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日皮会誌:98 (14), 1483―1493, 1988 (昭63) Myelodysplastic syndrome (MDS)に伴う Sweet病様病態の3例 飯島 茂子 佐久間満里子 大久保千真季 馬場 MDSにSweet病様病態を示した3例を報告した. 症例1 :74歳男. refractory anemia. 血液学的異常に 1年11ヵ月先行して,四肢・顔面に圧痛(士)の浮腫 性紅斑か出没.組織学的に真皮全層の血管周囲性リン パ球浸潤で,好中球・核破片も混在.症例2 :57歳男. refractory anemia with excess of blasts (RAEB). 血液学的異常出現2ヵ月後より,顔面・前腕・背部に 圧痛のない浮腫性浸潤性紅斑出没.膿庖(十).自然消 梗(十λ組織学的に好中球と核破片を主としリンパ球 も混ずる血管周囲性細胞浸潤.症例3 :49歳男.RAEB in T. 血液学的異常とほぼ一致して,下肢から全身に 広がる浸潤性紅斑出現.膿庖(十).組織学上,皮下脂 肪織に好中球の桐密な浸潤.前白血病状態である MDSの自験3例にみられた発疹はSweet病に類似す る. MDSでは血球の形態異常とともに,さまざまな機 能異常を伴うため,若干修飾されたSweet病様病態が 出現する可能性があると思われた. myelodysplastic syndrome は1982年,FABグルー プにより提唱された名前で,骨髄の異形成を共通の基 盤とし,従来の疾患概念に当てはまらない治療抵抗性 の貧血症をまとめたものである.その中の一部のもの は,将来急性白血病に移行する頻度が高く,注目され てきている. 一方,急性白血病にSweet病の合併例が多数報告さ れてきており,前白血病としてのMDSにSweet病が 合併した報告も少数みられている.今回, MDSに前後 して隆起性浸潤性紅斑が出現した3例を経験したの で, Sweet病との異同,病因を含め考察する. 筑波大学臨床医学系皮膚科(主任 上野賢一教授) 昭和62年n月9日受付,昭和63年6月21日掲載決定 別刷請求先:(〒305)茨城県っくば市天久保1-1 -1 筑波大学附属病院皮膚科 飯島茂子 星野 上野 賢一 症例1 :T.H. 74歳,男,元銀行員. 初診:昭和60年1月10日. 既往歴:家族歴:特記すべきことなし. 現病歴:初診の4~5年前より,微熱・頭痛がたび たび出現していた.昭和59年10月,右前腕屈側に圧痛 のある紅斑が出現し,発熱・頭痛・関節痛を伴った. 近医で投与されたAspirin配合剤(bufferinR)は無効, PSL 30mg数日で改善し,以後漸減,12月に中止した. その後まもなく,発熱・頭痛・結膜充血を伴って皮疹 が再発したので,本院皮膚科を受診. Sweet病を疑い 精査のため入院. 初診時現症:体温37.2℃.顔面・上肢に小指頭大か ら母指頭大,淡紅色から暗赤色の皮膚より軽度隆起す る浸潤性紅斑を認める(図1).左眼球結膜に充血あり. 表在リンパ節腫脹,口腔内アフタ,咽頭発赤,陰部潰 瘍なし. 入院時検査所見:末梢血白血球6,500/m�(seg 46%, band 26%, lym 22%, mono 6%),赤血球338× lOVm�, Hb 11.5g/dl, Ht 34.6%,血小板28.1×lOV m�. ESR 128mm/hr. CRP5十,その他の血液検査 および病巣感染,膠原病, Behget病,内臓悪性腫瘍な どの検索はすべて陰性. 臨床経過および治療(図2):入院安静後も皮疹・微 熱・結膜充血が持続し,熱の上昇とともに四肢末梢に 淡紅色の軽度浸潤性の紅斑が多発した.広域抗生物質 で結膜充血は消失したが,皮疹の再発と高熱が持続し たためPSL 30mgを開始した.解熱と共にCRP, ESR も低下傾向を示し皮疹も消失したが,時々一過性に微 熱・頭痛・鼻汁等の症状とCRP, ESRの上昇を伴って, 皮疹が出没した. PSL20mgに減量中,四肢末梢に境 界がときに不明瞭な,隆起・浸潤に乏しい圧痛のない 紅斑が出現し,下肢には紫斑の混在と浮腫,両手掌に は小豆大紅斑より遠心性に拡大する環状紅斑もみられ た. DDS lOOmgの併用は効果なく, Indomethacin (Indacin⑧) 150mgの併用にて軽快し退院した.経過

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Page 1: Myelodysplastic syndrome (MDS)に伴う Sweet病 …drmtl.org/data/098141483.pdfダ MDSとSweet病様病態 図3 症例1(手首の浸潤性紅斑)の病理組織所見 細胞数は正常範囲であるが穎粒球暴赤芽球系に形態

日皮会誌:98 (14), 1483―1493, 1988 (昭63)

Myelodysplastic syndrome (MDS)に伴う

     Sweet病様病態の3例

飯島 茂子

佐久間満里子

大久保千真季

馬場  徹

          要  旨

 MDSにSweet病様病態を示した3例を報告した.

症例1 :74歳男. refractory anemia. 血液学的異常に

1年11ヵ月先行して,四肢・顔面に圧痛(士)の浮腫

性紅斑か出没.組織学的に真皮全層の血管周囲性リン

パ球浸潤で,好中球・核破片も混在.症例2 :57歳男.

refractory anemia with excess of blasts (RAEB).

血液学的異常出現2ヵ月後より,顔面・前腕・背部に

圧痛のない浮腫性浸潤性紅斑出没.膿庖(十).自然消

梗(十λ組織学的に好中球と核破片を主としリンパ球

も混ずる血管周囲性細胞浸潤.症例3 :49歳男.RAEB

in T. 血液学的異常とほぼ一致して,下肢から全身に

広がる浸潤性紅斑出現.膿庖(十).組織学上,皮下脂

肪織に好中球の桐密な浸潤.前白血病状態である

MDSの自験3例にみられた発疹はSweet病に類似す

る. MDSでは血球の形態異常とともに,さまざまな機

能異常を伴うため,若干修飾されたSweet病様病態が

出現する可能性があると思われた.

          緒  言

 myelodysplastic syndrome は1982年,FABグルー

プにより提唱された名前で,骨髄の異形成を共通の基

盤とし,従来の疾患概念に当てはまらない治療抵抗性

の貧血症をまとめたものである.その中の一部のもの

は,将来急性白血病に移行する頻度が高く,注目され

てきている.

 一方,急性白血病にSweet病の合併例が多数報告さ

れてきており,前白血病としてのMDSにSweet病が

合併した報告も少数みられている.今回, MDSに前後

して隆起性浸潤性紅斑が出現した3例を経験したの

で, Sweet病との異同,病因を含め考察する.

筑波大学臨床医学系皮膚科(主任 上野賢一教授)

昭和62年n月9日受付,昭和63年6月21日掲載決定

別刷請求先:(〒305)茨城県っくば市天久保1-1

 -1 筑波大学附属病院皮膚科 飯島茂子

星野

上野

 稔

賢一

          症  例

 症例1 :T.H. 74歳,男,元銀行員.

 初診:昭和60年1月10日.

 既往歴:家族歴:特記すべきことなし.

 現病歴:初診の4~5年前より,微熱・頭痛がたび

たび出現していた.昭和59年10月,右前腕屈側に圧痛

のある紅斑が出現し,発熱・頭痛・関節痛を伴った.

近医で投与されたAspirin配合剤(bufferinR)は無効,

PSL 30mg数日で改善し,以後漸減,12月に中止した.

その後まもなく,発熱・頭痛・結膜充血を伴って皮疹

が再発したので,本院皮膚科を受診. Sweet病を疑い

精査のため入院.

 初診時現症:体温37.2℃.顔面・上肢に小指頭大か

ら母指頭大,淡紅色から暗赤色の皮膚より軽度隆起す

る浸潤性紅斑を認める(図1).左眼球結膜に充血あり.

表在リンパ節腫脹,口腔内アフタ,咽頭発赤,陰部潰

瘍なし.

 入院時検査所見:末梢血白血球6,500/m�(seg

46%, band 26%, lym 22%, mono 6%),赤血球338×

lOVm�, Hb 11.5g/dl, Ht 34.6%,血小板28.1×lOV

m�. ESR 128mm/hr. CRP5十,その他の血液検査

および病巣感染,膠原病, Behget病,内臓悪性腫瘍な

どの検索はすべて陰性.

 臨床経過および治療(図2):入院安静後も皮疹・微

熱・結膜充血が持続し,熱の上昇とともに四肢末梢に

淡紅色の軽度浸潤性の紅斑が多発した.広域抗生物質

で結膜充血は消失したが,皮疹の再発と高熱が持続し

たためPSL 30mgを開始した.解熱と共にCRP, ESR

も低下傾向を示し皮疹も消失したが,時々一過性に微

熱・頭痛・鼻汁等の症状とCRP, ESRの上昇を伴って,

皮疹が出没した. PSL20mgに減量中,四肢末梢に境

界がときに不明瞭な,隆起・浸潤に乏しい圧痛のない

紅斑が出現し,下肢には紫斑の混在と浮腫,両手掌に

は小豆大紅斑より遠心性に拡大する環状紅斑もみられ

た. DDS lOOmgの併用は効果なく, Indomethacin

(Indacin⑧) 150mgの併用にて軽快し退院した.経過

Page 2: Myelodysplastic syndrome (MDS)に伴う Sweet病 …drmtl.org/data/098141483.pdfダ MDSとSweet病様病態 図3 症例1(手首の浸潤性紅斑)の病理組織所見 細胞数は正常範囲であるが穎粒球暴赤芽球系に形態

1484

治療

允熱

37℃

発疹

'85

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飯島 茂子ほ力

 J

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図1 症例1の臨床所見

を通して白血球の上昇は認めなかった.

 皮疹の病理組織所見:①手関節部背面の浸潤性紅斑

(図1b)の組織像(図3):表皮はほぼ正常.真皮は浅

中層にかけて,中等度の血管周囲性の細胞浸潤があり,

リンパ球が主体で少数の好中球・核破片が混ずる.毛

細血管は軽度拡張するが,血管炎の所見はない.②手

掌の環状紅斑の組織像:真皮の変化はほぼ①と同様で

あるが,好中球が若干多く,好酸球も散在する.

 その後の経過:外来にてPSL10mgまで減量.昭和

61年5月頃より汎血球減少が進行(白血球3,700/

mm^ Hb 5.6g/dl 血小板12.3×104/mm3)し,貧血

は治療抵抗性であった.同年9月の骨髄検査で,有核

ESR〔仰T咆∂128

CRP  5+

WBC〔/・1〕4600

匹五]

133

5+

5400

49

5800

31 士

6700

  図2

 14 41

 - 3+

4700 5500

40 +

65

4十

5500 4800

症例1の臨床経過および治療

101

2+

5600

39

3+

4800

32

4700

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MDSとSweet病様病態

図3 症例1(手首の浸潤性紅斑)の病理組織所見

細胞数は正常範囲であるが穎粒球暴赤芽球系に形態

異常を認め, blast 0.4%, sideroblast 6%よりMDS

(refractory anemia)と診断した.その間,発熱と皮

疹の再燃によりPSL 30mgに増量.その後の皮疹は一

過性の浸潤性の乏しい非定型紅斑のみであったが,発

熱のコソトロールがっかず,昭和62年8月,衰弱と心

不全のため死亡した.

 症例2 :K.T. 57歳,男,元獣医.

 初診:昭和59年6月29日.

 既往歴・家族歴:特記すべきことなし.

 現病歴:昭和58年4月,下痢と発熱のため近医受診

し,貧血と血小板減少を指摘される.その後,両前腕

に紅斑出現し,約1ヵ月で消失した.翌年2月,白血

球減少も出現し,6月当院血液内科に入院した.その

時,4日程前より熱発を伴わず出現したという両前腕

の皮疹を指摘され,入院中当科を受診した.

 初診時現症:体温36.5℃.眼瞼結膜貧血性,肝腫を

3横指認める.顔面・後頚部・上背・前腕に母指頭大

の暗赤色浸潤性紅斑(図4)が散在する.癈憚・圧痛

など自覚症状はない.

 検査所見:末梢血白血球3,100/m�(seg 55%,

band 6 %, blastC十)),赤血球169×104/m�, Hb 7.0

g/dl, Ht 21.1%,血小板3.2×104/m�.血液生化学

上., LDH 412U, Al-P 20.lU, y-GTP 711U几LAP

1485

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1486 飯島 茂子ほか

図4 症例2の臨床所見

269 G.R単位の他異常なし. CRP2十.骨髄所見:有核

細胞数48.9×104/mm3.穎粒球系過形成と骨髄巨核球

の増加. blast 5.2%, promyelo 14.1%.造血細胞3

系統に形態異常を認める.

 後頚部の浸潤性紅斑(図4)の病理組織所見(図5):

表皮はほぼ正常.真皮浅層にpatchyに,主として好中

球と核破片よりなり,ごく少数のリンパ球を混在する

細胞浸潤を認める.

 臨床経過および治療:内科的にはMDS (refractory

anemia with excess of blasts, RAEB)と診断され,

特別な治療をせず退院.皮疹は自然消極を示したが,

同年12月,発熱と咳を伴って上肢・背・顔面に膿庖を

もつ浮腫性,浸潤性紅斑が多発した.特に治療せず,

中心治癒性,落屑を伴って2週間で消失した.その後

も2~4週間ごとに感冒様症状,原因不明の発熱,間

質性肺炎などを繰り返し,皮疹の再発・増悪をみてい

るが,全身症状や炎症所見の悪化を伴わず出現する紅

斑も多い.自然治癒性を示すが,ステロイド軟膏でよ

く反応する. MDSについては特に進行なし.

 症例3 :Y.M. 49歳,男.土木作業員.

 初診:昭和61年10月3日.

 既往歴:特記すべきことなし.

 家族歴:父が咽頭癌,弟が喉頭癌で死亡.

 現病歴:昭和61年8月中旬,歯肉腫脹・易疲労感出

現.8月末,紅斑および皮下結節が下肢に出現し,躯

幹・頚・顔面に拡大した.圧痛あり,時に癈楳を伴っ

た.9月初句,38℃台に発熱し,近医にて貧血・白血

球減少・血沈完進を指摘され,10月当院血液内科に入

院.同時に皮膚科に紹介された.

 初診時所見:体温38.8℃.足欧・頭部を除きほぼ全

身性に,小豆天から母指頭犬程の暗赤色・浸潤のある

紅斑または硬結性の紅斑局面(図6a)が散在する.境

界明瞭で,下肢の古いものは色素沈着を残す.さらに

毛嚢炎様皮疹もみられた(図6b).眼険結膜は軽度貧血

性.表在リンパ節触知せず,肝牌腫なし.

 検査所見:末梢血白血球2,000/mm3(seg 43%,

band 7%, lym 37%, blast 9%),赤血球200×104/

m�, Hb 6.5g/dl, Ht 20.1%,血小板20.9×104/m�,

ESR 148mm/hr, CRP5十,血液生化学・血清・尿所見

に異常なし.骨髄所見:有核細胞数26.1×lOVmm^

Mgk 240/mm^ blast 17.2% (Auerbody (十)).造

血細胞3系統に形態異常を認める.

 皮疹の病理組織所見:①浸潤性紅斑(図6a)の組織

像(図7):真皮はやや浮腫性で,深層から脂肪織にか

けて,血管周囲性に好中球の著明な浸潤と核破片と少

数の好酸球の混在を認める.脂肪織の小分葉隔壁には

lipophageを示す組織球の増殖が見られる.血管内皮

細胞は腫脹し好中球が喰い込んでいるが血管炎の所見

はない.②硬結性紅斑の組織像:真皮は血管周囲性の

軽度のリンパ球浸潤を示す.病変の主たる部位は皮下

脂肪織で,浸潤細胞は①と同様である.

 臨床経過および治療(図8):内科的にはMDS

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MDSとSweet病様病態

図5 症例2(後頚部の浸潤性紅斑)の病理組織所見

(RAEBin transformation)と診断した.皮疹はPSL

30mgで反応するが減量による再発を繰り返した.同

時にMDSの治療としてAraC少量療法を開始, blast

の減少につれて,皮疹は再発するが軽度になり, PSL

lOmgにIbuprofen (brufen⑧)600mgを追加後消失し

た. PSL lOmg を維持し再発はなかったが,昭和62年

1487

9月,AMLへ急性転化し死亡した.そのとき皮疹の再

発は認めなかった.

          考  按

 1964年Sweet"は, an acute febrile neutrophilic

dermatosisとして,①発熱,②好中球増多を伴う末梢

白血球増多,③顔面,頚部,四肢に好発する有痛性隆

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1488 飯島 茂子ほか

起性紅斑ないしは結節,④病理組織学的に真皮の桐密

な好中球浸潤という特徴をもつ8例の女性患者を報告

した.以後,同様の症例が相次ぎ,外国ではSweet

syndrome,本邦ではSweet病と呼称され,1つの独立

疾患として認められてきている.現在ではBeh(;et病

との異同が問われている旅溝口ら2)は国内外症例275

例を検討し, Sweet病の独立性を強調している.

 このSweet病に白血病や固形癌などの悪性疾患が

       図6 症例3の臨床所見

a.暗赤色の浸潤性または硬結性紅斑,b.毛嚢炎様皮

 疹

合併することがあり,近年特に急性骨髄性白血病

(acute myelogenous leukemia, AML)に伴う症例3)~6)

が多く報告されて注目されてきている.

 一方, myelodysplastic Syndrome(MDS)7)とは1982

年FAB (French-American-British)グしレープにより

名付けられた名前で, hemopoietic dysplasia すなわち

骨髄の異形成を共通の基盤とし,かつ従来の疾患概念

に当てはまらない慢性の治療抵抗性の貧血症をまとめ

たものである.その特徴としては,①50歳以上の人に

多い,②末梢血における血球減少症,③正~過形成骨

髄,①各血球系にみられる形態的な異常,⑤急性白血

病にみられる芽球の増加の欠如,⑥数力月から数年に

わたる同様な血液学的変化の持続,⑦将来急性白血病

の血液像を示して死亡する頻度が高い,などである.

特に②については,汎血球減少が多いが,貧血と白血

球減少,貧血と血小板減少というbicytopenia,貧血だ'

けのmonocytopeniaもあり,貧血の存在は必発とさ

れる.詳細は血液学の専門書8)に譲るが,表1にMDS

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MDSとSweet病様病態

表1 MDSの病型分類と診断基準(FAB, 1982)

芽    球

骨 髄 末 梢

l refractory anemia (RA)

II RA with ring sideroblasts

Ⅲ RA with excess of blasts   (RAEB)

IV chronic myelomonocytic   leukemia (CMMoL)

V RAEB in transformation

 <5%

 <5%

 5~20%

20~30%(Auer+)

<1%

<1%

<5%

5%<

の病型分類と診断基準を示す.

 このように, MDSは前白血病状態(preleukemic

state)の1つともいえ, Sweet病と白血病の関係と同

様, Sweet病がMDSに相前後して発症した症例が,

Cooperら9),松本ら1o)により報告されている.これら

と自験例3例をまとめて表2に示した.

 既に報告されている3例の発疹は,全身に散発した

例,口唇粘膜に出現した例もあるものの,発疹そのも

のおよびその組織所見はSweet病としてよいと思わ

れる.また, Cooperら9)はその論文の中で,白血病,

前白血病に出現したSweet病(leukemic neutrophilic

dermatosis以下LND)と,健康正常人に出現した

Sweet病(idiopathic neutrophilic dermatosis以下

図7 症例3(側頚部の浸潤性紅斑)の病理組織所見

1489

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1490

冶康

発疹

    15

骨髄 10

芽球率

  O

    O

飯島 茂子ほか

発熱

   37℃

ESR〔mityhr)

CRP

PSL

134

5十

82

 回

 32琴xlOB

1j1

5十

64

3十

ぽ回

32郷×10日

12

3E

40+

130E

JibprQfen

 霖

26±

47十

   1,2

図8 症例3の臨床経過

IND)とを比較し, LNDはINDより粘膜病変が高率

(それぞれ31.25%, 2.8%)であるものの,発疹部位お

よび組織所見では両者に違いはないと述べている.

 一方,自験例では,症例1では浸潤性紅斑が発症,

CRP, ESRの炎症所見を伴って突発するが,白血球の

上昇を認めず,組織所見も好中球よりリンパ球が多

かった.皮診の出現より1年n力月後にMDSと診断

された.症例2,3は, MDSの診断のもとに血液内科

より紹介された患者で,症例2では前駆症状および

CRP・ESRなどの炎症所見に乏しく突然出現する紅斑

であるが,組織学的に好中球を主体とする細胞浸潤で,

Sweet病としてもよいと思われた.症例3は好中球主

体の桐密な細胞浸潤であるが,主たる変化が皮下脂肪

織内にあり,腎・大腿を含め全身性に散発した.

 近年, Sweet病の診断基準が溝口ら2),Suら11)によ

り提唱されているが,自験3例の皮疹はSweet病に典

型ではない.しかし,臨床・組織両者を考え合わせ,

かつ検査所見も合わせると, Sweet病に最も近いと考

えられ, Sweet病を1つのclinical entity とすれば,

これに類似している状態なので「Sweet病様病態」と

表現できると考えた.白血病とSweet病との関係が注

目されている現在,前白血病状態とSweet病様病態の

存在も,これに関連して興味ある事実である.

 MDSは血液学的異常を背景とした疾患であり,血

球の形態異常とともに,穎粒球系では遊走能,吸着能,

1.2

[匹コ

32㎎×21日

貪食能,殺菌能がすべて低下していることが多い12)と

いう事実は,自験例のような多少修飾されたSweet病

様病態がMDSで起こることを示すものかもしれな

い.

 また, Sweet病に関しては,何らかのhypersen-

sitivity(溶連菌,ウイルスなど)によって発症すると

されており,今のところ免疫複合体によるⅢ型(Arth-

us型,血清病型)アレルギー反応から発症するとの考

えが強いようである.

 一方,感染症, Behcet病,悪性腫瘍などをSweet病

の原因となる基礎疾患とする考え方もあり,⑥基礎疾

患そのものが原因で,種々の抗原に対しhypersen・

sitivity状態となり, Sweet病を発症する場合,⑥基礎

疾患に免疫能低下を伴うために感染を併発しやすく

Sweet病を発症する場合,⑥腫瘍細胞そのものまたは

それからの分泌成分が抗原となってSweet病を発症

する場合などが考えられる.⑥の考え方から,白血病

やMDSにおいては, Sweet病発症の共通抗原として,

骨髄芽球や形態異常を示す骨髄細胞が想定される.症

例3においては, PSL投与にかかわらず繰り返し出現

した発疹が, AraC投与による芽球の減少とともに出

現しなくなっており,芽球が抗原性をもっていたとも

考えられる.また一方では,症例1で病気の進行にも

かかわらず,発疹に浸潤がなくなり,出現頻度も減っ

たこと,症例3で急性転化時には発疹の再発がなかっ

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1491MDSとSweet病様病態

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1492 飯島 茂子ほか

たことは,芽球の抗原性のみならず,その時点での患

者の免疫能低下など,多因子的に考える必要があると

思われる.

 さらに,白血病やMDSでは,感染源に対する抗体を

十分作りにくい状態にあるので,細菌の検出がでぎな

くても,潜在的な感染症が否定できない.症例1,2

のように,突然の発熱や不明熱を繰り返す例では,こ

のことも考慮すべきだと考える.

 以上, Sweet病は,原疾患の特異性や生体の諸条件,

反応の場などによって,多少修飾される結果, MDSで`

はSweet病様病態を示しうることが想定された.この

関係は,白血病とSweet病が現在注目されていること

と関連して,病態生理を考える上で,興味あることと

考えられる.

                          文

  1) Sweet RD : An acute febrile neutrophilic der-

   mato函, BrJ Dermatol,76: 349-356, 1964.

  2)溝口昌子,近兼健一朗,朝比奈義仁,呉許貴郷:

   Sweet病一Behcet病との関連,診断基準などー,

   皮膚臨床,28 : 131-142, 1986.

 3)稲田修一,功野泰三,酒井伊勢子,島本順子,今村

   展隆,北野允基:急性骨髄性白血病を合併した

   Sweet症候群,西日皮膚,47 : 3-10, 1985.

 4)柏原万里,古川福実,加川大三郎:急性骨髄性白血

   病の経過中に併発したSweet症候群の1例,臨

   皮,38 : 679-685, 1984.

 5)今村展隆,稲田修一,福田康彦,北野允基,蔵本

   淳:Sweet症侯群と急性白血病一症例報告及び文

   献的考察-,最新医学,38 : 368-373, 1983.

 6) Horan MP, Redmond J,Gehle D, Dabe IB, Fort

   SL : Postpolycythemic myeloid metaplasia,

   Sweet's syndrome, and acute myeloid leukemia,

   J AmerAcadDermatol, 16:458-462,1987.

 7) Bennett JM, Catovsky D, Daniel MT, Flandrin

 最後に,皮膚科医として1番難解な例は,症例1の

ように血液所見が乏しいか,後になってあらわれる場

合である.これは,MDSが潜在的に進行性のものであ

るからである.従って,典型的でないSweet病, Behget

病, erythema multiforme 様の紅斑をみた場合は,貧

血の有無を確認し,末梢血を経時的に追うと同時に,

骨髄検査も必要となる場合もあることを述べておきた

1≒

 本論文の要旨は第39回日本皮膚科学会西日本学術大会

(昭和62年10月10日,於鹿児島)において発表した.

 追記:Sweet病様皮診が先行し,その3年2か月後に

RAと診断された60歳,男の1例を最近経験したので追加

する.

   G, Galton DAG, Gralnick HR, Sultan C: Pro・

   posals for the classification of the myelodyspl-

   stic syndromes, 召ダフaz・ematol, 51 : 189-199,

   1982.

  8) Galton DAG : The myelodysplastic Syn・

   dromes,Scand J Uaematolf,Suppl, 45(36):

   11-20, 1986.

  9) Cooper PH, Innes DJ Jr, Greer KE : Acute

   febrile neutrophilic dermatosis (Sweet's syn-

   drome) and myeloproliferative disorders, Can-

   a?り51 : 1518-1526, 1983.

 10)松本美富士,三竹愛子,山本正彦:Myelodysplas-

   tic syndromeを呈したSweet病の1例,臨床血

   液,26 : 783-788, 1985.

 11) Su WPD, Liu HH : Diagnostic criteria for

   Sweet's syndrome, Czぷs. 38 : 167-174, 1986.

 12) Ruutu P: Granulocyte functin in myelodyspl・

   stic syndromes, ScandJ Haematol,Suppl,

   45(36):66-70, 1986.

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MDSとSweet病様病態

Three Cases of Sweetタs Syndrome-like Eruption Accompanied by

           MyelodysplasticSyndrome

Shigeruko Iijima,Chimaki Okubo, Minoru Hoshino, Mariko Sakuma, Tohru Baba

               and Kenichi Uyeno

        Department ofDermatology,UniversityofTsukuba

              (Director:Prof.K. Uyeno)

     (Received November 9,1987;acceptedforpublicationJune 21,1988)

1493

  Three cases of myelodysplastic syndrome (MDS) accompanied by Sweet's syndrome・like eruptions were

reported. They include a 74 year old male with“refractory anemia”,a 57-year-oldmale with“refractory anemia

with excess of blasts(RAB砂'; and a 49 year old male with“RAEB in trasformation". These eruptions resembled

Sweet's syndrome, but somewhat differedfrom typicalcases from various clinicaland histopathologicalpoints of

view.

  In patients with MDS, leukocytes have various functional abnormalities as well as morphological ones. This is

thought to be the reason why Sweet's syndrome in MDS may change alittle.

  Opn J Dermatol 98: 1483~1493,1988)

Key words: myelodysplastic syndrome, preleukemia, Sweet's syndrome