7.非構造部材の被害 - Building Research Institute · 2015. 4. 22. ·...

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7-1 7.非構造部材の被害 7.1 調査概要 7.1.1 調査内容 非構造部材の地震被害調査を主に公共文教施設について行った。以下にその概要を、運動施設、福 祉施設、その他の建物の順に示す。 7.1.2 調査者 国土交通省国土技術政策総合研究所建築研究部室長 向井昭義(7/24~25) 国土交通省国土技術政策総合研究所建築研究部主任研究官 西田和生(7/24~26) 独立行政法人建築研究所構造研究グループ研究員 岩田善裕(7/25~26) 独立行政法人建築研究所建築生産研究グループ研究員 脇山善夫(7/24~26) 7.1.3 調査日程 7 月 24 日 長岡市 7 月 25 日 刈羽村,柏崎市 7 月 26 日 上越市 7.2 運動施設 7.2.1 建物 A(長岡市) 昭和 59 年 12 月竣工の公民館施設。RC 造 2 階建ての建屋と S 造平屋の体育館からなる。体育館は、 張間方向が柱・梁ともに H 形断面材のラーメン構造であり、桁行き方向が山形鋼を筋かいに用いたブ レース構造である。構造躯体に特に目立った被害は見られなかった。 非構造部材の被害としては、建屋と体育館とをつなぐドアが全開できないようになっていた。平成 16 年新潟県中越地震の際にもこのドアに同様の被害が生じたとのことである。 写真-7.1 建物 A 外観 写真-7.2 不具合が生じた扉 7.2.2 建物 B(長岡市) 昭和 54 年竣工の体育館。構造は下部が RC 造で上部が S 造の体育館で一部 2 階建てである。上部の

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7.非構造部材の被害

7.1 調査概要

7.1.1 調査内容

非構造部材の地震被害調査を主に公共文教施設について行った。以下にその概要を、運動施設、福

祉施設、その他の建物の順に示す。

7.1.2 調査者

国土交通省国土技術政策総合研究所建築研究部室長 向井昭義(7/24~25)

国土交通省国土技術政策総合研究所建築研究部主任研究官 西田和生(7/24~26)

独立行政法人建築研究所構造研究グループ研究員 岩田善裕(7/25~26)

独立行政法人建築研究所建築生産研究グループ研究員 脇山善夫(7/24~26)

7.1.3 調査日程

7月 24日 長岡市

7月 25日 刈羽村,柏崎市

7月 26日 上越市

7.2 運動施設

7.2.1 建物A(長岡市)

昭和 59 年 12 月竣工の公民館施設。RC造 2階建ての建屋と S造平屋の体育館からなる。体育館は、

張間方向が柱・梁ともにH形断面材のラーメン構造であり、桁行き方向が山形鋼を筋かいに用いたブ

レース構造である。構造躯体に特に目立った被害は見られなかった。 非構造部材の被害としては、建屋と体育館とをつなぐドアが全開できないようになっていた。平成

16年新潟県中越地震の際にもこのドアに同様の被害が生じたとのことである。

写真-7.1 建物A外観 写真-7.2 不具合が生じた扉

7.2.2 建物B(長岡市)

昭和54年竣工の体育館。構造は下部がRC造で上部がS造の体育館で一部2階建てである。上部の

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S 造は、張間方向が H 形断面材柱とラチス梁のラーメン構造であり、桁行き方向が山形鋼を筋かいに

用いたブレース構造である。アリーナの寸法は図面より約 36m×29m である。構造躯体に特に目立っ

た被害は見られなかった。

非構造部材については天井に被害が見られた。天井はせっこうボード捨て張り工法であり、中央部

が平坦な山形をしている。床から天井の最も高い部分までは実測 12m、天井懐は図面によると最も深

い所で 5m 程度である。この天井について、長さは 1.7m と 2.5m のチャンネル材がアリーナに2本落

下したとのことである。天井の平坦な部分に穴があいており、天井下地を構成する部材が脱落して天

井面を貫通したものと考えられる。アリーナ床材にはチャンネル材の断面に相当する凹みがあり、チ

ャンネル材が床面に衝突した際にできたものと考えられる。平成16年新潟県中越地震の際にも天井に

被害があったとのことである。

写真-7.3 建物B外観 写真-7.4 建物B内観

写真-7.5 落下したチャンネル材

7.2.3 建物C(長岡市)

昭和44年竣工した建物。構造は下部がSRC造で上部がS造の体育館。上部のS造は、張間方向がラ

チス柱と平面的に見て斜めに配置されたラチス梁のラーメン構造であり、桁行き方向が山形鋼を筋か

いに用いたブレース構造である。桁行方向の西側4分の3程度が体育館で、残りの部分は3階建てに

なっていて諸室がある(1階に事務室など、2階に放課後児童施設、3階に会議室)。

構造の被害としては、桁行き方向の1つの構面で筋かい交差部のガセットプレートに面外変形があ

り、また他のもう 1 つの構面で筋かいの曲げ座屈変形があった。

非構造部材の被害は体育館には見られず、諸室について天井の被害が見られた。2階の児童施設と3

階の会議室で、天井が張間方向の壁に沿って多く脱落していた。

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写真-7.6 建物C外観 写真-7.7 会議室の天井被害

7.2.4 建物D(刈羽村)

平成5年竣工の体育館。平屋建であり、構造は下部がRC造、上部がS造。張間方向は、鉄筋コンク

リート柱(下部)と鉄骨柱(上部)および鉄骨梁からなるラーメン構造である。この鉄骨柱と鉄骨梁

は、共にH形断面材である。桁行き方向は、鉄筋コンクリートラーメン構造(下部)、X形の鉄骨軸組

筋かい構造(上部)である。軸組筋かいは、円形鋼管を用いている。図面によると、アリーナ内法は

約25m×18mであり、アリーナ床面から平らな天井面まで約8m、天井懐は1m程度である。

構造に大きな被害が見られた。鋼管筋かい材の割り込みプレートでは高力ボルト接合孔欠損部で引

張破断が発生しており、X 型鋼管筋かい材中央交差部のガセットプレートは面外変形していた。鉄骨

柱脚部ではコンクリートの破壊やひび割れ、一部のアンカーボルトでは引き抜けが見られた(構造被

害の詳細は5章を参照)。

非構造部材は天井、内壁、窓ガラス、外壁に被害が見られた。天井は天井面材がほぼ全面で脱落し

ており、野縁や野縁受けの脱落も見られた。内壁では有孔合板が下地から浮いていた。ガラスはギャ

ラリー脇の窓ガラスが、ブレースのあるスパンでのみ計15枚破損していた。外壁は体育館ステージを

囲む外壁の押出成形セメント板が、破損・脱落していた。平成16年新潟県中越地震の際にも被害があ

ったとのことである。

写真-7.8 建物D外観 写真-7.9 ガラスの被害

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写真-7.10 建物D内観(パノラマ合成)

写真-7.11 天井が脱落した後の状況 写真-7.12 下地から浮いた有孔合板

7.2.5 建物E(柏崎市)

平成 5 年竣工の運動施設。50m プール、レジャープール、会議室、その他の諸室がある。構造躯体

に特に目立った被害は見られなかったものの、2階への外階段が大きく傾斜・移動していた。

非構造部材は天井に被害が見られた。50m プールで、天井面に穴があいており、天井面の段差箇所

に隙間が見られた。建物関係者によると天井面の穴から金属の細長い部材(リップ溝形鋼とのこと)

が突き出して止まっていたということである。レジャープールの天井では勾配部分のケイ酸カルシウ

ム板や建築用鋼製下地材が脱落していた。

写真-7.13 50mプールの天井にあいた穴 写真-7.14 レジャープールの勾配天井の被害

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7.2.6 建物F(上越市)

平成6年竣工の多目的施設。構造は下部がRC造、上部がS造の山形ラーメン構造で、一部3階建て

である。図面によるとアリーナ内法は約35m×28m。構造躯体に特に目立った被害は見られなかった。 非構造部材は体育館でアリーナの天井に被害が見られた。天井面は凹凸があり、床面から天井面ま

で最大で約14m、天井懐は最最大で5m程度である。仕様により天井は大きく3つの部分に分かれる。

エリア 1:建築用鋼製下地材+有孔ケイ酸カルシウム板を直張り。巻き上げられたバスケットゴー

ル直上の平面箇所と、平面箇所と他仕様の天井を区切る黒い箱状の箇所。

エリア2:建築用鋼製下地材+せっこうボード捨張り+ロックウール吸音板仕上げ。蛇腹状の部分。

エリア 3:バー材(桁行方向に T バー、張間方向にクロス T バー)の下地+グラスウールボードを

はめ込み。①②以外の勾配天井や平らな部分。

キャットウォークから天井裏を確認したところ、つりボルトを水平方向につなぐ材は天井面近くにあ

るものの、つり元までの間には見られなかった。斜めの振れ止めはほとんど見られず、水平な材と設

備用のフレームの間、水平な材同士の間、水平な材とつりボルトの間に斜めの材が部分的に見られた。

天井の各部分で脱落などの被害が見られた。エリア1ではバスケットゴールとの取り合い箇所で有

孔ケイ酸カルシウム板が破損・脱落しており、黒い箱状の箇所にエリア2の天井が衝突した時に出来

たと見られる破損箇所があった。エリア2の天井は部分的に脱落していた。エリア3の勾配箇所でグ

ラスボードが外縁を支持するバー材から外れていたものの、多くはボード中程を支持するバー材にひ

っかかって落下に至っていなかった。その他、天井面から照明器具が5個落下していた。平成16年新

潟県中越地震の際にも被害があったとのことである。

写真-7.15 建物F外観 写真-7.16 建物F内観(パノラマ合成)

写真-7.17 脱落した天井箇所 写真-7.18 脱落した様々な部材

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7.2.7 建物G(上越市)

昭和61年竣工の建物。体育館部分と事務所・武道館のある部分に分かれる。構造は、体育館部分は

下部がRC造、上部がS造の山形ラーメン構造、事務室及び武道場のある部分はRC造一部SRC造 2階

建てである。図面によるとアリーナは約38m×34m。構造躯体に特に目立った被害は見られなかった。

非構造部材の被害は体育館のアリーナの天井に見られた。天井は中央部に平坦な部分をもつM字形

であり、床面から天井面までは最大で約17mである。桁行方向Tバー、張間方向クロスTバーで組ま

れた下地に天井面材がはめ込まれている。天井面材は、黒い部分がグリッド状のメッシュ材、照明部

分が亀甲状のメッシュ材、その他はグラスウールボードである。キャットウォークから天井裏を見た

ところ、中央の勾配が急な箇所には落下防止金具があり、勾配が緩い箇所は現場で視認できなかった

ものの撮影した画像に写った範囲では落下防止金具は見られない。図面によると天井懐は最も深い所

で4m程度である。

被害としては、勾配天井部分のグラスウールボードが6枚脱落したとのことである。その内4枚は

天井の勾配が変わる箇所で脱落していた。

写真-7.19 建物G外観 写真-7.20 同建物の体育館の天井

7.2.8 建物H(上越市)

昭和63年竣工の体育館。構造はRC造、屋根がS造トラス構造の平屋建てである。図面によると、

アリーナ内法は約38m×32m。構造躯体の被害は、RC造柱の頭部(S造屋根柱脚部のベースプレート周

辺)でコンクリート剥離が見られた程度である。

非構造部材の被害は体育館のアリーナの天井に被害が見られた。アリーナの天井面はS造屋根トラ

スの梁を覆うように設けられており、桁行方向の断面は鋸歯状である。勾配天井部分は張間方向に T

バー、桁行方向にクロスTバーで組まれた下地にグラスウールボードがはめ込まれている。平坦な天

井部分は図面によると建築用鋼製下地材に化粧せっこうボードで仕上げている。床面から天井面まで

は最も高い所で約14mである。

被害としては、プロセニアムアーチ近傍のグラスウールボードが3枚落下していた。平成16年新潟

県中越地震や平成19年能登半島地震の際にも被害があったとのことである。同体育館がある地区の地

震の揺れは、今回が最も大きかったとのことである。

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写真-7.21 建物H外観 写真-7.22 グラスウールボードの脱落

写真-7.23 プロセニアムアーチ上部の天井裏

7.3 福祉施設

7.3.1 建物I(長岡市)

平成10年に当初の建物に増築を行ったコミュニティセンター。構造はS造2階建て、角形鋼管柱と

H形断面柱のラーメン構造である。構造躯体に特に目立った被害は見られなかった。

非構造部材については防火扉の開扉に支障が出ていた。被害があったのは2階に隣り合わせにある

防火扉2箇所である。これらの防火扉は増築した建物が当初の建物に接続する箇所の当初の建物側に

取り付けられており、増築部に向かって開くようになっている。この増築部の床仕上材がせり上がっ

て防火扉が開かなくなっていた(破損した床仕上材は一方の扉については調査時には取り除かれてお

り、開閉可能な状態になっていた)。図面によると仕上材がせり上がった床は増築した建物の柱から出

ている片持梁に支えられており、床仕上材のせり上がりは床が当初の建物に接している箇所のみで見

られた。

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写真-7.24 開扉に支障を来した防火扉 写真-7.25 床仕上材のせり上がり

7.3.2 建物J(長岡市)

平成元年竣工のコミュニティセンター。児童館が併設されている。構造はS造2階建て、角形鋼管

柱を用いたラーメン構造である。1階に事務室、会議室、講堂などが、2階に和室(28畳と21畳の2

室)、調理室、児童館などがある。構造躯体の被害は、一部の柱脚のコンクリート部分に亀裂や剥落が

見られた。

非構造部材の被害が建物内の各所の天井に見られた。玄関ホール吹き抜け部分の天井は四隅の柱付

近で破損して部分的に落下していた。2 階の和室では天井面の相当部分が落下した。和室の天井は中

央の格天井の部分と周辺のロの字型の部分に大きく分けられる。ロの字の天井を構成する下地材は隅

では突き付けとなっており、格天井とロの字の天井も下地材はつながっていなかった。畳面からの距

離を実測した所、天井面までは約2.8m、屋根下面までは約3.5mであった。2階の児童室では壁際部分

の天井が落下していた。調理室では天井の部材が一部落下していた。平成16年新潟県中越地震の際に

も被害があったとのことである。

写真-7.26 建物J外観 写真-7.27 吹き抜け上部の天井被害

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写真-7.28 2階和室内部被害状況(パノラマ合成)

7.3.3 建物K(長岡市)

昭和54年竣工の保育園。構造はRC造平屋である。平成12年に木造の平屋を増築している。構造躯

体に特に目立った被害は見られなかった。

非構造部材の被害としては、地震時に作動した防火扉が、平常時に納まる鋼製枠内に納まらなくな

っていた。防火扉は、当初の建物と増築部分が接続する箇所にあり、当初の建物に防火扉の扉枠が、

増築した建物への接続箇所に防火扉が平常時に納まる鋼製枠が取り付けられている。当初の建物と増

築部分の間にレベル差が出ており、外部から基礎部分で 5mm 程度のレベル差が確認された。平成 16

年新潟県中越地震の際にも被害があったとのことである。

写真-7.29 納まらなくなった防火扉 写真-7.30 増築部分の接続箇所

7.4 その他の施設

7.4.1 建物M(柏崎市)

海沿いの崖上に建つ臨海学校施設。竣工年等は不詳。構造躯体に特に目立った被害は見られなかっ

たものの、周辺地盤に崩落が見られた。

非構造部材の被害としては軒天井が脱落していた。天井は建築用鋼製下地材に天井面材を直張りし

たものである。

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写真-7.31 建物M外観 写真-7.32 脱落した軒天井

7.4.2 建物N(柏崎市)

平成6年竣工の宿泊施設。構造はS造3階建て。構造躯体に特に目立った被害は見られなかったも

のの、敷地内の海側の地面に亀裂ができたとのことである。

非構造部材の被害は、建物外部は外壁の仕上材の剥落、玄関ポーチ上部の天井の破損、外部階段の

手すりを支持するガラスの破損が見られた。建物内部の被害は3階部分に多く見られた。客室・廊下

の間仕切壁・天井が多数破損・脱落していた。受付ラウンジの吹き抜けの壁が、壁に取り付けられて

いた大きな壁飾りが脱落する際に破損・脱落したとのことである。

写真-7.33 天井や間仕切り壁が破損した客室 写真-7.34 廊下の天井の脱落

写真-7.39 手すり支持部のガラスの破損

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7.5 まとめ

中越沖地震による非構造部材の被害について、主に公共建物の現地調査を行い、運動施設、福祉施

設、その他の建物における被害状況を示した。これらの公共建物について各自治体から構造体の被害

報告がほとんどない中、非構造部材の被害は少なからず報告されている。現地調査では天井と防火扉・

ドアについて複数の被害状況を確認した。

天井の被害はこれまでの地震被害と同様に在来工法による天井とはめ込み式の天井について確認

された。被害の確認された天井の規模は、体育館のように面積が比較的広いものから、小部屋や廊下

など面積が比較的小さいものまで様々である。天井面付近を主とした被害に加えて、天井裏の下地材

が脱落したものも数例確認されており、何らかの被害が確認された建物について下地材を含めた天井

の状態を確認することが必要とされる。構造体に大きな被害が見られた建物で天井が全面的に脱落し

たものがあり、構造体に大きな被害が見られなかった建物で階によって天井の被害程度に差が見られ

たものがあった。今回の地震被害を受けて天井の耐震対策を検討するにあたっては、天井の被害を把

握するとともに、天井にそのような被害を生じさせた構造体の影響を踏まえる必要がある。

地震時の避難経路の確保の必要性については従来より指摘のある通りであり、現地調査では防火扉

やドアなどの建具に開閉支障の被害が確認された。これらの防火扉・ドアは増築などによる建物の接

続箇所に設けられたものであり、接続箇所に面する両建物の相対的な変位により開閉に支障を来して

いる。防火扉・ドアの耐震対策の検討を行うにあたっては天井同様に構造体による影響を踏まえる必

要もある。

現地調査にあたっては、災害復旧で忙しい中、文部科学省、各自治体、国土交通省北陸地方整備局

の御支援、御協力を頂いた。ここに記し謝意を表する。