Phase-Field モデルに基づく二相流数値解析手法の研究 -...

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17 回数値流体力学シンポジウム B9-4 Copyright © 2003 by JSFM 1 Phase-Field モデルに基づく二相流数値解析手法の研究 Study on Numerical Simulation Method for Two-Phase Flow Based on Phase-Field Modeling , , つく 16-1, E-mail: [email protected] Naoki TAKADA, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, 16-1, Onogawa, Tsukuba, Ibaraki 305-8569, JAPAN. Computational fluid dynamics methods based on the phase-field modeling (PFM) have been examined for simulating two-phase flows, which makes use of the Cahn-Hilliard free energy theory to model interface dynamics. Unlike other conventional methods, the PFM-based methods define surface tension as energy contribution due to gradient of mass density or concentration of binary component. In such a flow field, interface appears as a finite volume where physical properties of fluid vary steeply but continuously between phases. It is confirmed that the flux due to chemical potential gradient plays important role in advection and reconstruction of interface. In numerical simulations of drops in a shear flow, the results obtained with the PFM-based lattice-Boltzmann method agreed with the volume-of-fluid method predictions. In addition, a phase-filed direct numerical simulation method has been proposed to predict bubble and drop motions in immiscible two-phase fluid with high density ratio under gravity. 1.概要 , (1) Phase-Field モデル(PFM(1),(2) づき する らかにし, (2) に対する PFM ベース 案するこ ある. PFM , ボルツマン (Lattice Boltzmann Method, LBM) (3),(4) いた液 および シミュレーションを して される. PFM , および さを かつ に変 している , さを エネルギーによって する. , Volume of Fluid(VOF) (5) (6) , (1) Continuum Surface Force (CSF) モデル (7) わり エネルギー によって される, (2) , 学ポテンシャルバランスを して う,こ ある.そ , CSF デル しに に圧 映され, Donor-Accepter, TVDMARS, CIP アルゴリズムを ずし , きる. よって, PFM する , による きる (2) , 大変 す液 をより 易に する えられる. 2.統計力学的な二相流体界面のモデル化 2.1 自由エネルギー理論 ここ , モデル する van-der-Waals, Cahn-Hilliard エネルギー (8), (9) する.対 , また す変 φ づく エネルギーΨ するように, 態において する. , され, φ かつ する. Ψ えられる. ( ) + = Ψ 2 2 , φ κ φ ψ T dx (1) T するパラメータ ある. 1 , 位体 あたり エネルギーを . , 2 φ 因するエネルギー し, κ さに する Capillary parameter ある. , テンソル αβ P およ 学ポテンシャル η , (1) から以 ように される. β α β α β α φ φ κ δ x x P P + = (2) + = Ψ Ψ = 2 2 2 1 φ φ φ κ φ δ δ φ p P (3) ψ φ δ ψ δ φ = p (4) φ κ φ ψ φ δ δ η 2 = Ψ = (5) (4) , α , β , デカルト . さをより めるこ きるように,圧 テンソル(2) 学ポテンシャル(4) κ をそれぞれ 1 κ 2 κ にして えている (10)-(12) Phase-Field モデルに づく , (2)-(5) んだ くこ によって いを する あり, 学を したマルチフィジックス CFD ある. (1) バルク エネルギー ψ , φ に対する double-well あり, ボルツマン (LBM) 体モデ 2 されている. (1) Binary Fluid Model (BFM) (13),(14) BFM , 体を , , A また B に多い して される. Swift らによる LBM BFM (13),(14) された ψ , φ して A B B A n n n + = B A n n n = れている. ( )( ) + + + + + = n n n n n n n n n T n n n n n T C 2 ln 2 2 ln 2 2 ψ (6) C T すパラメータ ある. , ここ A, B する , より一 された ある. AB C T より T する. (2) van-der-Waals (vdW) Model (10),(15)

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  • 第 17回数値流体力学シンポジウム B9-4

    Copyright © 2003 by JSFM 1

    Phase-Fieldモデルに基づく二相流数値解析手法の研究 Study on Numerical Simulation Method for Two-Phase Flow

    Based on Phase-Field Modeling

    高田尚樹, 産業技術総合研究所, 茨城県つくば市小野川 16-1, E-mail: [email protected] Naoki TAKADA, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology,

    16-1, Onogawa, Tsukuba, Ibaraki 305-8569, JAPAN. Computational fluid dynamics methods based on the phase-field modeling (PFM) have been examined for simulating two-phase flows, which makes use of the Cahn-Hilliard free energy theory to model interface dynamics. Unlike other conventional methods, the PFM-based methods define surface tension as energy contribution due to gradient of mass density or concentration of binary component. In such a flow field, interface appears as a finite volume where physical properties of fluid vary steeply but continuously between phases. It is confirmed that the flux due to chemical potential gradient plays important role in advection and reconstruction of interface. In numerical simulations of drops in a shear flow, the results obtained with the PFM-based lattice-Boltzmann method agreed with the volume-of-fluid method predictions. In addition, a phase-filed direct numerical simulation method has been proposed to predict bubble and drop motions in immiscible two-phase fluid with high density ratio under gravity.

    1.概要 本報の目的は, (1) Phase-Fieldモデル(PFM)(1),(2)に基づき二相流

    体界面を追跡する数値計算手法の特徴と既存の計算手法との関係を明らかにし, (2) 高密度比の二相流に対する PFMベースの直接数値解析手法を提案することである. PFM の適用可能性は, 格子ボルツマン法(Lattice Boltzmann Method, LBM)(3),(4)と提案手法を用いた液滴および気泡の数値シミュレーションを通して検討される. PFMは, 多相流体中の密度および粘性等の物性は有限な厚さを持つ界面の中で急激かつ連続的に変化しているとみなし, その分布形状と界面厚さを系の自由エネルギーによって決定する. 本手法の主な特徴は, Volume of Fluid(VOF)法(5)等の従来の界面追跡法(6)と異なり, (1)表面張力がContinuum Surface Force (CSF)モデル(7)に代わり界面エネルギーの定義によって計算される, (2)界面の移流計算では, 非平衡系の瞬時局所的な化学ポテンシャルバランスを考慮して界面形状の再構成を行う,ことである.その結果, CSF モデルの適用なしに表面張力の影響が自動的に圧力場に反映され,Donor-Accepter, TVD,MARS, CIP等のアルゴリズムを必ずしも用いなくとも, 界面の輸送と再構成を実行できる. よって, PFM を利用する計算手法は, 相変化や溶解による界面の移動を自然に再現できる(2)他, 合体や分裂等の大変形を繰り返す液滴や気泡群の多数の界面をより容易に追跡する能力を持つと考えられる. 2.統計力学的な二相流体界面のモデル化 2.1 自由エネルギー理論 ここで, 二相流体界面のモデル化に使用する van-der-Waals,

    Cahn-Hilliard自由エネルギー理論(8), (9)を簡単に説明する.対象となる二相は, 流体の質量密度または成分濃度の非均一な空間分布を表す変数φに基づく系の自由エネルギーΨを最小化するように, 平衡状態において分離・共存する. その結果, 二相界面は自律的に形成され, φの値は界面近傍の有限な領域中で急激かつ連続的に変化する. 本研究のΨは,最も簡単な次の形式で与えられる.

    ( )

    ∇+=Ψ ∫

    2

    2, φκφψ Tdx (1)

    Tは系の温度に相当するパラメータである. 上式の右辺第1項は, 単位体積あたりの流体の自由エネルギーを表す. 一方, 第 2項は,界面近傍のφの勾配に起因するエネルギー増分に相当し,比例定数κ は表面張力と界面厚さに関係するCapillary parameterである.

    界面が存在し, 密度分布が不均一な場の圧力テンソルαβP およ

    び化学ポテンシャルηは, 式(1)から以下のように導出される.

    βαβαβα

    φφκδxx

    PP∂∂

    ∂∂+= (2)

    ∇+∇−=Ψ−Ψ= 22

    21 φφφκ

    φδδφ pP (3)

    ψφδψδφ −=p (4)

    φκφψ

    φδδη 2∇−

    ∂∂=Ψ= (5)

    式(4)は状態方程式, 下付添字α , β は, デカルト座標系の指標を表す. 本研究では,表面張力と界面厚さをより柔軟に決めることができるように,圧力テンソル(2)と化学ポテンシャル(4)に共通する係数κ をそれぞれ 1κ と 2κ にして独立に値を与えている

    (10)-(12). Phase-Field モデルに基づく二相流数値解析手法は, 上式(2)-(5)を組み込んだ巨視的な流れ場の支配方程式を解くことによって二相流体界面の振舞いを再現するものであり, 非平衡系の統計熱力学を融合したマルチフィジックスなCFD手法である. 式(1)の流体のバルクのエネルギーψ は, 密度変数φに対する

    double-well 関数であり, 格子ボルツマン法(LBM)の二相流体モデルでは次の2つの形式が適用されている. (1) Binary Fluid Model (BFM) (13),(14) BFMでは, 二成分系の二相流体を想定し, 各相は, 成分AまたはBの密度が相対的に多い領域として識別される. SwiftらによるLBMのBFM(13),(14)で採用された関数ψ は, 変数φとして成分AとBの密度の和 BA nnn += と差 BA nnn −=∆ が選ばれている.

    ( )( )

    ∆−∆−+

    ∆+∆++

    ∆−∆+=

    nnnnnnnnnT

    nnnnnTC

    2ln

    22ln

    2

    (6)

    式中の CT は臨界温度を示すパラメータである. 尚, ここでのA, Bは実在する特定の物質を指すものではなく, より一般化された指標である. A・Bの混合流体は, CT より低いTで二相に分離する. (2) van-der-Waals (vdW) Model(10),(15)

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    vdW Model(10),(15)は, 相変化を伴う気液系の熱力学的な振舞いを簡単に記述するものであり, 一成分密度 C=φ の二相流体に対して次の形式の関数を持つ.

    ( )

    −= Ca

    bCCTCTC

    1ln,ψ (7)

    定数aおよびbはそれぞれ, 流体を構成する粒子同士の長距離の引力作用と短距離の反発作用の強さを表す. wdWモデルの臨界点の温度パラメータ CT と密度は, ( )227/ ba および( ) 13 −b となる. 2.2 表面張力の定義と計算手順 表面張力σ は,界面近傍の密度勾配による自由エネルギー増分

    として定義される. 静止した平らな界面に対しては,界面での力の釣り合いを記述する Bukker の式(16)に圧力テンソルの式(2)を代入するとσ に関する次の定義式が得られる.

    ∫∞+

    ∞−

    ∂∂≡ dx

    x

    2

    1φκσ (8)

    ここで x 軸は界面の法線方向に沿っている.σ の値を式(8)から求めるためには,φのx軸方向(界面厚さ)の分布を知る必要がある.

    ( )xφ の値は,本研究では界面近傍の数個の空間格子点に渡って連続的に変化し, 化学平衡条件,

    ( ) constantT =2,, κφη , (9) を解くことで得られる.BFMの臨界温度 CT は,温度Tで均一な密度変数 n∆=φ の流れ場において次式から求められる.

    0=η , for 0=∇ φ . (10)

    本研究では, Phase-Field モデルに基づくシミュレーションで所定の表面張力σ を与えるための前処理計算を以下の手順で実施する(12). (1) σ の値と, 2κ , CT ,T ,および変数 n∆=φ の初期値を与える,(2) 平衡条件の式(8)を解いて界面の厚さ形状 n∆ を求める, (3) 得られた n∆ を式(7)右辺に代入して積分を実施する,(4) 最後に, ÷σ (式(7)右辺の積分値)によって 1κ の値を決める.

    Fig.1は,式(8)より得られる平坦な界面の厚さ形状 n∆=φ の理論解を示す(12).界面は,図中では n∆ の連続的な遷移領域に相当

    し,その幅は係数 2κ の値とともに増加する.後述のせん断流中の液滴の変形・分裂シミュレーションでは,Fig.1 と同じ CT =0.533, T =0.5, 初期値 0n =1および 0n∆ =0.42と 2κ =0.01を用いた結果,単位長さの空間格子で離散化された流れ場において界面は 2~3格子点分の幅で現われる.Table 1は, 2κ の各値に対する表面張力σ と 0=∆n での密度勾配を示す.温度等の値はFig.1と同じである.係数 2κ の値すなわち界面の厚さが増すにつれて,σ と勾配は減少する.尚, 本研究では,界面の代表位置を変数φの中間値(BFMでは n∆ =0)の等高面と見なした. 3.Phase-Fieldモデルを用いた二相流数値解析手法 3.1格子ボルツマン法(LBM)

    LBM(3),(4)は,流体を仮想的なメゾスケールの粒子の集合体と仮定し,粒子が繰り返す衝突と並進を通して巨視的な流動現象を創発的に再現する,統計力学的なモデル化手法である.LBMで近年開発されてきた一連の二相流体モデル(10)-(15), (17)-(19)は,上述の自由エネルギー理論に基づく自律的な相の分離と共存によって,界面の複雑な変形を伴う流体の挙動を再現することができる.本研究では,それらモデルの中で Swift らが提案した Binary Fluid Model(13),(14)(以下LB-BFM)を用いて,等温場における質量密度比1の非混和二成分系二相流体を計算対象に選ぶ.

    LB-BFMでは,粒子密度の変数n , n∆ および流速uが,離散的な粒子速度 ae に対する分布関数 faおよび gaを用いて次のように定義される(a:速度ベクトルの識別子, eq:平衡状態)(13).

    ∑∑

    =

    =

    a

    a

    eqaa

    aa ffn eeu

    111 (11), (12)

    ∑∑ ==∆ a eqaa a ggn (13)

    ∑=∆ a aeqagn eu (14) 時刻 tにデカルト空間座標x上に分布する関数 faおよび gaは,次の格子ボルツマン方程式(LBE) に従って時間発展する.

    ( )[ ]xe ,11

    tffftf eq

    aaaaa −−=∇⋅+

    ∂∂

    τ (15)

    ( )[ ]xe ,12

    tgggt

    g eqaa

    eqaa

    a −−=∇⋅+∂

    ∂τ

    (16)

    ここで式(14)の移流項は,界面での拡散を抑えられるようオリジナルのモデルから改良されている(12).上式右辺の BGK 近似の衝突項(20)において,τ1および τ2は平衡緩和時間であり,巨視的な輸送係数に関係する.また,平衡分布 faeqおよび gaeqには, αβP (2)

    およびη (5)が次式を通して組み込まれる(13).

    ( )( )∑ −−= a aaeqa ueuefP ββαααβ (17)

    ( )( )ββαααβδη ueueg aaa eqa −−=Γ ∑ (18) 式(17)のΓは易動度を示す係数である.LB-BFMが低Mach数で以下の二相流れの支配方程式を再現することは, Chapman-Enskogの方法もしくはS展開によって理論的に確認される(3),(4),(13),(21),(22).

    0=∂

    ∂+

    ∂∂

    β

    β

    xun

    tn , C

    xun

    tn =

    ∂∆∂

    +∂∆∂

    β

    β (19), (20)

    ∂∂+

    ∂∂

    ∂∂+

    ∂∂

    −=∂

    ∂+

    ∂∂

    β

    α

    α

    β

    ββ

    αβ

    β

    βαα νxun

    xun

    xxP

    xuun

    tun

    Table 1 Surface tension σ and gradient of n∆ for 2κ

    0.222

    0.317

    0.389

    0.550

    Max.

    0.1250.06

    0.1790.03

    0.2190.02

    0.3100.01

    0.222

    0.317

    0.389

    0.550

    Max.

    0.1250.06

    0.1790.03

    0.2190.02

    0.3100.01

    n∆∇1/ κσ2κ

    Fig. 1 Theoretical thickness profile of a flat interface

    -4 -2 0 2 4-0.4

    -0.2

    0.0

    0.2

    0.4

    0.010.020.030.06

    Func

    tion

    x coordinate

    T = 0.5TC = 0.533

    = 0.42n = 1.0

    0n∆

    x=0

    B-rich

    x

    A-rich

    Transient zone

    x=0

    B-rich

    x

    A-rich

    Transient zone

    0

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    ∂∂

    ∂∂+

    β

    β

    α

    λxun

    x (21)

    ここで,連続の式(19)と運動方程式(20)はLBE(15)より導出され,界面形状 n∆ の移流拡散方程式(21)はもう一方のLBE(16)から得られる.式(19)の動粘性係数ν は次式で表される(17).

    141τν = (2次元) , 13

    2τν = (3次元) (22), (23)

    式(18)右辺の項Cは µ∆ の式(5)を含み,平衡状態で消える. LBE(15)および(16) の計算を実施する際,数値安定性を高める

    ことが容易な有限差分格子ボルツマン法(23)に基づき,時間と空間の微分に対して 2次精度のRunge-Kuttaおよび 3次精度の風上差分スキームを適用した(12).また,空間を,2次元および 3次元のデカルト座標系において幅 x∆ = y∆ = z∆ =1 の正方格子および立方格子で一様に離散化している.

    Figure 2は,LB-BFMを用いて得られた, 2次元の平衡静止液中に浮かぶ液滴内外の圧力差 P∆ に関する計算結果を示す(12).外部の圧力は TnP 00 = =0.5である.図に示されるように,LB-BFMは,曲率半径 2/DdR = と係数 2κ の各値に対して,表面張力の定義式(6)とLaplace則 DdP /2σ=∆ から予測される理論解(実線)と良く一致する圧力増加を与えており, 自由エネルギー理論に基づく界面モデルが妥当であることが確認される.

    3.2 二相流支配方程式の直接数値解析手法 上述の LBM は, 微視的な流体粒子の密度に関する速度分布関数の時間発展を計算するのに対して, 既に提案されている PFMの数値解析手法は, 式(19)-(21)のような巨視的な二相流の支配方程式を直接解いている. 本節では, 既存の PFM 手法と, 稲室らにより開発された二相流体 LBM(11)を基礎に, 高い質量密度比の二相流を取り扱うことが可能な新しいPFM解析手法を提案する. (1) 基礎方程式 本研究で扱う基礎方程式は, 非圧縮性かつ等温で質量密度ρを持ち, 相変化のない二相流体を対象として, 以下のような連続の式, 運動方程式,および界面の形状を記述する流体成分の密度変数

    Corn ,,∆=φ の輸送方程式となる.

    0=∂∂+

    ∂∂

    ββ

    ρρx

    ut

    (24)

    ∂∂+

    ∂∂

    ∂∂+

    ∂∂

    −=∂∂+

    ∂∂

    β

    α

    α

    β

    ββ

    αβ

    β

    αβ

    α µρ x

    uxu

    xxP

    xuu

    tu 1

    αg+ (25)

    Sxu

    t=

    ∂∂

    +∂∂

    β

    βφφ (26)

    上式には, 既存の各種の離散化スキームと圧力・速度の計算アルゴリズムを適用できるが, 本研究では, 式(25)の計算に3次または4 次精度の風上差分スキームと SMAC 法等を用いている. 式(25)に風上差分. 式(25)右辺の最終項は外力(浮力等)を表し, 粘性係数µ は質量密度ρとともにφの関数として有限な厚さの界面内部で連続的に変化する. 本研究では, 式(25)の圧力項を, 式(2),(3)の代入により以下の簡単な形式に変形して計算している.

    ααβ

    αβSFx

    pxP

    +∂∂−=

    ∂∂

    − , (27)

    φφκα

    α2

    1 ∇∂∂=x

    FS , ( Cn,∆=φ or ρ ) (28)

    圧力 pは, 非圧縮性で相変化なしの二相流を対象とする本研究では, 流れ場の一変数として扱われる. 表面張力項 αsF (28)において,

    1κ はσ の定義式(8)のものと同じ係数であり, 変数φには, BFMの n∆ , vdW ModelのC , または質量密度ρが選択される. 式(26)は, 流速uによる二相流体の移動を考慮したCahn-Hilliard

    (以下 C-H)方程式であり, 右辺の項Sは非平衡状態でのポテンシャルの局所勾配により生じるφの流れを表す. 局所で平衡状態が成り立つ場合はS =0であり, C-H方程式(26)は, 既存の界面追跡法における液相体積率やLevel Set関数の輸送方程式と同型である. (2) Phase-Fieldモデルにおける界面の輸送

    C-H 方程式(26)のSは, 化学ポテンシャルη を用いると以下の一般的な形式で書かれる(1),(9).

    ( )ηχ ∇⋅∇=S (28) ここでχ は式(18) (13)のMobilityに相当する係数である. η をCに置き換えれば, 式(26)は単純な移流拡散方程式になるが, C-H方程式はη の勾配に比例したφの流量 ηχ∇ を加えることにより, 界面近傍の空間で連続的かつ急激に変化する変数φの分布を与えている. 本研究では, 稲室らの二相流体 LBM(10),(11)に従い, 式(28)を拡張してより広義のポテンシャルエネルギーを考慮したC-H方程式を提案する. この式では, ポテンシャル勾配によるφの時間変化Sは, 第 2.1節で示した流れ場の圧力の式(2)と同じ形の 2階のテンソルを用いて以下のように定義される.

    ∂∂

    ∂∂=

    β

    βα

    α

    χx

    Ux

    S (29)

    βαβαβα

    φφκδxx

    UU∂∂

    ∂∂+= 2 (30)

    ∇+−

    ∇−

    ∂∂= 2222 2

    φκψφκφψφU (31)

    上式中の 2κ は, 式(8)中のものと同じ, 界面厚さを定義する係数であり, 2κ が小さいほど界面は薄くなる. 式(29)は, 一般的なC-H方程式の項(28)に, φの勾配のテンソル(式(30)右辺第 2項)と, 流体の自由エネルギー(式(31)右辺第 2 項)を追加したものに等しい. ここでは例として, 流体バルクのエネルギーψ に, vdW モデルの式(7)を適用し, 式(29)を式(30), (31)の代入により変形すると,

    C=φ のC-H方程式(26)は次の簡潔な保存形で記される.

    ( ) 0=++∂∂ Fu χCdiv

    tC (32)

    Fig.2 Pressure increments inside two-dimensional drop versus interfacial curvature

    0 0.05 0.1 0.150

    1

    2

    3[×10-3]

    Curvature of Interface 1/R

    Nor

    mal

    ized

    Pre

    ssur

    e In

    crem

    ent (Theoretical: )

    8.77 10-36.20 10-35.06 10-3

    4.38 10-3

    3.57 10-3

    0.010.0150.020.03

    Results by LBM for

    0.005

    =0.02

    P

    /P0

    σ×××××

    0PPP ∆+0

    R0PPP ∆+0

    R

    1κ2κ

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    化学ポテンシャルおよび自由エネルギーの局所勾配で生じる流束Fは, 式(29)から以下の形式に変形される.

    ( )CCC 22 ∇∇+∇= κζF (33)

    ( ) CabCT 2

    1 2+

    −−=ζ (34)

    尚, 上式のT は実際の流体温度ではなく, 係数a , b , 2κ とともに界面の厚さ形状を決定するパラメータである. (3) Phase-Fieldモデルにおける界面の輸送と再構成 次に, 式(32)-(34)を用いた Phase-Field モデルにおける界面の輸送計算の特徴を検討する. 既にFig.1に示されるように, PFMの界面は, 式(33)の 2κ が小さくなるにつれて薄くなり, 2κ =0 では| C∇ |=∞で厚さなしになる. 実際の計算では, 空間を有限サイズのセルで離散化するため, 界面はセル境界に沿う jaggy なCの不連続面となって現われる. これは, 拡散係数に相当するζ (式(34))が界面の厚さの中心付近では負の値を取るためである. これに対して, 同式の右辺第 2 項は厚さ中心付近では正の値を取り, 界面の厚さを増加させる効果を持つ. 一方, 界面厚さの両端ではこれらの符号は逆になる. PFM は, 以上のような密度変数の拡散を調整するメカニズムによって界面の厚さが一定に保持されている.

    Fig.3は, 式(32)の検証のために行った, 界面の2次元非定常移流問題のテスト計算結果を示す( 1=χ ). 幅 x∆ = y∆ =1 の正方形セルで一様に離散化された(x,y)座標空間上で, 直径32の円形状の界面を座標軸に対して斜め 45°方向に一様な一定速度で移動させた. Courant数はx, y方向ともに4×10-3である. 式(32)の差分化では, 移流項に4次精度中心差分, 時間進行に2段階Runge-Kuttaスキームを適用した. 移動距離が直径の 6.25 倍になった時の図(b),(c)から分かるように, 流束Fは数値的な振動や拡散を抑制する働きを持ち, 変数Cの形状は初期状態(a)を良く保持しながら輸送されている. このベンチマーク結果は, LBMなどPFMに基づく手法が既存の界面追跡法とは異なる統計力学を利用したアルゴリズムで界面の輸送と再構成を実現できることを証明している. 4.数値シミュレーションの結果と考察 本章では,PFMに基づく二相流数値解析手法を用いて行った二相流数値シミュレーションについて述べる. 最初に, 3.1 のLB-BFMによる2次元および3次元せん断流中における液滴の変形・分裂シミュレーション(12)で PFM の二相流数値解析への適用可能性を検討した後, 3.2で提案した直接数値解析手法による2次元の重力下の液滴・気泡の挙動シミュレーションの結果を示す. 4.1 せん断流中の液滴の変形・分裂シミュレーション 計算対象の2次元および3次元の流れ場(Fig.4)は,yもしくはz方向に幅Hで置かれた 2枚の平行平板に挟まれ,x,y方向に関して長さL xおよびL yの空間周期性を持つ. 平板は,一定速さ

    WU で相互に逆方向へ水平に移動し,ひずみ速度γ& = HUW /2 のせん断速度分布を発生させる.初期条件では,その流れ場の中央に,直径dD =16の円形または球形の液滴が,同じ質量密度と粘性

    の液相中に浮遊している. 平板上の格子点での分布関数 af と agの計算には外挿法の境界条件(24)が適用される. シミュレーションは,液滴直径をdD =16で固定し,Reynolds数

    ReおよびCapillary数Ca の条件を変えて実施された.

    νγ&2

    2

    = DdRe ,

    σνγ

    2&DdCa = (35), (36)

    最初に,液滴の変形および分裂に関するLB-BFMの妥当性を検討するため,計算結果を微小変形の理論解(25)および VOF 法による従来の数値解(26)と比較する.ここでは,定常状態における液滴の変形量を,Fig.5 に示される, Taylor Deformation Parameter

    ( ) ( )BLBLD +−= / およびOrientation Angleθを用いて測定する.前者において L と B は液滴の垂直断面内に描かれる楕円体の長径と短径の半分の長さを示す.本計算の初期状態では,H =128, L x=64, L y=32の領域内で液滴と連続相は静止しており,平板が突然移動し始めることにより,時間に依存するせん断速度場が形成される.Reynolds数は,2次元,3次元においてそれぞれ0.333, 0.0625に固定し,Capillary数Caの条件のみを変化させた.

    Fig.6およびFig.7に,液滴の変形パラメータDおよびθの計算結果を理論解(25)とVOF法の数値解(24)とともに示す.Dに関しては,3 次元の結果は,Ca に対する増加傾向の点で理論解およびVOF法の解と一致している.その一方,2次元では高いCa数で3次元の場合より理論解に近い値が得られた. また,角度θに関する LB-BFMの結果は,VOF法の結果と良く一致しており,理論値よりも大きな値が得られ,Caの増加とともに変形がより進むと理論との差が広がるという傾向が従来と同様に現われている.

    0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.60.0

    0.2

    0.4

    0.6

    Ca

    Tayl

    or D

    efor

    mat

    ion

    Para

    met

    erD LBM(2D,Re=0.333)

    VOF(3D,Re=0.0625)

    Small deformation theory(R.G.Cox,1969)

    LBM(3D,Re=0.0625)

    Fig.6 Taylor deformation parameter of drop in steady state.

    LB xθ

    θ−45(Deg.)

    y zor

    LB xθ

    θ−45(Deg.)

    y zor

    Fig.5 Measures of deformation and orientation of drop.

    BLBLD

    +−=

    x

    y

    z

    Dd

    H

    yL

    xL

    WU

    WU

    Parallel plates

    Drop

    Plate speed

    x

    y

    z

    Dd

    H

    yL

    xL

    WU

    WU

    Parallel plates

    Drop

    Plate speed

    Fig.4 Flow field schematics in two and three dimensions

    Drop

    WU

    WU

    DdHxL

    y

    x

    Plate

    Plate

    discretized with mesh width x∆ = y∆ = z∆ =1.

    Fig.3 Two-dimensional transfer of circular-shaped interface. (a) Initial condition and the profile after transfer with (b)F and (c) 0=F .

    (a) (b) (c)

    C

    x

    y

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    次に,上述と同じ直径dD =16の液滴に対してRe, Ca両方を変更してシミュレーションを実施した.計算領域はH = L x=64, L y=32に設定し, 初期条件で連続液相側に完全に発達したせん断速度分布を与えた.

    Figure 8は,Ca=0.3 ,およびRe=0.01から0.6に対する,y=16のx-z 断面内における界面形状と流速分布の計算結果を示す.VOF法による従来の結果と同様に,Reの増加に伴って液滴はより大き

    く変形して定常状態に達する様子が観察されるが, 分裂は生じない. 一方, より大きなReynolds数0.75では, Fig.8に見られるように液滴は楕円体からダンベル形状に変形が進み, 最終的には 2つに分裂した. これらの計算で得たTaylor Deformation Parameter DをTable 2に示す. LB-BFMが与えるDの値は, VOF法の解における増加傾向に一致し, 同一のReで分裂が起こっている. 以上のような液滴シミュレーションを様々なCaとReの下で行って分裂の有無を確認した. Fig.10のCapillary-Reynolds数平面には,各Re, Caの条件での液滴挙動に関して,分裂ありと変形のみの結果をそれぞれ白抜き,黒塗りの記号によって示している. 図中の鎖線は,VOF法の数値結果から予測される分裂の臨界条件(24)

    を表し,鎖線下のCa-Re条件では液滴は楕円体に変形したまま定常状態に達する. LB-BFMによる3次元の計算結果はVOF法による予測と一致しており,同図はLB-BFMが界面の変形だけでなく,その後で生じる分裂をも適切に予測できることを示している. 最後に,変形・分裂に対する液滴間相互作用を調べるため,液滴の初期位置を変化させて,Ca =0.3およびRe =1.0の条件(Fig.10

    0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.60

    10

    20

    30

    40

    45-

    (de

    g.)

    Ca

    LBM(2D,Re=0.333)

    VOF(3D,Re=0.0625)Small deformation theory(Cox,1969)

    LBM(3D,Re=0.06253)

    Fig.7 Orientation angleθ of drop in steady state.

    Fig.8 Predicted steady-state drop shapes and flow field on a cross section in x-z plane through the center of the drop at Ca=0.3.

    (a) Re=0.01 (b) Re=0.1

    (c) Re=0.5 (d) Re=0.6

    Fig.9 Snapshots of 3D drop breakup for Ca=0.3 and Re=0.75, at t*=t×2UW / H, t is time of flow field and t∆ =0.25.

    (a) t*=105.7 (b) t*=109.9

    Table 2 Taylor deformation parameter D in LBM simulation at Ca=0.3, compared with the VOF method prediction.(26)

    VOFLBM

    breakbreak

    0.75

    0.47680.450.38690.4590.4290.347

    0.60.50.1

    VOFLBM

    breakbreak

    0.75

    0.47680.450.38690.4590.4290.347

    0.60.50.1Re

    D

    Re

    D

    xy

    zx

    y

    z

    Dd2Dd4

    Dd2Dd4

    Dd2Dd

    Fig.11 Initial conditions and snapshots of two-drop interaction for Ca=0.3 and Re=1 at t*=t×2UW / H.

    Case (a)

    Case (b)

    xy

    zx

    y

    z

    Dd2DdDd

    t*=31.25

    t*=33.20 t*=35.16 t*=37.11

    t*=12.70

    t*=39.06

    0.2 0.3 0.40

    2

    4

    6

    8

    10

    Re

    Ca

    Breakup (2D)Non-Breakup(2D)

    Non-Breakup(3D)Breakup (3D)

    Critical values (3D VOF)

    Fig.10 Diagram of two- and three-dimensional drop breakup in terms of the capillary and Reynolds numbers.

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    では分裂が生じ得る値)で3次元のシミュレーションを行った(12).計算領域と液滴径dDは前述の場合と同じであるが,同じ領域に液滴を2個浮かべて液滴数密度を前節の倍とした.計算結果では,Fig.11に示されるように,2つの球形状の液滴がともに流路中間のx-y 平面上に配置される Case(a)においては,分裂は起こらず定常状態で楕円体状の界面が現れている. それに対して,流路の中間x-y平面から距離dD離れて異なる高さに中心が配置された液滴は,すれ違って移動しながら無次元時間 t*=35.16より後で2つに分裂した(同図Case(b)). 以上の結果は,多数の液滴の変形・分裂が,せん断の強さ,粘性,表面張力,液滴の数密度(空間の周期性)だけでなく初期位置にも依存することを示唆しており,効率的な二相流体の微細化には液滴の配置の情報が重要になることが推測できる. 同様の流れ場における圧力分布の計算結果を Fig.12に示す. 初期条件での圧力は, 外部で 0.50 に対して球形液滴内では約6.5×10-3高い. 液滴径 Dd と数密度はFig.11と同じであるが, 液滴

    は2つとも初期条件で流路中央y=16のx-z平面上に配置されている. Case(c)の結果では, Fig.11Case(a)と同様に液滴は楕円体に変形して定常状態に達し, 液滴内部の圧力が界面の曲率が大きい両端付近でより高くなっている. 一方, Case(b)と同じく液滴が2つに分裂した Case(d)では, 液滴内部の圧力は, 楕円体形状の長軸両端部だけでなく, 変形がさらに進んだダンベル形状のスロート部においても上昇している. 無次元時間 t*=35.16 では, 界面の代表位置を示す 0=∆n の等高線は 1 本で閉じているが, スロート部の圧力分布からは液滴はこの時点で実質的には既に分裂していることが観察される. 以上から, 本研究では, 非平衡統計力学に基づく Phase-Field モデルを組み込んだLB-BFMは,(1)従来の数値解析手法とほぼ同じ精度で二相流体界面の変形と破断を予測することができる, (2)表面張力が働く定常・非定常の速度場と圧力場を既存の界面追跡・再構成アルゴリズムなしに再現できる, ことを確認した. 4.2 2次元重力下の液滴落下・気泡上昇の数値シミュレーション 本節では, 第3.2節で提案された, PFMベースの二相流直接数値解析手法による, 2次元・重力下での液滴の落下および流路内の単一気泡の上昇に関する数値シミュレーション結果を示す. 手法の適用可能性を検討する第一段階として, Fig.13 に示される 2 次元計算領域における液滴の落下をシミュレートした. 幅

    1=∆=∆ yx のメッシュで離散化された空間は, 上下の固体壁境界と左右両側の周期境界で囲まれ, 下部壁の表面は 3 セル分の厚さの液滴と同じ相で覆われている. 液滴と連続相の質量密度比

    CD ρρ / =100, 粘性比 CD µµ / =5.0, 液滴径 Dd =20を与え, エトベ

    t*=15.63

    t*=39.06 t*=35.16

    t*=31.25

    t*=0.98 xy

    zx

    y

    z

    Dd2DdDd

    Dd2Dd4

    Dd4

    Dd2Dd

    xy

    zx

    y

    z

    Dd2DdDd

    Dd2Dd4

    Dd4

    Dd2Dd

    Fig.12 Snapshots of pressure field around deformed drops on a cross section in x-z plane for Ca=0.3 and Re=1 at t*=t×2UW / H.

    xy

    zx

    y

    z

    Dd2Dd4

    Dd2Dd4

    Dd2

    Dd

    xy

    zx

    y

    z

    Dd2Dd4

    Dd2Dd4

    Dd2

    Dd

    Case (c)

    Case (d)

    Fig.13 Initial and boundary conditions in simulation of free-falling drop under gravity for CD ρρ / =100, CD µµ / =5.

    Fig.14 Snapshots of pressure field around 2D drop under gravity for CD ρρ / =100, CD µµ / =5, Eo=76.7 and M=0.195.

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    ス数Eoを76.7, モルトン数Mを0.195とした. この計算では, C-H方程式(26)にBinary Fluid Modelの自由エネ

    ルギーを適用し, 式(25)中の密度ρ および 粘性係数µ を以下の密度変数 n∆ の1次の補間式によって与えている.

    ( )CDD nn ρρρρ −

    ∆∆++=

    0

    121 for

    0nn ∆≤∆ (37)

    ( )CDD nn µµµµ −

    ∆∆++=

    0

    121 for 0nn ∆≤∆ (38)

    Cρρ = , Cµµ = , for 0nn ∆−≤∆ (39)

    Dρρ = , Dµµ = , for 0nn ∆≥∆ (40) 下付添字DおよびCは液滴および連続相の物性を意味する. Fig.14 は, 本計算で得られた圧力分布と界面の形状を示している. 変形しながら落下する液滴が下部壁面上の液相に接触する直前, 圧力は壁面と液滴の間で急激に上昇し, 液滴が壁面に衝突した後, 周囲に連続的に飛散する小さな液滴が捕えられている. この結果は定性的には妥当であり, 提案された数値解析手法が質量の異なる二相流体の挙動を再現できることを示している. 次に本研究では, Fig.15 に示される矩形閉空間内を浮力により上昇する単一気泡の計算を行った. ここでも上記同様, 二相の密度比を 1:100 に設定し, 密度ρと粘性係数µ は式(37)-(40)に従って計算される. 領域下部に配置される気泡の初期形状は, 3種類のアスペクト比, a: b=(A)1:4, (B)1:1, (C)4:1, に対して体積V が

    πab π100= の楕円形または円形となるように決められた.

    Fig.16は, Case(A)a:b=1:4の場合に得られた, 気泡界面の形状と速度分布, ならびに密度変数 n∆ の空間分布を示す. カラー図中の赤い部分は液相を, 青い部分は気相を表し, 界面形状は正方形メッシュ 3個相当の厚さをもって再現されている. 他の初期アスペクト比の場合でも, Fig.16 とほぼ同じ速度分布と気泡形状が観察されたほか, Fig.17に示されるように, 気泡の上昇終端速度も3種類の初期形状に対して一致した (気泡 Reynolds 数=17). このような結果から, 本数値解析手法は移動する界面に対して表面張力

    Fig.16 Snapshot of 2D bubble interface shape and velocity field for a:b=1:4, LG ρρ / =0.01, LG µµ / =0.1, Eo=12.8, M=8.3×10

    -4.

    Fig.17 Rising velocity of 2D single bubble.

    0.2 0.4 0.6 0.8 1[×105]

    0

    0.02

    0.04

    0.06

    0.08

    0.1

    Ris

    ing

    Vel

    ocity

    Time steps

    Eo = 12.8M = 8.3×10-4

    (A)(B)(C)

    a:b=1:4a:b=1:1a:b=4:1

    μ /μ =0.1ρ /ρ =10-2G L

    G L

    ( )17Re =B085.0

    a

    b

    xy

    ππ 100== abV

    0.2 0.4 0.6 0.8 1[×105]

    0

    0.02

    0.04

    0.06

    0.08

    0.1

    Ris

    ing

    Vel

    ocity

    Time steps

    Eo = 12.8M = 8.3×10-4

    (A)(B)(C)

    a:b=1:4a:b=1:1a:b=4:1

    μ /μ =0.1ρ /ρ =10-2G L

    G L

    ( )17Re =B085.0

    a

    b

    xy

    ππ 100== abV

    a

    b

    xy

    xy

    ππ 100== abV

    W

    H

    π100=S

    1=∆=∆ yx80=W

    WH 4=

    xy

    xy

    0x

    0y

    405.00 == Wx300 =y

    Lρ Lµ

    Gρ Gµ

    1=Lρ1.0=Lµ

    210/ −=LG ρρ1.0/ =LG µµ

    g

    Wall

    3102 −×=g

    a

    b

    xy

    xy

    ππ 100== abS Bubble

    Fig.15 Initial and boundary conditions in simulation of rising bubble under gravity.

    Fig.18 Time series of snapshots of 2D interface shape of drop and film predicted by the proposed PFM-based method for

    CD ρρ / =801.7, CD µµ / =73.76, Eo=12.9, M=2.21×10-12.

    (a) (b)

    (c) (d)

    (e) (f)

    (g) (h)

    y∆80

    x∆120

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    の効果を適切に与えることが出来ることを確認した. 以上で述べた数値結果の定性的な妥当性を踏まえた上で, より高い質量密度比の二相流体の挙動計算も実施した. Fig.18 に示すのは, 落下する液滴と固体壁面上の液膜との衝突の計算結果である. 計算領域は, 幅 x∆ = y∆ =1 の正方形セルで離散化され, 周囲を壁で囲まれている. 計算条件は, 密度比 CD ρρ / =801.7, 粘性比

    CD µµ / =73.76, Eo=12.9, M=2.21×10-12で, 直径 Dd =20の液滴が高

    さ3.25 Dd に初期配置された. 図に見られるように, 落下した液滴が液膜に衝突・合体した後で液膜の波が周囲に伝播し, 前出の結果(Fig.14)と異なり, 界面の微細な振動が現われている. 最後に, 水-空気に相当する条件で行った, 2 次元単一気泡の上昇シミュレーションについて触れる. 上記とは異なり, このシミュレーションでは, 界面の移流は本研究で提案・定式化されたC-H方程式(32) ( 1=χ )に基づいて計算される他, 密度と粘性係数の補間式と表面張力の定義は稲室らによる二相流体 LBM(11)のものと同じである. 対象は水中の直径 Bd =6mmの空気泡として, 計算条件として密度比 GL ρρ / =801.7, 粘性比 GL µµ / =73.76, Eo=12.9, M=6.99×10

    -11

    を設定した. 計算領域のセル幅 x∆ = y∆ =1は0.1875mmに相当し, 気泡は直径 32で, 初期状態において幅 640×高さ 1280の壁で囲まれた矩形領域の下部中央に配置される. Fig.18は, 気泡の界面形状と速度ベクトル分布の計算結果を示す. 上昇するに従って, 後流が発達する様子が現われている. 気泡の上昇速度の時間発展をFig.19 に示す. 本計算での 0.8 秒までの平均上昇速度は 0.144m/sとなり, これはGraceらが示した終端速度の理論式(27)の値0.14m/sに近い. 以上により, さらなる検討が必要であるものの, 本研究で提案された解析手法は, 水-空気のような高い質量密度比の二

    相流体の振舞いを適切に再現する能力を備えていると考えられる. 5.まとめ 本報では, (1) Phase-Fieldモデル(PFM)(1),(2)に基づき二相流体界面を追跡する数値計算手法の特徴と既存の計算手法との関係を示すとともに, (2) 稲室らによる格子ボルツマン法(LBM)の二相流体モデル(10),(11)を参考として PFM ベースの二相流直接数値解析手法を提案した.

    PFMの適用可能性は, まずLBMのBinary Fluid Model (LB-BFM)を用いて,せん断流中に浮かぶ液滴の変形・分裂の 2次元・3次元数値シミュレーションを通して検討された. その計算結果は微小変形理論解およびVolume of Fluid法の数値解と定量的に良く一致し, PFMの計算手法が従来手法と同じ精度で二相流体の挙動を再現できることが確認された. 続いて, 上記(2)に関連して, 界面追跡のためのCahn-Hilliard方程式をポテンシャルエネルギー勾配による流束を考慮して定式化し, .PFMに基づく手法が既存の界面追跡法と異なる統計力学的アルゴリズムでも精度良く界面の輸送と形状の再構成を実現することを証明した. 加えて, 提案した数値解析手法を用いて質量密度比100および1000の液滴・気泡の2次元数値シミュレーションを実施し, 定性的に妥当な結果を得た. 参考文献 (1) Jacqmin, D., “Calculation of two-phase Navier-Stokes flows using

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    Fig.19 Time evolution of rising velocity of air bubble in water.

    Fig.18 Snapshot of 2D bubble interface and velocity field.

    0 0.2 0.4 0.60

    0.1

    0.2

    V BB

    ubbl

    e R

    isin

    g ve

    loci

    ty

    (m/s

    )

    Time (s)

    dB =6mm

    0.144m/s

  • 第 17回数値流体力学シンポジウム B9-4

    Copyright © 2003 by JSFM 9

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