PORTFOLIO INSIGHTS 2020 Long-Term Capital …...要旨 •...

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要旨 新型コロナウイルスの感染拡大による経済・市 場への衝撃を踏まえ、当社では初めてLong- Term Capital Market AssumptionsLTCMAの前提条件を一部更新し、臨時改訂版を発行 することとなりました。 新型コロナウイルスの感染拡大が経済・市場 に対してどのような長期的な影響を与えるかは 未だ不透明なため、本稿では足元の資産価格 の急激な変動が、長期的なリターンの見通し ひいてはポートフォリオ構築にどのような影響 を与えるか、という点のみに焦点を当てていま す。 政策当局による一連の行動がもたらす真の意味 合いは、まだ漠然としています。しかし大規模な 財政・金融刺激策の効果とそれに伴う政府借入 の急増は、最終的にはイールドカーブのスティー プ化、株式市場における主導権のシフト、そして 今後数年間の経済的利益の分配方法の変化に つながる可能性があります。 最後に、十数名のシニア・ポートフォリオ・マネ ジャー、ストラテジスト、リサーチ・アナリストか ら、過去の危機を通じて得られた個人的な回想と 洞察を紹介します。 弱気市場や市場の危機は 同じように起こるものではありませんが、歴史の 教訓は今後の金融市場の先行きを考えるのに 有益な視点を提供することができます。 2020 Long-Term Capital Market Assumptions LTCMA 臨時アップデート:新型コロナウイルス – 新たな景気サイクル、新たな出発点 Time-tested projections to build stronger portfolios PORTFOLIO INSIGHTS

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Page 1: PORTFOLIO INSIGHTS 2020 Long-Term Capital …...要旨 • 新型コロナウイルスの感染拡大による経済・市 場への衝撃を踏まえ、当社では初めてLong-Term

要旨

• 新型コロナウイルスの感染拡大による経済・市

場への衝撃を踏まえ、当社では初めてLong-Term Capital Market Assumptions(LTCMA)

の前提条件を一部更新し、臨時改訂版を発行

することとなりました。

• 新型コロナウイルスの感染拡大が経済・市場

に対してどのような長期的な影響を与えるかは

未だ不透明なため、本稿では足元の資産価格

の急激な変動が、長期的なリターンの見通し

ひいてはポートフォリオ構築にどのような影響

を与えるか、という点のみに焦点を当てていま

す。

• 政策当局による一連の行動がもたらす真の意味

合いは、まだ漠然としています。しかし大規模な

財政・金融刺激策の効果とそれに伴う政府借入

の急増は、最終的にはイールドカーブのスティー

プ化、株式市場における主導権のシフト、そして

今後数年間の経済的利益の分配方法の変化に

つながる可能性があります。

• 最後に、十数名のシニア・ポートフォリオ・マネ

ジャー、ストラテジスト、リサーチ・アナリストか

ら、過去の危機を通じて得られた個人的な回想と

洞察を紹介します。 弱気市場や市場の危機は

同じように起こるものではありませんが、歴史の

教訓は今後の金融市場の先行きを考えるのに

有益な視点を提供することができます。

2020 Long-Term Capital Market AssumptionsLTCMA 臨時アップデート:新型コロナウイルス – 新たな景気サイクル、新たな出発点

Time-tested projectionsto build stronger portfolios

PORTFOLIO INSIGHTS

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2 LTCMA臨時改訂:新型コロナウイルス-新しいサイクル、新しい出発点

LTCMA臨時改訂:新型コロナウイルス-新しいサイクル、新しい出発点 John Bilton、CFA、マルチ・アセット・ソリューションズ、グローバル・マルチ・アセット責任者

LTCMA臨時改訂:概要

当社がLong-Term Capital Market Assumptions(LTCMA)を

発行し始めてから四半期世紀近くになるが、今回初めて年1回

の通常改訂以外で、いくつかの資産クラスの期待リターンを更

新するという結論に至った。まず明確にしたいのは、これは分

析の基礎となる前提条件や見通しを、全て更新するものでは

ない。前提条件や見通しを全て更新したものは、例年通り11月に第25回目となる年次報告を行なう予定である。しかしなが

ら、2020年前半の市場の極端な動きや過去の危機、景気後

退を考慮すると、当社としては、現時点でその分析の想定を

現在の市場の状況により合致したものとする必要があるという

結論に至った。1

米中貿易摩擦問題が後退するにつれて2019年後半に見られ

始めた景気楽観論は、今となっては過去の遠い記憶となってし

まったように見受けられる。しかし、振り返れば、世界経済は、

記録的な景気拡大局面の後半、また、力強い上昇相場にあっ

た。そのような中でも、緩和的な金融政策と底堅い企業業績が

あいまって、既に成熟していた景気サイクルはさらに長期化し

た。過去との比較では、稀に見る緩和的な金融政策を背景とし

た継続的な金利低下により、バリュエーションは上昇し、各資

産クラスの期待リターンに対して容赦なく下方圧力がかかって

いた状況にあったと言える。

新型コロナウイルスの感染が確認された際、医学または科学

の世界において、次に何が起きるかを予測した人はほぼいな

かったのかもしれない。急拡大する医療危機の陰で、各国の

政府は人々の健康と経済のトレードオフに直面した。結果とし

て、予想されていた通り人々の健康が優先されたものの、その

代償は、景気サイクルの突然の停止、また、経済政策に対す

る考え方の抜本的な変更というものであった。

今回の期待リターンのアップデート(図表1)では、2020年3月の

金融市場の動きを主に考慮した。これはグローバル株式が過

去に無い早さで強気相場から弱気相場へと大きく転じた局面

である。しかしながら、4月の株価急上昇が示唆するように、明

らかに市場のボラティリティは継続している。正確に市場の状

況に合致させることは依然として困難であるため、当社として

は、長期的なリターン予測が買いのタイミング(エントリー・ポ

イント)によってどの程度変化するかという点についても検討

を重ねた。

1 この分析では、各資産の前提価格を2019年9月30日から2020年3月31日へとアップデートした。これにより、2020年3月の市場の急激な動きを捉えているが、その他の前提条件となる均衡利回り、金利正常化までの期間、株式の均衡評価や利益率などの基礎となる想定はアップデートしていない。これらは2020年11月に予定されているLTCMAの詳細版でアップデートされる予定である。 現在の想定条件の詳細については、「2020年LTCMA」を参照。今回のアップデートは米ドル、ユーロ、英ポンド建ての期待リターンに対して実施されたものであり、ボラティリティや相関係数には適用されていない。

また、当社は、昨今の政策が今後数年間の経済および投資環

境に与える潜在的な影響とポートフォリオへの示唆についても

熟考した。そして最後に、1987年の危機(ブラックマンデー)から欧州債務危機に至るまで、過去の危機から得た個人的な経

験について、十数名の最も経験豊富なポートフォリオ・マネ

ジャーやリサーチ・アナリストに尋ねた。弱気相場や景気後退

に同じように起こるものではないが、これらの経験から見えてく

るモンタージュ写真が今回の危機を乗り切る上で何らかの道

標を示してくれることを期待している。

グローバル株式のリターンが上昇する一方で、グローバル国債のリターンは前回から僅かに低下している。

図表1:2019年9月30日時点と2020年3月31日時点の各資産の期待リターンとその変化

債券 (%、現地通貨ベース期待リターン)資産 9月30日 3月31日 変化

米ドル短期資産 1.9% 1.6% -0.3%

米国短期国債 2.7% 2.3% -0.4%

米国中期国債 2.7% 2.2% -0.5%

米国長期国債 1.6% 0.3% -1.3%

ユーロ短期資産 0.6% 0.6% 0.0%

欧州国債 0.7% 1.0% 0.3%

グローバル国債* 2.5% 2.4% -0.1%

米国総合債券 3.1% 2.8% -0.3%

米国投資適格社債 3.4% 3.8% 0.4%

米国ハイ・イールド債 5.2% 6.9% 1.7%

株式、オルタナティブ資産 (%、現地通貨ベース期待リターン)資産 9月30日 3月31日 変化

グローバル株式* 6.5% 8.1% 1.6%

米国大型株式 5.6% 7.2% 1.6%

欧州大型株式 5.8% 8.2% 2.4%

日本株式 5.5% 6.5% 1.0%

新興国株式* 9.2% 10.5% 1.3%

未公開株式 8.8% 9.8% 1.0%

米国コア不動産 5.8% 6.6% 0.8%

出所:LTCMA、J.P.モルガン・アセット・マネジメント

注:償還期間は、短期国債1~5年、中期国債1~10年、長期国債20年超

米ドル建てコンポジットリターン

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J .P. MORGAN ASSET MANAGEMENT 3

L T C M A臨時改訂:新型コロナウイルス -新しいサイクル、新しい出発点

各資産の期待リターンの変化

今回の期待リターン改訂にあたっては、先ず、2019年11月に

発表した先行きの見通しを変更していない。LTCMAにおける

当社のGDP予想は、国と地域の成長トレンド予測を導く供給

サイドのモデルに基づいている。新型コロナウイルスが今日の

経済活動に大きな影響を与えていることは明らかだが、当社

は、経済の長期的且つ潜在的成長に対する一次的な影響は

現時点ではほとんどないと見ている。簡潔に言えば、コロナウ

イルスに関連した景気後退は、長期的な潜在成長率を大きく

変えるものではないと見ている。確かに、今日展開されている

政策措置のいくつかは、収益率に影響を与える可能性があ

り、これらは11月に予定されている第25回LTCMAで発表する

予定だが、今回の期待リターンの改訂にあたっては、GDP成長率やインフレ率、政策金利の想定は据え置いている。

3月の金融市場では、株価の大幅下落や国債利回りの低下、

クレジット・スプレッドの拡大が見られた。これらを織り込んだ3月末の資産価格をベースに期待リターンを分析した場合、グ

ローバル国債2のそれは30bps低下し、米国ハイ・イールド債

については170bps上昇した。しかし、さらに深く掘り下げていく

と、興味深いニュアンスが浮かび上がってくる。国債利回りの

低下は米国債において顕著であり、期待リターンは米国10年債で70bps、長期国債指数では130bpsそれぞれ低下した。こ

れとは対照的に、欧州国債の期待リターンは30bps上昇して

おり、これはコロナウイルス危機が始まるかなり前から既に見

られていた異常に低い利回りが背景となっている。(図表2)。

各地域で、デュレーションの長い債券の期待リターンはキャッシュの期待リターンを下回っている

図表2:主要債券の期待リターン(米ドル、英ポンド、ユーロ、日本円)と予想

-2%

-1%

0%

1%

米ドル 英ポンド ユーロ 日本円

インフレ率

インフレ率

キャッシュ 債券指数 長期債

債券リターン比較、現地通貨ベース期待リターン、%%

2%

出所:LTCMA、J.P.モルガン・アセット・マネジメント、2020年4月時点。

注: 米国債指数米ドル建てリターン

2 米ドルヘッジ後グローバル国債。

主要な債券の期待リターンと予想インフレ率

クレジットの期待リターンは、クレジットのクオリティと逆の関係

を見せながら、一定程度改善した。これは、3月にクレジット・ス

プレッドの拡大が進んだことと、ハイ・イールド債のデュレーショ

ンが投資適格債に比べて短いことが背景となっている。4月に

は米連邦準備理事会がBB格債券を含む社債を購入すると決

定したが、3月31日の資産価格にはこれは反映されていない。

しかしながら、最近の原油価格のボラティリティやいくつかのセ

クターにおけるレバレッジの拡大など、近い将来にクレジットロ

スの上昇要因となる事象についても、同様に反映していない点

に留意する必要があろう。結果としては、クレジットの期待リ

ターンは上昇しており、場合によっては株式市場のリターンに

近づいている。一方、国債のリターンは低下し、ほとんどの場

合において実質ベースで今やマイナスとなっている。世界経済

が景気後退に入る間もデュレーションへの需要は継続する

が、債券への投資は長期においても逆風となっている。

株式の期待リターンは全般的に100~250bpss上昇した。業績や配

当、自社株買いのリスクに関する最近のニュースフローを踏まえると、

これは一見直感に反するように見えるかもしれない。しかし、仮に短期

的な収益の変動が重要だとしても、LTCMAの株式の枠組みの中で

は、長期的な成長見通しにつながる業績のトレンドに焦点を当ててい

る。特定の地域やセクターでは、短期的に配当支払い削減の圧力が

かかるものと見られるが、このショックの本質は企業の誤った行動の

結果ではない。従って、長期の期待リターンに影響をあたえる長期的・

構造的なテーマにはならないであろうと考えている。

現段階で当社は、現在の景気後退が長期的な潜在成長率に

非常に大きな影響を与えるとは見ていない。政府の財政支出

が機動的かつ大規模に行なわれていることに加え、家計およ

び企業の財務健全性に対する中期的な影響は限定的である。

その結果、業績トレンドと利益率は当社の見通しにおいて概ね

安定している。従って、今回の見通しの主な変更点は資産価格

とバリュエーションに関連したものとなっている。

米国大型株式は、長きに亘って、株式の中でもリターンの高い

資産である。米国大型株式は、前回の景気拡大期を通じて、

市場のクオリティの高さとテクノロジー株への傾斜により、グ

ローバル株式市場を牽引してきた。米国大型株式の期待リ

ターンは3月末時点で5.60%から7.20%に上昇しており、これ

は3月に指数が急落し、バリュエーション等が改善したことを反

映している。これにより、米国株式の期待リターンは、当社が

定義する均衡水準3により近づいている。一方で、他の3つの

地域の期待リターン(現地通貨ベース)は米国よりもはるかに

先を行っており、欧州株式は240bps上昇して8.20%、新興国

株式は90bps上昇して9.60%、日本株式は100bps上昇して

6.50%となった。

3 2019年および2020年のLTCMAにおいて均衡点における期待リターンを示して

いる。株式の場合は、バリュエーション及び収益率の影響を排除した期待リターンである。

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4 LTCMA臨時改訂:新型コロナウイルス -新しいサイクル、新しい出発点

L T C M A臨時改訂:新型コロナウイルス -新しいサイクル、新しい出発点

足元のバリュエーションの改善を背景に、株式の期待リターンは上昇。これはシャープレシオにも影響する。

図表 3: 2020年LTCMAと比較した主な株式のシャープ・レシオ

0.26

0.27

0.36

0.35

0.39

0.39

0.45

0.42

0.00 0.10 0.20 0.30 0.40 0.50

米国大型株

ユーロ圏大型株

日本株

新興国株式

2020年3末時点シャープレシオ  2019年9月末シャープレシオ   2020年3月末期待リターン 2019年9月末期待リターン

5.6%

7.7%

7.2%

9.2%

7.2%

10.0%

8.2%

10.5%

0.0% 2.0% 4.0% 6.0% 8.0% 10.0% 12.0%

米国大型株

ユーロ圏大型株

日本株

新興国株式

出所:LTCMA、J.P.モルガン・アセット・マネジメント、2020年4月時点。シャープ・レシオ=幾何リターン-キャッシュ・リターン)/ボラティリティ。

未公開株式と実物資産の期待リターンの上昇

オルタナティブ資産における金融商品(特に未公開株式ファン

とヘッジファンド)にとって、リターンの最も重要な原動力は上

場株式の期待リターンである。未公開株式(時価総額加重)の

リターンは株式市場の期待リターンの改善を背景に100bps上

昇し、9.80%となった。

また期待されるアルファについては、ヘッジファンドと未公開株

式の両方に対して引き続きやや強気に見ている。直近のボラ

ティリティの高まりは、中期的なアルファ創出の見通しに対す

る確信度をさらにサポートするものとなった。

注目すべきことに、未公開株式のバランスシート上のドライ・

パウダー(待機資金)は、足元の低いバリュエーションでの案

件取得が見込まれるため、これは資金調達コストの上昇という

悪影響を相殺すると考えられる。

コモディティについては、分析の基礎となるGDP成長率見通し

に変化がない前提では、直近の価格急落によって原油の期待

リターンが改善している。一方、金に関しては、金属相場が大

幅に上昇したにもかかわらず、リターンの見通しを据え置い

た。長期的にはドル安とインフレの回復を予想しており、これ

が金相場をサポートしよう。

実物資産の期待リターンも同様に改善したと考えている。ただ

し、実物資産の特性上、評価額算出には通常四半期末から

6〜8週間の期間を要するため、我々の3月末時点の予想値

は必然的に広い信頼区間を持つ点を留意したい。我々のベー

スケースシナリオでは、実物資産の資本価値は危機によって

最大10%下落する可能性がある。しかし、世界金融危機のよう

に資産価値の膨張が減損をもたらした場合とは異なり、景気後

退に起因する短期的なキャッシュ・フローへの打撃から生じる

評価減にとどまると見ている。これらのキャッシュフローは時間

の経過とともに回復すると予想するが、回復の順序としては、

まずは物流倉庫のような安定したコアセクターで始まり、その

後はホテルのようなより循環的なセクターに波及しよう。

出所:LTCMA、J.P.モルガン・アセット・マネジメント、2020年4月時点。

これは、不動産の期待リターンが70~100bps上昇し、インフ

ラの期待リターンが70bps程度上昇することを意味する。上昇

幅の差異については、一般的にインフラの方が景気動向に追

随しにくいため、キャッシュ・フローが保全されていることに起因する。また、REITの期待リターンは、高水準のレバレッジ比

率やバリュエーション調整の影響を受けて、大きく上昇しよう。

債券の期待リターンは、分析の前提となる3月末の低金利を

背景に、低下している。よって資産配分の観点では、底堅い景

気安定的なキャッシュフローを持つ実物資産は、再び注目さ

れる可能性が高い。3月の市場混乱につながった流動性不安

が後退するにつれて、2008年以降に勝者となった実物資産の

注目が増す可能性がある。テクノロジーの導入や再生可能エ

ネルギーへのシフトが進んでいる資産のパフォーマンスは特

に好調であったが、当該テーマは次のサイクルにおいても強く

作用し続けると考えている。一方、次回のサイクルでは財政刺

激策という新たな側面が生じると見ており、財政拡大の恩恵を

受けるセクターも、次のサイクルの勝者となろう。

次の景気サイクルを特徴づける中長期的な成長テーマは何か。

今回の臨時改訂では、すべての資産クラスに渡って分析の前

提となるバリュエーションのみを変更している。特に株式市場

やクレジット市場における値動きが依然として非常に不安定であることを踏まえると、3月末時点の価格に基づく期待リターン

はあくまで目安といえよう。

次回の景気サイクルの特徴や直近導入された革新的な政策

の意味は、今後数カ月のうちに明らかになるだろう。しかし、こ

の度の改訂から得られた1つの点は非常に明確であり、異な

る出発点の資産価格に基づく期待リターンを検証することによ

り裏付けられる(図表4)。すなわち、短期的に価格が下落する

ほど、長期的な期待リターンは改善するということだ。別の言

い方をすれば、今日の相場が弱気であればあるほど、長期的

なリターンについて強気になるはずである。

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L T C M A臨時改訂:新型コロナウイルス -新しいサイクル、新しい出発点

一見すると、これは奇妙に思えるかもしれないが、重要な洞察

を反映したものである。すなわちそれはリターン予測において

景気循環的な要因と構造的(非循環的)な要因を混同してはな

らないということである。

LTCMAのフレームワークの中核にあるのは、人口、生産性、

政策といった経済のビルティング・ブロックである。また、長期

的には政策のシフト、特に財政刺激策がどれだけうまく展開さ

れ、最終的にはどのような結果をもたらすのかを考慮しなけれ

ばならないが、我々のビルディング・ブロックを構成する他の要

素は非常に安定している。その結果、われわれのリターンの見

通しには分析の前提となる足元の価格水準が大きく影響する

が、読者には、今日の景気循環的な問題を長期的または構造

的な逆風と誤解しないよう求めたい。

価格のボラティリティが期待リターンに直接的な影響を及ぼす

以上に、次のサイクルを特徴づけるような中長期的なテーマが

いくつかある。第一に、財政刺激策は全体に影響を及ぼす大き

な要因になるだろう。2020年版のLTCMAでは、金融政策の失

敗を取り上げ、次回の景気後退では財政刺激策によるサポー

トが不可欠になろうと指摘した。私たちの主な驚きは、これが非

常に迅速かつ決定的に起こったことである。現在の景気後退で

は、ディスインフレと低金利が同時に発生することを見込んで

いる。

政府が多額の債務を積み上げているにもかかわらず、景気後

退局面から脱出するにつれて、財政政策の拡大が永続的なも

のになると考えている。新たな緊縮政策への移行は全くないだ

ろう。 その結果、我々は、金融政策と財政政策の双方が景気

回復に向けて拡大を続けると予想している(これは世界金融

危機後の状況とは大きく異なる)。 その結果、中期的にはカー

ブがスティープ化し、リフレ圧力が強まるとみられる。

これは10~15年という時間軸において、債券よりも株式に非

常に大きなサポートとなろう。このことは、すべての主要市場で

株式リスクプレミアムが歴史的な高水準に達していることから

も示唆される(図表5)。

しかし、次の景気拡大局面では、カーブがスティープ化し、リフ

レ環境となる中で、株式市場における主導権が変化する可能

性がある。過去10年間はバリュー株式にとって厳しい環境で

あり、スタイルとしてはグロースが選好された。地域的な観点

では、テクノロジーの革新によって米国が選好され、2010年代

は「米国の時代」だったことになる。 テクノロジーのテーマは今

後も続くが、よりスティープな利回り曲線、リフレ、そして財政刺

激策が再生可能エネルギーとサステイナビリティへの投資を

大幅に促進する可能性があることから、2020年代には他の地

域も追随を始めるかもしれない。

足元のような市場のボラティリティが高まる環境下では、分析の前提となる足元の価格水準が長期リターンの重要な推進力となる

別紙 4: 米国株式および米国10年国債:エントリーポイントに対する期待リターン

S&P 500 米国国債10年エントリーポイント LTCMA期待リターン エントリーポイント LTCMA期待リターン時点

2019年9月30日 2976.74       5.6% 1.66        2.4%

過去6カ月間の再高値 3386.15 4.5% 0.54 1.6%

過去6カ月間の最安値 2237.40 8.5% 1.94 2.6%

2020年3月31日 2584.59 7.2% 0.67 1.7%

2020年4月17日 2874.56 6.1% 0.64 1.6%

出所:LTCMA、J.P.モルガン・アセット・マネジメント、2020年4月時点。注:LTCMA期待リターンは0.1%単位で算出。

足元の債券利回りの低下により、株式リスクプレミアムは過去最高水準近くまで上昇

図表 5: 主要株式市場の株式リスクプレミアム

-2%

0%

2%

4%

6%

8%

10%

1984 1989 1994 1999 2004 2009 2014 2019

金融危機    米国   欧州     日本 EM

出所:データストリーム、LTCMA、J.P.モルガン・アセット・マネジメント、2020年4月現在。

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6 LTCMA臨時改訂:新型コロナウイルス -新しいサイクル、新しい出発点

L T C M A臨時改訂:新型コロナウイルス -新しいサイクル、新しい出発点

新たな景気サイクルの始まり

我々が経験したここ数週間は、かつて無い程に経済政策と資

本市場が急激に変化した期間の1つとして歴史に名を残すこと

になるだろう。そして、これは史上最長の景気拡大期間の終

焉であり、決定的に新たな景気サイクルの始まりであると考え

られる。

我々は新たな景気サイクルは特徴的なものとなると予想して

いる。その全容が徐々に具体化していく中で、我々は、テクノ

ロジーや持続可能性、経済的利益に占める資本と労働の割

合、リフレーション、スタイル・ローテーションなどといったテー

マで新たなレポートを執筆する予定である。

とはいえ、我々が現時点で直面している課題のいくつかは今

後も不変なものであると言えよう。それは、株式の期待リ

ターンが債券のそれを大きく上回っていることや、世界株式6対世界債券4というシンプルな資産配分が見直されつつあ

り、オルタナティブ資産や実物資産から得られるキャッシュフ

ローが債券のクーポン収入の代わりとなっていること、分散

投資の重要性は依然として健在であるということである(図

表6A及び6B)。

我々は世界の経済活動はいつか必ずこの景気後退局面か

ら力強い復活を遂げると信じている。現時点では何によって

次の景気サイクルが定義づけられるのかについては完全に

は分かっていないものの、新たなテーマや優先事項が明確

化するにつれて、新たな投資機会が現れてくると確信してい

る。

前回のアップデート以降、株式・債券のフロンティアは著しく拡大した。

図表 6A: 米ドル株式-債券フロンティア 図表 6B: ユーロ株式-債券フロンティア

2020 3月末の更新

2020 株-債券フロンティア

2008 株-債券フロンティア

2020 3月末 60/40ポートフォリオ

2020 60/40ポートフォリオ

2008 60/40ポートフォリオ

幾何リターン

(%)

ボラティリティ

0

2

4

6

8

10

12

0 5 10 15 20 25

米ドル・キャッシュ

米国ハイ・イールド

米国コア不動産

グローバル株式

新興国株式

未公開株式新興国債券(米ドル建て)

米国大型株式

グローバル・インフラ・デット

米国総合債券

米国中期国債

分散型ヘッジファンド

グローバル・インフラ・エクイティ

2020 3月末の更新

2020 株-債券フロンティア

2008 株-債券フロンティア

2020 3月末 60/40ポートフォリオ

2020 60/40ポートフォリオ

2008 60/40ポートフォリオ

幾何リターン

(%)

ボラティリティ

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20

ユーロキャッシュ

米国大型株式 (ヘッジあり)

未公開株式

欧州大型株式

グローバル株式

欧州コア不動産(除く英国)

ユーロ国債

新興国債券 (米ドル建て、ヘッジあり)

グローバル国債(ヘッジあり)

欧州総合債券

欧州物価連動国債

米国ハイ・イールド (ヘッジあり)

分散型ヘッジファンド (ヘッジあり)

出所:LTCMA、J.P.モルガン・アセット・マネジメント、2020年4月時点。

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J .P. MORGAN ASSET MANAGEMENT 7

P R E V I O U S F I N A N C I A L C R I S E S : R E C O L L E C T I O N S A N D I N S I G H T S F R O M S E N I O R I N V E S T O R S A N D S T R AT E G I S T S

これまでの金融危機から:

経験豊かな運用者とストラテジストによる回想と洞察

危機とはそれぞれ異なるものですが、過去の歴史からの教訓は、この

新型コロナウィルスショックを乗り切ろうとする投資家にとって有益な道

標となる可能性があります。

1987年の危機(ブラックマンデー)から欧州債務危機に至るまで、過去

の危機から得た経験について、経験豊富なポートフォリオ・マネジャー、

ストラテジスト、リサーチ・アナリストに尋ねました。

これは様々な経験から構成された一種のモンタージュ写真ですが、何ら

かの共通項を示すものとなることを願っています。

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8 LTCMA臨時改訂:新型コロナウイルス-新しいサイクル、新しい出発点

1998年夏 ロシア危機、LTCM破綻時のリスク・テイクの教訓

「42年間運用に携わってきて、あらゆる局面を見てきたように感じていました。しかし、今回のような危機は見たことがありません。」

1998年夏。私はそれまで、機関投資家向けのヘッジ戦略と裁定戦略の運用に約20年間携わっていました。当時の

私は、1987年のブラックマンデーを経験したことが、その後の自分のキャリアの根幹を形作ったと思っていて、その

先に何が待っているかなど知る由もありませんでした。

その夏、ロシアの債券市場や新興国市場に亀裂が生じ始めました。通常ヘッジ目的で購入する6ヶ月から1年のオ

プションは、予測されているリスクから考えて非常に割安に取引されていました。私はヘッジをしたい顧客のために、

そのオプションを購入しました。一方、裁定戦略では、スプレッドがめったにないほどに縮まっていました。リスクリ

ターンを考えれば、この水準は理にかなわず、持続不可能だと考え、ポートフォリオにおける裁定リスクを削減しまし

た。

その後、9月にはヘッジファンドのロング・ターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)が破綻しました。膨大なレバレッ

ジを含むLTCMのポートフォリオに関するトレードは、これまでもマーケットを動かしていましたが、そのファンドの破

綻は並々ならぬ大きな投資機会を生み出しました。私は株価指数の長期ボラティリティを、危機前の3倍のプレミア

ム水準でショートしました。ほとんど1987年の暴落時に近いプレミアム水準でした。加えて、インターネットブームが

本格化したことで、裁定取引でリターンを得ることも可能になり、私はインターネット関連株式のコールオプションを

買い、同時に原資産の株式をショートしました。

振り返ってみると、私が1998年に下した判断はシンプルなもののように思えますが、その当時は恐怖に包まれてい

ました。自分の投資行動が間違った方向に行けば、その後のキャリアの根幹を形作る経験ではなく、キャリアを終わ

らせるものだったかもしれません。 その教訓は私の中に残りました。

42年間運用に携わってきて、私は時々、あらゆる局面を見てきたように感じることがあります。しかし、世界的な感

染症の大流行によって引き起こされた現在のような危機は見たことがありません。景気後退がいつまで続くのか、ど

れほど深刻になるのかは誰にも分かりません。この不確実性を考慮しながら、バランスのとれたリスク・テイクを行う

タイミングと言えるのではないでしょうか。

ジェフリー・ゲラー、CFA最高投資責任者、マルチ・アセット・ソリューションズ

1987年の暴落は長期投資の価値を明確に示す

「 1987年の暴落は、明白なファ ンダメ ンタルズ要因がなく 、重大な経済的な影響もなかった 」

1987年の秋、私はミシガン州立大学で経済学を教えていました。 10月19日の月曜日、ある学生が興奮しなが

ら私のオフィスに駆け込んできて、ダウ工業株30種平均が508ポイント、当時で22.6%もの下落がおきたと私

に伝えてくれました。私はその学生に、なぜそれ以前に同じことが起こりえなかったのかを説明しました。勿

論、その時点では実際に起こった訳ですが。米国の歴史において一日で記録した最大の下落率となりました。

振り返ってみると、1987年の暴落は多くのことを教えてくれました。

まず、明らかなファンダメンタルズ要因がない暴落でした。株式市場は5年近くにわたり、大幅な調整なしに大

きく上昇しており、バリュエーションは過去平均を上回っていました。しかし、経済は着実に成長しており、地政

学的な緊張の高まりも特にみられてはいませんでした。ドルの下落が暴落の原因だと指摘する声もありました

が、為替レートの変化で米国の企業価値の20%以上が消失したという説明には無理がありました。

第2に、重大な経済的な影響を伴わない暴落でもありました。1987年の暴落から数カ月間、個人消費は好調

を維持し、経済は1990年の緩やかな景気後退まで着実に成長を続けました。

第3に、この暴落は、株式市場のリターンは正規分布ではないことを思い起こさせる最大の出来事でした。こ

の年の暴落前の期間において株価指数の日次リターンの標準偏差はわずか25ポイントでした。それまでもそ

れ以降もよく見られたことですが、相場が下落した際、ポートフォリオのリスクを削減するために株式や株価指

数先物の投げ売りが起こり、売りが売りを呼び、さらに相場の下落を悪化させてしまったのです。

最後に、この暴落は長期投資の価値を明確に示しています。もし、私の学生が、その日の午後に私のオフィス

に駆け込む代わりに、株式市場に投資をして、その後S&P500の平均的なリターンを達成できたとすれば、配

当を含めて年間10.9%を稼いでいたでしょう。しかし、もし彼が、ブラック・マンデーの暴落の前の金曜日に貯

蓄を投資してしまったとその日の午後に涙を流しながら私のもとに駆け込んできていたとしても、その投資を

継続していれば、何年後かにならして見れば、年間10.0%のリターンを獲得することができたのです。

デイビッド・

ケリー博士、

CFAチーフ・グローバ

ル・ストラテジスト

グローバル・マー

ケット・インサイ

ツ・ストラテジー責任者

これまでの金融危機から:経験豊かな運用者とストラテジストによる回想と洞察

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2000年のITバブルとその崩壊からの教訓

「 株式の価値は将来のキャ ッシュフローであり、それ以外の何物でもない 」

1990年代の後半、私はテクノロジーへの投資に熱狂しており、それは非常に心躍る期間でした。出現したばかりのインター

ネットが、世の中に素晴らしい可能性をもたらしました。

「オンラインで買い物ができるようになった!」、「在宅勤務が可能だ!」、「友人と繋がることができる!」

古いアナログ経済は、新しいデジタル経済に取って代わられつつありました。企業名に「ドットコム」の表記を加えるだけでバ

リュエーションは上昇し、利益の100倍以上の企業価値が付くこともしばしば見られました(たとえ利益を創出できていなくと

も、ウェブサイトに何かしらの目玉コンテンツがあれば高いバリューションを享受できることも多々ありました)。

テクノロジー企業の株価は2倍になった後、さらに2倍になりました。タクシーの運転者から医者まで誰もがデイ・トレーダーに

なりたがっているように思えました。危機のほとんどは恐怖に根差しており、2000年のITバブル崩壊は、強欲によって引き起

こされました。市場は2000年3月にピークを迎えました。その後の危機も含めて、これらの現象はビックバンなどではなく、ま

た何か明確な一つのきっかけがあったという訳でもありません。注目を集めた幾つかの企業の倒産や米国の同時多発テロ

は確かに市場を押し下げた要因となりましたが、全体としては緩やかにしかし着実に下落していき、最終的にハイテク株の占めるウェイトが大きいナスダック指数ではピークからの最大下落率が78%となりました。その後、株価指数が以前のピークに達するまで15年を要しました。この時代から得たいくつかの教訓は未だ私の中に留まっています。

• 人は容易に誇大な期待に飛びついてしまう : 我々は皆イノベーションや成長は信じられるものだと思い込んでいる。

• 変化は予想以上に緩やかなペースでしか進まないが、ある時を境に急速に進む。インターネットは世の中のすべてを変

えたが、人々が予想したよりも多くの時間を要した。変化を明確に加速させるには、モビリティ、ビッグデータおよびクラ

ウドの統合を必要とした。

• 株式の価値は将来のキャッシュフローであり、それ以外の何物でもない。

• 株価は、例えすでに急落した後であったとしても、これまで考えられていた以上に下落する可能性がある。

• 何かについて一度決定すれば、後はほったらかしで良いなんてことは決してない。ドットコム時代の最先端技術を担って

いた企業の大半は、回復することがなかった。新しいリーダーが現れたのだ。

私はこれらの教訓から、一つの結論を導き出しています。積極的なアクティブの銘柄選択が、長期的な投資成功の鍵となる

のです。

リー・

スペルマン、CFA米国株式責任者

2000〜2002年の高レバレッジ市場から得られる教訓

「 我々は今後、かなりの時間を かけて質の低い投資ユニバースと付き合ってい く のかも しれません」

私が資産運用会社で新たにグローバル社債の運用を始めた2000年当初は、まさに米国の社債市場においてボラティリティが上

昇し始めた時で、市場は企業のレバレッジの高まりと格下げの恐怖に包まれていました。

当時を振り返ってみると、「レバレッジ」や「堕天使」という概念があまり一般的でなかったという違いもあるものの、現在の環境は

当時と明らかに似ている点があります。

2000年代初期は稀有な出来事がいくつも発生しました。

まず挙げられるものとして、1990年代の電気通信業界の規制緩和(大容量化につながる)によってカリフォルニアで引き起こされ

た電力不足と電力会社の倒産です。

この規制緩和は結果として、エンロン社とワールドコム社の倒産につながる不正行為を生み出すきっかけとなりました。

(エンロンの経営に対する懸念の高まりからエンロン社債を売却することを決めた後、非常にストレスの感じる週末を過ごした事

をよく覚えています。月曜日にはより高い価格になる事が予想されたため、ユーロ建て社債の売却を週明けに延期したためでし

た。実際、ほぼ額面付近で売却できましたが、それは会社が倒産する数週間前の事でした。)

この時代にあったもう一つの大きな出来事は、9月11日に起こった米国同時多発テロです。2001年から2002年にかけて経済は

景気後退に陥り、かつてないほど多くの企業が非投資適格級に格下げされました。結果、バランスシートの拡大と景気後退入り

によって、米国企業のレバレッジは2002年にピークに達した後は着実に低下していきました。

そして、過去と現在の景気サイクルにおいて重要な相違点は、企業は2002年のピーク時よりも高いレバレッジ比率で2020年に

景気後退へ突入する事によって、今後当時よりもさらに多く企業の負債問題が表面化する可能性が高いという事です。

我々は今後の景気においてV字型の回復を期待しておらず、景気がより芳しくない環境下では、企業は過去の景気後退時よりも

はるかに多くのレバレッジを維持すると思っています。またFRBは市場に流動性を供給させるために、初めて非投資適格級に格

下げされた企業の債券(3/22時点で投資適格級だった企業に限定される)を購入することを決定しました。そうして全ての事を考

慮すると我々は今後、かなりの時間をかけて質の低い投資ユニバースと付き合っていくのかもしれません。

リサ・コールマングローバル・インベストメント・グレード・コーポレート・クレジット責任者

これまでの金融危機から:経験豊かな運用者とストラテジストによる回想と洞察

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10 LTCMA臨時改訂:新型コロナウイルス-新しいサイクル、新しい出発点

2000年から2002年の弱気相場における株価上昇の痛み

「弱気相場における株価上昇はあなたをヒーローにするだろうか」

ハイテクブームが最高潮だった1999年、私は大学を出たばかりでヨーロッパの行動ファイナンス株式運用部

のポートフォリオ・マネジャーの仕事を始めたところでした。数多くのバリュエーションの手法を学んだ私は、見

通しが楽観的であり、かつターミナルバリューが十分に高ければ、ディスカウントキャッシュフローによってあら

ゆる株価を正当化できるという考えに興味を持っていました。

景気サイクルがピークに近づくにつれて、私は中小型株に集中投資していたのです。

振り返ってみれば、過去に複数の弱気市場を経験したことがある、経験豊富なポートフォリオ・マネジャーの下

で働けたことは、私にとって非常に幸運なことでした。

2000 年から2002年にかけての弱気相場から、私は2つの教訓を学びました。第一に、弱気相場における株価

上昇は残酷な結果になりうるということです。2001年、FTSEは全体で15%下落したが、年末にかけて20%上

昇しました。 最近の上昇が、弱気相場における一場面なのかどうかは、今はまだわかりません。 ポジション

次第で、弱気相場における株価上昇はあなたをヒーローにも悪役にもします。若手の頃に私は、投資フレーム

ワークを忠実に守ること、ただし根拠となるデータが変化したときには素直に受け入れてポジションを調整する

ことが役に立つと学んだのです。

二点目は、投資家は一時バリュエーションを見落とすことがあるが、それが永久に続くことはめったにないとい

うことです。バリュー株は、1990年代後半の強気相場の後半には、やや時代遅れになっていました。しか

し、2003年に弱気相場が終わり、成長の再加速の舞台が整うと、投資家は贅沢にも価格に敏感になりバ

リュー株に再注目したのです。今はまだ分からず時間が経って初めて分かることですが、もし次の景気サイク

ルでより高い名目成長率を達成すれば、長期的に低迷するバリュー株に追い風となる可能性があるでしょう。

ケイティ・ソーニクロフトポートフォリオ ・マネジャーマルチ・アセット・ソリューションズ

1987年の暴落:研修を終えた新卒新入社員が見た初めてのブラックスワンイベント

「定義上、ブラックスワンイベントの発生確率は低いです。しかし、過去30年以上に渡って、彼らは定期的にやってくるようです。」

ブラックマンデーと呼ばれる株式市場が暴落した1987年10月19日、私はJ.P.モルガンでの研修プログラム

を終えて数週間が経ったばかりでした。ウォール街23番地にあった旧本社ビルの我々のデスクはニュー

ヨーク証券取引所のフロアに面していました。「一体どうなってしまうのか。」と私は自問しました。

当時、1980年代前半の二番底に向かう景気後退は人々の記憶に鮮明に残っており、景気後退は避けられ

ないと思われていました。しかし、株式市場は一年足らずで過去の最高値を超え、米国の景気後退は1990年までの数年間に渡って訪れることはありませんでした。

ブラックマンデーが訪れるまで、株価は過大評価され、投資家は自己満足の状態にありました。ポートフォリ

オインシュアランス(現物の株価が一定水準以上下落した場合に、株価指数先物の売り持ちポジションを構

築するヘッジ手法)は下値抑制を「保証」しました – それが機能しなくなるまでは。ポートフォリオインシュアラ

ンスは明らかに1987年の急落を悪化させました。そして、金融市場や金融工学が主因または一因となると

いう点において、その後の危機には確かに共通の要素が存在しています。

通常時においては、テール・イベントやブラック・スワンイベントのことは考えにくいです。定義上、これらのイ

ベントの発生確率は低いです。しかし、過去30年以上を振り返ってみると、アジア金融危機やロング・ター

ム・キャピタル・マネジメントの破綻、ドットコムバブルの崩壊、世界金融危機、欧州債務危機など、この種の

イベントは定期的にやってくるように思われます。それぞれの危機の度合いは僅かに異なるものでしたが、

いずれもテール・イベントでした。

私の若い同僚達は想像しにくいとは思いますが、1987年10月時点の我々はコンピューターや携帯電話の

無い中で仕事をしていました。取引は手作業で行われ、時間のかかるものでした。現在、世界的なパンデ

ミックの真っ只中、J.P.モルガン・アセット・マネジメントは基本的にリモートワークにて運営されています。こ

れは驚くべきことであり、あらゆる危機を乗り越えてきた経済と市場の基本的な回復力を思い出させます。

パトリック ・ヤコブソンポートフォリオ・マネジャーマルチ・アセット・ソリューションズ

これまでの金融危機から:経験豊かな運用者とストラテジストによる回想と洞察

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欧州債務危機:大局観を持つ重要性

「私は、ユーロ圏が何よりもまず政治的な共同体であることを理解していました。欧州債務危機の本質は、

経済よりも政治的なコミットメントにあったのです。」

「私は、ユーロ圏が何よりもまず政治的な共同体であることを理解していました。欧州債務危機の本質は、経済よりも政治的な

コミットメントにあったのです。」

通貨同盟で結ばれた欧州の国々にとって、金融危機は2009年に終わりませんでした。むしろ、多くの国々にとっては危機の

始まりでした。 政府債務が急増すると、投資家の関心はすぐに、銀行が破綻するかどうかという問題から、ソブリン債がデ

フォルトするかどうかという問題に移りました。欧州債務危機の期間(2010年から2012年頃)、私はセルサイドのエコノミストと

して、最終的にユーロ圏が崩壊するかどうか見解を示さなければなりませんでした。

すべての金融危機は異なりますが、私たちが分析に使用するツールは基本的に同じです。 私の立場からみると、金融危機は

印象派の絵画によく似ています。 キャンバスに近づきすぎると、絵画を理解することが出来ません。 しかし、少し後ろに下がっ

てみることで、すべてがより明確に見えるのです。

金融危機時には、全体像を把握することが大切です。 1人のエコノミストとして、また歴史から学び続ける1人の人間として、私

はユーロ圏が何よりもまず政治的共同体であることを理解していました。 言い換えると、欧州債務危機の本質は、経済よりも

政治的なコミットメントにあったのです。 私は、ドイツのユーロ圏に対するコミットメントに疑いの余地がなく、最終的には妥協点

が見出されると考えました。そして、実際にそうなったのです。 この気付きは、様々な救済政策の特徴を理解するよりもはるか

に重要なことでした。

また、肉体的のみならず精神的にも、少し下がって物事を俯瞰することが重要であることを学びました。欧州債務危機時にお

いて、ユーロ圏首脳陣は、日曜深夜から月曜早朝にかけて重要な判断を下しました。記者会見の対応をするために起き続

け、その後顧客との会議を丸一日続けることは、肉体的にも精神的にも疲弊することでした。 休息をとることは、明確で合理的

な決断を下すために不可欠です。

最後に、明確な見解を持つことは重要ですが、その見解にチャレンジすることも同様に重要です。 ここではチームワークが大

切になります。 健全な議論はいかなるときも大事ですが、感情と利害の対立が高まる危機時においては特に重要になります。

カレン・ワード

チーフ・マーケッ

ト・ストラテジスト

EMEAグローバル・マー

ケット・インサイ

ツ・ストラテジー

2008年の金融危機の後に、実物資産への投資が拡大・発展

「金融危機は勝者と敗者を生み出しました。契約に基づくキャッシュフローと強固な取引先が実物資産での勝者を作ってきました。」

「まず造ってみる。結果は後から付いて来る」これは2008年グローバル市場を金融危機に至らしめた不動産投

資においてモットーとされてきた言葉でした。当時私は中東地域で働いていましたが、開発ブームが起き世界で

最も大きな建築物の幾つかが造られるのを目の当たりにしていました。だが新興国市場とは直接関係のない

金融危機によって、その脆さを露呈し開発プロジェクトが延期や中止に追い込まれて不況は長く続きました。

米国では、ITバブル崩壊時において不動産価値は無傷でしたが、2008年のサブプライムローン問題ではあら

ゆる面において不動産市場に波及効果をもたらしました。初めに不動産の信用市場において亀裂が現われ、

その後、民間及び公的な不動産に影響が広がりました。不動産取引が減少したことまた流動性ニーズの高まり

を背景に、投資家が出来る限り資金回収を行おうとしたことから、不動産に関連するファンドの解約申込みが増

加していきました。

金融危機は、勝者と敗者を生み出しました。勝者はディフェンシブセクターや契約に基づくキャッシュフロー・強

固な取引先を持つ資産に投資をしていました。レバレッジの低い債券やコア不動産の株式は、レバレッジの高

い債券や非コア不動産に勝りました。この時期にはインフラ投資が一つの資産クラスとみなされるようになりま

した。不動産投資と似ていますが相関はなく、よりディフェンシブなリターン特性が、不動産投資に対して適切な

補完となりました。

危機が起こる度に影響を受けた産業が再構築されますが、2008年金融危機も次の10年間に向けた革新と機

会の波を引き起こしました。 これには、eコマース関連の物流の増加、再生可能エネルギーの増加、不動産の

グローバル化、輸送リースや不動産のメザニン投資などの規制主導型の資産クラスの出現などが含まれま

す。長期的には、不動産及びインフラ投資の質の高いキャッシュフローは比較的安全な逃避先であり、インカ

ムと分散の観点からも重要な資産クラスです。実物資産への投資においては、持続可能なイノベーションの新

しい源泉に注目していくことが大切です。

プルキット・

シャーマ、

CFA、CAIAオルタナティ

ブ運用戦略及

びソリューショ

ンズ責任者

これまでの金融危機から:経験豊かな運用者とストラテジストによる回想と洞察

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2007年夏、クオンツの大混乱

「困難な市場からの教訓:台所にいるゴキブリは1匹だけではない」

2007年の夏、私はJ.P.モルガンのクライアント・ポートフォリオ・マネジャーとして、行動ファイナンス・クオンツ株

式商品の責任者を務めていました。当時、クオンツ運用のパフォーマンスは好調であり、最初のロング・ショート

戦略を設定したところでした。その後、一夜にして全てが変わりました。8月の最初の2週間は、後に明らかになっ

たように、世界的な金融危機の前兆であり、大規模な清算が起こりました。過度にレバレッジをかけたクオンツ戦

略のリターンは急落し(標準偏差5を超えるイベント)、その結果、かなりの金額の解約・償還が発生しました。そ

れまで上昇していたものが急に下落しました。私達は当初、これは一時的な調整だろうと考え、それまでの規律

に基づいて判断しました。しかし、大混乱がクオンツの世界を支配するようになったと理解するのにそれほど時

間はかかりませんでした。投資家は大混乱を嫌いました。その後の2年間で、世界のクオンツ戦略の約80%が清

算されたと推定されます。この経験がその後のクオンツ戦略の発展に繋がりました。

私がこの困難な時期から学んだことは、平たく言えば、「台所にいるゴキブリは1匹だけではない」ということで

す。クオンツの世界で起きていたことは世界経済にストレスがかかっていることを知らせる初期の警告でした。言

い換えれば、それは最初に発見されたゴキブリの一つでしたが、決して唯一のゴキブリではありませんでした。

人間は、危機が起きると、過去の出来事と共通するパターンを見つけようとするものです。しかし、実際にはそれ

ぞれの危機は異なります。今、私は、市場や経済環境を多面的に見るように心がけ、過去と何が違うかを考える

ように努めています。過去から学ぶことは大切ですが、それだけでは視野が狭くなってしまいます。調査が必要

なゴキブリがもっと沢山いるという事実を見落とさないように。

テッド・ディミグ米国アドバイザリー及びコア・ベータソリューションズ責任者マルチ・アセット・ソリューションズ

2008年の金融危機で学んだクオンツ・モデルの限界

「モデルの限界と偏りを理解することにより、

深刻な混乱に対処することができます」

私は2004年から金融の仕事を始めたので、2008年の世界的な金融危機は市場の混乱に直面した初めての経

験でした。クオンツ投資家として、私は、不適切なリスク調整やレバレッジが、それ以外の「正しい」ポートフォリ

オ・ビューやポジションを圧倒しているのだと考えていました。真に強固な投資プロセスでは、パフォーマンスが

振るわない局面を乗り切り、新しい情報やリスクに順応し、そして、次の市場フェーズに向けてより良いポジショ

ンを構築することができることを学びました。

モデルとプロセスの限界と偏りを理解することで、深刻な混乱に対処できると考えます。バリュエーションをより

重視したモデルでは、早すぎるタイミングで市場のピークを示唆するかもしれません。一方で、テクニカルに基づ

くモデルは転換点を見分けるのに長い時間を要するかもしれません。投資家は対応に要する時間を計測し、下

落方向に向かうのか、イベントからの反発に向かうのかを決定します。

クオンツ投資の観点から見てデータへの信認性はいかなる市場の混乱においても重要です。2008年において

は、流動性と市場のストレスが市場価格のみならず金融システムそのものに影響を及ぼしたため、我々の持つ

様々なデータ、例えば、過去において信頼できたLiborやその他の流動性指標が機能しなくなりました。このこと

により、我々のモデルで市場環境を読み解くことが難しくなり、結果、市場がどこに向かっているのかを予測する

ことも難しくなりました。データを理解し、その限界とモデルに与える影響を理解することが、このような市場イベ

ントをうまく乗り切るためには必要不可欠なのです。昨今の危機の中、経済データは、早いペースで起こる経済

活動の急停止や(まだ誰にもわからないものの)その後に来る経済の再始動の早さの双方によって左右され続

けるだろうと考えます。経済活動の理解に役立つ新しいデータ・ソースの発見は有益ではあるものの、投資家は

新しい未知なものに飛び込む前には慎重に検討する必要があると考えます。

キャサリン・

サンティアゴ

クオンツ・リサーチ

責任者

マルチ・アセット

・ソリューションズ

これまでの金融危機から:経験豊かな運用者とストラテジストによる回想と洞察

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J . P . MORGAN A S S E T MANAGEMENT 13

過去の危機は教訓をより確かなものにする 本質的にはすべて同じ

「経済と市場の回復力には何度も驚かされる」

1987年10月19日ダウ工業株30種平均は22.6%下落し、1日の下落率としては米国史上最大の下落率を記録しました。当時、私はある巨大投資銀行のボストン支店で株式セールス・トレーディング・デスクの責任者として働いていました。その日も多くの転換社債の取引を取り扱っていましたが、前日の終値を25%以上下回る価格で、取引が成立していきました。それでも、価格は当日の清算値に過ぎず、今後市場でのさらなる大幅下落の思惑により、それぞれの取引はハイリスクと認識されました。私たちは運用プロフェッショナルとして市場の大惨事を目の当たりにしましたが、長期にわたって市場を変化させる何か重要なものがあると確信しました。

その後32年の間、ロシアルーブルの暴落が引き金となりヘッジファンドのロング・ターム・キャピタル・マネジメントが破綻したことによって引き起こされた1998年の危機、2000年のITバブル崩壊、そして2008年世界金融危機による経済と市場の崩壊と、恐ろしい出来事が起こりました。しかし、振り返ってみると一つのパターンが見えてきます。つまり、まったく予期されない出来事(しかし十分起こりうるのですが)によるショックが進行することで、政策決定者が可能な限り危機に対処しようとします。出来事は様々ですが、結末は同じようなものになっているように思えます。

1987年の金融危機は経済に深刻な影響を及ぼすことはありませんでしたが、投資家や運用会社を含む市場参加者は貴重な教訓を得ることになりました。当時、ポートフォリオのリスクをヘッジする最新の手法であった「ポートフォリオインシュアランス」は機能せず信用を失っていきました。しかしその手法は無くなったわけではなく、その後の数十年にわたって別の形となって再び登場してきました。ある意味で、1987年の暴落の期間における大手投資家の解約が、のちの1990年代の強気相場の道筋を作りました。

現在の危機は、特に深刻な公衆衛生危機が、重大な経済・市場の出来事とともに進行しており、今後数年にわたって大きな影響を及ぼすことになるでしょう。しかし、何度も経済と市場の回復力には驚かされます。2020年の出来事は、すでに進行中の変化を加速させる可能性は大いにありますが、方向を根本的に変えるものではないと考えています。

アンソニー・

ワーリー

チーフ・ポートフォ

リオ・ストラテジスト

エンドウメンツ・

ファンデーション

ズ・グループ

弱気市場の後の新しい機会

「弱気市場の後に、新たな景気拡大、

新たな強気市場、新たな投資機会が生まれる」

2008年、私はデリバティブ・デスクという市場を見渡すのに好都合の場所から世界金融危機の展開を見てい

ました。急速に広まる市場の混乱の最初の段階において、私がいつも感じているのは、メディアのイメージと

は対照的に、不気味なほど静かな取引フロアになるということです。資産市場は大きく下落しているかもしれ

ないですが、多くの場合、市場取引は麻痺し、市場の混乱の大きさが評価されるにつれて、トレーディング・オ

フィスの外は非常に慌ただしくなっていきます。

デリバティブはしばしばヘッジ取引と結びついていますが、いくつかのデリバティブを内包する複雑な仕組み

の金融商品の存在によって、ヘッジ取引の有効性が大きく脅かされました。例えば、リーマン・ブラザーズの破

綻後のカウンターパーティ・リスクの増大によって、原資産の価格の動き以上にヘッジ取引として使っていた

デリバティブの価値を著しく損なうことになりました。究極的には、いかなる市場の混乱においても、キャッシュ

は極めて貴重な資産になります。ヘッジ取引は重要ですが、ヘッジ取引はシンプルで、流動性があり、効果を

発揮していなければなりません。それはヘッジ取引をキャッシュに戻すことが非常に重要になるからです。

弱気市場において、キャッシュへの需要が強い最初の混乱期はかなり早く過ぎていきます。そして、次にもっ

と長く続く段階が始まります。アメリカの「バリュー投資の父」と呼ばれる経済学者のベンジャミン・グレアムは

「短期での投資は人気投票であり、長期での投資は計量機(本質的な価値を見出す)である」と言っていま

す。最初の市場の混乱時にはすぐにキャッシュ化できる資産や、キャッシュを十分に保有している企業の株式

へ投資家が人気投票するようなものでありますが、その後は投資対象の成長性とバリュエーションに対する

長期的影響を計る投資家の動きにつながって行きます。

最近の市場の混乱において、各国・地域の中央銀行は、速やかに、潤沢なキャッシュを市場へ供給しました。

そして、たとえ経済の軌道はまだまだ不安定であったとしても、最初の市場の混乱の段階は収まりを見せてい

ます。そして、今、割安な証券の価格を見つけることは可能であり、本質的価値を計測する段階は始まっていま

す。今や4回の景気後退と6回の市場の混乱を経験したベテランとして、弱気市場の後に、新たな景気拡大、

新たな強気市場、そして新たな投資機会が生まれることをはっきりと見通しています。

ジョン・ビルトン、

CFAグローバル・マルチ・

アセット戦略責任者

マルチ・アセット

・ソリューションズ

これまでの金融危機から:経験豊かな運用者とストラテジストによる回想と洞察

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14 LTCMA臨時改訂:新型コロナウイルス-新しいサイクル、新しい出発点

Lee Spelman, CFA

Head of U.S. Equity

Katy Thorneycroft

Portfolio Manager, Multi-Asset Solutions

Karen Ward

Chief Market Strategist , EMEA, Global Market Insights Strategy

Nicolas Aguirre, CFA

Portfolio Strategist , Endowments & Foundations Group

Diego Gilsanz

Global Strategist , Multi-Asset Solutions

Shay Chen, CFA, CAIA

Alternatives Investment Strategy & Solutions

Sorca Kelly-Scholte, FIA

Global Strategist , Global Pension Solutions

Timothy Lintern

Global Strategist , Multi-Asset Solutions

Michael Akinyele

Global Strategist , Multi-Asset Solutions

Xiao Xiao, CFA

Quantitative Analyst, Multi-Asset Solutions

Jason Davis, CFA

Portfolio Manager, Global Fixed Income, Currency & Commodities

Allison Schneider

Associate, Global Insights

Barbara Rudolph

Senior Investment Writer, Global Insights

Catherine Peterson

Global Head of Insights Programs

Dan Aust

Head of Marketing Programs, EMEA

Alex Tirlea

Portfolio Manager, Multi-Asset Solutions

The Long-Term Capital Market Assumptions Team and Committee are grateful to many investment experts throughout the J.P. Morgan

network whose input has been incorporated into the 2020 Mark-to-market edition, including: Dave Esrig, Karthik Narayan, Kenneth Tsang,

Paul Kennedy, Justin Menne, Jason Desena, Joe Staines, Garrett Norman, Kent Zheng, Jonathan Blum, Stiofan De Burca and Paul Summer

We also want to express our utmost appreciation and gratitude to Global Creative Services for design, Mark Virgo and Jay Lonie.

A C K N O W L E D G M E N T S

John Bilton, CFA

Head of Global Multi-Strategy, Multi-Asset Solutions

Michael Feser, CFA

Portfolio Manager, Multi-Asset Solutions

Michael Hood

Global Strategist , Multi-Asset Solutions

Dr. David Kelly, CFA

Chief Global Strategist , Head of Global Market Insights Strategy

Grace Koo, Ph.D.

Quantitative Analyst Portfolio Manager, Multi- Asset Solutions

Stephen Macklow-Smith

Portfolio Manager, European Equity Group

Thushka Maharaj, DPhil, CFA

Global Strategist , Multi-Asset Solutions

Patrik Schöwitz, CFA

Global Strategist , Multi-Asset Solutions

Anthony Werley

Chief Investment Officer, Endowments & Foundations Group

Lisa Coleman

Head of Global Investment Grade Corporate Credit

Ted Dimig

Head of U.S. Advisory and Core Beta Solutions, Multi-Asset Solutions

Jeffrey Geller, CFA

Chief Investment Officer, Multi-Asset Solutions

Patrik Jakobson

Portfolio Manager, Multi-Asset Solutions

Katherine Santiago

Head of Quantitative Research, Multi-Asset Solutions

Pulkit Sharma, CFA, CAIA

Head of Alternatives Investment Strategy and Solutions

これまでの金融危機から:経験豊かな運用者とストラテジストによる回想と洞察

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J.P.モルガン・アセット・マネジメントのLONG-TERM CAPITAL MARKET ASSUMPTIONS(LTCMA)は、ポートフォリオ・マネジャーやストラテジストらによって構成されるアサンプションズ・コミッティーによって作成されたものです。

このコミッティーは、ポートフォリオ・マネジャーや商品スペシャリストらのインプットと専門知識を活用し、資産クラス全体にわたり、一貫性のある分析を行っています。加えて、コミッティーはそのプロセスの最終段階において、 J.P.モルガン・アセット・マネジメントのシニア・リーダーとともに、提案された予想値とその論拠について厳正なレビューを実施しています。

多くの投資家が、自らの投資方針と投資判断が一貫性のある見方に依拠することを確認し、様々なシナリオでのポートフォリオの状況を把握するために、当社のLTCMAを活用しています。

J.P.モルガン・アセット・マネジメントは、JPモルガン・チェース・アンド・カンパニーおよび世界の関連会社の資産運用ビジネスのブランドです。J.P.モルガンは、JPモルガン・チェース・アンド・カンパニーおよびその各国子会社または関連会社のマーケティングネームです。

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