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02 Topics 究極のリサイクル ! 「植物資源変換システム」による森林資源の前進循環活用とは? リスクvs.リスクの合理的解決法。 01 Topics 合意形成支援ツール「多重リスクコミュニケータ (MRC) 」の開発 月号 4 Vol.5 No. 1 2008 April 日本科学未来館 「エイリアン展」に 行こう! エイリアンを 科学する。 Close up

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02Topics 究極のリサイクル!「植物資源変換システム」による森林資源の前進循環活用とは?

リスクvs.リスクの合理的解決法。 01Topics

合意形成支援ツール「多重リスクコミュニケータ(MRC)」の開発

月号

4 Vol.5 No.12008 April

日本科学未来館 「エイリアン展」に

行こう!

エイリアンを  科学する。

Close up

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美しく、しかし難解な方程式 アインシュタイン

[1921年ノーベル物理学賞]

 ノーベル賞(1901年創設)の6部門のうち、自

然科学部門は物理学賞・化学賞・医学生理学

賞の3つである。その歴代の受賞者と授賞理由

を見れば、ノーベル賞の歴史とはまさに20世紀に

おける最高の科学的達成の歴史であることがわ

かる。例えば1901年第1回物理学賞のW.レント

ゲンの授賞理由は「X線の発見」であり、また

1962年医学生理学賞のJ.ワトソン・F.クリックは

「DNAの二重らせん構造の発見」であった。

 では、1921年の物理学賞を受賞したアルベル

ト・アインシュタイン(Albert Einstein:1879~1955)

の授賞理由を、ご存知だろうか。もちろん「相対

性理論(相対論)」……ではなかった。「光電効果」

(金属に光を当てると電子が飛びだしてくる現象)

に関する業績に対してである。これ自体も非常に

重要な業績ではあるが、しかしじつは、1905年に

26歳のアインシュタインが奇蹟のように生み出し

た3大論文の1つの、そのまた一部に過ぎない。

しかもその3大論文の1つに、「相対論(特殊相

対論)」があったのである。

 一般に、物体の運動を観測するのに「絶対的」

な基準というものはなく、すべて「相対的」である

ほかはない――というのが「相対」のいわれ。こ

こからアインシュタインは、「同じ出来事も同時刻

ではない」「動いている物体の長さは縮む」など、

時空に関する我々の常識に変更を迫りつつ、光

速度不変のゆえんを説明する。そしてその果てに

提示されるのが、あの「E=mc2」[エネルギー(E)

=質量(m)×光速度(c)2]という方程式である。

美しく、しかし難解な式だ。ノーベル賞の授賞理

由が相対論にふれなかったのは、それが正しいの

かどうか、当時は誰にも判断できなかったからに

違いない。

 もちろん今でも、我々にとっては相対論は難しい。

これが、ヴァイオリンを好んで弾き、恋人に「愛す

る子猫ちゃん」と手紙を書き、温厚で人づきあい

もよく、時に孤独に浸るという、1人のごく普通の

人間の頭脳ひとつから生まれたとは信じられない。

かつて、「愛の讃歌」で知られるフランスのシャン

ソン歌手エディット・ピアフは、相対論の本をいつ

も枕頭に置いていた。また最近、ハリウッドの人

気女優キャメロン・ディアスは、E=mc2の意味を“本

気で”知りたいと語った。みんな、相対論を知り

たいのである。

4月号

Vol.5 No.12008 April

編集長:福島三喜子 (JST)/編集・制作:株式会社トライベッカ/デザイン:中井俊明/印刷:株式会社テンプリント

Contents

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Topics01

Topics02

合意形成支援ツール「多重リスクコミュニケータ(MRC)」の開発

リスクvs.リスクの合理的解決法。 「植物資源変換システム」による森林資源の前進循環活用とは?

究極のリサイクル!  ようこそ、私の研究室へ 神田 学 東京工業大学大学院理工学研究科准教授 日本科学未来館の耳より情報

Running at the Miraikan

(文・西田節夫)

東京・お台場の日本科学未来館では、企画展「エイリアン展――モシモシ、応答ネガイマス。」が開催されている。そこにあるのは、空想やオカルトの世界ではなく、科学から見たエイリアンだ。 現代の科学は、地球外生命の姿にどこまで迫っているのだろうか――。

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03Close up

科学技術振興機構の最近のニュースから……

JST Front Line 日本科学未来館「エイリアン展」に行こう!

エイリアンを科学する。

Granger /PPS通信社

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入学式や入社式など、4月は新しい旅立ちの季節。JSTからのニュースも、国際シンポジウムの開催や 世界を舞台にした新規事業、新しい課題募集など、平成20年度の幕開けにふさわしい話題がそろいました。

NEWS 02地球規模課題に日本と開発途上国とが科学技術国際協力を通じて挑む 国際共同研究支援プロジェクトがスタート。

国際シンポジウム「iPS細胞研究が切り拓く未来」を5月11・12日に開催。 世界の幹細胞研究のリーダーが最新の研究状況について発表。

NEWS 01

新規事業

イベント

 科学技術先進国・日本にとって、アジア・アフリカ等の途上国との国際協力強化は、重要なテーマの1つです。そのための国際共同研究支援プロジェクトがスタートすることになりました。  プロジェクトでは、日本の優れた科学技術と政府開発援助(ODA)との連携により、アジア・アフリカ等の途上国との環境・エネルギー、防災、感染症分野等における科学技術協力を推進していきます。JSTはそのためのパイプ役となり、文部科学省が行うグランドデザインの策定に協力するほか、外務省やODA実施機関であるJICAとの連携を図りつつ、日本側から提案する共同研究内容の採択・実施などにかかわっていきます。  環境・エネルギー、防災、感染症等の

問題への対応が地球規模の課題となっている今、日本には、その優れた科学技術や経験を途上国への支援に生かし、人材を育成する「科学技術外交」が求められています。  このプロジェクトは、その求めに応じて共同研究の場となり、途上国が中長期

的に自立的に課題に対応できる能力を養成することを目指しています。その目的に向かって日本と途上国が共同で、対象やフィールドが途上国にある研究を行うからこそ、双方の科学技術の振興につながり、我々は地球規模課題解決への糸口をつかむことができるかもしれません。

 国際シンポジウム「iPS細胞研究が切り拓く未来」(JST主催)が、5月11(日)・12日(月)に京都市左京区宝ヶ池の国立京都国際会館大会議場で開かれます。  山中伸弥・京都大学iPS細胞研究センター長らが昨年11月に開発に成功したヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)は、神経や心筋など、さまざまな細胞に分化することができます。従来のES細胞が、同様の機能をもちながらヒトの胚を利用するため倫理的観点から反対意見があったのに対し、iPS細胞はヒトの体細胞を利用します。こうした利点から、iPS細胞は、現在までの幹細胞研究の基盤の上に立ち、未来の医学と医療の可能性をより大きく切り拓くものとして期待され、日本ばかりでなく世界中の研究者が研究に取り組み始めました。

 今後、研究をさらに推進するためには、国同士が競うばかりではなく、人類共通の課題として研究を進めていく姿勢が求められます。そこで、世界の研究者、研究機関、国などの取り組みのあり方や、国際協調のあり方についての方向性を見出す機会として、日本が音頭をとる形で

国際シンポジウムを開催することとなりました。  第1日目は「iPS細胞関連研究の現状と今後への展望~今後の幹細胞研究にどのような発展性をもたらすか~」、第2日目は「多能性幹細胞関連研究を加速させるために~研究推進や国際協調のあり方とは何か~」がテーマ。山中教授や、2007年のノーベル医学・生理学賞を受賞したイギリスのマーティン・エヴァンス卿をはじめ、中国、韓国、アメリカ、ドイツ、イスラエルなど、世界各国の幹細胞研究のリーダーたちが最新の研究状況を発表するほか、パネルディスカッションが行われます。プログラムや参加申込方法など詳細な情報はホームページをご覧ください。 www.ips2008.jst.go.jp

NEW

Symposium

4月号

2008

科学技術振興機構(JST)の最近のニュースから……

国際シンポジウムが開催される国立京都国際会館。参加費無料。定員1200名、日英同時通訳あり。

我が国の研究機関

開発途上国の研究機関

地球規模課題の解決に 向けた国際共同研究

連携

文部科学省・JST

外務省・JICA

連携

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04 April 2008

戦略的創造研究推進事業 「CREST」「さきがけ」

科学技術振興機構(JST)の最近のニュースから……

NEWS 04

NEWS 03

募集

研究成果

他の「物体」とは異なる神経回路で行われるとされる「顔」の認識。 サルの赤ちゃんは実際に「顔」を見る前から「顔」の印象を知っていた!

 顔を一瞬見ただけで、AさんかBさんかを見分ける――私たちが何気なく行っているそんな判断の秘密が、戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「脳の機能発達と学習メカニズムの解明」研究領域(研究総括:津本忠治)の研究課題「幼児脳の発達過程における学習の性質とその重要性の解明」(研究代表者:杉田 陽一・産業技術総合研究所脳神経情報研究部門・認知行動科学研究グループ長)の研究によって明らかになりました。  顔にある眼・鼻・口などの形や位置のわずかな違いを、ヒトは瞬時に見分けることができます。しかし、顔の上下を逆にすると、簡単には見分けられなくなります。このような現象は、顔以外を見るときには起きません。また、後頭部を損傷した患者のなかに、「顔は認識できるが物体を認識できない」「物体は認識できるが顔を認識できない」という症例がいくつか報告されています。こうしたことから、「顔」の認識は、他の物体の認識とは異なる神経経路で行われていると考えられています。しかし、その仕組みは明らかになっていませんでした。  杉田グループ長らは、生まれた直後からいっさい「顔」を見せずに育てたサルに、ヒトとサルの「顔写真」や顔以外の

物体の写真を見せる実験などにより、サルが実際に「顔」を見る以前から、顔の違いを見分ける能力を持つことを明らかにしました。また、実際の「顔」を見はじめると、身近な顔を見分けやすくなる一方、見慣れない顔は見分けづらくなっていくこともわかりました。  この研究成果を受けて、今後、サルの「顔」の識別が得意なサルと、ヒトの「顔」の識別が得意なサルの脳活動にどのような違いがあるのかを研究していく予定です。こうした研究が進めば、やがてヒトの乳幼児の「顔認識」の発達に何が必要かが明らかになり、さらに脳のメカニズム解明にもつながるものと期待されています。

実験に用いた写真

Come課題募集-1

http://www.jst.go.jp/kisoken/teian.html http://www.jst.go.jp/kaku-ven/

人間、サルそれぞれ3枚の顔写真のうち上の1枚を長く見せた後、下の2枚を見せたところ、上の1枚と異なるほうを好んで見ることがわかりました。どちらが同じか、あなたはわかりますか?

実験に貢献したサル。生後6~24カ月間、実物の「顔」と顔に似た映像を一切見せずに育てられました。

課題募集-2

独創的シーズ展開事業 「革新的ベンチャー活用開発」 リニューアル

 CRESTおよびさきがけの新たな研究領域と研究総括が決定。平成20年度の研究提案募集が開始されました。  新たに加わる研究領域は、CRESTが、「先端光源を駆使した光科学・光技術の融合展開」(伊藤正研究総括・以下同)、「プロセスインテグレーションによる機能発現ナノシステムの創製」(曽根純一)、「プロセスインテグレーションに向けた高機能ナノ構造体の創出」(入江正浩)、「二酸化炭素排出抑制に資する革新的技術の創出」(安井至)、「アレルギー疾患・自己免疫疾患などの発症機構と治療技術」(菅村和夫)の5領域、さきがけが、「光の利用と物質材料・生命機能」(増原宏)、「ナノシステムと機能創発」(横山浩)、「脳情報の解読と制御」(川人光男)、「知の創生と情報社会」(中島秀之)の4領域。締切はCREST平成20年5月15日(木)正午、さきがけ平成20年5月13日(火)正午。詳しくは下記のホームページで。

 平成20年度の革新的ベンチャー活用開発(独創的シーズ展開事業)の公募が開始されました。今回から、「創薬イノベーションプログラム」が新たに加わり、従来の「一般プログラム」と区別した形で募集しています。  創薬イノベーションプログラムとは、大学等の研究成果のうち、医薬分野における開発について、創薬研究開発型企業による企業化開発を推進することにより革新的な医薬品の実用化を目指すものです。応募対象が非臨床試験、臨床試験(治験)等の医薬品開発を行う課題に限られるほか、一般プログラムと比べて、申請者の条件や開発経費の限度額などに違いがあります。  公募説明会は、JST東京本部JSTホールの他、全国各地のJSTイノベーションプラザなどで開催中です。詳しくは下記のホームページで。

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05

携帯情報端末で動作する屋内測位システムを開発! ショッピングや観光、避難誘導ナビゲーションなどへの応用に期待。

NEWS 06

NEWS 05

研究成果

シンポジウム

「地域イノベーションフォーラム in 北東北」を開催。 “脳科学と未来”をテーマに、東北大学の川島隆太教授らが講演。

 地域の科学技術・産学連携への理解促進を目的とする「地域イノベーションフォーラム in 北東北」が、2月18日、秋田キャッスルホテルで開催されました。テーマは「脳科学と未来」。秋田は県民病と呼ばれるほど脳卒中の死亡率が高く、秋田県立脳血管研究センターを設置するなど脳に関する研究が盛んであることから開催されたもので、近隣県も含めた取り組みに関する講演、討論が行われました。  当日は520人が参加。SSH指定校でもある秋田県立大館鳳鳴高等学校の生徒が1クラス全員参加するなど、幅広い方たちの関心が集まりました。  秋田大学の三浦亮学長の基調講演 「秋

田地域における医科学と地域連携(科学技術振興・産学連携)について」に続き、東北大学加齢医学研究所の川島隆太教授が「脳科学から新産業を創生する」、札

幌医科大学医学部講師の本望修先生が「自己骨髄幹細胞を用いた脳梗塞治療へ向けて」と題して特別講演。脳梗塞治療に関する本望先生の画期的な臨床映像に、会場は大きなどよめきに包まれました。パネルディスカッション「脳科学分野研究成果の社会還元と未来」ではさまざまな分野の専門家が脳について語り合うなど、盛況のうちに幕を閉じました。  このフォーラムは全国地方新聞社連合会とJSTが全国各地で随時共催しているもので、3月17日には徳島で「みんなで知ろう ! 糖尿病」をテーマに開催。あなたがお住まいの都道府県で開催されたときには、ぜひ足をお運びください。

Good

 携帯情報端末を使って、屋内でも人やモノの位置や移動軌跡を知ることができる「測位システム」が、戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「先進的統合センシング」研究領域の研究課題「安全と利便性を両立した空間見守りシステム」(研究代表者:車谷浩一産総研情報技術研究部門マルチエージェントグループ長)の一環として、車谷浩一らの研究チームによって開発されました。  人やモノの位置や移動軌跡を知る方法としては、一般的にはGPS(Global Positioning System)が知られ、すでに携帯電話のサービスとしても実用化されており、実際に利用している人も多いでしょう。しかし、GPSは人工衛星を利用しているため、屋外の開けた空間でしか利用できず、屋内や高層ビルが林立する

都市部では使用が困難という問題点がありました。  今回開発した測位システムでは、主に次の4つの特徴により、屋内での測位を可能にし、実用化への道を開いています。  1つ目の特徴は、屋内に設置された無線ビーコン装置からの信号を、確率統計推論を用いて解析していることで、これにより、測位精度の向上や、信号の一時的な欠落・雑音に対する信頼性の向上を図りました。  次に、携帯電話に搭載されているのと同程度の情報処理能力で動作可能な測位エンジンを用いているため、サーバーと通信することなく自律的に測位が可能で、通信の遅延の影響を受けない分だけ高速な測位を実現しています。  さらに、無線ビーコン信号としてVH

F帯の電波を使用するため、人が多く集まる混雑した環境でも性能の低下を抑えることができます。  また、無線ビーコン装置は、乾電池でも動作可能な省エネルギー設計です。  こうした特徴から、このシステムは携帯電話でも動作可能な屋内情報サービスの基盤技術としての条件を満たしているといえます。実際に、横浜ランドマークプラザ内に試験的に設置され、さまざまな種類の電波が飛び交う現実の商業施設でも動作することが確認されました。  今後は、生活者や観光客向けのナビゲーションシステム(ショッピング・観光・避難誘導)や、ビルなど建物の管理業務(作業員向けの作業指示システム)などへの応用が考えられます。

Event

現在位置

目的位置

「現在位置」で携帯情報端末を使うと、屋内に設置された無線ビーコンの信号によって「目的位置」の場所を測り、経路を画面に表示できます。

屋内 ナビゲーションの イメージ図

川島教授の特別講演。ゲームソフト「脳トレ」開発や脳科学の産業への応用などに、参加者は興味津々。

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日本科学未来館「エイリアン展」に行こう!

“ エ イ リ ア ン に 会 い た い ” と 考 え た

場合 長沼 毅 の

ながぬま・たけし Prof i le

06 April 2008

東京・お台場の日本科学未来館では、企画展「エイリアン展――

モシモシ、応答ネガイマス。」が開催されている。そこにあるのは、

空想やオカルトの世界ではなく、科学から見たエイリアンだ。

現代の科学は、地球外生命の姿にどこまで迫っているのだろうか――。

固定観念をひっくり返すことで 科学は発展してきた。  エイリアンはSF映画や小説など、空想

の世界の住人で、客観的な事実を突き詰め

る科学の世界には似つかわしくない――そ

う考える人も少なくないだろう。しかし、

実際には多くの科学者が、「エイリアンを

科学する」というテーマに、本腰を入れて

取り組んでいる。広島大学大学院の長沼毅

准教授もその1人。深海や地下、極地など

の極限環境に生息する生物の生態学が専門

だが、その先に見据えているのは、宇宙生

命の可能性というテーマだ。

「私は、生命を育むのはとても無理と思わ

れている条件でも、さまざまな生物が生き

ていることを証明しようとしてきました。

いわば、生命に対する固定観念をひっくり

返そうというわけです。それはすなわち、

まだ見つかっていないエイリアンの存在の

証明にもつながります」

 科学では、何よりも事実や客観的なデー

タを重んじる。しかし、科学の目的は現状

を肯定することではない。例えば、数百年

前の人々にとっては、「地球が太陽の周り

を回っている」ことは、かつては「エイリ

アンが存在する」と同じくらい、いや、そ

れ以上に荒唐無稽な話と思われていた。し

かし、科学者たちは「太陽が地球の周りを

回っている」という固定観念にとらわれず、

周囲から白い目で見られながらも研究を続

け、ついに新しい理論を証明した。科学は

「固定観念をひっくり返す」ことを大きな

目的として発展してきたのだ。

 だから、まだ確認されていないエイリア

ンの存在について考えるのも、十分に科学

の本質にかなったことだといえる。

「もしも地球にしか生命が存在していない

としたら、宇宙はとてもロンリーな世界で

す。でも、どこかに生命が、それも人間の

ような知的生命が存在して、我々とコミュ

ニケーションがとれると考えたら、それだ

けで宇宙は途端にずっと楽しい世界に変わ

るでしょう? エイリアンは科学の大きな

モチベーションになるのです」

進化論が突きつける 「n=1」の問題点。  長沼准教授は、科学こそ、エイリアンに

迫る唯一の方法だと語る。

「もしもエイリアンがいるとわかったとき、

怖がる人もいれば、コミュニケーションを

とりたいと思う人もいるでしょう。そのど

ちらの場合も、対処するには科学の力が必

要です。私はもちろん、後者です」

 原点となっているのは、子どもの頃に読

んだ手塚治虫のマンガ『鉄腕アトム』だ。

科学の力は、人間とコミュニケーションで

きるロボットであるアトムを生み出した。

そんな子どもの頃の印象が、エイリアンと

のコミュニケーションも科学の力で可能だ

広島大学大学院生物圏科学研究所准教授。1961年4月12日、ガガーリンが人類初の宇宙飛行を行った日に生まれる。筑波大学大学院博士課程生物科学研究科修了。理学博士。深海や極地などの極限環境に生息する生物の生態学のほか、宇宙生命の可能性というテーマにも取り組む。

Close up

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エイリアンに会いたい人は

と き 、 サ イ エ ン ス が は じ ま る 。

イツカ、会イニ行キマスヨ。

07

という確信につながっている。

 ただし、エイリアンを科学するのはたや

すいことではない。理由の1つとして長沼

准教授が指摘するのが、生命が棲むと確認

されている天体が、宇宙の中で地球1つし

かないことだ。

「科学にとって実験は極めて重要です。試

験管を何本も用意して実験を繰り返し、デ

ータを集めることで、仮説を証明していき

ます。ところが、生命の場合はサンプルが

地球1つしかない。これでは、仮説が真実

だと証明することはできません」

 科学における仮説を証明するには、たっ

た1度の実験や観察ではなく、何度やって

も同じ結果を得ること(再現性)が必要で

ある。ところが、生命に関しては、地球と

いう唯一のケース、すなわち「n=1」の

場合しか調べることができない。これでは

証明することは難しい。

 象徴的なのは進化論だ。ダーウィンが唱

えてから150年以上が経過した今も、「論」

の一字が残っている。どんなに理論を積み

重ねても、地球という「n=1」以外のケ

ースであてはまることが証明されない以上、

その「論」が真実であることを証明できな

いからだ。エイリアンを科学するときも、

これと同じ問題がつきまとう。

「ダーウィン以来、我々は、新しい観点か

ら科学を作り直さなければならないという

問題を突きつけられているのです」

「波」に乗れば わずか5000年で文明は築かれる。  とはいえ、唯一の例である地球の生命か

ら宇宙における生命の可能性を探ることは、

決して無意味ではない。少なくとも、地球

における生命の存在によって、この宇宙が

生命を育みうることは証明されている。次

のページで紹介する最新の研究の成果の数々

も、宇宙にも生命体が存在する可能性を広

げ続け、減らしていくことはない。

 そして、いったん生命が生まれればそこ

から知的生命体が生まれる可能性があるこ

とは、我々人間の存在が証明している。地

球の誕生は約46億年前で、初めての生命

が誕生したのは約38億年前、ホモサピエ

ンスが現れたのは約20万年前だ。そして、

約1万年前に現在の間氷期が始まり、約

5000年後には農耕が開始された。そこか

らわずか約5000年間で、人間は携帯電話

まで使いこなす文明を築いたのだ。

「間氷期は以前にも1度か2度は経験して

います。おそらく、そこでも何らかのきっ

かけがあれば、同じようなことが起きてい

たでしょう。もしかすると、実際に私たち

の知らない文明が栄え、氷河期の訪れによ

って滅びてしまったのかもしれない。とも

かく、『波』に乗ってしまえば、5000年ほ

どでこれだけの文明を築くことが可能なの

です。宇宙のどこかで生命が誕生したら、

同じように知的生命体が生まれていること

は十分に考えられます」

 長沼准教授は、こうした知見からエイリ

アン「論」を深めることが大切だと語る。

「nが100なのか、1億なのか――すなわ

ち、生命を育んでいる天体が宇宙にいくつ

あるのかはわかりません。しかし、1つで

も地球以外の『n』が見つかれば、理論の

正しさを検証することができるでしょう。

何より、将来、エイリアンに会ったときに

コミュニケーションをとるためにも、骨太

の理論を作り上げたいですね」

 古の科学者が、「地球が太陽の周りを回

っているのではないか」と考えたとき、サ

イエンスは一歩を踏み出した。同じように、

あなたが「エイリアンに会いたい」と考え

たとき、サイエンスが始まるのだ。

例えばこんな姿形をしたエイリアンが、宇宙のどこかに存在し、我々地球人と同じように、自分たち以外の知的生命体の存在を信じて、メッセージを送っているかもしれない。

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08 April 2008

日本科学未来館「エイリアン展」に行こう!

01

エ イ リ ア ン を 本 気 で 語 れ る ぐ ら い 、 私 た ち

地球を食べて生きている 「チューブワーム」。 「エイリアン展」では、最新の科学の研

究成果を元にしたエイリアンの姿を目の

当たりにすることができる。その1つが、

深海や地下、極地など、地球の極限の環

境に棲む生物の姿だ。

 1979年、ガラパゴス諸島沖の深海で、

地球内部から火山ガスが噴き出す「熱水

噴出孔」と、「チューブワーム」という

生物の群生が確認された。この発見こそ、

地球以外の天体に生物が棲む可能性を大

きく広げたと長沼准教授は指摘する。

「私たちは、植物が光合成を行い、太陽

エネルギーを使って二酸化炭素から作り

だした有機物を食べています。いわば『太

陽を食べて生きている』のです。しかし、

深海では太陽エネルギーが届きません。

そんな環境でも、チューブワームは、熱

水に含まれる硫化水素などの、酸化によ

って得られる化学エネルギーを利用して

有機物を作りだしている。つまり、『地

球という惑星を食べている』のです」

木星の衛星にも 熱水噴出孔がある。  それまで、生命が育まれるには水とと

もに太陽エネルギーが不可欠だと考えら

れていた。生命が存在する可能性がある

天体の候補も、太陽のような恒星にある

程度近い惑星や衛星に限られるのではな

いかというのが常識だった。ところが、

この発見によって、一気に候補の幅が広

がったのだ。

 1995年、ガリレオ探査機によって、

木星の第2衛星「エウロパ」表面の地形

の様子が詳細にわかり、そこから、厚い

氷の下に海と火山活動があることが明ら

かになった。地球の深海の熱水噴出孔と

よく似た環境だ。そこに生命が誕生する

可能性も十分にあると考えられる。

 長沼准教授は、熱水噴出孔の近くで、

それまでの常識を覆す、0.2ミクロンよ

りも小さい生物も発見した。このように、

地球の極限の環境やそこに棲む生物を調

べることで、地球に棲む生命の限界が広

がり、宇宙における生命の存在を見逃さ

ないための手がかりともなるのだ。

深海に棲む生物は、その環境に合わせて独特の進化を遂げている。その姿は、私たちの生命に対する常識を覆してくれる。

チューブワームのモデル。体内に共生しているバクテリアの化学合成によって、有機物を得ている。

深海には 宇宙生命を考える ヒントがある。

02

Close up

惑星オーレリアに棲む、全長4.5メートルの大型肉食動物「ガルプホッグ」(仮想)。前歯を地面に突き刺し、獲物の振動を感じとる。

地球型惑星以外にも広がる 可能性をシミュレーション。  地球の極限の環境ばかりでなく、実際

に宇宙を観測し、生命の存在を探る計画

も進んでいる。今後10年以内に、高性

能の望遠鏡を備えた人工衛星が打ち上げ

られ、生命が存在する可能性のある天体

を観測する予定だ。

 この人工衛星で、いったいどんな天体

を観測するのか。当初は、地球型の惑星

のみが想定されていたが、シミュレーシ

ョンを重ねた結果、それ以外の天体にも

生命が育まれる可能性があることがわか

ってきた。

 打ち上げられる人工衛星から観測可能

な距離は50光年まで。まず、その範囲

内の天体の80%を占める「赤色矮星」

に注目し、その周りを回っている地球サ

イズの惑星を候補として設定した。

 シミュレーションの結果、ある惑星で

¬B

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09

映画やテレビ、文学に出てくる「空想とし

てのエイリアン」を入り口に、地球の極限

に棲む生物から宇宙の生命の存在を考える

「科学としてのエイリアン」、科学的にシ

ミュレーションした2つの天体に棲む生物

の姿を楽しむ「エイリアンの世界」、地球

外生命とコミュニケーションする試みを紹

介する「エイリアンとの交信」の4つのゾ

ーンに分けて、エイリアンに迫る。

の サ イ エ ン ス は 進 化 し た 。 エ イリア ン展 企画展

--モシモシ、応答ネガイマス。

ボクヲ、見ツケテクダサイ。

衛星ブルームーンに棲む、全長10メートル以上もある空飛ぶ動物「スカイホエール」(仮想)。

今回の「エイリアン展」は、ほかの特別展に比べて、模型や標本などがたくさんあることが大きな特徴です。ゾーン 3にある惑星と衛星に棲む生物たちの展示は、パネルをタッチして実際に動かすこともできます。例えば衛星ブルームーンは、大気の重さが地球の 3倍あることから、鯨のように大きいけれど空を飛ぶ生物も想定されています。そんなふうに、どうしてそんな形をしているのかの理由に気をつけながら操作すると、もっと深く楽しめると思います。そのほか、生物学、天文学など、さまざまな角度からエイリアンに迫っていますので、自分なりの楽しみ方を見つけてほしいですね。

惑星オーレリアに棲む両生類「マッドポッズ」(仮想)。前足と頭を使って水をせき止め、ダムをつくる。

6本足だから、 泥を扱うのに 都合がいいよ。

日本科学未来館 科学コミュニケーター

松岡 均 (まつおか・ひとし)

会場設営中の 1コマ。

どんな会場かは、 来場しての お楽しみ!

会期 2008年3月20日(木・祝)~6月16日(月)

場所 日本科学未来館 1階企画展示ゾーン

水の存在が確かめられた。しかし、赤色

矮星に近いため、その引力の影響で自転

せず、球体の半分はいつでも光が当たる

「昼」で常に嵐が巻き起こり、残りの半

分は光が当たらない「夜」で厚い氷に覆

われていることがわかった。

 どちらも生命が棲むにはふさわしくな

い環境で、地球型とはいえない。しかし、

その惑星の大気の状況を想定し、どのよ

うな変化が起こるかシミュレーションを

重ねてみた。すると、ちょうど昼夜の境

目にあたる部分に、生命が存在する可能

性のあることが明らかになったのだ。

 さらに、恒星がもう1つの恒星を回る

「連星」も、シミュレーションの対象と

なった。これまでは、連星の周りでは、

惑星の軌道が不安定だと考えられていた

が、最近の研究で、安定した軌道が可能

であるといわれている。

 その連星の周りを回る惑星をシミュレ

ーションしたところ、巨大なガス状で、

生命の存在の可能性は高くないと思われ

た。しかし、その惑星の周りを回る衛星

には、生命の棲む、安定した環境の存在

が可能だと結論付けられた。こうして、

観測の対象は地球型惑星以外にも広がっ

ていったのだ。 エイリアンの姿を 想像するかしないかはあなた次第。  この2つの天体は、それぞれ「惑星オ

ーレリア」「衛星ブルームーン」と名付

けられ、そこにどんなエイリアンが棲む

のかも予測された。それぞれの環

境に合わせて、地球の常識を超

えた形態の生物もシミュレ

ーションされており、それらのユニーク

な姿も、「エイリアン展」で見ることが

できる。

 このように、エイリアンの実際の姿を

想像するのもワクワクするが、長沼准教

授のエイリアンへのアプローチのスタン

スは、これとはちょっと違う。

「私はむしろ、あえてエイリアンの姿を

想定しないほうがいいと思っています。

生命の定義として、自己複製、代謝、細

胞膜の3つの特徴が挙げられますが、そ

れは地球の中だけの話です。宇宙では、

例えば細胞膜のない、ガスのようなエイ

リアンが存在する可能性もあります。地

球の生物の基本的な要素は炭素ですが、

シリコンを基本にした、石のようなエイ

リアンもいるかもしれません。地球の常

識にしばられて、エイリアンの姿を想定

してしまわないほうが、彼らを見逃さな

いと思うんですよ」

 あなたはどんなふうに、エイリアンを

科学しますか?

開催中!!

¬Big Wave 2005/Channel 4 television

¬Big Wave 2005/Channel 4 television

TEXT:十枝慶二/PHOTO:松崎泰也(ミューモ)

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0101

10 April 2008

ITシステムへの依存と 情報セキュリティ。  多くの情報がコンピューターで管理

されている現代社会において、情報セ

キュリティは大きなテーマである。10

年ほど前から情報セキュリティの問題

は世間の関心を集めはじめていた。

 しかし長年セキュリティ問題に携わ

ってきた佐々木良一教授は、10年前

と現在とでは、情報セキュリティに関

する事情が変化しているという。

 1つは、扱う問題が拡大していると

いうことである。従来は、故意による

障害だけに注目していた。しかし、現

在ではコンピューターによる情報シス

テム(ITシステム)への依存度がよ

り高くなっているため、事故による障

害についても扱う必要が出てきている。

 もう1つは、情報を扱ううえでのプ

ライバシーの問題や、ITシステムの信

頼性・安全性の問題も含めて扱ってい

こうという動きが強まってきていると

いうことだ。

「情報セキュリティという狭い範囲で

なく、もっと広い範囲でITシステム

の安全性を考える必要があります」

「ITリスク」対策と 「ITリスク学」。  佐々木教授は、ITシステムにおいて

広い意味で安全が失われる可能性を、「I

Tリスク」と呼んでいる。

「工学分野では、リスクとは『事故の

発生確率×事故の影響の大きさ』で表

されることが多いのです。私が『IT

リスク』という概念を採用することに

したのは、安全の問題を扱うには、発

生確率の概念を積極的に取り入れてい

くべきだと考えたからです」

 優先度の高いものから適切に対策を

行ったり、どこまで深く対策を行うか

を検討したりするためには、発生確率

や影響の大きさを数値として指標にす

ることが不可欠なのである。

 そして、今後ますます増大が予想さ

れる「ITリスク」を解決するために、

ITリスクに関する心理学や社会学など

の理論的な内容から、ITリスクマネジ

メントやコミュニケーション(危機管

理)などの実務的な内容までを体系化

した「ITリスク学」を確立すること

が必要であると、佐々木教授は考えて

いる。

0202Step Step

リスク対リスクの時代。  佐々木教授は、現在は1つのリスク

対策が、別のリスクを生む原因になる

「リスク対リスク(多重リスク)」の時

代であるという認識が必要だと言う。

「例えば、エネルギー危機を救うはず

のバイオ燃料が、食糧危機を作り出し

ています。実は、リスク対リスクのぶ

つかり合いは昔から無限にありました。

しかし、現代社会の状況の中でそれが

より目立つようになってきたのです」

 ITリスクに関しても、「リスク対リ

スク」は存在する。

「企業が個人情報漏えい防止のために

行う対策が、従業員のプライバシーや

利便性を奪うなど、職場環境がどんど

ん悪くなっているように感じています」

ITリスク対策に求められる 3つの必要性。  佐々木教授は、リスク対リスクの時

代におけるITリスク対策には、次の

3つのことが必要であると考えている。

 1つ目は、リスク対リスクを回避す

るための手段。2つ目は、複数の関係

者間の合意を得るためのコミュニケー

※悪意のある改ざんや破壊が行われた場合に、法的手段や起訴を行うためにデータ調査・分析を行うこと。

大規模情報システムの バグによるシステムダウン

〈発生原因〉

故障・エラーなど

故意の不正

〈評価指標〉

狭義のセキュリティの指標

広い指標 暗号の危殆化

ウイルス被害 不正侵入

サイバーテロ 個人情報漏洩

デジタルフォレンジック※

2000年問題

従来の 研究領域

I Tリスクとは何か?

Topics 合意形成支援ツール“多重リスクコミュニケータ(MRC)”の開発

佐々木良一(ささき・りょういち)

ITシステムにおいて、故意による障害・事故による障害を含め幅広い意味で、安全が失われる可能性。

“情報セキュリティ”から、ITリスク学へ。 対立するリスクをいか

△:従来の主な検討対象  ●:今後対応が必要な対象 ◎:今後対応が特に必要な対象

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11

0303Step

ション手段。どんな対策をとってもリ

スクがゼロになることはない。経営者、

従業員など複数の関係者が存在するIT

リスクでは、関係者のそれぞれのリス

ク間で折り合いをつけることが重要と

なるのだ。3つ目は、対策の最適な組

み合わせを求めるシステム。多様な攻

撃を受けるITシステムでは、複数の対

策を組み合わせなければならない。

 こうした必要性から、佐々木教授ら

は対立するリスクの対策を最適化する

合意形成支援ツール「多重リスクコミ

ュニケ―タ(MRC)」を開発したのだ

という。

佐々木教授の研究室。学生たちが熱心にプログラムの作成を行っている。

1971年東京大学卒業。その後、日立の研究所を経て、2001年から東京電機大学教授。企業時代から長年セキュリティ分野に携わってきた。

対策の最適な結果が表示される。意思決定関与者は、この画面を見て話し合いができるので、コミュニケーションが取りやすい。

TEXT:大宮耕一/PHOTO:森山みよこ

ロールプレーヤーによる合意形成実験から

“最適化結果”のプレゼンテーション例

MRCを使った合意形成のプロセス。 かにして解決するか。

「多重リスクコミュニケータ(MRC)」 の開発。 「多重リスクコミュニケータ(以下、

MRC)」は、JSTの社会技術研究開発

事業「情報と社会」研究開発領域の計

画型研究開発「高度情報社会の脆弱性

の解明と解決」の一環として開発され

たもの。開発は、佐々木教授らと、(株)

アドイン研究所、(株)ピンポイントサ

ービスの協力で行われた。

 MRCの運営には、リスク対策の専

門家と実際にリスク対策を必要とする

意思決定関与者、両者の仲立ちをする

ファシリテータ(促進者)が想定され

ている。この3者がそれぞれのパソコ

ンからインターネットを経由してMR

Cのサーバに接続できるようになって

おり、互いに離れた場所にいてもコミ

ュニケーションが可能となっている。

MRCによるリスク対策の 合意形成の流れ。  実際にはどのように合意形成がなさ

れていくのだろうか。以下、情報漏え

い対策を想定して行われた合意形成実

験の結果をもとに、MRCによって合

意形成がされていく過程を紹介する。

この実験では、佐々木教授の下で学ぶ

学生がロールプレーヤーとして意思決

定関与者に扮した。

 最初に、専門家による制約条件の設

定が行われた。情報漏えいの頻度、対

策コスト、従業員それぞれのプライバ

シー・作業への負担度が設定された結

果、最適な対策案の組み合わせが導き

出された。

 次に、この結果をもとに、経営者、

住民、従業員それぞれに扮した学生の

間で、合意形成のための話し合いが行

われた。この話し合いでは、顧客が情

報漏えいの頻度を減らすべきと主張し、

それを元に専門家が最適な対策の組み

合わせを求め直した。

 2回目の話し合いでは、従業員から

プライバシー負担度の軽減が要求され、

再び専門家が最適な対策の組み合わせ

を求め直した結果、合意形成がされた。

 このように、話し合いによる結果を

もとに対策の組み合わせを求め直すと

いう繰り返しによって、最終的に関係

者間の合意形成がされるのが、MRC

を用いた合意形成の流れである。

 この後に、世田谷区役所の協力によ

って東京電機大学と(株)IT働楽研究所

がMRCを適用したケースでも、3回

の話し合いで合意形成がされ、ITリス

クを解決するツールとしてのMRCの

有効性が示された。

 リスク対リスクの時代におけるリス

ク対策に、合理的な解決法が生まれよ

うとしている。

現在は、リスク対策が別のリスクの原因となるリスク対リスクの時代。

東京電機大学の佐々木良一教授らは、対立するリスクの対策を最適化するための

合意形成支援ツール、「多重リスクコミュニケータ(MRC)」を開発した。

リスク リスク

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Topics

12 April 2008

舩岡教授の哲学

自然界にゴミはなし。すべての物質は重要な環境構成要素。

“植物資源変換システム”による森林資源の前進循環活用とは?

01P a r t

化石燃料の代替資源として 森林資源に注目が集まるが……。  地球の温暖化問題が叫ばれ、化石燃料

に代わって植物の利用が進んでいる。特

にバイオエタノールの需要は世界的に高

まっているが、現在の技術ではトウモロ

コシやサトウキビを利用するため、穀物

市場への影響は避けられない。

 そこで樹木に含まれるセルロースなど

の炭水化物から燃料を作る取り組みも始

まっている。樹木は消費してしまっても

再び育成すれば持続的な利用が可能だろ

う。そのため、森林資源を利用すること

により、地球温暖化だけでなく、化石燃

料の枯渇も解決できると期待されている。

 しかし、森林資源への理解を深めずに、

その利用だけが進むと新たな問題が発生

すると警鐘を鳴らす研究者がいる。三重

大学の舩岡正光教授(戦略的創造研究推

進事業SORST「植物系分子素材の逐次精

密機能制御システム」研究代表者)である。

「植物は光合成により二酸化炭素などの

分子を濃縮してくれます。そして、枯死

すると徐々に分解され、もとの物質へと

戻ります。こうした時間をかけた植物の

循環システムを理解して森林資源を利用

しないと、環境を破壊してしまいます」

 下の図をご覧いただきたい。これは樹

木の成長過程(フェーズ1)を経て、森

林が形成(フェーズ2)され、枯死した

後、分解されていく(フェーズ3)とい

う変化を示している。フェーズ1以前は、

分子(=二酸化炭素)が拡散しているた

め、人間は利用できないが、環境中の二

酸化炭素が植物に取り込まれて集合化す

ると、人間にも利用できるようになる。

物質が変化していく 植物の循環システムを維持すべき。  ただし、こうした循環システムの中で

登場する物質は、人間だけのものではな

い。朽ちた樹木などは、人間には無用に

思えるが、循環システムの過程を構成す

る重要な存在である。物質が変化してい

くそれぞれの過程は、生態系の中で大切

な役割を担っているのだ。そのため、こ

の循環システムを崩すような利用があっ

てはならないと、舩岡教授は説明する。

「例えば、樹に実った真っ赤なリンゴは

人間にとっては製品です。しかし、樹か

ら落ちて腐ったリンゴをミミズは待って

いる。自然界に主役・脇役、製品・ゴミ

は存在しない。すべて重要な意味を持っ

た主役です。ですからこの特徴を生かす

ような利用でなければならない。そうで

なければ、環境を撹乱しない持続的社会

は不可能です」

植物の循環システム(炭素の流れとしての森林資源) 図1

生態系の本質を 理解してこそ

森林を使えます。

舩岡正光 (ふなおか・まさみつ)

三重大学大学院生物資源学研究科教授。1975年、三重大学大学院農学研究科修了後、同大学助手、助教授を経て、1997年より現職。ミシガン工科大学、ニューヨーク州立大学、ドイツ森林資源研究所において客員教授を歴任。森林資源を活用した循環型社会を確立する技術を研究している。

1Phase

拡散状態にあるCO2が太陽光をエネルギー源とする光合成によって集合化、濃縮され分子複合系へと組み上げられていく、樹木の成長段階。

2Phase

CO2が分子の巨大複合体(樹木)として固定された状態を維持している段階。森林形成期。

3Phase

樹木の生命停止後の営み。壮大な年月をかけて分子複合体が解放され、構造転換を繰り返しながら、最終的にCO2へと転換される分子解放期。

分子集合化

時間

地上 地下

Phase3の中で、ある特殊な条件下で出来上がった一段階。

★石油

リグノフェノール 炭水化物

大気 CO2

CO2

CO2

CO2

CO2

CO2

CO2

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13

究極の森林資源リサイクルシステム 図2

植物資源変換システム

生態系の流れにしたがい、材料としても“なめらか”に流す。 02P a r t

分解の早い糖質だけでなく 難分解性のリグニンも利用する。  では、どのようにすれば、植物の循環

システムを撹乱させずに、森林資源を利

用することができるのだろうか。その答

えとなるのが、植物の循環システムにお

ける物質の変化に合わせた利用だという。

 森林資源が再生可能だといっても、樹木

が成長するのに相応の時間が必要だ。すぐ

に燃やせば、資源を消費する時間はごくわ

ずか。しかも、現在、利用が推進されてい

るのは分解の早いセルロースなどの糖質ば

かり。これではフェーズ3の変化の勾配は

さらに“きつく”なり、森林系炭素の気体

―固体バランスは気体側にシフトし、地球

温暖化を促進することになる。

 舩岡教授はリグニンの利用なしに、健

全な森林の循環は不可能と説明する。リ

グニンは樹木が直立するための支持など

に関わる高分子で、約30%も含まれて

いる。これを利用できればフェーズ3の

変化の勾配は“ゆるやか”になるだろう。

ただ、リグニンには大きな問題がある。

「リグニンは難分解性ですが、環境変化

に感受性の高い分子であるため、熱化学

処理を加えるとすぐに変性してしまいま

す。これまで多くの研究者が研究してき

ましたが、誰もリグニンの特性を破壊し

ない分離技術を開発できなかったんです」

 舩岡教授は、木粉にフェノールを加え、

これでリグニンの変性を抑え、新しい機

能を持ったリグニン素材を誘導すること

を考えた。次に酸と混合して激しく攪拌。

すると親水性の炭水化物が酸に出てくる

ため、疎水性のリグニンがフェノールに

残り、リグノフェノールとして簡単に分

離できる。しかも、室温で反応するため、

エネルギー消費はごくわずかだ。

 2007年には連続稼動可能な植物資源

変換プラントを学外に建設し(下写真)、

リグニン(リグノフェノール)の大量生

産に向けた開発が進められている。

開発進むリグニン由来の機能性材料。  リグニンを分離できれば、次は実用化

に向けた研究が待っている。例えば、成

形した製紙パルプにリグノフェノールを

加えて作られる木材そっくりの新素材(上

写真)については、実用化に向けた応用

研究まで進んでいる。

 といっても、再生木材としての利用は、

木質材料が高分子から低分子へと変化し

ていく一過程での利用形態に過ぎない。

舩岡教授が理想とするリサイクル社会の

実現には、物質の変化にあわせて木質材

料を利用していく“前進循環活用”が不

可欠なのだ。最初は高分子の材料として

利用し、徐々に構造を解放して、低分子

材料としても利用。最終的に石油の成分

と同じ物質まで解体した後、石油に代わ

る工業原料として利用する。こうした前

進循環活用が実現した社会こそが、舩岡

教授が想い描く、森林資源を基盤とした

究極のリサイクル社会である。

物質の変化に 則った利用で

資源枯渇はない。

次世代の資源としてバイオマスへの注目は高まっているが、

自然への理解を深めず利用すれば、地球環境の崩壊も危惧される。

三重大学の舩岡正光教授は究極のリサイクルを提唱している。

天然リグニンから誘導した

新素材リグノフェノールを

再度、製紙パルプと複合す

れば、木の質感あふれる再

生木材になる。

TEXT:斉藤勝司/PHOTO:大沼寛行

植物資源変換システムによって、木材をリグノフェノールと炭水化物に分離。

連続稼動が可能な植物資源変換プラント。大量生産に向けた研究が進んでいる。

リグノフェノールは究極のリサイクルを実現する鍵を握る材料になるだろう。

1Phase

2Phase

木材を燃やすという行為は、Phase3における分子レベルでの機能をすべて放棄し、CO2へと一気に転換してしまうこと!

分子集合化

時間

木材工業

分子素材分離

リグノフェノール リグノフェノール 炭水化物 炭水化物

第3号植物資源変換システムプラント

林業

植物系分子素材工業

化 学 工 業

大気 CO2

CO2

CO2

CO2

CO2

CO2

CO2

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14

13ようこそ 私の研究室へ

Welcome to my laboratory

東京や大阪などの過密都市ではヒートアイ

ランドや集中豪雨が問題となっていますが、

こうした都市特有の気象現象はまだ予測で

きるほど十分に理解が進んでいません。

 東京から北東へ電車で1時間強、関東平

野の真ん中に、神田学さんらの屋外実験場

がある。畑の間をしばらく歩き、区画に沿

って植えられた木々を抜けると、奇妙な光

景が広がる。地面がコンクリートで固めら

れ、その上に無数の立方体が整然と並んで

いるのだ。地面も立方体も、暗い灰色一色

に塗られている。都市特有の気象を調べる

ための都市の模型であるという。

「立方体の高さは1.5m、建ぺい率は25%。

単純化されていますが、実際に現地観測し

ている街の1/5モデルになっています。街

が太陽光を吸収して熱を貯め、夜には放射

していく、その熱収支をシミュレートでき

るギリギリがこの大きさなんです」。灰色

に塗られているのは太陽光の反射率を調節

するためだという。

 地上に構造物があると、その上空には構

造物の2~3倍程度の高さで構造物を覆う

ドーム状の空気の膜(内部境界層)が発達

する。「膜の内側と外側とでは空気の流れ

がまったく違います。街が大気に排出する

熱やCO2はまず、この膜の内側に溜まって

いくのです」

 都市気象の機構を理解するうえで重要な

内部境界層だが、観測や解析が難しいこと

もあり、これまでその構造はあまり調べら

れてこなかった。そこで、ブレークスルー

となるのが、模型を使った大気測定だ。

「観測の結果、都市の上空に、建物の数十

倍の幅をもった芋虫のような筋状の空気の

流れが発見されました。計算によれば、街

から排出される熱や水蒸気の8割をこの“芋

虫”が運んでいるようです」。今後のヒー

トアイランド対策では、“芋虫”の制御が

有効な方策になりそうだという。

快適な街づくりに貢献したくて、都市の環

境や気象を研究してきました。都市の模型

を作って実験するプロジェクトは、長い研

究のなかで醸成されたアイデアなのです。

 ミニチュア都市は学術的には「屋外スケ

ールモデル」と呼ばれ、世界的にも例がな

い。海外の研究者たちからも注目の的だ。

コンピューター・シミュレーション(数値

計算)による都市気象の分析や予測は、近

年よく目にするが、なぜこうした実物のミ

ニチュア都市が必要なのか。

「数値計算はパワフルですが、正しい原理

を仕込まないと正しい答えが得られない。

一方、現地観測にはウソはありませんが、

観測設備を自由に建てられないなど制約が

多いし、その場所特有の条件もあって一般

性のある法則を導きにくい。そこで、A屋

外スケールモデルで原理を解明、Bその原

理を使って数値計算、C計算結果を現地観

測と比較し、計算の有効性を確認、といっ

た複合的アプローチが必要になるのです」

 屋外スケールモデルの構想は10年以上

遡るという。「快適な街を作りたい」との

夢から大学で土木を専攻したが、恩師の影

響もあり、都市気象の研究を始めた。最初

に取り組んだテーマは、植物が都市の気候

にどんな影響を与えるか。「屋外に風洞を

造り、中に植物を植えて測定、数値計算を

行う、などといった研究を進めるなかで、

次第に構想が芽生えてきました。とてもお

金の掛かる実験ですから、CRESTに採択

されて、やっと実現したわけです」

研究者はいろいろな意味で社会に対して責

任を持つべきです。税金を投入して研究す

るのですから、成果を社会に還元しなくて

はいけません。

 並行して、現地観測も東京都内の住宅街

や東京湾などで行っているが、実施にあた

っては、現地の住民や関係者の理解と協力

が不可欠だ。プロジェクトに投入されるの

が税金であることを含めて、神田さんは研

究者の社会的責任を重く受け止める。

「熟考を重ね、必ず成果を出せる自信がな

ければ、こうしたプロジェクトはやるべき

ではありません。とはいえ、予測しきれな

いことをするのが研究ですから、5段階く

らいのシナリオを考えておき、どう転んで

も最低限の成果は出すようにしています」

 また、研究で得た知見は、都市計画への

協力はもちろんのこと、さまざまな形で社

会に還元したいと考えている。

「屋外スケールモデルの敷地を使った実験

で、面白いことがわかりました。森を作る

より、同じ数の木を分散させて植えたほう

がCO2の固定や蒸散効果(植物から大気中

へ水蒸気が放出されること)が3倍くらい

大きくなるんです。10万本の木がある明治

神宮のような公園を都内に新たに作ること

は不可能ですが、10万戸の家が1本ずつ木

を植えれば、効果はそのほうがずっと大き

いわけです。この話を講演ですると、緑化

に対する市民の意欲がぐっと高まります」

 ヒートアイランドや集中豪雨など、都市

気象の問題は深刻化している。神田さんの

研究から生まれる対策の知恵に期待したい。

神田 学(かんだ・まなぶ) 東京工業大学大学院理工学研究科 准教授

1964年新潟県生まれ。86年、東京工業大学工学部土木工

学卒業、88年、同大学理工学研究科土木工学修士課程修了。

91年より同大学工学部助手。92年、工学博士。93年より山

梨大学工学部講師、95年、東京工業大学工学部助教授。

99年から2000年にかけての1年間、ドイツ・フライブルグ大

学気象学科の客員助教授を務める。02年11月から08年3月

までCREST代表研究者。02年、土木学会水工学論文賞、

03年、水文水資源学会学術賞など受賞歴多数。

「都市生態圏-大気圏-水圏における水・エネルギー交換過程の解明」 研究代表者

戦略的創造研究推進事業CREST“水の循環系モデリングと利用システム”

空に浮かぶ 巨大な“芋虫”。

ミニチュア都市の 意義。

社会に役立つ 研究を。

April 2008

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沿岸域の過密都市が大気圏や水圏(河川や湾)との間でどのような相互作用(熱や水のやり取り)をしているのかを研究している。相互作用の機構を解明することで、都市気象を予測するシミュレーション・モデルを開発する。さらには、そのモデルをよりマクロな気象モデルと組み合わせることで、都市が環境(大気圏や水圏)に及ぼす影響を解析する手法を提供するのが目的。具体的には、

東京都大田区の住宅街や東京湾上で1年間にわたって現地観測を行った。都市部での通年観測は、世界でも他に1例ある程度と貴重。また、本文で紹介の屋外スケールモデル(愛称COSMO)による実験は世界初の試み。これらの観測と実験で得られた知見を基に、数値計算のためのシミュレー

ション・モデルを開発し、都心部の内部境界層に形成される乱流組織構造(“芋虫”のような空気の流れ)を予測することに成功した。

研究の概要

開発したシミュレーション・モデルによる新宿の高層ビル街を流れる風の計算結果。

15TEXT:黒田達明/PHOTO:大沼寛行/パース:意匠計画

ブロックの重さは2.3トン、厚さ10⁄で中は空洞だ。50m×100mのエリアに512個が並ぶ。

ここでの観測は完全自動計測。脇に設置された“物置小屋”の中にはデータを自動収集する機器がびっしり。

上空3~4.5mにできる内部境界層の風速、温度、水蒸気、CO2濃度などを測定。

あちこちに貼り付けて、陽の当たり方を調べる。

街並みが変わるとどうなるか。手のひらサイズのブロックで、並べ替えの実験も行われた。

環境問題は複雑系。広い視野で臨め。

ブロック表面に計測器を貼り付け、内部に入っていく熱を測定。

ブロックの高さの2倍、3mの高さに並べて、“芋虫”を捉えた。

ブロック設置前に、サザンカの鉢植え203個を並べて調べた。

表面温度測定 超音波風速計 オアシス効果の観測

1/ 50モデル

コンクリートブロック タワー 日照計 計器室

屋外スケールモデル実験施設“COSMO”1/5モデル

1.5m

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03  未来館ロゴ刺繍入り

日本科学未来館ホームページ http://www.miraikan.jst.go.jp/

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Vol.5 / No.1 2008 / April

発行日/平成20年4月 編集発行/独立行政法人 科学技術振興機構 広報・ポータル部広報課 〒102-8666 東京都千代田区四番町5-3 サイエンスプラザ 電話/03-5214-8404 FAX/03-5214-8432 E-mail/[email protected] ホームページ/http://www.jst.go.jp

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02  エイリアン・ラボが出現!

日 本 科 学 未 来 館

「ミニタオル・ハンドタオル」

4月下旬よりオープン 日本科学未来館DATA

未来館のロゴマークがうれしいデザイングッズが登場しました。 毎日使う物だから、しっかりとしたタオル地を使用しています。

「ミッション・レポート」 好評開催中の「エイリアン展」では、会場内で解説員によるミッション (実演プログラム)が日替わりで1日2回行われています。

『メディアラボ』

 メディアラボは、研究室(ラボ)の機能をもったギャラリー展示スペースです。  情報技術やメカトロニクス技術などを取り入れた、実験開発中の作品や製品化のためのプロトタイプ、インタラクティブ・アート作品などを紹介。これらの作品は、技術や装置そのものがもつ本質的な面白さを形にしており、「デバイスアート」とよばれます。また、定期的に展示物が入れ替わり、最新の研究成果に触れることができます。  第1期展示として4月から8月は、デバイスアートのコンセプトを表現した代表的な作品を紹介します。

日本科学未来館3階にある常設展示が一部、リニューアル。 「情報科学技術と社会」の「なんでも」コーナーが ますます親しみやすくなります。

 ハンカチの代わりに使えるミニタオル・ハンドタオルは暖かくなるこれからの季節や、小さなお子様がいるお母様にとっても便利なアイテム。厚手で丈夫なタオル地を使用しているので肌触りもよく、汗や水もたくさん吸収してくれます。毎日バッグやポケットに入れて持ちけるよう、使いやすいシンプルなデザイン。未来館のロゴが刺繍され、お土産や記念に喜ばれます。

カラーは白と紺の2色から選べます。ミニタオル¥350(税込) ハンドタオル¥450(税込)

「ミッション・レポート」は参加型で、じかにエイリアンの存在の不思議に迫れる楽しい実演プログラムです。 「地球外生命を探せ!」は2種類あり、太陽系の内と外での探査を最新の研究データをもとに紹介します。 「生命誕生の可能性を探れ!」は、乾燥・低温など厳しい環境で生きる生物をつうじて、生命を育む環境について詳しく紹介します。

「エイリアンとは何か!」では、どのようなエイリアン像を想像することができるか、その可能性をみなさんと考えていきます。

表面の質感がダイナミックに変化する塔、というコンセプトの「モルフォタワー」は、表面が生き物のように変化する磁性流体の彫刻。柔らかい動きで、らせん型に沿って上昇します。

再生紙を 使用しています。

設 展 示

photo:Oshima Kunio

毎日使える 小さめタオルは 1枚あると 便利。

球体の中に入って飛行船に取り付けられたカメラで、撮影された地上の映像を見ることができる  「フローティングアイ」。

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®児玉幸子

®岩田洋夫

®安藤英由樹,渡邊淳司

「サッカード・ディスプレイ」 「ヴォモーダ」

®クワクボリョウ 「見ることは信じること」®八谷和彦