Post on 22-Feb-2022
The making prosperity and poverty (38度線の経済学)
・韓国
‣生活水準:ポルトガルやスペインと同じ
‣地図7(衛星写真)→光輝いている
・北朝鮮
‣生活水準:サハラ以南のアフリカに近い。韓国の平均的水準の10分の1
→健康状態:悪い。寿命が10年短い
地図7→電力不足のため暗い
◎南北の違いは昔からのものではない。第2次世界大戦の終結以前には存在しなかった。 →1945年以降、南北の別々の政府は経済を構築するのに全く異なる手法をとった
韓国
・指導者(大統領):李承晩、のち朴正煕 ・反共産主義
・市場経済を推進、私有財産を認めた→急速な経済成長へ
北朝鮮 ・指導者:金日成、のち金正日
・共産主義
・市場は禁止、私有財産は法的に認められず→人々のあらゆる領域の自由が奪われた
北朝鮮
◎金日成の計画経済とチュチェ体制はまもなく大失敗に終わった
‣工業生産が軌道に乗り損ねただけでなく農業生産性も急落
→私有財産が持てないせいで、生産性増進のため、あるいは維持のためにすら、投資や努力をするインセンティブを持つ人はほとんどいなかった
→抑圧的な政治制度はイノベーションを起こしたり新しいテクノロジーを取り入れるには不向き
‣体制を改革したり、私有財産、市場、私的契約の導入や政治・経済体制を変えず
→経済は停滞し続けた
韓国
‣経済制度によって投資と通商が推進された
‣政治家は教育に投資し、高い識字率と通学率を達成
これにより韓国企業は比較的教育水準の高い人材と投資を奨励したり、工業化、輸出、技術移転を推進する政策を利用
→東アジアの「奇跡の経済」に仲間入りし、世界で最も速く成長する国の一つになった
Extractive and inclusive economic institution(収奪的な経済制度と包括的な経済制度)
◎国によって経済的成功の度合いが異なるのは、制度、経済の動きを左右するルール、人々を動機づけるインセンティブが異なるため
・北朝鮮のティーンエイジャー
‣貧困の中で育つ→起業家精神×、創造性×、十分な教育×、コンピューター・本×
→自分がどんな人権を持つことになるのかさえ確信ができない
・韓国のティーンエイジャー
‣教育◎、自ら選んだ職業で秀でるよう促すインセンティブ〇
・包括的な経済制度 ‣大多数の人々が経済活動に参加できるし、またそう促す制度
→人々は才能や技術を最大限活用・個人は自ら望む選択をする
‣条件:安全な私有財産、公平な法体系、公共サービスを特徴とすること。→国家を必要とし活用する 新しい企業の参入・自分のキャリアを選ぶことを可能とすること ⇒経済活動、生産性の向上、経済の繁栄を促す
・収奪的な経済制度 ‣圧倒的多数の人が経済的な決定を思い通りに下せなかった
‣繁栄を促す主要な公共サービスを提供するために国家権力が使われたことがなかった
‣均等な機会や公平な法体制は存在しなかった
Engines of prosperity(繁栄の原動力)
包括的な経済制度
・包括的な市場を生み出す
→自分の才能に最適な天職を追究する自由を与えるだけでなく、そうする機会を得られる公平な場も提供する
・繁栄を呼ぶ2つの原動力(テクノロジーと教育)への道を開く
テクノロジー →私有財産を奨励し、契約を擁護し、均等な機会を生み、新たなテクノロジーを生活にもたらす新たな事業者の参入を促し、認めるという経済制度が必要
教育→均等な機会を提供する経済制度が重要
貧しい国の教育水準低い原因
・親が子に教育を受けさせるインセンティブを生み出せない経済制度
・親子の希望や学校をサポート・財政面での助成・支援をするよう政府を誘導できない政治制度
◎包括的市場の潜在能力を活かし、技術革新を促し、人々に投資し大勢の個人の才能とスキルを結集するという経済制度の能力は経済成長にとってきわめて重要である。多くの経済制度がこれらの単純な目標を達成できない理由を説明することが本書の中心的テーマ
Extractive and inclusive political institutions(収奪的な政治制度と包括的な政治制度)
◎あらゆる政治制度は社会によって作られる
政治:社会がみずからを統治するルールを選ぶプロセス
包括的な制度→国家の経済的繁栄に有益
収奪的な制度→はるかに裕福になれる人、グループが存在
・制度をめぐって対立があるとき、誰が勝つかは社会における政治権力の配分にかかっている
政治制度→政治におけるインセンティブを支配するルール
政治制度によって決まるもの:政府がどう選ばれるか、政府のどの部分に何をする権限があるか、社会の中で誰が権力を持つか、どんな目的に使えるか
権力の配分が狭い範囲に集中し、何の制約も受けない政治制度→絶対主義的な政治制度
⇔権力を社会に広く配分し、制約のもとに置く政治制度→多元的な政治制度
◎包括的な政治制度→多元的な政治制度+中央集権化された国家
中央集権化された国家が必要な理由(ソマリアの例)
・政治権力は広く多元的に配分されていた
・社会は相互に交配できない深く対立する派閥に分かれている ⇒混沌
・ある派閥の権力を制約するのは、ほかの派閥の銃のみ
⇒原因はソマリ族の国に政治の中央集権、あるいは国家の中央集権が欠けていたことであり、経済活動、交易、国民の基本的安全を支える最小限の法と秩序さえ強制できないこと
収奪的な政治制度→多元的な政治制度、または中央集権化された国家がない状態
◎経済制度と政治制度の間には強い相乗効果がある
・収奪的な政治制度
限られたエリートたちの手に権力を集中。その権力行使にほとんど制約を課さない
→エリートたちが社会の残りの人々から資源を収奪するために経済制度を構築する
↑収奪的な経済制度に収奪的な政治制度が伴うのは当然
収奪的な経済制度と政治制度の相乗効果は、強力なフィードバック・ループを生む
①政治制度のおかげで、政治権力を握っているエリート層が制約や敵対勢力のほとんどない経済制度を選べるようになる
②エリート層は、将来の政治制度を構築し、その発展を左右することもできる
③収奪的な経済制度のおかげで同じエリート層が裕福になり、経済的な富と権力を通じて政治支配が強化される
・包括的な政治制度
‣包括的な経済制度は包括的な政治制度が築く土台の上につくられる
‣こうした政治制度は権力を社会に広く分散し、その恣意的な行使を抑制する
‣他の誰かが権力を奪取し、包括的制度の土台を揺るがすことを難しくする
→包括的な経済制度のおかげで資源がさらに平等に配分され、包括的な政治制度の存続が促されることになる
収奪的な制度×包括的な制度⇒不安定
‣包括的な政治制度のもとで収奪的な経済制度が長く続く可能性は低い
‣包括的な経済制度が収奪的な政治制度を支持したり、支持されたりすることはない
Why not always choose prosperity?(必ずしも繁栄が選ばれないのはなぜか)
一部の社会の政治が経済成長を促す包括的制度に至る一方で、歴史上の大多数の社会における政治が、経済成長を妨げる収奪的制度に至ったのか?
⇒経済発展へのインセンティブを生み出す経済制度は同時に、権力を握る強欲な独裁者やその他の人々の懐具合を寂しくするようなやり方で収入や権力を再分配する可能性がある
◎根本的な問題は、経済制度をめぐっては論争と対立が避けられないということ
‣異なる制度は、国家の繁栄、その繁栄をどう配分するか、誰が権力を握るかについて異なる帰結を生む
‣制度によって起こる経済成長は勝者と敗者をつくる
→経済成長とその土台となる包括的制度は、政治の舞台でも経済市場でも勝者と敗者を生み出す
→包括的な経済制度や政治制度への反発の原因に
(例)産業革命の際のヨーロッパ
・18世紀の産業革命直前
大半のヨーロッパ諸国の政府は貴族階級と昔からのエリートに牛耳られ、彼らの主な収入源は、土地所有、君主によって認められた独占、商業特権
・産業革命後
‣産業、工場、町の拡大によって、土地は資源を奪われ、地代は下がり、地主が労働者に支払う賃金は増えた
‣エリート層の商業特権を破壊する新しい実業家や商人が出現→貴族階級は経済的敗者となった
‣都市化および社会意識の高い中産・労働者階級の出現→貴族階級の政治の独占も攻撃
貴族階級・エリート層は経済的・政治的敗者となり、また経済的・政治的権力の危機に直面
→産業化に強く反対
◎権力を握るグループは、経済の発展や繁栄の原動力に抵抗する
‣経済成長:機械の増加と性能向上、教育を受けた人々の増加と技能向上のプロセス+
広範な創造的破壊とかかわりながら、変化を生んで状況を不安定にするプロセス
→成長が進むのは、みずからの経済的特権の喪失を心配する経済的敗者やみずからの政治権力の毀損を恐れる政治的敗者によって、成長が阻止されない場合に限られる。
The long agony of the Congo(コンゴの長い苦悩)
‣首都から離れた地域を支配していたのは、王国の各地で知事の役割をしていたエリート
‣エリート層の財産を支えるものは、首都周辺の奴隷制プランテーションと、それ以外の地域から取り立てられる税金
‣奴隷制度は経済の中心
‣コンゴの人々がもっと裕福になるには、貯蓄し、投資をしなければならなかった→テクノロジーを使って生産を増やしても、王やエリートに取り上げられてしまう
◎コンゴの貧困は、収奪的な経済制度によるもの
‣政府は、国民に対して安全な財産権、法や秩序といった基本的なものさえほとんど提供しなかった
◎こうした制度は政治権力を握る少数の大金持ちを生み出した
◎コンゴ社会の経済制度のルーツは、政治制度の本質にある
→反乱によって、王が人々の財産や肉体を奪うことを阻止することはできたものの、人々やその財の安全を確保するには不十分
→政治制度は絶対主義的で、王とエリートは何の制約も受けず、社会を構築する方法について国民には一切発言権がなかった
◎コンゴの経済制度を変えるためには政治制度を変える必要があったが、その改革によって奴隷貿易などがもたらす富を失うため、王や取り巻きのエリートたちは、改革を行わない
500年前
‣19世紀末の「アフリカ分割」の時代に、人権と財産権が不安定な状態に陥った
‣大半の人々を犠牲にして少数の人々に権力と富をもたらす収奪的制度と絶対主義政治というパターンが再現
→1960年のコンゴ独立の際、経済制度、インセンティブ、生産力において同じパターンが繰り返された
‣モブツ大統領は自分と取り巻きが裕福になるために国家を利用した
‣現代のコンゴは依然として貧しい
・社会を繁栄させる基本的インセンティブを生み出す経済制度が国民にとって欠けているから
・収奪的な経済制度が原因→政治権力が一部のエリートに集中している
・エリートにとって、人々の財産権を強化したり、生活の質を改善する基本的な公共サービスを提供したり、経済発展を促したりするインセンティブはほとんどない→むしろ、収入を搾り取り、権力を維持することに関心がある
コンゴの歴史から、
・政治制度が経済制度をいかにして決定し、それらの経済制度を通じて経済的インセンティブや経済成長の限界をいかにして決定するか
・多くの人々を犠牲にして少数の人々に権力と富をもたらす経済制度と絶対主義政治との共生関係
Growth under extractive political institution(収奪的な政治制度のもとでの成長)
収奪的な政治制度のもとで成長が生じるケース
1.経済制度が収奪的だが、エリートがみずから支配する生産性の高い活動に資源を直接分配し、成長するケース
例:16世紀から18世紀のカリブ海諸島、1928年の第一次五カ年計画から1970年代にかけてのソ連の経済成長と工業化
2.ある程度包括的な経済制度の発展が可能なケース
‣収奪的な政治制度を持つ多くの社会が包括的な経済制度を避けるのは創造的破壊のため
←しかし、エリート層による権力の独占の程度は社会によって異なる
‣一部の社会ではエリート層の地位が安定しているため、政治権力を脅かされることがないと確信すれば、包括的な経済制度への動きを容認する可能性
‣歴史的な状況が原因で、収奪的な政治体制のもとでエリート層が包括的な経済制度を阻止しないように決める場合もある
例:朴正煕が統治する韓国が急速に工業化したこと
◎収奪的な政治制度のもとで、経済成長するためには、政治の中央集権化が必要
‣収奪的な経済制度がなんらかの成長を生み出せるとしても、持続的な経済成長を生み出すことは通常ない
‣政治制度と経済制度がともに収奪的であれば、そこには創造的破壊を伴う成長は決してなく、創造的破壊や技術的変化のインセンティブは存在しない
‣収奪的な政治制度のもとでの経済成長を支える体制は、本質的に脆弱である
‣収奪的制度のもとで社会が国家の中央集権化を始めにある程度達成しても、長続きはしない
‣収奪的な政治制度のもとであっても経済制度が包括的側面を持つために成長がおこる場合、経済制度が収奪的になって成長が止まる可能性がつねに存在する