかな双月の月明かりが照らす中、レナスはコルベールから受け取った地図を頼り

にこの世界のどんな生物よりも早く、その身で夜風を切りながら東へと飛んでいた。

「そろそろだな」

 コルベールから聞いたところによると、東の地は砂漠になっており『サハラ』と呼ば

れているらしい。

「なるほど、聞いた通りだな」

 もうすでにその目で捉えているその地は、確かに砂漠と化しており、更に東へと続い

ていた。

 そして、この地はエルフ達が住んでおり、人間との争いが絶えないそうだ。

「エルフが住んでいると言うことは、住めるだけの環境があるはずだ、そこを探すか」

 ミッドガルドでもエルフは住んでいるが、彼等も神族とはいえ寿命が長いだけで人間

とは然程変わらない。熱や冷気も感じるし、動けば疲れ、腹も減り、喉も渇く。

 そんな彼等が砂漠と化したこの地のど真ん中に居住を作るとは思えない。

 ならば、この砂漠のどこかにオアシスの様な水場か、砂漠と境界を作るようにミッド

60 第6話

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ガルドの精霊の森の様な場所があるはずだ。

 レナスはそう考えると更に高度を上げ、そのような場所がないかゆっくりと飛行しだ

した。

 すると、そう時間もかからぬうちに、予想していた森の様な影を捉えた。

「やはりな」

 素早く、その場所へと身を翻すと、その森の中央付近と思われる上空で待機した。

「手早く事が運べばよいが……」

 ポツリと誰に言うわけでもない独り言を漏らし、レナスはそのままその森へと降り

立った。

 バサバサと木々の葉に体を当てながらも、しっかりと地に足をつける。

 決して硬くはない土の感触と、その上に積もる落ち葉や小枝が小さく音を鳴らす。

「さて、彼等を探すとしよう」

 そう言うが早いか、はたまた足が一歩前に出るが早いか、その瞬間レナスの足元に矢

がトスリと音を立てて刺さった。

「……随分な歓迎だな」

 矢が飛んできたであろう方向へと目を向けるが、夜の森というのは視界が悪く、矢を

射った相手を探すも見つけられない。

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「いきなり殺されなかっただけでもありがたく思え! 貴様、何者だ!」

 余程耳が良いのか、此方の声が聞こえていたようで、強い口調の返答が森の奥から

返ってきた。

 明らかに敵意がある……、穏便には済みそうにないかもしれないな。

 耳が良い相手のようだが、それでも聞こえるやすいようにと少し声を張り上げるよう

にレナスは答える。

「我が名は運命の三女神が一人! 魂を選定する者『ヴァルキュリア』! 訳あってこの

地を訪れた! すまないがここの長と話がしたい!」

 昔から言い馴染んでいる名を視えない相手へと告げる。今は創造主であるレナスだ

が、この異界の地でそれが通用するとは思えない。無論、先程名乗った名も通用すると

は思い難いが、神としての名を無下にされる事は無いだろうと思っての判断だった。

「神……だと……!」

 その答えに少なからず同様した声が微かながらもレナスへと届いた。

 さて、どう出るか、と声が聞こえた方をじっと見据えるが、返ってきたのは言葉では

なく、明らかな殺気を含んだ矢であった。

「っ!」

 咄嗟に後ろに飛び退きつつ、すぐに剣を抜き放ち正面へ構える。矢はレナスが立って

62 第6話

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いた場所に突き刺さる。矢が突き刺さった場所と角度からして確実に左足を狙った攻

撃であった。

「貴様! 何のつもりだ!」

 矢を射った相手に少なからず怒りを覚えながらもレナスは相手に理由を問う。

「何のつもりだと!? 黙れ!! 神の名を語る不届き者め! この世界に神などおらぬ

!」

 その言葉と共に幾つもの矢がレナスの体を目掛けて飛来する。

 レナスは最小限の動きで矢を躱し、落とせる矢は剣で払い落とした。

「止めろ! 私は此処に戦いに来たのではない!」

「では何をしに来た! 何千年もの間我々を放っておいて今更救いに来たなど吐かすの

か!」

 何千年? それほどまで彼等は此処で何を……。

 レナスに思考させる暇など与えぬと言うように攻撃の手を止めることなく何本もの

矢がレナスへと向けられる。

「仕方がない、少々手荒かもしれんが……」

 奴に近づき、武器を破壊するか、攻撃が出来ない程度に手足に傷を負わせるしか無い

な、と考えたレナスは足に力を込め、一気に近づこうとするが──。

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「双方止めぬか!」

 背後の方から、攻撃を仕掛けてくる奴とは違う別の声が森に響き渡った。その瞬間、

矢による攻撃はピタリと止まった。

 声のした背後へと振り返ると、そこには数人の若い男性のエルフとその中央に老齢な

男のエルフが立っていた。

「長!」

 ガサリと音を立てながら矢が飛んできていた方から少年に近い年齢のエルフが姿を

現した。

 そのまま、私を牽制しつつ、彼等の方へと近づいていく。

「長! 何故此処へ!」

 長と呼ばれた老齢のエルフに問い詰める少年のエルフに、長は手に持つ長い杖をその

頭に振り下ろした。

 ボカリと小気味良い音が聞こえ、少年エルフは頭を抱えてうずくまってしまった。

「馬鹿者、これだけ騒げば誰でも気になるわい」

 それだけ言うとその少年エルフを余所に長は私へと近づいて来た。

 他のエルフ達はそれを止めようとするが、長に片手で制され、その場に待機した。

「申し訳ないお客人、すまぬが剣を収めてはくれぬか、後顔をよく拝見したい」

64 第6話

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 私へと近づきながら長はそう言ってきたので、言われた通りに剣を収め、顔が良く見

えるように兜を外した。

 すぐ側まで来た長は手に持っている本のようなものをめくりながら私の顔と交互に

見比べていた。

 そして、ようやく何かわかったのか、ほぅ、と軽く頷くと、本を閉じ私を見つめなが

ら口を開いた。

「もしや、貴方様は『アーリィ・ヴァルキュリア』様でございますか?」

 長に姉と間違えられたものの、確かに彼は私達を知っているようだ。ならば話は通じ

よう、その前に間違えは正しておかねばならぬがな。

「確かに私は『ヴァルキュリア』だが、姉であるアーリィではない、私は次女のレナス、

『レナス・ヴァルキュリア』だ」

 長にそう説明すると、驚いたように彼は目を丸くし、深々とお辞儀をした。

「申し訳ございません、レナス様、私共の持つ古い文献には簡単な立ち絵と名前しか書か

れておらず、間違えたのでございます」

 そう言うと手に持つ文献を開きながらそのページを開いて見せてくれた。

 なるほど、確かに色が入っているわけではない立ち絵だと、三女神のうちの誰だと、見

分けがつかないな、それに私や、『シルメリア』の名は姉とは違い、横に補足として書き

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示されている。

「良い、間違えたことに関しては何も咎めぬ。それよりも先程の争いを止めていただき

感謝する」

 軽く頭を下げると、長は驚き、手にしている杖を手放すほど慌てふためいた。

「お止め下され! 我々にそのように頭を下げるなど、オーディン様に知られたらなん

と申されるか……」

 あまりにも慌てながら、すぐに顔を上げるように懇願されてしまったため、そうか、と

軽く言うと、顔を上げ、本題へと入ることにした。

「長よ、すまないが、この世界はアスガルドやミッドガルドとは違う世界のようだが、な

にか知らないか?」

 私の言葉に先程と同じくらい驚いたのか、長はまた目を丸くした。

「なんと……! 知らずにこの世界へ来られたのですか!?」

 むむむ、唸る長に着いて来ていた若いエルフが、あのう、と声を上げた。

「なんじゃ?」

「長、とりあえず、村に戻りませんか? この騒ぎを村の者達にも説明して安心させねば

なりませんし、何より、神様に立ち話とは些か無礼かと……」

 若いエルフの意見に長は、そうじゃなと頷いた。

66 第6話

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「申し訳ないが、レナス様。我々の村まで来て頂けますか? そこで全てお話いたしま

す」

 どこかで見た流れだが、此処で断る通りはない、むしろ全て話すと言っているのだ、私

がこの世界について知らぬことは全て教えてくれるだろう。

「わかった」

 私の返答に長は頷くと、此方ですと促すように皆を連れて先頭に立って歩いた。

 長に殴られた少年も、まだ使えそうな矢をいそいそと回収しその後に続いた。

 しばらく歩くと、木で出来た柵に囲まれた大きくも小さくも無いそれなりの大きさを

した村へと付いた。

 門の前では、心配そうにしているエルフ族の女性たちや眠たそうに目を擦りながらも

起きている子供達までいた。

 着いて来ていた若いエルフ達は各々その場で解散し、彼女らに、大丈夫、心配ないよ

と声をかけながら自身の家へと帰っていった。

 もちろんあの少年も次の交代のエルフであろう少年に声をかけ、欠伸をしながら戻っ

ていった。

 その際に此方をまだ敵視しているようで、軽く睨まれたが、それでも眠気が勝ったの

か、すぐに家の中へと入っていった。

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「申し訳ございません、レナス様。どうも一部のエルフ達は『神』を邪険に思っている者

がいるようでして、彼もその一人なのでしょう。ですが、どうか許してくだされ」

 長は私にそう言うと此方です。と、この村の中では一番大きな家の前へと案内した。

 家の中へと案内された私は、長に促されて向き合うような形で椅子と腰を降ろした。

 ギシリと椅子が軽い悲鳴を上げたが、その後は静かな家の中にはパチリパチリと暖炉

の火の音しか聞こえてくるものはなかった。

 静かでありながらも、重い静寂の中、長が口を開く。

「レナス様、先程からの度重なる無礼、どうぞお許し下さい……。私の命で払えるのでし

たら、それで……。どうかさっきの少年の事は許してやってください」

 また深々と頭を下げた長は、いやに物騒なことを口にした。

「構わない、それぐらいで処罰しようなどとは思わない。それよりも得体の知れない私

に対して、怖気もせずに向かって来たことを褒めてやるといい」

 私の答えにホッとしたのか、ありがとうございます、と言うと再度頭を軽く下げた。

「で、長よ、話してもらえるか? この世界は何だ?」

 本題へと話題を移すと、長はゆっくりと頷き、ポツリポツリと話しだした。

「この世界は恐らくレナス様も考えている通り、アスガルドともミッドガルドとも違う

別の世界でございます」

68 第6話

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「やはりか」

 考えは当たっていたらしく、長の言葉で確信へと変わった。

「やはりわかっておられましたか」

「ああ、我々とは違う魔法、崇拝されている宗教、そして空に浮かぶ二つの月」

 ある程度、オスマン達より話を聞いた話と照らしあわせてもこの世界が別のものだと

思わせるものは多く、ある程度は予測出来たものである。

「話を続けさせて頂きます、そもそもの発端はオーディン様達による世界の創造がされ

ていた時にまで遡るそうです」

 オーディン様達による世界の創造……! 昔なんて言葉では言い表せないほど前の

事ではないか

「そんなに前なのか」

「ええ……、そう言い伝えられております」

 ゆっくりと落ち着いた物言いで更に長は話を進める。

「世界を想像している最中だったそうです。とある場所に次元の裂け目が出来てしまっ

たのです。それをオーディン様の命により我らの先祖はその地へ向かい、修復すること

になりました。しかし、その裂け目を消すことは出来ず、オーディン様へ嘆願しても手

を貸すことは出来ないと一蹴されたようなのです。ですからご先祖様達は消すことが

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出来ぬのならとその地に人が寄り付かぬように此処と同じように深い森を造り、裂け目

を両方から塞いでしまおうと考えなさったそうなのです」

 ミッドガルドにある人の来ないエルフの居る深い森……。

 一つしか思い浮かばないな。

「なるほど、ならばもう一つの場所は精霊の森ということになりそうだな……」

「ほう、ミッドガルドでの封印地はそう呼ばれておるのですか」

「私自身確かめたわけではないが、ミッドガルドでエルフ達の住む深い森となるとあの

場所しか思い浮かなばないからな」

 それに最深部まで行ったことは無い上に、彼等も別段必要のないことは話さなかった

のだろう。

「そして、この世界での封印地、次元の裂け目の先がこの場所と言うことか……」

「そうなのです。そういえば、レナス様はどうやってこの世界へ?」

 ふと気になったのか長が話題を変える。

「私がこの世界へ来た方法?」

 目を閉じて思い出す、がそんなに前の事ではなくせいぜい数時間前のことなので鮮明

に覚えている。

「……この世界の魔法使いの少女にだな、使い魔として召喚された」

70 第6話

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「……は?」

 長は何を行っているのかわからないといったように、眼と口を大きく開きポカンとし

ている。

「そのままの意味だ、私はこの世界へは使い魔として召喚された」

「何を馬鹿な……、神を使い魔にですと……!?」

 信じられないとばかりに顔に手を付き、長は頭を振るう。

「ではまさか! 今その魔法使いの使い魔をしておられるのですか!?」

 ハッと気がついたように長は顔を上げた。

 私は頭を横に振ると簡単に説明を加える。

「いや、召喚はされたが、『コントラクト・サーヴァント』だったか? あれは受けてい

ない、が少々気になることがあってな。その魔法使いのそばにいることにしている」

「気になることとは?」

 嫌な言葉が発せられるのではと脳裏に浮かんだのか、長はゴクリと喉を鳴らした。

「その魔法使い、ルイズと呼ばれている少女は、我々と同じ神力をその身に宿している」

 隠すことなく長にそのまま伝えると、長は嫌な予想が当たったのか、やはりと呟くと

俯いてしまった。

「何か心当たりがあるのか?」

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「はい……」

 顔を上げた長は何処か疲れた様な表情で語りだした。

「六千年程前の事だったと聞きます……、ふらりとゲートから一人の男が現れました。

名をブリミル。彼もまた神力をその身に宿した人間でございました。そして忌むべき

人間だと聞いております」

 聞き覚えのある単語に私はピクリと反応する。

「ブリミル? その世界の宗教か何かの名前ではなかったか?」

 私が問い返すと、長はコクリと頷いた。

「そうです、この世界の人間達が崇拝し、我々エルフ達と人間達の戦いを引き起こした張

本人であると、聞いております……、詳しいことは私も、余り……」

 そう言うと口を閉ざし、またも俯いてしまった。

 しかし、何か決心したかのよう真剣な顔付きに戻ると、スクリと立ち上がった。

「申し訳ないが少々着いて来てもらえますか?」

 そう言い、再び外へと私を連れ出した。

 長の家を出て更に森の奥へと進むと、そこには魔石で作られたドーム状の様な物が設

置されていた。

「これは?」

72 第6話

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「これが次元の裂け目の封印地でございます。我々はこれを『シャイターン(悪魔)の門』

と呼び、人間達は、この場所を聖地などと呼んでいるそうです」

 私はそう言われたドームに近付くと触れて確かめてみることにした。

 なるほど、確かにとても強い歪みを感じる、しかし、それを抑えているこのドームは

それを抑えるにはとても不安定に感じられる……、これは一体?

「お気付きになられましたか?」

 長の問いに長へと向き直った私は頷き言葉を発する。

「封印するにしてはこのドームはとても不安定だ、もしかして何かあったのか?」

 えぇ、と答えると、長はそのまま話しだした。

「数ヶ月ほど前の事でしょうか、ちょうど今日のような月明かりの晩だったと思います。

突然大きな音が村に鳴り響きました、すぐに若い者が音がした方、このドームに駆けつ

けますと、無惨にも壊された後でございました。すぐに修復を行ったのですが、ご先祖

様達が長年かけて造り上げた、制御の魔法石で作られた扉がなくなっておりました。慌

てて我々は、応急処置として囲うだけのドーム状にはなるものの、魔石を組み上げて、今

の状態となったのでございます」

「何故、ドーム状では駄目なのだ? 封印出来れば良いのだろう?」

 私の言葉に長は首を横へ振った。

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「駄目なのです。ご先祖様達の調べによりますと、この次元の裂け目は一本ではないよ

うなのです、例えで表しますと、大きな筒状の端と端が、ミッドガルドとこの世界だと

しましょう、しかし、その所々に小さく穴が空いており、更に別の世界へと通じている

ようなのです。幸いにもそこまで影響はないのですが、偶に換気と言いましょうか、開

けてやらないと、別の世界の物が此方の世界の何処かに弾き出されてしまうようなので

す。換気をすれば全てではありませんが、ある程度は抑えることが可能だと聞いており

ます」

「なるほど、その為の扉か……」

「そうでございます」

 長は自身の杖をぐっと握ると意を決したのか、私へとまた頭を下げた。

「お願いでございます! レナス様! 盗まれたその扉を探してもらえはしないでしょ

うか!」

 盗まれたと言う言葉にピクリとレナスは反応する。

「盗まれた? 完全に壊されたわけではないのか?」

 顔を上げた長は説明を続ける。

「はい、実はそのドームが壊された夜、一人だけそれを持ち去る二人の人影を見たと言う

者がおります。其奴の証言によると、一人は強大な神力と魔力を持ち合わせており、も

74 第6話

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う一人は、何やら我々と同じ気配のようなものを感じたと、言っておりました。どちら

も目深にフードを被っており性別まではわからないものの、その不思議な気配を感じる

ものは、オーク鬼のように大柄だったと聞いております」

「では、私はその逃げた二人組を探して扉を取り返せば良いのだな? 更に詳しい特徴

を聞きたいのだが、その目撃した者に会えるか?」

 その言葉に長は口をモゴモゴとさせ少々躊躇したが、その重い口を開いた

「それは……、無理だと思われます。その目撃したものは、先程矢でレナス様を攻撃した

あの少年でございます。彼は神を嫌っております。話をして欲しいと言っても話して

くれるかどうか……」

 あの少年か……、しかし、何故そこまで神を嫌うのか、長にその理由を聞いてみるこ

とにした。

「あの子達が神を嫌う理由ですか……、ご先祖様の代から理不尽に押し付けられたこの

責務とそのせいによる逃れることの出来ないこのゲートの守り人としての使命、そして

絶対に見ることのできない、ご先祖様達の故郷である、ミッドガルドへの帰還。それら

の不満が積もり積もって神と言う存在が嫌いになったのでございましょう……」

 ですが、それでも許してやってくだされ、と長は最後に付け加えると、何度下げたか

わからぬその頭をまた深々と下げたのだった。

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「咎めるつもりはない、むしろ此方が謝らねばならないのかも知れぬな……」

 そう長に伝えると空を見上げた、もうすでに日が出始めているのか、うっすらと白ん

できており、鳥の鳴き声も聞こえ始めた。

「すまぬが、今日はもう戻らねばならぬ、また訪れる、その扉とやらも探しておこう」

 フワリと軽く浮き上がりながら長にそう伝える。

「ありがとうございます、何卒よろしくお願いいたします。次からは攻撃をせぬよう皆

にも伝えておきます故……」

 そう言うともう何度見たかわからぬ深いお辞儀をしていた。

 レナスはそれを見届けると、高度を更に上げ一気に空へと浮かび上がった。

「やれやれ、問題は山積みのようだが、今はルイズの元へ帰らねばなるまい……」

 そう一人ごちると学院を目指し飛行を始めるのだった。

76 第6話

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第7話

  エルフの長達と別れ、陽の光が微かに大地を照らし始める頃、出発する前と同じよう

に学院近くの森で自身を変化させてから、レナスは学院へと戻って来ていた。

 すでに夜行性の使い魔達はいそいそと眠りにつき、かわりに昼行性の使い魔達がのそ

りと起きだし、その鳴き声をあげる。

 ルイズに言われていた起こす時間には少々早い気もするが、それでも彼女の部屋に向

かい、その部屋を訪れる。

 案の定と言うべきか、まだルイズは楽しい楽しい夢の中にいるようで、その安らかな

寝顔は、昨夜、癇癪を起こして騒いでいた者とは思えぬ顔であった。

 早速起こそうかとベットへと近付くと、コツリと足先に何かが当たった。

「籠か」

 その足元には昨日ルイズが来ていた衣服が無造作に詰め込まれた、小さな洗濯籠が

あった。

 と、ここでルイズからの『お願い』をレナスは思い出す。

 すると、ふっ、と軽く笑った後、その籠を拾い上げ、ベットから離れ、扉の方へと戻っ

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ていった。

「私も丸くなったものだな……」

 誰に言うわけでもなく、自分自身にそう言い聞かせると、ルイズの部屋を後にするの

だった。

 階段を降り、もうすでに働き始めているであろう、使用人らしき人間を探す。

 学院の中を動き回るうちに変なものとレナスは遭遇した。

「手足の生えた……籠……?」

 そこまで大きくない洗濯籠が、その籠に入る許容範囲の洗濯物を明らかに過重した状

態でふらふらと歩いていた。

 あれもこの世界ならではの魔法なのかと、よく観察してみるが、どうやら違うらしい。

 恐らくあの多大な洗濯物で姿が見えていないだけで、使用人である人間が運んでいる

ようだ。

 早速、用事を済ませるためにその人間へと近づき声をかける。

「すまないが、そこの人」

「えっ!? あっ! はいっ! きゃっ!」

 急に声をかけられて驚いたのか、返事をしたものの、声をかけた人間は手にしていた

洗濯物を床にぶちまけた。

78 第7話

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 ドサドサとまるで雪崩でも起きているかのように、積み上げられた洗濯物は床へと散

らばる。

「あぅ〜〜、またやっちゃった〜……」

 レナスはようやく洗濯物によって隠れていたその人間の姿を視認する。

 年は、十六か十七ほど、年齢に適した体付きをしており、やや眺めの黒髪のショート

カットに黒い瞳。顔に少々のそばかすが見て取れる。

 そんな彼女は今両手を頬に付き困った顔付きで床に散らばった洗濯物を見ていた。

「すまない、脅かすつもりではなかったのだが」

 私のその言葉にやっと私を確認できたのか、顔を青くしてペコペコと頭を下げ始め

た。

「も、申し訳ございません貴族様! すぐに片付けますので、どうか──」

 余程貴族が怖いのか、何度も下げる顔にはうっすらと涙が浮かんでいた。

「落ち着け、私は貴族ではない」

 その言葉を聞いた彼女は、えっ? と言う声を上げた後、私の姿をまじまじと見て、本

当に貴族では無いとわかったのか、青くしていた顔を若干だが元に戻していた。

「えっと、今日来た新しい使用人の方ですか?」

 まだ困惑しながらも私が持つ籠を見てそう思ったのか彼女はそう聞いてきた。

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「いや、使用人ではない。確かに、此処に来てまだそんなに日が経ってはいないがな」

「貴族様でもなくて、使用人でもない? それで此処に来てそこまで日が経ってないと

言うと──、あっ……」

 何かわかったのか、彼女はポンと手を叩き、にこやかに笑った。

「あぁ! 貴方が昨日ミス・ヴァリエールに召喚されたと言うミス・プラチナですね?」

「確かにそうだが、お前は何故私を知っている?」

 彼女とは今回が初の顔合わせのはずなのだがと疑問に思い、そう問いかけると彼女は

笑顔を崩さずに答えてくれた。

「申し遅れました、私はこの学院で使用人をしております、シエスタと申します。それ

と、何故知っているかと言いますと、もう噂になっておりますよ? ミス・ヴァリエー

ルが平民の使い魔を召喚したと、それにオスマン様の秘書である、ミス・ロングビルか

ら貴方の為の部屋と食事等と承っておりますので」

 シエスタと名乗る彼女が丁寧に全て説明してくれたおかげで全て納得がいった。

 なるほど、もうすでにオスマン殿が動いてくれていたのか。

「では、朝食の時間に厨房まで来てください、賄いものですが、食事を用意させていただ

きますので、それにお部屋の場所などの説明もしたいですし、とにかく、後ほど厨房ま

でいらしてください」

80 第7話

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 そう言うとテキパキと床に散らばった洗濯物を回収しながらさっきと同じように洗

濯籠へと積み上げていく。

 が、何度見てもその籠の許容量を超えた高さへと積み上げられていく。

 やれやれと、ここで私自身何を思ったのか、散らばった洗濯物をルイズの籠へと入れ

ていく。

 それに驚き、目を丸くしたシエスタがわたわたと騒いだ。

「ミ、ミス・プラチナ! いけません! 私が怒られてしまいます!」

 私からそれを取り上げようとするが、それを私は一蹴した。

「構わない、水場まで行くのだろう? 私も水場の場所を知っておきたいからな、案内つ

いでに持たせてくれ」

 私の言葉に困った顔をしたものの、ありがとうございますと言うと、私の好意に甘え

る事にしたようだ。

 水場まで来ると、シエスタは洗濯の準備をすぐに整えると、私から洗濯物を受け取り

再度礼を述べた。

「ありがとうございます! 助かりました!」

 ニッコリと満面の笑みを浮かべた彼女だが、その傍らに積み上げられた洗濯物はやは

り何度見ても一人でこなす量ではなかった。

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「変なことを聞くが、毎日その量を一人でこなしているのか?」

 少し気になった為、シエスタにそう問うと、少々困った顔になったシエスタがそれに

答えた。

「いえ、本来は二人でこなす仕事なのですが、もう一人の子が体調を崩してしまって、仕

方なく、一人でやることになったのです」

 少々溜め息を漏らしながら、そう答えたシエスタに、私はタライの前に座ると洗濯物

の一つを手に取った。

「ミミミミミミ! ミス・プラチナ! これ以上は本当に駄目です! 本当に私が怒ら

れちゃいます!」

「本来二人でやる仕事なのだろう? 一人でやるより二人でやったほうが早い」

「そうですけど、お客様として扱えと承っておりますので、ミス・プラチナにこれ以上手

を煩わせるわけには!」

 私自身私の行動に少々驚きつつも、それ以上に私の行動に慌てふためくシエスタに私

は軽く微笑むと優しく話しかける。

「構わない、私が、私の意志でやるのだ」

「で、ですが……」

「早くやらねばならないのだろう?」

82 第7話

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「……そうですね、ではお言葉に甘えます」

 そう言うと、素早く済ませるためにと、迅速に彼女も洗濯へと取り掛かった。

 ……それにしてもどうしてだろうな、彼女に生前の私と似たようなものを感じ取った

からだろうか?

 本当に私も丸く、いや、甘くなったものだな……。

 ふと、そんなことを考えながら私も洗濯物の山へと手を付けた。

  「ありがとうございました! 本当に助かりました!」

 そう礼を言いながらシエスタは頭を下げる。

 あんなにあった洗濯物の山も全て洗濯し終えており、それらは朝日に照らされるよう

に干され風に棚引いていた。

「それにしても洗濯お上手なんですね! 私びっくりしました!」

 私は生前の記憶と経験からか、手が覚えているように動き、その洗濯物の山を減らし

ていった。

 シエスタ曰く、普段より早く終わったそうだ。

 何故だろうか、あまり喜びを感じないのは……。

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「では、私は厨房の方へ戻ります! 絶対来てくださいね!」

 シエスタは花が咲いたような笑顔を私へ向けその場を去っていった。

 私も苦笑いをしつつも彼女と別れ、ルイズの部屋へと戻ることにした。

「ルイズ」

 部屋に入り名を呼ぶが、返事がない。

 ベットに近寄り確かめると、まだ彼女は夢の中にいるようだ。

 もうすでに起こす時間であり、呼んでも起きない所を見ると、相当深い眠りのようだ。

 少々考えたがこれだけ深い眠りだと生半端な起こし方では目を覚まさないだろう。

無駄な工程を省き、一番効率の良いであろう起こし方を実行する。

 私は毛布を掴み、一気にルイズから剥ぎ取った。

「わきゃあ!」

 毛布を剥ぎ取った衝撃と朝の外気温に晒されたルイズは一気に意識を覚醒させる。

「えっ!? ちょっと! 何事!?」

 寝ぼけている頭では瞬時に状況が理解できないのか、キョロキョロと当たりを見回

し、私と目を合わせた。

「あ、あんた誰よ!」

 まだ混乱しているのか、ルイズは私を指差しながら後ろへと後退る。

84 第7話

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「朝だ、ルイズ。目を覚ませ。」

 その言葉にやっと理解できたのか、ルイズはベットの上を這いずりながら呟いた。

「そっか、私が頼んだんだった。ありがとうプラチナ」

 軽く礼を言ってベットから立ち上がるルイズを余所にさっさと部屋を後にしようと

するレナスをルイズが呼び止める。

「ちょっと! どこに行くのよ!」

 扉の前でピタリと止まると、振り向きもせずにレナスは答えた。

「着替えるのだろう? 外で待つから早くしろ」

「ちょっ! 着替え──」

 バタリと何か言おうとしていたルイズを無視し外へと出ると扉の前で待機すること

にした。

 数分後、何やら不機嫌なルイズが部屋から出てくると同時にその隣の部屋の扉も開い

た。

 出てきたのは私よりも少々高いくらいの背丈に、とても長く伸ばした火に似たような

真っ赤な髪と瞳を持ち、褐色の肌をした体をより他者に魅せつけるためか、成熟した胸

元を広げており、他の生徒達よりも頭一つ突き抜けた体つきであった。

「げっ」

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「あら」

 出てきた彼女達がお互いに顔を見合わせると、ルイズは心底嫌そうな顔をし、もう一

人の方はにやっとした笑いでルイズを見た。

「おはよう。ルイズ」

「おはよう。キュルケ」

 嫌そうな顔をしながらも挨拶を返すルイズ。

 挨拶されたからには、仕方なく返しましたと言わんばかりの朝の挨拶にしては刺々し

いものであった。

 キュルケと呼ばれた彼女は大きな欠伸を一つすると、眠たそうに目をこする。

「あら? ツェルプストー寝不足? 夜更かしはお肌の敵よ? 一体ナニをしていたの

かしらね?」

 彼女の欠伸にルイズは突っかかるように毒気を帯びた言葉を吐いた。

 それに対し、罠にかかった獲物を見るかのように目を光らせたキュルケがそれに答え

る。

「そうねぇ、寝不足なのよー。どこかの誰かさんが夜にも関わらず、騒ぎ立てるものだか

ら眠れなくって、ねぇ?」

 キュルケの言葉に昨日自分が泣き喚いたのを思い出し、その顔を真赤にする。

86 第7話

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 してやったりと言うような顔をしているキュルケ。

 どうやら、この二人相当仲が悪いようだ、お互いに何か悪態をつけそうな所を見つけ

れば口論に発展するといったところか。

 それを見越してわざと大きな欠伸をしたのだろう。

 その目論見が当たったようでキュルケは今回の勝負は私の勝ちとばかりに笑ってい

た。

「で、あなたの使い魔って、後ろのその方?」

 続けて勝負を持ちかけるようにキュルケがルイズに話しかける。

 そのニヤリとした笑い方はもうすでに知っていますと言わんばかりのもので、馬鹿に

してやろうと言う魂胆の問いかけなのだろう。

「そうよ」

 無視しない辺り貴族としての立ち振舞を尊重してなのか、嫌々ながらもそうルイズは

答える。

「あっはっはっ! 本当に平民を召喚したのね! ある意味偉業よ! 凄いじゃない

!」

 褒めているのか、けなしているのかどちらとも取れる様なことを言いながらキュルケ

と呼ばれた彼女が高らかに笑う。

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「あたしもそう言う偉業をやってのけたいものねぇ、あたしは『ゼロのルイズ』と違って

しっかりと召喚出来たからねぇ〜、おいでー、フレイムー」

 彼女の言葉に開け放たれた後ろの扉からのっそりと何かが這い出してきた。

 出てきたのは、彼女の髪色に似た真っ赤で巨大な体躯を持つトカゲであった。

「ほう……」

 ミッドガルドやアスガルドでもあまり見かけたことのないその生物に、思わず感嘆の

声を上げた。

「あら、あなた。火トカゲを見るのは初めてかしら?」

 彼女の言葉に頷きながら答える。

「あぁ、私がいた所ではあまり見かけなかったな」

「そ〜う」

 小さく笑みを浮かべた彼女がフレイムと呼ぶ火トカゲを前に出してきた。

 彼女的にはちょっと驚かせてやろうと思っての行動だったようだが、出てきたフレイ

ムは私を見ると、頭を垂れた後、ごろりと腹を向けた。

「ふむ……」

 元々野生の生き物だったようで、野生の勘からか、私から何かしら感じ取ったのだろ

う。

88 第7話

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 撫でてくださいと言わんばかりに仰向けになるフレイムを私は軽く撫でてやる。

 キュルキュルと小さく鳴くも大人しく撫でられるフレイムに、キュルケは目を見開い

た。

「驚いたわ! 私でもまだお腹撫でたこと無いのに、初対面のあなたにお腹を見せるな

んてねぇ……」

 自分が一番ではなかったことが少々悔しくも驚きのほうが強いのか、感心したような

溜め息をつきながらフレイムを下がらせた。

「ねぇ、あなた。お名前は?」

 私に少々興味が出たのだろう、彼女が名を聞いて来た。

「プラチナだ」

「そっ、プラチナね。覚えておくわ。また後で会いましょう」

 彼女はそう言い残すと、ルイズに、お先にと軽く言い、この場を去っていった。

 取り残された私とルイズだが、移動しようと私が歩き出す前に口を開いた。

「ねぇ、あんたって何者なの?」

 純粋な疑問なのだろう、今は使い魔とは言え元は野生の生き物だ、それも主人よりも

先に服従のポーズをさせたのが不思議でしかたがないのだろう。

 だが、まだ正体を明かす気はないので、適当にはぐらかしておく。

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「何者もなにも、ただの平民だ」

 それだけ言うと、先程の彼女に続くように歩き始める。

「あっ! 待ちなさいよ!」

 後ろからルイズのついてくる足音を聞きながら私達は食堂へと足を進めた。

90 第7話

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第8話

  レナス達は学院敷地内中央にある一番背の高い本塔、その中にある食堂へと来てい

た。

 もう既に、生徒達が集まっており、三つの長いテーブルが置かれ、左から紫、黒、茶

と、それぞれ同じマントを着けた生徒達が席についていた。

 テーブルの上には豪華な飾り付けと綺麗な花、幾つもの燭台とその上で揺らめくロー

ソクが立てられており、それに見合うような豪勢な食事が所狭しと並んでいた。

 しかし、それらを遠目にレナスは入り口に立っており、中に入ろうとはしなかった。

「どうしたのよ? 早く入りなさいよ?」

 少し遅れて、後ろから来たルイズが急かしてくるが、それに対し首を横に振る。

「私の食事は此処ではなく、厨房に用意されているらしい。だから私はここまでだ」

 それだけ言うと食堂に背を向け離れようとするレナスにルイズは慌てて声をかける

「ちょっ、ちょっと! 主人を置いて行こうって言うの!? 使い魔なら使い魔らしく─

─」

「ルイズ」

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 ルイズの声を遮るようにレナスはルイズの名を言う。

「何度も言うが、周りを誤魔化す為にある程度は使い魔として振る舞うが、それ以外は人

間として、いや、パートナーとして扱ってもらう。昨日そう約束しただろう?」

 その言葉に返す言葉が見つからず、ぐっと小さく呻くと、諦めたのか軽く溜め息を付

きながら肩を落とした。

 が、すぐに立ち直ると少し声を張り上げるようにルイズが言う。

「そっ! ならいいわ! さっさと行きなさい! けど残念ね、この『アルヴィーズの食

堂』は平民が一生かかっても入れないような場所なのに、それを拒むなんて勿体無いこ

としたわね! いいわ! 次入りたいなんて言っても入らせて上げないんだから!」

 そう精一杯の虚勢を張りながらルイズは食堂へと入っていった。

 何処かしら私よりも優位な立場に立ちたいのだろう。まるで小さい子供のような意

地の張り方だなと苦笑し、厨房へと向かった。

 ルイズと別れ厨房へ来たレナスは、ここは戦場か何かかと思ってしまう程のものだっ

た。

 レナスがそう思うのも無理もない、今まさにピークの時間なのだろう、ある意味この

厨房も戦場なのだ。

 指示を出す怒号と忙しない足音、ガチャガチャと言う食器の合唱、肉や野菜を炒める

92 第8話

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火や油の弾ける音などがそこかしこから聞こえてくる。

「さて、どうしたものか……」

 流石にこの喧騒の中へ堂々と入って良いものかと考えていると、誰かがこちらへ近づ

いて来た、今朝あったばかりの使用人、シエスタであった。

「ミス・プラチナ! やっと来て頂けましたか!」

 まるで犬のように跳び跳ねんばかりに嬉しそうにするシエスタにレナスも近づく。

「忙しそうだな」

「ええ。ですがいつものことなので」

 ニッコリと笑うシエスタに思わず私も微笑んでしまう。

「マルトーさん! いらっしゃいましたよ!」

 シエスタは手を振り、厨房の中にいるであろう、マルトーと言われる人物に声をかけ

る。

「おう! やっと来たか!」

 その呼び掛けに一人の男性が反応する。

 出てきたのは四十過ぎたくらいの恰幅の良い大柄な男性だった。

「こちら料理長のマルトーさんです」

 シエスタの説明にマルトーはガハハと豪快に笑った。

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「さっきから言われてるがマルトーって言うもんだ。ここの料理長や、使用人達のまと

め役なんかもやっている感じだ。しかしお前さんも難儀だな……、貴族に呼び出された

挙句、使い魔にされちまうなんてな」

 同情するぜと鼻をすするマルトーに小さく肩を叩かれた。

「そんなお前さんに厨房一同してやれることはなんだってしてやるからなんでも言って

くれ!」

 マルトーは私の肩に置いていた手を次は強めに数回叩いてきた。元気付けるつもり

の挨拶のようなものだろうが、案外痛い。

「で、言われていた通り、飯は俺達が用意してやるが……、本当にこれだけでいいのか?」

 先程までの笑っていた顔とは違い、次は困惑したような顔付きになったマルトーが聞

いて来た。

 そんなマルトーの後ろから給仕が一人、盆を持って現れたが、上に乗っていたのはパ

ン一つに水一杯だけであった。

 客人として扱うと言われた普通の人が見たならば、その食事に怒りを覚えるかもしれ

ないくらいだが、これはレナスが頼んだことであり、それで良いと彼女自身が思ってい

ることだ。

 一般的な人間の食事にしては少なすぎる量だが、レナスは神である。

94 第8話

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 食事を取らずとも生きていけるレナスにとっては食事を取るというのは全く意味が

無いことなのである。

 だが、だからと言って食事を一切いらないと言えば、明らかに怪しまれる。必要最低

限の食事は取っていると見せかける必要があったから、レナスは自分は小食であると言

い、この量だけを頼んだのだった。

「すまない、これだけで良い」

 そう言い、持って来られた盆をレナスは受け取るとシエスタに座れる場所へと案内さ

れて行った。

 それを見送りながらマルトーは少し唸るように考えると、何か思いついたのか、急ぎ

足で厨房の中へと戻っていった。

「では、私もまだお仕事がありますので戻りますね。ミス・プラチナはごゆっくりどう

ぞ」

 使用人達の休憩所であろう場所に案内したシエスタは、レナスに軽く頭を下げると厨

房へと戻っていった。

「さっさと済ませるか」

 盆に乗ったパンに手を伸ばし口へと運ぶ、ふんわりとした食感に普通の人間なら顔が

少しくらい綻ぶものだが、必要としない行動とは案外苦痛であり、レナスは特に何も感

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じることなくパンを消化すべく何度も口へと運び咀嚼する。

 パンを半分程消化した位に、ひょっこりとマルトーが姿を現した。

「おぉ、お前さんやっぱり此処にいたか」

 その口振りから、どうやら私を探していたようで私へと歩み寄ってくる。

「前座っていいか?」

 私は頭を立てに振りそれを認める。

「悪いな」

 私の前の席に座ると、マルトーは手にしていた、小さな器を私へと差し出してきた。

 中身はシチューのようで、出来たばかりなのか湯気が立ち上っていた。

「これは?」

 私の問いにマルトーは、あー、と言葉を濁しつつ頬を軽く掻きながら答えた。

「いやな、朝、シエスタを手伝ってくれたんだってな。シエスタが本当に嬉しそうに話し

ていたんだよ。でだ、その礼のつもりで持ってきたんだ。小食だとは聞いているが、い

くらなんでもそれは少なすぎると思ってだな。余計なお世話かも知れねぇが、良かった

ら食ってくれ。味は保証するぞ。多かったら残して貰っても構わねぇ」

 何やら照れ隠しのように少々早口に言われたが、使用人達をまとめる者として仲間が

世話になったから礼がしたかったのだろう。

96 第8話

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 ……そこまで言われると手を付けないわけにはいかないな。

 私は礼を言って差し出された器を受け取ると、スプーンを手に取った。

 スプーンを十分に満たす量をすくい取り、口へと運ぶ。

 これも他の食事と同じようにただ咀嚼し、ただ体に無意味に取り込む物だと考えてい

たが、口を付けた瞬間、その考えが変わった。

「美味い」

 無意識に小さく言葉が出ていた。

 本当に、ただ純粋に、美味いと感じた。

 神の中には食事を趣味とする者もいるが、今ならその考えを理解できるかも知れない

な。それほどまでにこのシチューは美味であった。

 一口のつもりが二口三口と口へと運んでいき、小さな器に入っていた分、量の少な

かったシチューはいつの間にか空になっていた。

「どうだ?」

 恐る恐るといった感じにマルトーが聞いてくる。

 口をすすぐように軽く水を飲み、まっすぐにマルトーを見る。

 審査員の評価を待つ挑戦者の様にマルトーもゴクリと喉を鳴らす。

「私はあまり良い場所の生まれではない、故に食べられる物も殆ど無く、自身の体が動く

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程度の食事さえ出来れば本当に良い方だった。そんな中仲間の一人である男とその村

を出て──、私は旅を始めた」

 レナスの言う旅とは、神界戦争に必要な勇者の魂を選定し、不死者を浄化するオー

ディンの命である。仲間の一人の男は無論あの男である。村を出て直ぐに神界に呼び

出された為、レナスが旅と称しているその任務の時には神化しており、睡眠も食事も既

に不要のものであった。今マルトーに話している話は任務の際に道すがら立ち聞いた

旅人の話を自身の話らしく話しているだけである。

 マルトーはシチューに付いての感想を聞いたつもりだったのだが、予想外の言葉に面

食らうも、話を続けるレナスに黙って耳を傾けた。

「旅を始めてからも、食事と睡眠の時が一番敵に襲われやすい。だから食事を取ること

すら億劫であった。むしろ体が動くのなら取らなくても良い無駄なものだとも考えた

ことがある。だが──」

 話をしている無表情に近いレナスの顔がまるで聖母のように柔らかく微笑んだ。

「だが、これを食べて人並みらしい感覚が戻ってきたようだ。──ありがとう、美味し

かったわ」

 美味しかったと言う言葉と不意に微笑んだレナスの顔にやられたのか、マルトーの顔

が真っ赤になっていった。

98 第8話

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「ぉ、おう、そう言われると料理人冥利に尽きるな」

 マルトーは先程の様に頬を掻きながら、まともに目を合わせられないのか視線をそら

す。

「そうか。あぁ、次の食事からパンは半分でいい」

「なんだ、たったそれだけでもまだ量が多かったか?」

 レナスのもっと少なくて良いと取れる言葉に怪訝そうな顔をするマルトーに、レナス

は言葉を続ける。

「いや、代わりにまたこのシチューを頼んでも良いか?」

 その言葉を理解するまでに少々時間がかかったものの、頭の中でその言葉を理解する

とマルトーは満面の笑みで答える。

「あ、ああ! 勿論だ! 次もとびっきりに美味いシチューを食わしてやるよ!」

 己の腕をバシリと叩きながらニカリと笑った。

「楽しみにしている」

「おう! 任せておけ!」

 そう言うとマルトーは立ち上がり仕事が残っているからとこの場を去るも、マルトー

の豪快な声はここまで聞こえてきた。

「おう! お前ら! 気合入れて仕事するぞ!」

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「はい! 親方!」

 マルトーの言葉に呼応するように厨房の人間も大きく答える。

「親方! 何か良い事あったんですか?」

「親方! 顔が真っ赤ですぜ?」

「うるせぇ! いいからお前ら仕事しろ!」

 厨房の様々な喧騒に紛れそんな言葉までも此処に届いてきた。

 そんな喧騒を聞きながら食事を終えたレナスは邪魔にならぬように厨房を後にし、ル

イズの元へと戻っていった。

100 第8話

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第9話

  いつもなら苦痛とも思える食事に、生前に感じていたであろう食への悦びを文字通り

噛み締めたレナスはルイズのいる食堂へと戻っていた。

 その際、もう既に食事を終えて各々の教室へと向かっている生徒達とすれ違ったが、

彼等はこちらをちらりと横目で見るだけで、興味なさそうに通り過ぎて行く。

 だが、中にはレナスの美貌に見とれて足を止め、魂が抜かれたかのように呆然と立ち

尽くすものが数人居たが、レナスはそれを通り過ぎていった他の彼等のように興味を示

さず、横を通り抜けていく。

 食堂へと辿り着くと、レナスは最初に来た時と同じように食堂内には入らず、入り口

付近で待機し、ルイズが出てくるのを待つ。

 ルイズと共にこの食堂を訪れたのが遅かった為か、もうほとんどの生徒が食事を終え

ており、食堂内はルイズを含め数人しかおらず、ルイズを視覚に捉えるのに時間はかか

らなかった。

「待たせたわね。さっ、行きましょう」

 数分後、食事を済ませたルイズが食堂から出て来て私の前へと立つ。

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 レナスはルイズの言葉に軽く頷くと、彼女の後を付いて歩く。

 流石に私も訪れるであろう施設の大まかな場所は昨日オスマン達から聞いてはいた

が、今日彼女が講義を受ける教室までは把握しきれていない。

 ルイズの後を付いて歩くこと数分、辿り着いた場所は、半円に近い形をしており、そ

の半円の中点に当たる場所に教師が立つであろう教壇。それを囲うように生徒達が座

る机が階段のように並べられており、どの位置からでも教師の教えを見て取れるような

造りをしていた。

 ルイズと共にその教室内へと入ると、入ってきたものを確認するかのように先にこの

教室内へ集まっていた者達の目が一斉に我々に集中する。

 先程会った、キュルケももう既に着席しており、周りに数人の男子生徒を壁のように

従えながらも、こちらの存在に気付くとにっこり微笑みながら手を軽く降っていた。

 ルイズに、では無く、私に、だろう。

 そんな中、直ぐに彼等の視線からは我々は外されはしたが、話題はどうやら我々の話

に変わったようだ。

 何度もこちらを横目で見ながらクスクスと笑う者がチラホラと見て取れる。

 そんな心地良いとは言えぬ教室内を気にも止めずにルイズは開いている席へと移動

し腰を下ろす。

102 第9話

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 それに付き添うように彼女の側に立つが、ルイズはジトリと私を見ると溜め息をつい

た。

「勝手に席に座らなかったことは、あんたも自分の身の程をわきまえての行動なんで

しょうと褒めるべきなんだろうけど、そこに立つと後ろの生徒が見えなくなるわ。授業

中は後ろで大人しくしてなさい」

 この教室に来てからさぞ機嫌が悪いのか、手でハエでも払うかのように私を後ろへ行

くようにと促す。

 別に学院内の、それも講義の最中に危険に晒されることも無いだろうと、素直にそれ

に従い、教室の一番後ろにまで移動し、壁に背を預ける。

 特にやることも無いため、自然と周りにいる者たちを観察してしまう。

 だが、所詮学生と言った所か、飛び抜けて強い魔力を持った者はルイズ以外には居ら

ず、どの生徒も魔力も実力も総じて平均、平均以下である。だがキュルケとその隣りに

いる青髪の小柄な少女だけは頭一つ飛び抜けて魔力が高かった。それに加え、どうやら

青髪の少女はそれなりに経験を積んでいるようで、私が観察していることに気付いてお

り、私に対して警戒を怠らなかった。

 ……なるほど、少しは出来るものがいるようだな。

 生徒達の観察を終え、次はその使い魔達へと目を移す。

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 アスガルドやミッドガルドで見たことある生き物もいれば、そんな彼等から派生し進

化したかのような姿をした生物もチラホラといる。

 だが、どの使い魔も一定以上の強さは持ち合わせていないようで、キュルケのサラマ

ンダーと、外で滞空し、青髪の少女のように私を監視しているかのような視線を向けて

くる蒼い鱗を持つ龍以外はこれといった脅威すらもないだろう。

 考えをまとめ、外で滞空する龍に目を向ける。

 その瞬間互いに目と目が合い、フイッと龍の方が目を逸らした。

 が、互いの目が合った瞬間、レナスはその龍の瞳に宿っている光を見逃さなかった。

 あれは、理性を持たぬ獣の目ではないな、知性を宿した者の目だ。

 恐らくあの龍は、昔対峙したあの邪龍と同じように人の言葉を介し、物事を考えるだ

けの知性があるのだろう。

 そして、それほどの力を持つ龍を使い魔として使役できそうな人物は、この中ではあ

の青髪の少女くらいだろう。

 全く、飼い主も使い魔も揃って私を監視するとはな……。

 レナスがこの教室内の生徒を一通り観察し終えた直後、明らかに生徒では無い30代

後半から40代当たりの膨よかな女性がこの教室に入ってきた。

 そのまま彼女は教室前方の教壇に立つと、手を叩き生徒達を静かにさせる。

104 第9話

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 彼女が今回の講義の講師と言う訳か。

「はい、皆さんおはようございます。今日からあなた方は2年生ですね、これからも未来

を担う立派なメイジを目指して頑張ってくださいね。このシュヴルーズ、春の使い魔召

喚の儀で召喚された、様々な使い魔達を見るのが毎年の楽しみなのですよ」

 生徒達を見回し、その使い魔達を眺めるシュヴルーズと名乗った教師は最後に私と目

が合った。

「おやおや。貴方が今回の召喚の儀で初めて召喚された人の使い魔、ミス・プラチナです

か?」

 オスマンから既に話が通っているのか、彼女は私に会釈すると、私もそれに返すよう

に軽く会釈する。

 これだけですんなりと終わればいいものを、生徒達にはルイズをなじるネタでしか無

いようで、周りから野次が飛び始める。

「ゼロのルイズ! いくら魔法が使えずに召喚できないからって家から使用人を連れて

くるなよ!」

 その言葉に我慢の限界が来たのか、ルイズは椅子が倒れるほど勢い良く立ち上がり、

野次を飛ばず生徒をキッと睨みつけた。

「違うわ! ちゃんと召喚したけれど、そいつが呼び出されちゃっただけよ!」

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「嘘つくなよ! 魔法が使えないゼロのルイズのことだ! 『サモン・サーヴァント』が

成功するはずがないじゃないか!」

 野次を飛ばす彼の言葉に下品にもゲラゲラと笑い転げる生徒達。

 悔しさからかルイズは拳を握りしめ、思いっ切り机に叩きつける。

「ミセス・シュヴルーズ! かぜっぴきのマリコルヌが私を侮辱しましたわ!」

「何だと! 誰がかぜっぴきだ! 俺の二つ名は『風上』! ルイズみたいな『ゼロ』と

は違うのだよ! 『ゼロ』とは!」

 先程から野次を飛ばし続ける生徒、マリコルヌと呼ばれた男子生徒も立ち上がり、ル

イズを睨みつける。お互いに一歩も引かず膠着した状態が続いたが、シュヴルーズが杖

を振ると、ルイズもマリコルヌもストンと椅子に腰を降ろした。

 いや、彼女によって強制的に座らされたのだろう。

「いい加減になさい。ミス・ヴァリエールもミスタ・マリコルヌもお互いにお友達を侮辱

してはなりません。いいですね?」

 ルイズはそのまましょんぼりとうなだれたが、マリコルヌは納得がいかないと言った

ように口を尖らせた。

「僕のかぜっぴきは侮辱だけど、ルイズの『ゼロ』は事実じゃないか」

 彼の何気なく呟いた言葉を聞いた生徒がクスクスと笑し始める。

106 第9話

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 シュヴルーズにもそれは聞こえていたようで、彼女は厳しい顔付きになると短く詠唱

し杖を振るった。その言葉を言ったマリコルヌとクスクスと笑う数人の口に赤土の粘

土が貼り付けられる。

「これは罰です。今日はそのままの格好で授業を受けなさい」

 そう言いシュヴルーズは教室内が静かになったことを確認すると、授業を始めた。

「では、まず今までのおさらいから始めましょう。」

 シュヴルーズは教壇の上にいくつかの小石を出しながら授業を進める。

「私の二つ名は『赤土』。赤土のシュヴルーズです。これから一年間あなた達に『土』系

統の講義を担当します。ではまずは、誰か魔法の四大系統を答えてください」

 シュヴルーズの問題に一人の生徒が手を上げ、それに淀みなく答える。

 よく出来ましたと、褒めるシュヴルーズは更にそれに補足を入れ、魔法系統の説明を

終えた。

 レナスはそんな彼等の言葉を聞いてわかったことがあった。それは明らかな魔法系

統種の違いである。

 この世界での魔法の系統は四種。『火』『水』『土』『風』の四つ、それに加え、今は無

くなった『虚無』と言う系統を入れても五つ。しかし、こちらの世界では系統は六種、

『炎』『氷』『雷』『毒』『聖』『闇』の六つ。『火』=『炎』、『水』=『氷』と似たような考

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えが出来る物もあれば、『土』=『毒』『風』=『雷』と言うように広く見なければ当て

はまりそうに無い物もある。例えば、土は本来無害だが、魔術師が手を加えると猛毒を

生み出すものも存在し、魔法に至っては付属効果として石化させることも可能な物もあ

る。『風』と『雷』についてはほとんどこじつけでしか無いが、どちらも魔法の出の早さ

に関係があるのではないかと考える。

 もしかすると、こちらの世界の『雷』の使い手ならば、この世界の『風』の魔法も習

得できるかもしれないが……。恐らく無理だろうな。この世界の魔力と我々の世界の

魔力は似て非なるものと言ってよいだろう。

 どこかで魔力が混ざっていたとしても、この世界の魔力はこの世界独自の魔力へと変

化したのだろう。

 もしかすると、『虚無』と言う魔法系統は『聖』や『闇』と言った具体的な物の見方が

出来ない魔法を言っているのかもしれない。

 それについては後ほど、オスマン達から聞くなり、私で調べるなりして答えを出すと

しよう。

 レナスが様々な思考を巡らせている間にも授業は進んでおり、いつの間にか、ルイズ

が教壇へと立っていた。

「何をするつもりだ?」

108 第9話

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 教壇に立つルイズにシュヴルーズが失敗を恐れず、やれば出来るはずです。と教えな

がらルイズの肩を叩く。

 それにコクリと頷き、ルイズは杖を掲げる。

 それを引き金に生徒達が一斉に机の下へと潜り込んだ。まるで訓練を受けた兵隊が、

爆撃から逃れるために身を隠すような素早さで、である。

 魔力を杖へと込め始めたルイズに、生徒達全員が取った行動を理解できたレナスは身

を屈め、来るであろう衝撃へと備える。

 直後にルイズの杖が振り下ろされ、教壇に眩い光が迸る。

 大きな爆音に伴い爆風が教室内を襲い、その轟音と暴風により教室内の物が大破し、

使い魔達が暴れだした。

 ルイズはそれがさも当たり前のように教壇があった場所で立ち上がり阿鼻叫喚の教

室内を見回して髪を整える。

「……ちょっと、失敗しちゃったわね」

 ルイズのその言葉にキュルケを筆頭に生徒達が騒ぎ出す。

「何がちょっとよ! これ見てちょっとと言えるあなたが可笑しいわ!」

「もういい加減ヴァリエールを退学にしろよ!」

「ああぁ! 僕の使い魔が! だっ! 誰かその猫捕まえて!」

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 様々な言葉が飛び交う教室の中、教師のシュヴルーズが気絶したため、今日の授業は

中止となり、ルイズは魔法を使わずに教室の片付けをすることを命じられた。

 その際に俯いたルイズの表情と、血が出そうなほどに強く握りしめられたルイズをレ

ナスは遠目に見ていた。

 これは思った以上に重症かも知れんな……。

 使い魔と言う点もあり、ルイズと共に片付けを進めるレナスにルイズは一言も言葉を

話さなかった。

 だが、だからといってサボっているわけでもないが、作業は全く進んでおらず、ほと

んどの片付けはレナスがテキパキとこなしていた。

「……なんでよ」

 震えたような小さな言葉でルイズが呟いた。

「……何がだ?」

 レナスは手を休ませずにその言葉にそっけなく返事を返す。

「……なんで! なんで私は魔法が使えないのよ! そしてなんであんたは何も言わな

いのよ! あんた何か知ってるんだったわよね!? ねぇ! なんでよ!? なんで私は

魔法が使えないのよ!」

 ルイズの目からは涙が零れ落ち、床に小さな染みを幾つもつくっていく。

110 第9話

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「ルイズ。昨夜も言ったが、その魔力は他の者達が持つような簡単なものではなく、強大

で扱いが難しいものだ。昨夜のうちに何か教えていたとしても、今日の様に爆発を起こ

さない可能性は極めて低い。それにまだ何も教えていないのに、いきなり魔法が使える

はずがないだろう? だから私はお前を笑わないし、他の生徒のように馬鹿になどしな

い」

「じゃあ、さっさと教えなさいよ! 今直ぐ!」

 私へと駆け寄り、まるで縋るかのように私の服を掴む。

 余程ルイズがこの問題にコンプレックスを抱いていたのかがよく分かる。

 他の生徒達を同じように魔法が扱えず、罵倒され、蔑まれても、彼女は彼女なりに努

力したのだろう。

 今目の前にそれを打開するための知識を持った者がいるのなら今直ぐにでも教えを

請いたいはずだ。

 だが、そういうわけにも行かない。

「ルイズ。よく聞け。お前の魔力では他の奴等と同じような魔法が使えないかもしれな

い。もしかすると此処では異端とは呼ばれるような魔法を使うことになるかも知れな

い。そうなると、お前の魔法を公に晒すわけには行かなくなる。だから今は耐えろ。そ

してそれを隠すためにお前の魔法の訓練は夜中にのみ行う」

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「何よ……それ……意味分かんない」

 掴んでいたレナスの服を離し、力なくペタンと床に座り込むルイズ。

「せっかく、皆と同じように魔法が使えると思っていたら、異端と呼ばれるような全くの

別の魔法しか使うことが出来ないなんて……、何なのよそれ……」

 ルイズは夢にまで見ていた魔法が使えるという希望は、全くの別の物であるという絶

望によって塗りつぶされた。

 見かねたレナスは嘆息すると、腰を降ろしルイズの肩を叩く。

「だが、それはあくまでもそうなるかもしれないという可能性があるということだけだ、

お前が諦めず、お前自身の魔力をコントロール出来るようになれば、彼等と同じ魔法を

使えるかも知れん」

 ピクリとその言葉に反応しルイズはゆっくりと顔を上げる。

「だが、それはお前が諦めず努力し続けたらの話しになってくる。ルイズ、お前はもう此

処で諦めるのか?」

 ルイズの瞳に強い光が宿る。ふらつくような足取りでゆっくりとだがしっかりと立

ち上がるルイズは、服の袖でゴシゴシと乱暴に顔を拭う。

 ルイズが立ち上がるのに合わせ、立ち上がったレナスをしっかりと見据え、答えを出

す。

112 第9話

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「いいえ、諦めないわ。これまで諦めず努力してきたのだもの。光が見えているのにそ

れをその場で諦める気はしないわ! だから、プラチナお願い!」

 どうやら、完全に立ち直ったようだ。

 もしかすると、彼女のように感情豊かな物にこそ、この魔力は宿るのかもしれないな、

とレナスは微笑んだ。

「いいだろう、特訓は今日の夜中からだ、だからさっさと此処の片付けを終えて夜中に備

えて体を休めておけ」

「ええ!」

 強い返事と共に先程とは比べ物にならない早さで片付けを進めていくルイズを見な

がら、今からあんな調子では、夜中になる前にバテるのではないかと少々不安に思いな

がら、レナスは苦笑いを浮かべていた。

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第10話

  あれほどひどい状態だった教室も、ルイズの頑張りもあり、お昼丁度には片付けが終

了した。

 とは言っても、元々体力がある方ではないルイズは片付けの途中でくたびれてしま

い、その後はレナスがほぼ一人で完了させたと言っても過言ではなかった。

「……じゃ、昼食後にね」

 そう言い残すとふらふらと一人で食堂へと向かうルイズを目で見送りながら、レナス

も食事を取るために厨房へと向かう。

 無意味である食事を取る必要など無いと思いつつも、厨房へと向かう足取りは早く、

自然と頬が緩んでいることに、レナス自身気付いてはいなかった。

 厨房へ辿り着くと、そこは朝と同じ喧騒を繰り広げる使用人達でごった返していた。

「おっ! 来たな!」

 レナスが厨房の中へ入ってきたことに指示を飛ばしていたマルトーが此方に気付き、

トレーに素早くレナスの食事を用意すると近づいて来た。

「お前さんに言われた通りパンは半分に、そしてこれは俺特性のスープだ!」

114 第10話

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 ズイッと手渡されたトレーを受け取る、フワリと香料の効いたスープがレナスの鼻孔

をくすぐる。

 マルトーは、後で感想を聞かせてくれ。とだけ言い残し、足早にまだ終わらぬ仕事へ

と戻っていった。

 そのトレーを持ち今朝食事を取った場所へと向かうと、丁度休憩中だったのか、シエ

スタが一人食事をとっていた。

「あっ、ミス・プラチナ」

「シエスタか、前失礼するぞ」

 シエスタにどうぞと促されたレナスはシエスタの正面の席へと腰を下ろす。

 レナスは早速スプーンを手に取り、スープを軽くひとすくいし口へと運ぶ。

 今朝食べたシチューと同じ、いやそれ以上の美味しさに、レナスは自然と微笑んだ。

「ふふっ」

 それを見ていたシエスタが、口に手を当て可愛らしく笑う。

「どうした?」

「いえ、実はですね──」

 何故笑ったのかシエスタが言うには、このスープはマルトーが一人で作った物らし

く、この賄い食を作る際に『誰も手伝うんじゃねーぞ! これは俺一人で作る!』と念

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まで押したらしい。

 だが、この一品を作る為だけに何時間もかけており、今そのツケが来ていて忙しいそ

うだ。

 そしてマルトーがこのスープを作るのに没頭した理由はどうやら私にあるんじゃな

いかと噂になっているのだとか……。

「マルトーさん、ミス・プラチナに美味しいと言われて余程嬉しかったんでしょうね」

 私の食事など道楽のような無意味でしか無いのに、それに力を入れるとはな。

 だが、噂とは言えど、私の為に身を削ってまでスープを作ってくれたのだ。礼は返さ

ねばならないな。

「シエスタ」

「はい?」

「シエスタの仕事、少しばかり手伝わせてはくれないか?」

「ええっ!? だっ! 駄目ですよ! またミス・プラチナに手伝ってもらっちゃ今度こ

そ私怒られちゃいますよ!」

 ブンブンと手と首を大きく振り、私の申し出を拒否する。

「だが、このスープを作っていてマルトーの指示が遅れ、全体的に仕事に支障が出ている

のではないか?」

116 第10話

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「た、確かにそれは、そう、ですけど……」

 彼女の言葉が尻すぼみになりつつも肯定する。

「ならば、これほどまでに美味いスープを作ってくれたマルトーに礼がしたい。だから

私がシエスタの仕事を手伝い、余裕が出来た分シエスタがマルトーの仕事を手伝って

やって欲しい。それでは駄目か?」

 シエスタは腕を組み、ううん。と軽く唸り考えると、結論が出たのか、私へと向き直

る。

「わかりました。なら、ミス・プラチナにはこの後のデザートの配膳を手伝ってもらいま

す。宜しいですか?」

「ああ、わかった。」

 彼女の言葉にレナスは頷く。

「あっ! それとミス・プラチナが手伝ってくれてるのを誰かに聞かれたらちゃんと説

明してくださいね! じゃないとほんとに私怒られちゃいますから!」

 誰かに叱咤されることが好きな人間などいないが、余程怒られるのが嫌なのか念を押

すようにシエスタが強く言ってきた。

「わかった、そこは私からちゃんと言っておこう。ああ、それと──」

 レナスは今朝から言おうと思っていたことをシエスタに伝える。

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「私に対して、ミスなど形式張った呼び方はしなくていい。呼び捨てで呼んで貰って構

わない。他の者にもそう言っておいてくれ」

「えっ、ですが──」

「私が構わないと言っているのだ、オスマン殿から言われていようと気にする必要はな

い。私も魔法が使えないのだから此処の言い方で言うシエスタ達と同じ平民でしかな

いのだからな、気軽に呼んでくれ」

 もっとも、マルトーは気にせずに最初から気軽に呼んでいたがな。と付け加えると、

確かにと感じたのか、クスリとシエスタが笑った。

「じゃあ、プラチナさんとお呼びしますね」

 さん付けもいらないとシエスタに言ったが、一応私の方が歳上なのだからと、さん付

けだけは譲らなかった。それでも最初の時のような他人行儀な言い方ではなくなった

分良しとしよう。

 しばらくして、厨房で働いていた使用人と入れ替わりで、私はシエスタと共にデザー

トの配膳へと向かう。

 大きな台車を押し、その上に乗せられた銀のトレーをシエスタとレナスは手に取ると

器用に片手で持ち、貴族達に配って歩く。

 最初は大きなトレーを私が持ち、シエスタが配るやり方をしようとしたが、それでは

118 第10話

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効率が悪く思えたので、数回台車に戻る形にはなるが、片手で持てるほどの大きさのト

レーを数個用意し、二手に分けれて配るやり方に変えたのだった。

「ちょっと、なにやってんのよ……」

 丁度配った席に付いていたのは、一応私の主であるルイズであった。

「見てわからないのか? ケーキの配膳をしている」

「だから、なんであんたがケーキの配膳なんてしてるのよって聞いてるのよ」

 ムスリとした顔をしながら、執拗に理由を聞いて来るルイズに簡潔に事の成り行きを

説明する。

「ふ〜ん」

 理由を聞いておきながら興味なさそうに返された返事と、あまりそういうことは控え

る様に、使い魔であるあんたの行動は私の威厳にも関わると言う私的な理由を押し付け

られた。

「ところで、あれは何の騒ぎかしら?」

 私がルイズと話しているうちにルイズが私の後方が騒がしいことに気付く。

 振り返って見てみると、小さな人垣が出来ており隙間から覗く人垣の中心には金髪の

気障な少年の貴族が騒いでいた。その正面、正しくは少年の足元にはシエスタが必死に

頭を下げて許しを請う姿が見える。

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「ルイズ、ちょっと行ってくるぞ」

「あっ、ちょっと!」

 私は足早に人垣へと近づく、その後を小走りにルイズも着いて来た。

 共に人垣に辿り着くと、ルイズは近くにいた生徒に尋ねる

「ねぇ、なにがあったの?」

「あら、ルイズ。どうもね、ギーシュが落とした香水をあのメイドが拾って渡したんだけ

ど、それがどうもギーシュと付き合ってると噂されてるモンモランシーから貰ったもの

らしくてね。ギーシュがアプローチをかけていた一年の女の子にバレちゃって、更にそ

れがモンモランシーにバレて、この騒ぎよ。全く自業自得の癖に使用人に八つ当たりす

るなんて、最低よね」

 どうやら、全ての非はあのギーシュとか言う気障な少年にあるようだが、自分の非を

認められず、シエスタがあの香水を拾わなければと言う、責任転嫁をシエスタに押し付

けているようだ。

「どうやら、君にはお仕置きが必要みたいだね……」

 悪くもないのに謝り続けるシエスタに、腹の虫が治まらないのか、懐から薔薇を象っ

た杖を取り出した。

「ひっ!」

120 第10話

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 一番恐れていたことを目の当たりにしたシエスタは、立ち上がることも出来ずに両手

両足を使ってギーシュから少しでも離れようと後方へと這いずる。

「ちょっと、流石にやり過ぎよ……」

 いくら階級制度があるとはいえ、これでは一方的な私刑に等しい、だが周りの生徒は

誰も助けようとはしなかった。

 それほどまでに貴族と平民とは差がはっきりしており、誰一人としてこの状況下でシ

エスタを助けようとするものはいなかった。

 それどころか、暇な学院生活で刺激を欲していた生徒達が、煽るように野次を飛ばす。

 そして、ギーシュは呪文を完成させたのか、その造花の杖を大きく振り上げ、シエス

タに向けようとする。

 だが、その杖は振り下ろされること無く、そのまま静止する。

 ギーシュが途中で気が変わり止めたのかと生徒達は思ったが、違った。

 天に向けられたその腕を、レナスが片手で抑えていた。

「それぐらいにしておけ、少年」

 凛々しく周りに響く声はシエスタの耳にも届き、飛んでくる魔法を恐れて塞いでいた

顔を上げる。

「プ、プラチナさん!」

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 突然の助けに安堵しながらも、別の恐怖からかシエスタの顔が更に青くなる。

「だっ! 駄目ですプラチナさん! 私が罰を受ければそれで済むことなんです! そ

んなことをしたら貴方までひどい目にあってしまいます!」

 シエスタの悲痛な声にレナスは構わないと言うかのように首を横に振る。

「罰を受ける必要がない者に、罰を受けさせるつもりはない」

 その言葉にギーシュはピクリと反応し、レナスの手を振り払いレナスへと顔を向け

る。

「罰を受ける必要がないだって? いいや彼女は罰を受けなければならない。彼女の軽

率な行動によって、二人の女性の名誉が傷付いたのだよ? それを──」

「軽率な行動を取っているのは貴様だということがわからんのか、小僧」

 言葉を遮られ、更に女性が言うとは思えない言葉にギーシュは大きく目を見開いた。

「聞けば、貴様がその二人の女性を口説いた事がまず軽率なことだろう。男なら好きな

異性がいれば一人を愛し続けろ。それが出来ぬほどに貴様の知性は低いのか? いや

低いからこそ、このような赤子のように幼稚な事しか出来ぬのだな」

 途中からはほとんど暴言と言えるようなレナスの物言いに、ギーシュの怒りはもう既

にシエスタではなく、レナスへと向きを変える。

「き、貴様!」

122 第10話

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 怒りを向ける相手をしっかりと見た、ギーシュは此処で思い出した。

 この目の前にいる女性が誰の使い魔だったのかを。

「あぁ! そうか! 思い出したよ! 君はあの『ゼロのルイズ』の使い魔だったね! 

そうかそうか、ならばこれほどまでの貴族に暴言を吐ける教養の無さに頷ける! 主が

無能であれば使い魔も同様か!」

 レナスを煽るように主であるルイズをも罵倒し始めるギーシュ。

「言葉に気をつけろ、小僧。お前は自分で自分の首を締めているのに気付かないのか?

 どちらが教養の無い無能か、よく考えることだ」

 煽り文句を更に返されたギーシュはもう怒りで我を忘れていた。

 自分が一体に何に向かって暴言を吐いているのか冷静であっても気付くことはない

が、喧嘩を売ってはいけない相手に一番言ってはならないことをギーシュは口にした。

「決闘だ!」

 造花の杖をレナスに向けると、この場にいる全員に聞こえるように大声で叫ぶ。

「いいだろう、その申し出受けて立とう」

「ふん! 後で謝ったとしてももう遅いからな! ヴェストリの広場で待つ! 神にで

もお祈りを済ませて来ることだな!」

 神であるレナスに皮肉とも取れない言葉を言い放つと、ギーシュは仲間を引き連れこ

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の場を去っていった。その際、そのうちの一人だけがギーシュと話した後に、この場に

残った。どうやら監視のためであろう。

 監視役を無視し、レナスはシエスタへと近づく。

「シエスタ、怪我は無いか?」

「わ、私は大丈夫です……。けど、プラチナさんが!」

 顔を青くしたり赤くしたりと、シエスタは涙を流しながらレナスの腕を握りしめる。

「私は大丈夫だ。すまないな、ケーキの配膳これ以上手伝ってやれない」

「そんなことどうだっていいです! プラチナさん! 貴族様に謝りましょう! 私だ

けが罰を受ければこんなことには──」

「シエスタ」

 名前を呼ばれレナスに肩を叩かれる。ビクリと体を震わせるものの、シエスタはレナ

スと目を合わせた。

「言っただろう? 罰を受ける必要の無い者が、むやみに罰を受ける必要はない。受け

る必要が無いものを我慢して受けることはない」

「で、ですが──」

「ちょっと! プラチナ!」

 未だレナスを引き留めようとするシエスタの言葉を駆け寄ってきたルイズの言葉が

124 第10話

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遮った。

 レナスの正面へと回り込んだルイズは息を荒らげてレナスに言う。

「プラチナ! そのメイドの言う通りよ! あんたギーシュに謝んなさい!」

「ルイズ。お前まで何を言って──」

「いい!? いくらあんたが旅をしてきて腕が立つとしても、平民は貴族に決して勝てな

いのよ! 無駄にあんたが怪我する必要なんて無いんだから! だから──」

「優しいな、ルイズは」

 止めなさいと言う言葉の前にレナスの言葉にルイズは言葉を詰まらせる。

「なっ、何を言ってるのよ! 私はせっかく召喚した使い魔をここで失いたくないだけ

よ!」

 顔を赤くし、ルイズはそっぽを向く。

「そうか、ならそういう事にしておこう。だが──」

 レナスはルイズの目をしっかりと見つめ、シエスタにも聞こえるようにはっきりと伝

える。

「私があの程度の魔法使いにやられると思われる方が心外だな。私を心配してくれるの

であれば、同時に私を信じ、この決闘見守ってはくれないか?」

 レナスの強い言葉に、ルイズもシエスタも黙ってしまった。だが、ほぼ同時に二人は

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顔を上げるとレナスに向かって頷いた。

「わかったわ、使い魔を信じるのも主の立派な務めよね。ただし、信用してあげる以上、

勝ちなさい」

「私もプラチナさんを信じます。だからどうか怪我だけはしないでください」

 二人は共に迷いが無くなったのか、しっかりとレナスの目を見ていた。

 レナスは軽く微笑むと、残っていたギーシュの仲間と思しき、生徒へと近付き声をか

ける。

「監視人」

「なんだ? もういいのか?」

「あぁ、ギーシュの待つヴェストリの広場とやらに案内してもらおうか」

「こっちだ、平民」

 それだけ言うと少年はレナスに背を向け先導して歩く。

 それの後をレナスは付いて歩き、その更に後ろをルイズとシエスタが共にレナスの後

を追った。

126 第10話

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第11話

  学園敷地内西側の風と火の塔の間にあるヴェストリの広場は日中でも日が差さず、そ

の為、人が来ることが殆ど無い場所である。

 稀に逢引している生徒もいるが、それでもこのヴェストリの広場は普段は寂としてい

る。

 が、今は違った。

 ギーシュの決闘発言が生徒達へとまるでバケツリレーのように伝達され、それが暇を

持て余していた生徒達へと広がり、今では今日一番の人の集まりを作っていた。

「諸君! 決闘だ!」

 ギーシュが自身の杖を振り上げ、集まった生徒達へと声を上げる。

 ギーシュの言葉に周りの生徒達は大きな歓声を上げる。

「決闘するのはこの僕、ギーシュ・ド・グラモンと、ルイズの使い魔の平民だ!」

 先程よりも大きな歓声が広場に響き渡る。

 それと同時にギーシュを中心に円を描いていた人垣の一部が割れて道を作った。

 その中をまるで怖じけた様子もなく、後ろにはルイズとシエスタを連れたレナスが

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ゆっくりとギーシュへと歩み寄る。

 人垣で作られた円の一番内側でルイズとシエスタを待つように言い、レナス自身は更

に円の内側へと歩く。

「どうやら逃げなかったようだね、そこは褒めといてあげよう」

 ギーシュは何処に持っていたのか、薔薇の花を手で弄りながらレナスへと話しかけ

る。

「逃げる? 負けもしない戦いを放棄するほど私は愚かではないのでな」

 レナスの言葉にギーシュのこめかみがピクリと動く。

「ふぅ……どうやら、まだ自分の立場も誰に喧嘩を売っているのかも解っていない愚か

者のようだ」

 まるで演劇でもやっているかのように、ギーシュは自身の目元を指で抑えながらよろ

けるようなオーバーアクションを取る。

「いいだろう! その減らず口をこの僕が叩きなおしてあげよう!」

 バサリと自身のマントを手で大きくなびかせる。それと同時にどこからともなく薔

薇の花弁がギーシュの周りへと降り注ぐ。

 全くもって無駄な事なのに、舞台の役者の様に自身をより格好良く見せるための仕込

みは怠らないのか、そこだけは褒めてやっても良いだろう。

128 第11話

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「お互いに最も得意とするもので勝負しようじゃないか! 勿論僕はメイジだ。魔法で

勝負しよう! さぁ、君も自分の武器を手にするといい!」

 ギーシュは手に持っていた薔薇をレナスへと突き付ける。

 さて、どうしたものかと、今更ながらレナスは考えていた。

 レナスは自身の中に物をしまうことが出来るのだが、今この沢山の観衆の前でそれを

取り出せば、私が普通の人間で無いことがバレてしまう。

 それに私が持つ様々な武器は不死者と戦うために作られた武器だ。

 人間相手に使うには少々威力が高過ぎる。対人間用に武器を創るのも可能なのだが、

それも先程と同じ理由で却下だ。

 となれば……。

「ルイズ!」

 観衆の中にいるルイズを呼ぶ。

 いきなり名前を呼ばれた事にルイズは驚きながらも返事を返す。

「何よ!」

「すまないが、衛兵から剣を借りてきてくれないか?」

「はぁ!? なんで私がそんなことしなきゃならないのよ! そこのメイドにでも頼めば

いいじゃない!」

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 ルイズの言葉にレナスは首をふる。

「シエスタに頼んでも良いのだが、衛兵が只の使用人に剣を預けるとは思えない。その

点ルイズは貴族だ。無理を言えばすんなりとは行かないが貸してはくれるだろう」

 その言葉にルイズは納得出来かねない様に顔をしかめたが、わかったと言うと駆け出

そうとする。

「待ちたまえ!」

 それをギーシュが静止させる。

「君は剣で僕と戦うと言うのかな?」

「そうだ。私が最も得意とする武器は剣だ。生憎と今は剣を持ち合わせていない」

 ふむ、と軽く顎に手を当てギーシュが唸る。が直ぐにポンと手を打つとニヤリとした

笑みを浮かべながら大げさに両腕を広げて再度マントを大きくなびかせる。

「いいだろう! 君の武器は僕が用意してあげよう! 主であるルイズの手を煩わせる

必要もなくなるだろう?」

 ギーシュは薔薇の花を振ると、花弁が一つ地面へと落ちる。

 すると、落ちた薔薇の花弁が光を放ちその場でぐにゃりと変化を初め、一本の剣へと

形を変えた。

 ギーシュはそれを掴むとレナスへと放る。

130 第11話

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 その剣はレナスの手前の地面へと軽く斜めに傾いたように刺さった。

「さぁ、受け取るといい!」

 レナスはそれを手に取る。

 今まで扱ってきた武器の中で最も弱い武器だと感じ取りながらも、貴族のお子様相手

には丁度良いと考え、いつものように剣を構えた。

 相手に対し右足を前に、半身だけで相手に向き合う。剣を持つ手を腰の辺りで固定さ

せ、剣先は相手の喉元へと狙いをつける。

 レナスにとっては敵と戦う際にとるいつもの姿勢なのだが、見る者によっては、その

姿勢だけでかなりの手練だと見抜く者もいる。

 そしてそれを見たギーシュもその内の一人、見抜く者であった。

 彼の家系は軍事家系である。幼い頃から家には軍に属する沢山の兵やメイジが訪れ

ていた。

 そんな彼等を間近で見ながら育ったのだ。相手がとる姿勢や気迫というもので相手

の力量を少なからず測ることが出来る。

 そして今、レナスと対峙し彼が感じたことは『戦う相手を誤ったかも知れない』だっ

た。

 だが、それでも今は決闘の場。自分で決闘を申し込んで置いて、今更勝てぬとこの決

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闘を放棄は出来ない。それに自分は軍事家系の一人だ。敵にそう背は見せらる訳には

いかないと言う意地もある。

 更にギーシュは既にある一つの策を打っており、それにより少し余裕が出来たのか、

再度ニヤリとした笑みを浮かべた。

「では、始めよう」

 そう言うと再度薔薇の花を振るい、その花弁が宙を舞う。

 剣を錬金した時と同じようにその花弁が形を変え、甲冑を着込んだ女性形の人形へと

姿を変える。

「君には名乗り忘れていたので、改めて名乗らせてもらおう! 僕の名前は、ギーシュ・

ド・グラモン! 二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。従って、君の相手は僕の魔法で

作り出した青銅のゴーレム『ワルキューレ』でお相手しよう!」

「ほう……」

 屍霊術師の様に魔法で使役するモノを召喚し戦うタイプの魔術師か……。

 恐らく、奴の硬度はこの剣と同じ……、ならば、切ることは出来るはずだ。

 そう考えたレナスは召喚されたワルキューレへと素早く近づく。

 姿勢を少し低めにまるで滑るようにワルキューレへと接近すると剣を振り上げ、ワル

キューレの肩の位置から斜めに断ち切るように剣を振り下ろす。

132 第11話

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 剣の刃は確かにワルキューレの鎧に食い込んだが、その瞬間レナスは剣に違和感を感

じ、そのままワルキューレを断ち切らずに鎧を撫でるように剣を滑らせた。

 貴金属の擦れ合う音が響き渡る。

 レナスは剣を滑らせながら同時に自身の体も勢いに任せて回転させ、ワルキューレか

ら離れるように後ろへと飛んだ。

 一歩遅れてワルキューレの拳がレナスへと襲いかかるが、もう既にレナスはワル

キューレの前から離れており、その拳は空を切り、軽く風の音を出しただけだった。

 この一瞬の攻防に観客は歓声を上げ、場はさらに盛り上がりを見せた。

 ギーシュもレナスの素早さに驚きはしたものの、未だワルキューレは健在、ダメージ

も殆ど無い事から直ぐにワルキューレで追撃を始める。

 だが、軍事家系だと言ってもギーシュ自体は戦闘に関してはずぶの素人である。

 メイジといえど訓練や戦闘経験などが無くては、操るゴーレムも使い手に伴いその強

さに比例する。

 いくら普通の人間より早く動けるゴーレムとは言え、ただ闇雲に拳を振るうだけでは

戦女神と呼ばれるレナスにかすりもしない。

 現にワルキューレがいくら拳を振ろうともレナスはそれを余裕を持って躱し続けた。

 その間、何度も反撃できるチャンスがあったのだが、レナスは一度も反撃すること無

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く回避に徹していた。

「いつまでも回避し続けていても仕方がないな……」

 そう言うとレナスは近づいた時と同じように、今度はワルキューレとの距離を一気に

離した。

 構えを解き、その場にただ立っている様な姿勢へと体を緩めた。

「ふっ、先程までの威勢はどうした? それとも今更になって勝てないとわかったのか

な? 今直ぐ謝れば、許してあげないことも──」

「少し黙っていろ」

 自分が有利だと感じたのか饒舌に喋るギーシュを黙らせたレナスは手に持つ剣に目

を向ける。

 たった一撃、ワルキューレに刃を当てただけなのだが、もう既に剣には刃こぼれが見

て取れる。

 レナスは剣を軽く拳の甲で叩くなどして、入念に調べて気が付いた。

「なるほど。コレが奴を強気にし、負けないという自信か……」

 確かにワルキューレもこの剣も青銅ではあるのだが、明らかに此方の剣の方が脆く作

られていた。

 重心もぶれており、ワルキューレよりもほんの少しだけ硬度が柔らかい。恐らく二、

134 第11話

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三回ワルキューレを断ち切れば、折れてしまう程のナマクラだ。

 だがこのまま折れないように気をつけて戦った所で、いずれは折れてしまうのならあ

の小僧の全力を把握した上で折れる限界まで使い切ったほうがいいだろう。

 エーテルコーティングを掛けても良いのだが、それではこれを作ったあの小僧が不審

に思う可能性もあるから却下だ。

 いずれにせよ、このままでは負けはしないが、剣が折れれば勝つのは難しくなってく

る。

「……どうも貴族という人間は汚い手を好む輩が多いようだな」

 ミッドガルドにてエインフェリアを集めていた時も、様々な街や都市を見て回った

が、どの場所でも必ずと言っていいほどに王族や貴族と言ったような地位が高い人間は

やたらと卑怯な手を好み、自身の欲の為にしか動かない人間ばかりであったのを思い出

した。

「どの世界においてもそれは同じことなのか……? 嘆かわしいことだ」

 物悲しさを覚えながらもレナスは再度剣を構えた。

 それは見たギーシュはやれやれと困ったような感じで手を上げ嘆息する。

「此処で言うのもなんだが、諦めて降参してはくれないか? 僕とて女性を嬲る趣味は

持ち合わせていないのでね」

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 その言葉にレナスはピクリと反応する。

「女性を嬲る趣味は無い? 先程シエスタにした事は嬲る事と何か違いがあるのか?」

 レナスの問いにギーシュは笑って答える。

「あの給仕の平民が粗相を起こしたのだ。あれはそれに対する〞躾〞だよ」

「……そうか」

 知らず知らずのうちに剣を握る手に力が入る。

 まるで同じ人間であろうと平民と貴族と言う身分の違いだけで人間を家畜の様に扱

い、自分に気に入らないことが起こればそれに対する扱いが躾だと言うギーシュに対し

レナスは静かな怒りを覚えた。

「ならば、今度は私が貴様を躾けてやろう」

「……なんだと?」

 レナスの言葉に笑っていたギーシュは笑うのをやめるとその額にうっすらと血管を

浮かばせた。

「平民風情が貴族である僕を躾けるだと? 寝言は寝ていうものだぞ平民?」

「その平民風情に未だ攻撃を当てられていない貴族様。今のままでは私に一撃当てるこ

とすら出来ないぞ? 本気を出してもらっても良いのだが?」

 売り言葉に買い言葉である。ギーシュは呪文を唱え、その他一切の言葉を発さず、

136 第11話

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ギーシュは杖を造花の杖を振るう。

 最初に出した一体のゴーレムに加え更に六体。計七体のゴーレムのワルキューレが

立ち並んだ。

「これが僕の全力だ! 後悔するなよ平民! やれ! ワルキューレ!」

 七体のワルキューレがレナスへと躍りかかる。

「この数で打ち止めか、敵の上限数さえ分かればこの剣でも倒すのは容易い」

 レナスも迫り来るワルキューレへと駆け出し、剣を振るう。

 いくらこの剣が脆くとも、それと同じ位、強度が薄い所を攻撃すれば長く戦えるはず

だとレナスは敵のある部分に目を付けそこを狙うことにした。

 最初に接敵したワルキューレの拳を避け、すり抜けざまに人間で言う関節の部分、肘、

膝、太腿や肩の付け根にだけ刃を通す。

 ただ決して断ち切ることはせず、剣に負担がかからぬように刃が軽く食い込んだ所を

鋸のように引き切りながら幾つも傷を付けていく。

 今の人の身で相手に出来る数、三体前後を相手にしながら、数が増えたら足を使い蹴

り飛ばすなり、スライディングで転ばせるなどして数を一定数に保ちながら関節へと傷

を増やしていく。

 余談だがレナスが蹴りを使う度に周りの男子生徒が歓声を上げ、それを女子生徒が冷

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ややかな目で見ていたが、レナスが着ているものはロングスカートに酷似しており蹴り

を使った所で見えるわけもなく、男子生徒諸君は残念でならないとこぼしていた。

 そんな中、圧倒的に数の差もありながらも一撃も当てられていないギーシュは焦って

いた。

 打っておいた策である、本来より脆く作った剣は未だ折れてはいない。

 だが、此方にもダメージが無い分、数で優っている此方の勝利は揺るがないと自分自

身に言い聞かせながらも攻撃を繰り返させる。

 しかし、七体もいるワルキューレの拳は一撃どころか触れることすら出来ずにあしら

われ続けている。

 まるで幼き頃から見て来た、部下を圧倒する自身の父親の訓練風景のようであった。

 それでもギーシュは何とかワルキューレ達を操り、遂にレナスを取り囲むことに成功

した。

 ワルキューレがジリジリとレナスに近づきながら円を縮めていく。

 流石に七体同時に襲いかかれば、一撃……、いやもう此処で彼女を負かすことが出来

るかも知れないとギーシュは気持ちが高ぶった。

 取り押さえてしまえば、いくら彼女が強くとも、大の男の大人でも力負けするゴーレ

ムに彼女の細腕で振り払えるはずがない。

138 第11話

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 それに観念したのかレナス自身も剣を構えるのを止め、先程のように姿勢を緩めてお

り、ギーシュは一層笑みを深めた。

「ははは! どうやら観念したみたいだね! どうだい? やはり平民は貴族には勝て

ないのだよ! だが僕も鬼ではない、君が僕に尽くすと言う程の誠心誠意を持って謝れ

ば許してあげないことはないよ?」

「……」

「何とか言ったらどうだい? もしや恐怖で声も出ないのかな? ならば今は武器を捨

てて頭を下げるだけでもいいのだよ?」

「……」

「おい! 本当に何か行動に示したらどうだい!? それともこのままワルキューレに殴

られてもいいのかな?」

 レナスを囲むワルキューレの輪が更に距離を縮めて行くが、此処でようやくレナスが

呟いた。

「頃合いだな」

「は? 何を言っている?」

 レナスの言葉の意味がわからず、キョトンとするギーシュにレナスは一気にギーシュ

へと駈け出した。

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「馬鹿め! 一点突破なら抜けられると思ったか! やれワルキューレ!」

 ギーシュの命令に従いレナスを取り囲んでいたワルキューレが一斉に飛びかかった。

 だが、三体のワルキューレがその場で転び一体を巻き込みながら地面へと倒れた。

 つい焦りすぎてワルキューレの操作を誤ったのかと、ギーシュは急いで立ち上がらせ

ようと命令するも、ワルキューレは地面に体を付けたまま動きはするものの立ち上がら

ずにいた。

 いや、正確には立ち上がることが出来なかったのだ。

 倒れたワルキューレをよく見ると巻き込んで倒れた奴以外の膝、或いは太腿の付け根

の関節が砕けており、そこから下がついておらず、切り離されていた。

 それに加え、まだ辛うじて立つことが出来そうなワルキューレが立ち上がろうとする

も今度は腕の関節が砕け散りそのまま地面へと逆戻りしていた。

「馬鹿な! 僕の錬金は完璧だったはず! 壊れるなんてことは……!」

「あぁ、よく出来ているよ。この剣もそのゴーレム共も。だが、どんな物にも脆い部分が

存在するものだ。決してわざと脆く作らなくともな」

「ぐっ……!」

 皮肉を込めたレナスの言葉に焦りながらも、残ったワルキューレを自身の前に集め、

防御に徹する。

140 第11話

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 だが、それでもレナスを止めようと拳を振るうが振りかぶった所で傷を入れた関節部

分に限界が来て拳を降る前に地面へとその腕が落ちる。

 更にレナスの蹴りを受け、耐えようとするも最初に転けたワルキューレ達と同じよう

に足の関節が砕け、踏ん張りが効かずに残りのワルキューレも地面へと崩れ落ちていっ

た。

「このまま負けてたまるかー!」

 足の砕けたワルキューレが、別のワルキューレの砕けた腕を掴みレナスへとぶん投げ

た。

「っく!」

 予想外の攻撃に思わず剣で投げられた腕を弾く。

 だが、バキリと言う音と共にレナスの持つ剣が折れてしまった。

 残った刃の部分は果物ナイフよりも短く、もう剣とは呼べる物ではなくなっていた。

「ははっ! やっと折れたか! これで僕の勝ちだ!」

 ギーシュは動けないワルキューレ達の操作を止めると、残った魔力を絞り出して新た

なワルキューレを一体作り出した。

 その手には剣を携えており、レナスへと斬りかかろうとする。

「遅い!」

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 だが、その前にレナスはギーシュへと接触しており、その折れてしまった剣の刃を

ギーシュの喉元へとピッタリとくっつけた。

 ギーシュが最後に作り出したワルキューレもレナスの背後で剣を振りかざしている

のだが、両者共にその状態でピタリと動きを止めた。

「小僧、今貴様が後ろのゴーレムに命令を出し、剣を振れば私を切れるだろう。だが、そ

れよりも早く私の剣が貴様の喉元を切り裂く。……勝負してみるか?」

 勝負も何も勝敗は火を見るより明らかだった、誰もこの状態でギーシュが勝てるとは

思っていない、無論ギーシュ自身もそう思っていた。

「さて、貴様の答えを聞こうか、小僧」

 レナスはそう問いながら、剣の刃を少しだけギーシュへと食い込ませた。

 プクリと刃が食い込んだ喉元に血溜まりが出来、小さく膨れ上がるとギーシュの喉を

下へと伝っていった。

 ギーシュはまるで魚のように口をパクパクしており、あまりの恐怖に声を出そうとも

出すことが出来ず、そのままヨロヨロと後ずさりし、尻餅をついた。

 同時に造花の杖を手放し、剣を振りかざしていたワルキューレはギーシュの操作から

外れ、ガシャガシャと音を立てながら地面へと崩れた。

「……参った。僕の……負けだ……!」

142 第11話

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 ギーシュの敗北宣言に観衆が一気に湧く。

「平民が勝ったぞ! トトカルチョどうなんだよ!?」

「ありえない! 貴族が平民に負けるなんて!」

「おい! ギーシュ! 相手が女性だから手を抜いたんだろ! じゃないと貴族が平民

に負けるなんてありえないからな!」

「あぁ、そうか! ギーシュだもんな! 全く女性に甘いんだから! 手抜いてんじゃ

ねぇーよ!」

「あのお方……格好良い……!」

「お姉様……!」

 観客は思い思いに騒ぎ立てると、ぞろぞろとヴェストリの広場を離れていった。

 残ったのは項垂れるギーシュと、それを見つめるレナス。レナスの身を案じて見守っ

ていたシエスタとルイズだけになっていた。

「ふーん、凄いじゃない。本当に勝つなんて」

 ルイズは近づきながら賞賛の言葉を口にし、シエスタはレナスへと駆け寄ると思いっ

切り抱きついた。

「良かった! 本当に良かった! プラチナさん! お怪我などはございませんか!?」

「大丈夫だ。ありがとうシエスタ。だが、言っただろう? 負けはしないと」

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 まさにその通りだったのだが、二人共その瞬間までレナスが勝つとはあまり思ってい

なかったのだ。

 心の中で二人は謝りながらも、レナスの勝利を喜んでいた。

「さて……」

 何を思ったのか、レナスはギーシュへと近寄る。

「ちょっと! もう決闘は終わったんだから、これ以上は──」

「わかっている」

 レナスはギーシュの目の前に立つとギーシュを見下ろす。

 その気配に気付いたのか、ゆっくりとギーシュは顔を上げた。

「貴様、この勝負は決闘だと言っていたな」

「あぁ……」

「本来の決闘であれば、貴様はもう生きてはいないだろう。決闘とはそういうものだ」

「わかっている……」

「ならば、命を奪う代わりに負けたお前に一つ命令しよう」

「なんでも言うがいいさ。僕は負けたのだから」

 レナスの言葉に再び項垂れたギーシュはレナスの言葉を待った。

「では、命令だ。お前が泣かせ侮辱した女性四人に謝罪を入れろ。それだけだ」

144 第11話

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 レナスはそれだけ言うと、その場から立ち去ろうとする。

「ちょっと待ってくれ! それだけ? それだけでいいのかい!?」

 もっと酷な命令をされると思っていたギーシュは、顔を上げレナスに問い返した。

「それだけだ。だが、誠心誠意を持ってしっかりと謝れ。今の貴様にはそれだけで十分

な仕置きになる」

 その言葉を聞きギーシュはよろけながらもしっかりと立ち上がり頭を下げた。

「このギーシュ・ド・グラモン謹んでその命を承ります」

「そうか。だが先にそこの二人にではなく、貴様が泣かせた二人に謝りに行け」

「あぁ、わかったよ! その時には改めて君にも謝らせてくれ! では!」

 そう言い残すと、ギーシュは本塔の方へと駆け出していった。

「あそこまで素直であればこのような事は起きなかったのではないか?」

 やれやれと言った風にレナスは頭を振りながら独り言をこぼす。

 レナス自身もルイズとシエスタを連れてこの場を離れようとするが、ふと立ち止まっ

た。

 レナス達の遥か頭上、何も無い青空の一点を見つめる。

「ちょっと、どうかしたの?」

「……いいや。なんでもない」

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 ルイズが不思議な顔をしながら聞いてきたのをはぐらかし、シエスタに腕を引かれな

がらレナス達もまたこのヴェストリの広場を後にした。

146 第11話

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第12話

  広場に居た全ての人間がヴェストリの広場を去った後、レナスが見つめていた場所、

何の変哲もない青い空の一部がまるで揺れ動く煙の様にグニャリと揺らいだ。

 だが、それも一瞬のことでその場を注意して見ていなければ気付くものなど居なかっ

たであろうその揺れは、後にも先にもその一瞬だけであり、残ったのは今日という天気

の良い日を体現した只々青い空が広がっているだけだった。

 場所は変わり、此処はトリステイン魔法学院本塔、最上階にある学院長室。

 室内にはこの魔法学院の長であるオールド・オスマンが何か魔法を使っていたのか、

軽く杖を振るうとそれを机に立てかけ、自身の椅子に深くもたれかかった。その傍らに

はコルベール教諭が目を閉じ、顔にシワで彫りを作るほど難しい顔をして黙り込んでい

た。

 ちなみに本来ここにいるであろう彼の秘書である緑髪の女性は席を外しているよう

で不在である。

「のぅ、コルベール君。彼女をどう思うかね?」

 決して軽いとは言えない空気の中、オスマンは今日の天気でも聞くかのような軽さで

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コルベールに問いかける。

 コルベールはピクリと反応はしたものの、未だに目を閉じたままで口を開きはしな

かった。

 いや、どう答えたら良いかと考えているのだろう。しきりに唸り声を上げながら目元

に作っているシワを一層深めた。

「……昔、私はメイジ殺しの傭兵に会ったことがあります」

 突拍子も無い答えにオスマンはいきなり何を言い出すのかと思ったが、何か理由があ

るのだろうと考え、黙ってコルベールの言葉に耳を傾けた。

「敵としてではなく、私は彼に戦い方を教授して貰うよう上からの命令で彼の元を訪れ

ました。齢七十と言うかなり高齢な御仁でしたよ」

 目を開けたコルベールの瞳はどこか懐かしむような感じをしており、その視線は学院

長室の窓の外にある青い空へと向けられた。

「私も昔は、他のメイジ達と同じように魔法さえ使えれば平民などに負けるはずが無い

と考える人間でした。が、彼と模擬戦と称して戦った際、そこで私の考えは大きく変わ

りました」

「ふむ……負けたのかね?」

 えぇ、と軽くコルベールは頷く。

148 第12話

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「完敗でした。手も足も出ないとはこのような事を言うのだなど実感しましたよ。そこ

から私は短い間ですが彼の元で体術を学びました。その際に師に一度尋ねたことがあ

ります。『どうすればそこまで強くなれるのか?』と」

「その答えは君の納得のいくものだったのかね?」

「えぇ、師はこう言っていました。『物心付いた頃からずっと生きる為だけに戦ってき

た。休む間もなく、自身を生き永らえる為だけにこの歳になるまでずっと、ずっと戦い

続けた』と、私もそれを聞いて師の強さに納得しましたよ。達人と呼ばれる人間の強さ

とはそこまでに至る長い年月によるものだと感心もしました。しかし──」

 コルベールは一度そこで言葉を区切ると再度目を瞑った。

「彼女は……確かに強いです。それも私の師と同等かそれ以上に……。師と同じように

型にブレがなく、洞察力も観察力も申し分無いと言えましょう。それこそ我が師の様に

何十年と戦い続けたような風格まであります。ですが、その域に達するには彼女はあま

りに若すぎる」

「その年齢にして君の師の域まで辿り着いた、とは考えないのかね?」

「確かにそれも考えましたが、以前彼女とこの場で会話した時に彼女は十数歳の時に村

を出たと言っていました。我が師の様に物心付いた時からではなく、それなりに成熟し

てから旅だったと。それまで体を鍛えていたとも誰かに剣術を学んでいたとも彼女は

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言っていませんでした。それこそ普通に生活していただけだと……。しかし、我々に

言っていないだけであって本当はやっていたかも知れませんが、そうだとしても彼女が

あれほどの剣術の腕前に達するにはやはり若すぎる気がするのです」

 コルベールの言葉にオスマンはなるほどとだけ言うと、机から水ギセルを取り出し軽

く吸うと紫煙と共に軽く息を吐いた。

「オールド・オスマン。彼女について王室へ報告すべきでしょうか?」

 コルベールの言葉にオスマンは眉をひそませながら口から水ギセルを離した。

「む? 逆に聞くが何故君は彼女について王室へ連絡せねばならんと言うのかね?」

「この頃王室は反乱分子や他国との外交問題で頭を悩ませていると聞いております。彼

女ほどの手練が陛下の力となれば、少なくとも反乱分子位は抑えられるでしょう。それ

に最近小耳に挟んだのですが、平民だけの特殊な部隊が編成されたと聞いております。

彼女ならばそこに──」

「ならぬ」

 コルベールの言葉を遮るようにオスマンが声を発する。

 それに驚きつつも否定されたのが納得いかないのかコルベールはオスマンへと詰め

寄る。

「何故ですか!? オールド・オスマンもこの国の現状は知っておられるでしょう! な

150 第12話

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らば──」

 オスマンはコルベールの前に手をかざし待ったをかける。

「コルベール君。君は忘れていないかね? 彼女はこの地の人間ではない。それも自身

がいた場所へ帰ることを希望している。そんな彼女に我々の都合でこの地に留まらせ

る訳にはいかんじゃろう?」

「ですが、彼女は今尚旅を続けていると言うことは安住の地を求めてではないでしょう

か? ならば、この地で、しかも王室に仕えると言う条件は決して悪い条件ではないは

ずですが……」

「それは彼女自身が決めることじゃ。我々が押し付けて良いものではない。この件は王

室へ報告はせぬ。しばらくは様子を見ようではないか。それで良いな?」

「……わかりました」

 オスマンの言葉に渋々ながら了解すると、コルベールはオスマンへ一礼し学院長室か

ら出て行った。

 コルベールが出て行ったことにより一人になったオスマンはまた水ギセルを口にし

一服する。

 水ギセルの紫煙がオスマンの口から吐出され、この場の静寂に包まれるかのように静

かに霧散する。

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「……コルベール君が騒ぐのも無理は無い。あれ程までの剣の使い手はわしも見たこと

がないのう。さながらイーヴァルディの勇者か伝説のガンダールヴと言ったところか

のう」

 オスマンは一人納得したように微笑むと席を立ち、窓から外を眺める。

「はてさて、今後どうなるものか、神のみぞ知ると言ったところかのう」

 誰に言うでもなく、オスマンはホッホと笑いながら自慢の髭を撫でるのであった。

   程なくして、オスマンに呼び出された。ルイズとレナス、それにギーシュであったが、

お咎めがあるわけではなく、厳重注意とだけ言われ、早々に帰された。

 決闘騒ぎから数日が経ったが、あの日からレナスの周りでちょっとした変化が起きて

いた。

 厨房ではマルトーから『我らの女神』と呼ばれ、断っているのに、料理の質を上げら

れたり、上等なワインを飲ませようとしたりと唯でさえ騒がしい厨房が、レナスが行く

度に更に騒がしくなるのだ。

 使用人のメイド達からもお姉様と慕われ始め、ルイズと共にいない時は彼女達に囲ま

れる。

152 第12話

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 もてはやされるためにあの決闘を行ったわけではないのだが、結果として自分の知名

度が上がったことにレナスは少々後悔していた。

 決して彼等や彼女達の好意が嫌な訳ではないが、何をするにしろ何処に行くにしろ、

誰かが付いて来てしまう為、レナスは行動が少なからず制限されていた。

 そのせいもあってレナスは決闘騒ぎの日からこの地の歴史を調べるために、魔法学院

の図書室より数冊本を借り、自分へあてがわれた使用人寮の自室で本を読むことが多く

なっていた。

 ちなみに図書室の使用許可はオスマンから直々に頂いているので問題はなく、ルイズ

にも調べ物があるからと許可を取ってあるので講義を受けに行っているルイズに付き

添う必要もない。

「なるほど、どの本を見ても文字はある程度ミッドガルドと同じ字面をしているな。

所々形を変えてはいるが、基本は同じか」

 シャナリと乾いた音を立てながらページをめくり本を読み進めていく。

 不意に誰かがこちらへ近づいてくる気配を感じたが、使用人の誰かだろうかと思い、

特に気にも止めずにいたが、その気配はこの部屋の前に来るとピタリと止まった。

 そして、比較的大きなノック音が部屋全体に響く。

 しかし、ノックにしては乱暴であり、扉の中央辺りではなく、かなり下の方……足元

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辺りからドンドンと音が聞こえる。ノックと言うより蹴りつけているみたいだ。

「ちょっとプラチナ! 居るんでしょう!? 重たいから早く開けなさい!」

 声からしてルイズの様だが、何か運んでいるのか両手が塞がっているようで足で蹴る

ようなノックをしたのだろう。

 余り良い予感はしないが開けないわけにもいかず、やれやれと本を閉じてから、扉を

開けた。

 するとそこには大きめの木箱に溢れる程大量の手紙らしき物を入れたルイズの姿が

あった。

「ちょっとどいて!」

 悲鳴混じりの声を上げながら、言われた通りルイズが通れるように扉を大きく開き扉

が閉まらないように体で抑える。

 ルイズはヨタヨタとその木箱を置ける場所を素早く目で探すと本が積まれたテーブ

ルを見つけ、本の事などお構い無しにテーブルへとスライドさせるように置いた。

 積まれていた本がバサバサと床に落ちるが、一刻も早くその木箱を置き、休みたかっ

たのか雪崩落ちた本など気にせず、ベットへと腰を降ろした。

「……これはなんだ?」

 レナスはルイズに持ち込まれたものが何なのか聞きながら、落ちた本を拾っていく。

154 第12話

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しかし、木箱によりテーブルの上に置く場所が無くなった為、仕方なく本を椅子の上へ

と積み上げる。

「手紙よ」

「見れば解る。誰になんの手紙だ?」

「あんたに! 内容までは知らないわよ!」

 明らかに何か知っている風ではあったが、機嫌が悪いようなのでそれ以上は聞かず、

とりあえず、中を見れば解るかと一つ手に取って見てみる。

 可愛らしい封筒に、差出人らしき者の名前が小さく書き添えられてあるが、それより

も目を引くのは大きく『プラチナお姉様へ』と書かれた文字であった。

 何故か嫌な予感がしてならないのだが、中身を見らずに捨てるわけにもいかず、手に

した手紙を開封して内容を確認する。

「これはまた、なんと言えばいいのか……」

 なんとなく予想はしていたが、書かれていた内容は私に対する賛辞の嵐であった。

 格好良かった、素敵でした、見惚れました、など決闘時に私を見た女生徒からのファ

ンレターであった。

 山のように積まれた手紙をパッと確認した限りどれも同じような封筒の書き方をし

てある為、内容も同じようなものだろう。

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 しかし、中には『決闘状』などと書かれた封筒も見て取れる限り、全てがファンレター

と言うわけではなさそうだ。

 少々目眩を覚えながらも、軽く溜め息を付きながらルイズへと目をやる。

「ルイズ──」

「知らないわよ。私じゃなくてあんたへの手紙なんだからあんたが対応しなさいよ? 

良かったわね。魔法が使えなくともそれだけ人気が出るのね。私と違って」

 明らかに自虐とも皮肉とも取れる言葉を吐いて、プイッとルイズは頬を膨らませなが

らそっぽを向いた。

 子供扱いすれば怒るくせに、言動も行動も子供っぽいルイズに思わず苦笑いする。

「本を呼んでいる場合ではないか……」

 純粋な好意による手紙なのだ。決闘状はまだしも、ファンレターと見て取れる手紙を

無下にするわけにもいかず、レナスは一枚一枚開封し中を確認していく。

 それを横目にルイズはジッとレナスを見続けていたが、何か思いついたのか、よし、と

小さく溢すとベットから立ち上がった。

「プラチナ。明日街に行くわよ」

 手紙を読み続けていたレナスがルイズの言葉に顔を上げる。

「街へ? いきなりどうした? それに明日の講義はどうする?」

156 第12話

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 ルイズは何にも知らないのねと呆れた顔をする。

「明日は虚無の曜日でお休みよ。あんたに剣を買ってあげるわ」

 剣か、あの騒ぎからどうするか考えてはいたのだが、またあのような騒ぎが早々に起

こる訳ではないと考えていたためレナスは後回しにしていた。

 自分でも調達出来ないことはないのだが、入手先を聞かれるのは困る。しかし、ルイ

ズが買ってくれるのであれば、武器の入手先を聞かれる心配がなくなる。

 レナスはそう考えるとルイズの好意を素直に受け取ることにした。

「そうか、すまないな。なら、明日は頼む」

 手紙の束を片付けながらルイズにそう言うと任せなさいとだけ言ってルイズはこの

部屋を出ようとした所で立ち止まった。

「そうそう、明日もいつも通りに起こして頂戴。それなりに距離のある場所だから向こ

うに着く頃にはお店も開いているはずよ」

 お願いねと、最後に付け加え後ろ手に手を振りながら部屋を出て行った。

 ルイズが出て行った後、レナスは山のように積まれた手紙と借りてきた本を読み切

る。

 だが、神と云えど、レナスはホムンクルスと融合した半人半神の神である為、流石に

あれだけの量の手紙を読むと疲れが出たのか、目元を抑える。

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「天界の仕事程ではないが、流石にこれはこれで疲れる」

 手紙と本の山を片付けると、レナスはベットへと潜り込んだ。

 本来必要としない睡眠だが、疲れを取る際には人間と同じように食事をしたり、睡眠

をとることで神も疲労を緩和出来る。

 半人半神であるレナスに取ってもそれは同じことである。むしろ半人半神であるか

らこそ、その効果は他の神よりも効果的であり、その分他の神よりも疲労は強く出るの

であった。

 そこまで酷い疲労ではないが、街に行くとなるとその分学院より何が起こるか解らな

いため、レナスは疲労を残さぬよう眠りに付くのであった。

   翌朝、レナスは日の出と共に起きると、中庭へと向かった。

 誰も居ないことを念入りに確認し、その身から剣を取り出す。

 『神剣グランス・リヴァイヴァー』世界を滅ぼそうとした邪神を討伐し、その後レナス

の愛剣として、常に側に持ち続けた神剣である。

 レナスは剣をしっかりと構え、自身の型にブレがないかを確かめるように剣を振る

う。

158 第12話

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 縦、横、下段、切り上げ、突き。隙が出来ぬよう、素早く正確に、いつもの様に敵と

戦うように剣を振るう。

 一通り型を確かめると、剣をその身に仕舞い込んだ。

 じんわりと滲む汗を浄化の力で清めてからルイズの元へと向かう。

 実はレナスが召喚される前のルイズの起床時間はこれよりも遅いのだが、レナスがこ

の世界に来てからルイズの起床時間はレナスの訓練後とレナスが勝手に決め込んだ為

に早くなっていた。

 それについてルイズも反論したが、いつも朝食をギリギリに摂るような生活基準では

まともに頭も働かないとレナスに言われており、実際身支度する時間も朝食の時間も講

義を受けるまでの時間に余裕が出来、最初の講義の時間からスッキリした頭で望めた事

から渋々ルイズは了承した。

 そんな訳で、いつもの時間にルイズを起こし、身支度を済ませてから互いに朝食を摂

る。

 その後は正門前でレナスはルイズが来るのを待っていた。

「待たせたわね」

 ルイズは馬を二頭連れて正門へと現れた。

「そういえば、あんた馬は乗れるの?」

159

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 一通りの事は何でもこなせるとルイズに言い、一頭の手綱を受け取る。

「そっ、ならさっさと行きましょう。お昼より早く付くだろうから、買い物を済ませてか

ら向こうで昼食を摂ることにしましょう」

 そう言うと、ルイズも手綱を握りしめてヒラリと馬へとまたがる。

 続くようにしてレナスも馬へとまたがり、二人は正門から学院を出て行った。

   時間は少し戻り、ルイズの隣の部屋。キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・ア

ンハルツ・ツェルプストーの自室。

 どこかの扉が閉じる音で目が覚める、彼女にしては休日にしては早めに起きたなと思

いながらも、再度寝直すつもりもなく、ゆっくりと身支度を整える。

 その後窓を開け、部屋の換気をしてから、朝日をその身に当て大きく背伸びをする。

 ふと、下の方で動く人影があり、それに目を向けると、隣人であるルイズとその使い

魔であるプラチナと呼ばれる女性が学園から出て行く所であった。

「あら? お出かけかしら?」

 レナスが男であれば先の決闘騒ぎでキュルケも今の他の女生徒達のように見惚れた

かもしれないが、キュルケは強い女性に引かれる性質は持ち合わせておらず、特に彼女

160 第12話

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達への強い感心を持ってはいなかった。

「さて、じゃあ、私はどうしようかしらねぇ? ぶらぶらしてれば誰かしら声をかけてく

れそうだけど──」

 今日の予定をどうしようかと思いながら、去っていく二人の姿を目で追う。

 するとその視界を遮るように青い影が、キュルケの前を通り過ぎた。

「あれはタバサ?」

 飛び去る青い鱗を持つ竜の背に、同じく青い髪を持つ小柄な少女をキュルケは視界へ

と収めた。

 彼女はキュルケの級友の中で一番仲の良いタバサと呼ばれる少女であり、キュルケは

急ぎ飛び去ろうとする彼女を呼び止めた。

「ちょっとー! タバサー! どこに行くのよー!」

 彼女の呼び掛けに、呼び止められたタバサと呼ばれる少女は気付いたのであろう。

 彼女を乗せている竜が空中で急停止すると、その身をクルリと翻し、キュルケの元へ

と戻ってきた。

「なーに? そんなに急いでどこに行くのよ?」

 窓枠に頬杖を付きながら此方まで戻ってきたタバサに声をかける。

「彼女を追う」

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 簡潔に、それ以上は不要とばかりの言葉数にも関わらず、キュルケはそれを理解した

が、別の疑問が出てきた。

 おそらくタバサの言う彼女とは、ルイズ達の事だろうが、何故タバサが彼女を追うの

かそれが理解できなかった。

「ヴァリエールを? 何? 貴方達何か接点なんてあったかしら?」

 率直な疑問をタバサに投げかけると、タバサは頭を横に振り否定する。

「違う。ミス・ヴァリエールじゃない」

 と、なると彼女が追おうとしてるのはもう一人の方、ルイズの使い魔となったプラチ

ナと言う女性の方なのだろう。

「プラチナを? タバサ、彼女に何か用事でもあるの?」

 今度は頭を縦に振り肯定する。

「そっ、なんの用事があるか分からないけど、あの方角だと街の方よね? ちょうどいい

わ。今日暇してたのよね。私も付いて行くわ。いいでしょ?」

 キュルケがそう言うと、タバサは再度頭を縦に振り、竜の高度を落とし、キュルケが

乗りやすい様にする。

「乗って」

 それだけ言ったタバサに対し、ありがと、とだけ返すと、キュルケは窓から身を乗り

162 第12話

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出しそのまま竜の背へを乗り込んだ。

「相変わらず貴方の風竜、シルフィードには惚れ惚れするわね」

 キュルケの言葉にタバサの使い魔であるシルフィードと呼ばれる風竜はキュイキュ

イと嬉しそうに鳴くと、女子寮を軽く越えるほどまでに上昇する。

 そして、当初の目的である彼女達への追跡を始めると、キュルケは爪の手入れを始め、

タバサも小脇に抱えていた本を捲り読書を始めるのであった。

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第13話

  早朝の柔らかな日差しから一転して日は高く登り、一気に日差しが強くなる頃、レナ

ス達はトリステインの城下町へと到着していた。

 ここまで乗ってきていた馬は町の門の直ぐ側にある簡易的な厩舎に預け、門をくぐり

町の中へと入っていく。

 時刻的にはまだ朝なのだが、もう既に幾つもの店が営業を開始しており、店先では客

引きをする店員が大声を張り上げており朝の喧騒を一層際立てていた。

 レナス達はその朝の喧騒の中をはぐれぬようにゆっくりと進んでいた。

「人も多い賑やかなところね」

 ルイズの後ろにピッタリとくっつくようにして歩きながらも、他の通行人とほとんど

接触することなく歩くレナスがそうこぼした。

 その言葉を聞いたレナスの前を行くルイズはまるで自分が褒められたかのようにふ

ふんと軽く笑う。

「そうでしょう。ここはトリステインで一番大きな通りでブルドンネ街って言うの。宮

殿へ続くメインストリートなんだから賑やかなのは当たり前よ」

164 第13話

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 なるほど、と受け答えしながら目を道端に出店している露天の品々へと向けた。

 水々しい光沢を持った果物、細工が施された装飾品、その場で作られて売られる軽食。

それらが道行く人達を誘惑していた。

 それらをのんびりと見渡しているレナスにルイズが注意を促す。

「プラチナ。周りを見るなとは言わないけど、スリには気をつけてよね。人通りも多い

分そう言う輩も多いんだから。ちゃんとお財布あるの?」

 財布の有無を確認するルイズにレナスは自身が今来ている羽織りものから財布を取

り出す。

 ちなみにこの羽織りものは出かける前にルイズと一悶着あり、たまたまそこを通りか

かったオスマンの秘書からお借りしたものである。

「ここに。しかしルイズ、やはり財布を腰に括りつけてはいけないのか? それなりに

重さがあるゆえに、懐にあると少々動きづらいのだが」

「駄目よ。出かける前にも言ったでしょ。そんな見える所にぶら下げてたら盗ってくだ

さいなんて言ってるようなものよ。だから何度言っても駄目なものは駄目」

 出かける前の一悶着の原因がこれである。

 ルイズが言うには貴族は自分でお金を持たないものであり、付き人である平民に持た

せる物であるという。

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 それぐらいならと財布を受け取り腰に結ぼうとしたところ、ルイズが激怒。

 財布は何処に持っているかわからないように懐に隠すのが当たり前だと言ってきた。

平民がメイジのスリから身を守るための方法であるらしい。

 ついでだが貴族とメイジは分けて言える事が出来るのだとか。

 そういう訳で、どうあっても首を縦に振りそうにないルイズに、そうか。と渋々頷き

ながら、再度財布を懐へ仕舞おうとするが、その直後に後ろを歩いていた男がレナスを

突き飛ばした。

「きゃあ?!」

 突然のことに反応出来なかったレナスは地面へと倒れこみ、手にしていた財布を手放

してしまった。

「おっと、ごめんよ」

 言うが早いかレナスを突き飛ばした男は逃げるように路地裏へとその身を滑り込ま

せて行った。

「ちょっと!? もう! 何なのよあの男!」

 同じくルイズもこの一瞬の出来事に反応出来ずにおり、頭が何が起こったのか理解し

た時にはもう既に男の姿はなかった。

 逃げた男に文句の一つも言えなかったルイズは男が逃げ込んだ路地裏を睨みながら

166 第13話

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も倒れてしまったレナスに近付く。

「プラチナ。大丈夫?」

「ええ。私は大丈夫なのだが……やられたか」

「やられたって、何を?」

 男がレナスを突き飛ばしただけとしか見て取れなかったルイズはレナスの言葉に首

を傾げる。

「財布だ。あの男スリだったようだな。スリと言うよりは強盗に近い手口だったがな」

「えぇ!? ちょっと! アレだけ注意してって言ってたのに盗られちゃったの!?」

 やっと一連の出来事の全てを理解できたルイズは更に騒ぎ立てる。

「あれには私のお小遣い全部入ってるのよ! あんたの剣の代金だって今日の買い物分

だって全部あれに入ってるのよ! どうすんのよ!?」

 鼓膜が破けるほどルイズが騒ぎ立てる。

 その騒ぎに何事かと道行く人々も足を止め我々を見るも、ルイズがマントを付けてい

るのを見ると全員がその場をそそくさと足早に立ち去っていった。

 平民である以上、無闇矢鱈と貴族に関わるものではないと思ったのであろう。

 レナスはそんな周りの人々を横目にルイズに対し貴族が往来の多い道のど真ん中で

大声を上げるものではないとなだめた後、男が逃げていった路地裏へと目を向ける。

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「で、どうするのよ?」

 まだ怒りが完全に収まったわけではないようで、声は抑えられているものの明らかに

怒気の混じった声でルイズが言う。

「盗られてしまった事実はどうしようもない。が、ただそれだけだ。盗られたのならば

取り返せばいい」

「取り返すって……、あんたねぇ! もうあれだけ足が速ければ今から追いかけたとこ

ろで追いつかないわよ! それに路地裏はかなり入り組んでいるのよ! 私でさえ迷

うのに今日初めて来たばかりのあんたに道がわかるはずないでしょ! 迷子になって

それでおしまいよ! 今から追いかけるよりさっさと衛兵にでも通報したほうがまだ

財布が戻ってくる可能性があるわよ!」

 レナスの答えに再度火が付いたように怒りだしたルイズ。

 だが、確かにルイズの言う通り、此処に来たのは今日が初めてだ。それに一連の流れ

から奴もかなりの手練なのだろう。

 入り組んでいると言われる路地裏も奴や衛兵の方が詳しいはずだ。

 ──だが、それだけだ。

「そうか、ならルイズは衛兵所に行っててくれ。私も後でそこへ向かう」

「あっ!! プラチナ!? 待ちなさい!」

168 第13話

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 ルイズの呼び止めを背中で聞きながら、レナスは路地裏に駆け込むと同時にあるもの

を取り出した。

    同時刻、狭く薄暗い路地裏をとある一人の男が走っており、手にはずっしりと重そう

な財布が握られていた。

 木箱や樽、瓶や汚物などが転がる障害物が多い路地裏を男は細い溝に流れる水の様な

速さと正確さでスイスイと駆け抜けて行く。

「へっ、おこちゃまの貴族だったが、案外持っているようだな」

 男は上機嫌で手にした財布を振る。

 財布からは中の硬貨がお互いを打ち鳴らしジャラジャラと決して小さくない音を鳴

らした。

 その音を聞き、男は更に頬を釣り上げて笑う。

「こりゃあ、今日の仕事はこれで終わりにしてもいいかもしれないな! こんだけあ

りゃあ暫く遊んでられるぜ!」

 財布にたんまりと詰まっている硬貨に胸を高鳴らせると、それを懐へとしまいながら

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男は先程財布を奪ったあの女性の事を口にした。

「それにしてもありゃー随分な美人さんだったな。平民とはいえあれだけ顔が整ってた

ら言い寄って来る奴も多いだろうな。だが、貴族様のお付きの者としてこんなヘマしち

まったら、良くてクビか娼館送り、悪けりゃ死刑ってところだな。数日したら娼館でも

見て回るか! もし見つけたら買ってやるか! お前から奪った金でだがな!」

 ギャハハと下卑た笑い声を上げる。

 だが、男の前方には大きな壁が行く手を塞いでおり、両端に道はなかった。

 どう見ても袋小路に追い込まれた様に見える男だったが、もうこんなところまで来て

たのか。と言うと、メイジの証である杖を取り出した。

「──っ」

 小さく詠唱すると、男の体がフワリと浮かび上がる。

「後は、この壁を越えてしまえば、誰も追ってなんて来れないって寸法よ。衛兵になんて

頼ったって無駄無駄。俺様に会った事を運が悪かったって泣くんだな」

 そう言いながら、男は壁を乗り越える。

 壁を乗り越えた先は、小さな空き地となっていた。

 四方が壁に囲まれているも、そのそれぞれに細く伸びる裏路地があるが、そのどれも

にここへ入ることを拒むかのように木箱が積み上げられていた。

170 第13話

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 一般人がここへ入り込まないようにわざわざ男が積み上げた木箱である。

 男は盗みを行う度に此処へ入り、盗品を改めて確認しながら、騒ぎが収まるのを待つ

のであった。

 今日もいつも通りに事が進むと男は思っていた。

 が、男が壁を乗り越えた瞬間笑っていた男の顔からその笑みが消え、驚愕の表情へと

変わった。

 それもそのはず、乗り越えたその壁の先には、先程財布を奪ったあの女性、レナスの

姿があり、その手には剣を握られていたからだ。

「なんっ……! くっ!」

 男はフライの呪文を解除し、地面に降りるとレナスに向けて杖を構える。

 そのまま飛んで逃げてもよかったのだが、今城下町を飛んで逃げるのは色々とリスク

があると判断したのだ。

 「貴様どうして此処に!? それ以前にどうやって俺よりも早く!? 剣など持っていな

かったはずだ!?」

 などと喚きながら男は混乱するも、剣を持っていると言うことは所詮平民だと結論付

け男は落ち着きを取り戻す。

「奪った財布を返して貰おうか」

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 怖がる素振りもなく、ただ淡々と告げるレナスの言葉に男は背筋に薄ら寒いものを感

じながらも、それを払拭するかのように怒鳴り返す。

「誰が返すか! 平民なんかが俺に勝てると思うな! 俺は風のトライアングルだ! 

俺の魔法が見えるはずも躱せるはずもねぇ!」

「……そうか、ならば仕方がない」

 レナスは剣を下方に構え、ゆっくりとしたスピードで男へと迫る。

 それと同時に男は杖を構えなおし、レナスへと狙いを定める。

 十分に詠唱出来るだけの距離はある。放ってしまえば負けることはないはずだと男

は結論付けた。

「殺すには勿体無いほどの美人さんだが、向かってこられたんなら殺すしかないな! 

流石の俺も死体に興奮するほど変態ではない。が、死んだ後のお前さんの体は有効活用

してやるよ! なぁに世の中にはそんな変態も居るって話だ。あぁ、安心しろ。高く

売ってやるからさ!」

 言葉の最後に間髪入れずに呪文を唱える。

「デル・ウィンデ!」

 直ぐに向かってくる奴の頭と体が泣き別れるはずだと男はほくそ笑んだ。

 しかし、レナスの動きは男の予想を大きく覆した。

172 第13話

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 直立に近いような姿勢で剣を下に構えてゆっくりと走るレナスであったが、当たるで

あろうその瞬間にまるで見えているかのようにレナスは姿勢を低くし、一気にスピード

を上げた。

 その直後に後ろの壁がゴシャリという音と共にえぐられた。

「は……?」

 男は唖然とした。

 魔法が外れた。いや、回避されたのだ。

 ありえない! 男はそう思いながらも次の攻撃をせねばと詠唱しようとするも、もう

既にレナスは男の目と鼻の先へと迫っていた。

「はやっ──」

 この時男はやっと理解した。あの変な構え方もゆっくりとした走りも全ては自分の

魔法を回避するためのものだったのだと、そして回避と同時にスピードを出す事が出来

るように身を低くする躱し方をしたのだと。

 そう理解出来た時にはレナスに杖を切られており、男の喉元にはピタリと剣先が向け

られていた。

「大人しくしろ」

 その言葉に男は両の手を上げる他になかった。

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「ま、参った。財布は返すよ。だから殺さないでくれ」

 涙混じりにそう応える男は懐から盗んだ財布を取り出すとレナスの少し後ろへ投げ

た。

「ほ、ほら。財布なら返した。だ、だから命ばかりは……」

 そう懇願する男からレナスも剣を引く。

「もとより命を奪うつもりはない、これに懲りたのならば自首することだ」

 レナスは男に背を剣を鞘へしまうと、向け投げられた財布を拾いに向かった。

「あぁ、そうするよ──」

 そう言いながらも男の口は笑いを堪えるようにヒクリと動いていた。

 それと同時に背中に手を回し、隠し持っていたナイフを取り出すと、レナスが財布を

拾おうと身を屈めた瞬間に飛びかかった。

「死ねぇ!!」

 飛びかかる男に対し、レナスは自身の体を少しずらし左足を軸に右足で小さく半円を

書くように抜刀しながら、そのまま剣の柄頭を男の鳩尾へと叩きこんだ。

「ぁうごっ──」

 短い呻き声と共に地面へと倒れ伏す男を確認すると、再び剣をしまいながらレナスは

立ち上がった。

174 第13話

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 財布を拾う際に服に付いた土を軽く払うと、男を見下ろしながら溜め息をついた。

「全く、油断も隙も無い」

 そう言葉を漏らすと、レナスは先程使用したあるものを補充するために胸元へと手を

当てる。胸元に当てた手を手前へと引くように手首から先を動かす。淡く光る直径十

五センチ程の光の玉がレナスの手の上へと浮遊する。

 レナスは、それを落とさぬようにその手を受け皿のように添え、マテリアライズをか

けて物質化させる。

 光の玉が収縮し、ポトリとレナスの手の上へと落ちる。

 それは片手に収まるほどの小さな球体であった。

「天空の瞳……。このような場所でも使えるのだな」

 念の為にと幾つか使用できそうな道具をマテリアライズし、服へ仕舞っていたのだ

が、それが功を奏した。

 何故物質化して持っていたかというと、咄嗟の時に取り出しづらく、光を発するため

人前では使えないなどと言った理由でストックしておいたのだ。

 男を追って路地裏に滑り込んだレナスはこれを使用し、このトリステイン城下町全体

のマップを調べた後、この男が逃げ込みそうな場所へ先回りしたのだ。

 この路地裏は曲がりくねってはいるものの、ほぼ一本道であったため、先回りするの

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はレナスには容易であったと言うわけである。

 勿論先回りする際には姿を消し、飛んで移動したということを付け加えておこう。

 レナスは天空の瞳と財布を仕舞うと、男を担いだ状態で木箱を乗り越えるのであっ

た。

    場所は変わり、ここはトリステインの衛兵所。

 雑多で掃除も行き届いていないような場所に不釣合いな桃色ブロンドな少女、ルイズ

と、これまた男臭いはずの衛兵所に居るはずもない女性の兵士が、ルイズから話を聞い

ていた。

「なるほど、その男から財布を強奪され、今お連れの方が追っていると言うことですね

?」

「そうよ。プラチナの強さは信用しているけど、土地勘もない彼女に捕まえられるとは

思いにくいわ」

 未だに機嫌が悪いのか、少々膨れっ面で受け答えるルイズ。

「わかりました。直ぐにでも奴の行方を追うように指示します」

176 第13話

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 そう言うと兵士の女性は後ろにいた、これまた女性の兵士達に指示を出す。

 命令を受けた兵士達は、ガチャガチャと武具を鳴らしながら、町へと散開していった。

「では、申し訳ありませんが報告があるまで、此方で待機頂けますか?」

 コクリと頷くルイズに、女性兵士はお茶を用意する。

「小汚い場所かもございませんが、お茶をどうぞ」

 差し出されたお茶を、ルイズは膨れっ面のまま軽くすする。

 しかし、思いの外に出されたお茶が美味しかったのか、膨れっ面だった顔を元に戻し

た。

「そういえば、焦っていて気付かなかったけど、ここにあんた達みたいな女の兵士が居る

わけ?」

「我々のことですか?」

 ルイズから聞いたことを調書をまとめていた女性兵士の手が止まる。

「そ、なんでなの? 女性の兵士隊なんて聞いたことなかったけど?」

 その言葉に、まだ我々も知られきっては居ないのかと、小さく呟くと姿勢を正しよく

通るような鮮明な声で告げる。

「我々は最近出来た銃士隊であります。その構成のほとんどが女性であり、いつもは宮

殿内または付近の警備にあたっております。しかし、今現在盗賊騒ぎで人手を必要とさ

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れているため我々も、この場を拠点に住宅街付近の警備にあたらせてもらっております

!」

 周りの兵たちも突然のことに何事かとそちらを見るも、あぁ、またか。などと呟きな

がら自身の仕事へと戻っていた。

 真正面にいたルイズも、突然の事に面食らいながらなるほどと頷くしかなかった。

「それにしても盗賊騒ぎって?」

 ルイズの問いに先程よりは声のトーンを落として女性兵士は答える。

「土くれのフーケと言う盗賊がこの辺りに出没しているらしく、それに感化されたのか、

貴殿を襲った様な輩も増えているのです」

「なによそれ! 迷惑な話ね!」

「えぇ、全くであります!」

 二人はうんうんと頷きあった。

「ですが、兵達の頑張りもあって今はそのフーケと残り一人以外は捕えることが出来ま

した」

「そこまで来たんなら、そのフーケとか言う奴も、その残った一人も捕まえなさいよ」

 ルイズの言葉に少し顔を歪めながらも、申し訳ない。と軽く頭を下げる女性兵士。

「ごもっともではありますが、奴等一筋縄ではいかないのです。土くれのフーケは土の

178 第13話

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トライアングル以上、残りの一人は風のトライアングル以上ではないかと報告に上がっ

ておりまして、我等の隊長でも捕らえられるかどうか……、といったところなのです」

「え? あんたが隊長じゃないの?」

 その言葉に手と首をブンブンと振りながら、女性兵士は全力で否定する。

「とんでもない! 私は隊長が居ない間のまとめ役ではありますが、実力で言うと、隊長

とは天と地ほど差がありますよ! 隊長は我々の誇りであり目標であります!」

 何やら振れてはいけない所を振れてしまったのか、女性兵士は少々暴走気味に言葉を

続ける。

 そんな彼女にストップと言えるわけもなく、顔を軽く引きつらせるルイズであった。

「隊長はメイジ殺しと言われるほどの腕前であり、与えられた使命を確実に達成してき

ました。そんな隊長のお仕事の妨げにならぬよう我々が常日頃隊長の書類仕事を──」

「おう! ちょいとお邪魔するぜ!」

 止まることなく話したてる女性兵士の言葉を野太い男の声が遮った。

 助かったと心の中でルイズは安堵しながら、声の方を振り向くと次は別の意味で息が

止まりそうになる。

 おそらく声を出したであろう人物がいかにも犯罪者的な強面の筋骨隆々な大男であ

り、その肩には気絶しているか死んでいるのかわからないが、ピクリとも動かない男が

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担がれていた。

「おや? 花屋の御主人、如何なされたか?」

 花屋? どう見ても違うだろう。と、言いそうになるもなんとか飲み込みつつ、彼等

の会話にルイズは耳を傾ける。

「おぉ、嬢ちゃん! また良い生花が入ったから見に来なよ! 安くしとくから!」

「ありがとうございます。それは是非。それで、ここに来た要件は?」

「おう! そうだった。こいつだよこいつ!」

 花屋の主人は肩に乗せていた男をドサリと床に転がす。ルイズがその転がされた男

の顔を覗き込むと、思わず声を上げた。

「あぁ! こいつよこいつ! 私から財布を盗ったのは!」

「何だ、貴族のお嬢ちゃんもこいつにやられてたのか! 捕まってよかったな!」

 ガハハと豪快に笑う花屋の主人に女性兵士が尋ねる。

「まさか、御主人が捕まえたのですか?」

「いんや、俺じゃねぇよ、こっちの嬢ちゃんだ」

 そう言うと、その巨体を動かして隅へと移動する花屋の主人。その後ろには、現在の

名の通りプラチナブロンドが映えるレナスが立っていた。

「プ、プラチナ! あんたまさか……!」

180 第13話

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 レナスは懐からルイズの財布を取り出すと、ルイズへと手渡した。

「中身は見ていなから確認しておけ」

 レナスから財布を受け取ると、ルイズは財布の口を開けて中身を確認しだした。

「いやぁ、びっくりしたよ! 盗人を捕まえたから運ぶのを手伝ってくれなんていきな

り言われたからな! 半信半疑に見に行ったら男が路地裏でのびてるもんだから更に

驚いたもんだ!」

 花屋の主人の言葉を余所に、女性兵士はレナスへと近寄り感謝の言葉をかける。

「賊の捕縛、誠に感謝いたします。奴を捕らえるのに我々も手を焼いていたのですが、こ

れほどあっさりと捕まえることが出来るとは、さぞ高名な騎士だとお見受けしますが、

名前を伺っても宜しいでしょうか?」

 まるでマニュアルのような褒め方ではあるが、レナスは嫌な顔一つせず、今の自身の

名前を口にする。

「プラチナだ」

 女性兵士が名前に聞き覚えがなかったのか、プラチナ……。と小さく復唱するも、直

ぐに手を差し出し握手を求めてきた。

「プラチナ殿ですね、改めてご協力感謝いたします」

 感謝の証として握手を求めるものなのかと考えながらも、無下にするわけにもいか

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ず、レナスはその手を握り握手を交わした。

「構わないさ。それと御主人、小間使いのような扱いをさせて悪かったな。協力感謝す

る」

 レナスの言葉に隅に居た花屋の主人はまたも豪快に笑う。

「良いってことよ! だが次は客として来てくれ! 安くするぜ!」

 そう言いながら、邪魔になるし店に戻る。と、言い残し花屋の主人は衛兵所を去って

いった。

「では、私達も失礼する。ルイズ。行くぞ」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

 ずっと財布の中身を確認していたのか、わたわたと財布を仕舞いながら、出て行こう

とするレナスの後を追う。

「あぁ! プラチナ殿少々お待ち下さい!」

 ルイズの呼び止めには止まらなかったものの、女性兵士の呼び止めにはピタリと足を

止め静止する。

 そしていきなり立ち止まったレナスの背にボフリとルイズが顔をうずめるようにぶ

つかった。

 女性兵士はバタバタと裏手の方へへ行っていくと、直ぐに少々膨らんだ革袋を手に

182 第13話

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戻ってきた。

「これを、奴にかけられていた懸賞金です。被害にあった者達から寄せ集められたもの

なのでいくら入っているかわかりませんが、どうぞお受取りください」

 そう言われて女性兵士から革袋を受け取ったレナスは、感謝の言葉を口にすると、背

中を小突き続けるルイズと共に衛兵所を出て行くのであった。

    数刻後、出払って行った兵達もあらかた戻り始めた頃、マントを羽織った、とある一

人の女性騎士が衛兵所へと顔を出した。

「今戻った。盗賊騒ぎの方は何か進展はあったか?」

「あぁ、隊長! おかえりなさい! 実はですね──」

 この後、とある一人の女性騎士にプラチナと言う名前が深く刻まれることとなった。

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第14話

  衛兵所を後にしたルイズ達は再び大通りを歩きながら武器屋を目指す。

 変わった点としては、財布はレナスの懐にしまわれず、先程受け取った懸賞金と共に

腰に吊るされていることだけだ。

「懐に仕舞ったとしても盗られる物は盗られる。もしまた盗られたとしても取り返すこ

とが出来るのだから構わんだろう? それにその度にスリを捕まえれば、城下町の平和

にも繋がる」

 と言うレナスの言葉にルイズは渋々ながらも首を縦に振るほかなかった。

 ルイズを先頭に二人は大通りを外れ、先程のような狭く薄暗い路地裏へと入って行

く。

 ゴミや汚物が散乱し、それらの悪臭が鼻を突く。ルイズはムッと顔をしかめながら

も、それらを踏まぬように先へと進む。

 小さな十字路に出たところで、ルイズは下に向けていた視線を上へと向け、あたりを

見回す。

「ピエモンの秘薬屋の近くだって聞いてたから、多分この辺りなんだろうけど……」

184 第14話

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 それぞれの店の上に掲げられている、看板を一つ一つ確かめながら、武器屋を探す。

「あ、あった、多分アレね」

 ルイズが指差す方には、銅で作られている剣の形を模した看板がかけられていた。

 足元に気をつけながら、店先の石段を上り、武器屋であろうその店の扉を開け、二人

は中へと入って行った。

 路地裏に居を構えてあるからか、時刻は午後へと差し掛かろうとしている時間にもか

かわらず、店の中は薄暗く、店内に居たのは店主であろう、五十路位の男一人であり、他

の客は皆無であった。他に何か居るとすれば、天井の片隅でせっせと自身の巣を作って

いる、小さな蜘蛛と、乱雑に積み込まれた武器の中に感じる不思議な気配だけだった。

 あの中に何か居るのだろうかと、横目で観察しながら店主であろう男の元まで進む。

 店主らしき男は店に入ってきた二人を怪しげに観察するような目付きで眺めていた

が、ルイズの首元にある五芒星の描かれた紐タイ留めに気付くと、警戒するような声で

話しかける。

「これはこれは、貴族様方、うちはまっとうな商売をしておりますぜ。お上に目を付けら

れるようなことはこれっぽっちもやってはおりませんよ」

 どうやら店主はルイズ達を視察に来た、税関か何かと思ったようで、身の潔白を口に

するとさっさと帰れと言いたそうな目をこちらへと向けてきた。

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「そんなつもりで来た訳じゃないわ。客よ」

 腕を組んだまま答えるルイズのその言葉に店主は目を見開く。そして今の心情をそ

のまま口に出すように口を開いた。

「こりゃ、おったまげた! 客でしたかい!」

 相手が金を落としていってくれる客だとわかると、店主はニンマリと笑い、久々の収

入だと頭の中で皮算用を始めた。

「それで、本日はどのようなご入用で?」

 揉み手をしながら訪ねてくる店主にルイズは軽く嫌悪しながらも、レナスの方へ顔を

向けながら答える。

「彼女に合う剣を見繕ってちょうだい。選ぶのは彼女に任せるから、適当に持って来て」

 ルイズの言葉に店主は、レナスを品定めするかのように眺めると、いそいそと奥にあ

る倉庫の方へと姿を消した。その際に、店主の謀略の独り言がレナスの耳に届いていた

が、レナスはそれを無視することにした。

「これなんてどうでしょう?」

 そう言いながら倉庫から戻ってきた店主が手にしていた物は、刺突を得意とするレイ

ピアの類であった。

 使えなくはないのだが、これを得意とした仲間のようにまでは上手く扱えない。やは

186 第14話

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り自身が一番使い慣れている形の剣が欲しい。

「店主よ、すまないが、一般的に衛兵達に使われているような剣はないか?」

「衛兵達に使われている剣? 確かにうちで卸した物なんでありまさあ。少々お待ち

を」

 そう行って再度倉庫へと姿を消す店主。倉庫の中を熟知しているのか、倉庫に入って

数秒もしないうちに店主は戻ってきた。

「これでさあ、ただし一般的な物なんでそこまで良い物ではですぜ? 良くも悪くも普

通って言ったところでさあ」

 店主が持って来た物は町中の衛兵達が腰から下げていたものと全く同じものであっ

た。

「触っても問題ないか?」

 レナスの問いに、どうぞ、と店主は返しながらレナスに剣を渡す。

 それを受け取ったレナスは剣を鞘から中程まで抜刀し、刀身を眺める。

 店主の言う通り、良くも悪くもない平凡な剣なのだろうが、ミッドガルドで一般的に

使われている剣より少々弱い位と感じるくらいか……。この剣が一般的であるのであ

れば、剣や鎧といった武具はそこまで重要視されていないのだろう。

 だが、今の私が使うとしたら丁度良いくらいか。

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「なるほど、確かに良くも悪くもないな」

「でしょう? でいかがなさいますか?」

 店主の問いかけにレナスは、鞘に剣を収めながら、これを──。

「ちょっと! そんなみすぼらしい剣にするの!?」

 貰おうか。とレナスが口にする前にルイズが口を挟んだ。

「私のパートナーとして側に居るのよ!? もっと綺麗で見栄えがいい剣にしなさい!」

 任せると言っておきながら、自分の要望を勝手に押し付けてくるルイズに店主もレナ

スも困り顔になる。

「ですが、お嬢様、お連れの方がこれで良いと言っておられますし、先程は任せると──」

「そんなことはいいから、この店で一番高価で見栄えの良い奴を持って来なさい!」

 店主の言葉など聞く耳を持たないといったような態度でレナスは店主を怒鳴りつけ

る。

 すごすごとまた倉庫へと入っていく店主が、行き際に悪態をついていたが、それもま

たレナスの耳に届いており、仕方のない事だ。と、今度はあえて聞き流した。

 次に店主が戻ってきた時、その手の中には、小柄な人間の背丈程ある、大剣を抱えて

いた。

 見たところ、宝石も散りばめられており、刀身は鏡のような光沢を持っていた。

188 第14話

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 武具に関しては素人であるルイズは、小さく賞賛の声を漏らしていたが、レナスの目

から見ると、その剣は些か綺麗過ぎていた。

「これなんてどうでしょう? 我が店に置いてある中で最も高価で見栄えの良い一振り

でさあ。なんてったってこいつは、かの有名なゲルマニアの錬金術士、シュペー卿が鍛

えた物で魔法もかかっております。こいつなら岩だろうが、鉄だろうが何でも斬ること

できまさあ。どうです? これなら文句はありませんよね?」

 見栄えも気に入ったのかルイズは満足そうに頷くと、じゃぁ、それを──。

「待て、その前にそれを持って見ても良いか?」

 ちょうだい。とルイズが言う前に今度はレナスがルイズの言葉に口を挟んだ。

「へぇ、構いませんが、丁寧に扱ってくだせえ」

 そう言いながら渡してくる店主から大剣を受け取ると、ギーシュの剣を見た時と同様

に、さも調べてるかのように軽く叩きながら、持ち手の方で神力を流し、内部を解析す

る。

 今の自分でも振るえなくはないのだが、やはり仲間である重戦士達と比較すると、練

度は落ちる。

 それにこいつは──。

 解析を終えた、レナスは感謝の言葉を述べながら、店主へと剣を返す。

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「良い剣でしょう? 私もこれほど良い剣は余り見たことがありません。で、いかがな

さいますか? お嬢様の方はこれをご所望ですが、お連れ様の方もこれで良いですかい

?」

 もう既に買う物は決まっただろうとばかりにニタニタと笑う店主に、レナスは答え

る。

「いや、やはり先程の剣を貰おうか」

 期待していた言葉とは違った言葉に店主もルイズも面食らったような顔をする。

「そ、それはどういった理由で?」

 既に決まった買い物だと思っていた店主は、レナスの答えにヒクヒクと口元を引きつ

らせ、それと同じように声も引きつらせながら質問する。

「その大剣が、先程の剣より劣るからだ」

 レナスに言葉に目眩のような衝撃を受ける店主。

 この店一番の大剣が、衛兵達が使う一般的な剣に劣る? そんなバカな、と頭を抱え、

嫌なものを払うかのように頭を振る店主に、レナスは更に続ける。

「剣とは敵を殺傷する為の武器だ、宝石などは不要。あったとしても一つか二つ、それも

魔力などが込められたものが望ましい。しかしそれに付けられている宝石類はどれも

見栄えだけの為に付けられたものだ。更にそいつの刀身と柄は別で作られたものらし

190 第14話

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い、剣を弾いた時、刀身から伝わる振動が柄に響き難かった。これでは岩や鉄を切るど

ころか、力任せに振るだけで刀身が柄から外れてしまうだろう」

 どうしてそこまで明確な答えが出せるのかと言いたげな目を向けてくる二人に、レナ

スは自身の目を指しながら答える。

「これでも旅をしてきた中で様々な武具を見てきた。魔剣、神剣などと謳われる物もな。

だから物を視る眼は持ち合わせている」

 レナスの言葉に決して小さくない疑問を残しながらも、ルイズは彼女ならありえるの

かも、と無理矢理納得した。

 だが店主はまだ納得出来ないのかレナスへと突っかかる。

「しかし! ここにシュペー卿の名が! ゲルマニア一番の! 錬金術士の!」

「確かに名はあるが、刀身と柄は別物だと言ったはずだ。柄は本物かも知れんが、刀身は

偽物だ。実用性は皆無。儀式用剣として使うなら用途はあるだろう」

 それでも未練たらしく、大剣を指差しながら喚く主人に、レナスは事実だ、と伝える

と身体の力が抜けたのか、よろめきながら椅子へと腰を落とした。

 それでもまだその手には大事そうにその大剣が抱えられていた。

「もう良いか? では先程の剣を──」

「はっはっはっ! ざまあねえな! 大事に大事にしていた剣が俺よりもオンボロだと

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わな! こりゃ笑いが止まらねえ!」

 貰おうか。と言う前に、今度はレナスの声を低い男のような声が遮った。

 今日はやけに口を挟まれるな、と感じながらも、レナスは後ろを振り返る。

 だが、そこに人影はなく、あの不思議な気配を感じた辺り。乱雑に積み込まれた剣や

槍が置いてあるだけだった。

「デル公か……。今はおめえの相手をする余裕もねぇよ、黙ってろ」

「デルコウ?」

 気配を感じる辺りに近づき、乱雑に詰め込まれた武器の中からレナスは一本の剣を引

き抜いた。

「喋ったのは貴様か?」

 引き抜いた剣がカタカタと柄を鳴らしながら答える。

「おう! おめえ、いい眼を持ってるな! おでれーた! 久しぶりに面白い奴が来や

がったぜ!」

 一人、として認識して良いのか、喋る剣は今も嬉しそうにカタカタと柄を鳴らす。

「店主よ、こいつは?」

 未だに喋り続ける剣を横目に店主に問いかける。

 まだ立ち直れないのかうなだれたままの店主が力なくもそれに答える。

192 第14話

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「あぁ、そいつあ、意思を持つ魔剣、インテリジェンスソードのデル公でさあ。剣に意思

をもたせるなんてその酔狂な魔術師が始めたのかわかりやせんが、そいつはかなり口が

悪くてね、来る客来る客に喧嘩をふっかけましてね……。私の頭痛の種なんでさあ」

「意思を持つ魔剣か、流石の私もこれは見たことがないな」

 感心しながら、まじまじとデル公と呼ばれる魔剣を観察する。意思を持つ故に、安易

に神力は流せない。

 あの大剣と長さは同じだが、刀身は細身、錆が浮いてはいるがこれなら今の私でもな

んとか練度を落とさず振れるだろう。

 色々と考察しているレナスであったが、ふとあることに気が付いた。

 先程までうるさいくらいにしゃべっていたこの魔剣がピタリとその言葉を止めてい

たのだ。

 誤って浄化でもしてしまったかと思っているレナスにデル公の柄が動き、声を発し

た。

 だがそれは、次にレナスの思考を止めるものとなった。

「おめえ、一体なにもんだ?」

 一瞬だがその言葉に思考を止められたレナス、だがその言葉の意味を理解すると、柄

の所に顔を近づけ、小さな声で囁く。

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「貴様……。私が解るのか?」

 迂闊だった、手にした相手の情報を読み取る力があるとまで考えずに手にしたことを

レナスは後悔した。

 威圧を込めたような声でデル公に話しかけると、まるで人間のように少々恐怖したよ

うな気配を出しながら、デル公が答える。

「い、いや、解るっていうか、俺は確かに手にした相手を少しばかり読み取れるが、おめ

えが人間ではあるが人間としては綺麗過ぎると感じただけだ。おめえの正体までは解

んねえ」

 レナスに合わせるように小声で答えるデル公に、完全に正体がバレなかったことに少

しばかり安心したレナスは、デル公に言葉を返す。

「デル公、このことは黙っていて欲しい。その代わり貴様を買ってやる」

「おう、わかった。おめえについて行けば退屈はしなさそうだしな。後俺の名前はデル

公じゃねえ。デルフリンガーだ。覚えとけ」

 他の者に聞かれないよう小声で契約を結び、レナスはデルフリンガーから顔を離す

と、店主へと話しかける。

「店主よ、先程の剣と、こいつを貰おう」

「へえ、そりゃ構いませんが……。そいつをですかい?」

194 第14話

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 少し立ち直れたのか、最初のような態度で受け答えする店主にレナスは頷く。

「ちょっと、私は一本しか買わないわよ。それに喋る剣なんてなんか嫌よ。それに一本

あれば十分じゃないの?」

 また不機嫌になっているのか、不貞腐れたような声でルイズが反論する。

「ルイズには先程の剣を買って貰う。これは私が買おう。それと武具は消耗品でもある

からな、どちらかが壊れてしまった時の予備と考えてくれ」

 レナスの答えに嫌な顔を崩さないルイズだが、それなら良いかと了承するルイズ。

「で、いくらなの?」

 ルイズが店主に値段を聞くと、店主はそれぞれを指差しながら金額を答える。

「こっちのやつが金貨で百五十、デル公が百で結構でさ」

「……なんであっちの方が安いのよ?」

「こっちにとっちゃ厄介払いみたいなもんでさ、嫌なら、お嬢様があっちの金額をお支払

いになりますか?」

 金貨五十枚の差はでかいが、なんとなくあっちの支払いをすると負けた気になる、と

思ったルイズのプライドがそれを許しはしなかった。

 ルイズは嫌々ながらも、その提示された金額をカウンターの上に並べる。

 それと同じく、レナスも先程貰った懸賞金からそれだけの金額をカウンターに置い

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た。

 店主がそれを間違いがないか数え、確かにあることを確認すると、確かに。とだけ言

い、デルフリンガーの鞘であろう物ををレナスへと渡す。

「もし、そいつがうるさければ、こいつをその鞘に押しこめば黙りますんで、使ってくだ

せえ」

 これに入れておけば黙るのであれば、何故最初からこれに入れておかないのかと言う

疑問があったが、黙ってレナスはその鞘を受け取った。

 その後、店主は毎度、とだけ残して奥の方へふらふらと引っ込んで行った。

 未だにその腕の中にはあの大剣が虚しい輝きを放ちながら、大事そうに抱えられてい

た。

 その後ろ姿を見送った、レナス達は、そこから一言も喋ることなく、武器屋を出て行

くのであった。

  「くっそう、今日は最悪だ……」

 レナス達が去った後、店主はあの大剣をどうしようかと悩みながら店のカウンターへ

と戻っていた。

196 第14話

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 しかし、その手には先程の大剣はなく、代わりに酒の入った一本の瓶が握られていた。

「あぁ、糞! そのあの女がいう通り、儀式用剣として売るか? いや、あいつみたいに

剣を視る眼があるやつはそうそういやしねぇ。馬鹿な貴族にさっきみたいにいやあ、喜

んで買うやつがいるだろう。だがあの女が何処でこの事を喋るか分かったもんじゃ

ねぇ、もし買った貴族にこのことが耳に入ったら、最悪殺されちまう……。やっぱり儀

式用剣として……。いやそれじゃあ安く買い叩かれちまう。どうすれば……」

 うなだれながら、悩み続ける店主を余所に、店の扉が開いた。

 ハッとなった店主は店先に閉店の看板をかけるのを忘れた自分に悪態をつきながら、

入ってきた客もよく見ずに怒鳴る。

「今日は店じまいだ! すまねぇが帰ってくれ!」

「あら? 貴族にそんなこと言っていいのかしらね?」

 貴族と言う言葉に反応した店主は、バッと顔をあげる。

 そこには対極した髪色を持つ二人の女が立っていた。

 青色の髪をした背丈の低い幼さを感じさせる少女と、赤い髪をした肉付きの良い、女

の魅力を醸し出す少女であったが、どちらもマントと首元の五芒星の紐タイ留めから貴

族だということが解る。

 冷や汗を掻きながらも、先程の失態を取り返すかのように愛想笑いをしながら揉み手

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をする。

「いやはや、失礼いたしました。まさかまた貴族のお客様が来られるとは思っても見な

くて……」

 その言葉に、赤髪の少女は、フーンと軽く返していたが、青髪の少女は店主の前へと

歩きつめる。

「何を買った?」

「へっ?」

 青髪の少女がいう言葉が理解出来ず、店主はマヌケな声を漏らす。

「さっきの貴族達、何を買った?」

 再度話しかける青髪の少女の言葉に主語が付いたおかげで、店主はやっと理解でき

た。

「へ、へえ、さっきの貴族のお客様なら、衛兵が持つような一般的な剣を一本と、ボロボ

ロの大剣を一本お買い上げなさいましたが?」

 その言葉に青髪の少女が小さく頷くと、また口を開いた。

「私に合う剣はある?」

「……なんですって?」

 青髪の少女の言葉に聞き間違いではないかと、再度聞き返す店主。

198 第14話

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「私に合う剣を見繕って」

「まさか、貴族様が剣をお使いになるのですかい!?」

 驚く店主に青髪の少女はコクリと頷く。

「貴族様、私が言うのもなんですが、貴族様が剣をお使いになる必要は無いかと……。確

かに陛下直属のグリフォン隊なんかは杖として仕えるレイピアなどを装備しておりま

すが、杖にも使えないただの剣をお持ちになる必要は──」

 店主の言葉がピタリと止まる。それもそのはず、青髪の少女が手にしていた、杖を店

主の鼻先へとピタリと狙いをつけたからである。

「何度も言わない、私に合う剣を用意して」

「ハッ! ハイ! ただいま!」

 ドタバタと奥に逃げるように、倉庫へと駆けこむ店主を見ながら赤髪の少女が青髪の

少女へと話しかける。

「ねぇ、本気で剣を買うつもり? 本を買わずに剣を買うって、変なことするわね」

 赤髪の少女の問いかけに青髪の少女は答えなかったが、それが普通なのか、赤髪の少

女もそれ以上話しかけず、詮索もしなかった。

 その後、店主が小柄な少女でも十分に扱える、片手剣を恐る恐る提示し、青髪の少女

はそれを購入すると赤髪の少女と共にさっさと店を出て行った。

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 店主はその二人の後ろ姿が見えなくなるのを確認してから、急ぎ閉店の看板を店先に

かけ、自身は自室へと駆け込むと、酒を煽りながら、ベットに潜り込む。

 今日は厄日だ……。と弱々しく呟くと、枕を涙で濡らしたのだった。

200 第14話

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閑話1

  武器屋を出た二人は、そのまま帰るのは惜しいと言うルイズの提案を受け、レナスが

それを了承。夕刻まで城下町を散策することとなった。

 二人は、大通りを歩きながら、目に付いたお店へと足を向ける。

 最初に二人が入ったお店は、服屋であった。

 実は服屋へ行きたいと言ったのはレナスである。

 ルイズは学院に居る間は、制服を着る義務があるが、レナスにはそれがない。

 ほぼ、着の身着のまま召喚された、と言うことにしてあるゆえに他の服へと着替える

服がないのだ。

 勿論、レナスには浄化の力があるため、例え、一生同じ服を着続けたとしても、その

浄化の力のお陰で、洗濯された洋服よりも清潔な服を着続けることが出来る。

 だがそのことを知らない周りからして見れば、いつ洗濯しているかもわからない服を

ずっと着続けているようにしか見えないのだ。

 無論、学院の者から数着借りてはいるのだが、いつまでも借りているわけにもいかな

いと言うレナスの判断からである。

201

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 その貸し出された服の中には、学院の制服や、使用人用のメイド服なども混じってい

たのだが、色々と問題になりそうだった為、それらは試着されることなく、レナスの部

屋に備え付けられていたタンスの奥底へと収納されることとなった。

 その時どこからか舌打ちのような音が聞こえた様な気がした、とレナスは語った。

「ルイズ。私の買い物に付き合わせてしまってすまない」

 淡々とした言い方ではあったが、少し申し訳無さそうに言うレナスに、ルイズはさも

気にしてないように返事を返す。

「構わないわよ。自分の使い魔にいつまでも同じ服を着せ続けているなんて、それこそ

ヴァリエール家の沽券に関わるわ。それに──」

 ルイズはレナスに顔を向けるとまるで花が咲いたように笑った。

「私だって女の子よ。買う買わないにしても、可愛い服を見るだけでも楽しいものよ」

 そう言うと、ルイズは小走りになりながら、レナスより先に店内へと入っていった。

 それを見たレナスは、例えどの時代、どの世界であろうと少女と言うのは、この手の

買物が好きなのだなと、軽く微笑み、ルイズの後を追うように店内へと足を進めた。

 店内は先程の武器屋とは打って変わって綺羅びやかなものであった。

 貴族様御用達といった所であろうか、どの服も見たところ一級品であり、店内に居る

客もそれに負けず劣らず、豪華な服を着ていた。

202 閑話1

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「……ルイズ、入って直ぐで何だが、もっと庶民的な店にしないか?」

 店先からはただの服屋としか見て取れなかったので、入るまでその店がどういうお店

なのかレナスにはわからなかったのだ。

「えー、なんでよ?」

 レナスの言葉に少し不満気に返すルイズ。

「いや、私にはここにあるような豪勢な服は似合わない。もっと質素な物で良い」

 仲間のエインフェリア達が聞けば、ヴァルキリーの戦闘服も十分豪華な気もするが

な、と返されそうだが、今のレナスの姿は町娘のそれであり、神化時の姿を知る者は今

この場には誰も居ない。

 そんなレナスの言葉にルイズは呆れた顔をする。

「なによそれくらい。別に豪勢な服を買えなんて言ってないわよ。それなら別にあんた

が気にいるシンプルな服をこの店から選べば良いだけの話じゃない。ほら! 行くわ

よ!」

「ル、ルイズ!? わかったからそんなに引っ張るな!」

 ルイズは何故か嬉しそうにレナスの手を強引に引きながら店内の奥の方へと更に足

を進めるのであった。

 

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 それから時間にして約二時間。

 ルイズにされるがままに服をあれやこれやと試着させられながらも、値段もそこそこ

のレナスに合う、いま来ている服に酷似した白や薄い水色のような清らかな色をした服

を数着購入した。

 その後も、別の店に行くも、何かとルイズがレナスに絡みながら買い物を続けること

となった。

 買い物を終えた二人は、荷物を学院まで届けてくれる所に荷物を預け、休憩のために

とテラスのあるカフェに寄っていた。

 テラス席に着くも、注文を終えたルイズは少し席を外すとだけ言い残し、一人店内へ

と入っていった。

 一人になったレナスは、だらしなくも椅子の背もたれへとその身を預けた。

「……何故だろうか。不死者と戦うよりも疲れた気がするな」

 大きく深呼吸するように息を吸い、軽く吐き出す。

 レナスは先程までの買い物を目を閉じて思い出す。買い物をしている時のルイズは、

学院に居る時よりも楽しげに、普段見せない笑顔を常にしていたような気がする。

 やはり勉学をしている時より、このような羽を伸ばせる時は、皆少なからず笑顔にな

るのだろうなと思慮する。

204 閑話1

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「待たせたわね。プラチナ? どうしたの? もしかして疲れちゃった?」

 ルイズの声に反応し目を開けると、店内から戻ったルイズが対面の席に腰掛けてい

た。

「あぁ、少しな」

 背もたれから背を離し、レナスは姿勢を正す。

「でも、楽しかったでしょ?」

 今も楽しそうに笑うルイズに、レナスもつられて微笑む。

「そうだな。このようなことは初めてだ」

 今まで、アース神族の主神であるオーディンに駒として使われてきたレナスに、この

ような娯楽と言った物事は初めてだった。

 生前も遊ぶ様な事は一切せず、家事をこなしてばかりだったなと、レナスは感慨にふ

けていた。

「でしょう? 私も久しぶりに楽しめたわ」

 フフッと笑うルイズではあったが、直ぐにその顔に影がさした。

「私もね、学院に入学した当初までは、こんな風に遊べる友人が居たのよ。でもね、私が

魔法が使えないと知ると、周りは皆私から離れていったわ。落ちこぼれなんかと一緒に

いれないなんて言ってね。魔法一つ使えないだけで、友人と言えた人が一人も居なく

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なっちゃったのよ、そこから私はひとりぼっち……。絡んでくるのは、私を馬鹿にする

奴等とあのツェルプストーの色ボケくらいかしらね」

 淡々と話し始めるルイズの言葉をレナスはただジッと聞くしかなかった。

「それから一緒に買物なんて行ってくれるのは家のメイド達くらいだったわね。でも

ね、それってただの買い物なのよ、遊びなんてもんじゃなかったわ。私があれこれ選ん

でも、結局私の気分を損ねないように、お店の店員なんかみたいに、良いですね、お似

合いです。しか言わないのよ。そんなのつまらないわよ」

 顔を伏せ、言葉が徐々に弱まるルイズ。

「それとね、私には二人の姉様が居るのだけれど、一番上のエレオノール姉様は私がお洒

落に興味を持つ頃には、もう忙しくて遊んで貰えなくてね、ちいねえさま……。あー、

えっと、二番目の姉様なんだけど、身体が弱くてね、なかなか一緒に買物なんて出来な

かったのよ。だからね──」

 顔を上げたルイズは少し目を赤くしていたが、それに負けないような笑顔で笑った。

「ありがとう、プラチナ。久しぶりに本当に楽しかった」

 それだけ言うと、照れ臭かったのか対面している店が気になるからと、そそくさとそ

の場を離れて行った。

 小走りで離れていくルイズの背中を見ながら、レナスはルイズに対して考えを改めて

206 閑話1

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いた。

 貴族としてのプライドが高く、例え孤独であっても屈しない姿を学院で見てきたが、

根は寂しがりやで優しい歳相応の少女なのだ。

「どんなに気丈な立ち振舞をしていようと、ルイズも一人の少女なのだな」

 やはり、あのエインフェリアに似ているとレナスは再度思う。

 似ているからこそ、幼さゆえの危うさを知っているレナスは、今暫く彼女の側で彼女

を守る決意を固めるのだった。

 ルイズの後を追うべく、カフェの店員に代金を支払い、レナスも席を立った。

  ルイズが眺めていた店は、どうやら見世物小屋に近い風貌をしており、様々な籠が所

狭しと店先に並べられていた。

 籠の中に居る生き物達を物珍しそうに眺める大人達と、その子供であろう少年少女達

がはしゃいでいるのが見て取れる。

 それに交じるようにして、ピンク色のブロンド髪が栄える我が主人もその子等と一緒

に籠に入れられている生き物達を眺めていた。

 ルイズの後ろに近寄り、肩を軽く叩く。

「あっ、プラチナ! 見て見て! このこ可愛いのよ!」

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 もう既に目の赤みはなく、物珍しい生き物達を見ていたルイズが、両手で何かを隠す

ように持っていた。

「東方に生息している、愛玩用の小動物らしいんだけど、これがね、可愛いの!」

 そう言って、レナスの前にズイッと手を突き出すと、手で蓋をしていた手を開いた。

   ルイズの手の平に居たのは、夢の中で対峙した、あの小さな悪魔がいた。

  「このこね、ハムスターって言うらしいの!」

 嬉しそうに話す、ルイズではあったが、その手の中に居るあの小さな悪魔と目が合っ

たレナスはその身を完全に硬直させていた。

「プラチナ? どうしたの?」

 ルイズの言葉にハッとなり、レナスは一気に距離を離す。

 突然のレナスの行動に驚いた周りの人達の目は、一斉にレナスへと向けられる。

 だが、そんなことにかまってられないというような、焦りが見て取れた。

「ちょっ、ちょっとプラチナ! いきなりどうしたのよ!」

208 閑話1

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 ルイズの声が届いているかどうかさえ怪しく、冷や汗を流しながら、レナスは腰の衛

兵剣ではなく、背にしていたデルフリンガーに手を伸ばした。

「おっ? どうした相棒? なんか震えてるぜ? 町中なのに一体どうしたって──。

おい相棒、そんな力を込めるの止めてくれないか。いやなんだか懐かしいような気もす

るけど、変な力が俺の腹に溜まっていってるんだが! いや俺剣だから腹なんてないが

よ! 待った待った! マジで破裂する! あ、相棒、マジで止めてくれ! 止めて止

めて!」

 抜刀しようとする女性と言葉を解する剣が物珍しさを呼んでか、見世物かと更に見物

人が集まってきた。

「プ、プラチナ、ちょっと落ち着いて」

 ルイズはハムスターをその手にレナスに近付こうとするが、ルイズが近付いた分レナ

スも下がっているため、一向に近付けない。

「もしかして、プラチナ、このこが怖いの?」

 ルイズの問い掛けに、極僅かにだが、レナスの首が縦に動いた。

「ルイズ、早くそいつを籠に戻して、此方に来るんだ」

 明らかに焦っているレナスにルイズは残念そうにハムスターを撫でながら、もといた

籠に返した。

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「こんなに可愛いのに……」

 ルイズがハムスターを籠に返すのを見届けると、レナスはやっとデルフリンガーから

手を離した。

 デルフリンガーも別の意味で危機を脱したらしく、ゲフゥとだけ言葉を吐くと、鞘に

完全に押し込まれていないのにも関わらず黙りこんでしまった。

 だが、籠に戻されたハムスターは元から籠の中にいた他のハムスター達と合流した

後、そのつぶらな瞳に、怪しい光を灯した。

 そこからが早業であった、ハムスター達は自身らをまるでハシゴのように籠の中で隊

列を組み、下に居るものから順々に籠の外へと飛び出した。

 そしてそのままレナスの方に群となって駈け出したのだった。

「きゃあ!」

 短いながらも大きめの悲鳴を上げたレナスは、襲い来るハムスターの群れに背を向け

走りだした。

「あっ! プラチナ!?」

 突然の事に店主も周りの人達も唖然としていたが、ルイズがレナスを追いかけ始める

と直ぐに店主が逃げ出した奴等を捕まえてくれと叫び、逃げ出したハムスター達は周り

にいた子供達に一匹残らず捕らえられ、籠へと戻されていった。

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 その場から逃げたプラチナに周りの人達は、苦手な動物に好かれてしまう女性なのだ

ろう、という微笑ましい感想を言われていた。

 だが、あの恐怖を知る者にとっては、微笑ましいなどと言う感想はとても残酷なもの

である。

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