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Cellular 代数  和田 堅太郎 (信州大学理学部) 2016 9 1 日 更新 § 0. はじめに このノートは, cellular 代数について著者が勉強したことをまとめたものです。 2016 8 26 日~ 8 30 日に, 大阪府立大学で行われた「Summer School on Quasi-hereditary Algebras」において, cellular 代数に関する講演の機会を頂いたのに合わせて, これまでに 書いていたものを整理し, 公開することにしました。あくまで個人的なノートを公開して いるに過ぎないので, 利用する際は, 読者自身の責任のもとで利用して頂くようにお願い します。ただし, 何か間違い等を見つけた場合は,“こいつは馬鹿だなぁで済ませずに, 者まで知らせてもらえると助かります。また, アホな人間が書いたノートですので, 無駄 な議論を延々としている部分も多々見受けられると思いますが, その辺はご容赦頂きたい と思います。 なお, cellular 代数に関しては, C.Xi 氏による良いサーベイ [X3] が既にありますので, そちらも参考にしてもらうといいと思います (このノートを書く際にも多いに参考にさせ て頂きました)Notation : Artin A x A に対し, x で生成される A の両側イデアルを A xA と表す。つまり, A xA = { i a i xb i | a i ,b i A } である。 Artin A に対し,有限生成左 A -加群のなす圏を A -mod で表す。単に A -加群と いうときは,左 A -加群を考えることにする。また M A -mod と既約 A -加群 L に対 し,M における L の組成重複度を [M : L] で表す。 A -mod Grothendieck 群を K 0 (A -mod) で表し,M A -mod K 0 (A -mod) における像を [M ] で表す。 1

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Cellular 代数 和田 堅太郎 (信州大学理学部)

2016年 9月1日 更新

§ 0. はじめに

このノートは, cellular代数について著者が勉強したことをまとめたものです。2016年8月 26日 ~ 8月 30日に, 大阪府立大学で行われた「Summer School on Quasi-hereditary

Algebras」において, cellular 代数に関する講演の機会を頂いたのに合わせて, これまでに書いていたものを整理し, 公開することにしました。あくまで個人的なノートを公開しているに過ぎないので, 利用する際は, 読者自身の責任のもとで利用して頂くようにお願いします。ただし, 何か間違い等を見つけた場合は, “こいつは馬鹿だなぁ”で済ませずに, 著者まで知らせてもらえると助かります。また, アホな人間が書いたノートですので, 無駄な議論を延々としている部分も多々見受けられると思いますが, その辺はご容赦頂きたいと思います。なお, cellular 代数に関しては, C.Xi 氏による良いサーベイ [X3] が既にありますので,

そちらも参考にしてもらうといいと思います (このノートを書く際にも多いに参考にさせて頂きました)。

Notation : Artin 環 A と x ∈ A に対し, x で生成される A の両側イデアルをA xA と表す。つまり, A xA = {

∑i aixbi | ai, bi ∈ A } である。

Artin環 A に対し,有限生成左A -加群のなす圏を A -mod で表す。単に A -加群というときは,左 A -加群を考えることにする。また M ∈ A -mod と既約 A -加群 L に対し,M における L の組成重複度を [M : L] で表す。

A -mod の Grothendieck 群を K0(A -mod) で表し,M ∈ A -mod の K0(A -mod)

における像を [M ] で表す。

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Contents

§ 0. はじめに 1

§ 1. Cellular 代数 3

§ 2. Cellular代数の表現論 14

§ 3. Cellular 代数であることが知られている代数のリスト 29

§ 4. 有限表現型である対称 cellular 代数の分類 30

§ 5. Basic cellular 代数の例 55

Appendix A. Quasi-hereditary 代数 59

Appendix B. 一般の有限次元代数から眺めてみると‥ 73

References 83

更新情報2016-8-23 ノートを公開しました。2016-9-1 Theorem 1.6 を修正し, Remark 1.7 を追加しました。

Remark 4.26 を追加しました。Proposition B.5 (iii) を修正しました。

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§ 1. Cellular 代数

Definition 1.1 ([GL]). R を可換環とし, A を R 上の結合代数とする。ある有限半順序集合 (Λ,≥) と有限集合 T (λ) (λ ∈ Λ) に対し,A の R-自由基底

C = {cλst | s, t ∈ T (λ), λ ∈ Λ}

が存在し,以下の条件 (i), (ii) を満たす時,A は C を cellular 基底とする cellular 代数であるという:

(i) R-準同型写像

ι : A → A s.t. ι(cλst) = cλts (cλst ∈ C)

は, 代数の反自己同型を与える。(定義より明らかに involution である。)

(ii) 任意の a ∈ A と cλst ∈ C に対し,

a · cλst ≡∑

u∈T (λ)

r(a,s)u cλut mod A (> λ) (r(a,s)u ∈ R)(1.1.1)

が成り立つ。ここで,A (> λ) は

{cλ′s′t′ | s′, t′ ∈ T (λ′), λ′ ∈ Λ s.t. λ′ > λ}

によって張られる A の R-部分加群であり,(1.1.1) に現れる r(a,s)u は,t ∈ T (λ)

の取り方には依らずに定まる。

1.2. A を可換環 R 上の C = {cλst | s, t ∈ T (λ), λ ∈ Λ} を cellular 基底とする cellular 代数であるとする。定義より, ι(A (> λ)) = A (> λ) (λ ∈ Λ)であることに注意して,(1.1.1)の両辺に ι を施すと,

cλts · ι(a) ≡∑

u∈T (λ)

r(a,s)u cλtu mod A (> λ)

を得る。ここで,ι(a) を a に置き換えると,

cλts · a ≡∑

u∈T (λ)

r(ι(a),s)u cλtu mod A (> λ)(1.2.1)

となる。λ ∈ Λ に対し,

A (> λ) := ⟨cλ′s′t′ | s′, t′ ∈ T (λ′), λ′ ∈ Λ s.t. λ′ > λ⟩R-span

A (≥ λ) := ⟨cλ′s′t′ | s′, t′ ∈ T (λ′), λ′ ∈ Λ s.t. λ′ ≥ λ⟩R-span

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とおくと,(1.1.1), (1.2.1) より,A (> λ) 及び,A (≥ λ) は A の両側イデアルとなる。よって,A (≥ λ)/A (> λ) は

{cλst := cλst + A (> λ) | s, t ∈ T (λ)}

を R-自由基底とする (A ,A )-両側加群である。

1.3. (Cell 加群.) t ∈ T (λ) に対し,A (≥ λ)/A (> λ) の R-部分加群

∆t(λ) :=⟨cλst | s ∈ T (λ)

⟩R-span

を考えると,(1.1.1) より,a ∈ A , cλst ∈ ∆t(λ) に対し,

a · cλst =∑

u∈T (λ)

r(a,s)u cλut

となるので,∆t(λ) は A (≥ λ)/A (> λ)の左A -部分加群となる。さらに, t, t′ ∈ T (λ)

に対し,

∆t(λ) → ∆t′(λ) s.t. cλst 7→ cλst′ (s ∈ T (λ))

は,左A -加群の同型写像となる。つまり,左A -加群 ∆t(λ) は t ∈ T (λ) の取り方に依らない。そこで,λ ∈ Λ に対し,

{cλs | s ∈ T (λ)}

を R-自由基底とする R-自由加群を ∆(λ)とおき,∆(λ)上にA の左作用を

a · cλs =∑

u∈T (λ)

r(a,s)u cλu(1.3.1)

によって定めると,∆(λ) は左 A -加群となる。ここで,r(a,s)u ∈ R は (1.1.1) におけるものである。明らかに,任意の t ∈ T (λ) に対し,

∆(λ) → ∆t(λ) s.t. cλs 7→ cλst (s ∈ T (λ))(1.3.2)

は,左 A -加群の同型写像となり,

∆(λ) → A (≥ λ)/A (> λ) s.t. cλs 7→ cλst (s ∈ T (λ))(1.3.3)

は,左A -加群の単射準同型写像となる。∆(λ) (λ ∈ Λ) をA の左 cell 加群という。

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同様に,λ ∈ Λ に対し,

{c♯λs | s ∈ T (λ)}

を R-自由基底とするR-自由加群を ∆♯(λ)とおき,∆♯(λ)上にA の右作用を

c♯λs · a =∑

u∈T (λ)

r(ι(a),s)u c♯λu(1.3.4)

によって定めると,∆♯(λ) は右A -加群となる。ここで,r(ι(a),s)u ∈ R は (1.2.1) におけるものである。明らかに,任意の t ∈ T (λ) に対し,

∆♯(λ) → A (≥ λ)/A (> λ) s.t. c♯λs 7→ cλts (s ∈ T (λ))(1.3.5)

は,右A -加群の単射準同型写像となる。∆♯(λ) (λ ∈ Λ) をA の右 cell 加群という。定義より,A (≥ λ), A (> λ) は ι で不変であるので,ι は商代数 A /A (> λ) 上の

anti-involutionを誘導し,(1.1.1), (1.2.1)より,A (≥ λ)/A (> λ)は A /A (> λ)の ιで不変な両側イデアルとなる。t ∈ T (λ) を 1つ固定し,(1.3.3) (resp. (1.3.5)) によって, ∆(λ)

(resp. ∆♯(λ)) を A (≥ λ)/A (> λ) に含まれる A /A (> λ) の左イデアル (resp. 右イデアル) と思うと,A (≥ λ)/A (> λ) の中で,

∆♯(λ) = ι(∆(λ)) (c♯λs = cλts = ι(cλst) = ι(cλs ) for s ∈ T (λ))(1.3.6)

となる。また,(1.1.1), (1.2.1) より,

∆(λ)⊗R ∆♯(λ) → A (≥ λ)/A (> λ) s.t. cλs ⊗ c♯λt 7→ cλst (s, t ∈ T (λ))(1.3.7)

は (A ,A )-両側加群の同型写像を与える。

1.4. 半順序集合 (Λ,≥) 上に,半順序 ≥ と整合的な全順序を 1つ定め,

Λ = {λ1, λ2, . . . , λm} s.t. i < j if λi < λj

とおく。λk ∈ Λ に対し,

A (λk) :=⟨cλist | s, t ∈ T (λi), λi ∈ Λ s.t. i ≥ k

⟩R-span

とおくと,(1.1.1), (1.2.1) より,A (λk) は A の両側イデアルとなり,両側イデアルの列

A = A (λ1) ⊃ A (λ2) ⊃ · · · ⊃ A (λm) ⊃ A (λm+1) = 0(1.4.1)

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を得る。定義と (1.1.1), (1.2.1) より,A (λk)/A (λk+1) は

{cλkst + A (λk+1) | s, t ∈ T (λk)}

を R-自由基底とする (A ,A )-両側加群となる。明らかに,

A (λk)/A (λk+1) → A (≥ λk)/A (> λk) s.t. cλkst + A (λk+1) 7→ cλkst (s, t ∈ T (λk))

(1.4.2)

は,(A ,A )-両側加群の同型写像を与える。以下,cλkst + A (λk+1) ∈ A (λk)/A (λk+1) もcλkst と表す。

λk ∈ Λ に対し, (1.3.3), (1.3.5), (1.4.2) を用いると,

∆(λk) ⊂ A (≥ λk)/A (> λk) ∼= A (λk)/A (λk+1) as left A -modules,

∆♯(λk) ⊂ A (≥ λk)/A (> λk) ∼= A (λk)/A (λk+1) as right A -modules(1.4.3)

を得る。また,(1.1.1), (1.2.1) より,

∆(λk)⊗R ∆♯(λk) → A (λk)/A (λk+1) s.t. cλks ⊗R c

♯λkt 7→ cλkst (s, t ∈ T (λk))(1.4.4)

は (A ,A )-両側加群の同型写像を与える。各 λk ∈ Λ に対し, ι(A (λk)) = A (λk) となるので,ι は商代数 A /A (λk+1) 上の anti-

involution ι : A /A (λk+1) → A /A (λk+1)を誘導し,(1.1.1), (1.2.1)より,A (λk)/A (λk+1)

は A /A (λk+1)の ιで不変な両側イデアルとなる。(1.4.3)を用いて, ∆(λk) (resp. ∆♯(λk))

をA (λk)/A (λk+1) に含まれる A /A (λk+1) の左イデアル (resp. 右イデアル) と思うと,A (λk)/A (λk+1) の中で,

∆♯(λk) = ι(∆(λk)) (c♯λks = cλkts = ι(cλkst ) = ι(cλks ) for s ∈ T (λk))(1.4.5)

となる。さらに,ここまでの議論より可換図式

∆(λk)⊗R ι(∆(λk))∼=

(1.4.4)//

x⊗ι(y) 7→y⊗ι(x)��

A (λk)/A (λk+1)

ι

��∆(λk)⊗R ι(∆(λk))

∼=(1.4.4)

// A (λk)/A (λk+1)

を得る。以上のことを踏まえて,以下のように cellular 代数の基底を用いない別の定義を与

える。

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Definition 1.5 ([KX1]). A を可換環 R 上の結合代数で,有限階数の自由 R-加群であるものとする。また,代数の反自己同型 ι : A → A で ι2 = Id であるもの (anti-involution)

が与えられているとする。A の両側イデアル J が次の条件 (i), (ii) を満たすとき,J を A の cell イデアルと

いう:(i) ι(J ) = J .

(ii) A の左イデアル ∆ ⊂ J で次の (a), (b) を満たすものが存在する:(a) ∆ は有限階数のR-自由加群である。(b) (A ,A )-両側加群の同型写像 α : ∆⊗R ι(∆) → J で次の図式が可換になるものが存在する:

∆⊗R ι(∆)∼=α

//

x⊗ι(y)7→y⊗ι(x)��

��∆⊗R ι(∆)

∼=α

// J

(1.5.1)

((i)と ι が anti-involution であることより,ι(∆) ⊂ J は A の右イデアルとなることに注意。)

A の両側イデアルの列

A = J1 ⊃ J2 ⊃ · · · ⊃ Jm ⊃ Jm+1 = 0(1.5.2)

で,Ji/Ji+1 が A /Ji+1 の cell イデアルになるようなものが存在するとき,A をcellular

代数 という。このとき,両側イデアルの列 (1.5.2) を A の cell chain という。また,A /Ji+1 の左イデアル ∆i ⊂ Ji/Ji+1 で条件 (ii) を満たすものを,左 cell

加群 といい,ι(∆i) を 右 cell 加群 という。ここで,∆i (resp. ι(∆i)) を自然な全射A → A /Ji+1 を通じて左A -加群 (resp. 右A -加群)と思う。

Theorem 1.6 (Konig-Xi [KX1]). 2 ∈ R× であるとき, Definition 1.1 と Definition 1.5

とは同値である。

Proof. Definition 1.1 ⇒ Definition 1.5 : (1.4.1) が cell chain となることは既に見た。Definition 1.5 ⇒ Definition 1.1 :

A = J1 ⊃ J2 ⊃ · · · ⊃ Jm ⊃ Jm+1 = 0

を A の cell chain とする。Λ = {1, 2, . . . ,m} とおき,自然な順序を入れる。各 i ∈ Λ に対し,∆i ⊂ Ji/Ji+1 を左 cell 加群とする。cell chain の定義より,

(A /Ji+1,A /Ji+1)-両側加群の同型写像

αi : ∆i ⊗R ι(∆i) → Ji/Ji+1

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が存在し,図式

∆i ⊗R ι(∆i)∼=αi

//

x⊗ι(y) 7→y⊗ι(x)��

Ji/Ji+1

ι

��∆i ⊗R ι(∆i)

∼=αi

// Ji/Ji+1

(1.6.1)

は可換となる。T (i)を ∆iのR-自由基底の添え字集合とし,{ct | t ∈ T (i)}を ∆iの R-自由基底とすると,{ι(ct) | t ∈ T (i)}は ι(∆i)の R-自由基底となる。自然な全射 Ji → Ji/Ji+1

と α−1i の合成 ((A ,A )-両側加群の準同型)

βi : Ji → Ji/Ji+1

α−1i−→ ∆i ⊗R ι(∆i)

を考え,s, t ∈ T (i) に対し,bst ∈ β−1i (cs ⊗ ι(ct)) を 1つ取り,

ι(bst) = bts + xst (xst ∈ Ji+1)

であるとする (可換図式 (1.6.1) に注意)。このとき, bst = ι2(bst) = bst + xts + ι(xst) より,

ι(xst) = −xts

を得る。そこで, T (i)上に適当に全順序を決めて, 2 ∈ R×であることに注意して, s, t ∈ T (i)

に対し,

c(i)ss := bss +1

2xss if t = s,

c(i)st := bst + xst − xts, c

(i)ts := bts + 2xst − xts if s > t

と定めると,

ι(c(i)st ) = c

(i)ts(1.6.2)

を得る。明らかに

{c(i)st | s, t ∈ T (i), i ∈ Λ} は A の R-自由基底(1.6.3)

である。また,c(i)st の取り方より,a ∈ A に対し,

a · c(i)st ≡∑

u∈T (i)

r(a,s)u c(i)ut mod Ji+1(1.6.4)

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が成り立つ。ここで,r(a,s)u ∈ R は t ∈ T (i) の取り方には依らない。(βi(c(i)st ) = cs ⊗ ι(ct)

かつ βi は (A ,A )-両側加群の準同型であることに注意。) さらに,

Ji+1 =⟨c(j)s′t′ | s

′, t′ ∈ T (j), j > i⟩R-span(1.6.5)

である。(1.6.2), (1.6.3). (1.6.4), (1.6.5) より,{c(i)st | s, t ∈ T (i), i ∈ Λ} は A の cellular

基底である。 □

Remark 1.7. Definition 1.1 における条件 (i) を,

(i)’ A 上の anti-involution ι : A → A で ι(cλst) ≡ cλts mod A (> λ) (cλst ∈ C) をみたすものが存在する。

とおきかえれば,Theorem 1.6 は 2 ∈ R× の場合にも成り立つ。cellular 代数の表現論においては, Definition 1.1 における条件 (i) を (i)’ におきかえても,何も問題はない (全ての主張はそのまま成り立つ)。

Remark 1.8. A が cellular 代数であるとき,その cellular 基底や cell chain の取り方,

及び,anti-involution の取り方は,一意的ではない。

Proposition 1.9 ([KX1, Proposition 4.1]). R は体であると仮定する。このとき, J をA の cell イデアルとすると,以下の (i), (ii) のいずれかが成り立つ。

(i) J2 = 0 である。(ii) ある原始ベキ等元 e ∈ A が存在してJ = A eA となる。さらに,積写像

A e⊗R eA → A eA , ae⊗ eb 7→ aeb (a, b ∈ A )

は (A ,A )-両側加群としての同型を与え,

eA e ∼= R as algebras

となる。特に, J は A の heredity イデアルである。

Proof. Lemma B.4 でより一般の形で示される。 □

Proposition 1.9 より, 以下の系を得る。

Corollary 1.10. R は体であるとし,A は R 上の cellular 代数であるとする。

A = J1 ⊃ J2 ⊃ · · · ⊃ Jm ⊃ Jm+1 = 0(1.10.1)

を (任意の) cell chain とする。このとき,以下の条件 (i)と (ii) は同値である。(i) cell chain (1.10.1) は heredity chain である。(ii) 全ての k = 1, . . . ,m に対し,A /Ak+1の cell イデアル Jk/Jk+1 は nilpotent でない。

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cellular 代数 A が与えられたとき,以下の操作によって,新たな cellular 代数を構成することができる。

Proposition 1.11. A を cellular 代数とするとき,以下が成り立つ。

(i) A = J1 ⊃ J2 ⊃ · · · ⊃ Jm ⊃ Jm+1 = 0 を A の cell chain とするとき,商代数A /Jk (2 ≤ k ≤ m) も cellular 代数である。

(ii) ι を A の cellular 構造を定める anti-involution とする。このとき,e ∈ A をι(e) = e であるベキ等元とすると,eA e も cellular 代数となる。

(iii) B を cellular 代数とすると,A ⊗R B も cellular 代数である。(iv) A の trivial extension T (A ) も cellular 代数である。

Proof. (i). Definition 1.5 より明らか。(ii). A = J1 ⊃ J2 ⊃ · · · ⊃ Jm ⊃ Jm+1 = 0 を A の cell chain とする。ι(e) = e であ

ることに注意すれば, eA e は,

eA e = eJ1e ⊃ eJ2e ⊃ · · · ⊃ eJme ⊃ eJm+1e = 0

を cell chain とする cellular 代数になることが, Definition 1.5 より容易に確かめられる。(iii). CA = {cλA

st | s, t ∈ T (λA ), λA ∈ ΛA }, CB = {cλBst | s, t ∈ T (λB), λB ∈ ΛB} をそ

れぞれ A , B の cellular 基底とする。このとき,

Λ := ΛA × ΛB

とおき, Λ 上の半順序を,

(λA , λB) > (µA , µB)Def⇔ (λA > µA ) or (λA = µA かつ λA > µB)

によって定める。また, λ = (λA , λB) ∈ Λ に対し,

T (λ) := T (λA )× T (λB)

とおき, s = (sA , sB), t = (tA , tB) ∈ T (λ) に対し,

cλst := cλAsA tA

⊗ cλBsBtB

とおけば,

C = {cλst | s, t ∈ T (λ), λ ∈ Λ}

は A ⊗R B の cellular 基底となる。(iv). [X3, §1.4. Examples 4] を参照。 □

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1.12. A を cellular 代数とし, ι をその cellular 構造を定める anti-involution とする。Rが体であるとき, Theorem 2.13 (vi) で見るように, A の原始ベキ等元 e に対し, ι(e) は e

と同値である原始ベキ等元となる (i.e. A e ∼= A ι(e))。さらに, R が体, かつ charR = 2

のとき, [KX2, Proposition 8.2] によって, A の原始ベキ等元の各同値類の中に, ι によって不変であるものが必ず含まれることが示されている。そこで, {ei | i ∈ I} を A の原始ベキ等元全体の集合上の同値関係に関する完全代表系で, それぞれ ι で不変なものとし,

e =∑

i∈I ei とおくと, e は ι で不変なので, Proposition 1.11 (ii) (及び, その証明) より,

A の basic 代数 eA e は A の cellular 構造を引き継ぐことが分かる。より強く, 森田同値における cellular 構造の不変性に関しては, 以下のことが知られて

いる。

Theorem 1.13 ([KX2, Theorem 8.1, Proposition 8.2]). A を体 F (charF = 2) 上の有限次元代数とすると, 以下のことが成り立つ。

(i) A が ι を anti-involution とする cellular 代数であるとき, A の原始ベキ等元の各同値類の中に, ι で不変なものが必ず存在する。特に,A の basic 代数は A のcellular 構造を引き継ぐ。

(ii) A が cellular 代数であることと, A の basic 代数が cellular 代数であることとは同値である。 

Remark 1.14. 体 F の標数が 2 であるとき, F 上の cellular 代数の cellular 構造が森田同値のもとで保たれない例が [KX2] で与えられている。それは以下のようなものである。

A = Mat2×2(F) ={(

a bc d

) ∣∣∣ a, b, c, d ∈ F}

とする。まず, A に含まれるベキ等元を考えよう。

(a bc d

)2

=

(a bc d

)⇔

a2 + bc = a,

b(a+ d) = b,

c(a+ d) = c,

bc+ d2 = d

である。a+d = 1 であるとき, 2番目, 3番目 の条件より, b = c = 0 となり, 1番目, 4 番目の条

件より, a = 0 or 1, d = 0 or 1 となる。よって, a+ d = 1 であるような A のベキ等元は,(0 00 0

),

(1 00 1

)のいずれかである。

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12

a+ d = 1 であるとすると, 1番目 (及び 4 番目) の条件より, bc = ad = a(1− a) となる。よって, a+ d = 1 である A のベキ等元は,(

a bc 1− a

)s.t. det

(a bc 1− a

)= 0(1.14.1)

となる。(1.14.1) の形のベキ等元は原始ベキ等元である。また,(1 00 1

)=

(1 00 0

)+

(0 00 1

)であることに注意しよう。よって,{(

a bc 1− a

)∈ A

∣∣ det(a bc 1− a

)= 0

}(1.14.2)

が A の原始ベキ等元の集合である。A 上の線形変換

ι : A → A ,

(a bc d

)7→

(d bc a

)を考えると, ι は, ι2 = IdA である A の反自己同型を与える。また,

∆ =

{(a ab b

) ∣∣ a, b ∈ F}

⊂ A

とおくと, ∆ は A の左イデアルであり,

ι(∆) =

{(b ab a

) ∣∣ a, b ∈ F}

は A の右イデアルとなる。このとき,

α : ∆⊗F ι(∆) → A ,

(a ab b

)⊗(c dc d

)7→

(ac adbc bd

)を考えると, α は (A ,A )-両側加群の同型写像となり, さらに, 図式 (1.6.1) (J = A とおく) は可換になる。よって, A は (ι を anti-involution とする) cellular 代数となる。このとき, ∆の基底として

{s =

(1 10 0

), t =

(0 01 1

)}が取れるので, Λ = {λ}, T (λ) = {s, t}

とおき,

cλss := α(s⊗ ι(s)) =

(0 10 0

), cλst := α(s⊗ ι(t)) =

(1 00 0

)

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13

cλts := α(t⊗ ι(s)) =

(0 00 1

), cλtt := α(t⊗ ι(t)) =

(0 01 0

)とおけば, C = {cλss, cλst, cλts, cλtt}は A の cellular基底となる。このとき,左 A -加群として,

∆s = Fcλss ⊕ Fcλts ={(

0 a0 b

) ∣∣ a, b ∈ F}

∼= ∆t = Fcλst ⊕ Fcλtt ={(

a 0b 0

) ∣∣ a, b ∈ F}

∼= ∆ =

{(a ab b

) ∣∣ a, b ∈ F}

であることに注意しよう (右 cell 加群についても同様)。さて, A の原始ベキ等元は, (1.14.2) で与えられていた。よって A の原始ベキ等元

で, ι 不変であるものは,{(a bc 1− a

)∈ A

∣∣ det(a bc 1− a

)= 0, a = 1− a

}となる。もし charF = 2 であるならば, a = 1− a ⇔ a = 2−1 となるが, charF = 2 であるときは a = 1 − a となる a ∈ F は存在しない。よって, charF = 2 であるときは, ι で不変となる原始ベキ等元が存在しないので, 上で定めた A の cellular 構造は, A の basic

代数には引き継がれないことが分かる。

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§ 2. Cellular代数の表現論

この節では,A は 体 F 上の C = {cλst | s, t ∈ T (λ), λ ∈ Λ} を cellular 基底とするcellular 代数とし,ι をその cellular 構造を定める anti-involution とする。

2.1. s, t ∈ T (λ) に対し,(1.1.1), (1.2.1) より,

cλuscλtv ≡ rstc

λuv mod A (> λ)(2.1.1)

となる rst ∈ F が u, v ∈ T (λ) の取り方に寄らずに定まる。そこで, cell 加群 ∆(λ) 上の双線形形式 ⟨ , ⟩ : ∆(λ)×∆(λ) → F を

cλuscλtv ≡ ⟨cλs , cλt ⟩cλuv mod A (> λ) (s, t ∈ T (λ))(2.1.2)

によって定める (つまり,(2.1.1) の rst を用いて ⟨cλs , cλt ⟩ = rst とする)。

Lemma 2.2. ⟨ , ⟩ : ∆(λ)×∆(λ) → F を (2.1.2) によって定まる cell 加群 ∆(λ) (λ ∈ Λ)

上の双線形形式とするとき, 以下のことが成り立つ。(i) x, y ∈ ∆(λ) に対し, ⟨x, y⟩ = ⟨y, x⟩.(ii) a ∈ A , x, y ∈ ∆(λ) に対し, ⟨a · x, y⟩ = ⟨x, ι(a) · y⟩.(iii) s, t ∈ T (λ), x ∈ ∆(λ) に対し,cλst · x = ⟨cλt , x⟩cλs .

Proof. ⟨ , ⟩ は双線型なので, x = cλs , y = cλt (s, t ∈ T (λ)) の場合を示せばよい。(i). (2.1.2) より,

⟨cλs , cλt ⟩cλuv ≡ cλuscλtv = ι(cλvtc

λsu) ≡ ι(⟨cλt , cλs ⟩cλvu) = ⟨cλt , cλs ⟩cλuv mod A (> λ)

なので, ⟨cλs , cλt ⟩ = ⟨cλt , cλs ⟩ (s, t ∈ T (λ)) を得る。(ii). a ∈ A , s, t, u, v ∈ T (λ) に対し,

⟨a · cλs , cλt ⟩cλuv =∑

s′∈T (λ)

r(a,s)s′ ⟨cλs′ , cλt ⟩cλuv ((1.3.1) より)

≡∑

s′∈T (λ)

r(a,s)s′ cλus′c

λtv mod A (> λ) ((2.1.2) より)

≡ (cλus · ι(a))cλtv mod A (> λ) ((1.2.1) より)

= cλus(ι(a) · cλtv)

≡∑

t′∈T (λ)

r(ι(a),t)t′ cλusc

λt′v mod A (> λ) ((1.1.1) より)

≡∑

t′∈T (λ)

r(ι(a),t)t′ ⟨cλs , cλt′⟩cλuv ((2.1.2) より)

= ⟨cλs , ι(a) · cλt ⟩cλuv ((1.3.1) より)

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なので, ⟨a · cλs , cλt ⟩ = ⟨cλs , ι(a) · cλt ⟩ を得る。(iii). s, t, u, v ∈ T (λ) に対し, 単射準同型 (1.3.3) を用いて, ∆(λ) を A (≥ λ)/A (> λ)

の部分加群と思うと,

cλst · cλu ≡ cλstcλuv mod A (> λ) ((1.3.3) より)

≡ ⟨cλt , cλu⟩cλsv mod A (> λ) ((2.1.2) より)

≡ ⟨cλt , cλu⟩cλs ((1.3.3) より)

となるので,cλst · cλu = ⟨cλt , cλu⟩cλs を得る。 □

2.3. ⟨ , ⟩ : ∆(λ)×∆(λ) → F を (2.1.2) によって定まる cell 加群 ∆(λ) (λ ∈ Λ) 上の双線形形式とする。この双線形形式に関する根基を rad⟨ , ⟩ ∆(λ) で表す。つまり,

rad⟨ , ⟩ ∆(λ) := {x ∈ ∆(λ) | ⟨x, y⟩ = 0 for all y ∈ ∆(λ)}

とおく。Lemma 2.2 (ii) より,rad⟨ , ⟩ ∆(λ) は ∆(λ) の A -部分加群となる。そこで,

L(λ) := ∆(λ)/ rad⟨ , ⟩∆(λ) (λ ∈ Λ),

Λ0 := {λ ∈ Λ |L(λ) = 0}

とおく。

Proposition 2.4.

(i) λ ∈ Λ0 に対し,rad⟨ , ⟩∆(λ) は ∆(λ) の一意的な極大部分加群である。よって,

rad⟨ , ⟩ ∆(λ) = rad∆(λ) である (rad∆(λ) は ∆(λ) の Jacobson 根基)。さらに,L(λ) は絶対既約 A -加群である。

(ii) λ, µ ∈ Λ0 に対し,L(λ) ∼= L(µ) ⇔ λ = µ である。(iii) {L(λ) |λ ∈ Λ0} は既約 A -加群の同型類の完全代表系を与える。(iv) λ ∈ Λ, µ ∈ Λ0 に対し,

[∆(λ) : L(µ)] = 0 ⇒ λ ≥ µ

である。さらに,λ ∈ Λ0 であるとき,[∆(λ) : L(λ)] = 1 である。

Proof. (i). λ ∈ Λ0 に対し,

x ∈ ∆(λ) \ rad⟨ , ⟩∆(λ)

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を取ると, 定義より, ある y ∈ ∆(λ) が存在して, ⟨x, y⟩ = ⟨y, x⟩ = 0 となるものが存在する。{cλs | s ∈ T (λ)} が ∆(λ) の基底だったので,

y =∑

s∈T (λ)

rscλs (rs ∈ F)(2.4.1)

と表せる。各 t ∈ T (λ) に対し, yt ∈ A を,

yt =∑

s∈T (λ)

rscλts (rs は (2.4.1) のもの)(2.4.2)

と定める。このとき,

yt · x =∑

s∈T (λ)

rscλts · x

=∑

s∈T (λ)

rs⟨cλs , x⟩cλt (Lemma 2.2 (iii) より)

= ⟨y, x⟩cλt

となる。これが各 t ∈ T (λ) に対し成り立ち,⟨y, x⟩ = 0 であり, 体 F 上で考えていることより, ∆(λ) は A -加群として, x によって生成される。このことが,任意の x ∈∆(λ) \ rad⟨ , ⟩∆(λ) に対して成り立つので, rad⟨ , ⟩ ∆(λ) は ∆(λ) の一意的な極大部分加群である。また, 上の議論は勝手な Fの拡大体 F′に係数拡大してもそのまま成り立つので,L(λ)

は F′ 上でも既約である。よって, L(λ) は絶対既約である。(ii). まず, (2.4.2) の yt は A (≥ λ) に含まれることに注意すれば, (i) の議論より,

λ ∈ Λ0 ならば,

A (≥ λ) · L(λ) = 0(2.4.3)

であることが分かる。一方で, λ, µ ∈ Λ に対し, (1.1.1), (1.2.1) より,

cµuvcλst ∈ A (≥ λ) ∩ A (≥ µ) (s, t ∈ T (λ), u, v ∈ T (µ))

を得る。このことより,

A (≥ µ) ·(A (≥ λ)/A (> λ)

)= 0 ⇒ A (≥ λ) ∩ A (≥ µ) ∩

(A (≥ λ) \ A (> λ)

)= ∅

⇒ λ ≥ µ

(2.4.4)

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を得る。よって, λ, µ ∈ Λ0 に対し,

L(λ) ∼= L(µ) ⇒ A (≥ µ) · L(λ) = 0 ((2.4.3) より)

⇒ A (≥ µ) ·∆(λ) = 0

⇒ A (≥ µ) ·(A (≥ λ)/A (> λ)

)= 0 ((1.3.3) より)

⇒ λ ≥ µ ((2.4.4) より)

を得るが, λと µを入れ替えて考えれば,全く同様にして, µ ≥ λを得る。よって,λ, µ ∈ Λ0

に対し, L(λ) ∼= L(µ) ⇔ λ = µ を得る。(iii). L を既約 A -加群とし, L ∋ x = 0 を取ると, A -加群の全射準同型

φ : A → L, a 7→ a · x

が存在する。このとき,全ての µ ∈ Λ に対し, A (≥ µ) ·L = 0 とすると, A ·L = 0 となってしまうので,ある µ ∈ Λが存在して A (≥ µ) ·L = 0となる。このとき,A (> µ) ·L = 0

ならば,ある µ′ > µ に対し, A (≥ µ′) ·L = 0 となる。この議論を繰り返せば, ある λ ∈ Λ

が存在して,

A (≥ λ) · L = 0 かつ A (> λ) · L = 0(2.4.5)

となるものが存在することが分かる (λ が極大のときは A (> λ) = 0 である)。このとき,

A (> 0) · L = 0 より, φ は, A -加群の準同型

φ : A /A (> λ) → L, a 7→ a · x := a · x (a = a+ A (> λ) ∈ A /A (> λ))

を誘導する。φ を A (≥ λ)/A (> λ) に制限すると, A -加群の準同型

φ≥λ : A (≥ λ)/A (> λ) → L

を得る。ここで, A (≥ λ) は A の両側イデアルであることと, A · x = L に注意すれば,

φ≥0 = 0 ⇒ a · x = 0 (∀a ∈ A (≥ λ)) ⇒ A (≥ λ) · L = 0

となるが, いま, A (≥ λ) · L = 0 であるので, φ≥0 は 0-写像ではない。よって, L が既約加群であることより,φ≥λ は A -加群の全射準同型である。ここで, λ ∈ Λ0 であるとすると, (2.1.1), (2.1.2) より, A (≥ λ) ·

(A (≥ λ)/A (> λ)

)= 0 となるが, このとき, L が

A (≥ λ)/A (> λ) の商加群であることから, A (≥ λ) · L = 0 となり (2.4.5) に矛盾する。よって, λ ∈ Λ0 である。(1.3.7)より, 左 A -加群として,

A (≥ λ)/A (> λ) ∼= ∆(λ)⊕ dimF ∆♯(λ)

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であり,(i) より, Top∆(λ) = ∆(λ)/ rad∆(λ) ∼= L(λ) であることから, 全射準同型 φ≥λ

より, L ∼= L(λ) を得る。よって, 任意の既約 A -加群はある L(λ) (λ ∈ Λ0) と同型であることが分かったので (iii) を得る。

(iv). λ, µ ∈ Λ に対し, (1.3.3) と (2.4.4)より,

A (≥ µ) ·∆(λ) = 0 ⇒ A (≥ µ) ·(A (≥ λ)/A (> λ)

)= 0

⇒ λ ≥ µ

を得る。一方で, (2.1.2) より, A (≥ λ) · (rad⟨ , ⟩∆(λ)) = 0 なので,

A (≥ µ) · (rad⟨ , ⟩∆(λ)) = 0 ⇒ λ > µ(2.4.6)

を得る。L を rad⟨ , ⟩ ∆(λ) の組成因子であるとすると, (iii) の議論より,

A (≥ µ) · L = 0 かつ A (> µ) · L = 0

となる µ ∈ Λ0 が存在し, L ∼= L(µ) となるが, (2.4.6) より,

A (≥ µ) · L = 0 ⇒ A (≥ µ) · (rad⟨ , ⟩ ∆(λ)) = 0

⇒ λ > µ

を得る。よって, λ ∈ Λ, µ ∈ Λ0 に対し,

[rad⟨ , ⟩ ∆(λ) : L(µ)] = 0 ⇒ λ > µ

となる。また, 定義より,

∆(λ)/ rad⟨ , ⟩∆(λ) ∼=

{L(λ) if λ ∈ Λ0,

0 if λ ∈ Λ0

であるので, (iv) を得る。 □

Remark 2.5. λ ∈ Λ0 に対し,L(λ) は絶対既約 A -加群であるので,特に

EndA (L(λ)) ∼= F(2.5.1)

となる。

2.6. 左A -加群 M に対し,HomF(M,F) 上にA の左作用を

(a · φ)(x) := φ(ι(a) · x) (a ∈ A , φ ∈ HomF(M,F), x ∈M)

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と定めると,HomF(M,F) は左A -加群となる。これを M⊛ と表す。このとき, 完全反変関手

⊛ : A -mod → A -mod, M 7→M⊛

を得る。ι が A 上の anti-involution であることに注意すれば, 関手の同型

⊛ ◦⊛ ∼= IdA -mod

を得る。よって,M,N ∈ A -mod に対し, F-線形空間の同型

ExtiA (M,N) ∼= ExtiA (N⊛,M⊛) (i ≥ 0)(2.6.1)

が成り立つ (cf. [X1, Theorem 2.5])。cell 加群 ∆(λ) (λ ∈ Λ) に対し,

∇(λ) := ∆(λ)⊛

とおく。

Proposition 2.7.

(i) λ ∈ Λ に対し,左A -加群の同型

HomF(∆♯(λ),F) ∼= ∇(λ)

が成り立つ。ここで,右 cell 加群 ∆♯(λ) に対し,HomF(∆♯(λ),F) を自然な方法

で左 A -加群と思う。(i.e. (a · ψ)(x) := ψ(x · a) for a ∈ A , ψ ∈ HomF(∆

♯(λ),F), x ∈ ∆♯(λ).)

(ii) λ ∈ Λ0 に対し,左A -加群の同型

L(λ)⊛ ∼= L(λ)

が成り立つ。(iii) λ ∈ Λ, µ ∈ Λ0 に対し,

[∇(λ) : L(µ)] = [∆(λ) : L(µ)].

(iv) λ, µ ∈ Λ0 に対し,F-線形空間の同型

ExtiA (L(λ), L(µ)) ∼= ExtiA (L(µ), L(λ)) (i ≥ 0).

が成り立つ。

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Proof. (i). F-線形写像 f : ∆(λ) → ∆♯(λ) s.t. f(cλs ) = c♯λs (s ∈ T (λ)) を考えると, 明らかに f は同型である。写像

g : HomF(∆♯(λ), F) → ∇(λ) s.t. g(φ)(x) := φ ◦ f(x) (φ ∈ HomF(∆

♯(λ), F), x ∈ ∆(λ))

を考えると, 明らかに g は F-線形同型写像である (逆写像は g−1(ψ)(x♯) := ψ ◦ f−1(x♯)

(ψ ∈ ∇(λ), x♯ ∈ ∆♯(λ)) によって与えられる)。よって, g が左 A -加群の準同型であることを示せばよい。φ ∈ HomF(∆

♯(λ), F), a ∈ A , s ∈ T (λ) に対し,

g(a · φ)(cλs ) = (a · φ) ◦ f(cλs )= (a · φ)(c♯λs )

= φ(c♯λs · a)

= φ(∑

u∈T (λ)

r(ι(a),s)u c♯λu ) ((1.3.4) より)

= φ(f( ∑u∈T (λ)

r(ι(a),s)u cλu))

= (φ ◦ f)(ι(a) · cλs ) ((1.3.1) より)

= g(φ)(ι(a) · cλs )= a · (g(φ))(cλs )

であるので, g は A -加群の準同型である。(ii). x ∈ ∆(λ) に対し, L(λ) = ∆(λ)/ rad⟨ , ⟩∆(λ) における x の像を x で表す。こ

のとき, (2.1.2) で定義される ∆(λ) 上の双線形形式 ⟨ , ⟩ を用いて, L(λ) 上の双線形形式⟨ , ⟩L(λ) を,

⟨ , ⟩L(λ) : L(λ)× L(λ) → F, ⟨x, y⟩L(λ) := ⟨x, y⟩ (x, y ∈ L(λ))

によって定めると,これは well-defined であり,さらに非退化である。そこで,F-線形写像

h : L(λ) → L(λ)⊛, x 7→ ⟨x,−⟩L(λ)

を考えると, Lemma 2.2 (ii) より, h は 左 A -加群の準同型であり, ⟨ , ⟩L(λ) が非退化であることから h は単射であり, dimF L(λ) = dimF L(λ)

⊛ <∞ なので, h は同型写像である。(iii). ⊛ が完全反変関手であることに注意すれば, ∇(λ) := ∆(λ)⊛, L(λ)⊛ ∼= L(λ) であ

ることより (iii) を得る。(iv). (2.6.1) と (ii) より従う。 □

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Remark 2.8. 体 F 上の (cellular 代数とは限らない)有限次元代数 A が, ι2 = IdA となる反自己同型 ι : A → A を持っていれば, 2.6 の定義と全く同様にして, 完全反変関手

⊛ : A -mod → A -mod, M 7→M⊛ := HomF(M,F)

が定義できる。このとき, 一般には, 既約 A -加群は完全反変関手 ⊛ に関して self-dual になるとは限らない (i.e. Proposition 2.7 (ii) が成り立つとは限らない)。例えば,

A = F(1

α // 2β

oo)/

⟨αβα, βαβ⟩ideal

とし, A 上の反自己同型

ι : A → A , e1 7→ e2, e2 7→ e1, α 7→ α, β 7→ β

を考えると, 明らかに ι2 = IdA であるが, このとき, 頂点 1, 2 に対応する既約 A -加群をそれぞれ L1, L2 とすると,

L⊛1∼= L2, L⊛

2∼= L1

となる。

2.9. λ ∈ Λ0 に対し,P (λ)を L(λ) の射影被覆とする。P (λ) が射影加群であることに注意して,A の両側イデアルの列 (1.4.1) (よって (A ,A )-両側加群の列) に完全関手−⊗A P (λ) を施すと,P (λ) の 左A -部分加群の列

P (λ) = P1 ⊃ P2 ⊃ · · · ⊃ Pm ⊃ Pm+1 = 0 (Pk = A (λk)⊗A P (λ))(2.9.1)

を得る。(1.4.4) より,(A ,A )-両側加群として

A (λk)/A (λk+1) ∼= ∆(λk)⊗F ∆♯(λk)

であるので,左加群の同型

Pk/Pk+1∼=

(A (λk)/A (λk+1)

)⊗A P (λ)

∼= ∆(λk)⊗F ∆♯(λk)⊗A P (λ)

∼= ∆(λk)⊕ dimF ∆

♯(λk)⊗A P (λ)

(2.9.2)

を得る。一方で,µ ∈ Λ, λ ∈ Λ0 に対し, F-線形空間として,

HomF(∆♯(µ)⊗A P (λ),F) ∼= HomA (P (λ),HomF(∆

♯(µ),F))

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∼= HomA (P (λ),∇(µ)) (by Prop. 2.7 (i))

であるので,

dimF∆♯(µ)⊗A P (λ) = dimF(∆

♯(µ)⊗A P (λ),F)

= dimFHomA (P (λ),∇(µ))

= [∇(µ) : L(λ)] ((2.5.1) に注意)

= [∆(µ) : L(λ)] (by Prop. 2.7 (iii))

(2.9.3)

を得る。(2.9.1), (2.9.2), (2.9.3) より以下を得る。

Proposition 2.10. Λ = {λ1, λ2, . . . , λm} s.t. i < j if λi < λj とすると,λ ∈ Λ0 に対し,

P (λ) の 左A -部分加群の列

P (λ) = P1 ⊃ P2 ⊃ · · · ⊃ Pm ⊃ Pm+1 = 0 s.t. Pk/Pk+1∼= ∆(λk)

⊕[∆(λk):L(λ)]

が存在する。特に,K0(A -mod) において,

[P (λ)] =∑µ∈Λ

[∆(µ) : L(λ)][∆(µ)](2.10.1)

が成り立つ。

2.11. (分解定数, 分解行列, Cartan 行列.) λ ∈ Λ, µ ∈ Λ0 に対し,

[∆(λ) : L(µ)]

をA の分解定数という。また,

D :=([∆(λ) : L(µ)]

)λ∈Λ,µ∈Λ0

,

C :=([P (λ) : L(µ)]

)λ,µ∈Λ0

とおき,DをA の分解行列, CをA のCartan 行列という。

2.12. (Linkage classes on cell modules.) λ, µ ∈ Λ に対し,ある Λ の元の列

λ = λ0, λ1, . . . , λk = µ

で各 i (1 ≤ i ≤ k) に対し,∆(λi−1) と ∆(λi) が共通の組成因子を持つとき,λ ∼ µ であると定めると,“∼” は Λ 上の同値関係を定める。この同値関係に関する同値類 (linkage

class) を用いて,A のブロックが以下のTheorem 2.13 (vii), (viii) のように分類される。

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23

Theorem 2.13 ([GL]). Λ0 = {λ ∈ Λ |L(λ) := ∆(λ)/ rad⟨ , ⟩∆(λ) = 0} とおく。このとき,以下のことが成り立つ。

(i) λ ∈ Λ0 に対し,rad⟨ , ⟩∆(λ)は ∆(λ)の一意的な極大部分加群 (よって rad⟨ , ⟩∆(λ) =

rad∆(λ)) である。さらに, L(λ) は絶対既約 A -加群である。(ii) λ, µ ∈ Λ0 (λ = µ) に対し,L(λ) ∼= L(µ) である。さらに, {L(λ) |λ ∈ Λ0} は既約

A -加群の同型類の完全代表系を与える。(iii) λ ∈ Λ, µ ∈ Λ0 に対し,

[∆(λ) : L(µ)] = 0 ⇒ λ ≥ µ

である。さらに,λ ∈ Λ0 であるとき,[∆(λ) : L(λ)] = 1 である。(iv) λ ∈ Λ0 に対し,P (λ) を L(λ) の射影被覆とする。このとき,λ, µ ∈ Λ0に対し,

[P (λ) : L(µ)] =∑ν∈Λ

[∆(ν) : L(λ)][∆(ν) : L(µ)].

よって,C = DT D を得る。ここで,DT は D の転置行列である。(v) A:半単純⇔ ∆(λ) = L(λ) ( ∀λ ∈ Λ) ⇔ D:単位行列.

(vi) e を A の原始ベキ等元とするとき,e と ι(e) は同値である。(vii) λ ∈ Λ に対し,∆(λ) は A のあるブロックに属する。

( 注意:λ ∈ Λ0 ならば,(i) より ∆(λ) は一意的な simple top を持つので直既約であり,あるブロックに属することは明らかである。)

(viii) λ, µ ∈ Λ に対し,

λ ∼ µ⇔ ∆(λ) と ∆(µ) は同じブロックに属する.

Proof. (i)-(iii) は Proposition 2.4 の主張である。(iv) は Proposition 2.10より従う。(v). A が半単純であるとすると,(i) より,全ての λ ∈ Λ0 に対し,∆(λ) = L(λ) と

なり,A が半単純であることより,(2.5.1) にも注意すると,

dimF A =∑λ∈Λ0

(dimF L(λ))2 =

∑λ∈Λ0

(dimF∆(λ))2

を得る。一方で,(1.4.1), (1.4.4), (1.4.5) (あるいは, cell chain の定義) より,

dimF A =∑λ∈Λ

(dimF∆(λ))2

であるので,Λ = Λ0 でなくてはならない。よって,全ての λ ∈ Λ に対し,∆(λ) = L(λ)

となる。逆に,全ての λ ∈ Λ に対し,∆(λ) = L(λ)であるとすると,(iv) より,全ての λ ∈ Λ

に対し,P (λ) = L(λ) となるので,A は半単純である。

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“∆(λ) = L(λ) ( ∀λ ∈ Λ) ⇔ D:単位行列” であることは定義より明らか。(vi). e を A の原始ベキ等元とし,P (λ) ∼= A e であるとする。任意の µ ∈ Λ に対し,F -線形空間の同型

∆♯(µ)⊗A P (λ) = ∆♯(µ)⊗A A e ∼= ∆♯(µ) · e(2.13.1)

を得る。ここで,(1.3.6) より,A (≥ µ)/A (> µ) の中で,∆♯(µ) = ι(∆(µ)) であるので,

∆♯(µ) · e = ι(∆(µ))e = ι(e)∆(µ) = ι(e) ·∆(µ) ⊂ A (≥ µ)/A (> µ)(2.13.2)

となる (ここで,e = e+ A (> µ) ∈ A /A (> µ))。よって, (2.13.1), (2.13.2) より, F -線形空間の同型

∆♯(µ)⊗A P (λ) ∼= ι(e) ·∆(µ) ∼= HomA (A ι(e),∆(µ))(2.13.3)

を得る。ι(e) も原始ベキ等元なので,A -加群として A ι(e) ∼= P (ν) であるとすると,(2.13.3) より,

dimF∆♯(µ)⊗A P (λ) = dimFHomA (P (ν),∆(µ)) = [∆(µ) : L(ν)]

を得るが,一方で, (2.9.3) より,dimF∆♯(µ)⊗A P (λ) = [∆(µ) : L(λ)] であるので,

[∆(µ) : L(λ)] = [∆(µ) : L(ν)]

を得る。これが任意の µ ∈ Λ に対し成り立つので,(iii) より,

[∆(λ) : L(λ)] = [∆(λ) : L(ν)] = 1 ⇒ λ ≥ ν,

[∆(ν) : L(λ)] = [∆(ν) : L(ν)] = 1 ⇒ ν ≥ λ

となるので,λ = ν となり,

A e ∼= P (λ) = P (ν) ∼= A ι(e)

を得る。(vii). L(µ), L(ν) を ∆(λ) の組成因子とすると,(iv) より,

[P (µ) : L(ν)] =∑λ′∈Λ

[∆(λ′) : L(µ)][∆(λ′) : L(ν)]

= [∆(λ) : L(µ)][∆(λ) : L(ν)] +∑

λ′∈Λ\{λ}

[∆(λ′) : L(µ)][∆(λ′) : L(ν)]

= 0

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となるので,L(µ) と L(ν) は同じブロックに属する。(viii). “⇒” は定義より明らか。“⇐” を示す。λ, µ ∈ Λ に対し,∆(λ) と ∆(µ) が同じブロックに属するとする。L(λ′),

L(µ′) をそれぞれ ∆(λ), ∆(µ) の組成因子とすると,λ ∼ λ′, µ ∼ µ′ かつ L(λ′) と L(µ′)

は同じブロックに属する。よって,P (λ′) と P (µ′) は同じブロックに属するので,有限次元代数の一般論より,Λ0 の列

λ′ = λ′0, λ′1, . . . , λ

′k = µ′

で 各 i (1 ≤ i ≤ k) に対し, P (λ′i−1) と P (λ′i) が共通の組成因子 L(νi) を持つものが存在する。このとき,[P (λ′i−1) : L(νi)] = 0 かつ [P (λ′i) : L(νi)] = 0 なので, (iv) より,

[∆(αi) : L(λ′i−1)] = 0 かつ [∆(αi) : L(νi)] = 0,

[∆(βi) : L(λ′i)] = 0 かつ [∆(βi) : L(νi)] = 0

を満たす αi, βi ∈ Λ が存在する。よって,λ′i−1 ∼ αi ∼ νi ∼ βi ∼ λ′i を得る。これが各 i

(1 ≤ i ≤ k) に対し成り立つので,

λ ∼ λ′ = λ′0 ∼ λ′1 ∼ · · · ∼ λ′k−1 ∼ λ′k = µ′ ∼ µ

を得る。 □

Proposition 2.14. cellular 代数 A の Cartan 行列 C の行列式は正の整数である。さらに,

detC = 1 ⇔ Λ = Λ0

である。

Proof. A の分解行列 D を

D =

(D1

D2

), D1 =

([∆(λ) : L(µ)]

)λ,µ∈Λ0

, D2 =([∆(λ) : L(µ)]

)λ∈Λ\Λ0, µ∈Λ0

となるように取る。このとき,Theorem 2.13 (iv) より,

C = DT D = DT1 D1 +DT

2 D2(2.14.1)

となる。

xT (DTi Di)x = (Dix)

TDix (x ∈ R|Λ0|, i ∈ {1, 2})

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に注意すれば, DTi Di (i = 1, 2) は半正値であるが, 特に, Theorem 2.13 (iii) より,

[∆(λ) : L(λ)] = 1 (λ ∈ Λ0)

であるので, DT1D1 は正値であることが分かる。よって, (2.14.1) より, C は正値である。

よって,その行列式 detC は正の整数である (C の成分は全て整数である)。D1 は |Λ0|次正方行列であり, 三角性 (Theorem 2.13 (iii)) より,det(D1) = 1 である

ので,

det(DT1 D1) = 1

である。よって,

Λ = Λ0 ⇒ C = DT1 D1 ⇒ detC = 1

を得る。逆に detC = 1 とする。このとき, det(DT1 D1) = 1 に注意すれば,

detC = det((DT1D1)

−1C)

= det(I + (DT1D1)

−1DT2D2)

= 1

(2.14.2)

を得る。ここで I は |Λ0|次の単位行列である。DT1D1 は正値なので,

A2 = DT1D1, AT = A

を満たす正則行列 A が存在する。((A−1)T = A−1 である。) このとき,

A((DT1D1)

−1DT2D2)A

−1 = A−1DT2D2A

−1 = (D2A−1)TD2A

−1

となる。ここで, (D2A−1)TD2A

−1 は半正値 (実) 対称行列なので,その固有値は全て非負の実数である。よって, (DT

1D1)−1DT

2D2 の固有値は全て非負の実数となるが, (2.14.2)

より,それらは全て 0 でなくてはならない。よって, A−1DT2D2A

−1 の固有値は全て 0 である。(A−1)T = A−1 に注意すれば, A−1DT

2D2A−1 は対称行列であり, その固有値が全

て 0 であることより,ある直交行列 P が存在して

P(A−1DT2D2A

−1)P−1 = 0

となる。よって Dt2D2 = AP−1PA−1DT

2D2A−1P−1PA = 0 となり,D2 = 0 を得る。 □

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Theorem 2.15 ([KX3]). Cellular 代数 A に対し,以下のことは全て同値である。(i) A は quasi-hereditary 代数である。(ii) A の任意の cell chain は heredity chain である。(iii) A = J1 ⊃ J2 ⊃ · · · ⊃ Jm ⊃ Jm+1 = 0 を A の任意の cell chain とするとき,全

ての k = 1, . . . ,m に対し,A /Ak+1の cell イデアル Jk/Jk+1 は nilpotent ではない。

(iv) Λ = Λ0.

(v) A の Cartan 行列 C に対し, detC = 1 である。(vi) A の大域次元は有限である。

Proof. まず,Theorem 1.6 及びその証明より,cellular 基底を与えることと,cell chain を与えることとが対応していることに注意する。

(i) ⇒ (vi) は一般の quasi-hereditary 代数に対して知られている事実 (Theorem A.8)。(ii) ⇒ (i) は明らか。(ii) ⇔ (iii) は Corollary 1.10 より従う。(iii) ⇔ (iv). Cell chain (1.4.1) を考えると,(2.1.2) より ((1.4.2), (1.4.3) にも注意),

∆(λk) = rad⟨ , ⟩∆(λk) ⇔ Jk/Jk+1 : nilpotent

であることが分かる。このことから,(iii) ⇔ (iv) を得る。(iv) ⇔ (v) は Proposition 2.14 である。(vi) ⇒ (v). 大域次元が有限である有限次元代数の Cartan 行列の行列式は ±1である

ことが知られている。一方で, Proposition 2.14 より,cellular 代数の Cartan 行列の行列式は正の整数である。よって,大域次元が有限である cellular 代数の Cartan 行列の行列式は 1 である。 □

Corollary 2.16. cellular 代数 A がさらに quasi-hereditary であるとき,以下のことが成り立つ。(Theorem 2.15 より,Λ = Λ0 に注意。)

(i){[∆(λ)] ∈ K0(A -mod) |λ ∈ Λ

}は K0(A -mod) の Z-自由基底である。

(ii) λ ∈ Λ に対し,P (λ) は ∆-filtration

P (λ) = P1 ⊃ P2 ⊃ · · · ⊃ Pk ⊃ Pk+1 = 0 s.t. Pi/Pi+1∼= ∆(λi) (λi ∈ Λ)

を持ち,P (λ) における ∆(µ) (µ ∈ Λ) の重複度は well-defined である (i.e. 上の∆-filtrationの取り方に依らない)。この重複度を (P (λ) : ∆(µ))と表すと,λ, µ ∈ Λ

に対し,

(P (λ) : ∆(µ)) = [∆(µ) : L(λ)](2.16.1)

が成り立つ。

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Proof. (i). Theorem 2.15 より,Λ = Λ0 であることに注意すれば,分解行列の三角性(Theorem 2.13 (iii)) より分かる。

(ii). ∆-filtrationが存在すれば,その重複度が well-definedであることは (i)より従う。P (λ) (λ ∈ Λ)に対し,∆-filtrationの存在,及び,(2.16.1)が成り立つことは,Proposition2.10 より分かる。 □

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§ 3. Cellular 代数であることが知られている代数のリスト

(注意) 以下のリストのうちで, cellular 代数であるために若干の条件が必要なものもありますが,それらの条件等は文献で確認してください。また, 引用文献は適切なものとは限りません (関係する文献を全て調べたわけではないので‥)。情報をお持ちの方は, 知らせて頂けると助かります。

• 対称群の群環, 及び, 対称群に付随した Iwahori-Hecke 代数 ([DJ1]).

• Schur 代数, 及び, q-Schur 代数 ([DJ2]).

• Coxeter 群に付随した Iwahori-Hecke 代数 ([G1], [G2]).

• Ariki-Koike 代数 ([GL], [DJM]).

• cyclotomic q-Schur 代数 ([DJM]).

• generalized q-Schur 代数 ([Do]).

• Brauer 代数 ([GL], [E]).

• Birman-Murakami-Wenzl 代数 ([E]).

• cyclotomic Birman-Murakami-Wentzl 代数 ([Go], [WY])

• Temperley-Lieb 代数 ([GL]).

• cyclotomic Temperley-Lieb 代数 ([RX])

• Jones 代数 ([GL]).

• Partition 代数 ([X2]).

• Cyclotomic Nazarov-Wenzl 代数 ([AMR]).

• Uq-tilting 加群の自己準同型環 ([AST]).

• A型の cyclotomic Khovanov-Lauda-Rouquier 代数 ([HM1]).

• Khovanov’s diagram 代数 ([BS]).

• quiver Schur 代数 ([HM2], [SW]).

• graded Temperley-Lieb 代数 ([PR]).

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§ 4. 有限表現型である対称 cellular 代数の分類

この節では,代数的閉体 F (charF = 2) 上の有限次元代数に対し,有限表現型である対称代数の中で,さらに cellular 代数であるものを分類する。この節の内容は,大松美咲さんの修士論文 [大松] で扱われているものです。

4.1. この節を通して F は代数的閉体で charF = 2 であるとする。F 上の有限表現型である対称代数の分類については,以下の結果が知られている ([S] を参照)。

Theorem 4.2 ([R1], [R2], [HW], [W1], [W2], . . . ). F 上の有限次元代数 A が有限表現型である対称代数ならば,以下のいずれかと森田同値である。

(i) 重複度 m ≥ 1 の例外的頂点 S を持つ Brauer tree TmS に付随した Brauer tree 代数 A(TmS ).

(ii) 重複度 2 の例外的頂点 S をグラフの端に持つ Brauer tree T 2S に付随した変形

Brauer tree 代数 D(T 2S).

(iii) Dynkin型の tilted 代数 B の trivial extension T (B).

Remark 4.3. A型の tilted 代数の trivial extension は,例外的頂点の重複度が m = 1

であるBrauer tree に付随した Brauer tree 代数と一致することが知られている。

Theorem 1.13 より,A が cellular 代数ならば,その basic 代数も cellular 構造を引き継ぐので,Theorem 4.2 の分類に現れる代数の中で, cellular 代数であるものを分類すれば良い。その際に,以下の Lemma に挙げる cellular 代数の性質が基本的な役割を果たす。

Lemma 4.4.

(i) A が cellular 代数であるとすると,任意の既約 A -加群 L,L′ に対し,

ExtiA (L,L′) ∼= ExtiA (L′, L) as Z-modules (i ≥ 0)

が成り立つ。(ii) A が cellular 代数であるとき,A の分解行列を D とし, Cartan 行列を C とすれば,

C = DT D, detC > 0

が成り立つ。(iii) A を basic 代数であるとする。このとき,A が cellular 代数であるならば,A

の任意のベキ等元 e に対し,eA e も cellular 代数である。

Proof. (i) は Proposition 2.7 (iv) より従う。(ii) は Theorem 2.13 (iv) と Proposition 2.14

より従う。

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A を basic cellular 代数とし, cellular 構造を定める anti-involution を ι とすると,

A の任意の原始ベキ等元 e に対し, (A が basic であることより) Theorem 2.13 (vi) より, ι(e) = e となる。よって,A の任意のベキ等元 e に対しても ι(e) = e となるので,

Proposition 1.11 (ii) より,eA s も cellular 代数となるので (iii) を得る。 □

4.5. (Brauer tree TmS と Brauer quiver QTmS.) 連結で cycle を持たない (辺の重複が

ない)グラフのことを tree という。tree T であって,さらに以下の情報• 各頂点に対し,その頂点と繋がっている辺の間に巡回順序が定まっている。(便宜上,時計周りに定める。)

• 例外的頂点 S がただ 1つ存在し,例外的頂点は重複度 m ≥ 1 を持っている。を込めたものを Brauer tree といい TmS と表す。

Brauer tree TmS に対し,それに付随した Brauer quiver QTmSを以下によって定める:

• Tms の辺を QTmSの頂点とする。

• TmS において,ある頂点に繋がっている二つの辺 i, j に対し,巡回順序で i → j

となっているとき,QTmSにおいて,i, j に対応する頂点の間に i から j への矢を

書く。定義より,Brauer quiver QTm

Sは次のような性質を持つ:

• QTmsの cycle と TmS の頂点とは 1対 1に対応している。

• QTmsの各頂点はちょうど2つの cycle に属している。

そこで,QTmSの各頂点が属する2つの cycle を α-cycle と β-cycle に,TmS の例外的頂点

S に対応する cycle が α-cycle となるように分け,α-cycle に属する頂点 i を始点とする矢を αi とし, β-cycle に属する頂点 i を始点とする矢を βi とラベル付けする。また,各頂点 i ∈ (QTm

S)0 に対し,

Ai : i を始点かつ終点とする i の属する α-cycle,

Bi : i を始点かつ終点とする i の属する β-cycle,

と定める。特に,Ai が TmS の例外的頂点に対応する cycle であるとき,Ai;S と表す。

Example 4.6.

(i) TmS = ◦ 1 76540123S 2 ◦ 3 ◦ 4 ◦ のとき,それに付随する Brauer quiver QTmS

は,

QTmS

= 1β1 88α1 // 2

β2 //α2

oo 3α3 //

β3

oo 4α4

oo β4ff

となる。また,

A1;S = α1α2, B1 = β1, A2;S = α2α1, B2 = β2β3,

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A3 = α3α4, B3 = β3β2, A4 = α4α3, B4 = β4

である(ii) ◦

TmS = ◦ 1 ◦ 2 76540123S 3 pppppp4NNN

NNN

◦のとき,それに付随する Brauer quiver QTm

Sは,

3

α3

��

β3ff

QTmS

= 1α1 88β1 // 2β2

oo

α299rrrrrr

4α4

eeLLLLLLβ4ff

となる。また,

A1 = α1, B1 = β1β2, A2;S = α2α3α4, B2 = β2β1,

A3;S = α3α4α2, B3 = β3, A4;S = α4α2α3, B4 = β4

である。

4.7. (Brauer tree 代数 A(TmS ).) Brauer tree TmS に対し,Brauer tree 代数 A(TmS ) を

A(TmS ) := FQTmS/ImS

によって定める。ここで,FQTmSは体 F 上の Brauer quiver QTm

Sの path 代数であり,ImS

{βilαi, αikβi | i ∈ (QTmS)0},

∪ {(Ai;S)m −Bi | i ∈ (QTmS)0 s.t. Ai = Ai;S}

∪ {Ai −Bi | i ∈ (QTmS)0 s.t. Ai = Ai;S}

によって生成される FQTmSの両側イデアルである。ここで,αki , βli は,

Ai = αi1αi2 . . . αik , Bi = βi1βi2 . . . βil (i1 = i に注意)

によって定まるものである。(i.e. i を始点かつ終点とする α-cycle Ai の最後の矢が αikで,β-cycle Bi の最後の矢が βil である。)

Example 4.8. Example 4.6 の例をそのまま考える。

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33

(i) TmS = ◦ 1 76540123S 2 ◦ 3 ◦ 4 ◦ のとき,

QTmS

= 1β1 88α1 // 2

β2 //α2

oo 3α3 //

β3

oo 4α4

oo β4ff

であり,ImS は

{β1α1, α2β1, β3α2, α1β2, β2α3, α4β3, β4α4, α3β4}∪ {(α1α2)

m − β1, (α2α1)m − β2β3}

∪ {α3α4 − β3β2, α4α3 − β4}

によって生成される FQTmSの両側イデアルである。

(ii) ◦TmS = ◦ 1 ◦ 2 76540123S 3 pppppp

4NNN

NNN

◦のとき,

3

α3

��

β3ff

QTmS

= 1α1 88β1 // 2β2

oo

α299rrrrrr

4α4

eeLLLLLLβ4ff

であり, ImS は

{β2α1, α1β1, β1α2, α4β2, β3α3, α2β3, β4α4, α3β4}∪ {(α2α3α4)

m − β2β1, (α3α4α2)m − β3, (α4α2α3)

m − β4}∪ {α1 − β1β2}

によって生成される FQTmSの両側イデアルである。

Lemma 4.9. Brauer tree TmS が直線 (i.e. T = ◦ ◦ . . . ◦ , 例外的頂点 S

及び重複度 m は任意) であるとき,TmS に付随する Brauer tree 代数 A(TmS ) は cellular

代数である。

Proof. A(TmS ) の cellular 基底を具体的に与えれば良い。Example 5.1, Example 5.2, Ex-

ample 5.3 を参照。 □

Lemma 4.10. Brauer tree TmS が分岐を持つとき,TmS に付随する Brauer tree代数 A(TmS )

は cellular 代数でない。

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Proof. Brauer tree TmS が頂点 i において分岐

i

i1 wwwwwwwwwwwwww

◦i2kkkkkkkkkkkk

ik−1PPPPPP

PPPPPP

◦ikDD

DDDD

DDDD

DDDD

D

...

(k ≥ 3) を持つとき,この頂点 i に対応する QTmSにおける cycle は

i2 // i3))SSS

SSSS

i1

;;wwwwwww

uukkkkkk

ik

ccGGGGGGik−1

oo

となる。定義より,Brauer tree代数 A(TmS )の Ext-quiverはこの cycleを充満部分 quiver

として含む。よって,

dimF Ext1A(TmS )(L(ij), L(ij+1)) = 1, dimF Ext1A(Tm

S )(L(ij+1), L(ij)) = 0 (1 ≤ j ≤ k − 1)

を得る。ここで L(ij) は頂点 ij に対応する既約 A(TmS )-加群である。特に

Ext1A(TmS )(L(ij), L(ij+1)) ∼= Ext1A(Tm

S )(L(ij+1), L(ij))

となるので,Lemma 4.4 (i) より,A(TmS ) は cellular 代数ではない。 □

Lemma 4.9, Lemma 4.10 より,以下の命題を得る。

Proposition 4.11 ([KX1, Proposition 5.3]). Brauer tree TmS に付随する Brauer tree 代数 A(TmS ) が cellular 代数であるための必要十分条件は,Brauer tree TmS が直線である(i.e. 分岐を持たない) ことである (このとき,例外的頂点 S,及び重複度 m は任意)。

4.12. (変形 Brauer tree 代数 D(T 2S).) T

2S を重複度 2 の例外的頂点 S をグラフの端に

持つ (i.e. S と繋がっている辺はただ 1つである) 辺が2つ以上ある Brauer tree とする。T 2S に付随した Brauer quiver QT 2

Sを考える。T 2

S において,例外的頂点 S と繋がってい

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るただ 1つの辺に対応する QT 2Sの頂点を 1 とし,頂点 1 の属する α-cycle, β-cycle が,

2β2 // 3 β3

**UUUUUUU

U

1α1 88

β1;;wwwwwww

βk−2ttjjjjj

j

kβk

ccFFFFFFFk − 1

βk−1

oo

であるとする (S がグラフの端にあることより,α-cycle は α1 (loop)であることに注意)。また,頂点 1 の属する β-cycle に属する頂点の集合を S ′

0 := {1, 2, . . . , k} とおく。このとき,各 j ∈ S ′

0 \ {1} に対し,j を始点かつ終点とする新たな cycle

B′j := βjβj+1 . . . βkα1β1β2 . . . βj−1

を考える。以上の準備の下で,変形 Brauer tree 代数 D(T 2S) を

D(T 2S) := FQT 2

S/I2S

によって定める。ここで,FQT 2Sは体 F 上の Brauer quiver QT 2

Sの path 代数であり,I2S

は,

{βilαi, αikβi | i ∈ (QTmS)0 \ {1}},

∪ {A21 −B1}

∪ {Ai −Bi | i ∈ (QTmS)0 \ S ′

0}∪ {Aj −B′

j | j ∈ S ′0 \ {1}}

∪ {βmβ1}

によって生成される FQT 2Sの両側イデアルである。ここで,αki , βli は,

Ai = αi1αi2 . . . αik , Bi = βi1βi2 . . . βil (i1 = i に注意)

によって定まるものである。(i.e. i を始点かつ終点とする α-cycle Ai の最後の矢が αikで,β-cycle Bi の最後の矢が βil である。)

Remark 4.13. [S] では,各 λ ∈ F に対し,変形 Brauer tree 代数 D(T 2S , λ) を定義して

いるが (上の D(T 2S) の定義は λ = 0 の場合), [S, Proposition 3.6] より,charF = 2 なら

ば,任意の λ ∈ F に対し,D(T 2S , λ)

∼= D(T 2S) である。

charF = 2 の場合は,D(TS, 1) も考える必要があるが,この節では charF = 2 と仮定しているので,気にしない。

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36

Example 4.14.

(i) T 2S = 76540123S 1 ◦ 2 ◦ 3 ◦ 4 ◦ のとき,

QT 2S= 1α1 88

β1 // 2α2 //

β2

oo 3β3 //

α3

oo 4β4

oo α4ff

であり,I2S は

{β1α2, α3β2, β4α3, α2β3, β3α4, α4β4}∪ {α2

1 − β1β2}∪ {α3α2 − β3β4, α4 − β4β3}∪ {α2α3 − β2α1β1}∪ {β2β1}

によって生成される FQT 2Sの両側イデアルである。

(ii) 76540123ST 2S = ◦ 4 ◦ 3 ◦

1 rrrrrr2MMM

MMM

◦のとき,

1

β1

��

α1ff

QT 2S= 4β4 88

α4 // 3α3

oo

β3 99ssssss

2β2

eeKKKKKKα2ff

であり, I2S は

{β1α2, α2β2, β2α3, α4β3, β4α4, α3β4}∪ {α2

1 − β1β2β3}∪ {α4α3 − β4}∪ {α2 − β2β3α1β1, α3α4 − β3α1β1β2}∪ {β3β1}

によって生成される FQT 2Sの両側イデアルである。

Lemma 4.15. Brauer tree T 2S = 76540123S 1 ◦ 2 ◦ に対し,T 2

S に付随する変形 Brauer

tree 代数 D(T 2S) は cellular 代数ではない。

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Proof. A = D(T 2S) とおく。定義より,

A = D(T 2S) = F

(1α1 88

β1 // 2β2

oo α2ff

)/⟨β1α2, α2β2, α

21 − β1β2, α2 − β2α1β1, β2β1

⟩ideal

∼= F(

1α1 88β1 // 2β2

oo)/⟨

α21 − β1β2, β2β1

⟩ideal

である。このとき,A の基底として,

e1, e2,...α1, β1, β2,

...α21(= β1β2), α1β1, β2α1,

...α31(= α1β1β2 = β1β2α1), β2α1β1

が取れる。ここで,e1, e2 はそれぞれ頂点 1, 2 に対応する原始ベキ等元である。頂点 1, 2 に対応する既約加群をそれぞれ L1, L2 とし,それぞれの射影被覆を P1, P2

とすると,

P1 = A e1 = Fe1 ⊕ Fα1 ⊕ Fβ2 ⊕ Fα21 ⊕ Fβ2α1 ⊕ Fα3

1(4.15.1)

P2 = A e2 = Fe2 ⊕ Fβ1 ⊕ Fα1β1 ⊕ Fβ2α1β1(4.15.2)

であり,P1, P2 の radical series はそれぞれ

P1∼=

L1

L1 L2

L2 L1

L1

, P2∼=

L2

L1

L1

L2

(4.15.3)

となる。特に, D(T 2S) の Cartan 行列 C =

([Pi, Lj]

)1≤i,j≤2

は,

C =

(4 22 2

)となる。

A が cellular 代数であると仮定し,

Λ = {λ1, λ2, . . . , λk} s.t. Λ0 = {λ1, λ2} and L(λ1) ∼= L1, L(λ2) ∼= L2

であるとする (cellular 構造を定める Λ 上の半順序はまだ定めていない)。また,

dij = [∆(λi) : L(λj)] (1 ≤ i ≤ k, j = 1, 2)

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38

とおき,分解行列 D =(dij

)1≤i≤k,1≤j≤2

を考えると,Theorem 2.13 (iii)より d11 = d22 = 1

であることに注意すれば,Lemma 4.4 (ii) より,

DTD =

1 +

k∑i=2

(di1)2 d12 + d21 +

k∑i=3

di1di2

d12 + d21 +k∑i=3

di1di2 (d12)2 + 1 +

k∑i=3

(di2)2

=

(4 22 2

)= C

を得る。よって,

k∑i=2

(di1)2 = 3,(4.15.4)

d12 + d21 +k∑i=3

di1di2 = 2,(4.15.5)

(d12)2 +

k∑i=3

(di2)2 = 1(4.15.6)

を得る。もし,d12 = 0 であるとすると,(4.15.6) より,d12 = 1 かつ di2 = 0 (i ≥ 3) となる。

このとき,(4.15.5) より,d21 = 1 となるが,Theorem 2.13 (iii) より,

d12 = [∆(λ1) : L(λ2)] = 1 ⇒ λ1 > λ2,

d21 = [∆(λ2) : L(λ1)] = 1 ⇒ λ2 > λ1

となり矛盾する。よって

d12 = 0

である。このとき,(4.15.6) より (必要ならば番号を付けかえて),

d32 = 1 かつ di2 = 0 (i ≥ 4)

を得る。さらに,(4.15.5) より,

d21 = 1 かつ d31 = 1

を得る。 最後に (4.15.4) より (必要ならば番号を付けかえて),

d41 = 1 かつ di1 = 0 (i ≥ 5)

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39

を得る。以上より,

D =

1 01 11 11 0

(4.15.7)

を得る。また,分解行列 D とTheorem 2.13 (i) より,

∆(λ1) ∼= L(λ1), ∆(λ2) ∼=L(λ2)L(λ1)

, ∆(λ4) ∼= L(λ1)(4.15.8)

となり,K0(A -mod) において,

[∆(λ3)] = [L(λ1)] + [L(λ2)](4.15.9)

である。Proposition 2.10 より,P (λ2) はある cell 加群 ∆(λi) (i = 1, 2, 3, 4) を部分加群として含むが (P (λ2) の ∆-filtration やその重複度は一意的とは限らないことに注意),

Theorem 4.2 より,A は対称代数なので,

TopP (λ2) ∼= socP (λ2) ∼= L(λ2)

となり, (4.15.8), (4.15.9) より,P (λ2) の部分加群となり得る cell 加群は ∆(λ3) のみであり,さらにその socle が L(λ2) と同型になることより,

∆(λ3) =L(λ1)L(λ2)

(4.15.10)

となることが分かる。(4.15.7) と Theorem 2.13 (iii) より,

λ1 < λ2, λ1 < λ3, λ1 < λ4, λ2 < λ3

でなくてはならない。よって,Λ 上の cellular 構造を定める半順序と整合的な全順序の候補として,

λ1 < λ2 < λ3 < λ4,

λ1 < λ2 < λ4 < λ3,

λ1 < λ4 < λ2 < λ3

(4.15.11)

の3通りが考えられる。一方で,A が対称代数であることより,

TopP (λ1) ∼= socP (λ1) ∼= L(λ1)(4.15.12)

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40

である。Λ 上の cellular 構造を定める半順序と整合的な全順序を考えれば,(4.15.7) とProposition 2.10 より,その全順序に関して最大である µ ∈ Λ に対し, ∆(µ) は P (λ1) の部分加群となるが,(4.15.12) と (4.15.10) より,∆(λ3) は P (λ1) の部分加群とはなり得ない。よって,λ3 が Λ の中で最大にはなり得ないので,(4.15.11) より,Λ 上の cellular

構造を定める半順序と整合的な全順序は,

λ1 < λ2 < λ3 < λ4

のみであることが分かる。よって,再び (4.15.7) と Proposition 2.10 より,P (λ1) は部分加群の列

P (λ1) =M1 ⊃M2 ⊃M3 ⊃M4 ⊃M5 = 0 s.t. Mi/Mi+1∼= ∆(λi) (1 ≤ i ≤ 4)

となるものが存在する (既に P2 は用いているため,M1,M2, . . . を用いた)。M4 = ∆(λ4) ∼= L(λ1) ∼= socP (λ1) であることと, (4.15.1), (4.15.3) より,

socP (λ1) =M4 = Fα31(4.15.13)

となることが分かる。また,M1/M2∼= ∆(λ1) = L(λ1) ∼= TopP (λ1) なので,M2 =

radP (λ1) であり,(4.15.3) より,

M2/M4∼= radP (λ1)/ rad

3 P (λ1) ∼=L1 L2

L2 L1(rad3 P (λ1) = socP (λ1) に注意)(4.15.14)

となる。さらに,M3/M4∼= ∆(λ3) ∼=

L(λ1)L(λ2)

, M2/M3∼= ∆(λ2) ∼=

L(λ2)L(λ1)

であるので,短完全列

0 → L(λ2) →M3/M4 → L(λ1) → 0

0 → L(λ1) →M2/M3 → L(λ2) → 0

は分裂しない。よって (4.15.14) より,

Top(M2/M4) ∼= L(λ1)⊕ L(λ2), soc(M2/M4) ∼= L(λ2)⊕ L(λ1)(4.15.15)

でなくてはならない。つまり,短完全列

0 →M3/M4 →M2/M4 →M2/M3 → 0(4.15.16)

は分裂する (P (λ2) の方で,順序 λ2 < λ3 が要請されるので,Λ の全順序に矛盾はしない。P (λ1) の ∆-filtration の取り方は一意的でないことに注意) 。よって, (4.15.1), (4.15.13),

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41

(4.15.14), (4.15.15) より,

M2/M4 ≡ Fα1 ⊕ Fβ2 ⊕ Fα21 ⊕ Fβ2α1 mod Fα3

1

soc(M2/M4) ≡ Fα21 ⊕ Fβ2α1 mod Fα3

1

Top(M2/M4) ≡ Fα1 ⊕ Fβ2 mod Fα21 ⊕ Fµ2α1 ⊕ Fα3

1

となる (M4 = Fα31 に注意)。短完全列 (4.15.16) が分裂することに注意すれば,

Top(M2/M4) ⊃ Top(M3/M4) ∼= L(λ1) ( 特に dimF Top(M3/M4) = 1),

soc(M2/M4) ⊃ soc(M3/M4) ∼= L(λ2) ( 特に dimF soc(M3/M4) = 1),

0 → soc(M3/M4) →M3/M4 → Top(M3/M4) → 0 : exact

であるので (特に dimF (M3/M4) = 2),

M3/M4 ≡ F(r1α1 + r2β2)⊕ F(s1α21 + s2β2α1) mod Fα3

1 (r1, r2, s1, s2 ∈ F),

soc(M3/M4) ≡ F(s1α21 + s2β2α1) mod Fα3

1,

Top(M3/M4) ≡ F(r1α1 + r2β2) mod F(s1α21 + s2β2a1)⊕ Fα3

1

となる。一方で,soc(M3/M4) ∼= L(λ2), Top(M3/M4) ∼= L(λ1) なので,

e1 · soc(M3/M4) = 0, e2 · Top(M3/M4) = 0

となるので,

s1 = 0, r2 = 0

を得る。よって,

M3/M4 ≡ Fα1 ⊕ Fβ2α1 mod Fα31

となるので,

M3 = Fα1 ⊕ Fβ2α1 ⊕ Fα31

となる。いま,M3 は P (λ1) の A -部分加群であるが,P (λ1) の中で,

α1 · α1 = α21 = 0 かつ α1 ∈M3, α2

1 ∈M3

となるので,M3 が P (λ1) の A -部分加群であることに矛盾する。以上の議論より,A = D(T 2

S) は cellular 代数ではない。 □

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42

Proposition 4.16. 重複度 2 の例外的頂点 S をグラフの端に持つ Brauer tree T 2S に付

随した変形 Brauer tree 代数 D(T 2S) は cellular 代数でない。

Proof. 変形 Brauer tree代数 D(T 2S)の quiver自体は Brauer tree代数 A(T 2

S)の quiverと同じなので,Brauer tree T 2

S が分岐を持つときは,Lemma 4.10 と同じ議論より,D(T 2S)

は cellular 代数でないことが分かる。よって,T 2S が直線のとき,つまり,

T 2S = 76540123S 1 ◦ 2 ◦ 3

. . .m−1 ◦ m ◦

のとき D(T 2S) が cellular 代数でないことを示せば良い。この場合,Brauer tree T 2

S の辺1, 2 に対応する Brauer quiver QT 2

Sの頂点をそれぞれ 1, 2 とし,QT 2

Sの頂点 1, 2 に対応

する D(T 2S) の原始ベキ等元をそれぞれ e1, e2 とすると,定義より,

(e1 + e2)D(T 2S)(e1 + e2) ∼= D

(76540123S 1 ◦ 2 ◦)

となることが分かる。よって,Lemma 4.15 より, (e1 + e2)D(T 2S)(e1 + e2) は cellular 代数

でないので,Lemma 4.4 (iii) より,D(T 2S) も cellular 代数でない。 □

4.17. Proposition 4.16 の証明で見たように,直線の Brauer tree

T 2S = 76540123S 1 ◦ 2 ◦ 3

. . .m−1 ◦ m ◦

に対し,それに付随する変形 Brauer tree 代数 D(T 2S) が cellular でないことを示すには,

辺が2つの場合 (Lemma 4.15) を示せば十分であるが, 辺が3つの場合は以下の Lemma

のように,Lemma 4.15 より簡単に cellular 代数でないことが分かる。(辺が3つ以上ある場合は,T 2

S の辺 1, 2, 3 に対応する D(T 2S) の原始ベキ等元 e1, e2, e3 に対し,(e1 + e2 +

e3)D(T 2S)(e1 + e2 + e3) を考えれば辺が3つの場合に帰着できる。)

Lemma 4.18. Brauer tree T 2S = 76540123S 1 ◦ 2 ◦ 3 ◦ に対し,T 2

S に付随する変形Brauer tree 代数 D(T 2

S) は cellular 代数ではない。

Proof. 定義より,

QT 2S= 1α1 88

β1 // 2β2

ooα2 // 3α3

oo β3ff

I2T =⟨β1α2, α3β2, β3α3, α2β3, α

21 − β1β2, α3α2 − β3, α2α3 − β2α1β1, β2β1

⟩ideal

D(T 2S) = FQT 2

S/I2S

∼= F(

1α1 88β1 // 2β2

ooα2 // 3α3

oo)/⟨

β1α2, α3β2, α21 − β1β2, α2α3 − β2α1β1, β2β1

⟩ideal

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である。D(T 2S) の頂点 1, 2, 3 に対応する既約加群をそれぞれ L1, L2, L3 とし,それぞれ

の射影被覆を P1, P2, P3 とすると,P1, P2, P3 の radical series は

P1∼=

L1

L1 L2

L2 L1

L1

, P2∼=

L2

L1 L3

L1

L2

, P3∼=L3

L2

L3

となり,D(T 2S) の Cartan 行列 C は

C =

4 2 02 2 10 1 2

となる。D(T 2

S) が cellular 代数であると仮定し,

Λ = {λ1, λ2, . . . , λk} s.t. Λ0 = {λ1, λ2, λ3} and L(λ1) ∼= L1, L(λ2) ∼= L2, L(λ3) = L3

であるとする (cellular 構造を定める Λ 上の半順序はまだ定めていない)。また,

dij = [∆(λi) : L(λj)] (1 ≤ i ≤ k, j = 1, 2, 3)

とおき,分解行列 D =(dij

)1≤i≤k,1≤j≤3

を考えると,Lemma 4.4 (ii) より,

DT D =

k∑i=1

(di1)2

k∑i=1

di1di2

k∑i=1

di1di3

k∑i=1

di2di1

k∑i=1

(di2)2

k∑i=1

di2di3

k∑i=1

di3di1

k∑i=1

di3di2

k∑i=1

(di3)2

=

4 2 02 2 10 1 2

= C

となる。これより,

• D の第1列目には 1 がちょうど4つあり,他は 0 である(d11 = 1 かつ

∑ki=1(di1)

2 = 4 より).

• D の第2列目には 1 がちょうど2つあり,他は 0 である (∑k

i=1(di2)2 = 2 より).

• D の第 3列目には 1 がちょうど2つあり,他は 0 である (∑k

i=1(di3)2 = 2 より).

• D の各行は (0 ∗ ∗) or (∗ ∗ 0) の形である (∑k

i=1 di1di3 = 0 より).

• D の行で (110) となるものがちょうど2つある。(上記+∑k

i=1 di1di2 = 2 より).

• D の行で (011) となるものがちょうど 1つある。(上記+∑k

i=1 di2di3 = 1 より).

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となる。しかし,最後の2つの条件より,D の第 2列目には3つ以上の 1 があることになるが,これは2番目の条件を満たさない。よって,DT D = C となるような D(T 2

S) の分解行列は存在しない。つまり,D(T 2

S) は cellular 代数ではない。 □

上の証明の系として以下のことを得る。

Corollary 4.19. Cartan 行列が

4 2 02 2 10 1 2

であるような cellular 代数は存在しない。

4.20. (Tilted 代数.) F上の有限次元代数 A に対し,A -加群 T が,

• pdimT ≤ 1 (pdimT は T の射影次元),

• Ext1A (T, T ) = 0

を満たすとき,T を partial tilting 加群 という。partial tilting 加群 T がさらに,• ある短完全列 0 → A → T ′ → T ′′ → 0 (T ′, T ′′ ∈ addT ) が存在する。(addT は T の直和因子全体からなる A -mod の充満部分圏.)

を満たすとき,T を tilting 加群 という。Q を有限 connected quiver で acyclic であるものとし, T を path 代数 FQ の tilting

加群であるとする。このとき,

B = EndFQ(T )

を Q 型の tilted 代数という。以下のことはよく知られている。

Lemma 4.21 (cf. [ASS, Corollary 3.4 in Chapter VIII]). Q を有限 connected quiver でacyclic であるものとし, B を Q型の tilted 代数であるとする。このとき,tilted 代数 B

の Ext-quiver QB は acyclic である。

4.22. (Dynkin 型.) quiver Q の underline graph が,

An : ◦ ◦ . . . ◦ (頂点 n 個),

Dn : ◦◦ ◦ . . . ◦

oooooo

OOOOOO (頂点 n 個, n ≥ 4)

◦E6 : ◦

◦ ◦ ◦ ◦ ◦E7 : ◦

◦ ◦ ◦ ◦ ◦ ◦

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45

E8 : ◦

◦ ◦ ◦ ◦ ◦ ◦ ◦

のいずれかであるとき,Q は X 型 (X ∈ {An, Dn, E6, E7, E8}) であるといい, これらのquiver に付随する tilted 代数を Dynkin 型の tilted 代数という。

4.23. (Trivial extension.) F 上の有限次元代数 A に対し,

D(A ) := HomF(A ,F)

とおき,自然な方法で D(A ) を (A ,A )-両側加群と思う。このとき,A の trivial ex-

tension T (A ) = A ⋉D(A ) を,

• F-線型空間として T (A ) = A ⊕D(A ) とし,• T (A ) の積を,

(a, f) · (b, g) := (ab , a · g + f · b) (a, b ∈ A , f, g ∈ D(A ))

によって定める。

T (A ) 上の双線型形式 ⟨ , ⟩ : T (A )× T (A ) → F を 

⟨(a, f) , (b, g)⟩ := f(b) + g(a) (a, b ∈ A , f, g ∈ D(A ))

によって定めると,⟨ , ⟩は非退化,結合的かつ対称的である。よって,A の trivial extension

T (A ) は対称代数である。

4.24. Q = (Q0, Q1) を quiver とする。ここで,Q0 は Q の頂点の集合, Q1 は Q の矢の集合である。Q の path α に対し,α の始点を s(α), 終点を t(α) と表す。

I を path 代数 FQ の許容イデアルとし,A = FQ/I とする。Q の path の A での像からなる A の基底を 1つ取り, それを BQ;I とおく。また,BQ;I に関する D(A ) の双対基底を {fα |α ∈ BQ;I} とする (i.e. fα(β) = δα,β (α, β ∈ BQ;I))。定義より,

BQ;I ∪ {fa |α ∈ BQ;I}

は T (A ) の基底となる。i ∈ Q0 に対し,頂点 i に対応する A の原始ベキ等元を ei とすれば,定義より,1A

が T (A ) の単位元となるので,

{ei | i ∈ Q0} = {T (A ) の互いに直交する原始ベキ等元 }(4.24.1)

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46

となる。また,i ∈ Q0, α, β ∈ BQ;I に対し,

eifα(β) = fα(βei) = δα,βδt(α),i, fαei(β) = fα(eiβ) = δα,βδs(α),i

であるので,

eifα = δt(α),ifα, fαei = δs(α),ifα (i ∈ Q0, α ∈ BQ;I)(4.24.2)

となる。(4.24.1) と (4.24.2) をふまえて,quiver Q = (Q0, Q1) を

Q0 := Q0, Q1 := Q1 ∪ {α′ |α ∈ BQ;I}

と定める。ここで,α′ は t(α) から s(α) への新たに加える矢である (i.e. s(α′) = t(α),

t(α′) = s(α) である矢)。すると,(4.24.1), (4.24.2) より,代数の全射準同型

φ : FQ→ T (A ) s.t. ei 7→ ei (i ∈ Q0), α 7→ α (α ∈ Q1), α′ 7→ fα (α ∈ BQ;I)(4.24.3)

が存在することが分かる。

Lemma 4.25. A = FQ/I とし,Q は有限, connected, acyclic であると仮定する。また,RQ を path 代数 FQ の矢イデアルとする。このとき,A の trivial extension T (A ) がcellular 代数であるならば,I = R2

Q である。

Proof. 定義より,D(A )は T (A )の両側イデアルであり,代数として, T (A )/D(A ) ∼= A

となることが分かる。よって,

Q は T (A ) の Ext-quiver QT (A ) の部分 quiver である(4.25.1)

ことが分かる。一方で,(4.24.3) より,

QT (A ) は Q の部分 quiver である(4.25.2)

ことが分かる。Q において,頂点 i から 頂点 j への矢が k 本あるとする (k > 0)。このとき,Q が

acyclic であることから,Q において, 頂点 j から頂点 i への path は存在しない。よって,Q の定義より,Q において, 頂点 i から頂点 j への矢はちょうど k 本である。よって,(4.25.1), (4.25.2) より,

Q において, 頂点 i から 頂点 j への矢が k 本 (k > 0)

⇒ QT (A ) において,頂点 i から 頂点 j への矢は k 本(4.25.3)

となる。(仮定 1): Q において,α1α2 ∈ I となるような path i1

α1 // i2α2 // i3 が存在する

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と仮定する。(仮定1) より k > 0 である。α1α2 ∈ BQ;I としてよい。このとき,T (A ) において, α2fα1α2(α1) = fα1α2(α1α2) = 1 であるので,

α2fα1α2 = fα1 +∑γ∈BQ;I

rγfγ (rγ ∈ F)(4.25.4)

と表せる。

(仮定2): s(β) = i1, t(β) = i2 となる β ∈ BQ;I で長さ 2以上のものは存在しない

と仮定すると,

{β ∈ BQ;I | s(β) = i1, t(β) = i2} = {β ∈ Q1 | s(β) = i1, t(β) = i2}

であり, Q が acyclic なので Q には i2 から i1 への矢が存在しないことに注意すると,

{Q において i2 から i1 への矢 } = {β′ | β ∈ Q1 s.t. s(β) = i1, t(β) = i2}

となる。一方で,(4.24.3) の全射 φ : FQ→ T (A ) を考えると, (4.25.4) より,

α′1 − α2(α1α2)

′ +∑γ∈BQ;I

rgγ′ ∈ Kerφ

となるので,

{QT (A ) において i2 から i1 への矢 } ⊂ {β′ | β ∈ Q1 s.t. s(β) = i1, t(β) = i2} \ {α′1}

(4.25.5)

となる。Q において i1 から i2 への矢が k 本だとすると (仮定1より,k > 0 である),(4.25.3)より,QT (A ) において i1 から i2 への矢は k 本あり,一方で, (4.25.5)より,QT (A )

において i2 から i1 への矢は k − 1 本以下となる。しかし,これは QT (A ) が cellular 代数であることより,Lemma 4.4 (i) に矛盾する。よって,(仮定 1 のもとで) 仮定 2 は成り立たない。よって,i1 を始点, i2 を終点とする α(2) ∈ BQ;I で長さ 2 以上の path

α(2) = i1α(2)1 // i

(2)2

α(2)2 // i

(2)3

α(2)3 // . . .

α(2)l2 // i2 が存在する。

path i1α(2)1 // i

(2)2

α(2)2 // i

(2)3 に対し,同様な議論を行えば, i1 を始点 i

(2)2 を終点とする

α(3) ∈ BQ;I で長さ 2以上の path α(3) = i1α(3)1 // i

(3)2

α(3)2 // i

(3)3

α(3)3 // . . .

α(3)l3 // i

(2)2 が存在す

る。このとき,もし,i(3)2 = i2 ならば, Q の中で cycle

i2 = i(3)2

a(3)2 // . . .

α(3)l3 // i

(2)2

α(2)2 // i

(2)3

α(2)3 // . . .

α(2)l2 // i2

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ができて Q が acyclic であることに矛盾する。また,i(3)2 = i(2)2 ならば,path α(3) の中で

cycle ができるのでやはり矛盾。よって, i(3)2 = i2, i

(2)2 である。

以下,同様に繰り返せば,任意の p > 0 に対し,α(p) ∈ BQ;I で長さ 2以上の path

α(p) = i1α(p)1 // i

(p)2

α(p)2 // i

(p)3

α(p)3 // . . .

α(p)lp // i

(p−1)2 が存在し,i(p)2 = i2, i

(2)2 , . . . , i

(p−1)2 とな

るものが存在する。よって,(p > 0 に対し成り立つので) Q の中に無限個の異なる頂点i2, i

(2)2 , i

(3)2 , . . . が存在することになるので,これは Q が有限であることに矛盾する。よっ

て,仮定1は成り立たないので,Lemma が示せた。 □

Remark 4.26. Lemma 4.25 は以下の Fact から直ちに従うことを (2016-8-30 に)伊山先生に教えて頂きました (参考のために,もともとの議論も残しておきます)。

Fact: A = FQ/I に対し, その trivial extension T (A ) の Gabriel quiver QT (A ) は,

quiver Q に, 以下のように矢を加えることによって得られる:• α を FQ/I において 0 にならない path で, α にどんな矢を (左右から)かけても 0 となるものとするとき, t(α) から s(α) へ矢を1本加える。

Q は acyclic で, I = R2Q とする。A = FQ/I において 0 とはならない長さ最大の path

(の 1つ) を α とすると, I = R2Q より α は長さ 2 以上の path である。このとき, 上の

Fact より, path α に含まれる矢 αi に対し, QT (A ) において, αi と逆向きの矢は存在しない。このことは, T (A ) が cellular 代数であるとき, Lemma 4.4 (i) 矛盾する。よって,

T (A ) が cellular 代数ならば, I = R2Q である。

上の Fact はよく知られている事実らしいが, 参照すべき文献はよく分かりません (ご存知の方はお知らせ頂けると助かります)。より一般の形で上の Fact を述べているものとして, [A, Lemma 1.3], [ACT, Lemma 1.2] などがある。

4.27. A = FQ/I (Q : 有限, connected, acyclic) であるとき,A の trivial extension

T (A ) が cellular 代数であるならば,Lemma 4.25 より, I = R2Q である。このとき,

BQ;I = {ei | i ∈ Q0} ∪ {α ∈ Q1}

であり,D(A ) の基底として,

{fei | i ∈ Q0} ∪ {fα |α ∈ Q1}

が取れる。よって,

{ei | i ∈ Q0} ∪ {α ∈ Q1} ∪ {fei | i ∈ Q0} ∪ {fα |α ∈ Q1} : T (A ) の基底(4.27.1)

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となる。このとき,T (A ) において,

e1α = δs(α),iα, αe1 = δt(α),iα (i ∈ Q0, α ∈ Q1)

eifα = δt(α),ifα, fαei = δs(α),ifα (i ∈ Q0, α ∈ Q1)

αβ = 0, fαfβ = 0 (α, β ∈ Q1),

αfβ = δα,βfes(α), fβα = δα,βfet(α)

(α, β ∈ Q1)

(4.27.2)

が成り立つことは,直接計算すれば分かる。特に,

αfα = fes(α), fββ = fet(β) (α, β ∈ Q1)(4.27.3)

なので,

αfα = fββ (α, β ∈ Q1 s.t. s(α) = t(β))

αfα = βfβ (α, β ∈ Q1 s.t. s(α) = s(β))

fαα = fββ (α, β ∈ Q1 s.t. t(α) = t(β))

(4.27.4)

が成り立つ。以上のことを踏まえて,α ∈ Q1 に対し,α を α の始点と終点を逆にした (新たに加

える)矢とし,新たな quiver Q = (Q0, Q1) (Q の double quiver) を

Q0 := Q0, Q1 = Q1 ∪Q1

と定める。また,path 代数 FQ の許容イデアル IQ を

{αβ |α, β ∈ Q1} ∪ {αβ |α, β ∈ Q1} ∪ {αβ, βα |α = β ∈ Q1}∪ {αα− ββ |α, β ∈ Q1 s.t. s(α) = t(β)}∪ {αα− ββ |α, β ∈ Q1 s.t. s(α) = s(β)}∪ {αα− ββ |α, β ∈ Q1 s.t. t(α) = t(β)}

によって生成される FQ のイデアルとして定める。

Proposition 4.28. A = FQ/I とし,Q は有限, connected, acyclic であると仮定する。このとき,A の trivial extension T (A ) が cellular 代数であるならば,

T (A ) ∼= FQ/IQ as algebras.

Proof. 代数の準同型 φ : FQ/IQ → T (A ) を,

ei 7→ ei (i ∈ Q0), α 7→ α, α 7→ fα (α ∈ Q1)

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によって定める。φ が well-defined であることは,(4.27.2), (4.27.4) より分かる。φ が全射であることは, (4.27.1) と (4.27.3) より分かり,両辺の次元を比べれば,同

型であることが分かる。 □

以下, FQ/IQ が cellular 代数となるための条件を調べる。

Lemma 4.29.

3

Q = 1 2

rrrrrr

LLLLLL

(矢の向きは任意)

4

であるとき,FQ/IQ は cellular 代数でない。

Proof. 定義より,FQ/IQ の Cartan 行列 C は

C =

2 1 0 01 2 1 10 1 2 00 1 0 2

となる。FQ/IQ は cellular 代数であると仮定し,D = (dij)1≤i≤k, 1≤j≤4 を分解行列とすると,Lemma 4.4 (ii) より,

DT D =

k∑i=1

(di1)2

k∑i=1

di1di2

k∑i=1

di1di3

k∑i=1

di1di4

k∑i=1

di2di1

k∑i=1

(di2)2

k∑i=1

di2di3

k∑i=1

di2di4

k∑i=1

di3di1

k∑i=1

di3di2

k∑i=1

(di3)2

k∑i=1

di3di4

k∑i=1

di4di1

k∑i=1

di4di2

k∑i=1

di4di3

k∑i=1

(di4)2

=

2 1 0 01 2 1 10 1 2 00 1 0 2

= C

となる。これより,• D の各列には 1 がちょうど2つあり,他は 0 である。(∑k

i=1(dij)2 = 2 (1 ≤ j ≤ 4) より)

• D の各行は (0 ∗ 0∗) or (0 ∗ ∗0) or (∗ ∗ 00) の形である。(∑k

i=1 di1di3 =∑k

i=1 di1di4 =∑k

i=1 di3di4 = 0 より)

• D の行で,(1100), (0110), (0101) となるものがそれぞれちょうど1つある。(上記 +

∑ki=1 di1di2 =

∑ki=1 di2di3 =

∑ki=1 di2di4 = 1 より)

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しかし,最後の条件より,D の2列目には 1 が3つ以上存在することになり,最初の条件に矛盾する。よって,DT D = C を満たす分解行列 D は存在しないので,FQ/IQ はcellular 代数でない。 □

Lemma 4.30. l ≥ 3 とする。

2 3UUUU

UUU

Q = 1

rrrrrrr(矢の向きは acyclic になるように任意にとる)

jjjjjj

l

KKKKKKKKl − 1

であるとき,FQ/IQ は cellular 代数でない。

Proof. 定義より FQ/IQ の Cartan 行列 C は

C =

2 1 0 0 0 . . . 0 0 0 11 2 1 0 0 . . . 0 0 0 00 1 2 1 0 . . . 0 0 0 0

...0 0 0 0 0 . . . 0 1 2 11 0 0 0 0 . . . 0 0 1 2

となる。FQ/IQ は cellular 代数であると仮定し,D = (dij)1≤i≤k, 1≤j≤l を分解行列とすると,Lemma 4.4 (ii) より, DT D = C であるので,両辺を比べると,

• D の各列には, 1 がちょうど2つあり,他は 0 である。(∑k

i=1(dij)2 = 2 (1 ≤ j ≤ l) より)

• D の各行で 0 でない成分は高々2つである。(∑k

i=1 dijdij′ = 0 (j′ ≡ j, j ± 1 mod l より)

• D の行で, (110 . . . 0), (0110 . . . 0), . . . , (0 . . . 011), (10 . . . 01) となるものがそれぞれちょうど1つある。(上記 +

∑ki=1 dijdij+1 =

∑ki=1 di1dil = 1 (1 ≤ j ≤ l − 1) より)

以上より,D は最後の条件に現れる l 個の行ベクトルを適当な順に並べた l次正方行列となる。D が正方行列であることに注意して, Theorem 2.13 (iii) を用いると,dii = 1

(1 ≤ i ≤ l) でなくてはならないので,D は,

D =

1 1 0 0 . . . 0 0 00 1 1 0 . . . 0 0 0

...0 0 0 0 . . . 0 1 11 0 0 0 . . . 0 0 1

or

1 0 0 0 . . . 0 0 11 1 0 0 . . . 0 0 00 1 1 0 . . . 0 0 0

...0 0 0 0 . . . 0 1 1

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となる。このとき, Λ = {1, 2, . . . , l} とおくと (D の添え字どおりに取る),Theorem2.13

(iii) より,Λ 上の順序が

1 > 2 > 3 > · · · > l − 1 > l > 1 or l < 1 < 2 < 3 < · · · < l − 1 < l

となり,いずれも矛盾する。よって,DT D = C を満たす分解行列で,さらに Theorem

2.13 (iii) を満たすものは存在しないので,FQ/IQ は cellular 代数でない。 □

Lemma 4.29, Lemma 4.30 の証明の系として以下を得る。

Corollary 4.31. Cartan 行列が,

2 1 0 01 2 1 10 1 2 00 1 0 2

,

2 1 0 0 0 . . . 0 0 0 11 2 1 0 0 . . . 0 0 0 00 1 2 1 0 . . . 0 0 0 0

...0 0 0 0 0 . . . 0 1 2 11 0 0 0 0 . . . 0 0 1 2

であるような cellular 代数は存在しない。

Lemma 4.32. quiver Q (有限, connected, acyclic) に対し, もし,i, j ∈ Q0 で i から j への矢が k (k ≥ 2) 本あるようなものが存在するとすると,FQ/IQ は cellular 代数でない。

Proof. IQ の定義より,(ei + ej)FQ/IQ(ei + ej) は

F

i j

αk //...α1 //

βk

oo...β1

oo

/⟨

αmβn, βmαn, αmβm − αnβn, βmαm − βnαn | 1 ≤ n = m ≤ k⟩ideal

と同型になる。よって,(ei + ej)FQ/IQ(ei + ej) の Cartan 行列 C は

C =

(2 kk 2

)となり,k ≥ 2 より,detC = 4− k2 ≤ 0 となる。よって,Lemma 4.4 (ii) より,(ei + ej)FQ/IQ(ei + ej) は cellular 代数でないので,

Lemma (4.4) (iii) より, FQ/IQ も cellular 代数でない。 □

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Proposition 4.33. quiver Q (有限, connected, acyclic) に対し, FQ/IQ が cellular 代数であるための必要十分条件は,

Q = 1 2 . . . k (矢の向きは任意)(4.33.1)

となることである。このとき,FQ/IQ は,Brauer tree

T 1S = ◦ ◦ . . . ◦ (頂点が k 個,重複度 1の例外的頂点は任意)

(4.33.2)

に付随する Brauer tree 代数 A(T 1S) と同型である。

Proof. Q が (4.33.3) のとき,定義より, FQ/IQ が (4.33.2) の Brauer tree T 1S に付随した

Brauer tree 代数 A(T 1S) と同型になることは,直接確かめられる。このとき, Lemma 4.9

より,FQ/IQ ∼= A(T 1S) は cellular 代数である。

逆に, quiver Q (有限, connected, acyclic) に対し, FQ/IQ は cellular 代数であると仮定する。すると, Lemma 4.32 より,

(*1) Q の任意の2つの頂点の間には,2本以上の矢は存在しない。次に, Q が部分 quiver として,

i2 i3SSSS

SSS

i1

xxxxxxx(矢の向きは acyclic になるような任意のもの)

kkkkkk

il

FFFFFFFil−1

を含むならば,(*1)と IQ の定義より,(ei1+ · · ·+eil)FQ/IQ(ei1+ · · ·+eil)は Lemma 4.30

のものと同型になる。しかし, Lemma 4.30 より,これは cellular 代数ではなく,Lemma

4.4 (iii) より, FQ/IQ も cellular 代数でないことになるので矛盾。よって,

(*2) Q の underline graph は cycle を含まない。最後に,Q が分岐を持つ,つまり, Q が部分 quiver として,

i3

i1 i2

rrrrrr

MMMMMM

(矢の向きは任意)

i4

を含むならば,(*1), (*2) と IQ の定義より,(ei1 + · · · + ei4)FQ/IQ(ei1 + · · · + ei4) はLemma 4.29 のものと同型になる。しかし, Lemma 4.29 より,これは cellular 代数ではなく,Lemma 4.4 (iii) より, FQ/IQ も cellular 代数でないことになるので矛盾。よって,

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(*3) Q は分岐を持たない。

(*1), (*2), (*3) より,

Q = 1 2 . . . k (矢の向きは任意)(4.33.3)

となる。 □

Theorem 4.2, Proposition 4.11, Proposition 4.16, Lemma 4.21, Proposition 4.28,

Proposition 4.33 より以下の定理を得る。

Theorem 4.34 ([大松]). 有限表現型である対称 cellular 代数 は,Brauer tree TmS が直線, すなわち,

TmS = ◦ ◦ . . . ◦ (例外的頂点 S 及び重複度 m は任意)

であるような Brauer tree TmS に付随した Brauer tree 代数 A(TmS ) と森田同値である。

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§ 5. Basic cellular 代数の例

Example 5.1. m ≥ 1 とする。

Q = 1γ 88α1 // 2

α2 //

β1

oo . . .αn−2//

β2

oo n− 1αn−1 //

βn−2

oo nβn−1

oo

とし, I を

{αiαi+1, βi+1βi | 1 ≤ i ≤ n− 2} ∪ {γα1, β1γ, γm − α1β1} ∪ {βiαi − αi+1βi+1 | 1 ≤ i ≤ n− 2}

によって生成される path代数 FQ の両側イデアルとし, A = FQ/I とおく。このとき,A は, 重複度 m の例外的頂点が端にある直線の Brauer tree

TmS = 76540123S 1 ◦ 2 ◦ 3. . .

n ◦ or TmS = ◦ 1 ◦ 2 ◦ 3. . .

n 76540123Sに付随した Brauer tree 代数 A (TmS ) と同型である。

Λ = {τ1, τ2, . . . , τm, µ1, µ2, . . . , µn} とし, Λ 上の順序関係を

τm > τm−1 > · · · > τ1 > µ1 > µ2 > · · · > µn

によって定める。また,

T (τi) = {1} (1 ≤ i ≤ m), T (µj) = {1, 2} (1 ≤ j ≤ n− 1), T (µn) = {1}

とし,

cτi11 = γi (1 ≤ i ≤ m),

[cµj11 c

µj12

cµj21 c

µj22

]=

[ej αj

βj βjαj

](1 ≤ j ≤ n− 1), cµnnn = en

とおくと, {cλij | i, j ∈ T (λ), λ ∈ Λ} は A の cellular 基底となる。このとき, Λ0 = {µ1, µ2, . . . , µn} であり, Λ の順序通りに並べたA の分解行列 D は,

D =

([∆(τm−i+1) : L(µj)

)1≤i≤m, 1≤j≤n(

[∆(µi) : L(µj))1≤i,j≤n

=

1 0 . . . . . . . . . 0...

......

1 0 . . . . . . . . . 01 1 0 . . . . . . 00 1 1 0 . . . 0

. . .0 . . . . . . 0 1 10 . . . . . . . . . 0 1

となる。

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Example 5.2. m ≥ 1 とする。

Q = 1α1 // 2

α2 //

β1

oo . . .αn−2//

β2

oo n− 1αn−1 //

βn−2

oo nβn−1

oo

とし, I を

{αiαi+1, βi+1βi | 1 ≤ i ≤ n− 2} ∪ {(β1α1)m − α2β2} ∪ {βiαi − αi+1βi+1 | 2 ≤ i ≤ n− 2}

によって生成される path代数 FQ の両側イデアルとし, A = FQ/I とおく。このとき,A は, 直線の Brauer tree

TmS = ◦ 1 76540123S 2 ◦ 3. . .

n ◦

に付随した Brauer tree 代数 A (TmS ) と同型である。Λ = {ν, τ1, τ2, . . . , τm−1, µ1, µ2, . . . , µn} とし, Λ 上の順序関係を

ν > τm−1 > τm−2 > · · · > τ1 > µ1 > µ2 > · · · > µn

によって定める。また,

T (ν) = {1}, T (τi) = {1, 2} (1 ≤ i ≤ m− 1),

T (µj) = {1, 2} (1 ≤ j ≤ n− 1), T (µn) = {1}

とし,

cν11 = (α1β1)m,

[cτi11 cτi12cτi21 cτi22

]=

[(α1β1)

i (α1β1)iα1

β1(α1β1)i β1(α1β1)

iα1

](1 ≤ i ≤ m− 1),[

cµj11 c

µj12

cµj21 c

µj22

]=

[ej αj

βj βjαj

](1 ≤ j ≤ n− 1), cµnnn = en

とおくと, {cλij | i, j ∈ T (λ), λ ∈ Λ} は A の cellular 基底となる。このとき, Λ0 = {µ1, µ2, . . . , µn} であり, Λ の順序通りに並べたA の分解行列 D は,

D =

([∆(ν) : L(µj)]

)1≤j≤n(

[∆(τm−i) : L(µj)])1≤i≤m−1, 1≤j≤n(

[∆(µi) : L(µj)])1≤i,j≤n

=

1 0 . . . . . . . . . 01 1 0 . . . . . . 0...

......

...1 1 0 . . . . . . 01 1 0 . . . . . . 00 1 1 0 . . . 0

. . .0 . . . . . . 0 1 10 . . . . . . . . . 0 1

となる。

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57

Example 5.3. m ≥ 1, 2 < k < n とする。

Q = 1α1 // 2

α2 //

β1

oo . . .αk−1 //

β2

oo kαk //

βk−1

oo . . .αn−2//

βk

oo n− 1αn−1 //

βn−2

oo nβn−1

oo

とし, I を

{αiαi+1, βi+1βi | 1 ≤ i ≤ n− 2} ∪ {βk−2αk−2 − (αk−1βk−1)m, (βk−1αk−1)

m − αkβk}∪ {βiαi − αi+1βi+1 | 1 ≤ i ≤ k − 3} ∪ {βiαi − αi+1βi+1 | k ≤ i ≤ n− 2}

によって生成される path代数 FQ の両側イデアルとし, A = FQ/I とおく。このとき,A は, 直線の Brauer tree

TmS = ◦ 1 ◦ 2. . .

k−1 76540123S k. . .

n ◦

に付随した Brauer tree 代数 A (TmS ) と同型である。Λ = {ν, τ1, τ2, . . . , τm−1, µ1, µ2, . . . , µn} とし, Λ 上の順序関係を

ν > µ1 > µ2 > · · · > µk−2 > τm−1 > τm−2 > · · · > τ1 > µk−1 > µk > · · · > µn

によって定める。また,

T (ν) = {1}, T (τi) = {1, 2} (1 ≤ i ≤ m− 1),

T (µj) = {1, 2} (1 ≤ j ≤ n− 1), T (µn) = {1}

とし,

cν11 = α1β1,[cτj11 c

τj12

cτj21 c

τj22

]=

[(αk−1βk−1)

j (αk−1βk−1)jαk−1

βk−1(αk−1βk−1)j βk−1(αk−1βk−1)

jαk−1

](1 ≤ i ≤ m− 1),[

cµi11 cµi12cµi21 cµi22

]=

[ei αi

βi βiαi

](1 ≤ j ≤ n− 1),

cµn11 = en

とおくと, {cλij | i, j ∈ T (λ), λ ∈ Λ} は A の cellular 基底となる。

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58

このとき, Λ0 = {µ1, µ2, . . . , µn} であり, Λ の順序通りに並べたA の分解行列 D は,

D =

([∆(ν) : L(µj)]

)1≤j≤n(

[∆(µi) : L(µj)])1≤i≤k−2, 1≤j≤n(

[∆(τm−i) : L(µj)])1≤i≤m−1, 1≤j≤n(

[∆(µi) : L(µj)])k−1≤i≤m−1, 1≤j≤n

=

k − 2 k − 1 k

10 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 0110 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 00110 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 0

. . .0 . . . . . . 0 1 1 0 . . . . . . . . . . . . 00 . . . . . . 0 1 1 0 . . . . . . . . . 0...

......

......

0 . . . . . . 0 1 1 0 . . . . . . . . . 00 . . . . . . 0 1 1 0 . . . . . . . . . 00 . . . . . . . . . 0 1 1 0 . . . . . . 0

. . .0 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 01100 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 0110 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 01

となる。

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59

Appendix A. Quasi-hereditary 代数

この節では, A は体 F 上の有限次元代数とする。quasi-hereditary 代数の定義を述べる前に, いくつか一般の有限次元代数に対して成り立つことを復習しておこう。

(x ∈ A に対し, A xA は x で生成される A の両側イデアル (i.e. A xA =

{∑

i aixbi | ai, bi ∈ A }) であったことを思い出しておこう。一般に A xA = {axb | a, b ∈A } に注意。)

Lemma A.1. A の両側イデアル J に対し, 以下のことが成り立つ。(i) J 2 = J ⇔あるベキ等元 e ∈ A が存在して J = A eA となる。

(J 2 = J となる両側イデアル J を idempotent ideal という。)

(ii) あるベキ等元 e ∈ A に対し, J = A eA であるとき,

eA e は半単純環である⇔ J (radA )J = 0

が成り立つ。(iii) J が左射影 A -加群であるとき,

J 2 = J ⇔ HomA (J , (A /J )) = 0

が成り立つ。(iv) J は左射影 A -加群であり, あるベキ等元 e ∈ A に対し J = A eA であるとき,

積写像

µ : A e⊗eA e eA → A eA , ae⊗ eb 7→ aeb (a, b,∈ A )

は (A ,A )-両側加群の同型写像である。さらに, eA e が半単純環であるならば, J は右 A -加群としても射影的である。

Proof. (i). “⇐” を示す。e ∈ A をベキ等元とし, J = A eA とおく。J 2 ⊂ J は明らか。一方で,

J = A eA ⊂ A (eA A e)A ⊂ J 2

となるので, J = J 2 である。“⇒” を示す。radA を A の Jacobson 根基とする。A := A / radA とおき,

J := J + radA ⊂ A

とおく。明らかに J は A の両側イデアルであり, J 2= J である。A は半単純である

ので,有限個の単純環の直積と同型である。よって, A の両側イデアルはいくつかの単純成分の直積と同型であり,それは, 両側イデアルに現れる単純成分の単位元の和によって

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生成される。よって, あるベキ等元 e ∈ A が存在して,

J = A eA

となる。radA は A のベキ零イデアルであるので, A のベキ等元 e は A のベキ等元に持ち上がる。そこで, e ∈ A を e + radA = e となる A のベキ等元とする。A eA =

J = J + radA であることに注意すれば,

A eA + radA = A (e+ radA )A = J + radA(A.1.1)

である。上の議論より, (A eA )2 = A eA であることと, 仮定より, J 2 = J であることに注意すれば, 帰納的に考えることによって, 任意の i ≥ 1 に対し,

(A eA + radA )i = A eA + radi A ,

(J + radA )i = J + radi A

となる (ここで考えているベキ乗は, 両側イデアルのベキ乗であることに注意)。(A.1.1)

と合わせて,

A eA + radi A = J + radi A (i ≥ 1)

を得るが, いま radA はベキ零イデアルなので, 十分大きい i に対しては, radi A = 0 となる。よって, A eA = J を得る。

(ii). あるベキ等元 e ∈ A に対し, J = A eA であるとき,

J (radA )J = A eA (radA )A eA = A e(radA )eA = A (rad eA e)A

であるので,

eA e : 半単純環⇔ rad eA e = 0 ⇔ J (radA )J = 0

を得る。(iii). “⇒” を示す。J 2 = J とすると, φ ∈ HomA (J , (A /J )) に対し,

φ(J ) = φ(J 2) ⊂ J (A /J ) = 0

なので,φ = 0 を得る。“⇐” を示す。HomA (J , (A /J )) = 0 であるとする。もし, J 2 ⫋ J ならば, 左 A -加

群 J /J 2 は, J · (J /J 2) = 0 なので, 有限生成 A /J -加群とみなせる。よって,ある自

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然数 d > 0 が存在して, A /J -加群の全射準同型

φ : (A /J )⊕d → J /J 2

が存在する。これを, 自然な全射 A → A /J を通じて A -加群の全射準同型と思う。一方で,A -加群の自然な全射準同型 ψ : J → J /J 2 を考えると, J が射影 A -加群

であることから,

(A /J )⊕dφ // J /J 2 // 0

88rrrrrrrrrrr

η

OO

が可換となるような η : J → (A /J )⊕d が存在する。pk : (A /J )⊕d → A /J (1 ≤ k ≤ d)

を k 番目の直和因子への射影とすると, ある k に対し, pk ◦ η = 0 とならなくてはいけないが, pk ◦ η ∈ HomA (J , (A /J )) なので, HomA (J , (A /J )) = 0 に矛盾する。よって,

J 2 = J を得る。(iv). 積写像 µ が (A ,A )-両側加群の準同型であることは明らか。左 A -加群 M に対し, 積写像

µM : A e⊗eA e eA ⊗A M →M, ae⊗ eb⊗m 7→ (aeb) ·m (a, b,∈ A , m ∈M)

を考えると, µM は左 A -加群の準同型となる。M = A e のとき,

ν : A e→ A e⊗eA e eA ⊗A A e, ae 7→ ae⊗ e⊗ e (a ∈ A )

は左 A -加群の準同型であり, さらに, µA e の逆写像となるので, µA e は同型写像である。よって, µM の定義より, M が A e のいくつかのコピーの直和の直和因子であるとき, µMは同型写像となる。

J = A eA に対し, ある A の有限部分集合 X が存在して, J =∑

x∈X A ex となるので, 左 A -加群の全射準同型 (A e)⊕d → J (d = |X|) を得るが, J は射影加群なので, この全射は分裂する。よって, J は (A )⊕d の直和因子となるので, µJ は同型写像である。また,

φ : eA → eA ⊗A J , ea 7→ e⊗ ea (a ∈ A ),

ψ : eA ⊗A J → eA , ea⊗ bec 7→ eabec (a, b, c ∈ A )

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はともに, (eA e,A )-両側加群の準同型であり,互いに逆写像を与えるので, φ は同型写像である。よって,

A e⊗eA e eAId⊗φ−−−→ A e⊗eA e eA ⊗A J µJ−→ J

は同型写像となるが, 定義より µ = µJ ◦ (Id⊗φ) であるので, µ は同型である。最後に, eA e が半単純環であると仮定すると, A e は右 eA e-加群として eA e のいく

つかのコピーの直和の直和因子である。一方で, 右 A -加群として, eA e ⊗eA e eA ∼= eA

であるので, eA e⊗eA e eA は右射影 A -加群であり, A e が 右 eA e-加群として eA e のいくつかのコピーの直和の直和因子であることより, J = A eA ∼= A e ⊗eA e eA は, 右A -加群として射影的である。 □

Definition A.2. A の両側イデアル J が以下の条件 (i)-(iii) を満たすとき, J を A のheredity イデアル という。

(i) J は左 A -加群として射影的である。(ii) J 2 = J である。(iii) J (radA )J = 0 である。

A の両側イデアルの列

A = J1 ⊃ J2 ⊃ · · · ⊃ Jm ⊃ Jm+1 = 0

で, 各 i に対し, Ji/Ji+1 が A /Ji+1 の heredity イデアルとなっているものが存在するとき, この列を heredity chain といい, A は quasi-hereditary 代数 であるという。

A.3. A を quasi-hereditary 代数とし,

A = J1 ⊃ J2 ⊃ · · · ⊃ Jm ⊃ Jm+1 = 0

を A の heredity chain とする。各 i に対し, Ji/Ji+1 は A /Ji+1 の heredity イデアルなので, 特に, Ji/Ji+1 は 左

A /Ji+1-加群として射影的である。そこで, Ji/Ji+1 の直和因子である直既約射影 A /Ji+1-

加群の同型類の完全代表系 (その添え字集合を Λi とおく)を

{∆(λ) |λ ∈ Λi}

とおく。ここで, ∆(λ) (λ ∈ Λi) は Ji/Ji+1 の直和因子である直既約射影加群であって, 全ての 直既約 A /Ji+1-加群を与えるわけではないことに注意しよう。また,

L(λ) := Top∆(λ) (λ ∈ Λi)

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とおく。定義より, λ, µ ∈ Λi に対し, A /Ji+1-加群として,

L(λ) ∼= L(µ) if λ = µ(A.3.1)

である。また, 定義より, A /Ji+1-加群として,

Ji/Ji+1∼=

⊕λ∈Λi

∆(λ)⊕dλ (dλ > 0), Top(Ji/Ji+1) ∼=⊕λ∈Λi

L(λ)⊕dλ(A.3.2)

となる。自然な全射 A → A /Ji+1 を通じてA /Ji+1-加群 Ji/Ji+1, ∆(λ), L(λ) (λ ∈ Λi)

を A -加群と思う。また,

Λ :=m⊔i=1

Λi

とおき, Λ 上に半順序を, λ, µ ∈ Λ に対し,

λ > µ⇔ λ ∈ Λi, µ ∈ Λj s.t. i > j

によって定める。λ ∈ Λi に対し, ∆(λ) ⊂ Ji/Ji+1 であったので, j > i に対し, Jj · Ji ⊂ Jj ⊂ Ji+1 より,

Jj ·∆(λ) = 0 (λ ∈ Λi, j > i)(A.3.3)

を得る。また, Ji/Ji+1 は A /Ji+1 の heredity イデアルなので,

Ji · rad∆(λ) ⊂ Ji/Ji+1 rad(Ji/Ji+1) = Ji/Ji+1 rad(A /Ji+1)Ji/Ji+1 = 0

となる。よって,

Ji · rad∆(λ) = 0 (λ ∈ Λi)(A.3.4)

を得る。また, ∆(λ)は Ji/Ji+1の直和因子である直既約A /Ji+1-加群なので,あるA /Ji+1

の原始ベキ等元 f が存在して∆(λ) = (A /Ji+1)f となる。このとき, L(λ) := ∆(λ)/ rad∆(λ)

における f の像を f とすると, 明らかに f = 0 であり, f · f = f 2 = f である。いま,

f ∈ ∆(λ) ⊂ Ji/Ji+1 であるので, f ∈ Ji で, Ji/Ji+1 における像が f となるものが存在し, f · f = f · f = 0 となるので,

Ji · L(λ) = 0 (λ ∈ Λi)(A.3.5)

を得る。以上の準備のもとで, 以下の Theorem を得る。

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Theorem A.4 ([CPS1, Lemma 3.4]). A を quasi-hereditary 代数とし,

A = J1 ⊃ J2 ⊃ · · · ⊃ Jm ⊃ Jm+1 = 0(A.4.1)

を A の heredity chain とする。このとき, 以下のことが成り立つ。

(i) λ, µ ∈ Λ (λ = µ) に対し, A -加群として,

L(λ) ∼= L(µ).

(ii) {L(λ) |λ ∈ Λ} は既約 A -加群の同型類の完全代表系を与える。(iii) λ, µ ∈ Λ に対し,

Top∆(λ) = L(λ) かつ [rad∆(λ) : L(µ)] = 0 ⇒ λ > µ.

(iv) λ ∈ Λ に対し, P (λ) を L(λ) の射影被覆とする。このとき, P (λ) の部分加群の列

P (λ) ⊃ K(λ) =M1 ⊃M2 ⊃ . . .Mk ⊃Mk+1 = 0

で,

P (λ)/K(λ) ∼= ∆(λ), Mi/Mi+1∼= ∆(µi) s.t. µi > λ (1 ≤ i ≤ k)

を満たすものが存在する。

Proof. (i). λ ∈ Λi, µ ∈ Λj とすると, (A.3.5) より,

Ji · L(λ) = 0, Jj · L(µ) = 0

である。一方で, (A.3.3) より,

Jj · L(λ) = 0 ⇒ j ≤ i, Ji · L(µ) = 0 ⇒ i ≤ j

である。よって, L(λ) ∼= L(µ) ならば i = j を得る。さらに, λ, µ ∈ Λi かつ λ = µ のとき,

L(λ) ∼= L(µ) であることは (A.3.1) より従う。(ii). L を既約 A -加群とし, L ∋ x = 0 を取ると, A -加群の全射準同型

φ : A → L, a 7→ a · x

が存在する。このとき, A = J1 と Jm+1 = 0 に注意すれば, ある i に対し,

Ji · L = 0 かつ Ji+1 · L = 0

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となる。このとき, Ji+1 · L = 0 より, φ は A -加群の準同型

φ : A /Ji+1 → L, a 7→ a · x = a · x (ここで, a = a+ Ji+1 ∈ A /Ji+1)

を誘導する。φ を Ji/Ji+1 に制限すると, A -加群の準同型

φi : Ji/Ji+1 → L, a 7→ a · x = a · x (ここで, a = a+ Ji+1 ∈ Ji/Ji+1)

を得るが, Ji · L = 0 であったので, φi = 0 である。(全ての a ∈ Ji に対し, a · x = 0 とすると, 任意の b ∈ A に対し, a · (bx) = ab · x = 0 (ab ∈ Ji に注意) となり, Ji · L = 0 となってしまう。) よって, L が既約であることより, φi は全射となるので, (A.3.2) より, ある λ ∈ Λi に対し, L ∼= L(λ) となる。

(iii). Top∆(λ) = L(λ) は定義である。λ ∈ Λi とする。L を rad∆(λ) の組成因子とすると, (ii) の議論によって, ある µ ∈ Λj

に対し, L ∼= L(µ) となり, このとき,

Jj · L = 0 かつ Jj+1 · L = 0

となる。一方で, λ ∈ Λi なので, (A.3.4) より,

Ji · rad∆(λ) = 0 (よって Ji · L = 0)

となるので, i > j を得る。よって, Λ 上の半順序の定義より, λ > µ を得る。(iv). λ ∈ Λi とする。P (λ)が射影 A -加群であることに注意して, A の heredity chain

(A.4.1) に完全関手 −⊗A P (λ) を施すと, P (λ) の A -部分加群の列

P (λ) = N1 ⊃ N2 ⊃ · · · ⊃ Nm ⊃ Nm+1 = 0 s.t. Nj/Nj+1∼= (Jj/Jj+1)⊗A P (λ)

を得る (ここで Nj := Jj⊗A P (λ)である)。左 A -加群として, (Jj/Jj+1)⊗A A ∼= Jj/Jj+1

であり, P (λ) は A の直和因子であるので, 左 A -加群として,

(Jj/Jj+1)⊗A P (λ) はJj/Jj+1 の直和因子

である。一方で, (A.3.2) より, 左 A -加群として, Jj/Jj+1∼=

⊕µ∈Λj

∆(µ)⊕dµ であり, 各∆(µ) は直既約加群であるので, 左 A -加群として,

Nj/Nj+1∼= (Jj/Jj+1)⊗A P (λ) ∼=

⊕µ∈Λj

∆(µ)⊕d′µ (0 ≤ d′µ ≤ dµ)(A.4.2)

となる。i′ を Nj/Nj+1 = 0 となる j の中で最小のものとする。このとき,

P (λ) = N1 = N2 = · · · = Ni′ ⫌ Ni′+1 ⊃ · · · ⊃ Nm ⊃ Nm+1 = 0

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となり, (A.4.2) より,

P (λ)/Ni′+1 = Ni′/Ni′+1∼=

⊕µ∈Λi′

∆(µ)⊕d′µ (d′µ = 0 for some µ ∈ Λi′)

となるので,⊕

µ∈Λi′L(µ)⊕d

′µ は TopP (λ) の直和因子となるが, P (λ) は L(λ) の射影被覆

であるので, TopP (λ) = L(λ) である。よって, i′ = i であり, Ni/Ni+1∼= ∆(λ) となる。以

上より, P (λ) = Ni であり, K(λ) := Ni+1 とおくと,

P (λ) ⊃ K(λ) = Ni+1 ⊃ Ni+2 ⊃ . . . Nm ⊃ Nm+1 = 0

であり,

P (λ)/K(λ) ∼= ∆(λ), Ni+j/Ni+j+1∼=

⊕µ∈Λi+j

∆(µ)⊕d′µ (1 ≤ j ≤ m− i)

となるので, K(λ) の部分加群の列K(λ) = Ni+1 ⊃ Ni+2 ⊃ . . . Nm ⊃ Nm+1 = 0 を適当に細分化すれば, (iv) を得る。 □

Remark A.5. Theorem A.4 より, A が quasi-hereditary 代数であるならば, A -mod は最高ウェイト加群となる。逆に, A -mod が最高ウェイト加群となるならば, A が quasi-

hereditary 代数となることも知られている ([CPS1, Theorem 3.6])。

quasi-hereditary 代数 A の heredity イデアルに対し, 以下のことが成り立つ。

Proposition A.6 (cf. [UY, Lemma 1.2, Proposition 1.3]). A は quasi-hereditary 代数であるとする。また, J = A eA (e ∈ A はベキ等元) を A の heredity ideal とする。e = e1 + · · · + en を互いに直交する原始ベキ等元への分解とする。また, {ei | i ∈ I} を{ei | 1 ≤ i ≤ n} 上の同値関係 (ei と ej が同値 ⇔ A ei ∼= A ej) における完全代表系とする。さらに,

J(i) := A eiA (1 ≤ i ≤ n)

とおく。このとき, 以下のことが成り立つ。

(i) J は左 A -加群として,

J ∼=⊕j∈I

(A ej)⊕dj (dj > 0)

となる。

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(ii) 各 i = 1, . . . , n に対し,

HomA (A ei, rad(A ei)) = 0.

(iii) 1 ≤ i, j ≤ n に対し,

HomA (A ei, A ej) = 0 if A ei ∼= A ej

(iv) 各 i = 1, . . . , n に対し,

J(i)(radA )J(i) = 0.

(v) 各 i ∈ I に対し, J(i) は左 A -加群として射影的である。さらに, 左 A -加群として,

J(i)∼= (A ei)

⊕di

となる。ここでdiは (i)における J の直和因子として現れる A ei の重複度である。(vi) (A ,A )-両側加群として,

J =⊕i∈I

J(i)

となる。(vii) e =

∑i∈I ei とおけば,

J = A eA

となる。特に, A の heredity イデアルは, A の両側イデアルとして, basic であるベキ等元によって生成される。

(viii) J(i) := A eiA (i ∈ I) は A の heredity イデアルである。また, J /J(i) は A /J(i)

の heredity イデアルである。

Proof. (i). J は有限次元なので, J = A eA より, ある A の有限部分集合 X が存在して, J =

∑x∈X A ex となる (i.e. 左 A -加群として J は {ex |x ∈ X} によって生成され

る)。そこで, x ∈ X に対し, 左 A -加群の準同型

φx : A e→ J s.t. φx(e) = ex

を考えると, 左 A -加群の全射準同型写像⊕x∈X

φx : (A e)⊕|X| → J

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を得るが, J が射影加群であることから,この全射準同型は分裂する。よって, J は (A e)⊕|X|

の直和因子となる。各 j = 1, . . . , k に対し, 左 A -加群として, A ej ⊂ A e ⊂ A eA = Jであるので,

J ∼=⊕j∈I

(A ej)⊕dj (dj > 0)

となる。(ii) と (iii). A が quasi-hereditary 代数で, J が A の heredity ideal であることか

ら, (i) より, 各 i に対し, A ei ∼= ∆(λi) (よって, TopA ei ∼= L(λi)) となる λi ∈ Λ が存在する (A ei ∼= A ej ならば, λi = λj である)。また, Λ 上の半順序の定義より, 各 i, j ∈ I

(i = j) に対し, λi と λj の間には順序関係がない。よって, Theorem A.4 (iii) より,

HomA (A ei, radA ei) ∼= HomA (A ei, rad∆(λi)) = 0,

HomA (A ei,A ej) ∼= HomA (A ei,∆(λj)) = 0 if A ei ∼= A ej

を得る。(iv). f = e− ei とおけば, e = ei + f となり, ei と f は互いに直交するベキ等元であ

る。特に, eei = ei, ef = f となるので, J(i) := A eiA , J(f) := A fA とおけば,

J(i) = A eiA = A eeiA ⊂ A eA = J , J(f) = A fA = A efA ⊂ A eA = J(A.6.1)

となるので, J(i) + J(f) ⊂ J である。逆に,

J = A eA = A (ei + f)A ⊂ A eiA + A fA = J(i) + J(f)

であるので,J = J(i) + J(f) を得る。よって, J が A の heredity イデアルであることと併せて,

0 = J (radA )J= (J(i) + J(f))(radA )(J(i) + J(f))

= J(i)(radA )J(i) + J(f)(radA )J(i) + J(i)(radA )J(f) + J(f)(radA )J(f)

となるので,J(i)(radA )J(i) = 0 を得る。(v). i ∈ I に対し, J(i) = A eiA だったので, (i) と同じ議論により, ある自然数 g > 0

に対し, 左 A -加群の全射準同型写像

ψ : (A ei)⊕g → J(i)

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が存在する。s = 1, . . . , g に対し,

ιs : A ei → (A ei)⊕g

を (A ei)⊕g の s 番目の直和因子への自然な入射とする。また, (A.6.1) より, J(i) は J の

左部分 A -加群なので,

ι(i) : J(i) → J

を自然な埋め込みとする。また, (k, t) (k ∈ I, t = 1, . . . , dk) に対し,

p(k,t) :⊕j∈I

(A ej)⊕dj → A ek

を (A ek)⊕dk の t 番目の直和因子への射影とする。このとき, 合成写像

Φ(s)(k,t) : A ei

ιs−→ (A ei)⊕g ψ−→ J(i)

ι−→ J ∼=⊕j∈I

(A ej)⊕dj p(k,t)−−−→ A ek

を考えると, Φ(s)(k,t) ∈ HomA (A ei, A ek) となる。よって, (ii), (iii) より,

Φ(s)(i,k) : 同型写像 or 0-写像, Φ

(s)(k,t) = 0 if i = k

となる。よって, Φ(s)(k,t) (1 ≤ s ≤ g, k ∈ I, 1 ≤ t ≤ dk) の定義より, J(i) は左 A -加群とし

て (A ei)⊕di の直和因子と同型である。よって, J(i) は左 A -加群として射影的である。

J の (A ,A )-両側商加群 J /J(i) を考えると, eiA eA ⊂ A eiA なので,

HomA (A ei, J /J(i)) ∼= ei · (J /J(i))

= (eiA eA )/(A eiA )

= 0

となるので, J /J(i) は左 A -加群として, L(λi) = TopA ei を組成因子として含まない。よって, J(i) が (A ei)

⊕di の直和因子と同型であったことと (i) より, J /J(i) が L(λi) を組成因子として含まないためには, 左 A -加群として,

J(i)∼= (A ei)

⊕di

とならなければならない。

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(vi). 各 i = 1, . . . , n に対し, (A.6.1) より, J(i) ⊂ J であった。一方で,

J = A eA = A (e1 + · · ·+ en)A ⊂n∑i=1

A eiA =n∑i=1

J(i)

であったので, J =∑n

i=1 J(i) を得る。このことと, (i), 及び, (v) より,

J =⊕i∈I

J(i)

となる。ここで, A ei ∼= A ei′ (1 ≤ i, i′ ≤ n) ならば, J(i) = J(i′) となることも暗に示されていることに注意しよう。

(vii). e = ee であることに注意すれば,

A eA = A eeA ⊂ A eA = J

である。同様に,各 i ∈ I に対し, eei = ei であるので, J(i) = A eiA ⊂ A eA であるので,

∑i∈I J(i) ⊂ A eA である。よって, (iv) より,

J =⊕i∈I

J(i) ⊂ A eA ⊂ A eA = J

となるので, J = A eA を得る。(viii). Lemma A.1 (i), 及び, この Proposition の (iv), (v) より, J(i) (i ∈ I) は A の

heredity イデアルである。また, (vi) に注意すれば, J /J(i) が A /J(i) の heredity イデアルとなることも分かる。 □

Theorem A.4 と Proposition A.6 の Corollary として以下を得る。

Corollary A.7. A を quasi-hereditary 代数とし,

A = J1 ⊃ J2 ⊃ · · · ⊃ Jm ⊃ Jm+1 = 0(A.7.1)

を A の heredity chain とする。このとき,以下のことが成り立つ。

(i) 一般に,

m =: (heredity chain の長さ) ≤ ♯{既約 A -加群 }/∼=

が成り立つ。さらに, (heredity chain の長さ) < {既約 A -加群 }/∼= であるようなheredity chain は, (heredity chain の長さ) = {既約 A -加群 }/∼= となる heredity

chain に細分化することができる。

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(ii) A の heredity chain (A.7.1)の長さは最大 (i.e. m = ♯{既約 A -加群 }/∼=) であるとする。このとき, 各 i に対し, A /Ji+1 の原始ベキ等元 ei が存在して, Ji/Ji+1 =

(A /Ji+1)ei(A /Ji+1) となる。(iii) A の heredity chain (A.7.1)の長さは最大であるとする。このとき,

∆i := (A /Ji+1)ei, ∆♯i := ei(A /Ji+1) ⊂ Ji/Ji+1

とおくと (ei は (ii) における A /Ji+1 の原始ベキ等元), Ji/Ji+1 に含まれる直既約左 (resp. 右) 射影 A /Ji+1-加群は, ∆i (resp. ∆

♯i) と同型である。また, 積写像

∆i ⊗ei(A /Ji+1)ei ∆♯i → Ji/Ji+1, aei ⊗ eib 7→ aeib (a, b ∈ A /Ji+1)(A.7.2)

は (A ,A )-両側加群の同型写像を与える。さらに, F が代数的閉体であるとき (実際には EndA (∆i) ∼= F となればよい),

F-代数として, ei(A /Ji+1)ei ∼= F となる。よって, 積写像

∆i ⊗F ∆♯i → Ji/Ji+1, aei ⊗ eib 7→ aeib (a, b ∈ A /Ji+1)

は (A ,A )-両側加群の同型写像を与える。

Proof. (heredity chain の長さ) ≤ ♯{既約 A -加群 }/∼= となることは, Theorem A.4 (ii) より分かる。一方で, Proposition A.6 (viii) を繰り返し用いることによって, 与えられた A の

heredity chain を細分化することができ, 各 A /Ji+1 の heredity イデアル Ji/Ji+1 に対し, A /Ji+1 の原始ベキ等元 ei が存在して, Ji/Ji+1 = (A /Ji+1)ei(A /Ji+1) となるようにできる。このとき, Proposition A.6 (i) より, 左 A /Ji+1-加群として

Ji/Ji+1∼=

((A /Ji+1)ei

)⊕di = ∆⊕dii (di > 0)(A.7.3)

となるので,Theorem A.4 (ii) (及び, Λ の定義) より,

(heredity chain の長さ) = ♯{既約 A -加群 }/∼=

となる。また, この議論より, heredity chainの長さが最大であるとき, (ii)が成り立つことも分かる。((ii) が成り立たなければ, Proposition A.6 (viii) より, より長い heredity chain

に細分化される。)

また, heredity chain の長さが最大のとき, (A.7.3) より, Ji/Ji+1 に含まれる直既約左射影 A /Ji+1-加群は ∆i と同型である。右加群についても同様である。さらに, 積写像 (A.7.2) が (A ,A )-両側加群の同型写像を与えることは, Lemma A.1

(iv) より従う。

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最後に, Proposition A.6 (ii) に注意すれば,

ei(A /Ji+1)ei ∼= EndA /Ji+1

((A /Ji+1)ei

)∼= EndA /Ji+1

(Top(A /Ji+1)ei

)となるので, F が代数的閉体であるとき, Schur の補題より, ei(A /Ji+1)ei ∼= F となる。(実際には, ei(A /Ji+1)ei ∼= EndA /Ji+1

(∆i) ∼= EndA (∆i) なので, EndA (∆i) ∼= F が成り立てば十分である。) □

quasi-hereditary 代数の大域次元に関して, 以下のことが知られている。

Theorem A.8 ([PS, Theorem 4.3], [CPS2, Theorem 3.6], [DR1]).

A を quasi-hereditary 代数とし,

A = J1 ⊃ J2 ⊃ · · · ⊃ Jm ⊃ Jm+1 = 0

を A の heredity chain とする。このとき, A の大域次元 gl.dimA は,

gl.dimA ≤ 2m− 2

をみたす。特に quasi-hereditary 代数の大域次元は有限である。

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Appendix B. 一般の有限次元代数から眺めてみると‥

B.1. この節では, A を体 F 上の有限次元代数とし, 以下の条件 (⋆) をみたすと仮定する。

(⋆) 左 A -加群の族 {∆i | 1 ≤ i ≤ m} と 右 A -加群の族 {∆♯i | 1 ≤ i ≤ m} が存在し,

さらに, A の両側イデアルの列

A = J1 ⊃ J2 ⊃ · · · ⊃ Jm ⊃ Jm+1 = 0(B.1.1)

で, 各 i に対し, (A ,A )-両側加群として

Ji/Ji+1∼= ∆i ⊗F ∆

♯i(B.1.2)

となるものが存在する。

F が代数的閉体のときには, F 上の任意の有限次元代数が条件 (⋆) をみたすことが, 以下のようにして分かる。

Proposition B.2. F が代数的閉体であるとき,F 上の有限次元代数 A に対し, 条件 (⋆)

をみたす左 (resp. 右) A -加群の族 {∆i | 1 ≤ i ≤ m} (resp. {∆♯i | 1 ≤ i ≤ m})と, A の両

側イデアルの列A = J1 ⊃ J2 ⊃ · · · ⊃ Jm ⊃ Jm+1 = 0 が存在する。

Proof. A は有限次元代数なので, ある n ≥ 0 で radn−1 A = 0 かつ radn A = 0 となるものが存在する。そこで,

B := EndA opp

( n⊕i=1

(A / radi A ))

とおくと, [DR2] より, B は quasi-hereditary 代数となる (この B のことを, A のAuslander-Dlab-Ringel 代数という)。そこで,

B = J1 ⊃ J2 ⊃ · · · ⊃ Jm ⊃ Jm+1 = 0(B.2.1)

を B の長さが最大である heredity chain とし, 各 i に対し,

∆i := (B/Ji+1)ei, ∆♯i := ei(B/Ji+1) ⊂ Ji/Ji+1 = (B/Ji+1)ei(B/Ji+1)

(ei は B/Ji+1 の原始ベキ等元)

とおくと, Corollary A.7 (iii) より, (B,B)-両側加群として

Ji/Ji+1∼= ∆i ⊗F ∆

♯i(B.2.2)

となる。

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e ∈ EndA opp

(⊕ni=1(A / radi A )

)を A / radn A = A への射影とすれば,明らかに

eBe ∼= A であり, 各 i に対し,

Ji := eJie, ∆i := e · ∆i, ∆♯i := ∆♯

i · e

とおけば, (B.2.1), (B.2.2) より, A の両側イデアルの列

A ∼= eBe = J1 ⊃ J2 ⊃ · · · ⊃ Jm ⊃ Jm+1 = 0

で, 各 i に対し, (A ,A )-両側加群として

Ji/Ji+1∼= ∆i ⊗F ∆

♯i

となるものが得られる。 □

Remark B.3. F 上の有限次元代数 A が与えられたとき, 条件 (⋆) をみたすような左(右) A -加群の族や, A の両側イデアルの列は一意的とは限らない。

F-代数 A が条件 (⋆) をみたすとき, A は [DuRu] の意味での standardly based 代数となる。この設定における表現論が [DuRu] で扱われている。

次の Lemma は, 条件 (⋆) をみたす一般の有限次元代数と, quasi-hereditary 代数との違いの1つの見方を与える。

Lemma B.4 (cf. [KX1, Proposition 4.1]). A を体 F 上の有限次元代数とし, J を A の両側イデアルとする。さらに, ある左 A -加群 ∆ と 右 A -加群 ∆♯ が存在して, (A ,A )-

両側加群として,

J ∼= ∆⊗F ∆♯(B.4.1)

であるとする。このとき, 以下の (i), (ii) のいずれかが必ず成り立つ。(i) J 2 = 0 である。(ii) ある原始ベキ等元 e ∈ A が存在して J = A eA となる。さらに, 積写像

A e⊗F eA → A eA , ae⊗ eb 7→ aeb (a, b ∈ A )

は (A ,A )-両側加群としての同型を与え,

∆ ∼= A e as left A -modules, ∆♯ ∼= eA as right A -modules

となる。また, F-代数として

eA e ∼= F

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となる。特に, J は A の heredity イデアルである。

Proof. {ct | t ∈ T } を ∆ の基底とし, {c♯u | u ∈ T ♯} を ∆♯ の基底とする。(A ,A )-両側加群の同型写像

α : ∆⊗F ∆♯ → J

における ct ⊗ c♯u (t ∈ T , u ∈ T ♯) の像を ctu と表すと, {ctu | t ∈ T , u ∈ T ♯} は J の基底を与える。このとき, s, t ∈ T , u, v ∈ T ♯ に対し,

csuctv = csu · α(ct ⊗ cv) = α(csu · ct ⊗ cv) = α(∑t′∈T

rt′ct′ ⊗ cv) =∑t′∈T

rt′ct′v (rt′ ∈ F),

csuctv = α(cs ⊗ cu) · ctv = α(cs ⊗ cu · ctv) = α(cs ⊗∑u′∈T ♯

r♯u′cu′) =∑u′∈T ♯

r♯u′csu′ (ru′ ∈ F)

となるので, {ctu | t ∈ T , u ∈ T ♯} が J の基底であることに注意すれば,

csuctv =∑t′∈T

rt′ct′v =∑u′∈T ♯

r♯u′csu′ = rutcsv (rut = rs = r♯v)(B.4.2)

となる。ここで, rt′ は ctv の v の取り方に依らずに決まり, r♯u′ は csu の s の取り方に依らずに決まることに注意すれば, rut = rs = r♯v は csuctv の s, v の取り方に依らず, t, u のみによって決まることが分かる。

{ctu | t ∈ T , u ∈ T ♯} が J の基底であることと, (B.4.2) の rut ∈ F が csuctv の s, v の取り方に依らずに, u, t のみによって決まることから,

J 2 = 0 ⇔ ctuctu = 0 for all t ∈ T , u ∈ T ♯(B.4.3)

を得る (ctuctu = 0 ⇒ rut = 0 ⇒ csuctv = 0 (s ∈ T , v ∈ T ♯) となることに注意)。J 2 = 0 であると仮定する。このとき, (B.4.3), (B.4.2) より, ある t ∈ T , u ∈ T ♯ が存

在して,

ctuctu = rutctu (rut = 0)

となり,

(r−1ut ctu)

2 = (r−1ut )

2ctuctu = r−1ut ctu

となるので, J はベキ等元 r−1ut ctu を含む。ベキ等元 r−1

ut ctu を互いに直交する原始ベキ等元の和に分解し, その和に現れる原始ベキ等元の1つを e とおくと, (r−1

ut ctu)e = e となるので, e ∈ J である。

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左 A -加群として, J は

J = J 1A = J e⊕ J (1A − e) = A e⊕ J (1A − e)

と分解する (e ∈ J より A e ⊂ J e に注意) ので, 直既約射影加群 A e は J の直和因子である。一方で, (A ,A )-両側加群としての同型 (B.4.1) より, 左 A -加群として

J ∼= ∆⊗F ∆♯ ∼= ∆⊕|T ♯| (|T ♯| = dimF ∆

♯ に注意)(B.4.4)

であるので, A e が J の直既約である直和因子であることに注意すれば, ある ∆ の A -

部分加群 M が存在して, 左 A -加群として,

∆ ∼= A e⊕M(B.4.5)

となる。よって, (B.4.4) より, 左 A -加群として

J ∼= (A e)⊕|T ♯| ⊕M⊕|T ♯|

となる。これより,

(A e)⊕|T ♯| ⊂∑

φ∈HomA (A e,J )

Imφ

とみなせる。一方で,任意の a ∈ A に対し, ψa : A e→ A (xe 7→ xea)は左 A -加群の準同型となり,逆に ψ ∈ HomA (A e,A )ならば, ψ(ae) = aeψ(e)となる (よって, Imψ ⊂ A eA

となる)ことに注意すれば,∑

ψ∈HomA (A e,A ) Imψ = A eA となるので,

(A e)⊕|T ♯| ⊂∑

φ∈HomA (A e,J )

Imφ ⊂∑

ψ∈HomA (A e,A )

Imψ = A eA(B.4.6)

を得る。また, 積写像

A e⊗F eA → A eA , ae⊗ eb 7→ aeb (a, b ∈ A )(B.4.7)

は (A ,A )-両側加群の全射準同型である。(B.4.6), (B.4.7) より,

|T ♯| dimF(A e) ≤ dimF A eA ≤ dimF(A e) dimF(eA )(B.4.8)

を得る。また, eA は右直既約射影 A -加群であるので, A e の場合と同様な議論で, ∆♯ のある右 A -部分加群 M ♯ が存在して, 右 A -加群として,

∆♯ ∼= eA ⊕M ♯(B.4.9)

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となる。特に dimF(eA ) ≤ dimF∆♯ = |T ♯| となるので, (B.4.8) より,

|T ♯| dimF(A e) ≤ dimF A eA ≤ dimF(A e) dimF(eA ) ≤ |T ♯| dimF(A e)

となり,

dimF A eA = dimF(A e) dimF(eA ),(B.4.10)

dimF(eA ) = |T ♯| = dimF ∆♯(B.4.11)

を得る。左右をひっくり返して同様な議論をすれば,

dimF(A e) = |T | = dimF∆(B.4.12)

を得る。(B.4.5), (B.4.9), (B.4.11), (B.4.12) より,

∆ ∼= A e as left A -modules, ∆♯ ∼= eA as right A -modules

となるので, (B.4.1) より, (A ,A )-両側加群として,

A e⊗F eA ∼= J

となる。また, (B.4.10)より,積写像 (B.4.7)は (A ,A )-両側加群の同型写像となる。よって,

A e⊗F eA ∼= A eA ⊂ J ∼= A e⊗F eA

となるので, A eA = J を得る。さらに, A e⊗F eA ∼= A eA より,

eA e⊗F eA e = e(A e⊗F eA )e ∼= e(A eA )e ⊂ eA e

となるので, dimF(eA e) dimF(eA e) ≤ dimF eA e となり, dimF(ηA e) = 1 を得る。よって, eA e ∼= F である。最後に, J 2 = 0 とすると, ある原始ベキ等元 e ∈ A が存在して, J = A eA となった

ので, Lemma A.1 (i) より, J 2 = J である。このとき, 左 A -加群として,

J = A eA ∼= A ⊗F eA ∼= (A e)⊕ dimF eA

となるので, J は左射影 A -加群である。さらに, eA e ∼= F (特に, eA e は半単純) であるので, Lemma A.1 (ii) より, J (radA )J = 0 となる。よって, J は A の heredity イデアルである。 □

Lemma B.4 をふまえて, 条件 (⋆) のもとで, quasi-hereditary 代数や cellular 代数を以下のように捉えることができる。

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Proposition B.5. 体 F 上の有限次元代数 A が条件 (⋆) をみたすとする。このとき, 以下のことが成り立つ。

(i) 各 i に対し, A /Ji+1 の両側イデアル Ji/Ji+1 は以下の (a), (b) のいずれかをみたす。(a) (Ji/Ji+1)

2 = 0 である。(b) Ji/Ji+1 は A /Ji+1 の heredity イデアルである。

(ii) 以下の (a) と (b) とは同値である。(a) A の両側イデアルの列 (B.1.1) が heredity chain である(b) 全ての i に対し, (Ji/Ji+1)

2 = 0 である。(iii) 以下の (a) と (b) とは同値である。

(a) A の両側イデアルの列 (B.1.1) が {∆i | 1 ≤ i ≤ m} を A の左 cell 加群とする cell chain である

(b) 各 i に対し, ある A /Ji+1 の左イデアル ∆′i ⊂ Ji/Ji+1 が存在し, A の反自

己同型 ι で,

ι2 = IdA , ι(Ji) = Ji, ∆i∼= ∆′

i, ∆♯i∼= ι(∆′

i) (1 ≤ i ≤ m)

をみたし, さらに図式

∆′i ⊗F ι(∆

′i)

∼=(B.1.2)

//

x⊗ι(y) 7→y⊗ι(x)��

Ji/Ji+1

ι

��∆′i ⊗F ι(∆

′i)

∼=(B.1.2)

// Ji/Ji+1

を可換にするものが存在する。

Proof. (i) は, Lemma B.4 を各 i に対し適用すればよい。(ii) は, heredity イデアルはベキ等元を含むので, ベキ零にはならないことに注意すれ

ば, (i) より従う。(iii) は cellula 代数 (cell chain) の定義 Definition 1.5 より明らかである。 □

B.6. 体 F 上の有限次元代数 A の表現を, 条件 (⋆) のもとで考えてみよう。まず,

Λ = {1, 2, . . . ,m}

とおき, Λ 上の自然な順序を考える。i ∈ Λ に対し, (A ,A )-両側加群として∆i ⊗F ∆♯i∼=

Ji/Ji+1 であったので,

Jj ·∆i = 0 (i, j ∈ Λ s.t. j > i)(B.6.1)

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を得る。また,

Λ0 := {i ∈ Λ | (Ji/Ji+1)2 = 0}

とおくと, 再び ∆i ⊗F ∆♯i∼= Ji/Ji+1 に注意すれば, Λ0 の定義より,

Ji ·∆i = 0 (i ∈ Λ \ Λ0)(B.6.2)

を得る。i ∈ Λ0 とすると, Lemma B.4.1 より, Ji/Ji+1 は A /Ji+1 の heredity イデアルで

あり, ある A /Ji+1 の原始ベキ等元 ei ∈ A /Ji+1 が存在して, 左 A /Ji+1-加群として,

∆i∼= (A /Ji+1)ei となる。特に, ∆i は直既約射影 A /Ji+1-加群なので,rad∆i はただ1

つの ∆i の極大部分加群である。そこで,

Li := ∆i/ rad∆i (i ∈ Λ0)

とおく。以下, 自然な全射 A → A /Ji+1 を通じて A /Ji+1-加群を A -加群と思う。明らかに, Li (i ∈ Λ0) は既約 A -加群である。Ji/Ji+1 が A /Ji+1 の heredity イデアルであることに注意すると,

Ji · rad∆i ⊂ Ji/Ji+1 rad(Ji/Ji+1) = Ji/Ji+1 rad(A /Ji+1)Ji/Ji+1 = 0

となるので (ここで, (B.1.2) によって, ∆i を Ji/Ji+1 に含まれるA /Ji+1 の左イデアルと考えている),

Ji · rad∆i = 0 (i ∈ Λ0)(B.6.3)

を得る。また, ∆i∼= (A /Ji+1)ei のもとで, Li = ∆i/ rad∆i における ei の像を ei とおく

と, 明らかに ei = 0 (Li = A · eiとなることに注意) であり, ei · ei = e2i = ei である。また, ei ∈ Ji/Ji+1 であるので, ei ∈ Ji で, Ji/Ji+1 における像が ei となるものが存在し,

ei · ei = ei · ei = 0 となるので,

Ji · Li = 0 (i ∈ Λ0)(B.6.4)

を得る。以上の準備のもとで, 以下の Theorem を得る。

Theorem B.7 (cf. [DuRu, Theorem 2.4.1, Proposition 2.4.4]). 体 F 上の有限次元代数A が条件 (⋆) をみたすとする。このとき, 以下のことが成り立つ。

(i) i, j ∈ Λ0 (i = j) に対し, A -加群として

Li ∼= Lj.

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(ii) {Li | i ∈ Λ0} は既約 A -加群の同型類の完全代表系を与える。(iii) i ∈ Λ, j ∈ Λ0 に対し,

[∆i : Lj] = 0 ⇒ i ≥ j

である。さらに, i ∈ Λ0 であるとき,

Li = ∆i/ rad∆i かつ [rad∆i : Lj] = 0 ⇒ i > j

となる。(iv) i ∈ Λ0 に対し, Pi を Li の射影被覆とする。このとき, Pi の部分加群の列

Pi ⊃ Ki =M1 ⊃M2 ⊃ · · · ⊃Mk ⊃Mk+1 = 0

で,

Pi/Ki∼= ∆i, Mj/Mj+1

∼= ∆ij s.t. ij > i (1 ≤ j ≤ k)

をみたすものが存在する。

Proof. (i). i, j ∈ Λ0 (i = j) とすると, (B.6.4) より,

Ji · Li = 0, Jj · Lj = 0

である。一方で, (B.6.1) より,

Jj · Li = 0 ⇒ j ≤ i, Ji · Lj = 0 ⇒ i ≤ j

である。よって, Li ∼= Lj ならば i = j を得る。(ii). L を既約 A -加群とし, L ∋ x = 0 を取ると, A -加群の全射準同型

φ : A → L, a 7→ a · x

が存在する。このとき, ある i に対し,

Ji · L = 0 かつ Ji+1 · L = 0

となる。このとき, Ji+1 · L = 0 より, φ は A -加群の準同型

φ : A /Ji+1 → L, a 7→ a · x = a · x (ここで, a = a+ Ji+1 ∈ A /Ji+1)

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を誘導する。φ を A /Ji+1 の両側イデアル Ji/Ji+1 に制限すると, A -加群の準同型

φi : Ji/Ji+1 → L, a 7→ a · x = a · x (ここで, a = a+ Ji+1 ∈ Ji/Ji+1)

を得るが, Ji · L = 0 であったので, φi = 0 である。(全ての a ∈ Ji に対し, a · x = 0 とすると, 任意の b ∈ A に対し, a · (bx) = (ab) · x = 0 (ab ∈ Ji に注意) となり, Ji · L = 0 となってしまう。) よって, L が既約であることより, φi は全射となる。特に L は Ji/Ji+1

の商加群と同型である。もし, i ∈ Λ0 とすると, Λ0 の定義より, Ji · (Ji/Ji+1) = 0 となり,

L が Ji/Ji+1 の商加群と同型であることから, Ji · L = 0 となるが, これは i の決め方に矛盾する。よって, i ∈ Λ0 であり, (B.1.2) より, L ∼= Top∆i

∼= Li となる。(iii). L を ∆i の組成因子とすると, (ii) より, ある j ∈ Λ0 に対し, L ∼= Lj となる。こ

のとき, (B.6.4) より,

Jj · L = 0

となるが, 一方で, (B.6.1) より, Jl ·∆i = 0 (l > i) であるので,

Jj · L = 0 ⇒ Jj ·∆i = 0 ⇒ j ≤ i

となる。よって, [∆i : Lj] = 0 ⇒ i ≥ j を得る。また, i ∈ Λ0 のとき,定義より, Li = ∆i/ rad∆i である。また, (B.6.3) より,

Ji · rad∆i = 0

であるので, (B.6.1) と併せて, L が rad∆i の組成因子とすると,

Jj · L = 0 ⇒ Jj · rad∆i = 0 ⇒ j < i

を得る。よって, [rad∆i : Lj] = 0 ⇒ j < i を得る。(iv). i ∈ Λ0 に対し, Pi を Li の射影被覆とする。A の両側イデアルの列 (B.1.1) に

完全関手 −⊗A Pi を施すと, Pi のA -部分加群の列

Pi = N1 ⊃ N2 ⊃ · · · ⊃ Nm ⊃ Nm+1 = 0, where Nj = Jj ⊗A Pi (1 ≤ j ≤ m)

を得る。ここで, (B.1.2) に注意すると, 左 A -加群として,

Nj/Nj+1∼= (Jj/Jj+1)⊗A Pi ∼= ∆i ⊗F ∆

♯i ⊗A Pi ∼= ∆

⊕ dimF ∆♯i⊗A Pi

i(B.7.1)

を得る。i′ を Nj/Nj+1 = 0 となる j の中で最小のものとすると,

Pi = N1 = N2 = · · · = Ni′ ⫌ Ni′+1 ⊃ · · · ⊃ Nm ⊃ Nm+1 = 0

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となり, (B.7.1) より, Top(Ni′/Ni′+1) ∼= Top∆⊕ dimF ∆

i′⊗A Pi

i′ は TopPi の直和因子となる。よって, TopPi ∼= Li であることと (iii) に注意すれば, i′ = i であり, Pi/Ni+1 = Ni/Ni+1

∼=∆i を得る。よって, Ki := Ni+1 とおけば,

Pi ⊃ Ki = Ni+1 ⊃ Ni+2 ⊃ · · · ⊃ Nm ⊃ Nm+1 = 0,

Pi/Ki∼= ∆i, Nj/Nj+1

∼= ∆⊕ dimF ∆

♯j⊗A Pi

j (i+ 1 ≤ j ≤ m)

となるので, Ki の部分加群の列Ki = Ni+1 ⊃ Ni+2 ⊃ · · · ⊃ Nm ⊃ Nm+1 = 0 を適当に細分化すれば, (iv) を得る。 □

Remark B.8.

(i). 条件 (⋆) をみたす一般の有限次元 F-代数に関する主張 Theorem B.7 と, quasi-

herditary 代数に関する同様な主張 Theorem A.4 との違いは, Λ0 = Λ であることが要請されるかされないかである。実際に Λ0 = Λ の場合, Theorem B.7 は A -mod が最高ウェイト圏であることを主張し, よって, A は quasi-hereditary 代数となる。このことは,

Proposition B.5 (ii) の主張に対応する (Λ0 の定義に注意せよ。)

(ii). cellular 代数に対する主張 Proposition 2.4 (Theorem 2.13 の (i), (ii), (iii) ) は,

rad⟨ , ⟩∆(λ) = rad∆(λ) (λ ∈ Λ0) であることを認めれば, Theorem B.7 と等価の主張である。条件 (⋆) をみたす一般の有限次元 F-代数の表現論と cellular 代数の表現論において本質的に異なる点は, cellular 代数の構造を定める anti-involution によって従う主張Proposition 2.7 及び, それを用いて得られる主張 Proposition 2.10, Theorem 2.13 の (iv),

(vi), Proposition 2.14 などである。(直既約射影加群が ∆-filtered であることは, Theorem

B.7 の (iv) で得られるが, Proposition 2.10 ではその重複度が分解定数で与えられることを主張していて, そのために, Proposition 2.7 を用いている。)

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