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固体エレクトロニクス(半導体の導電機構) 大阪工大 電子情報通信工学科 小寺正敏 1

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固体エレクトロニクスⅠ (半導体の導電機構)

大阪工大 電子情報通信工学科

小寺正敏

1

Si結晶内の共有結合の網目構造

Si

Si原子はⅣ族(4価) 原子番号14のうち 内殻10、価電子4。

結晶になるとき隣のSiと共有結合する

原子に色づけすると・・

共有結合

Si

Si

Si

Si

2

半導体のバンド図

禁止帯幅(エネルギーギャップ Wg) が狭い(~1eV)

Wg

伝導帯 (空帯)

価電子帯 (充満帯)

許容帯

禁止帯

許容帯

原子の横方向位置(距離)

電子軌道の重なった 原子数だけ縦に準位 が並ぶ*)

*)連続準位(準位間のエネルギー差はほぼない)と考えてよい 3

連続準位での電子の運動

伝導帯 (空帯)

+ ー

空帯に電子が入ると、自由電子として電界によって加速され物質内を移動する。(電子電流)

これは金属内の自由電子の運動と同じ。

半導体内でも自由電子によって導電する。

電子電流が流れる ので、この空帯は 伝導帯と呼ばれる

自由電子

加速

空間的移動

バンド図では縦軸は電子のエネルギー

電極 電極

4

LSI01
LSI01
タイプライターテキスト
電界

真性半導体における電気伝導

価電子帯

<共有結合を表す原子配列の図> <バンド図>

自由電子は電界に引かれて移動:電子電流が流れる

正孔は電界に引かれて移動:正孔電流が流れる

共有結合している電子が 電子の抜けた穴(正孔)を埋める。 そのたびに新しい正孔ができる。

つまり

自由電子 +

熱(や光)で 共有結合壊れる

(励起)

熱・(光)

伝導帯

自由電子

正孔

Si Si

Si Si

Si

Si

Si Si Si

熱・(光)

正孔

5

プロセス1

• 熱、光によって自由電子と正孔ができる。

• 自由電子は電界に引かれて移動する。⇒電子電流

Si Si

Si Si

Si Si

Si Si

Si Si

Si Si

Si Si

Si Si

自由電子

熱、 光 正孔

+電位

-電位 6

プロセス2

• 先ほどできた正孔に隣の共有結合から電子が移動する。

• 隣の共有結合部に正孔ができる。

Si Si

Si Si

Si Si

Si Si

Si Si

Si Si

Si Si

Si Si

自由電子

熱、 光 正孔

+電位

-電位 7

プロセス3

• 先ほどできた正孔に隣の共有結合から電子が移動する。

• 隣の共有結合部に正孔ができる。

Si Si

Si Si

Si Si

Si Si

Si Si

Si Si

Si Si

Si Si

自由電子

熱、 光 正孔

+電位

-電位 8

プロセス4

• 先ほどできた正孔に隣の共有結合から電子が移動する。

• 隣の共有結合部に正孔ができる。

Si Si

Si Si

Si Si

Si Si

Si Si

Si Si

Si Si

Si Si

自由電子

熱、 光 正孔

+電位

-電位 9

真性半導体内を流れる導電電流

• (全電流)=(自由電子電流)+(正孔電流)

• 導電率は、

( )( ) EEnne

vnvneiii

ppnn

ppnnpn

σµµ =+=

+=+=

( )ppnn nne µµσ +=

10

導電率の温度依存性

• したがってアレニウスプロットを行えば、 vs.1/Tのグラフは直線になる。

σlog

kTW

kTW

en

T

kTW

TAn

g

gi

gi

2loglog

2exp

2exp

0

0

23

23

−=

−==

−⋅=

σσ

σµσ

µ

σlog

T1

傾き: k

Wg

2−

アレニウスプロット

11

Si結晶内の共有結合の網目構造に 置換型不純物として5価元素が入ると・・・

As原子はⅤ族(5価) 原子番号33のうち 内殻28、価電子5。

As原子の周りに5つ電子がいる時に、As原子は電気的に中性。

これがSiの共有結合に入ると、ドナーとして働く。 (自由電子を供給する)

Si

Si

Si

Si

As Si

As

Si

Si

Si Si Si Si

の電子はSi原子との共有結合には不要。 (小さな熱エネルギーで容易にAs原子から離れていく)

つまり、小さな熱エネルギーで自由電子が作られる。

その電子がAs原子から離れるとAs原子は正に帯電。(イオン化ドナー)

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n形半導体における電気伝導

Si Si

Si Si

Si

As

Si Si Si

大熱

<共有結合を表す原子配列の図> <バンド図>

小熱

Si

Si

Si

自由電子数:2 (多数キャリア)

正孔数:1

小熱により容易にドナー準位から自由電子が伝導帯に上がり、導電する。 自由電子が多数キャリアとなる。

小熱:小さい熱エネルギーを意味する。

大熱:共有結合を壊すくらいの大きい熱エネルギーを意味する。

大熱・小熱の区別:大きいエネルギーが必要な過程は起こりにくい

自由電子 +

(大熱)

伝導帯

価電子帯

ー (小熱)

ドナー準位

自由電子

正孔

正孔

ドナー準位にできた穴は正孔とは言わない

13

n形半導体のバンド図

伝導帯

価電子帯

ドナーとなる原子はSi原子1000~100万個につき1個程度しか入っていないので、ドナー準位は破線で描く。

Wc:伝導帯の底のエネルギー

Wv:価電子帯の頂上のエネルギー

Wd:ドナー準位のエネルギー

Wg:禁止帯幅=エネルギーギャップ

イオン化ドナー:正に帯電 +

中性ドナー

14

n形半導体の電気伝導

• ドナーから励起された自由電子の伝導帯での移動 (小熱)

• 価電子帯から励起された自由電子の伝導帯での移動 (大熱)

• 価電子帯にできた正孔の価電子帯での移動 (大熱)

によって起こる。

15

n形半導体の電子密度の温度依存性 • 電子密度をマックスウェル・ボルツマンの

式で表せるとすると、 – 価電子帯からの電子励起による電子密

度は、簡単のため の項を無視すると

nlog

T1

傾き: k

Wg

2−

(高)← 温度 →(低)

( )kTWn g 2exp −∝

– ドナー準位からの電子励起による電子密度は、

kTWnn

2loglog 0

∆−=

傾き: kW

2∆

ドナー出払う

価電子帯からの電子励起

ドナー準位からの電子励起 ① 温度が低い時(小熱)にはドナーからの電

子励起が多い。

② 限られた数のドナーから電子が出尽くすと温度を上げても電子密度は増えない。

③ 高温になると(大熱)、価電子帯から電子が励起され、電子密度は上昇する。

① ②

23T

kTW

nn g

2loglog 0 −=

16

n形半導体の導電率の温度依存性 • 導電率を電子密度を用いて表すと、

– 価電子帯からの電子励起による導電率は だから、 σlog

T1(高)← 温度 →(低)

µσ en=

– ドナー準位からの電子励起による電子密度は、

kTW

2loglog 2

∆−= σσ

ドナー出払う

価電子帯からの電子励起

ドナー準位からの電子励起

23−∝Tµ

– ところで、電子密度が一定のとき、移動度の温度依存性だけが現れるので、温度上昇とともに導電率は低下する。( )

kTWg

2loglog 1 −= σσ

① 温度が低い時(小熱)にはドナーからの電子励起が多く、温度とともに導電率は上昇する。

② 限られた数のドナーから電子が出尽くすと温度を上げても電子密度は増えないため移動度の温度依存性により温度が高いほど導電率が下がる。

③ 高温になると(大熱)、価電子帯から電子が励起され、電子密度と同じく導電率は上昇。 17

n形半導体のフェルミ準位の温度依存性

2dc

FWWW +

=

(低)← 温度 →(高)

価電子帯から伝導帯 への励起(真性機構)

ドナーから電子出払う

フェルミ準位

① ② ③

2vc

FWWW +

=

<常温>

𝑊𝑑

𝑊𝑣

𝑊𝑐

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Si結晶内の共有結合の網目構造に 置換型不純物として3価元素が入ると・・・

Ga原子はⅢ族(3価) 原子番号31のうち 内殻28、価電子3。

Ga原子の周りに3つ電子がいる時に、Ga原子は電気的に中性。

これがSiの共有結合に入ると、アクセプタとして働く。 (自由電子を受け取る)

Si

Si

Si

Si

Si

Ga

Si

Si

Si Si Si Si

の電子のない部分はSiの共有結合としては不完全。 (小さな熱エネルギーで容易に近くのSi原子の持つ電子を取り込もうとする)

つまり、小さな熱エネルギーで正孔が作られる。

Ga原子に電子が取り込まれるとGa原子は負に帯電。(イオン化アクセプタ)

Ga

19

p形半導体における電気伝導

<共有結合を表す原子配列の図> <バンド図>

小熱により容易に価電子帯から電子が励起されてアクセプタ準位に上がる。そのとき価電子帯に作られた正孔が電界によって移動し、導電する。 正孔が多数キャリアとなる。

大熱・小熱の区別: 大きいエネルギーが必要な過程は起こりにくい

Si Si

Si Si

Si

Ga

Si Si Si

大熱

小熱

Si

Si

Si

自由電子

正孔

正孔

+ (大熱)

伝導帯

価電子帯

(小熱)

アクセプタ準位

自由電子数:1 (少数キャリア)

正孔数:2

自由電子

正孔 正孔

20

p形半導体のバンド図

伝導帯

価電子帯

アクセプタとなる原子はSi原子1000~100万個につき1個程度しか入っていないので、アクセプタ準位は破線で描く。

Wc:伝導帯の底のエネルギー

Wv:価電子帯の頂上のエネルギー

Wa:アクセプタ準位のエネルギー

Wg:禁止帯幅=エネルギーギャップ

イオン化アクセプタ:負に帯電 ー 中性アクセプタ

正孔

21

p形半導体の電気伝導

• 価電子帯からアクセプタ準位に電子が励起されることによって価電子帯に出来る正孔の価電子帯での移動 (小熱)

• 価電子帯から励起された自由電子の伝導帯での移動 (大熱)

• 価電子帯にできた正孔の価電子帯での移動 (大熱)

によって起こる。

22

p形半導体の正孔密度の温度依存性

① 温度が低い時(小熱)にはアクセプタへの電子励起により価電子帯に正孔が多く作られる。

② 限られた数のアクセプタにすべて電子が埋まってしまうと温度を上げても正孔密度は増えない。

③ 高温になると(大熱)、価電子帯から電子が励起され、正孔密度は上昇する。

nlog

T1

傾き: k

Wg

2−

(高)← 温度 →(低)

傾き: kW

2∆

すべてのアクセプタが電子で埋まる

価電子帯からの電子励起による価電子帯での正孔励起

アクセプタ準位への電子励起による価電子帯での正孔励起

① ②

メカニズムはn形半導体の場合と全く同じ だが、表現だけが異なる。

23

① 温度が低い時(小熱)には価電子帯からアクセプタ準位への電子励起により価電子帯に多くの正孔が作られ、温度とともに導電率は上昇する。

② 限られた数のアクセプタにすべて電子が埋まってしまうと温度を上げても価電子帯の正孔は増えないため正孔の移動度の温度依存性により温度が高いほど導電率が下がる。

③ 高温になると(大熱)、価電子帯から

伝導帯へ電子が励起され、正孔密度は上昇し、導電率は上昇する。

p形半導体の導電率の温度依存性 メカニズムはn形半導体の場合と全く同じ だが、表現だけが異なる。 σlog

T1(高)← 温度 →(低)

すべてのアクセプタが電子で埋まる

価電子帯からの電子励起による価電子帯での正孔励起

アクセプタ準位への電子励起による価電子帯での正孔励起

24

p形半導体のフェルミ準位の温度依存性

2av

FWWW +

=

(低)← 温度 →(高)

価電子帯から伝導帯 への励起(真性機構)

すべてのアクセプタが電子を受け取る

① ② ③

2vc

FWWW +

=フェルミ準位

<常温>

𝑊𝑎 𝑊𝑣

𝑊𝑐

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フェルミ・ディラックの分布関数は

絶対0°の時にはフェルミ準位が電子の持てる最高エネルギー。

しかし、常温ではフェルミ準位以上のエネルギーをもつ電子が現れる。

そのとき、物質中の電子数は変わらないので、高エネルギー電子が抜けた穴が、フェルミ準位以下にできる。

フェルミ・ディラックの分布関数(1)

( )1

1

+= −

kTWW F

eWf

T = 絶対 0°

電子のエネルギー

電子が存在する確率

10

T = 常温

←フェルミ準位 WF

常温では、 高エネルギーの電子

電子の抜けた穴

26

フェルミ・ディラックの分布関数(2)

T = 絶対 0°

電子のエネルギー

電子が存在する確率

10

T = 常温

←フェルミ準位 WF

<常温>

ちょうど、絶対0°で水平だった水面が常温では熱エネルギーで波立ち、水しぶきが上に跳んで、元の水面以下に泡ができることに相当する。

水面

<絶対0°> 水面が平坦で

波は無し

水面

水しぶき

泡(水が抜けた跡) 温度が高くなればなるほど波は高くなる。

27

フェルミ・ディラックの分布関数(3)

T = 絶対 0°

電子のエネルギー

電子が存在する確率

10

T = 常温

←フェルミ準位 W F

<常温>

常温では統計的に、電子はフェルミ準位以下で存在するが、熱エネルギーで高いエネルギーをもつものが現れ、電子の抜けた穴は半導体では正孔として存在する。

水面

水しぶき

泡(水が抜けた跡) 温度が高くなればなるほど波は高くなる。

電子の数

正孔の数 水の抜けた跡 (アワ)

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フェルミ・ディラックの分布関数(4)

電子の数

正孔の数

半導体では、禁止帯の中にフェルミ準位が描かれ、フェルミ準位が伝導帯に近ければ、水しぶき(電子)が伝導帯に達して導電に寄与するn形となる。(禁止帯内にキャリアは存在できないことに注意)

フェルミ準位が価電子帯に近ければ泡(電子の抜けた穴:正孔)が価電子帯に届いて、導電に寄与するp形となる。

<n形>

電子の数

正孔の数

<p形>

多数キャリア:電子

多数キャリア:正孔

伝導帯

価電子帯

フェルミ準位

フェルミ準位

少数キャリア:正孔

少数キャリア:電子

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