Subsurface imaging from inverse VSP using drill-bit …2. ボーリング掘削振動の測定...

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ボーリング掘削振動を利用した逆 VSP による地下イメージング 伊東俊一郎*,相澤隆生(サンコーコンサルタント(株)) 長井千明,渡辺和哉,安藤賢一((株)大林組) Subsurface imaging from inverse VSP using drill-bit vibration. Shunichiro Ito * , Takao Aizawa (Suncoh Consultants), Chiaki Nagai , Kazuya Watanabe , Kenichi Ando (OBAYASHI) Abstract: In the investigation for earthquake resistant of nuclear power plants and disposal technologies of high level radioactive waste (HLW), many drilling were applied at the electric power institutions and the underground research laboratories. Various parameters about the drilling are measured continuously at the survey area. A data acquisition without stopping a drilling has been needed in the survey using the borehole. SWD (Seismic While Drilling) or MWD (Measurement While Drilling) which use drill-bit as its energy-source were developed in the oil and gas field. We measured drill-bit vibration by the MEMS sensor which has characteristic of broadband frequency and strong stability, and report the subsurface imaging from inverse VSP. 1. はじめに 原子力発電所の耐震調査や高レベル放射性廃棄物 の地層処分に関連する調査研究では,電力施設・地下 研究施設で数多くボーリングが掘削され,掘削に関す る様々なパラメータが連続的に計測されている.この ように地下構造を把握するためのボーリング技術が発 達し,正確な掘削モニタリングと効率的かつ安全な作 業が確保されたことで,そのボーリング孔を利用する 原位置試験でもデータの正確性に加えて効率性あるい はリアルタイム性が改めて重要視されるようになった. 掘削中のビット振動を震源として利用する探査技 術は,掘削作業を中断せずに連続的かつほぼリアルタ イムに情報を提供できる特徴から,実用化のための研 究が石油分野を中心に進められてきた.現在ではパイ ロットセンサーとしてリグに取り付けた受振器との相 互相関計算を行って S/N 比を向上させる手法が一般的 である.パイロットセンサーを用いた手法においても, 探査精度向上のための研究が行われており,石油分野 で深度数千 m の坑井掘削に適用した事例(小澤他, 1998)やノイズ成分に関して検討した事例(鶴他, 1998が報告されている.最近では震源に土木分野で用いら れるパーカッションドリルを使用して広帯域化を行っ た事例(横田他,2004)や孔内 3 成分受振器を利用し 3 VSP 法の可能性が示された事例(相馬他, 2004も報告されている. 筆者らはこれまで通常のウォークアウェイ VSP 地震波干渉法理論を適用し,急傾斜構造を対象とした 解析に関する研究を行ってきた(伊東他, 2007,2009). 今回は,広い周波数特性と安定性から近年注目されて いる MEMS センサと長時間連続観測システムを用い てボーリング掘削振動の測定を行い,逆 VSP を適用し て地下のイメージングを行った結果について報告する. 2. ボーリング掘削振動の測定 現地測定は,第三紀の堆積岩地域を対象に 3 間行い,対応する深度区間は,300m500m の深 度であった.なおボーリングの掘削振動は,コア ビットによる掘進では観測がトリコンビットより も難しい(小澤,1998)ことが予想されるので, トリコンビットによる掘進期間を選定した. 地表測線は孔口近傍の道路沿いに設定し,地上 掘削用施設からのノイズ(リグノイズ)を抑える ために水平距離 60m 程度離れた地点から地表受 振器を設置した.地表受振器は 10m 間隔で 6 点展 開し,固有周波数 10Hz 3 成分受振器と MEMS 型受振器を使用した.図 1 にボーリング掘削振動 測定の測点配置図を示す. ロータリーテーブル方式の掘削では通常ウォー タースイベル部にパイロットセンサーを取り付け るが,今回はスピンドル方式の掘削であるためボ ーリングマシンのチャック部の横に設置した.パ イロットセンサーには MEMS 型受振器を使用し, 講演番号 50 社団法人 物理探査学会第123回学術講演会論文集(2010) 185

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ボーリング掘削振動を利用した逆 VSP による地下イメージング

伊東俊一郎*,相澤隆生(サンコーコンサルタント(株)) 長井千明,渡辺和哉,安藤賢一((株)大林組)

Subsurface imaging from inverse VSP using drill-bit vibration.

Shunichiro Ito*, Takao Aizawa (Suncoh Consultants),

Chiaki Nagai , Kazuya Watanabe , Kenichi Ando (OBAYASHI)

Abstract: In the investigation for earthquake resistant of nuclear power plants and disposal technologies of high level radioactive waste (HLW), many dri l l ing were applied at the electr ic power inst i tut ions and the underground research laboratories. Various parameters about the dri l l ing are measured continuously at the survey area. A data acquisit ion without stopping a dri l l ing has been needed in the survey using the borehole. SWD (Seismic While Drill ing) or MWD (Measurement While Drill ing) which use dri l l-bit as i ts energy-source were developed in the oil and gas f ield. We measured dril l -bit vibration by the MEMS sensor which has characterist ic of broadband frequency and strong stabil i ty, and report the subsurface imaging from inverse VSP.

1. はじめに

原子力発電所の耐震調査や高レベル放射性廃棄物

の地層処分に関連する調査研究では,電力施設・地下

研究施設で数多くボーリングが掘削され,掘削に関す

る様々なパラメータが連続的に計測されている.この

ように地下構造を把握するためのボーリング技術が発

達し,正確な掘削モニタリングと効率的かつ安全な作

業が確保されたことで,そのボーリング孔を利用する

原位置試験でもデータの正確性に加えて効率性あるい

はリアルタイム性が改めて重要視されるようになった.

掘削中のビット振動を震源として利用する探査技

術は,掘削作業を中断せずに連続的かつほぼリアルタ

イムに情報を提供できる特徴から,実用化のための研

究が石油分野を中心に進められてきた.現在ではパイ

ロットセンサーとしてリグに取り付けた受振器との相

互相関計算を行って S/N 比を向上させる手法が一般的

である.パイロットセンサーを用いた手法においても,

探査精度向上のための研究が行われており,石油分野

で深度数千 m の坑井掘削に適用した事例(小澤他,

1998)やノイズ成分に関して検討した事例(鶴他,1998)

が報告されている.最近では震源に土木分野で用いら

れるパーカッションドリルを使用して広帯域化を行っ

た事例(横田他,2004)や孔内 3 成分受振器を利用し

て 3 軸VSP法の可能性が示された事例(相馬他,2004)

も報告されている.

筆者らはこれまで通常のウォークアウェイ VSP に

地震波干渉法理論を適用し,急傾斜構造を対象とした

解析に関する研究を行ってきた(伊東他,2007,2009).

今回は,広い周波数特性と安定性から近年注目されて

いる MEMS センサと長時間連続観測システムを用い

てボーリング掘削振動の測定を行い,逆VSPを適用し

て地下のイメージングを行った結果について報告する.

2. ボーリング掘削振動の測定

現地測定は,第三紀の堆積岩地域を対象に 3 日

間行い,対応する深度区間は,300m~500m の深

度であった.なおボーリングの掘削振動は,コア

ビットによる掘進では観測がトリコンビットより

も難しい(小澤,1998)ことが予想されるので,

トリコンビットによる掘進期間を選定した.

地表測線は孔口近傍の道路沿いに設定し,地上

掘削用施設からのノイズ(リグノイズ)を抑える

ために水平距離 60m 程度離れた地点から地表受

振器を設置した.地表受振器は 10m 間隔で 6 点展

開し,固有周波数 10Hz の 3 成分受振器と MEMS

型受振器を使用した.図 1 にボーリング掘削振動

測定の測点配置図を示す.

ロータリーテーブル方式の掘削では通常ウォー

タースイベル部にパイロットセンサーを取り付け

るが,今回はスピンドル方式の掘削であるためボ

ーリングマシンのチャック部の横に設置した.パ

イロットセンサーには MEMS 型受振器を使用し,

講演番号 50 社団法人 物理探査学会第123回学術講演会論文集(2010)

185

3 成分型と鉛直 1 成分型の 2 種類で測定を行った.

ボーリング掘削振動は S/N 比向上のため長時間

の連続記録が必要となり,通常は数十分以上とる

場合が多い.そこで今回は多チャンネル長時間連

続観測システム(DSS-12)を使用し,8 時間を 1

セットとしてボーリング掘削振動の測定を行った.

表 1 に使用機器と測定パラメータを示す.図 2

に MEMS 型受振器と設置状況を示す.

図1 測点配置図

表 1 ボーリング掘削振動測定仕様

図 2 パイロットセンサーの MEMS 受振器

3.波形記録について

取得したボーリング掘削振動の波形記録例を図

3 に示す.ボーリング掘削作業では,①チャック

部でロッド固定,②チャック部を介しロッド・ト

リコンビット回転をさせて掘削,③1ストローク

掘進後トリコンビット停止,④チャック緩めてチ

ャック部を上昇,以上の操作を繰り返しており②

の掘削中に振動音は発生する.波形記録例ではト

リコンビット回転開始時の 30 秒分を切り出して

示した.地表測線の全受振器で掘削振動が明瞭に

捉えられていることが確認できる.波形記録には,

ボーリング用モーターや泥水ポンプ等の地上設備

で発生するリグノイズも混入していると考えられ

るが,この波形記録上でノイズ成分を判別,除去

することは難しい.

図 3 ボーリング掘削振動の波形記録例

4. 前処理と相互相関計算

波形処理には,地表測線とパイロットセンサーの両

者ともMEMS 型受振器の鉛直成分を採用し,加速度波

形記録を速度波形記録に変換して使用した.変換した

速度波形記録の周波数スペクトルを図 4 に示した.周

波数 25Hz 以下の帯域では,いくつかのピークが認め

られ,定常的に混入するリグノイズと考えられる.そ

こで掘削振動以外のノイズ成分が卓越する低周波域を

バンドパスフィルターで除去してから,相互相関計算

を行った.各処理段階の波形記録を図 5 に示した.図

中の相互相関計算後の波形記録では P 波初動に対応す

る直接波が明瞭に確認できる.

相互相関計算後の波形記録は,ボーリング孔底で起

震し地表測線で受振した逆VSP型のデータとなってい

る.よって同一受振点について相互相関後のトレース

3C

1C

設置位置

ボーリングマシン

地表受振点(6 点)

ボーリング孔口

パイロットセンサー

地表測線(50m)

186

周波数(Hz)

を各深度順に並べるといわゆる通常のVSP波形が得ら

れる.今回の測定では 30 秒単位でファイル保存してい

るため,ファイル単位で相互相関計算を行ない番号順

に並べて図 6,7 に示した.ここでは地表受振器のうち

ボーリング孔口からオフセット距離60m,100mのVSP

波形を示した.孔口に近づくとリグノイズ成分が次第

に大きくなり,相対的に直接波成分が不明瞭となって

いく.逆に孔口から離れるとリグノイズは徐々に小さ

くなり,直接波成分が明瞭に確認できる.

図4 波形記録のスペクトル図

図5 前処理波形記録

(左:生波形,中央:フィルター後,右:相関計算後)

図 6 相互相関後波形記録(距離 60m)

図 7 相互相関後波形記録(距離 100m)

5. VSP による地下イメージング

図 7 で示した相互相関処理後波形記録について S/N

比を向上させるため 10 分(20 ファイル)単位で垂直

重合と 2m 間隔毎の深度割り当てを行った.さらにデ

コンボリューションフィルター,パイロット波形の自

己相関より算出した掘り管 P 波伝搬速度によるタイム

ゼロ補正,オフセット距離補正を行い,縦軸に深度,

横軸に時間をとって図 8 に示した.連続測定時のバッ

テリー交換などにより測定を中断した時間帯があった

ため,図中の一部トレースが欠測となっている.

前述補正後の波形について P 波初動読取りを行い,

走時曲線から測定区間のP波速度(Vp=2160m/s)を算

出した.これは本観測孔で実施された音波検層結果と

もほぼ整合することを確認した.

さらに観測孔周辺の地下構造を把握するためにウォ

ークアウェイVSP処理を適用した.すなわち図 8に示

すVSP波形から上方進行波を抽出し,VSP-CDP変換

を行って重合断面による地下イメージングを行った.

(図 9)

図8 VSP 波形(受振点 B)

振 幅

周波数(Hz)

ファ

イル

番号

深 度

(m)

ファ

イル

番号

時間(ms)

直接波

直接波

リグノイズ卓越帯域

リグノイズ

187

CMP 番号

図 9 VSP 重合断面

VSP 重合断面による地下イメージングでは,深度

500m 付近にほぼ水平方向の反射イベントが認められ

る.(図中矢印)対象深度は泥岩区間で地層境界などの

急激な速度コントラストは想定されていない領域であ

り,孔底付近からの反射波による偽像である可能性も

あるため,周辺地質情報や掘削結果を踏まえて慎重に

解釈を行う予定である.

前処理を含めた一連の VSP 処理フローを図 10 に示

した.

図 10 処理フロー

6. まとめと今後の課題

近年注目されている MEMS センサと身近にな

った長時間連続観測システムを用いてボーリング

掘削振動の測定を行った.データ処理では,パイ

ロットセンサーとの相互相関計算と逆 VSP を適

用して地下のイメージングを行った.今回は泥岩

層内の測定のみであったため速度コントラストが

小さい範囲であり明瞭な反射イベントは捉えられ

なかったが,直接波としての P 波初動走時は明瞭

に捉えることが出来た.また速度値も音波検層結

果ともほぼ整合することを確認し,本システムに

よりボーリング振動から精度良く速度構造が把握

できることを示した.

今回は地表受振器 1 点のみについて処理結果を

報告したが,測定では地表受振器 6 点およびパイ

ロットセンサー1 点は 3 成分でもデータ取得して

いる.よって地表受振器の後処理グルーピングに

よりリグノイズの低減による S/N 比の向上,3 軸

VSP法による空間的な地下構造の推定が可能であ

る.また今回は実験的な試みであったため,デー

タを持ち帰って試行錯誤的に処理している.今後

は処理の自動化を進めて本手法の最大の利点であ

るリアルタイム性を高めることが課題である.

また異なる岩盤地層を対象としたボーリングサ

イトでの測定も計画しており,引き続き本手法の

適用性を確認する予定である.

参考文献

小澤岳史,鶴哲郎(1998):南西アンドリュ-ス油田におけ

るSWD実験,物理探査,51,2,127-140.

鶴哲郎,小澤岳史(1998):SWDにおけるノイズに関する検

討,物理探査,51,1,45-54.

横田俊之他(2004):パーカッションドリル振動の広帯域化

‐効率的なSWD震源開発を目指して‐, 物理探査学会第111

回学術講演回講演論文集,213-216.

相馬宣和他(2004):小型軽量坑井内 3 成分弾性波検出器に

よる坑井掘削音の観測と地下構造推定法の検討,土木学会論

文集No.757/Ⅲ-66,177-187.

伊東俊一郎・相澤隆生・木村俊則・松岡俊文 (2007): 急傾斜

構造における VSP への地震波干渉法の適用について, 物理

探査学会第117回学術講演回講演論文集,.

伊東俊一郎・相澤隆生・木村俊則・松岡俊文 (2009): 急傾斜

構造におけるVSPへの地震波干渉法の適用について‐その2

‐, 物理探査学会第120回学術講演回講演論文集.

ボーリング孔深

(m)

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