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112-0004 東京都文京区後楽 2-5-1 住友不動産飯田橋ファーストビル ダコ・ジャパン株式会社 www.dako.jp Tel : 03-5802-7211 Fax : 03-5802-7212 131-1205 FLEX RTU 希釈済み抗体 PAX-5 および T 細胞マーカーの有用性 埼玉医科大学総合医療センター 病理部 田丸 淳一 はじめに 日常病理診断業務における免疫染色の重要性が高まるとともに、その需要は年々増してきている。なかでも、悪性 リンパ腫症例の診断、ひいてはその亜型決定においては免疫染色での検索は必須と言えよう。さらに、ある特定の蛋 白発現を確認することがその疾患の確定診断となることもある。このように病理診断における免疫染色の重要性およ び需要が増すにつれ、染色の特異性とともに安定性が要求されることは言うまでもない。ここでは Hodgkin リンパ腫 の診断に重要な PAX-5 および、成熟 T 細胞リンパ腫の診断ツールとなる T 細胞マーカーの発現異常について述べ、最 適化された最近の染色法についてもふれる。 Hodgkin リンパ腫の診断に重要な PAX-5 Hodgkin 病が Hodgkin リンパ腫(以下 HL)へと名称 変更がなされたことは記憶に新しい。これは、Hodgkin/ Reed-Sternberg (以下 HRS)細胞が B 細 胞 で あ り、 clonal な増殖であることが遺伝子学的に証明されたた めである。これによって、HL B 細胞性腫瘍であると のコンセンサスが得られるようになったのである。と ころが、HRS 細胞では一般的 B 細胞関連蛋白の発現 は抑制あるいは消失しており、免疫染色では CD19CD20CD79a などの一般的 B 細胞マーカーは通常証 明されない。ところが、PAX-5 にコードされる B-cell specific activating protein BSAP)の発現は保持されて いることがわかってきた。HL の日常病理診断において anaplastic large cell lymphoma (以下 ALCL)や他の T 細胞性リンパ腫との鑑別を要することがあるが、こ のような症例では PAX-5 発現の証明がその鑑別診断に おいて有力なツールとなるのである。その例として、 ALCL との鑑別の困難な症例に対して、REAL Reviced European Americal Lymphoma Study Group)分類にお いて提唱された ALCL-like HL 症例もその多くが PAX-5 の発現によって HL として認識され、この亜型名称は使 用されなくなったことがあげられる。 PAX-5 の発現は未熟な B 細胞から認められ、形質細胞 では消失する。したがって、しばしば通常の B 細胞マー Customer Testimonial カー発現が認められず、その lineage の判断に迷う前駆 細胞性腫瘍の lineage の証明にも有用である。ただし、 t 8;21)を有する急性骨髄性白血病でその発現が認めら れることは留意すべきであろう。 成熟 T 細胞リンパ腫の診断ツールとしての T 細胞マーカーの発現異常 成熟 T 細胞リンパ腫の病理診断において、pan-T 原発現異常を指摘することがしばしば有用なツールと なる。現在、T 細胞を広く認識するものとして CD3CD2CD5CD7 などがホルマリン固定標本にて検索可 能である。これらの発現異常、すなわち、強発現あるいは、 発現抑制・消失の確認は T 細胞性腫瘍の診断を裏付ける ものである。ただし、発現が通常より強度であることの 認識は組織での免疫染色では困難であり、実際には発現 異常として認識されるのは高度な抗原発現の抑制あるい は消失である。なかでも成人 T 細胞白血病 / リンパ腫で T 細胞マーカー、特に CD7 の発現異常(消失)がしば しば認められる。ただし、成熟 T 細胞リンパ腫全例でこ のような異常が証明されるわけではない。さらに、この T 細胞マーカー発現の異常性を証明することを診断ツー ルとして活用するためには、一定の染色結果を常に維持 する努力が必要であり、常に陽性コントロールでの染色 手技の確認が必要であることを忘れてはならない。 補足:悪性リンパ腫の診断における抗体選択の一例 1.Lineage の決定 CD20 (必要に応じて、CD19CD79aPAX-5)、CD3CD56 2.B 細胞性腫瘍 CD5CD10 3.CD5+ B-CLL/SLL CD23+)、mantle cell lymphoma cyclin D1+)などを考慮 CD10+ follicular lymphomaBurkitt lymphoma などを考慮 bcl-2bcl-6CD21MIB-1 で判断 腫瘍細胞が大型で DLBCL bcl-6MUM-1、(必要に応じて CD30LMP/EBER-ISH4.T/NK 細胞性腫瘍 CD2CD5CD7CD4CD8CMs* さらに想定される亜型ごとに特徴的なマーカー で検索 5.BT/NK lineage マーカーの発現が得られない 下記に従って抗体を選択し、検索を実施 a一般的 lineage マーカーの発現のみられない Hodgkin リンパ腫や ALCL など Hodgkin リンパ腫 「古典的」 腫瘍細胞:CD30 + CD15+ 70-80%)、CD20- 20%partly+)、PAX-5+Oct2 and/or Bob1-LMP/EBER-ISH+ 50%背景細胞:CD4 > CD8 「結節性リンパ球優位型」 腫瘍細胞:CD30-CD15-CD20+PAX-5+Oct2 and Bob1+、(sIgD)、LMP/EBER-ISH- 背景細胞:CD57PD-1CD21 ALCLCD30EMACMsALK negative for PAX-5LMP/EBER-ISHb前駆 B/T 細胞性腫瘍:TdTCD10CD34 など cリンパ系腫瘍以外 *CMs; TIA-1Granzyme BPerforine などの細胞傷害性分子(cytotoxic molecules

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Page 1: Customer Testimonial FLEX RTU PAX-5 T 細胞マー …...Customer Testimonial カー発現が認められず、そのlin eag の判断に迷う前駆 細胞性腫瘍のlineage の証明にも有用である。ただし、

〒 112-0004 東京都文京区後楽 2-5-1 住友不動産飯田橋ファーストビル

ダコ・ジャパン株式会社www.dako.jp

Tel : 03-5802-7211Fax : 03-5802-7212

131-

1205

FLEX RTU希釈済み抗体 PAX-5および T細胞マーカーの有用性

埼玉医科大学総合医療センター 病理部田丸 淳一

はじめに日常病理診断業務における免疫染色の重要性が高まるとともに、その需要は年々増してきている。なかでも、悪性リンパ腫症例の診断、ひいてはその亜型決定においては免疫染色での検索は必須と言えよう。さらに、ある特定の蛋白発現を確認することがその疾患の確定診断となることもある。このように病理診断における免疫染色の重要性および需要が増すにつれ、染色の特異性とともに安定性が要求されることは言うまでもない。ここでは Hodgkinリンパ腫の診断に重要な PAX-5および、成熟 T細胞リンパ腫の診断ツールとなる T細胞マーカーの発現異常について述べ、最適化された最近の染色法についてもふれる。

Hodgkinリンパ腫の診断に重要な PAX-5Hodgkin病が Hodgkinリンパ腫(以下 HL)へと名称変更がなされたことは記憶に新しい。これは、Hodgkin/

Reed-Sternberg(以下 HRS)細胞が B細胞であり、clonalな増殖であることが遺伝子学的に証明されたためである。これによって、HLは B細胞性腫瘍であるとのコンセンサスが得られるようになったのである。ところが、HRS細胞では一般的 B細胞関連蛋白の発現は抑制あるいは消失しており、免疫染色では CD19、CD20、CD79aなどの一般的 B細胞マーカーは通常証明されない。ところが、PAX-5にコードされる B-cell

specific activating protein(BSAP)の発現は保持されていることがわかってきた。HLの日常病理診断においては anaplastic large cell lymphoma(以下 ALCL)や他のT細胞性リンパ腫との鑑別を要することがあるが、このような症例では PAX-5発現の証明がその鑑別診断において有力なツールとなるのである。その例として、ALCLとの鑑別の困難な症例に対して、REAL(Reviced

European Americal Lymphoma Study Group)分類において提唱された ALCL-like HL症例もその多くが PAX-5

の発現によって HLとして認識され、この亜型名称は使用されなくなったことがあげられる。

PAX-5の発現は未熟な B細胞から認められ、形質細胞では消失する。したがって、しばしば通常の B細胞マー

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カー発現が認められず、その lineageの判断に迷う前駆細胞性腫瘍の l ineageの証明にも有用である。ただし、t(8;21)を有する急性骨髄性白血病でその発現が認められることは留意すべきであろう。

成熟 T細胞リンパ腫の診断ツールとしての T細胞マーカーの発現異常成熟 T細胞リンパ腫の病理診断において、pan-T抗原発現異常を指摘することがしばしば有用なツールとなる。現在、T細胞を広く認識するものとして CD3、CD2、CD5、CD7などがホルマリン固定標本にて検索可能である。これらの発現異常、すなわち、強発現あるいは、発現抑制・消失の確認は T細胞性腫瘍の診断を裏付けるものである。ただし、発現が通常より強度であることの認識は組織での免疫染色では困難であり、実際には発現異常として認識されるのは高度な抗原発現の抑制あるいは消失である。なかでも成人 T細胞白血病 /リンパ腫では T細胞マーカー、特に CD7の発現異常(消失)がしばしば認められる。ただし、成熟 T細胞リンパ腫全例でこのような異常が証明されるわけではない。さらに、このT細胞マーカー発現の異常性を証明することを診断ツールとして活用するためには、一定の染色結果を常に維持する努力が必要であり、常に陽性コントロールでの染色手技の確認が必要であることを忘れてはならない。

補足:悪性リンパ腫の診断における抗体選択の一例

1. Lineageの決定 CD20(必要に応じて、CD19、CD79a、PAX-5)、CD3、CD56

2. B細胞性腫瘍 CD5、CD10

3. CD5+ B-CLL/SLL(CD23+)、mantle cell lymphoma(cyclin D1+)などを考慮 CD10+ follicular lymphoma、Burkitt lymphomaなどを考慮 bcl-2、bcl-6、CD21、MIB-1で判断 腫瘍細胞が大型で DLBCL bcl-6、MUM-1、(必要に応じて CD30、LMP/EBER-ISH)4. T/NK細胞性腫瘍 CD2、CD5、CD7、CD4、CD8、CMs* さらに想定される亜型ごとに特徴的なマーカー

で検索5. B、T/NKの lineageマーカーの発現が得られない 下記に従って抗体を選択し、検索を実施 a) 一般的 lineageマーカーの発現のみられない Hodgkinリンパ腫や ALCLなど ・Hodgkinリンパ腫 「古典的」 腫瘍細胞: CD30+、CD15+(70-80%)、CD20-(20%partly+)、PAX-5+、Oct2 and/or Bob1-、

LMP/EBER-ISH+(50%) 背景細胞: CD4 > CD8

「結節性リンパ球優位型」 腫瘍細胞: CD30-、CD15-、CD20+、PAX-5+、Oct2 and Bob1+、(sIgD)、LMP/EBER-ISH-

背景細胞: CD57、PD-1、CD21

・ALCL:CD30、EMA、CMs、ALK(negative for PAX-5、LMP/EBER-ISH)

b) 前駆 B/T細胞性腫瘍:TdT、CD10、CD34など c) リンパ系腫瘍以外

*CMs; TIA-1、Granzyme B、Perforineなどの細胞傷害性分子(cytotoxic molecules)

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ム、ダコ EnVision FLEXおよび希釈済み一次抗体、ダコ

FLEX RTUによる染色結果を評価する機会を得た。当院において日常診断に活用している PAX-5と CD2、CD5

および CD7について、ダコ FLEX RTUと EnVision FLEX

を使用し、自動免疫染色システム、ダコ Autostainer

Link 48および専用前処理システム、ダコ PT Linkにて免疫染色を実施し、染色済み標本を評価した。

PAX-5は前述のように Hodgkinリンパ腫の診断において有用なツールの一つであるが、まれに陰性例も経験される。そこで、当院で Dako社の未希釈抗体である PAX-5を使用し、他社ポリマー試薬を用いた高感度検出システムにて染色した中から PAX-5陰性症例を選び出し、この症例についてダコ FLEX RTU PAX-5とダコ

EnVision FLEXにより染色した結果、陽性と判断できる症例が見いだされた(図 1)。この結果はとりもなおさず、後者がより最適化された染色法であることをうかがわせるものであった。一方、T細胞マーカーである CD2、CD5、CD7については、コントロールである扁桃組織および成人 T細胞性白血病 /リンパ腫症例を PAX-5同様ダコ FLEX RTUと EnVision FLEXにより染色を実施し評価した。これら T細胞マーカーのダコ FLEX RTUでの染色において、ともに同等の染色強度での発現が認められ、T細胞性腫瘍のひとつの診断ツールとしての有用性がうかがわれた(図 2)。

免疫染色の至適条件設定と安定化免疫染色は病理組織診断に欠くことのできない有用な

ツールである。そのためには最適な条件で、安定した手技が必要とされる。後者に関しては自動免疫染色装置の導入によってその要求は満たされてきているものと思われる。前者に関しては、新たな抗体を診断業務に導入する際に、その抗体を用いた染色の最適な条件の設定には一定の労力と時間が必要である。すなわち、前処理の必要性の有無。必要であれば何が最適なのか、蛋白分解酵素なのか、熱処理なのかを試さなければならない。蛋白分解酵素にもいくつかのものが使用されており、その濃度や作用時間なども染色結果を左右する。熱処理にも単なるヒートプレート、温浴槽、電子レンジ、オートクレーブなどさまざまな方法が知られており、これらのどれが染色に最適なのかの決定が必要となる。もちろん、前処理無しで染色が可能なものはこの限りではない。使用抗体の至適濃度について、最近では抗体の添付文書に記載されているものが多いが、それでもある程度の幅があるため、濃度を振って至適濃度を決定することが必要であろう。

Dako社希釈済み一次抗体の評価上記のような煩雑さを避けて、すぐに診断あるいは

研究業務に活用できる調製済み試薬もいくつか知られている。それらのなかから、今回 Dako社の検出システ

Dako未希釈抗体 PAX-5および他社ポリマー試薬検出システムによる免疫染色

FLEX RTU PAX-5および EnVision FLEXによる免疫染色

図 1 Hodgkinリンパ腫における PAX-5

従来法(B)では PAX-5陰性であったが、FLEX RTU PAX-5での染色(A)では、Hodgkinリンパ腫細胞に陽性所見が認められた。

ヒト扁桃組織 A : CD2、B : CD5、C : CD7

成人 T細胞性白血病 /リンパ腫症例 A : CD2、B : CD5、C : CD7

図 2  扁桃組織および成人 T細胞性白血病 /リンパ腫における T細胞マーカーコントロール組織(上段)での FLEX RTU CD2、CD5、CD7の染色において十分な染色強度が得られ、成人 T細胞性白血病 /リンパ腫症例(下段)における染色において CD7発現消失の評価が可能。

A B

A

A

B

B

C

C

まとめ今回 Dako社の新しい希釈済み抗体であるダコ FLEX

RTU PAX-5、CD2、CD5、CD7について、ダコ EnVision

FLEX、ダコ Autostainer Link 48およびダコ PT Linkを用いた FLEX RTUの推奨染色条件にて免疫染色を行い、その染色結果を評価した。FLEX RTU抗体は染色に最適な濃度に希釈されており、前処理も各々の抗体に最適な条件が設定されている。また染色プロトコールは、高感度

な検出システムで構成されており、従来法と比べより高感度でかつ最適化された染色法と言える。診断における免疫染色の重要性はもとより、今後、分子標的治療の需要が増えるとともに、診断のみならず、治療を対象とした免疫染色の需要も増してくるものと考えられ、常に最適な条件で、一定した結果を得るためにはこのようなシステム化が要求されていくであろう。