3.1Gyro compass error at higher latitude2 Photo.2 Gyro compass (Anschutz type) FURUNO...

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1 3.1 高緯度におけるジャイロコンパスの誤差に関する報告 3.1 Report on the Gyrocompass error at higher latitude AZUMA Taeko 1. はじめに 船舶における方位を示すものは、主としてマグネットコ ンパスおよびジャイロコンパスがあり、通常ジャイロコン パスを運行常用いている。また、本船においてはリングレ ーザージャイロ photo.1 も設置されている。 ジャイロコンパスは、回転惰性とプレセッションの特 性を利用したものである。真の北を向くためその利用度は 高いが、緯度誤差、速度誤差、変速度誤差、動揺誤差(遠 心力)等を含む 1) ことが言われている。各誤差のうち緯度誤 差、速度誤差は、ジャイロ軸に対する地球自転の影響によ るもので、航海を行う上ではこの 2 つの誤差が指方位に大 きな影響がある。誤差は赤道に近づくほど小さく、極に近 づくほど大きくなり、特に、緯度 60°付近では 1.8 °、 70° 付近では 2.3 °の誤差があるとされている。 2 また、 SOLAS 条約においても、高緯度においてのジャイロコンパスの指 方位は誤差が大きいとされ、船舶の安全な航行のためには 適用範囲外とされている。 緯度誤差はスペリー型のジャイロコンパス特有の誤差で、 ジャイロが地球自転の方位旋回を追うために必要な水銀 (または液体)安定器のトルクの鉛直軸周りの成分が原因 であるとされている。 速度誤差は、ジャイロコンパスを装備した船が東または西 以外の針路を航行するときにおいて地球自転軸以外の軸周 りの角速度を持つために生ずる指度の誤差である。これは 速力・針路(北進か南進か)・緯度によってその値が決まり、 ジャイロコンパスの種類、型式に関係なく生じる。誤差の 値は針路が北または南の場合に最大であり、東または西の 場合と停船の場合には 0 となる。船が北方針路を持って航 行すると、ジャイロコンパスは地球自転の速度のほかに北 Photo.1 Ring leaser Gyrocompass Co.Yokokaawa Navitec CMZ-2000 方の速度を持つことになり、その合成速度はもはや東では なく北に偏した東となる。ジャイロコンパスはこの合成速 度に直角な水平方向を指すことになるから、真の北との間 にずれが生ずる。この速度誤差は緯度と針路、自船の速力 を「速度誤差表」に当てはめ、そこで得られた修正値を加 減することによって真針路を求めることができる。 3) 本船が装備しているジャイロコンパス Photo.2 Anschutz 式のコンパスであるから、緯度誤差はないものと考え、各 緯度によるジャイロコンパスの誤差は速度誤差が原因であ ると考えられる。 光の位相差によって重力変化を感知する高精度の方位測 定機器であるリングレーザージャイロは、主に軍事機器と して製作され、本船におけるリングレーザージャイロは、 軍用から潮流観測などの精密観測用機器として改造され設 置された。リングレーザージャイロはレーザーを用いてそ の周波数差または位相差から回転角速度を測る高精度の方 位測定機器である。円形や三角形の光路に、一定の波長の レーザー光を右回りと左回りの両方向に走らせ,光路が回転 すればドプラー効果で左右に周波数差生じるのでそれを検 出する。リングレーザージャイロにはリング型と光ファイ バーを巻いた型がある。リング型は周波数差を検出して回 転角速度を測り、光ファイバー型は位相差を検出して測る ものである。また、リング型はレーザー光を内部で発振す るが、光ファイバー型は外から入れる。そして、本船に装 備されたリングレーザージャイロはリング型である。リン グ型は一辺 10 ㎝ほどの三角形のものが慣性基準システム IRS)に組み込まれ、 INS のセンサーは機体に直接ストラ ップダウン方式によって取り付けられ,角速度や加速度計の 入力を計算機で処理して、機体座標から地球座標に変換で きる。 4 データとして、方位信号(精度 1/1000 度)、方位 角・ピッチ角・ロール角、方位角レート・ピッチ角レート・ ロール角レート、東西速度・南北速度・上下速度・船首速 度・正横速度、および計算緯度が出力される。

Transcript of 3.1Gyro compass error at higher latitude2 Photo.2 Gyro compass (Anschutz type) FURUNO...

  • 1

    3.1 高緯度におけるジャイロコンパスの誤差に関する報告

    3.1 Report on the Gyrocompass error at higher latitude

    AZUMA Taeko

    1. はじめに

    船舶における方位を示すものは、主としてマグネットコ

    ンパスおよびジャイロコンパスがあり、通常ジャイロコン

    パスを運行常用いている。また、本船においてはリングレ

    ーザージャイロ photo.1も設置されている。

    ジャイロコンパスは、回転惰性とプレセッションの特

    性を利用したものである。真の北を向くためその利用度は

    高いが、緯度誤差、速度誤差、変速度誤差、動揺誤差(遠

    心力)等を含む 1)ことが言われている。各誤差のうち緯度誤

    差、速度誤差は、ジャイロ軸に対する地球自転の影響によ

    るもので、航海を行う上ではこの 2 つの誤差が指方位に大

    きな影響がある。誤差は赤道に近づくほど小さく、極に近

    づくほど大きくなり、特に、緯度 60°付近では 1.8°、70°

    付近では 2.3°の誤差があるとされている。2)また、SOLAS

    条約においても、高緯度においてのジャイロコンパスの指

    方位は誤差が大きいとされ、船舶の安全な航行のためには

    適用範囲外とされている。

    緯度誤差はスペリー型のジャイロコンパス特有の誤差で、

    ジャイロが地球自転の方位旋回を追うために必要な水銀

    (または液体)安定器のトルクの鉛直軸周りの成分が原因

    であるとされている。

    速度誤差は、ジャイロコンパスを装備した船が東または西

    以外の針路を航行するときにおいて地球自転軸以外の軸周

    りの角速度を持つために生ずる指度の誤差である。これは

    速力・針路(北進か南進か)・緯度によってその値が決まり、

    ジャイロコンパスの種類、型式に関係なく生じる。誤差の

    値は針路が北または南の場合に最大であり、東または西の

    場合と停船の場合には 0 となる。船が北方針路を持って航

    行すると、ジャイロコンパスは地球自転の速度のほかに北

    Photo.1 Ring leaser Gyrocompass

    Co.Yokokaawa Navitec CMZ-2000

    方の速度を持つことになり、その合成速度はもはや東では

    なく北に偏した東となる。ジャイロコンパスはこの合成速

    度に直角な水平方向を指すことになるから、真の北との間

    にずれが生ずる。この速度誤差は緯度と針路、自船の速力

    を「速度誤差表」に当てはめ、そこで得られた修正値を加

    減することによって真針路を求めることができる。3)

    本船が装備しているジャイロコンパス Photo.2は Anschutz

    式のコンパスであるから、緯度誤差はないものと考え、各

    緯度によるジャイロコンパスの誤差は速度誤差が原因であ

    ると考えられる。

    光の位相差によって重力変化を感知する高精度の方位測

    定機器であるリングレーザージャイロは、主に軍事機器と

    して製作され、本船におけるリングレーザージャイロは、

    軍用から潮流観測などの精密観測用機器として改造され設

    置された。リングレーザージャイロはレーザーを用いてそ

    の周波数差または位相差から回転角速度を測る高精度の方

    位測定機器である。円形や三角形の光路に、一定の波長の

    レーザー光を右回りと左回りの両方向に走らせ,光路が回転

    すればドプラー効果で左右に周波数差生じるのでそれを検

    出する。リングレーザージャイロにはリング型と光ファイ

    バーを巻いた型がある。リング型は周波数差を検出して回

    転角速度を測り、光ファイバー型は位相差を検出して測る

    ものである。また、リング型はレーザー光を内部で発振す

    るが、光ファイバー型は外から入れる。そして、本船に装

    備されたリングレーザージャイロはリング型である。リン

    グ型は一辺 10 ㎝ほどの三角形のものが慣性基準システム

    (IRS)に組み込まれ、INS のセンサーは機体に直接ストラ

    ップダウン方式によって取り付けられ,角速度や加速度計の

    入力を計算機で処理して、機体座標から地球座標に変換で

    きる。4)データとして、方位信号(精度 1/1000 度)、方位

    角・ピッチ角・ロール角、方位角レート・ピッチ角レート・

    ロール角レート、東西速度・南北速度・上下速度・船首速

    度・正横速度、および計算緯度が出力される。

  • 2

    Photo.2 Gyro compass (Anschutz type)

    F U R U N O

    方位出力においては加速度の方向を光の位相差で検出し、

    方位変化量を出力している。5)

    今日まで、高精度の光ファイバーを用いたコンパスでの

    高緯度海域における指方位を得ることはなかった。そこで

    今回、海鷹丸第 9 次航海において、南氷洋海域でのリング

    レーザージャイロ、ジャイロコンパスの指方位を船内 LAN

    に接続し、同時に測定収録を行い、リングレーザージャイ

    ロを基準としたジャイロコンパスの高緯度における誤差と

    同緯度、異経度におけるデータを検討した。また、南北半

    球を含む太平洋、インド洋におけるデータとも比較するこ

    とで誤差の有効性も検討した。

    2. 方法

    a. 調査海域

    東京~ポートルイス(モーリシャス)間

    【北緯 35°~南緯 20°】

    ポートルイス~フリーマントル(オーストラリア)間

    【南緯 40°~南緯 58°・東経 100°付近 】

    フリーマントル~ホバート間

    【南緯 40°~南緯 66°・東経140°付近】

    b. データ

    リングレーザージャイロ、ジャイロコンパスの方位およ

    び月日、時間を 1 秒~10 分間隔で船内 LAN に収録した。

    また、リングレーザージャイロにおいては、方位角・ピッ

    チ角・ロール角、方位角レート・ピッチ角レート・ロール

    角レート、東西速度・南北速度・上下速度・船首速度・正

    横速度、および計算緯も収録した。

    c. 解析

    東京~ポートスイス間は 10°間隔に、ポートスイス~フ

    リーマントル間、フリーマントル~ホバート間は 5°間隔

    に’00~’59 までの収録データを取り出し比較分析を行った。

    解析において、リングレーザージャイロの指方位が正確で

    あると仮定した。

    3. 結果及び考察

    Table.1、Fig.1に東京~ポートルイス間を航行したときのリン

    グレーザージャイロを基準としたジャイロコンパスの方位

    誤差を示した。この区間でのリングレーザージャイロとジ

    ャイロコンパスの誤差の平均は約 0.27°であった。北緯

    30°,北緯 10°において誤差の最大値が1°以上になった

    が、平均値的には問題のない誤差である。また、南北半球

    に分けて比較すると北半球のほうが誤差の平均値、範囲が

    大きいことがわかる。

    Tabe.2、Fig.2はポートルイス~フリーマントル間の方位誤差

    である。この区間の誤差の平均は約 0.43°であった。南

    緯 45°~55°において平均値、最大値ともに大きく、誤差

    の幅も広い。これは速度誤差によるものと、暴風圏により

    船体の動揺が大きかったため、動揺誤差、遠心力誤差の影

    響もあったためと思われる。この区間を通して針路は 155°、

    速力は 16 ノットであった。速度誤差表より、この場合の誤

    差は 1.6°であるから、やはり動揺誤差、遠心力誤差の影

    響もあるとかんがえられる。58°においては観測のため、

    速力はほとんどなかった。そのため速度誤差も小さく、45°

    から 55°の区間で見られたほどの誤差は得られなかったと

    おもわれる。針路、速力は常に変化していたため一概には

    言えないが、速度誤差表において緯度 58°、速力 4 ノット

    における速度誤差は 0.4°であり、得られたデータの誤差

    と近く、妥当な結果であったといえる。また、この区間に

    なると両コンパスの値が同じになることも少なくなり、常

    にほんのわずかな誤差が生じており、誤差のばらつきも大

    きい。このことから、やはり高緯度においては誤差が大き

    いといえる。

    Table.3、Fig.3はフリーマントル~ホバート間の誤差を示した。

    ポートルイス~フリーマントル間と比較しても経度による

    差は見られない。南緯 66°において誤差の最大値が 3°と

    なった。このときの針路は 0°で速力はだいだい 12 ノット

    であった。速度誤差表により、この場合の誤差は 2.4°で

    あり、これも妥当な結果だといえる。

    東京~ポートルイス間の低緯度のデータと南氷洋海域の

    高緯度のデータを比較すると、低緯度では平均 0.1°、高

    緯度では平均 0.5°の誤差になり、高緯度に行くほど誤差

    が大きくなる傾向が見られた。特に、暴風圏と予想される

    区間では速度誤差に動揺誤差、遠心力誤差が加わるため、

    誤差のばらつきが大きくなると思われる。

    4. まとめ

    高緯度になるにつれ誤差も大きくなるが、平均で 0.5°

    程度であるから、これらは誤差の許容範囲といえる。しか

    し、誤差最大値が 2.5°以上であるので緯度 50°以上を航

    行するに当たり、確実に信用できる計器とは言い難い。

    北緯 0°においては誤差のばらつきの範囲が狭く、南緯

    50°以上においてはその範囲が広いことから、赤道に近づ

    くほど強く、極に近づくほど弱いというジャイロコンパス

    の指北力の違いが実証されたといえる。

  • 3

    今回データ解析にあたり、リングレーザージャイロの指

    方位を基準としたが、リングレーザージャイロ自体の精度

    がどれだけ優れているのか、どのような状態で誤差がおお

    きくなるのかがわかっていないため、今後リングレーザ-ジ

    ャイロについての調査が必要であると考える。

    参考文献

    1) 飯 島 幸 人 ・ 林 尚 吾 共 著 , 航 海 計 測 , 成 山

    堂,1986,pp38-44

    2) ADMIRALTY SAILING DIRECTIONS (ANTARCTIC

    PILOT/Fifth Edition, HYDROGRAPHIC OFFICE,

    1997,pp2

    3) 茂在寅男・小林實 著,コンパスとジャイロの理論と実際,

    海文堂,1971,pp89-91

    4) 藤井弥平 著,電子航法のはなし,成山堂,1995,pp30-31

    5)リングレーザージャイロ取扱説明書,YOKOKAWA,200.

    AVERAGE STDEV MAX MIN

    30°N 0.570055 0.382696 1.7 0

    20°N 0.212963 0.160741 0.7 0

    10°N 0.255063 0.179257 1.3 0

    0°N 0.197727 0.140578 0.4 0

    10°S 0.213725 0.165855 0.8 0

    20°S 0.185417 0.141406 0.6 0

    Table.1 Averaged differential direction of Gyro compass

    Tokyo to Mauritious

    AVERAGE STDEV MAX MIN

    40°S 0.290828 0.238349 1.064 0

    45°S 0.614592 0.446765 2.372 0.002

    50°S 0.357527 0.31888 2.235 0.002

    55°S 0.515574 0.402441 2.963 0

    58°S 0.353004 0.285715 1.608 0.001

    Table.2 Averaged differential direction of Gyro compass

    Mauritious to Fremantle

    AVERAGE STDEV MAX MIN

    40°S 0.408731 1.144755 1.957 0.001

    45°S 0.626587 0.376365 2.2 0

    50°S 0.580358 0.450027 2.848 0.001

    55°S 0.57967 1.276458 2.352 0

    60°S 0.387563 0.30481 1.942 0.002

    65°S 0.505131 0.390613 1.898 0.003

    66°S 0.558798 0.656335 3.126 0.002

    Table.3 Averaged differential direction of Gyro compass

    Fremantle to Hobart

    -30

    -20-10

    010

    2030

    40

    -3 -2 -1 0 1 2 3

    Difference(degree)

    Latit

    ude(

    +Nor

    th,-

    Sou

    th)

    Fig.1 Direction difference of Gyrocompass

    Tokyo to Mauritious

    35

    40

    45

    50

    55

    60

    -3 -1 1 3Difference(degree)

    Latit

    ude(

    40°

    S~

    58°

    S)

    Fig.2 Direction difference of Gyro compass

    【Longitude100°E】 Mauritious to Fremantle

    3540455055606570

    -3 -1 1 3Difference(degree)

    Latit

    ude(

    40°

    S~

    65°

    S)

    Fig.3 Direction difference of Gyrocompass 【Longitude140°E】 Fremantle to Hobart

  • - - 4

    3.2 実習生の操舵技術についての報告

    3.2 Report on the efficient of cadets steering exercise

    KONDOH Takashi

    1. はじめに

    東京水産大学練習船海鷹丸は、第 9 次航海(専攻科遠洋

    航海)においての航行中、操縦性能計測をしたので報告す

    る。

    (1) フィンスタビライザ

    本船のフィンスタビライザの目的は、航行中の船のロー

    リングを軽減することである。ローリングの軽減はフィン

    に発生する揚力により行う。フィンは船のローリング信号

    をもとに自動制御され、フィンの軸に回転運動を与えるこ

    とにより、船のローリングと反対方向に揚力を発生させ、

    ローリングを軽減するために適切なモーメントを船体に加

    える。

    (2) アンチローリングタンク

    アンチローリングタンクは、船体の横揺角を減少させる

    ことを目的として設けられるものである。本船に装備され

    たアンチローリングタンクは、本船の横揺れに対するタン

    ク内の水の移動位相差を利用して、減揺効果を得る受動型

    のアンチローリングタンクである。

    (3) フラップ付きベッカーラダー

    本船に装備されているフラップ付きベッカーラダーは、

    航空機の主翼に設けられるものである。フラップの原理を

    応用したもので、主舵板とヒンジで結合されたフラップ及

    び簡単なリンク構造から成り、舵角をとった時フラップが

    主舵板に対してその舵角以上になる構造になっている。主

    舵板の舵角を 45 度にした時、プロペラの噴流のほとんどが

    横方向に曲げられるため、プロペラの発生推力の 45~50%

    を横方向推力に転換することができる。この点が従来の舵

    と大きく異なる点であり、通常航海中はもちろん離接岸等

    の低速時において、ベッカーラダーが優れた操船性を発揮

    できる所以である。

    2. 目的

    実習生の操舵における保針能力と、海況との関係を明ら

    にする。

    3. 方法

    学生はワッチで操舵員に入り、操舵員終了後パソコンに

    操舵の内容を記録する。

    ○記録内容

    ? 操舵員に入った月日 ? 開始時間(SMT & UT) ?

    操舵員氏名 ? 変針の有無(○・? ) ?10 分以上保っ

    た針路 ? 最大舵角 ? 針路ずれ(最大値) ? 操

    舵中の難易度(1:高、2:中、3:低)? 対水速力 ? ア

    ンチローリングタンク(on・off)?フィンスタビライザ

    (on・off)

    この記録内容をもとに、D ワッチ 3 番の学生(以下 D-3)

    が操舵をした 30 分間のうち 10 分間のデータを切り出し、

    解析、考察を行う。解析を行うのは、海況が激しい海域、

    海況が穏やかな海域、暴風圏、そして南極海の 4 点で航行

    した時における操舵記録である。D-3 を選抜した理由は、

    解析を行うべき日時に操舵員をしていたということと、当

    人が操舵を得意としているという理由からである。

    4. 結果・考察

    Fig.1は海況が穏やかであった 12 月 28 日における操舵員

    D-3 の舵角と進路ずれとの比較である。海況は 2Table.1、相

    対風力は 2Table.2、アンチローリングタンクは on、フィンス

    タビライザは off であった。黒点で示されているのは設定進

    路からのずれ、中白点で示されているのが実舵角を表して

    いる。縦軸は角度(°)でプラスは面舵方向、マイナスは

    取り舵方向、横軸は 10 分間の時間経過を示している。進路

    ずれと実舵角が共に小さいことから、海況が穏やかである

    Fig.1 Parallel of Steering angle and Course error ( Cadet D-3 ) 28.Dec.2002 10:30-10:40 Waves notation [ 2 ] Relative Beauport’s wind scale [ 2 ]

    Anti rolling tank [ on ] Fin stabilizer [ off ]

    舵角と進路ズレとの比較12月28日 10:30-10:40

    -15

    -10

    -5

    0

    5

    10

    15

    00:00 02:00 04:00 06:00 08:00 10:00

    経過時間(分:秒)

    角度

    (°

    実舵角

    進路ズレ

  • - 5 -

    ときは操舵が容易であり、保針の程度が高いことが確認で

    きた。

    Fig.2は海況が激しかった12月4日における操舵員D-3の

    舵角と進路ずれとの比較である。海況は 7、相対風力は 9、

    アンチローリングタンクは on、フィンスタビライザは off

    であった。海況は極めて激しかったといえる。Fig.1に対して

    進路のずれ、実舵角共にかなり大きいことから、操舵の難

    易度の高さがうかがえる。海況が激しいときの操舵は難儀

    であることが確認できた。また、出航した次の日であり、

    操舵の勘が戻っていなかったということと、激しい揺れに

    よる身体的な疲労も保針の程度の低さに影響している可能

    性がある。

    Fig.3は暴風圏内を航行中の 1 月 9 日における操舵員 D-3

    の舵角と進路ずれとの比較である。海況は6、相対風力は8、

    アンチローリングタンクは on、フィンスタビライザは off、

    位置は 56-39.0 S 81-24.3 E であった。海況、相対風力と

    もに高い値であるにもかかわらず Fig.2 に比べて保針の程度

    は格段に高かった。これは日数が経ち D-3 の体が船の揺れ

    に適応したことと、操舵の回数を重ねることで操舵技術が

    向上したことが大きな要因と考えられる。 Fig.4は暴風圏を抜け南極海に到達した 1 月 10 日における

    操舵員 D-3 の舵角と進路ずれとの比較である。海況は 4、

    相対風力は 3、アンチローリングタンクは on、フィンスタ

    ビライザは off、位置は 58-04.8 S 82-37.8E であった。Fig.3

    に比べて、特に相対風力はかなり低い値であるにもかかわ

    らず保針の程度は低かった。このことは船に対するうねり

    の方向が大きな要因として考えられる。Fig.3 におけるうね

    りの相対方向は約 140°で後方からうねりを受けていたの

    に対し、Fig.4では進路が変わり、うねりを約 290°と前方か

    ら受けていた。舵角の大きさからも舵がとりづらかったこ

    とがうかがえる。これらのことから、風力よりもうねりの

    ほうが操舵の難易度に影響が大きいことと、うねりの方向

    による難易度への影響がかなり大きなものであるというこ

    と、うねりを前方から受けるときのほうが後方から受ける

    ときよりも保針が難しいことがわかった。 Fig.5は Fig.2と同日、ほぼ同じ時間帯における自動操舵装置

    の舵角と進路ずれとの比較である。海況は6、相対風力は9、

    アンチローリングタンクは on、フィンスタビライザは off

    であった。Fig.2とほぼ同条件だが保針の程度には格段の差が

    あった。 Fig.2のグラフとの相違点としては自動操舵装置の舵の

    切り方は小刻みなうえに素早いということが確認できた。

    舵角と進路ズレとの比較12月4日 11:00-11:10

    -15

    -10

    -5

    0

    5

    10

    15

    00:00 02:00 04:00 06:00 08:00 10:00

    経過時間(分:秒)

    角度

    (°

    実舵角

    進路ズレ

    Fig.2 Parallel of Steering angle and Course error ( Cadet D-3 ) 4.Dec.2002 11:00-11:10 Waves notation [ 7 ] Relative Beauport’s wind scale [ 9 ]

    Anti rolling tank [ on ] Fin stabilizer [ off ]

    舵角と進路ズレとの比較1月9日 19:00-19:10

    -15

    -10

    -5

    0

    5

    10

    15

    00:00 02:00 04:00 06:00 08:00 10:00

    経過時間(分:秒)

    角度

    (°

    実舵角

    進路ズレ

    Fig.3 Parallel of Steering angle and Course error ( Cadet D-3 ) 9.Jan.2003 19:00-19:10 Waves notation [ 6 ] Relative Beauport’s wind scale [ 8 ]

    Anti rolling tank [ on ] Fin stabilizer [ off ]

    舵角と進路ズレとの比較1月10日 07:40-07:50

    -15

    -10

    -5

    0

    5

    10

    15

    00:00 02:00 04:00 06:00 08:00 10:00

    経過時間(分:秒)

    角度

    (°

    実舵角

    進路ズレ

    Fig.4 Parallel of Steering angle and Course error ( Cadet D-3 )

    10.Jan.2003 07:40-07:50 Waves notation [ 4 ] Relative Beauport’s wind scale [ 3 ]

    Anti rolling tank [ on ] Fin stabilizer [ off ]

    舵角と進路ズレとの比較12月4日 13:00-13:10

    -15

    -10

    -5

    0

    5

    10

    15

    00:00 02:00 04:00 06:00 08:00 10:00

    経過時間(分:秒)

    角度

    (°

    実舵角

    進路ズレ

    Fig.5 Parallel of Steering angle and Course error ( Automatic Pilot ) 4.Dec.2002 13:00-13:10 Waves notation [ 6 ] Relative Beauport’s wind scale [ 9 ]

    Anti rolling tank [ on ] Fin stabilizer [ off ]

  • - 6 -

    これは船の進路のずれに対応した舵角を適切に切っている

    ということである。操舵をする際には進路がずれていく速

    度、つまり回頭角速度に留意することが進路を保つうえで

    重要であるといえる。

    5.まとめ

    操舵技術は回数を重ねることで向上する。海況は穏やか

    であるほうが、設定進路を保ちやすい。海況と風力の値よ

    りもうねりの方向のほうが操舵の難易度に大きく影響する。

    自動操舵装置は高度な操舵技術を発揮する。回頭角速度に

    留意することが保針のこつである。

    6.今後の課題

    うねりの方向と操舵の難易度との関係を解析するために

    は、同じ海域、海況で、うねりに対して進路を段階的に変

    えていき、うねりを様々な角度から受け、操舵の難易度が

    どう変化していくかを解析する必要がある。またそれに関

    係して、うねりの大きさ及び周期の違いが操舵技術にどう

    影響するかということも解析すべきである。

    今回の被験者である D-3 に限らず、専攻科実習生はおし

    なべて操舵技術が高かった。個人の操舵技術の向上課程を

    解析するには、初心者の段階から始まる長い期間の情報が

    必要である。一番初めの本格的な乗船実習である、3 年次の

    乗船漁業実習Ⅱから計測、解析をする必要がある。

    個人によって舵角の切り方に特徴があるが、その違いに

    よって保針の程度の差がどれほど出るのかということと、

    どういった切り方が保針に適しているのかを解析する必要

    がある。

    打角を大きく、あるいは素早く切ると船が大きく揺れる

    ことがあるので、保針能力が高くなおかつ舵角による船の

    揺れを発生しにくい操舵技術の特徴を解明することが最終

    的に求められる課題である。

    階級 相当風速(m/s)0 0.0-0.21 0.3-1.52 1.6-3.33 3.4-5.44 5.5-7.95 8.0-10.76 10.8-13.87 13.9-17.18 17.2-20.79 20.8-24.410 24.5-28.411 28.5-32.612 32.7-

    Table.2 Beaufort’s Wind Scale

    階級 波高(m)0 01 0.0<0.52 0.5<1.03 1.0<2.04 2.0<3.05 3.0<4.06 4.0<6.07 6.0<9.08 9.0<14.09 14.0<

    Table.1 Sea Condition Scale

    ( Waves Notation )

  • 7

    3.3 中波の異常伝播について

    3.3 Report on abnormal transmission of middle radio wave SUGAI Hiroki

    1.はじめに

    世界的な海上遭難安全通信システムである GMDSS にお

    いて、NAVTEX は近海海域である海岸から 400 マイル程度

    を限度とした沿岸において航海と気象の警報や安全情報を

    518kHz の FIB モードで放送されている。これは、300 ト

    ン以上の船舶にその搭載が義務つけられているものである。

    今回は、この NAVTEX 受信機を利用し、実習の一環として

    東京~バンコク(タイ)~ポートルイス(モーリシャス)

    ~フリーマントル(オーストラリア)~南極海域~ホバー

    ト(オーストラリア)~ビューティーポイント(オースト

    ラリア)までの受信記録を整理し、各 NAVTEX 放送区域に

    おける NAVTEX 受信状況を調査した。さらに同じく中波を

    使用しているディファレンシャル GPS(DGPS)の受信状

    態も同時に記録し電波受信状況を調査することを目的とし

    た。

    2.方法

    NAVTEX 受信機を使用し、

    航行警報・気象警報・気象予

    報などの情報、送信局識別符

    号、情報番号、受信誤字率な

    どの受信情報(ZCZC)の記録

    及び整理を行った。 Photo.1 NAVTEX receiver

    また陸上送信局の位置から本船のGPS位置との距離を航海

    電卓で算出し、受信した誤字率(CER)(%)と比較した。

    DGPS においてはレーダー画面の左側に現在の測位状況

    が DGPS によるものか、または GPS によるものか表示さ

    れており、いずれかに切り替わる場合、アラームが鳴り、

    測位方法の変化を知らせる。この切り替わった時刻を記録

    し、その記録から、一日の DGPS と GPS の受信時間を記

    録し、比較検討を行った。

    3.結果及び考察

    NAVTEX は世界航行区域(NAVAREA)において A から

    Z までの送信局が、4 時間毎に 10 分間放送している。また

    情報の種類は航行・気象警報が約 7 割以上を占めることが

    いわれている。

    送信局と本船の受信距離および誤字率では、南極海域に

    おいて夜間、最高 7868 マイル、誤字率 0.0%で受信した。

    これは、送信局と本船がともに夜間であるとき異常伝播し

    たものである。中波での夜間における電波の伝播は、電離

    層 D 層の消滅に伴う約 1400 マイル程度の反射伝播が存在

    するが、夜間 3000 マイル以上の伝播は通常は考えられて

    いない。しかし現実には南極海域において 6000 マイルを越

    える中波の受信の実体について再度、電離層について考慮

    した。ここで電離層について若干整理する。

    中波の電離層伝播について

    中波の周波数帯においては、昼間は電離層反射波が吸収

    されてしまうため、大地導電率が低いほど、周波数が高い

    ほど、電離強度は距離に対して急激に減衰する。夜間は強

    い電離層反射波が E 層(高度 100km)から反射され大地に

    戻ってくるとされている。従って、送信局付近では地表波

    が主体であるが、送信局から遠ざかるに従って地表波は減

    衰し、電離層反射は強くなる。さらに距離が遠くなっても、

    電離層反射波は強くなる傾向を示し、遠距離まで比較的高

    い制度を持つ。つまり送信局から距離が遠くなるにつれて、

    受信点には低角度で放射されたものが到達することになる。

    地表波と電離層反射波がほとんど同一の電界強度になる区

    域では、別々な経路を通って到来した両電波が加わるため

    合成電界強度はベクトル和になり、フェージングを生じる。

    地表波が共存する場合に比べると激しさはかなり少ないと

    いわれている。1)

    *フェージング:主として日の出没の時に電離層の電

    子密度が急激に変化し、地表波と空間波が干渉して

    生じる雑音であり、到達時間差による位相差の違い

    (0°~360°)、伝播途中の減衰の違い、振幅強度

    の違いのため、合成波が強くなったり弱くなったり

    する現象をいう。

    電離層(E層)の変化g

    日周変化と季節変化がある。日周変化は、統計的に電子

    密度√cos x で表される。極地帯を除き電子密度は臨界周波

    数(f0E)の二乗に比例することがいわれている。なお D

    層は昼間と夏季に発生するが、夜間及び冬季は微弱または

    消滅する。

    *臨界周波数:電離層はある周波数以上の電波は突き

    抜ける。この最小の周波数を臨界周波数という。こ

    れより電離層の最大電子密度を求められる。

    f0=√N f0:臨界周波数は、N:最大電子密度の

    平方根に比例する。

    電離層の逐年変化

    27 日の太陽の自転周期及び太陽の黒点数でよく表される

    約 11 年の太陽活動周期によって電離層が変化する。黒点数

    が増加すれば電離層の臨海周波数も増加する。F 層におい

    ては、黒点数の最大年は最小年の約 4 倍の電子密度となる

  • 8

    ことがわかっている。なお昨年は 164 個の太陽黒点数が観

    測されており、本年は高い活動周期と思われる。

    地球磁界の影響

    電離層内を電波が到達すれば、フレミングの左手の法

    則により磁界に直角に作用する。電子の運動方向では、電

    子がらせん状に振動することが知られている。2)

    統計的な臨界周波数と地磁気緯度との分布曲線は、北半

    球と南半球とで対象となっており、熱帯地方、中緯度地方、

    高緯度地方に大別できる。

    最高使用可能周波数 MUF と最も実際の使用に適した周

    波数を FOT 最適通信周波数といい、以下の要因の影響を受

    ける。

    1. 通常は制御点(電離層反射点の地球上の位置)の状況

    2. 太陽活動度:11 年周期の黒点数(0~約 190)

    3. 月日による電離層の季節変化と日周変化:冬季の変化

    が大きい。

    すなわち制御点によって MUF 曲線は変化する。

    *S/N 比:S 信号と N 雑音との比で S/N=1で同等、S/N=100

    で信号が雑音の 100 倍であることを示す。S/N 比が大きいほ

    どよく受信できる。送信電力を倍にしても受信電界強度は平

    方根の 2 倍にしかならない。

    最低使用可能周波数 LUF は通信に使用できる周波数の

    最低限界の周波数をいう。減衰量は距離に関するもの、第 1

    種減衰量:電離層を突き抜ける際に受ける減衰量、第 2 種

    減衰量:電離層で反射するために受ける減衰量、第 1 と第 2

    の減衰量は、季節及び時刻によって変化する。なお MUF

    とLUFから2地点間での通信可能な周波数を知ることがで

    きる。 以上のことより本船が航行中の NAVTEX 受信局からの

    受信記録および受信結果から考察を行う。

    受信記録回数は各受信局 300~400 回で東京港出港から

    受信した順に受信番号をつけた。受信した時の本船の緯度

    経度と受信局の位置との距離を航海電卓で算出した。なお

    表示の時刻は地方時とした。 Fig1は受信したすべての NAVTEX の誤字率と受信距離の

    関係を示し、各送信局における受信状況を考察した。

    Fig1をみると非常にばらつきが大きく、相関係数(R2)は

    0.0044 とほぼ無関係といってよい結果となった。受信距離

    が小さければ誤字率が下がり、受信距離が大きければ、誤

    字率も高くなるという予想していたような単純な結果は得

    ることができなかった。個々の受信データの中には受信距

    離 200nm 程度にもかかわらず誤字率が 15%を超える記録

    や受信距離が最高の7868nm でも誤字率0.0%の記録もみら

    れた。

    Fig2は那覇の送信局における受信状況であり、横軸に本船

    の受信緯度を示し、負の値は北緯、正の値は南緯を示して

    いる。縦の両軸には受信距離と誤字率の状態を示した。那

    覇の受信記録は今回の伝播距離が一番大きいため、この局

    を選択した。Fig1よりこちらのほうがより正確な考察をおこ

    なうことが可能である。 Fig2では近距離のほうが逆に誤字率が大きく、遠距離にな

    るにつれて誤字率が小さくみえる。よって受信距離と誤字

    率には比例関係がみられなかった。Fig1より一ヶ所での送信

    局の受信状況より両者の関係の分析を試みたが明確な結果

    は算出できなかった。また近距離での誤差においてはロラ

    ン C の例をとると電離層反射より内側の約 800 マイル以内

    での直接電波を受信したものにはノイズや大気の影響を受

    けたものもあると考えられる。 Fig3 、Fig4には DGPS の受信状況を示した。Fig3は東京―

    バンコク間の 1 日の受信状況を示し、Fig4はバンコク―モー

    リシャス間の1日の受信状況を示した。 Fig3 をみるとやはり電離層の D 層が消失すると考えられ

    る夕刻から夜中までは受信時間が長く、多くのデータを記

    録した。しかし、Fig4に示す夜間においても受信記録のない

    期間も存在した。 Fig4 では D 層の消失が考えられる夕刻から夜中までであ

    っても受信時間はほとんどない。2 つのグラフは位置的には

    異なった場所であるため、一概に述べることはできないが、

    どの地域においても夕刻から夜中まで異常伝播が必ず起こ

    るという結果にはならなかった。

    さらに今回本船が航海した航路における一日毎の DGPS

    の受信状況を Fig5に示した。横軸には日付をとり、縦軸には

    その日の DGPS の受信時間を示した。

    今回の航海では2003年1月17日まで DGPSの受信があ

    ったため、その日までの受信結果を Fig5にまとめた。Fig5を

    みると日付によっても受信時間が大幅に異なることがわか

    る。DGPS は NAVTEX のように送信局を判定することがで

    きず、例として、A 局から DGPS の送信があったとしても

    次の瞬間には B 局からの送信に変わることも考えられるた

    め、中波の異常伝播に対する考察をおこなうのは NAVTEX

    異常に困難である。

    DGPS においても NAVTEX と同じく電波の中波を使用

    しているため、同じことが考えられるが、今回の航海では

    地球を縦横に移動し、本船と送信局の間には大陸があり、

    電波の送信を妨げる障害物が多く存在し、さらにその海域

    における季節なども異なったなど不特定な要素が多すぎる

    ため、明確な結論をだせるようなデータが得られなかった

    と考えられる。

    前回の本船の航海においてはアメリカから日本まで太平

    洋を横断する際に、今回とまったく同じ方法で、NAVTEX

    の受信データを解析する実験をおこなっていたが、この時

    には受信距離と誤字率には比例関係を示す結果がでていた。

    これはアメリカから日本に向かうほぼ直線の航路であり、

    間に陸などの電波を妨害するような障害が存在しなかった

    ために、そのような明確な結果が得られたと考えられる。

    今回の航海においては中波の異常伝播と誤字率の間に明

  • 9

    確な関係を見出すことはできなかった。しかし、伝播距離

    7868nm で誤字率 0.0%の受信記録は本船の新記録であり、

    状態によって中波はこれだけの距離を伝播可能であること

    がわかった。

    以上のことから NAVTEX や DGPS によって電波の受信

    状況や電離層の考察をまとめると

    ① 受信距離と誤字率は比例関係にはならない。

    ② 中波は 7000nm 以上の伝播が可能。

    ③ D層の消失する夕刻から夜中までに必ずしも中波の

    異常伝播が起こるとは限らない。

    これからの計測を行うための条件と欠点を述べると

    NAVTEX においては

    ④ 同じ場所で1日毎の受信時間を把握する。

    ⑤ 送信局の位置と受信位置を明確に定めておく。

    ⑥ 大陸などの障害物を考慮する。

    DGPS においては

    ①DGPS の送信局の位置がはっきりしないため分析は困

    難である。

    ②アラームの感度が低いため、受信の切り替えが起こっ

    てもアラームがならない場合がある。

    など、克服しなければならない条件と欠点が多く考えられ

    た。

    しかし、実際問題として、本船の趣旨はあくまで海洋観

    測と実習生の教習であるため以上のような条件を満たすこ

    とは困難である。

    よってこれからの課題は以上の条件をいかに乗り越え、

    欠点をどのように抑えるかということである。

    参考文献

    1)無線工学.財団法人,電気通信振興会,2001

    2)空中線及び電波の伝わり方,電波振興会,1966

    y = 0.0004x + 5.6769R2 = 0.0044

    0.010.020.030.040.050.060.070.080.0

    0 2000 4000 6000 8000 10000受信距離(nm)

    誤字

    率(%

    Fig.1 NAVTEX Receive condition of all area

    0100020003000400050006000700080009000

    -14.97-8.447.687.7311.5811.5932.5042.7264.9164.91

    受信

    距離

    (nm

    0.0

    5.0

    10.0

    15.0

    20.0

    25.0

    誤字

    率(%

    F ig .2 NAVTEX Receive condition of Naha

    0

    10

    20

    30

    40

    50

    60

    0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23

    受信時刻(時)受

    信時

    間(m

    in)

    Fig.3 DGPS Receive condition at 9/12/2002

    0

    10

    20

    30

    40

    50

    60

    0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23

    受信時刻(時)

    受信

    時間

    (min

    Fig.4 DGPS Receive condition at 18/12/2002

    02468

    1012141618202224

    12/912/14

    12/1912/24

    12/291/3

    1/81/13

    日付

    受信

    時間

    (h)

    Fig.5 DGPS Receive condition every day

    東京―バンコク

    バンコク―モーリシャス

    モーリシャス―フリーマントル

    -(北緯) +(南緯)

  • 10

    3.4 船内外騒音計測について

    3.4 Study on The Noise on Board the Ship

    TAMOGAMI Takashi

    1. はじめに

    船舶における主な騒音源としては主機・発電機等の機関

    部からの騒音が考えられる。本航海(海鷹丸 第 9 次航海)

    では航行中、船内外の数箇所で騒音計測を定期的に行い、騒

    音が船内外の各位置(各甲板)によってどの程度違うか、また

    同じ計測位置であっても計測時の諸条件(速力、海況、気象

    条件等)の違いによって計測値に変化があるか調べた。さら

    に比較対照のため停泊時、ドリフト時の騒音も計測し、各計

    測位置における騒音源の検討に用いた。

    2. 方法

    ◆騒音測定には積分形精密騒音計 photo.1 を用い、動特性は

    fast を使用した。

    ◆計測位置は船内(計 23 箇所)、船外(8 箇所)、計 31 箇所

    の計測位置を示す。

    船内(23 箇所):船橋内、船長甲板内、士官談話室、

    ウィンチコントロール室、端艇甲板内、

    病室横扉、船橋甲板内、学生寝室(B)、

    船楼甲板内、学生教室、学生談話室、

    研究室内、舵機室、ウィンチルーム、

    機関室 3 階、EWC、網修理庫、機関室

    2 階、第 2 教室、バウスラスタールー

    ム 、床上主機前、軸室、ファンネル

    船外(8 箇所) :コンパスデッキ、船橋後方、船長甲板

    外、端艇甲板外、船橋甲板外、船首、

    船尾、研究室外、

    photo.1 Integral shape precise noise meter

    3. 結果 Table 1、Fig1に各計測状態(航海・ドリフト・停泊)における計

    測値の平均値を示す。ただし、ここでの航海時の値は平均速

    力が 16.8Kt の時に計測した値の平均値である。

    Table1.The Results of the Noise Measurements

    計測位置 航走中 ドリフト中 停泊中

    A コンパスデッキ 66.1 53.1 52.2

    B 船橋内 53.3 52.5 53.5

    C 船橋後方 71.0 54.3 53.1

    D 船長甲板内 53.1 52.2 51.4

    E 船長甲板外 80.2 56.0 56.2

    F 士官談話室 54.1 50.1 50.2

    G 端艇甲板内 55.2 53.3 53.0

    H 端艇甲板外 75.3 62.0 59.8

    I 病室横扉 62.0 45.6 44.7

    J ウィンチコントロール室 62.0 54.4 55.0

    K 船橋甲板内 52.1 51.2 50.1

    L 船橋甲板外 79.9 72.2 71.5

    M 学生寝室(B) 41.7 44.5 44.0

    N 船楼甲板内 60.2 58.2 56.6

    O 船首 66.4 58.3 56.2

    P 船尾 81.2 64.5 63.2

    Q 学生教室 58.4 50.9 52.2

    R 学生談話室 59.3 58.2 56.9

    S 研究室内 62.2 61.7 62.2

    T 研究室外 79.4 76.2 75.9

    U 舵機室 92.3 55.9 53.2

    V ウィンチルーム 80.1 68.2 66.9

    W 機関室 3 階 100.2 90.4 90.0

    X EWC 68.5 66.1 65.6

    Y 網修理庫 59.9 59.9 60.0

    Z 機関室 2 階 100.6 72.6 71.3

    a 第 2 教室 63.0 60.2 61.7

    b バウスラスタールーム 69.1 66.9 64.1

    c 床上主機前 102.8 90.5 90.1

    d 軸室 91.3 74.8 72.8

    e ファンネル内 89.8 75.1 74.8

  • 11

    これを見ると、船外においては船尾、研究室前、端艇甲板

    外、船橋後方、コンパスデッキ、の順に値が高くなってお

    り、機関室に近い計測位置(甲板)ほど値が高いことがわかる。

    しかし、船橋甲板外では研究室外より高く、端艇甲板外で

    は研究室外より低くなっている。この原因として、研究室

    外には近くにトロールウィンチがあるため、それにより騒

    音が遮られるからだと思われる。同じような理由で端艇甲

    板外近くにはアンチローリングタンクがあるためだと思わ

    れる。船内においては一概に機関室に近いほど値が高いと

    は言えない。もし機関室との距離を甲板の高さだけで考え

    るならば、計測値は床上主機前、第2教室、バウスラスター

    ルーム、網修理庫、ウィンチルーム、舵機室、ファンネル

    内、研究室内、学生談話室、船楼甲板内、学生教室、船楼

    甲板内、学生寝室、船橋甲板内、ウィンチコントロールル

    ーム、病室横扉、端艇甲板内、船長甲板内、士官談話室、

    船橋内の順に高いはずである。しかし実際には(ファンネル

    内は機関室と直結しているので省くとして)船橋甲板内や学

    生寝室で値が低く、病室横扉やウィンチコントロールルー

    ムで値が高くなっている。

    以上は航海中の場合だが、ドリフト時及び停泊時

    では船外の 8 計測点と船橋内、学生寝室、研究室内、網修理庫を除いた全ての計測点で値が下がり、特に

    コンパスデッキ、船橋後方、船長甲板外、船首など

    は船内にある研究室内、網修理庫、第 2 教室よりも低い値となることがあった。

    4. 考察 ⅰ.騒音源の検討

    航海時の平均計測値を停泊時の平均計測値で割ったもの

    を Table2 に示す。

    この値が1に近いほど、停泊時と航海時の騒音に差が無い

    とすると、研究室内で数値は1、また、船橋内、船長甲板内、

    士官談話室、端艇甲板内、船橋甲板内、学生寝室、船楼甲

    板内、学生談話室、研究室外、EWC、網修理庫、第 2 教室、

    バウスラスタールームにおいても1に近い値となった。ここ

    で航走時と停泊時では主機が動いているかいないかという

    違いがある。この違いからこの値が1に近いということは、

    騒音源は主機以外のものであると考えられる。また、値が

    1より大きい計測点では騒音源の主たるものは主機である

    と考えてよいと思われる。その他に、外であるにもかかわ

    らず研究室外において値が1に近かったのは、研究室外で

    は停泊時、なんらかの騒音源があるためではないかと考え

    た。そのような騒音源として考えられるのは、岸壁で行われ

    る作業等により発生する騒音である。停泊時、船は岸壁につ

    いているため岸壁において発生する騒音の影響を少なから

    ず受けるものと思われる。特に研究室外のように低位置の

    甲板(船楼甲板)でなおかつ船外となれば、その影響は大きい

    であろう。

    Table 2 The Relation of the Noise at

    Navigation and at Anchor

    計測位置 数値 計測位置 数

    コンパスデッキ 1.27 学生教室 1.12

    船橋内 0.99 学生談話室 1.04

    船橋後方 1.34 研究室内 1.00

    船長甲板内 1.03 研究室外 1.05

    船長甲板外 1.43 舵機室 1.74

    士官談話室 1.08 ウィンチルーム 1.20

    端艇甲板内 1.04 機関室 3 階 1.11

    端艇甲板外 1.26 EWC 1.04

    病室横扉 1.39 網修理庫 0.99

    ウィンチコント

    ロールルーム

    1.13 機関室 2 階 1.41

    船橋甲板内 1.04 第 2 教室 1.02

    船橋甲板外 1.12 バウスラスタールーム 1.08

    Fig1. The Results of the Noise Measurements

    0

    20

    40

    60

    80

    100

    120

    A B C D E F G H I J K L M N O P Q R S T U V W X Y Z  a b c d e

    section

    nois

    e(dB

    )

    SailingDriftingLaying

  • 12

    学生寝室(B) 0.95 床上主機前 1.14

    船楼甲板内 1.06 軸室 1.25

    船首 1.18

    船尾 1.28

    ファンネル内 1.20

    第 2 教室の騒音源としてはパソコン等の OA 機器が発す

    る音の影響が大きいように思われる。なぜなら、この 2 室に

    は他の船室に比べ多数の OA 機器が設置されているからで

    ある。研究室内、EWC、網修理庫には通常の空調設備とは

    別に空調機が設置されており、これから発せられる音も計

    測値に影響している。こうした空調機、OA 機器類は航海、停

    泊を問わず常に稼動しているため、そこから発生する騒音

    も、計測状態にかかわらず常に一定レベルであると考えら

    れる。以上のような理由から第2教室、研究室内、EWC、

    網修理庫の騒音源は空調機、OA 機器類であると考えた。

    船橋内の計測値に関しては停泊時の数回を除き全ての計

    測時に人がいたため、人が発する音(話し声や足音など)の影

    響があったと思われる。しかし人のいない状態での計測デ

    ータがないため、人の発する音の計測値への影響がどの程

    度であるかを推測することは困難である。以上のような理

    由から、船橋内の計測値はあまり正確とはいえず、この数値

    から騒音源の検討等の考察を行うのは好ましくないと考え

    たが、航海中は船橋内が無人になることはあり得ない。した

    がって船橋内で計測を行う場合はブリッジ内にいる人にで

    きる限り音を出さないよう協力してもらい、人の出す音の

    影響を最小限に抑えて計測する必要があるだろう。以下は

    あくまで推測であるが、そのような状況で計測を行ったな

    らば、おそらく船橋内の計測値は今回得られた数値より低

    くなり、また騒音源の検討も可能になると思われる。

    船長甲板内、士官談話室、端艇甲板内、船橋甲板内、学

    生談話室、学生寝室、船楼甲板内は他の計測位置に比べ計

    測値が低く、なおかつ計測状態による変動も小さいため、特

    に騒音(源)について検討する必要性は感じられない。しかし

    強いて言うならば、学生談話室には空気清浄機が設置され

    ており、この清浄機の風量切替が「急速」に設定されている

    と計測値は 7~8dB 程度高くなった。バウスラスタールー

    ムの航走時の騒音源は船底をたたく海水の音だと思われる

    が、停泊時の騒音源は今回の測定では特定することができ

    なかった。また、舵機室の値が 1.74 と飛びぬけて高い理由

    として、航走中はプロペラが回っており、それが海水をた

    たいていて、主機以外の騒音源になっている。

    ⅱ.騒音レベルについて

    計測位置が船のどこに位置するか(甲板、船尾側、船首側、

    等)によって、騒音源・騒音源との距離・計測値の大きさ(これ

    を騒音レベルとする)は当然変わる。例えば、船長甲板内、端

    艇甲板内、船橋甲板内学生談話室のように船楼の中央部に

    位置する計測位置では、船外や主機からの騒音の影響を受

    けにくく、計測値は低くなっている。しかし同様に、船楼中

    央部に位置する第2教室では主機の影響は受けないものの、

    騒音源が室内にあるために騒音レベルは高くなっている。

    また外壁寄りでなおかつ船尾側に位置する病室横扉、ウィ

    ンチコントロール室などは、船内ではあるがファンネルに

    近いためにファンネルを介して伝わる主機からの騒音の影

    響をよく受ける。

    Table 4 に航海時(船速 15~17Kt)における計測値の標準偏

    差を示す。

    Table 4 The Standard Deviation of the Noise

    計測位置 標準偏差 計測位置 標準偏差

    コンパスデッキ 0.97 学生教室 3.79

    船橋内 1.96 学生談話室 3.75

    船橋後方 0.73 研究室内 0.49

    船長甲板内 0.64 研究室外 0.45

    船長甲板外 0.76 舵機室 0.40

    士官談話室 0.36 ウィンチルーム 0.53

    端艇甲板内 0.69 機関室 3 階 0.45

    端艇甲板外 0.52 EWC 0.63

    病室横扉 0.43 網修理庫 0.61

    ウィンチコント

    ロールルーム

    0.37 機関室 2 階 0.46

    船橋甲板内 0.40 第 2 教室 0.42

    船橋甲板外 0.74 バウスラスタールーム 0.45

    学生寝室(B) 2.90 床上主機前 0.80

    船楼甲板内 0.80 軸室 0.46

    船首 0.58

    船尾 0.65

    ファンネル内 0.56

    船橋内、学生寝室、学生教室、学生談話室において標準

    偏差が大きいのは、船橋内、学生寝室、学生教室では人の発

    する音、学生談話室では空気清浄機と人の発する音が計測

    値に影響を及ぼしているためと考えられる。

    以上、騒音について検討してきたが、上で述べた騒音源以

    外にも、船首や船底をたたく波の音、あるいは風の音など考

    え得る騒音源は多々あると思われる。そうした騒音源の検

    討、および各騒音源の計測値に対する影響の度合い、また音

    の質や振動と騒音との関係等、今後研究していかねばなら

    ない課題は多いと思われる。

    参考文献・資料

    騒音、振動・衝撃の影響と対策 岡田晃・中村円生著

  • 13

    海鷹丸騒音ランキング(航走中)

    1 位 床上主機前 102.8

    2 位 機関室 2 階 100.6

    3 位 機関室 3 階 100.2

    4 位 舵機室 92.3

    5 位 軸室 91.3

    6 位 ファンネル内 89.8

    7 位 船尾 81.2

    8 位 船長甲板外 80.2

    9 位 ウィンチルーム 80.1

    10 位 船橋甲板外 79.9

    11 位 研究室外 79.4

    12 位 端艇甲板外 75.3

    13 位 船橋後方 71

    14 位 バウスラスタールーム 69.1

    15 位 EWC 68.5

    16 位 船首 66.4

    17 位 コンパスデッキ 66.1

    18 位 第 2 教室 63

    19 位 研究室内 62.2

    20 位 病室横扉 62

    20 位 ウィンチコントロール室 62

    22 位 船楼甲板内 60.2

    23 位 網修理庫 59.9

    24 位 学生談話室 59.3

    25 位 学生教室 58.4

    26 位 端艇甲板内 55.2

    27 位 士官談話室 54.1

    28 位 船橋内 53.3

    29 位 船長甲板内 53.1

    30 位 船橋甲板内 52.1

    31 位 学生寝室(B) 41.7

  • 14

    3.5 海鷹丸遠洋航海における船内のゴミ処理について

    3.5 Note on the Recording of Ship’s Dust

    HORIMIZU Yosuke

    1. はじめに

    近年、環境問題が重視されるとともに、船舶におけるゴミ

    処理の規制問題がクローズアップされてきた。従来、船上

    で発生したゴミは、浮遊性、沈下性を問わず、当然のごと

    く海洋投棄されてきた。海上を浮遊しているゴミの全てが、

    船舶から投棄された物とは限らないが、それら浮遊ゴミは

    航海中の船上より視認される。1988 年に水産庁が実施した

    目視観測による漂流物調査の漂流物の種類構成を Table.1 に

    示した。この観測結果および航海中の目視によると、近年、

    ゴミの海洋投棄が規制されてきたとは言え、海上浮遊ゴミ

    は多数視認され、船舶からのゴミの投棄は現在も続いてい

    ると考えられる。

    船舶からのゴミの排出に関する規制は、国際的には

    MARPOL 議定書(1973 年の船舶からの汚染防止のための

    国際条約に関する 1978 年の議定書)による。また、国内で

    は海洋汚染および海上災害の防止に関する法律によって規

    制されている。

    Table.1 1988 年水産庁が実施した目視観測による

    漂流物調査の種類構成

    これらの規制に基づいた規制を Table.2に示した。この表に示

    されているように排出海域の制限はあるもののプラスチッ

    ク類等についても焼却して灰の状態で排出してよいことと

    なっており、条件付きとはいえ、排出が認められている。

    しかし、廃棄物の処理に関する世界の趨勢は陸上の場合

    と同様、厳しさを増してきている。1997 年9月にロンドン

    の国際海事機関(IMO)において開催された、1973 年の船

    舶による汚染防止のための国際条約に関する 1978 年の議

    定書締約国会議においては、船舶からの大気汚染防止に関

    する MARPOL 条約新付属書Ⅵが採択された。これにより

    2000年1月1日以後に船舶に搭載される焼却炉に適用され、

    船上でのゴミの焼却に伴う排気ガスについても一定の範囲

    の排気ガスとなるように規制されるようになる。このこと

    は、焼却のみに頼っている現在のゴミ処理法が見直される

    べき時機にきていると考える。

    陸上では大きな社会問題として騒がれているゴミ問題

    も海上においては、差し迫った問題としては取り上げられ

    ていない。そこで、今回、東京水産大学海鷹丸の 2002 年

    12月3日から2003年3月12日の遠洋航海中に出されたゴ

    ミの量とその内容および処理方法について調査を行い、若

    干の知見を得たので報告する。船内で発生するゴミには可

    燃ゴミ、不燃ゴミ、生ゴミおよびし排泄物がある。その中

    で今回は可燃ゴミ、不燃ゴミ、生ゴミについて調査を行っ

    た。

    2. 資料および方法

    毎日出される可燃ゴミ、不燃ゴミ、缶、ビン、ペットボ

    トルの数を記録した。可燃ゴミ、不燃ゴミは袋数で記録し

    た。また、朝食、昼食、夕食に出された生ゴミの量を計測

    した。

    (航海中)

    可燃ゴミ、不燃ゴミ→焼却炉

    缶、ビン、ペットボトル→保管して、寄港地で陸揚げ

    生ゴミ→生ゴミ処理機(暴風圏では揺れが激しく外に出る

    のが危険であったため、ディスポーザー)

    (入港中)

    すべて陸揚げ

    種類 %

    発泡スチロール 26.6

    その他のプラスチック 22.5

    漁具(漁網以外) 11.3

    漁網 0.9

    ガラス製品 2.1

    金属 1.4

    木片 8.3

    流木 6.2

    流れ藻 17.3

    その他 3.3

  • 15

    Photo.1 焼却炉 Photo .2 缶潰し機

    Photo.3 各部屋のゴミ箱 Photo.4 生ゴミ処理機

    Photo.5 バクテリア Photo.6 缶・ビン・ペットボトル入れ

    Photo.7 生ゴミ入れ Photo.8 ディスポーザー

    Photo.9 談話室ゴミ Photo.10 箱食事片付け

    Photo.11 パントリーゴミ箱 Photo.12 報告書作成中

    3. 考察

    洋上において船舶から出されるゴミの実態を調べるため、

    海鷹丸の遠洋航海中に出されたゴミについて調査を行った。

    船舶におけるゴミ問題は最近ようやくスタートしたと言

    える。しかし、規制の方が先行しており、その処理方法が

    遅れている現状である。海鷹丸においてもゴミ処理設備は

    焼却炉、缶潰し機、生ゴミ処理機(バクテリアにより分解)、

    ディスポーザーといった貧弱な状況である。ゴミ処理のた

    めの方策として、ビン、缶のシュレッダー処理による減量

    化があるが、ゴミのシュレッダーは 1997 年4月の容器包装

    リサイクル法の施行に前後してようやく出回るようになっ

    たものの、価格が高く、装置自体も大型であり、取り付け

    るにはスペースの確保という問題がある。

    将来、大気汚染防止、ダイオキシン排出防止等な

    どの見地から、海上においてもプラスチック等の焼

    却禁止となれば、ゴミの減量化とゴミの船上保管が

    急務となるであろう。将来は航海中、より広いゴミ

    保管のためのスペースが必要になる。従って、海上

    汚染および海上災害の防止に関する法律第 10 条2

    の規定により定められている廃棄物保管場所およ

    びゴミ処理施設のスペースを船の設定段階より設

    ける必要があると考えられる。

  • 16

    可燃ゴミ(平均1.2袋、最大12袋)

    02468

    101214

    2002

    /12/

    5

    2002

    /12/

    12

    2002

    /12/

    19

    2002

    /12/

    26

    2003

    /1/2

    2003

    /1/9

    2003

    /1/1

    6

    2003

    /1/2

    3

    2003

    /1/3

    0

    2003

    /2/6

    2003

    /2/1

    3

    2003

    /2/2

    0

    2003

    /2/2

    7

    可燃ゴミ

    不燃ゴミ(平均1.5袋、最大9袋)

    02468

    10

    2002/12/5

    2002/12/19

    2003/1/2

    2003/1/16

    2003/1/30

    2003/2/13

    2003/2/27

    不燃ゴミ

    缶数(28.6缶、最大200缶)

    0

    50100150

    200250

    2002

    /12/

    5

    2002

    /12/

    12

    2002

    /12/

    19

    2002

    /12/

    26

    2003

    /1/2

    2003

    /1/9

    2003

    /1/1

    6

    2003

    /1/2

    3

    2003

    /1/3

    0

    2003

    /2/6

    2003

    /2/1

    3

    2003

    /2/2

    0

    2003

    /2/2

    7

    缶数

    ビン数 (平均4.9本、最大36本)

    0

    10

    20

    30

    40

    2002/12/5

    2002/12/19

    2003/1/2

    2003/1/16

    2003/1/30

    2003/2/13

    2003/2/27

    ビン数

    ペットボトル(平均5本、最大20本)

    0

    51015

    2025

    2002

    /12/

    5

    2002

    /12/

    12

    2002

    /12/

    19

    2002

    /12/

    26

    2003

    /1/2

    2003

    /1/9

    2003

    /1/1

    6

    2003

    /1/2

    3

    2003

    /1/3

    0

    2003

    /2/6

    2003

    /2/1

    3

    2003

    /2/2

    0

    2003

    /2/2

    7

    ペットボトル

    生ゴミ量

    0

    510

    1520

    2530

    2002

    /11/

    13

    2002

    /11/

    20

    2002

    /11/

    27

    2002

    /12/

    4

    2002

    /12/

    11

    2002

    /12/

    18

    2002

    /12/

    25

    2003

    /1/1

    2003

    /1/8

    2003

    /1/1

    5

    2003

    /1/2

    2

    2003

    /1/2

    9

    2003

    /2/5

    2003

    /2/1

    2

    2003

    /2/1

    9

    2003

    /2/2

    6

    kg

    朝食

    昼食

    夕食

    合計

    生ゴミ量(kg)

    朝食 昼食 夕食 一日

    平均 3.4 5.2 4.8 13.5

    最大 11 12 13.5 21

  • 17

    Table.2 船舶からの廃棄物排出基準

    船舶発生廃棄物区分 排出海域 排出方法

    廃プラスチック類 領海の基線から3海里以遠 灰の状態にして排出

    領海の基線から3海里以遠、12海里未

    満の海域

    灰の状態にして排出、25mm 未満に

    粉砕して排出 食物屑

    領海の基線から12海里以遠の海域 排出方法は限定しない

    領海の基線から3海里以遠、12海里未

    満の海域

    灰の状態にして排出、25mm 未満に

    粉砕して排出 紙屑、木屑、繊維屑、その他の可燃

    性廃棄物(食物屑を除く) 領海の基線から12海里以遠の海域 排出方法は限定しない

    領海の基線から3海里以遠、12海里未

    満の海域 25mm 未満に粉砕して排出

    日常生活廃棄物

    金属屑、ガラス屑、陶磁器屑、その他

    の不燃性廃棄物 領海の基線から12海里以遠の海域 排出方法は限定しない

    無機性廃棄物(鉱石粉、石炭粉、金

    属粉など) 領海の基線から50海里を越える海域

    比重1.2以上の状態にして排出粉

    末のままで排出しない

    植物性、動物性のものを除く有機性

    廃棄物(ウエス、ダンネージ、ロープ、

    漁網等)

    領海の基線から50海里を越える海域

    灰の状態にして排出、比重1.2以上

    の状態にして排出粉末のままで排出

    しない

    有機性廃棄物のうち植物性のもの

    (木材輸送、穀物輸送等において生

    ずる木皮、大豆かす等の荷粉等)

    領海の基線から50海里を越える海域 航行中に排出、木屑はおおむね最大

    径15cm 以下に破砕または切断する

    通常活動廃棄物

    有機性廃棄物のうち動物性のもの

    (捕鯨船等水産加工船内で生じる魚

    肉の残渣等)

    領海の基線から12海里以遠の海域 排出方法は限定しない

  • 18

    3.6 GM 値の変化と横揺れについて

    3.6 Report of the Relation between rolling period and GM

    AIKAWA Tetsutaro

    1.はじめに

    船舶の横揺れを作用する要因には波・風・船体の状況

    (GM 値等)等いくつか考えられるが、本報告では GM 値

    の変化と横揺れについて述べる。

    2.方法

    東京水産大学練習船海鷹丸第9次航海でのGM値・海

    況・横揺れ周期〔sec〕・動揺〔deg〕・相対風速の記録を調

    べた Table.1。

    機関部情報収集装置(エンジンデータ収集システム)に

    より、燃料タンク・潤滑油タンク・清水タンク・バラスト

    (清水)タンク・減遥タンクをモニターしGM値を算出し

    た。

    航海日誌からは、海況・横揺れ周期・動揺・相対風速を

    得た。横揺れ角は左右の揺れの和である。

    東京出港後の時化の期間(12月4・5日)、マグロ延

    縄(12月21~27日)、緯度40°~60°の暴風圏

    (1月7~15日25~28日2月9~11日)、緯度6

    0°以上の南氷洋(1月29日~2月8日)以上の期間、

    正午のデータを収集した。

    月日 緯度 経度 GM 値 海況 横揺れ周期 動揺 相対風速 状況

    sec deg m/s

    12 月 4 日 31 15.8600 N 136 26.9000 E 1.6 4 6.43 29 23.0 時化

    12 月 5 日 27 12.8025 N 131 30.8240 E 1.63 2 9.48 21 8.0 時化

    12 月 21 日 7 49.8396 S 93 49.6969 E 1.59 2 8.01 14 10.0 マグロ

    12 月 22 日 7 56.4718 S. 89 56.6394 E 1.58 3 7.06 13 10.0 マグロ

    12 月 23 日 7 54.8181 S 86 16.4254 E 1.56 3 5.09 16 8.5 マグロ

    12 月 24 日 8 56.1752 S 83 1.4598 E 1.54 3 7.24 16 7.7 マグロ

    12 月 25 日 10 5.4083 S 79 13.1483 E 1.53 2 7.21 12 5.0 マグロ

    12 月 26 日 10 52.3867 S 76 2.6187 E 1.51 2 7.25 11 3.5 マグロ

    12 月 27 日 12 4.9527 S 73 25.0310 E 1.49 1 6.04 10 3.3 マグロ

    1 月 7 日 43 42.2030 S 70 23.6891 E 1.56 5 7.87 29 9.7 暴風圏

    1 月 8 日 49 8.4366 S 75 34.5630 E 1.5 4 9.80 32 8.0 暴風圏

    1 月 9 日 54 55.0172 S 80 11.5021 E 1.52 3 9.03 24 10.7 暴風圏

    1 月 10 日 57 55.9516 S 82 59.6469 E 1.49 3 10.37 29 6.0 暴風圏

    1 月 11 日 57 4.3490 S 84 49.3463 E 1.48 5 8.28 18 19.8 暴風圏

    1 月 12 日 54 52.1343 S 87 23.6063 E 1.47 5 6.62 26 17.0 暴風圏

    1 月 13 日 50 56.8537 S 93 9.1102 E 1.43 5 9.80 30 14.3 暴風圏

    1 月 14 日 47 0.1076 S 98 15.0411 E 1.41 4 8.70 51 11.0 暴風圏

    1 月 15 日 42 57.9390 S 103 14.9193 E 1.40 5 7.75 29 12.3 暴風圏

    1 月 25 日 40 19.7217 S 109 59.5683 E 1.62 3 7.35 26 13.8 暴風圏

    1 月 26 日 46 23.1518 S 110 4.8946 E 1.59 4 6.55 30 13.5 暴風圏

    1 月 27 日 52 23.7772 S 110 5.6158 E 1.58 5 7.08 35 14.8 暴風圏

    1 月 28 日 57 55.8313 S 110 8.0851 E 1.55 6 6.99 21 20.0 暴風圏

    2 月 9 日 57 40.5273 S 139 31.0942 E 1.24 3 8.21 23 10.8 暴風圏

    2 月 10 日 52 15.3323 S 142 42.4067 E 1.21 6 8.50 28 12.7 暴風圏

    2 月 11 日 46 30.6222 S 146 18.4073 E 1.18 5 6.81 28 21.0 暴風圏

    1 月 29 日 62 19.5029 S 110 0.3719 E 1.53 4 6.55 17 13.1 南氷洋

    1 月 30 日 63 20.2454 S 116 0.3908 E 1.52 1 5.02 4 2.6 南氷洋

  • 19

    1 月 31 日 64 14.2526 S 126 49.4413 E 1.48 3 6.44 13 10.9 南氷洋

    2 月 1 日 64 13.2048 S 130 30.8932 E 1.46 1 9.17 15 9.0 南氷洋

    2 月 2 日 63 29.8345 S 133 34.4885 E 1.45 1 9.17 12 6.3 南氷洋

    2 月 3 日 66 19.1366 S 139 52.0130 E 1.42 2 8.91 9 9.0 南氷洋

    2 月 4 日 66 3.6479 S 139 54.3577 E 1.41 3 9.85 15 8.8 南氷洋

    2 月 5 日 65 23.0992 S 139 54.9064 E 1.37 4 6.56 14 14.7 南氷洋

    2 月 6 日 64 57.6497 S 139 56.4195 E 1.34 4 7.37 12 9.8 南氷洋

    2 月 7 日 63 57.1901 S 139 53.7576 E 1.31 2 7.56 12 4.0 南氷洋

    2 月 8 日 63 4.6064 S 140 6.4199 E 1.27 4 6.41 16 10.3 南氷洋

    Table.1

    3.考察

    GM 値・海況・横揺れ周期・動揺・相対風速の相互関係を

    見るために結果からグラフを作成した Fig.1。

    海況と動揺と相対風速には相互関係を見ることができる。

    動揺は海況と風によって起こっているのは言うまでもない。

    GM 値の変化による影響を顕著に示す結果は得られなかっ

    た。海況や風の影響が GM 値の変化の影響よりも大きな力

    があったからだと思われる。GM 値の変化による影響を調

    べるには海況や風の条件を同じにする必要がある。

    GM 値は横揺れ周期に大きな影響を与え得るはずなのに、

    相互関係を見ることはできなかった。これも海況によるも

    のだと思われる。

    0

    2

    4

    6

    8

    10

    12

    12月

    4日

    12月21日

    12月23日

    12月25日

    12月27日1月

    8日

    1月10日

    1月12日

    1月14日

    1月25日

    1月27日2月

    9日

    2月11日

    1月30日2月

    1日2月

    3日2月

    5日2月

    7日

    GM

    値・海

    況・横

    揺れ

    周期

    0

    10

    20

    30

    40

    50

    60

    動揺

    ・相対

    風速

    GM値 海況 横揺れ周期 動揺 相対風速

    fig・1

    4.まとめ

    横揺れ周期と密接な関係にある GM 値の影響力を知るこ

    とは船の安全性を高めることにつながるといえる。

    ただし今回の報告では GM 値と横揺れについて考察する

    にはあまりにもデータが不十分であるためこれからは多く

    のデータをもとに解析しる必要がある。

    参考文献

    1) 航海日誌 練習船 海鷹丸 第11・12号

    平成14 年12月3日~平成15年2月12日

  • - - 20

    3.7 食事及び関連計算記録

    3.7 Note on The Calories of ship’s meals

    KOUNO Fumi

    1. はじめに

    国民のエネルギー摂取量が過剰の傾向にある現

    代、肥満の増加が危惧されている。また、肥満は高

    血圧、心臓病、糖尿病などの成人病の要因となって

    いる。運動量も減る船内生活において、食事のカロ

    リーを知ることは、健康を維持する上でも、体力作

    りをする上でも必要であると思われる。そこで、船

    で出される食事のカロリーを測り、エネルギーの過

    剰摂取を防止し、健康の維持、増進を図ることを目

    的とした。

    2. 方法

    航海中、任意に選んだ数日、船で出される学生 1 人当た

    りの食事のカロリーを朝、昼、夜の計3回、それぞれTANITA

    のカロリースケール Photo.1を用いて計測する。なお、カロリ

    ースケールに登録されていない食品については、「五訂食品

    成分表」(女子栄養大学出版部)と、「常用量による市販食品成

    分早見表」(医歯薬出版株式会社)を参考に算出する。

    3. 結果

    カロリーの計測は 12 月 8、10、18、20、28、1 月 3、7、9、

    11、13、15、17、25、27、2 月 3、6 日の計 16 日間行っ

    た。常に白米の量は女子が 150g、摂取カロリー222kcal、

    男子が 220g、摂取カロリー326 kcal とした。よって、食事

    にパン・麺類が出た日以外は男子と女子の摂取カロリーの

    差は 1 食当たり 104 kcal である。そのため、朝食、昼食、

    夕食のいずれも男子と女子のグラフはほぼ平行である。

    Photo.1 TANITA Calorie scale

    Fig.1に朝食における一人当たりの摂取カロリーを示す。朝

    食にパンが出た日は、12 月 20 日、1 月 17 日の 2 日間であ

    った。朝食 1 食当たりの平均カロリーは、パンの日で 647

    kcal、パン以外の日で男子が 486kcal、女子が 382kcal であ

    った。

    Fig1. The calories of breakfast

    0

    200

    400

    600

    800

    1000

    1200

    1400

    1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16

    time

    calorie(

    kcal)

    men wemen

    Photo.2 Breakfast of western style

    パン以外の朝食のメニューとしては、辛し明太子、焼

    き魚、納豆などがあった。中でも、納豆や焼き鮭が人気

    だった。

  • - - 21

    Photo.3 Breakfast of Japanese style

    次に、昼食における一人当たりの摂取カロリーを Fig.2

    に示す。昼食に麺類が出たのは 12 月 8、10 日の 2 日間で

    あった。昼食 1 食当たりの平均カロリーは、麺類の日で

    788kcal、麺類以外の日は男子が 748kcal、女子が 644kcal

    であった。

    Fig2. The calories of lunch

    0

    200

    400

    600

    800

    1000

    1200

    1400

    1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16time

    calorie(

    kcal)

    men wemen

    Photo4. Lunch of noodle style

    女子のカロリーを基準として、800kcal 以上の高カロリ

    ーの日が、麺類以外の日では 1 月 9、15 日、2 月 3 日の

    3日あった。

    Photo4. Lunch of 15th Jan

    また、500kcal 以下の低カロリーの日が、12 月 20

    日、1 月 3、7、27 日の4日あった。

    Photo5. Lunch of 7thJan

    次に、夕食における一人当たりの摂取カロリーを Fig.3に

    示す。夕食 1 食当たりの平均カロリーは、男子が 940kcal、

    女子が 836kcal であった。

    Fig3. The calories of dinner

    0

    200

    400

    600

    800

    1000

    1200

    1400

    1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16

    time

    calorie(

    kcal)

    men wemen

    女 子 の カ ロ リ ー を 基 準 と し て 、 1000 kcal 以

    上の日は 12 月 8、10 日、1 月 28 日の 3 日あった。

  • - - 22

    Photo6.Dinner of 10thdec

    また、600kcal 以下の低カロリーの日は 12 月 20、

    28 日の 2 日あった。

    Photo7. Dinner of 20thdec

    次に、一人当たりの一日の総カロリーを Fig.4 に示す。平

    均カロリーは男子が 2008kcal、女子が 1870kcal であった。

    Fig4 Total calories of a day

    0

    500

    1000

    1500

    2000

    2500

    3000

    1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16

    time

    calorie(

    kcal)

    men wemen

    総カロリーの最高値は 12 月 10 日で、男子が 2511kcal、

    女子が 2411kcal。一方、最低値は 12 月20日で、男子が

    1510kcal、女子が1410kcal であった。

    4.考察

    エネルギー所要量は、性別・年齢区別の基礎代謝量にⅠ(低

    い)、Ⅱ(やや低い)、Ⅲ(適度)、Ⅳ(高い)の 4 区分である生活

    活動強度の指数を乗じて求めたものである。現在、国民の

    大部分が該当するⅡより求めると、エネルギー所要量は、

    18~29 歳の体位基準(身長158.1cm、体重 51.2kg)の女子で

    1800kcal、体位基準(身長 169.3cm、体重 59.8kg)の男子で

    2300kcal である。(五訂食品成分表)このことから、総カロ

    リーの平均が女子で 1870kcal、男子で2008kcaal である船

    の食事は女子には 70kcal 多く、男子には約 300kcal 少ない

    ということがわかった。

    しかし、実際には船で出される食事のみを食べているわ

    けではなく、間食、飲酒から摂取しているカロリーは計り

    知れない。エネルギー過剰摂取の結果として生じやすい「肥

    満」の度数が以下の BMI(ボディ・マス・インデクス)法によ

    りチェックできる。

    身長(m)2×22=適正体重(kg)

    実測体重(kg)-適正体重(kg)/適正体重(kg)×100

    =肥満度(%)

    ここで肥満度が±10%未満であれば正常、10~20%未満

    であれば太り気味、20%以上であれば肥満と判定される。

    実際に、学生全員の身長・体重のデータより、肥満度を算

    出した。出港前に東京で計測したデータと、航海も終わり

    にさしかかった、ヌーメアにおいて計測したデータをもと

    に肥満度の平均を比較した。東京での肥満度の平均は、男

    子が 0.2%、女子が 2.4%であった。また、ヌーメアでの肥

    満度の平均は、男子が 0.4%、女子が 2.5%であった。女子

    の肥満度は平均で 0.1%増加していた。男子においては、前

    述したとおり船内生活における一日の摂取カロリーが、理

    想のエネルギー所要量より 300kcal 少ないのにもかかわら

    ず、肥満度の平均は 0.2%増加している。やはり、船の食事

    以外の間食、飲酒の量が大きく影響しているものと思われ

    る。しかし船内生活において、疲れを癒してくれる酒や甘

    味類は重要な存在であり、閉鎖された空間の中で、食は唯

    一の楽しみかも知れない。したがって、酒や甘味類を、全

    く摂らないということは、難しいことである。しかし健康

    のことを考えると、加減する必要があると思われる。

    参考文献:

    1) 五訂食品成分表「女子栄養大学出版部」

    2) 常用量による市販食品成分早見表「医歯薬出版株式会社」

  • 23

    3.10 Effect of Sea Training on Students’ Physique and Physical Fitness

    TOMINAGA Miyo

    1.はじめに

    船員の業務活動時における当直業務の生体負担は低いこと

    が報告されている。そして学生の乗船実習内容は当直実習

    と座学授業が中心のため、身体活動量は日常に比較し少な

    いことが予想される。そこで、100 日の乗船実習が学生の体

    格,体力にどのような影響を与えるのかを検討し、乗船実習

    中における健康管理の一助とすることを目的とした。

    2.方法

    ①専攻科の男子学生 15 人(平均年齢 23.0歳)と女子学

    生 12 人(平均年齢 22.4 歳)を対象に、出航前の 02 年

    11 月 15 日とヌーメアに入港したときの 03 年 2 月 26、

    27 日に体力測定を実施した。測定内容は文部省体育局制

    定による新スポーツテスト実施要項に従って握力 ,長座

    体前屈、反復横跳び,立ち幅跳び、伏臥上体起こし、シャ

    トルランを実施した。また同実施要項より各々の測定結

    果を 10 段階に得点化し、その合計を A から E の 5 段階

    に評価した。そして、体力年齢を算出した。その他に背筋

    力,垂直跳び、閉眼片足立ちも実施した。

    ②専攻科学生 27 名を対象に東京~ヌーメアまで歩数計Photo1①をつけてもらった。昼 12 時から翌日の昼 12 時ま

    でを 1 サイクルとして歩数を書き込んでもらった。また、

    12 時にリセットを忘れた場合には、そのまま次の日まで

    継続した歩数を書き込んでもらった。その結果を元に上

    陸中と航海中とに分けて平均化し、専攻科の歩数とした。

    ③任意の1ワッチに各時間帯における歩数が分かる万歩

    計 photo1②をつけてもらった。各ワッチ帯の中で 8 日間を

    ピックアップした。0-4 ワッチ帯(東京~モーリシャス)

    の中で 12 月 4 日~12 月 11 日。8-0 ワッチ帯(モーリシ

    ャス~ホバート)の中で 1 月 4 日~1 月 11 日。4-8 ワッ

    チ帯(ホバート~東京)の中で 2 月 19 日~2 月 23 日、3

    月 2 日~3 月 5 日。の 8 日間で行なった。そのデータを、

    0-4,4-8,8-0 の各時間帯に分けグラフ化した。また、各人

    のデータをグラフ化し、生活パターンを解析した。

    Photo.1 peg counter

    3.結果

    体力測定

    男子学生、女子学生ともに全体では前屈、背筋力の数値

    が上がっていた。握力、反復横飛び、閉眼片足立ちの数

    値が下がっていた。女子は上体起こしの数値が下がって

    いたが、その他はあまり変わっていなかった。男子は上

    体起こしの数値は変化していなかったが、シャトルラン、

    立ち幅跳びは数値が明らかに下がっていた。Table.1個人別

    の値では体力年齢が増加したのは男子学生 5 名、女子学

    生 5 名。減少したのは男子学生 3 名、女子学生 2 名。変

    化していないのは男子学生 6 名、女子学生 5 名。総合評

    価が増加したのは男子学生 3 名、女子学生 3 名。減少し

    たのは男子学生 4 名、女子学生 2 名。変化していないの

    は男子学生 4 名女子学生 3 名であった。Table2.3.4 またと

    もに増加したのは男子学生2名、女子学生2名であった。

    歩行記録

    Fig.1,Table.4より専攻科 27 名の航海実習中の平均は 8125 歩

    であった。航海中は 7000 歩前後に集中していた。入港

    中は大半の学生が 10000 歩を超え、15000 歩から 20000

    歩に集中していた。平均は航海中 7210 歩であり、停泊

    中は、11306 歩であった。停泊中に関しては、上陸日と

    上陸できなかった日を含めた平均になっている。

    時間帯別歩行記録

    時間帯別の結果では、0-4、4-8 ワッチの時間帯では午前

    中の歩数が少なく、午後の時間帯に歩数が多い傾向にあ

    った。また 8-0 のワッチ帯では午後の 0-4 の時間帯の歩

    数が少ない傾向にあった。そしてそのあとの 4-8 の時間

    帯では歩数が上がっていた。巡検後は 4-8 に比べると歩

    数が少ない傾向にあった。いずれのワッチ帯にしてもピ

    ークが 2 回あるという傾向があった。しかし、全体の歩

    数では、ワッチの時間帯による変化はほとんど見られな

    かった。個人別の歩数変化では、個人個人がばらばらで

    あり、一定の傾向は見られなかった。

    4.考察

    体力測定の結果は、全体的に少しずつ下がっていたが、

    これは、増加した生徒と、減少した生徒がほぼ同数いた

    ためであり、一概に全体の傾向と見ることは出来ない。

    男子学生に関しては、ほぼ毎日トレーニングルームに通

    っている学生は体力の増加が見られていた。特に背筋力

    に関しては増加し�